説明

TiO2含有石英ガラス基板

【課題】ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として使用した場合に、寸法のばらつきが±10%以内の凹凸パターンを形成することができるTiO2含有石英ガラス基板の提供。
【解決手段】15〜35℃における熱膨張係数が±200ppb/℃以内であり、TiO2濃度が4〜9wt%であり、転写パターンを形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域におけるTiO2濃度分布が、±1wt%以内であることを特徴とするTiO2含有石英ガラス基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、光導波路、微小光学素子(回折格子など)、バイオチップ、マイクロリアクター等における寸法1〜10μmの微細な凹凸パターンを形成する目的で用いられるナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として用いられるTiO2含有石英ガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
寸法1〜10μmの微細な凹凸パターンを何らかの基板(たとえばSiやサファイアなどの単結晶基板、ガラスなどの非晶質基板)上に形成する方法として、縮小投影露光を用いた方法が現在一般的である。これに替わる安価な方法としてナノインプリントリソグラフィが検討されている(たとえば特許文献1参照)。ナノインプリントリソグラフィによれば、従来の方法に比べて低コストで基板上に微細な凹凸パターンを形成することができる。
ナノインプリントリソグラフィのプロセス概略は、以下の通りである。
(1)光硬化樹脂層あるいは熱硬化樹脂層を基板の上に形成する。
(2)基板上の同樹脂層に、所望の凹凸パターン(転写パターン)を有する型部材(モールド)を押し付けて同樹脂層に凹凸パターンを転写させる。
(3)光硬化樹脂の場合は紫外光を照射することにより、熱硬化樹脂の場合は加熱することにより、同樹脂層を硬化させた後、モールドを離すことにより基板上に所望の微細な凹凸パターンを得る。
【0003】
ここで硬化樹脂として光硬化樹脂を使用する光ナノインプリントリソグラフィは、紫外光照射のみで凹凸パターンを得ることができるため、熱硬化樹脂を用いた熱サイクルナノインプリントリソグラフィと比べてスループットが高く、温度による寸法変化などを防ぐことができるため、好適である。特に光ナノインプリントリソグラフィ用モールドにおいては、光硬化樹脂の硬化を意図していない部位(通常凸部)のモールド表面に遮光膜(CrやCrNなどの金属膜)を形成することにより、意図していない部位の光硬化性樹脂に紫外光が照射されて基板上に残留することを防ぐ方法が提案されている(たとえば特許文献2および3参照)。このような改善は、熱サイクルナノインプリントリソグラフィでは実現できないため、この点においても光ナノインプリントリソグラフィは優れている。
【0004】
光ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材としては、その優れた紫外光透過性、耐薬品性から、石英ガラスが用いられることが一般的である。しかしながら石英ガラスの室温付近における熱膨張係数は約500ppb/℃と高く、寸法安定性に欠けるため、2質量%以上15質量%以下のチタニアを含有するシリカ・チタニアガラスを使用することが提案されている(特許文献4参照)。このチタニア含有シリカガラスは、20℃から35℃の温度範囲における線膨張係数が200ppb/℃以下と小さく、寸法安定性に優れるため、光ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として好ましいとされている。
【0005】
一方、熱サイクルナノインプリントリソグラフィ用モールド基材としては、耐薬品性に加えて、加熱時の寸法安定性に優れること等が要求されるため、低熱膨張係数を有する材料であることが必要とされ、低熱膨張係数を有するガラス等が検討されている。
特許文献4に記載のシリカ・チタニアガラスのような、TiO2含有石英ガラスは、石英ガラスよりも小さい熱膨張係数を有する超低熱膨張材料として知られ、またガラス中のTiO2含有量によって熱膨張係数を制御できるために、熱膨張係数が0に近いゼロ膨張ガラスが得られる。したがって、TiO2含有石英ガラスは熱サイクルナノインプリントリソグラフィ用モールド基材に用いる材料として好ましい特性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−210093号公報
【特許文献2】特開2004−104114号公報
【特許文献3】特開2006−324268号公報
【特許文献4】特開2006−267595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4におけるチタニアシリカガラスは、低熱膨張であり寸法安定性に優れるが、ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として使用するために形成する転写パターン(凹凸パターン)の寸法精度が必ずしも安定して得られなかった。この点に関して、本願発明者らは、鋭意検討した結果、チタニアシリカガラス中のチタニア濃度のばらつきが原因であることを見出した。すなわち、転写パターン(凹凸パターン)は平らな基材を何らかの方法でエッチングして形成するが、チタニアシリカガラスは、シリカ以外にチタニア成分を含むため、その化学的特性はチタニア濃度に依存し、転写パターン(凹凸パターン)を形成する際のエッチング速度はチタニア濃度に依存する。具体的には、チタニアシリカガラス中のチタニア濃度が高いほど、エッチング速度が大きくなる。したがって、チタニアシリカガラス中のチタニア濃度にばらつきがある場合、エッチングにより転写パターン(凹凸パターン)を形成する際に、エッチング速度にばらつきが生じ、エッチングにより形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法にばらつき、特に転写パターン(凹凸パターン)の垂直方向の寸法にばらつきが生じ、転写パターン(凹凸パターン)の寸法精度が低下するという問題があった。
【0008】
ナノインプリントリソグラフィは、半導体デバイス、光導波路、微小光学素子(回折格子など)、バイオチップ、マイクロリアクター等における寸法1〜10μmの微細な凹凸パターンを形成する目的で用いられているが、これらの微細な凹凸パターンを形成する場合、凹凸パターンの寸法のばらつきを±10%以内に、より好ましくは±5%以内に抑えることが要求されている。したがって、ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材には、エッチングにより形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法のばらつきを±10%以内に抑えること、より好ましくは±5%以内に抑えることが要求される。
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として使用した場合に、寸法精度に優れた転写パターン(凹凸パターン)を形成することができる、具体的には、寸法のばらつきが±10%以内の転写パターン(凹凸パターン)を形成することができるTiO2含有石英ガラス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、光ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として用いられるTiO2含有石英ガラス基板であって、
15〜35℃における熱膨張係数が±200ppb/℃以内であり、
TiO2濃度が4〜9wt%であり、
転写パターンを形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域におけるTiO2濃度分布が、±1wt%以内であることを特徴とするTiO2含有石英ガラス基板を提供する。
【0011】
また、本発明は、熱サイクルナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として用いられるTiO2含有石英ガラス基板であって、
15〜200℃における熱膨張係数が±200ppb/℃以内であり、
TiO2濃度が6〜9wt%であり、
転写パターンを形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域におけるTiO2濃度分布が、±1wt%以内であることを特徴とするTiO2含有石英ガラス基板を提供する。本明細書において、「TiO2濃度分布が±1wt%以内」とは、TiO2濃度の最大値と最小値の差が2wt%以下であることを意味する。
【0012】
本発明のTiO2含有石英ガラス基板において、転写パターンを形成する側の基板表面における仮想温度分布が±100℃以内であることが好ましい。本明細書において、「仮想温度分布が±100℃以内」とは、仮想温度の最大値と最小値の差が200℃以下であることを意味する。
本発明のTiO2含有石英ガラス基板において、前記転写パターンを形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域における仮想温度分布が±100℃以内であることがより好ましい。
【0013】
本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、熱膨張係数の温度依存性を緩和するため、ハロゲン濃度が2000ppm以上となるようにハロゲン元素を含有させてもよい。但し、この場合、転写パターンを形成する側の基板表面におけるハロゲン濃度分布を±2000ppm以内とすることが好ましい。本明細書において、「ハロゲン濃度分布を±2000ppm以内」とは、ハロゲン濃度の最大値と最小値の差が4000ppm以下であることを意味する。
この場合、前記転写パターンを形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域におけるハロゲン濃度分布が±2000ppm以内とすることがより好ましい。
この場合、ハロゲン元素が塩素またはフッ素であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、ナノインプリントリソグラフィの際に、モールド基材が経験し得る温度範囲(光ナノインプリントリソグラフィの場合、室温付近(但し、紫外線照射によりモールド基材が温度上昇する場合がある)、熱サイクルインプリントリソグラフィの場合、室温付近から樹脂の熱硬化樹脂の硬化温度までの温度範囲)における熱膨張係数がきわめて小さい。このため、本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、ナノインプリントリソグラフィの際に、モールド基材が経験しうる温度変化に対する形状安定性に優れており、ナノインプリントリソグラフィ用のモールド基材として好適である。
また、本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面におけるTiO2濃度分布がきわめて小さく、好ましくは、該基板表面を含む表面近傍領域におけるTiO2濃度分布がきわめて小さい。したがって、本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、エッチングにより転写パターン(凹凸パターン)を形成する際に、エッチング速度にばらつきが生じるのを抑制することができ、寸法精度が高い転写パターン(凹凸パターン)、具体的には、寸法のばらつきが±10%以内、好ましくは、±5%以内の転写パターン(凹凸パターン)を形成することができ、ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材、特に、光ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として好適である。
また、本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面における仮想温度分布を±100℃以内にすることにより、好ましくは、該基板表面を含む表面近傍領域における仮想温度分布を±100℃以内にすることにより、エッチングにより転写パターン(凹凸パターン)を形成する際に、エッチング速度のばらつきが生じるのをさらに抑制することができ、形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法精度がさらに向上する。
また、本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、ハロゲン濃度を2000ppm以上となるようにハロゲン元素を含有させることで、ガラス基板の熱膨張係数の温度依存性を緩和することができる。この場合、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面におけるハロゲン濃度分布を±2000ppm以内とすることにより、好ましくは、該基板表面を含む表面近傍領域におけるハロゲン濃度分布を±2000ppm以内にすることにより、エッチングにより転写パターン(凹凸パターン)を形成する際に、エッチング速度のばらつきが生じるのをさらに抑制することができ、形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法精度がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1はドライエッチング試験時のエッチング速度のTiO2濃度依存性を示したグラフである。
【図2】図2はウェットエッチング試験時のエッチング速度のTiO2濃度依存性を示したグラフである。
【図3】図3は、エッチング速度のハロゲン濃度依存性を示したグラフである。
【図4】図4は、エッチング速度の仮想温度依存性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のTiO2含有石英ガラス基板についてさらに説明する。
本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として用いられるため、温度変化に対する形状安定性、より具体的には、ナノインプリントリソグラフィの際に、該ガラス基板が経験し得る温度領域における温度変化に対する形状安定性に優れることが要求される。ここで、該ガラス基板が経験し得る温度領域は、ナノインプリントリソグラフィの種類によって異なる。光ナノインプリントリソグラフィでは、紫外光照射により光硬化樹脂を硬化させるため、該ガラス基板が経験し得る温度領域は基本的には室温付近である。但し、紫外光照射によりガラス基板の温度が局所的に上昇する場合がある。紫外光照射による局所的な温度上昇を考慮して、該ガラス基板が経験し得る温度領域を15〜35℃とする。
光ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として用いられる本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、15〜35℃における熱膨張係数が±200ppb/℃以内である。15〜35℃における熱膨張係数が±200ppb/℃以内であれば、光ナノインプリントリソグラフィの際に該ガラス基板が経験し得る温度領域において、該ガラス基板の熱膨張係数が極めて小さく、該ガラス基板が該温度領域における温度変化に対する形状安定性に優れている。
光ナノインプリントリソグラフィ用モールドの寸法は高々70mm□であり、凹凸パターン(転写パターン)を形成する領域の寸法は高々50mm□である。例えば、熱膨張係数200ppb/℃のモールド基材の温度が1℃変化した場合、凹凸パターン(転写パターン)を形成する領域(50mm□)当たり、モールド基材の寸法が100nm変動する。従って、該モールド基材に寸法1〜10μmの微細な凹凸パターン(転写パターン)を形成する場合、該凹凸パターン(転写パターン)の位置精度は凹凸パターンの寸法の10%以内、すなわち±100nm〜±1000nm以内に抑える必要がある。15〜35℃における熱膨張係数が±200ppb/℃以内であれば、モールド基材に微細な凹凸パターン(転写パターン)を形成する場合に、該凹凸パターン(転写パターン)の位置精度を凹凸パターン(転写パターン)の寸法の10%以内に抑えることができる。
光ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として用いられる本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、15〜35℃における熱膨張係数が±100ppb/℃以内であることがより好ましい。
【0017】
一方、熱サイクルナノインプリントリソグラフィでは、加熱により熱硬化樹脂を硬化させるため、該ガラス基板が経験し得る温度領域は室温付近から熱硬化樹脂の硬化温度までである。ここで、熱硬化樹脂の硬化温度は、熱硬化樹脂の種類によって異なるが、熱サイクルナノインプリントリソグラフィに一般的に用いられる熱硬化樹脂(例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂など)等)の場合、通常150〜約200℃である。
熱サイクルナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として用いられる本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、15〜200℃における熱膨張係数が±200ppb/℃以内である。15〜200℃における熱膨張係数が±200ppb/℃以内であれば、熱サイクルナノインプリントリソグラフィの際に該ガラス基板が経験し得る温度領域において、該ガラス基板の熱膨張係数が極めて小さく、該ガラス基板が該温度領域における温度変化に対する形状安定性に優れている。
なお、熱サイクルナノインプリントリソグラフィの場合、加熱したモールドを熱硬化樹脂層を形成した基板に押し付けるため、モールド、および、熱硬化樹脂層を形成した基板のいずれもある程度温度が上昇する。このためモールド、および、熱硬化樹脂層を形成した基板間の熱膨張差が問題となる。ここで、熱硬化樹脂層を形成する基板材料としては、15〜200℃における熱膨張係数が±200ppb/℃以内の低膨張ガラスが好ましく用いられる。本発明のTiO2含有石英ガラス基板をモールドとして用いれば、熱サイクルナノインプリントリソグラフィの際にモールドが経験し得る温度領域、すなわち、室温付近から熱硬化樹脂の硬化温度までの温度領域において、熱膨張係数が±200ppb/℃以内であるため、モールド、および、熱硬化樹脂層を形成した基板間の熱膨張差による問題が生じることがない。
熱サイクルナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として用いられる本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、15〜200℃における熱膨張係数が±100ppb/K以内であることがより好ましい。
【0018】
光ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として用いられる本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、15〜35℃における熱膨張係数が±200ppb/℃以内とするため、TiO2濃度が4〜9wt%である。TiO2濃度が9wt%を超えると、TiO2結晶が析出し、かつ15〜35℃における熱膨張係数が−200ppb/℃よりも小さくなる。TiO2濃度が4wt%未満だと15〜35℃における熱膨張係数が+200ppb/℃よりも大きくなる。
光ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として用いられる本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、TiO2濃度が5〜8wt%であることが好ましい。この場合、温度15〜35℃における熱膨張係数が±100ppb/℃以内となる。
一方、熱サイクルナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として用いられる本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、15〜200℃における熱膨張係数が±200ppb/℃以内とするため、TiO2濃度が6〜9wt%である。TiO2濃度が9wt%を超えると、TiO2結晶が析出し、かつ15〜200℃における熱膨張係数が−200ppb/℃よりも小さくなる。TiO2濃度が6wt%未満だと15〜200℃における熱膨張係数が+200ppb/℃よりも大きくなる。
熱サイクルナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として用いられる本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、TiO2濃度が7〜8wt%であることが好ましい。この場合、温度15〜200℃における熱膨張係数が±100ppb/℃以内となる。
【0019】
本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、TiO2濃度が上記の範囲(4〜9wt%(光ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材用)、5〜8wt%(熱サイクルナノインプリントリソグラフィ用モールド基材用))であることに加えて、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面におけるTiO2濃度分布が±1wt%以内である。
TiO2含有石英ガラス基板にエッチングより転写パターン(凹凸パターン)を形成する際、エッチング速度はTiO2濃度に依存する。具体的には、TiO2含有石英ガラス基板中のTiO2濃度が高いほど、エッチング速度が大きくなる。したがって、TiO2含有石英ガラス基板中のTiO2濃度にばらつきがあると、エッチングにより転写パターン(凹凸パターン)を形成する際に、エッチング速度にばらつきが生じることとなる。この結果、形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法にばらつきが生じて、形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法精度が低下する。
本発明のTiO2含有石英ガラス基板では、TiO2濃度が上記の範囲であることに加えて、TiO2濃度分布を±1wt%以内とすることにより、エッチングにより転写パターン(凹凸パターン)を形成する際に、エッチング速度にばらつきが生じることを抑制し、形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法精度を向上させる。
但し、本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、基板全体でTiO2濃度分布が±1wt%以内である必要はない。TiO2濃度のばらつきが問題となるのは、TiO2含有石英ガラス基板のうち、エッチングにより転写パターン(凹凸パターン)を形成する部位である。ナノインプリントリソグラフィ用モールドに形成する転写パターン(凹凸パターン)の寸法のうち、エッチング速度のばらつきによって特に影響を受けるのは、転写パターン(凹凸パターン)の垂直方向の寸法である。転写パターン(凹凸パターン)の垂直方向の寸法は、ナノインプリントリソグラフィにより形成する転写パターン(凹凸パターン)によっても異なるが、通常は50nm〜50000nm(50μm)である。したがって、TiO2含有石英ガラス基板のうち、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面でTiO2濃度分布が±1wt%以内であれば、エッチングにより転写パターン(凹凸パターン)を形成する際に、エッチング速度にばらつきが生じることを抑制し、形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法精度を向上させる。なお、上記の効果を好適に発揮するためには、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域におけるTiO2濃度分布が±1wt%以内である。
本発明のTiO2含有石英ガラス基板において、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面におけるTiO2濃度分布が±0.5wt%以内であることが好ましい。また、本発明のTiO2含有石英ガラス基板において、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域におけるTiO2濃度分布が±0.5wt%以内であることがより好ましい。
【0020】
なお、基板表面におけるTiO2濃度分布は、XRF(蛍光X線分析法)を用いて基板表面のTiO2濃度を求めることで得ることができる。XRFによる分析深さは約50nmであり、本明細書において「基板表面におけるTiO2濃度分布」とは、表面から約50nmの深さまでの領域における濃度分布を指す。一方、基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域におけるTiO2濃度分布は、上記手順で基板表面のTiO2濃度を得た後、基板表面をArイオンなどで所定量エッチングしてから各種分析手段を用いてTi濃度を求め、さらに基板表面を所定量エッチングするといった手順を繰り返すことで得ることができる。
【0021】
本発明では、以下に述べる点により、エッチングにより転写パターン(凹凸パターン)を形成する際に、エッチング速度にばらつきが生じることをさらに抑制することができる。
TiO2含有石英ガラス基板のエッチング速度は、該TiO2含有石英ガラス基板の仮想温度にも依存する。TiO2含有石英ガラス基板の仮想温度が高いほど、エッチング速度が大きくなる。このため、TiO2含有石英ガラス基板の仮想温度にばらつきがあると、エッチングにより転写パターン(凹凸パターン)を形成する際に、エッチング速度にばらつきが生じ、形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法にばらつきが生じて、形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法精度が低下する。したがって、本発明のTiO2含有石英ガラス基板は、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面における仮想温度分布が小さいことが好ましい。具体的には、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面における仮想温度分布が±100℃以内であることが好ましい。
転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面における仮想温度分布が±100℃以内であれば、エッチングにより転写パターン(凹凸パターン)を形成する際に、エッチング速度にばらつきが生じることをさらに抑制することができ、形成される凹凸パターンの寸法精度をさらに向上させることができる。なお、上記の効果を好適に発揮するためには、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域における仮想温度分布が±100℃以内であることが好ましい。
なお、TiO2含有石英ガラス基板の仮想温度とは、文献(A.Agarwal,K.M.Dabis and M.Tomozawa,“A simple IR spectroscopic method for determining fictive temperature of silica glass”,J.Non−Cryst.Solids.,185、191−198 (1995))にしたがって、赤外分光光度計を用いて波数2260cm-1付近の吸収ピークの位置により求めた仮想温度を指す。上記測定方法による測定深さは約10μmであり、本明細書において「基板表面における仮想温度分布」とは、表面から約10μmの深さまでの領域における仮想温度分布を指す。
【0022】
本発明のTiO2含有石英ガラス基板において、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面における仮想温度分布が±40℃以内であることがより好ましく、さらに好ましくは±10℃以内であり、±5℃以内であることが特に好ましい。
また、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域における仮想温度分布が±40℃以内であることがより好ましく、さらに好ましくは±10℃以内であり、±5℃以内であることが特に好ましい。
【0023】
なお、基板表面における仮想濃度分布、基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域における仮想温度分布は、上述した方法にしたがって求めた基板表面の仮想温度、または基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域における仮想温度から求めることができる。
また、レーザラマンスペクトルにおける440cm-1の散乱ピーク強度I440に対する495cm-1の散乱ピーク強度I495の比I495/I440、及び440cm-1の散乱ピーク強度I440に対する606cm-1の散乱ピーク強度I606の比I606/I440により仮想温度分布を求めることもできる。この方法によれば、基板内の任意の場所の仮想温度を測定することができる。
【0024】
本発明のTiO2含有石英ガラス基板には、熱膨張係数の温度依存性を緩和するため、ハロゲン原子をハロゲン濃度が2000ppm以上となる量含有させてもよい。
ここで、ハロゲン元素とは、フッ素元素、塩素元素、臭素元素、ヨウ素元素などを指す。これらの中でも、フッ素元素、塩素元素が、原料の入手容易性、原子サイズが比較的小さくガラス中にドープすることにより誘起する構造歪みが小さいなどの理由から好ましく、フッ素元素がより好ましい。
熱膨張係数の温度依存性を緩和する目的で、ハロゲン元素を含有させる場合、ハロゲン濃度が5000ppm以上となる量含有させることがより好ましい。
【0025】
但し、ハロゲン元素を含有させる場合、エッチングにより転写パターン(凹凸パターン)を形成する際に、エッチング速度にばらつきが生じないようにする必要がある。TiO2含有石英ガラス基板のエッチング速度は、該TiO2含有石英ガラス基板に含まれるハロゲン元素の濃度にも依存し、ハロゲン元素の濃度が高いほど、エッチング速度が大きくなる。したがって、TiO2含有石英ガラス基板中のハロゲン元素の濃度分布にばらつきがあると、エッチングにより転写パターン(凹凸パターン)を形成する際に、エッチング速度にばらつきが生じ、形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法にばらつきが生じて、形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法精度が低下する。このため、TiO2含有石英ガラス基板にハロゲン元素を含有させる場合、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面におけるハロゲン濃度分布を±2000ppm以内とすることが好ましい。転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面におけるハロゲン濃度分布が±2000ppm以内であれば、エッチングにより転写パターン(凹凸パターン)を形成する際に、エッチング速度にばらつきが生じることをさらに防止し、形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法精度をさらに向上させることができる。なお、上記の効果を好適に発揮するためには、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域におけるハロゲン濃度分布が±2000ppm以内であることが好ましい。
【0026】
TiO2含有石英ガラス基板にハロゲン元素を含有させる場合、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面におけるハロゲン濃度分布が±1000ppm以内であることがより好ましい。
また、転写パターン(凹凸パターン)を形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域におけるハロゲン濃度分布が±1000ppm以内であることがより好ましい。
【0027】
なお、基板表面におけるハロゲン濃度分布、基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域におけるハロゲン濃度分布は、公知の方法で基板表面におけるハロゲン濃度、若しくは基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域におけるハロゲン濃度を測定することで求めることができる。ハロゲン元素がフッ素元素の場合、TiO2含有石英ガラス基板中のフッ素濃度は、例えば、XPS(ESCA,X線電子分光法)を用いて求めることが出来る。上記測定方法による測定深さはそれぞれ2〜3nmであり、本明細書において「基板表面におけるハロゲン濃度分布」とは、表面から2〜3nmの深さまでの領域におけるハロゲン濃度分布を指す。
【0028】
光ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材に用いられるTiO2含有石英ガラス基板の場合、光ナノインプリントリソグラフィの際に用いられる紫外光に対する内部透過率が高いことが好ましく、具体的には、波長365nmの紫外線に対する内部透過率が50%/cm以上であることが好ましく、70%/cm以上であることがより好ましく、90%/cm以上であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明のTiO2含有石英ガラス基板を製造するためには、以下の製法が採用できる。
(a)工程
ガラス形成原料であるSi前駆体およびTi前駆体を火炎加水分解させて得られるTiO2−SiO2ガラス微粒子を、ある一定の速度で、軸を中心として回転する石英ガラス製の種棒(例えば特公昭63−24973号公報記載の種棒)を基材として用い、この基材に堆積、成長させて多孔質TiO2−SiO2ガラス体を形成させる。ガラス形成原料としては、ガス化可能な原料であれば特に限定されないが、Si前駆体としては、SiCl4、SiHCl3、SiH2Cl2、SiH3Clなどの塩化物、SiF4、SiHF3、SiH22などのフッ化物、SiBr4、SiHBr3などの臭化物、SiI4などのヨウ化物といったハロゲン化ケイ素化合物、またRnSi(OR)4-n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシシランが挙げられ、またTi前駆体としては、TiCl4、TiBr4などのハロゲン化チタン化合物、またRnTi(OR)4-n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシチタンが挙げられる。また、Si前駆体およびTi前駆体として、シリコンチタンダブルアルコキシドなどのSiとTiの化合物を使用することもできる。また前記基材としては棒状に限らず板状の基材を使用してもよい。
【0030】
(b)工程
多孔質TiO2−SiO2ガラス体を透明ガラス化温度まで昇温して透明ガラス化し、透明TiO2−SiO2ガラス体を得る。透明ガラス化とは、光学顕微鏡で空隙が確認できなくなるまで多孔質ガラス体が緻密化した状態をいい、透明ガラス化温度とは、光学顕微鏡で空隙が確認できなくなるまで多孔質ガラス体を緻密化できる温度をいう。透明ガラス化温度は、通常は1400〜1700℃であり、特に1450〜1650℃であることが好ましい。雰囲気としては、ヘリウムなどの不活性ガス100%の雰囲気、またはヘリウムなどの不活性ガスを主成分とする雰囲気であることが好ましい。圧力については、減圧または常圧であればよい。特に常圧の場合はヘリウムガスを用いることができる。また、減圧の場合は13000Pa以下が好ましい。ここで、「Pa」は、ゲージ圧ではなく絶対圧の意である。
【0031】
(c)工程
工程(b)で得られた透明TiO2−SiO2ガラス体を軟化点以上の温度に加熱して所望の形状に成形し、成形TiO2−SiO2ガラス体を得る。成形加工の温度としては、1500〜1800℃が好ましい。1500℃未満では、TiO2−SiO2ガラスの粘度が高いため、実質的に自重変形が行われず、またSiO2の結晶相であるクリストバライトの成長またはTiO2の結晶相であるルチルもしくはアナターゼの成長が起こり、いわゆる失透が生じる。1800℃より高いと、SiO2の昇華が無視できなくなる。
【0032】
(d)工程
(c)工程で得られた成形TiO2−SiO2ガラス体を、600〜1200℃の温度にて1時間以上保持した後、20℃/hr以下の降温速度で500℃以下まで降温するアニール処理を行い、TiO2−SiO2ガラスの仮焼温度を制御する。500℃以下まで降温した後は放冷できる。この場合の雰囲気は、ヘリウム、アルゴン、窒素などの不活性ガス100%の雰囲気下、これらの不活性ガスを主成分とする雰囲気下、または空気雰囲気下で、圧力は減圧または常圧が好ましい。
【0033】
製造されるTiO2含有石英ガラス基板のTiO2濃度分布を±1wt%以内にする方法としては、組成の均一性が高い石英ガラス体を製造する際に用いられる公知の方法を適用することができる。例えば、上記した工程(a)の各手順の温度を均一化する方法、工程(a)で基材の回転速度を高速化する方法、工程(c)で成形TiO2−SiO2ガラス体のサイズを大型化し、TiO2濃度分布が小さい部分を切り出してTiO2含有石英ガラス基板を得る方法などが挙げられる。
【0034】
仮想温度分布を±100℃以内に制御する方法としては、工程(d)において、TiO2含有石英ガラスを800〜1200℃の範囲内で所定の温度にて1時間以上保持し、TiO2含有石英ガラスの仮想温度を保持温度にほぼ等しくした後、保持温度から200〜400℃程度低い温度まで、TiO2含有石英ガラス内に温度分布が生じないよう、15℃/hr以下のゆっくりした速度で徐冷、その後15℃/hr以上の比較的速い速度で急冷すればよい。
【0035】
ハロゲン元素としてフッ素元素を含有するTiO2含有石英ガラスを製造するには、工程(a)で得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体を、フッ素含有雰囲気に所定時間保持して、フッ素元素を含有する多孔質TiO2−SiO2ガラス体とすればよい。フッ素含有雰囲気としては、含フッ素ガス(例えばSiF4、SF6、CHF3、CF4、C26、C38、F2)を0.1〜100体積%含有する不活性ガス雰囲気が好ましい。これらの雰囲気下、圧力10000〜100000Pa(1気圧程度)、室温もしくは透明ガラス化温度以下の高温で数十分〜数時間保持することが好ましい。透明ガラス化温度以上の温度を用いた場合、多孔質TiO2−SiO2ガラス体の緻密化が進行し、多孔質TiO2−SiO2ガラス体内部にまでフッ素元素を含有させることが困難になるため好ましくない。
なお、同じフッ素濃度を得る場合に、雰囲気の温度を下げたい時は、保持時間を延ばし5〜数十時間保持するようにすればよい。
【0036】
例えば、フッ素含有雰囲気としてSiF4を用いる場合、得ようとする多孔質TiO2−SiO2ガラス体のフッ素濃度に合わせ、以下のように処理温度、処理時間を設定すればよい。
フッ素濃度を2000ppm以上5000ppm未満としたい場合は、SiF4を1〜10体積%含む不活性ガス雰囲気にて、500〜1000℃で1〜数十時間保持すればよい。フッ素濃度を5000〜10000ppmとしたい場合は、SiF4を5〜数十体積%含む不活性ガス雰囲気にて、1000〜1300℃で2〜数十時間保持すればよい。
なお、多孔質TiO2−SiO2ガラス体へ均一に短時間でフッ素元素を含有させることができることから、TiO2−SiO2ガラス体を減圧下(好ましくは13000Pa以下、特に1300Pa以下)に置いた後、ついで、フッ素を常圧になるまで導入し、フッ素含有雰囲気とすることが好ましい。
【0037】
なお、工程(a)でSi前駆体およびTi前駆体のうち、少なくとも一方として、フッ素を含むものを用いることによっても、フッ素元素を含有する多孔質TiO2−SiO2ガラス体を得ることができる。
【0038】
ハロゲン元素としてフッ素元素を含有するTiO2含有石英ガラスを製造する場合、該TiO2含有石英ガラス中のハロゲン濃度分布を±2000ppm以内とする方法としては、上記(b)工程に続いて、横型帯域融解法(FZ法)により1500〜1700℃以上に加熱して混練する、あるいは1500〜1700℃以上の温度に加熱して所定方向に自重変形させて所望の形状に成形するなどの方法を挙げることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
(実施例1)
本実施例では、TiO2含有石英ガラス基板のTiO2濃度とエッチング速度との関係を調べるために、上記した工程(a)〜(d)の手順にしたがって、TiO2含有石英ガラスを作成する際に、Si前駆体とTi前駆体との割合を変えて工程(a)を実施することにより、TiO2濃度(wt%)が異なるTiO2含有石英ガラスブロックを作成した。同TiO2含有石英ガラスブロックの中央からサンプルを切り出し、以下の2種類のエッチング試験を実施した。
[ドライエッチング試験]
室温にてSF6による反応性イオンエッチングを実施した。各サンプルについて、エッチング速度(μm/min)を求めた。
[ウェットエッチング試験]
フッ化水素酸(5wt%,室温)を用いてウェットエッチングした。各サンプルについて、エッチング速度(μm/min)を求めた。
また、TiO2濃度0wt%の石英ガラスのエッチング速度を調べるため、火炎加水分解法によりTiO2を含まない石英ガラスブロックを作成し、同石英ガラスブロックの中央からサンプルを切り出し、ドライエッチング試験およびウェットエッチング試験を実施した。
エッチング試験の結果を、縦軸をエッチング速度(相対エッチング速度)、横軸をTiO2濃度(wt%)としてプロットし、エッチング速度のTiO2濃度依存性を調べた。結果を図1および図2に示した。図1はドライエッチング試験時のエッチング速度のTiO2濃度依存性を示しており、図2はウェットエッチング試験時のエッチング速度のTiO2濃度依存性を示している。なお、図1および図2において、エッチング速度はTiO2濃度0wt%の石英ガラスのエッチング速度を1とした相対エッチング速度として示している。
図1および図2から明らかなように、エッチング速度のばらつきを±5%以内に抑え、エッチングにより形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法のばらつきを±5%以内に抑えるためには、TiO2濃度分布を±1wt%以内、好ましくは±0.5wt%以内にする必要があることが確認できた。
【0040】
(実施例2)
本実施例では、ハロゲン元素を含有するTiO2含有石英ガラス基板におけるハロゲン濃度とエッチング速度との関係を調べるために、異なる濃度のフッ素を含有するTiO2含有石英ガラスブロック(フッ素濃度0ppm〜15000ppm、TiO2濃度7%)を作成し、同TiO2含有石英ガラスブロックの中央からサンプルを切り出し、フッ化水素酸(39wt%,室温)を用いてウェットエッチング試験を実施し、実施例1と同様の手順でエッチング速度のハロゲン濃度依存性を調べた。結果を図3に示した。なお、図3において、エッチング速度はフッ素濃度0ppmの石英ガラスのエッチング速度を1とした相対エッチング速度として示している。なお、異なる濃度のフッ素を含有するTiO2含有石英ガラスブロックは、上記した工程(a)〜(d)の手順にしたがってTiO2含有石英ガラスを作成する際に、工程(a)で得られた多孔質TiO2−SiO2ガラス体を、SiF4/O2=10/90vol%のフッ素含有雰囲気下で室温〜1200℃の温度にて2時間保持して、フッ素元素を含有する多孔質TiO2−SiO2ガラス体とすることにより得た。また、フッ素濃度0%のTiO2含有石英ガラスブロックは実施例1で作成したものを使用した。
図3から明らかなように、エッチング速度のばらつきを±5%以内に抑え、エッチングにより形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法のばらつきを±5%以内に抑えるためには、ハロゲン濃度分布(フッ素濃度分布)を±2000ppm以内に抑える必要があることが確認できた。
【0041】
(実施例3)
本実施例では、TiO2含有石英ガラス基板の仮想温度とエッチング速度との関係を調べるために、上記した工程(a)〜(d)の手順にしたがってTiO2含有石英ガラスを作成する際に、工程(d)での保持温度を変えることにより、異なる仮想温度を有するTiO2含有石英ガラスブロック(仮想温度1000〜1300℃、TiO2濃度7%)を準備し、同TiO2含有石英ガラスブロックの中央からサンプルを切り出し、フッ化水素酸(39wt%,室温)を用いてウェットエッチング試験を実施し、実施例1と同様の手順でエッチング速度の仮想温度依存性を調べた。結果を図4に示す。なお、図4において、エッチング速度は仮想温度1000℃の石英ガラスのエッチング速度を1とした相対エッチング速度として示している。
図4から明らかなように、エッチング速度のばらつきを±5%以内に抑え、エッチングにより形成される転写パターン(凹凸パターン)の寸法のばらつきを±5%以内に抑えるためには、仮想温度分布を±100℃以内に抑える必要があることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として用いられるTiO2含有石英ガラス基板であって、
15〜35℃における熱膨張係数が±200ppb/℃以内であり、
TiO2濃度が4〜9wt%であり、
転写パターンを形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域におけるTiO2濃度分布が、±1wt%以内であることを特徴とするTiO2含有石英ガラス基板。
【請求項2】
熱サイクルナノインプリントリソグラフィ用モールド基材として用いられるTiO2含有石英ガラス基板であって、
15〜200℃における熱膨張係数が±200ppb/℃以内であり、
TiO2濃度が6〜9wt%であり、
転写パターンを形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域におけるTiO2濃度分布が、±1wt%以内であることを特徴とするTiO2含有石英ガラス基板。
【請求項3】
転写パターンを形成する側の基板表面における仮想温度分布が±100℃以内であることを特徴とする請求項1または2に記載のTiO2含有石英ガラス基板。
【請求項4】
前記転写パターンを形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域における仮想温度分布が±100℃以内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のTiO2含有石英ガラス基板。
【請求項5】
ハロゲン濃度が2000ppm以上であり、かつ転写パターンを形成する側の基板表面におけるハロゲン濃度分布が±2000ppm以内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のTiO2含有石英ガラス基板。
【請求項6】
前記転写パターンを形成する側の基板表面から深さ50μmまでの表面近傍領域におけるハロゲン濃度分布が±2000ppm以内であることを特徴とする請求項5に記載のTiO2含有石英ガラス基板。
【請求項7】
ハロゲン元素が塩素またはフッ素である請求項5または6に記載のTiO2含有石英ガラス基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−214382(P2012−214382A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−170012(P2012−170012)
【出願日】平成24年7月31日(2012.7.31)
【分割の表示】特願2009−532178(P2009−532178)の分割
【原出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】