説明

TDC装置とTDCのキャリブレーション方法

【課題】遅延素子の遅延時間のばらつきに対してTDCの変換特性を一定とし線形性を実現可能なTDCの提供。
【解決手段】第1の信号DATAを順次遅延させる複数段の遅延素子11〜11を有するディレイライン10と、第2の信号CLKに応答して複数段の遅延素子の出力をサンプルする複数のフリップフロップ12〜12と、相隣るフリップフロップの出力結果が切り替わるエッジ位置を、第1の信号の第2の信号に対する位相差として検出するエッジ検出器13と、を備え、エッジ位置の検出結果に基づき、バイアス制御用の制御コードICNTを生成するキャリブレーション制御回路15と、制御コードに対応する複数段の遅延素子に対して供給するバイアス発生回路14を備え、第1の信号の周波数範囲に対応した段数の遅延素子に、第1の信号のエッジが位置するように遅延素子11〜11の遅延時間の校正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、TDC(Time−to−Digital Converter)とキャリブレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルPLL(Phase Locked Loop)はアナログPLLの各ブロックをデジタル化し、処理をデジタル化した位相同期ループである。デジタルPLLは、アナログPLLで問題となっていたループフィルタの回路面積等の問題を解消し、PLLのパラメータ変更時等の再設計を容易化し、回路の特性変動を抑制する等の利点を有する。
【0003】
ADPLL(All Digital PLL:全デジタルPLL)等のデジタルPLLは、リファレンスクロックFREFとDCO(Digitally Controlled Oscillator)の出力CKVの位相差を測定するTDC、該TDCで測定された位相差(通常、リファレンスクロック1周期内の分数位相差)と、整数部分の位相差(リファレンスクロック1周期以上の位相差)とに基づき位相誤差を演算する位相誤差演算部と、該位相誤差演算部からの位相誤差を平滑化するデジタルフィルタと、該デジタルフィルタの出力で周波数が可変されるDCOを備えている。デジタルPLLについては、例えば特許文献1等が参照される。図8は、特許文献1に開示されている全デジタルPLLの図1を引用したものである。図8において、100は全デジタルPLL、102は累積器(アキュムレータ)、103は数値制御発振器(NCO)、104はdVCO(デジタル制御電圧制御発振器)、105は利得(GAIN)要素、106はシュミットトリガー回路等の波形整形器(dVCO104の正弦波を2値のデジタル信号に変換する)、108は天井要素、110は基準水晶発振器(FREF:リファレンスクロック)、112は周波数基準クロックCKR、114はdVCO104のクロック信号CKV、116は周波数制御語(FCW)、120はラッチ/レジスタ、200は小位相検出器/小位相検出器システム、201はTDCである。TDC201にてリファレンスクロックFREFとCKV(波形整形器106の出力)の位相誤差を検出し、デジタルフィルタにて平滑化し、DCOに入力する。小位相検出器(fractional phase detector)200は、整数位相同期ループの量子化誤差を訂正する(詳細は特許文献1が参照される)。
【0004】
図9は、図8に示したTDC201の構成例を示す図である。なお、図9は、特許文献1の図5を引用したものである。図9を参照すると、このTDCは、DCOの出力CKVとリファレンスクロックFREFを入力し、CKVの立ち上がり遷移のFREFの立ち上がり遷移に対する位相差TDC_RISEと、CKVの立ち下り遷移のFREFの立ち上がり遷移に対する位相差TDC_FALLを出力する。図9に示すように、TDCは、遅延素子(バッファまたはインバータ)とフリップフロップから構成され、その遅延素子が複数段直列接続されディレイラインを構成する。TDCは、CKVとFREF間の信号の微小な位相差をデジタル値として出力する。なお、TDCは、出力クロックCKVの1周期以内で位相差を測定するため、CKVの1周期を測定できる長さに対応した個数(段数)の遅延素子、ラッチ回路(フリップフロップ)を備えるだけで十分である。
【0005】
図10は、図9のTDCのタイミング動作の一例を示す図であり、図9において、遅延素子の段数を10段(L=10)としている。図10は、特許文献1の図6を引用したものである。TDCにおいて、DCOの出力CKVをL個の遅延素子で徐々に遅延させた信号D(0)〜D(9)を、各FFで時刻t1にリファレンスクロック信号FREFの立ち上がりで一斉にサンプリングし、D(0)〜D(9)の10ビットのサンプリングデータQ(0)〜Q(9)(Q[0:9])として、例えば“0011110000”を得る。エッジ検出器(「エンコーダ」ともいう)にて、サンプリングデータQ(0)〜Q(9)において0から1に値が変化する箇所と、1から0に値が変化する箇所を検出することで、リファレンスクロックFREFの立ち上がり(タイミングt1)に対する出力クロックCKVの立ち上がりの位相差と立ち下りの位相差を、遅延素子の段数で表すことができる。この場合、Q[0:9]のうち1から0へ値が変化する箇所Q[6]が、立ち上がりの情報となる(Q[2−5]が1であり、Q[6]で0となる)。また、1から0に値が変化する箇所Q[2]が、立ち下りの情報となり(Q[6−9]、Q[0−1]が0であり、Q[2]で1となる)、それぞれ、デジタルデータTDC_RISE、TDC_FALLとして出力される。すなわち、TDCによって出力クロックCKVの立ち上がりは、FREFの立ち上がりに対してTDC内の遅延素子6段分位相が進んでおり、出力クロックCKVの立ち下りはFREFの立ち上がりに対してTDC内の遅延素子2段分位相が進んでいることが測定される。なお、図9では、遅延素子はインバータ(反転バッファ)で構成されているため、CKVとD(0)、隣接遅延素子の出力D(0)とD(1)、D(1)とD(2)、・・・は互いに逆相であるが、図10では、見易くするため、D(0)、D(1)、D(2)、・・・D(9)はCKVと同相の信号として表されている。
【0006】
近時、半導体プロセスの微細化技術の進展に伴い、PVT(プロセス、電圧、温度:製造におけるプロセスばらつきや、製品使用時の電源電圧、温度)変動により、デジタル遅延素子(バッファ、インバータなど)の遅延時間が変動する。遅延素子の遅延時間の変動が起こると、TDCの位相差の測定精度等その特性に劣化が生じる。このため、どの条件に対しても、TDCが正常に動作できるように、遅延時間を補正する必要がある。
【0007】
なお、特許文献2では、クロック信号を可変ディレイラインに入力して遅延させ、可変ディレイラインに入力するクロック信号と可変ディレイラインの出力クロック(遅延信号)との位相差を比較し、その位相差が大きいときは、可変ディレイラインの遅延を減らすように、位相差に応じた制御電圧を、可変ディレイラインの遅延素子に供給してその遅延時間を補正する構成が開示されている。この特許文献2では、可変ディレイラインの入力と出力の位相差に基づき、可変ディレイラインの各段を構成する遅延素子(CMOSインバータと高位側電源及び低位側電源間にそれぞれ接続される電流源トランジスタを有する)の電流源に供給するバイアス電圧を制御するバイアス発生回路を備えた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−76886号公報(図1、図5、図6)
【特許文献2】特開2007−221598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
関連技術の分析を以下に与える。
【0010】
上記したように、PVT変動等に対してTDCが正常に動作できるように、TDC内の遅延素子の遅延時間を補正して、TDCの位相差測定範囲を調整する必要がある。
【0011】
ところで、TDC内の遅延素子の遅延時間を補正することはせずに、TDCにおいて、測定対象の信号の1周期以上の遅延時間に対応する段数の遅延素子を、遅延のばらつきを考慮して予め用意しておき、遅延素子の遅延時間にばらつきが生じても、正常に位相差を測定可能とする手法もある。しかしながら、このように、TDCの遅延素子の段数を増やすことで、位相差の測定範囲を広げ、広い周波数レンジをカバーする構成とした場合、回路面積、消費電力の増加を招く。例えば、TDCにおいて、測定対象の信号周波数が、予め設定された位相差測定範囲の2倍である場合、設定段数の2倍以上の段数の遅延素子が必要とされる。
【0012】
さらに、最先端プロセスで製造された半導体装置においては、トランジスタのしきい値、電源電圧、温度の変動により、TDCの遅延素子の遅延時間のばらつき量は、ばらつき範囲の上限と下限とで、例えば数倍のひらきが生じる場合がある。
【0013】
遅延素子の遅延時間のばらつきにより、測定対象の位相差に対して、TDCの遅延素子の段数が足りなくなる場合が発生し、最悪、TDCが動作しなくなる可能性がある。一例として、図9において、TDC内の遅延素子の遅延時間が短縮し(図10においてCKVと各段の遅延素子の出力D(0)、D(0)とD(1)・・・D(8)とD(9)の立ち上がりの時間間隔が短縮する)、測定対象の位相差に対して、TDCの遅延素子の段数が足りなくなり、CKVの立ち上がりとFREFの立ち上がりの位相差が、各段の遅延素子の遅延時間の合計を超える場合、図10の遅延出力D(0)〜D(9)のHighパルス(立ち上がり及び立ち下りエッジ)がいずれもFREFの立ち上がりのタイミングt1よりも前に位置することになり、FREFの立ち上がりタイミングt1での各FFのサンプル結果Q(0)〜Q(9)は全て0となる。
【0014】
したがって、TDCの遅延素子の遅延時間にばらつきが生じた場合も、正常に位相差が測定できるように、遅延時間の制御が必要とされる。また、TDCにおける遅延素子の遅延時間のばらつきへの対策において、回路面積、消費電力の増大の抑制が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題の少なくとも1つを解決するために、特に制限されるものではないが概略以下の構成とされる。
【0016】
本発明によれば、第1の信号を順次遅延させる複数段の遅延素子を有するディレイラインと、
前記複数段の遅延素子に対応してそれぞれ配設され、入力される第2の信号に応答して前記複数段の遅延素子の出力をサンプルする複数のフリップフロップと、
前記複数のフリップフロップの出力を入力し、相隣るフリップフロップの出力結果が切り替わるエッジ位置を、前記第1の信号の第2の信号に対する位相差として検出するエッジ検出器と、
を備えたTDC(Time−to−Digital Converter)装置であって、
前記遅延素子は、電流源を電源パスに備え、前記電流源に印加されるバイアスに応じて遅延時間を可変させ、
前記エッジ位置の検出結果に基づき、バイアス制御用の制御コードを生成するキャリブレーション制御回路と、
前記キャリブレーション制御回路からの前記制御コードに対応するバイアスを生成し前記複数段の遅延素子に対して供給するバイアス発生回路と、
を備え、
キャリブレーション時、前記キャリブレーション制御回路では、前記エッジ検出器で検出される前記エッジの位置が、前記第1の信号の前記周波数レンジに対応して予め設定された遅延素子の段数に対応するように、前記バイアス発生回路を制御して前記遅延素子の遅延時間のキャリブレーションを行う、TDC装置が提供される。
【0017】
本発明によれば、第1の信号を順次遅延させる複数段の遅延素子を有するディレイラインと、前記複数段の遅延素子に対応してそれぞれ配設され、共通に入力される第2の信号に応答して前記複数段の遅延素子の出力をサンプルする複数のフリップフロップと、前記複数のフリップフロップの出力を入力し、相隣るフリップフロップの出力結果が切り替わるエッジ位置を、前記第1の信号の第2の信号に対する位相差として検出するエッジ検出器と、を備えたTDC(Time−to−Digital Converter)のキャリブレーション方法であって、
前記遅延素子は、電流源を電源パスに備え、前記電流源に印加されるバイアスに応じて遅延時間が可変自在とされ、
キャリブレーション制御回路が、前記エッジ検出結果に基づき、バイアス制御用の制御コードを生成し、
前記制御コードに対応するバイアスをバイアス発生回路で生成し、前記複数段の遅延素子に対して供給し、前記エッジ検出器で検出される前記エッジ位置が、前記第1の信号の前記周波数レンジに対応して予め設定された遅延素子の段数に対応するように、前記遅延素子の遅延時間のキャリブレーションを行う、TDCのキャリブレーション方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、TDCの遅延素子の遅延時間にばらつきが生じた場合でも、回路面積、消費電力の増大を抑制しながら、TDCの変換特性を一定とし線形性(linearity)を実現可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態の構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態のタイミングチャートである。
【図3】入力位相差vs.TDC出力コードの一例を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態の遅延素子の構成を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態における1段当りの遅延時間設定を説明する図である。
【図6】本発明の一実施形態におけるキャリブレーション手順を説明する流れ図である。
【図7】周波数レンジと設定段数を説明する図である。
【図8】特許文献1のADPLLを示す図である。
【図9】図8のTDCの構成例を示す図である。
【図10】図9のTDCの動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について以下に説明する。本発明によれば、TDCの遅延素子の電流源に与えるバイアスを制御することで、TDCの遅延素子の遅延のばらつきに対して、所定の周波数帯の位相差が、予め設定された遅延素子の段数の範囲にて測定されるように制御し、遅延素子の遅延のばらつきに対してTDCの変換特性が線形(一定)となるように制御する。
【0021】
本発明の好ましい態様の一つによれば、第1の信号(DATA)を順次遅延させる複数段の遅延素子(11〜11)を有するディレイライン(10)を備え、各段の遅延素子は電流源を電源パスに備え、前記電流源に印加されるバイアスに応じて遅延時間を可変させる。前記複数段の遅延素子(11〜11)に対応してそれぞれ配設され、入力される第2の信号(CLK)に応答して前記複数段の遅延素子(11〜11)の出力をサンプルする複数のフリップフロップ(12〜12)と、前記複数のフリップフロップ(12〜12)の出力を入力し、相隣るフリップフロップの出力結果が切り替わるエッジ位置を、前記第1の信号の第2の信号に対する位相差として検出するエッジ検出器(13)と、前記エッジの検出結果に基づき、バイアス制御用の制御コード(ICNT)を生成するキャリブレーション制御回路(15)と、キャリブレーション制御回路(15)からの前記制御コード(ICNT)に対応するバイアスを生成し前記複数段の遅延素子(11〜11)の電流源に供給するバイアス発生回路(14)と、を備えている。エッジ検出器(13)で検出されるエッジ位置が、前記第1の信号(DATA)の前記周波数範囲に対応して予め設定された遅延素子の段数に対応するように、前記遅延素子(11)の遅延時間のキャリブレーションが行われ、TDCの遅延素子(11)の遅延時間にばらつきが生じた場合でも、TDCの変換特性が、正常、且つ、一定(線形)となるようにしている。以下、添付図面を参照して実施形態に即して説明する。
【0022】
<実施形態1>
図1は、本発明の一実施形態のTDCの構成を示す図である。特に制限されるものでないが、本実施形態のTDCは、好ましくは、半導体集積回路装置上に構成される。この場合、図1は、半導体集積回路装置上のPLLに実装されたTDC部分の回路構成を拡大して示した図である。図1を参照すると、本実施形態のTDCは、遅延素子11を複数段備えたディレイライン10と、各段の遅延素子11〜11の出力を、クロック信号CLKでサンプルするフリップフロップ12〜12と、複数のフリップフロップ12〜12の出力を受け、DATAとCLKの位相差をデジタルコードで出力するエッジ検出器13を備えている。図1のフリップフロップ12と、エンコーダ13は、図9のフリップフロップと、エッジ検出器に対応している。ただし、図9のエッジ検出器がTDC_RISE、TDC_FALLを出力しているが、エンコーダ13は、いずれか1方のみを出力する構成としてもよい。エンコーダ13は、図9のエッジ検出回路と同様、両隣のフリップフロップの出力の不一致を検出するゲート回路群を備え、両隣の出力が異なるフリップフロップの位置から、DATAとCLKの位相差を遅延素子の段数を単位とした値をデジタルコードに符号化して出力する。なお、エッジ検出器13は、検出したエッジを符号化して出力するため「エンコーダ」とも呼ばれる。図1において、DATAは、DCOの出力のCKVを相補の信号し、CLKをリファレンスクロックFREFとしてもよい。
【0023】
本実施形態においては、遅延素子11は、その電源経路に電流源を備えている。すなわち、後に図4を参照して説明されるように、電源VDDと遅延用のバッファ(インバータ)の間、該バッファ(インバータ)とVSS間に、それぞれ第1、第2の電流源を備えている。
【0024】
本実施形態においては、この遅延素子11の第1、第2の電流源に、バイアス電圧Bias+、Bias−を与えるバイアス発生回路14と、バイアス発生回路14を制御して遅延素子11の遅延時間の校正(キャリブレーション)を行うキャリブレーション制御回路15を備えている。
【0025】
なお、特に制限されるものでないが、本実施形態において、各遅延素子11は、その正転入力端子(+)と反転入力端子(−)から、データ(DATA+、DATA−)を入力して反転し、反転出力端子(−)と正転出力端子(+)から差動出力する反転型バッファとして構成される。なお、図1において、差動で伝送されるデータ(DATA+、DATA−)は、クロック信号CLKと位相比較される信号であり、図9のCKVに対応し、CLKは、図9のリファレンスクロック信号FREFに対応している。なお、遅延素子11を、図9のように、シングルエンド入力、シングルエンド出力のインバータ(反転バッファ)で構成してもよいことは勿論である。
【0026】
各段のフリップフロップ12は対応する段の遅延素子11の出力をデータ端子Dに入力し、データ端子の信号をクロック入力端子に入力されるCLKの立ち上がりでサンプルし、サンプルした値を出力端子Qから出力する。データ(DATA+、DATA−)をディレイライン10に差動入力し、データ(DATA+、DATA−)を徐々に遅らせていき、1段当りの遅延時間×段数分だけ遅延させ、CLKの立ち上がりでフリップフロップ12に取り込む。
【0027】
本実施形態において、初段のフリップフロップ12は、初段の遅延素子11の反転出力端子(−)にデータ端子が接続され(反転出力をシングルエンド入力)、2段目のフリップフロップ12は2段目の遅延素子11の正転出力端子(+)にデータ端子が接続され(正転出力をシングルエンド入力)、3段目のフリップフロップ12は3段目の遅延素子11の反転出力端子(−)にデータ端子が接続される(反転出力をシングルエンド入力)、・・・という具合に、各段のフリップフロップ12のデータ端子には、交互に遅延素子11の反転、正転出力が入力される。このため、例えばDATA+の立ち上がり遷移(DATA+の相補信号であるDATA−は立ち下り遷移)に対して、各段の遅延素子11の出力を入力するフリップフロップ12のデータ端子には、DATA+と同相であり、且つ、初段の遅延素子11から当該段の遅延素子11の遅延時間の合計分遅延させた、立ち上がりが入力される。DATA+の立ち下り遷移(DATA−の立ち上がり遷移)に対しても同様に、各段の遅延素子11の出力を入力するフリップフロップ12のデータ端子には、DATA+と同相であり、且つ、初段の遅延素子11から当該段の遅延素子11の遅延時間の合計分遅延させた、立ち下り波形が入力される。なお、図1において、図9と同様に、DATA+をクロック信号CLKでサンプルするフリップフロップをフリップフロップ12の前段(図1の左隣)に備えてもよいことは勿論である。
【0028】
図2は、図1のTDCの動作を説明するためのタイミングチャートである。図2において、DATA+と同相で遅延されるDATA_D_1〜DATA_D_5は、図1の初段から5段目の遅延素子11〜11の出力である。図2に示す例では、DATA+の立ち下りとCLKの立ち上がりの位相差を検出する場合が例示されている。すなわち、図2のエンコーダ13の出力は、図9のエッジ検出器の出力TDC_FALLに対応している。CLKの立ち上がりに対するDATA_D_1〜DATA_D_5の立ち下りの遅れ、進みの関係が逆転する地点の前後のフリップフロップ12の出力が互いに異なる値であることを利用して(エンコーダ13において前後のフリップフロップ12の出力を入力する一致検出回路(不図示)で不一致を検出)、DATA+とCLKの位相差に対応する遅延素子の段数を検出し、エンコーダ103の出力とする。TDCが必要な段数は、測定対象の信号周期(周波数)の1周期分となる。
【0029】
図2の例では、初段の遅延素子11の出力信号DATA_D_1をCLKの立ち上がりに応答して初段のフリップフロップ12でサンプルした値は、2値の0、2段目の遅延素子11の出力信号DATA_D_2をCLKの立ち上がりに応答して2段目のフリップフロップ12でサンプルした値は、2値の1であり、DATA+の立ち下りのタイミングが、遅延素子11の1段目と2段目の間にあるということが分かる。したがって、エンコーダ103の出力値は「2」となり(遅延素子11単位での遅延時間であり、値は整数)、位相差は、遅延素子11の2段分の遅延時間(tdelay×2)に相当することになる。
【0030】
図3に、TDCの変換特性(入出力特性)の例を示す。横軸は入力位相差(図1のDATAの立ち上がり又は立ち下りとCLKの立ち上がりの位相差)、縦軸は出力コード(デジタルコード)である。図3には、図1の遅延素子11の遅延の大小と正常の場合が示されている。位相差の増加に従い、TDCの出力コードが線形(等間隔の階段状)に増加する特性が理想的な状態(正常)となる。階段特性の1ステップ当りの幅は、TDCの遅延素子1段の遅延時間に対応している。遅延素子11の遅延時間が大きくなると、入出力特性の勾配(傾き)は小さくなり、逆に、遅延素子11の遅延時間が小さくなると、入出力特性の勾配(傾き)は大きくなる。
【0031】
遅延素子11の遅延時間のばらつきが生じると、TDCの階段特性の1ステップがあるところでは、広くなったり、狭くなったりする。このため、位相差を検出する分解能の誤差が大きくなる。
【0032】
本実施形態によれば、キャリブレーション制御回路15とバイアス発生回路14によって遅延素子11の遅延時間のキャリブレーションを行い、図3のTDCの変換特性(階段特性)を一定にする。
【0033】
図4は、図1の遅延素子11の構成例を示す図である。ドレイン同士が共通接続され出力ノード(反転出力ノード)OUT−に接続され、ゲートが同士が共通接続され入力ノード(正転入力ノード)IN+に接続されたNMOSトランジスタ11−1とPMOSトランジスタ11−3は第1のCMOSインバータを構成する。またドレイン同士が共通接続され出力ノード(正転出力ノード)OUT+に接続され、ゲート同士が共通接続され入力ノード(反転入力ノード)IN−に接続されたNMOSトランジスタ11−2とPMOSトランジスタ11−4は第2のCMOSインバータを構成する。NMOSトランジスタ11−1、11−2のソースは共通接続され、電流源11−5の一端に接続され、電流源11−5の他端はVSS(GND)に接続される。PMOSトランジスタ11−3、11−4のソースは共通接続され、電流源11−6の一端に接続され、電流源11−6の他端は電源VDDに接続される。第2のCMOSインバータの出力(反転出力ノード)OUT−は抵抗を介して、第1のCMOSインバータの入力(正転入力ノード)IN+に接続され、第1のCMOSインバータの出力(正転出力ノード)OUT+は抵抗を介して第2のCMOSインバータの入力(反転入力ノード)IN−に接続され、第1、第2のCMOSインバータの入力と出力が相互に接続された差動型ラッチを構成する。IN+の信号がHighのとき、IN−の信号はLowであり、NMOSトランジスタ11−1がオン、PMOSトランジスタ11−4がオンし、OUT+はLow、OUT−はHighとなる。IN+の信号がLowのとき、IN−の信号はHighであり、NMOSトランジスタ11−2がオン、PMOSトランジスタ11−3がオンし、OUT+はHigh、OUT−はLowとなる。
【0034】
電流源11−5、11−6には、バイアス発生回路14から、バイアス電圧Bias+、Bias−がそれぞれ供給される。なお、電流源11−5はソースがVSS(GND)に接続され、ゲートにBias−を受け、ドレインがNMOSトランジスタ11−1、11−2の共通接続されたソースに接続されたNMOSトランジスタで構成してもよい。また、電流源11−6は、ソースがVDDに接続され、ゲートにBias+を受け、ドレインがPMOSトランジスタ11−3、11−4の共通接続されたソースに接続されたPMOSトランジスタで構成してもよい。
【0035】
本実施形態によれば、キャリブレーション制御回路15からの制御コードにより、バイアス発生回路14からのバイアス電圧Bias+、Bias−を変えることで、遅延素子11の遅延時間を補正する。電流源11−5、11−6をそれぞれPMOSトランジスタ、NMOSトランジスタで構成した場合、バイアス発生回路14がBias+を上げ、Bias−を下げることで、遅延素子11の電流源11−5、11−6の電流値がともに増大する。電流源11−5、11−6の電流値が増大すると、PMOSトランジスタ11−3、11−4によるOUT+、OUT−のHigh電位への充電時間(立ち上がり時間)と、NMOSトランジスタ11−1、11−2によるOUT+、OUT−のLow電位への放電時間(立ち下り時間)が短縮し、遅延素子11の1段当りの遅延時間(伝播遅延時間:入力の立ち上がりから出力の立ち下りまでの伝播遅延時間(propagation delay time)、及び、入力の立ち下りから出力の立ち上がりまでの伝播遅延時間)が短縮する。一方、バイアス発生回路14がBias+を下げ、Bias−を上げると、遅延素子11の電流源11−5、11−6の電流値が減少し、PMOSトランジスタ11−3、11−4によるOUT+、OUT−のHigh電位への充電時間(立ち上がり時間)と、NMOSトランジスタ11−1、11−2によるOUT+、OUT−のLow電位への放電時間(立ち下り時間)が増大し、遅延素子11の1段当りの遅延時間(伝播遅延時間)は増大する。
【0036】
なお、バイアス発生回路14は、キャリブレーション制御回路15からの制御コードに対応した値のバイアス電圧Bias+、Bias−を生成する任意の回路構成とされる。特に制限されないが、電流源11−6、11−5をPMOSトランジスタ、NMOSトランジスタで構成する場合、バイアス発生回路14は、キャリブレーション制御回路15からの制御コードに対応した値の電流を出力するデジタルアナログ変換器(電流モードDAC)と、ソースが電源VDDに接続され、デジタルアナログ変換器の出力電流をドレインに受けるダイオード接続(ゲートとドレインが接続)された第1のPMOSトランジスタと、ソースが電源VDDに接続され、第1のPMOSトランジスタとゲートが共通接続され、カレントミラーを構成する第2のPMOSトランジスタと、ソースがVSSに接続され、ドレインがカレントミラー回路の出力(第2のPMOSトランジスタのドレイン)に接続され、ダイオード接続されたNMOSトランジスタを備え、第1のPMOSトランジスタとNMOSトランジスタのゲートの電圧をBias+、Bias−としてもよい。
【0037】
トランジスタのしきい値、電源電圧、温度が変化すると、遅延時間のばらつきが最大と最小で3倍程度あるとした場合、関連技術のTDCでは、これに対応するため、遅延素子11の段数として、正常の場合の段数の3倍程度用意しなくてはいけないことになる。これに対して、本実施形態によれば、遅延素子の遅延時間を校正(キャリブレーション)することで、遅延素子11の段数を増加させることなく、動作可能としている。
【0038】
また、本実施形態によれば、遅延素子11に電流源11−5、11−6を付加したことにより、電源電圧VDD/VSSが揺れたときに対するディレイライン10の遅延時間への影響が抑えられる。これは、バイアス電圧でバイアスされる電流源11−5、11−6が定電流源として機能し、電源電圧VDD/VSSの変動に対して、遅延素子11のCMOSインバータは、定電流源の定電流で負荷を充放電できるためである。
【0039】
図5には、TDCの遅延素子の段数と、周期の異なる入力信号(DATA信号)波形との関係が、時間領域で模式的に示されている。図5を参照して、本実施形態における遅延素子11の1段当りの遅延時間の設定について説明する。DATA信号のデューティは50%とする。
【0040】
使用するTDCの遅延素子11の段数を128段(図1のN=128)、測定するDATA信号の周波数レンジを400−800MHzとする。遅延素子128段数の中心128/2=64段を、中心とする。
【0041】
この例ではDATA信号の周波数レンジは400MHzから800MHz、すなわち、TDCは、2倍の周波数レンジを測定する。このため、遅延素子11の64段を中心に、片側に、それぞれ√2倍と、1/(√2)倍した段数を求める。この範囲が、TDCの使用段数範囲となる。すなわち、
64x√2=90、
64x1/(√2)=45
となる(ただし、端数は切り捨ててある)。
【0042】
図5(a)に示すように、ディレイライン10で用いられる遅延素子11の段数の範囲は45−90となる。したがって、TDCにおいて、45−90段の2倍の段数レンジ(0−90段)によって2倍の周波数レンジを測定することができる。
【0043】
TDCは、この範囲で400−800MHzを測定する。400−800MHzの周波数レンジを、時間周期(time period)に直すと、1250−2500psの時間範囲となる。この周期の変化分を、ディレイライン10を構成する45−90段の遅延素子11の範囲で測定する。つまり、図5(b)に示すように、遅延素子11の0−45段の範囲の中に800MHzの信号が1周期ある。また、図5(c)に示すように、遅延素子11の0−90段の範囲の中に400MHzの信号が1周期あることになり、400−800MHzの間の周波数の信号は、ディレイライン10の遅延素子11の45−90段の間となる。
【0044】
したがって、遅延素子1段当りの遅延時間は、
2500/90=1250/45=27.8ps
に設定すると、ちょうど、遅延素子11の0−90段の範囲の中に400MHzの信号が1周期含まれることになる。そして、キャリブレーション制御回路15、バイアス発生回路14により、遅延素子11の遅延時間を27.8psに補正することで、周波数レンジ400−800MHzの信号は、ディレイライン10の遅延素子11の45−90段の範囲に入ることになる。
【0045】
400MHz付近の信号を測定するときは、プロセスばらつき(TDCを搭載する半導体チップの製造プロセスのばらつき)があったとしても、遅延素子11の45段目にエッジ位置(遅延された測定対象信号のエッジに対応してフリップフロップの出力結果が切り替わる位置)があればよいことになる。
【0046】
本実施形態によれば、フリップフロップ12の出力をモニタし、初期キャリブレーションにおいて、設定段数(例えば45段目)の遅延素子11に接続されるフリップフロップ12で出力が切り替わるように、キャリブレーション制御回路15は、バイアス生成用の制御コード(Control Code)ICNTを生成してバイアス発生回路14に供給する。
【0047】
バイアス発生回路14は、デジタル信号の制御コードICNTの値に対応したバイアス電圧(単に「バイアス」ともいう)Bias+、Bias−を生成し、遅延素子11の電流源11−6、11−5に供給し、遅延素子11の遅延を補正する。
【0048】
キャリブレーション制御回路15において、測定対象信号の周波数に応じた初期位置(遅延素子11の段数)を決定することで(周波数レンジ400−800MHzの信号は45−90段)、その後、周波数が変動した場合でも、TDCでの位相差測定範囲は、遅延素子11の45−90段の範囲に収まることになる。
【0049】
測定対象信号(DATA+/DATA−)の周波数レンジは、予め、キャリブレーション制御回路15の記憶装置等(不図示)に設定しておく。
【0050】
図7に、測定対象信号の周波数レンジとその設定段数(図1の遅延素子11の段数)の対応関係の一例を示す。なお、図7では、周波数レンジ400−800MHzを16に区分し(1区分=25MHz)、各区分に応じて遅延素子11の設定段数が決められている。キャリブレーション制御回路15は、図7のテーブル形式の設定内容(周波数レンジと遅延素子の設定段数)を記憶装置(不図示)に保持しており、測定対象信号の周波数レンジに対応して遅延素子の設定段数を取得する。
【0051】
ディレイライン10の遅延素子11の45−90段の範囲以外の範囲は、キャリブレーション制御回路15によるキャリブレーション後における電源電圧、温度変動に対するマージンとする。TDCにおいて、例えば周波数400MHzの信号測定時、ディレイライン10において90段の遅延素子11を使用しているものとする。このとき、電源電圧、温度変動等により、遅延素子1段当りの遅延時間が遅く(長く)なったとすると、ディレイライン10の90−128段の範囲の遅延素子11を使用してエッジ位置を測定する。
【0052】
また、TDCにおいて、周波数800MHzの信号測定時、ディレイライン10において45段の遅延素子11を用いてキャリブレーションが行われ、その後、電源電圧、温度変動により、遅延素子11の1段当りの遅延が速く(短く)なったとすると、遅延素子11の45段以下を使うことになるが、段数が少なすぎると、TDCの精度に影響する。その場合、本発明の第2の実施形態として後述されるフェイル・セーフ(Fale−Safe)機能を使う。
【0053】
図6は、本実施形態のキャリブレーション制御回路15の手順を説明するための流れ図である。図6を参照して、キャリブレーション手順を説明する。
【0054】
<手順1>
キャリブレーションを開始する(S1)。キャリブレーション実行時、デイレイライン10に入力される信号DATA+/DATA−として、所定周波数レンジ(例えば400MHz等)の信号が入力される。
【0055】
<手順2>
キャリブレーション制御回路15は、バイアス発生回路14に供給する制御コード(ICNT)を制御してバイアス発生回路14からのBias+、Bias−を変化させ、遅延素子11の電流源11−5、11−6の電流を最大の状態(遅延素子11の遅延時間が最小)から1ステップずつ減らしていき(S2)、遅延素子11の遅延を、1ステップ単位で遅くして行き、設定した遅延時間に対応するTDCのディレイライン10の出力段数に合わせる。図1において、CLKに対して設定した遅延(位相差)を有するキャリブレーション用の測定対象信号(DATA+/DATA−)のエッジ位置が、遅延素子11の設定段数に対応するように、遅延素子11の遅延時間を調整する。なお、キャリブレーション制御回路15がバイアス発生回路14に供給する制御コード(ICNT)の値(デジタル値)を1つ変化させ、該制御コードの値の変化に対応してバイアス発生回路14がBias+、Vias−を変化させることによる、遅延素子11の遅延量の変化を、遅延素子11の遅延時間の1ステップとする。
【0056】
キャリブレーション制御回路15は、フリップフロップ12の出力(エッジ検出器13の出力)から、設定した遅延時間に相当する遅延素子11の段数を測定する(S3)。キャリブレーション制御回路15は、エッジ検出器13から測定対象信号DATAのエッジ位置を取得し、設定した遅延時間に対応した遅延素子11の段数(何段目であるかという情報)を取得する。なお、図1では、キャリブレーション制御回路15は、エッジ検出器13から出力されるエッジ位置(フリップフロップ12の出力が切り替わる位置)を入力しているが、本発明はかかる構成に制限されるものでなく、キャリブレーション制御回路15はフリップフロップ12〜12の出力を直接入力する構成としてもよい。
【0057】
取得した遅延素子11の段数が始めから設定段数以上となっている場合には、遅延素子11の電流源11−5、11−6(図4)の電流を最大(遅延素子11の遅延時間を最小)としてキャリブレーションを終了する。なお、電流源の電流値の設定範囲で適当な遅延時間となるように、好ましくは、遅延素子11を構成するPMOSトランジスタ11−3、11−4、NMOSトランジスタ11−1、11−2(図4)のサイズは予め最適化しておく。
【0058】
<手順3>
遅延素子11の電流源11−5、11−6(図4)の電流を1ステップ減少させても所望の段数(キャリブレーション制御回路15のテーブル(図7)の段数のしきい値)に達しない場合には(S4のNO分岐)、さらにもう1ステップ、電流源11−5、11−6の電流を減らす。このループ処理を、何回か繰り返し、設定した遅延時間に対応する遅延素子11の設定段数に近づける。
【0059】
<手順4>
キャリブレーション制御回路15内のテーブル(図7の内容を保持)に設定された遅延素子11の段数(測定対象信号の周波数レンジに対応して設定された段数)を超えたら、キャリブレーションを終了とする(ステップS4のYES分岐)。
【0060】
なお、キャリブレーション制御回路15は、バイアス発生回路14に供給する制御コード(ICNT)を制御してバイアス発生回路14からのBias+、Bias−を変化させ、遅延素子11の電流源11−5、11−6(図4)の電流を最小の状態(遅延素子11の遅延時間が最大)から1ステップずつ増加させるように制御するようにしてもよい。
【0061】
図6において、キャリブレーション終了後、遅延素子1の段数が128以上又は16以下になった場合、以下に説明されるフェイル・セーフ(Fail−Safe)機能を実行する(S5)。
【0062】
<第2の実施形態>
上記Fail−Safe機能は、初期キャリブレーション終了後のTDC動作中にも、アクティブに自動でキャリブレーションを行う機能である。本実施形態では、このFail−Safe機能が、キャリブレーション制御回路15に追加されている。以下、Fail−Safe機能についての動作を説明する。
【0063】
キャリブレーション終了後、通常動作中に、電源電圧、温度変動等により、TDCのディレイライン10の遅延素子11の1段当りの遅延時間が変化し、TDCの遅延素子11の使用段数に過不足が生じた場合、キャリブレーション制御回路15では、これを検出し、TDCの遅延素子11の遅延時間を制御する。
【0064】
図6のS5において、フリップフロップ12の出力を入力するキャリブレーション制御回路15において、設定した遅延時間に相等する遅延素子11の段数が128段以上であるか、16段以下を検出した場合が、TDCのディレイライン10の遅延素子11の使用段数に過不足が生じた場合に対応する。
【0065】
すなわち、TDCのディレイライン10の遅延素子11の使用段数に不足が生じる場合とは、電源電圧、温度変動により、遅延素子1段当りの遅延時間が極端に速くなる場合、TDCにおける遅延素子の段数が不足する。例えば、遅延素子の遅延時間が元の1/2倍になったとすると、前に測っていた周期の1/2周期の信号しか、CLKとの位相差を測定することができなくなる。その結果、予め用意されているTDCのディレイライン10の遅延素子11の段数内に入力信号が1周期含まれず、測定対象信号の立ち上がりが無いという状態が起こり、TDCが機能しなくなる。
【0066】
また、TDCのディレイライン10の遅延素子11の使用段数が過剰である場合とは、電源電圧、温度変動により、遅延素子1段当りの遅延時間が極端に遅くなる場合、遅延素子の段数が過剰となる。この場合、遅延素子1段当りの遅延時間が大きくなるため、TDCの分解能が大きくなり、1ステップが粗くなる。その結果、TDCにおいて、本来、測定されるべき位相差を測ることができなくなる。
【0067】
この状況を避けるため、設定した段数付近に、測定対象信号のエッジ位置が来た場合、キャリブレーション制御回路15は、エッジ位置の検出結果から、遅延素子11の遅延を増加する制御を、バイアス発生回路14に対して行い、バイアス発生回路14により、遅延素子11の電流源の電流を1ステップ減らし、遅延を増加させる。一方、遅延素子11の段数が足りない場合には、さらにもう1ステップ遅延を増加させる。例えば128段の遅延素子を用意しておいた場合、キャリブレーション制御回路15において、フリップフロップ12の出力に基づき、エッジ位置の検出結果から、127段付近に遅延があると判断されると、キャリブレーション制御回路15では、電流を1ステップ下げるように設定する制御コード(ICNT)をバイアス発生回路14に伝える。バイアス発生回路14は、制御コード(ICNT)に基づき、Bias+、Bias−を変化させ、遅延素子11の遅延を、遅延素子11の電流源の1ステップの電流の減少分、遅くする。そして、エッジ位置が126段以下になったら、コードの変化をストップし、この制御を繰り返す。
【0068】
また、遅延素子11の遅延時間が遅くなる場合、例えば遅延素子11の128段中の32段以下にエッジ位置がきたら、キャリブレーション制御回路15では、電流を1ステップ上げるように設定する制御コード(ICNT)をバイアス発生回路14に伝える。バイアス発生回路14は、制御コード(ICNT)に基づき、Bias+、Bias−を変化させ、遅延素子11の遅延を、遅延素子11の電流源の1ステップの電流増加分、短くする。
【0069】
このように、本実施形態によれば、Fail−Safe機能により、TDCが動作中に遅延素子11の遅延時間が大きく変化した場合においても、正常に機能するように、制御コードを制御する。
【0070】
Fail−Safe機能により、TDCの通常動作時に、遅延素子の段数に不足が生じた場合でも、正常な遅延時間に復帰することを可能とし、その結果、TDCの入出力の線形性の劣化を防ぐことができる。
【0071】
本発明によれば、任意のデジタルPLL(全デジタルPLL(ADPLL)を含む)内のTDCに適用される。ADPLLでは、TDCで基準信号とフィードバック信号との微小な位相差を求める。キャリブレーション制御回路15、バイアス発生回路14により、遅延素子の遅延のばらつきに対して、TDCの変換特性を一定(正常な線形特性)となるように制御する。なお、デジタルPLLは、図8に示した構成に制限されるものでなく、任意のADPLLのTDCに適用可能である。
【0072】
本発明によれば、製造プロセス変動、あるいは電源、温度変動等による遅延素子の遅延時間のばらつきに対して、TDCの変換特性が一定となるように制御する構成としたことで、半導体装置(デジタル集積回路)上に実装して好適とされる。
【0073】
なお、上記の特許文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0074】
10 ディレイライン
11、11〜11 遅延素子
11−1、11−2 NMOSトランジスタ
11−3、11−4 PMOSトランジスタ
11−5、11−6 電流源
12、12〜12 フリップフロップ
13 エッジ検出器(エンコーダ)
14 バイアス発生回路
15 キャリブレーション制御回路
100 全デジタルPLL(All Digital PLL:ADPLL)
102 累積器(アキュムレータ)
103 数値制御発振器(NCO)
104 DCO(Digitally Controlled Oscillator)
105 利得(GAIN)要素
106 波形整形器
108 天井要素
110 基準水晶発振器(FREF:リファレンスクロック)
112 周波数基準クロックCKR
114 クロック信号CKV
116 周波数制御語(FCW)
120 ラッチ/レジスタ
200 小位相検出器/小位相検出器システム
201 TDC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の信号を順次遅延させる複数段の遅延素子を有するディレイラインと、
前記複数段の遅延素子に対応してそれぞれ配設され、共通に入力される第2の信号に応答して前記複数段の遅延素子の出力をサンプルする複数のフリップフロップと、
前記複数のフリップフロップの出力を入力し、相隣るフリップフロップの出力結果が切り替わるエッジ位置を、前記第1の信号の前記第2の信号に対する位相差として検出するエッジ検出器と、
を備えたTDC(Time−to−Digital Converter)装置であって、
前記遅延素子は、電流源を電源パスに備え、前記電流源に印加されるバイアスに応じて遅延時間を可変させ、
前記エッジ位置の検出結果に基づき、バイアス制御用の制御コードを生成するキャリブレーション制御回路と、
前記キャリブレーション制御回路からの前記制御コードに対応するバイアスを生成し前記複数段の遅延素子に対して供給するバイアス発生回路と、
を備え、
キャリブレーション時、前記キャリブレーション制御回路では、前記エッジ検出器で検出される前記エッジ位置が、前記第1の信号の前記周波数レンジに対応して予め設定された遅延素子の段数に対応するように、前記バイアス発生回路を制御して、前記遅延素子の遅延時間のキャリブレーションを行う、TDC装置。
【請求項2】
前記キャリブレーション制御回路は、被測定対象の前記第1の信号の周波数レンジと、前記周波数レンジに対応した遅延素子の設定段数情報とを関連付けて記憶保持する、請求項1記載のTDC装置。
【請求項3】
キャリブレーション時、予め定められた所定の周波数レンジの所定の位相差の第1の信号が前記ディレイラインに入力され、前記キャリブレーション制御回路は、前記バイアス発生回路を制御して、前記遅延素子の電流源を最大又は最小値から始めて所定ステップ単位で減少又は増加させ、前記エッジ検出器で検出される前記エッジ位置が、前記位相差に対応した予め定められた遅延素子の段数となるように制御する、請求項1又は2記載のTDC装置。
【請求項4】
前記キャリブレーション制御回路において、前記エッジ検出器で検出された前記エッジ位置が、遅延素子の段数に関して、予め定められた第1の段数以上であるか、又は、前記第1の段数よりも小さい第2の段数以下である場合には、前記バイアス発生回路を制御して、前記遅延素子の遅延時間を短くするか、又は長くするように制御するフェイル・セーフ機能を具備してなる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のTDC装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のTDC装置を備えた半導体装置。
【請求項6】
第1の信号を順次遅延させる複数段の遅延素子を有するディレイラインと、
前記複数段の遅延素子に対応してそれぞれ配設され、共通に入力される第2の信号に応答して前記複数段の遅延素子の出力をサンプルする複数のフリップフロップと、
前記複数のフリップフロップの出力を入力し、相隣るフリップフロップの出力結果が切り替わるエッジ位置を、前記第1の信号の第2の信号に対する位相差として検出するエッジ検出器と、
を備えたTDC(Time−to−Digital Converter)のキャリブレーション方法であって、
前記遅延素子は、電流源を電源パスに備え、前記電流源に印加されるバイアスに応じて遅延時間が可変自在とされ、
キャリブレーション制御回路が、前記エッジ位置の検出結果に基づき、バイアス制御用の制御コードを生成し、
前記制御コードに対応するバイアスをバイアス発生回路で生成し、前記複数段の遅延素子に対して供給し、前記エッジ検出器で検出される前記エッジ位置が、前記第1の信号の前記周波数レンジに対応して予め設定された遅延素子の段数に対応するように、前記遅延素子の遅延時間のキャリブレーションを行う、TDCのキャリブレーション方法。
【請求項7】
被測定対象の前記第1の信号の周波数レンジと、前記周波数レンジに対応した遅延素子の設定段数情報とを関連付けて前記キャリブレーション制御回路で記憶保持する、請求項6記載のTDCのキャリブレーション方法。
【請求項8】
キャリブレーション時、予め定められた所定の周波数レンジの所定の位相差の第1の信号が前記ディレイラインに入力され、前記遅延素子の電流源を最大又は最小値から始めて所定ステップ単位で減少又は増加させ、前記エッジ検出器で検出される前記エッジの位置が、前記位相差に対応した予め定められた遅延素子の段数となるように制御する、請求項6又は7記載のTDCのキャリブレーション方法。
【請求項9】
前記検出された前記エッジ位置が、予め定められた遅延素子の所定の第1の段数以上であるか、又は、前記第1の段数よりも小さい第2の段数以下である場合、前記バイアス発生回路を制御して、前記遅延素子の遅延時間を短くするか、又は長くするように制御する、請求項6乃至8のいずれか1項に記載のTDCのキャリブレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−114716(P2012−114716A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262480(P2010−262480)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】