説明

UOE鋼管の縦シーム溶接継手

【課題】UOE鋼管の縦シーム溶接継手において、その溶接継手部の積層構造から高品質化、高性能化を図るとともに、溶接施工も効率的で、経済性にも優れた、縦シーム溶接継手を提案する。
【解決手段】開先加工を施した鋼板の両端部を、突き合わせてシーム溶接にて接合したUOEの縦シーム溶接継手である。上記開先をX開先とし、その板厚中央部の開先ルートフェイス部5を深溶込み溶接で接合すると共に、板厚方向両側の開先部分3,4をそれぞれ仕上げ溶接で接合することで、断面形状が3層の積層構造を有する溶接継手とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UOE鋼管の縦シーム溶接継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、UOE鋼管は、鋼板の両端部をX開先に開先加工した後、U型プレス成形さらにO型プレス成形を経てオープンパイプ状とし、その突合せ部(シーム部)を溶接して製造される。上記シーム溶接は、通常、先ず開先ルートフェイス部の一部を仮付け溶接した後、まず内面側の開先部分、続いて外面側の開先部分の順に本溶接を行って仕上げられる。ここで、上記仮付け溶接には、主としてMIG溶接やMAG溶接などのガスシールドアーク溶接が用いられ、上記本溶接には、多電極のサブマージアーク溶接が主として用いられている。
【0003】
このようなUOE鋼管のシーム溶接継手の構造は、図2に示すように、仮付け溶接部2が、本溶接(仕上げ溶接)である内外側のシーム溶接部3,4に吸収されてなる両面1層構造が基本となっている。すなわち、内面側からの仕上げ溶接によって内面シーム溶接部3が仮付け溶接部2と一部の溶込みが重なるように溶接した後に、外面側からの仕上げ溶接によって外面シーム溶接部4が仮付け溶接部2の全部と溶込み部が重なるように溶接することで、開先ルートフェイス部5で、内面シーム溶接部3の溶込み部と外面シーム溶接部4の溶込み部とがオーバラップするように、板厚方向両側から本溶接が行われて1層構造となっている(特許文献1の図2や特許文献2の図1などを参照のこと。)。これは、仮付け溶接がその目的から高能率化を指向する傾向が強く、仮付け溶接部2では溶接欠陥が発生しやすく特性も不十分であるため、仮付け溶接部2は、次工程の本溶接のシーム溶接部3,4によって完全に溶融させて消し去ることを前提としているためである。
【0004】
一方、近年では、原油・天然ガスの長距離輸送用ラインパイプは、(1)高圧化による輸送効率の向上、および(2)ラインパイプの薄肉化や重量低減による現地施工能率を向上することを目的に、高強度化する傾向にあり、X100やX120グレードといった超高強度ラインパイプ用UOE鋼管の開発が進められている。
このような超高強度ラインパイプ用UOE鋼管では、縦シーム溶接部の溶接金属および熱影響部(HAZ)において要求靭性を確保することや、溶接金属の低温割れ(特に、横割れ)の発生を抑制することが大きな課題となっている。
【0005】
これに対し従来にあっては、例えば特許文献1には、高強度で安定した低温靭性を有するための縦シーム溶接金属の組成および組織が提案されている。また、特許文献2には、内面溶接金属表面での最高到達温度を、成分組成で決まるAc1変態点の0.6倍以上となるように外面シーム溶接を行うことで横割れを防止する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2005−2729O0号公報
【特許文献2】特開2005−262253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献の提案は、最適合金設計といった材料面からのアプローチや、従来溶接方法の施工条件を適正化したものであって、対象となるUOE鋼管の縦シーム溶接継手の積層構造や溶接方法を抜本的に見直したものではない。
本発明は、このような点に着目したものであって、UOE鋼管の縦シーム溶接継手において、その溶接継手部の高品質化、高性能化を図るとともに、溶接施工も効率的で、経済性にも優れた、UOE鋼管の縦シーム溶接継手を提案することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、幅方向両端部に開先加工を施した鋼板を幅方向に湾曲させてオープンパイプ状に形成し、その突合せ部を溶接することで製造するUOE鋼管の縦シーム溶接継手であって、
上記突合せ部の開先形状をX開先とし、その板厚中央部の開先ルートフェイス部を深溶込み溶接により1パスで溶接した後、残りの板厚方向両側の開先部分をそれぞれ1パスで仕上げ溶接した、断面形状が3層の積層構造を有することを特徴とするものである。
【0008】
この縦シーム溶接継手は、板厚10mm〜30mmのUOE鋼管が好適な対象となる。
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記開先ルートフェイス部の深溶込み溶接は、少なくともレーザ溶接によって行われることを特徴とするものである。
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1または請求項2に記載した構成に対し、板厚方向両側の開先部分の仕上げ溶接に、多電極サブマージアーク溶接を適用することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、UOE鋼管の縦シーム溶接継手を、板厚中央部の開先ルートフェイス部が1パスの深溶込み溶接、さらに残る板厚方向両側(内面側および外面側)に位置する各開先部分がそれぞれ1パスの仕上げ溶接とした3層積層構造とすることができて、内面シーム溶接部と外面シーム溶接部の溶込み部同士をオーバラップさせる必要が無くなる。この結果、全体的な溶接入熱の低減が可能となり、HAZ靭性の劣化やHAZ軟化が抑制され、溶接継手の高性能化が達成できる。また、熱歪が小さく、溶接材料の使用量も軽減できるので、UOE鋼管の製造コスト低減メリットも得ることができる。
【0010】
すなわち、溶接工程は3回で従来と同じであるにも拘わらず、全体的な溶接入熱が低減でき、溶接継手の性能も向上できる。
このとき、請求項2を適用すると、開先ルートフェイス部の深溶込み溶接が可能であると共に、開先ルートフェイス部の溶接速度に優れて、生産性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1は、本実施形態における縦シーム溶接継手の断面概要図である。
まず、鋼板1の両端部1aをX開先に開先加工しておく。ここで、符号5は、板厚方向中央部に形成されている開先ルートフェイス部であり、符号10は内面側の開先部分、符号11は外面側の開先部分をそれぞれ示している。その後、U型プレス成形さらにO型プレス成形を経てオープンパイプ状として鋼板1の幅方向両端部1aを対向配置させ、その突合せ部(シーム部)を溶接する。
【0012】
このシーム溶接は、まず、板厚中央部の開先ルートフェイス部5を、1パスの深溶込み溶接によって本溶接する。符号6がその深溶込み溶接部である。次に、内面側の開先部分10を仕上げ溶接する。続いて、外面側の開先部分11を仕上げ溶接する。このとき、内面側の仕上げ溶接による内面シーム溶接部3の溶込み部分と外面側の仕上げ溶接による外面シーム溶接部4の溶込み部分とをオーバラップさせない。もっとも、深溶込み溶接部6の一部と、内面シーム溶接部3および外面シーム溶接部4とはそれぞれ溶込み部をオーバラップさせる。
【0013】
ここで、開先ルートフェイス部5の深溶込み溶接としては、レーザ溶接、電子ビーム溶接、プラズマ溶接などの適用が考えられる。これらのうち、レーザ溶接が好適である。すなわち、電子ビーム溶接は、最も深く深溶込みとすることができるが、大気中で用いることができないという難点がある。また、プラズマ溶接は、他の溶接方法に比べると溶接速度が劣る。UOE鋼管のような大量造管ラインを考えると、大気中で溶接でき、さらに最近では大出力でもビーム品質に優れたレーザも開発が進んでいることから、レーザ溶接を適用することが好適である。
【0014】
また、鋼管内面および外面にあたる開先部分10、11の仕上げ溶接(本溶接)には、例えば、多電極サブマージアーク溶接を適用することができる。本実施形態においては、内面および外面の開先部分10、11の仕上げ溶接による溶込み部同士をオーバラップさせない3層構造とするので、その分、仕上げ溶接によるシーム溶接部3,4の開先断面積が小さくできる。このため、現行のUOE鋼管の縦シーム溶接ラインにおいて多用されている多電極サブマージアーク溶接を用いても、溶接継手の健全性に対して何ら問題がない。このため、技術が確立し、信頼性も高い、従来からの多電極サブマージアーク溶接を適用している。
【0015】
(作用効果)
次に、本実施形態の詳細について説明する。
上述の従来例のように、これまでのUOE鋼管の縦シーム溶接継手におけるHAZ靭性やHAZ軟化といった特性改善に関する検討は、成分組成の最適化など材料面でのアプローチが主流であった。しかし、より高強度化が進むにつれて、これまでの手法の延長線では対応することが不可能な状況となってきている。そこで、本発明者らは、溶接継手あるいは溶接方法といった加工技術面でのアプローチを試みて本願発明を成した。
【0016】
一般に、高強度鋼の溶接継手性能を向上するには、溶接入熱を低減して、いわゆる小入熱の多層盛り溶接を行うことが有効である。しかし、UOE鋼管の縦シーム溶接では、このような多層盛り溶接の適用は、溶接回数が多くなることで造管速度そのものを低下させる原因となり、製造コストの上昇を招いてしまう。
本実施形態では、この点を考慮し、従来の「仮付け溶接」→「内面シーム溶接」→「外面シーム溶接」に準じた、3回の溶接工程の回数を維持したままで、従来構成よりも溶接入熱を低減したものである。このように、溶接工程が3回で済むことで、溶接継手に係る工数が抑えられる。また、本実施形態では、図1に示すように、板厚中央部の開先ルートフェイス部5を1パスの深溶込み溶接で溶接し、その後、鋼管内面および外面にあたる開先部分10、11をそれぞれ1パスの仕上げ溶接で溶接することで、溶接回数は3回のままとしながら、溶接入熱の低減を図ることができる。
【0017】
すなわち、本実施形態では、従来「仮付け溶接」としていた初段溶接工程を省略して、開先ルートフェイス部5を深溶込み溶接によってそのまま本溶接部分として残すことで、内面側および外面側からの仕上げ溶接によるシーム溶接部3,4の溶込み部をオーバラップさせる必要がないので、当該内面および外面の開先形状が小さくでき、その結果、内面側および外面側からの仕上げ溶接を、それぞれ従来よりも低入熱の1パス溶接で仕上げることが可能となる。これによって、溶接継手の積層構造は、従来の両面1層とは異なり3層構造となる。
【0018】
ここで、上記実施形態では、開先ルートフェイス部5をレーザ溶接単独で深溶込み溶接を行う場合を例示しているが、これに限定されない。レーザ溶接とアーク溶接を組み合わせたレーザハイブリッド溶接であっても良い。レーザハイブリッド溶接では、制御すべき条件因子は多くなるものの、レーザ溶接単独の場合に比べて溶接線に対する狙い精度を緩和することができるため、確実に開先ルートフェイス部5を深溶込み溶接させるには有効である。
【実施例】
【0019】
次に、本発明の実施例について説明する。
板厚12.7mm若しくは板厚25.4mmのAPI規格X80グレードのUOE鋼管を製造する際の縦シーム溶接について、本発明法と従来法の溶接継手を比較検討した。
表1に、本発明による発明例、および従来法による比較例の溶接条件とその結果を示す。
【0020】
【表1】

【0021】
発明例l〜3は、仮付け溶接を省略して、先ず開先ルートフェイス部5をレーザ溶接による深溶込み溶接によって本溶接を行い、続いて内面シーム溶接および外面シーム溶接を行って内面シーム溶接部3および外面シーム溶接4を形成した場合である。レーザ溶接には、従来のレーザよりもエネルギー密度が高くビーム品質にも優れているファイバーレーザを用い、加工点での最大出力は5kWとした。この場合、レーザ溶接速度は3.5m/min以上とすることで、元の開先ルートフェイス寸法に匹敵する溶込み深さを得ることができる。
【0022】
発明例4は、発明例1〜3と同じく仮付け溶接を省略して、開先ルートフェイス部5を、レーザ溶接の代わりに、プラズマ溶接によって本溶接を行ったものである。
比較例5および6は、従来法によるもので、仮付け溶接を行った後、次工程の内面シームおよび外面シーム溶接でこの仮付け溶接部を完全に溶融させるようにしたものである。
発明例1〜4では、仕上げ溶接となる内面シーム溶接および外面シーム溶接の開先断面積を小さくすることができ、これらの溶接入熱は、同じ板厚の従来法の比較例5および6に比べて、約7〜8割低減している。また、発明例の継手マクロ形状は、板厚中央部に開先ルートフェイス部5の1パス深溶込み溶接、鋼管内面および外面にそれぞれ1パス仕上げ溶接の3層の積層構造となっている。
【0023】
一方、比較例5および6は、継手マクロ形状は両面1層構造となっており、このような積層構造からも溶接入熱は必然的に本発明法に比べると大きくなってしまう。
以上のように、本発明例では、従来の仮付け溶接工程を用いた方法と比べて、仕上げ溶接にあたる内面シーム溶接および外面シーム溶接の溶込みが小さく済むため、溶接入熱は約7〜8割低減することができた。
【0024】
ここで、発明例4のようなプラズマ溶接の場合も深溶込みが得られ、仕上げシーム溶接時の溶接入熱を低減することができる。しかしながら、健全な深溶込みを得るためには、溶接速度を0.5m/minと非常に遅くしなければならず、レーザ溶接に比べると劣っている。
このように、板厚中央部の開先ルートフェイス部5を1パスの深溶込み溶接、さらに残る鋼管内面および外面に相当する開先部分をそれぞれ1パスの仕上げ溶接とした3層構造の溶接継手とすることで、全体的な溶接入熱が低減し、HAZ靭性の劣化やHAZ軟化が抑制されるとともに、溶接施工の高効率化も図れるので、低コストで高性能・高強度UOE鋼管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明におけるUOE鋼管のシーム溶接継手の断面概略図
【図2】従来のUOE鋼管のシーム溶接継手の断面概略図
【符号の説明】
【0026】
1 鋼管を構成する鋼板
1a 端部
2 仮付け溶接部
3 内面シーム溶接部
4 外面シーム溶接部
5 開先ルートフェイス部
6 開先ルートフェイス部の深溶込み溶接部
10 内面側の開先部分
11 外面側の開先部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向両端部に開先加工を施した鋼板を幅方向に湾曲させてオープンパイプ状に形成し、その突合せ部を溶接することで製造するUOE鋼管の縦シーム溶接継手であって、
上記突合せ部の開先形状をX開先とし、その板厚中央部の開先ルートフェイス部を深溶込み溶接により1パスで溶接した後、残りの板厚方向両側の開先部分をそれぞれ1パスで仕上げ溶接した、断面形状が3層の積層構造を有することを特徴とするUOE鋼管の縦シーム溶接継手。
【請求項2】
上記開先ルートフェイス部の深溶込み溶接は、少なくともレーザ溶接によって行われることを特徴とする請求項1に記載したUOE鋼管の縦シーム溶接継手。
【請求項3】
板厚方向両側の開先部分の仕上げ溶接に、多電極サブマージアーク溶接を適用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載したUOE鋼管の縦シーム溶接継手。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−43974(P2008−43974A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221430(P2006−221430)
【出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】