説明

VGSタイプターボチャージャの可変翼

【課題】 更なる将来への改良を目指すべく、前記可変翼の案内方向をより積極的に好適化できる可変翼の形状を提案することを技術課題としたものある。
【解決手段】 本発明のVGSタイプターボチャージャCの可変翼1は、低速回転時であってもエンジンが高出力を発揮できるようにしたVGSタイプターボチャージャCの排気ガイドアッセンブリASに組み込まれる可変翼1であって、この可変翼1は、翼部11と軸部12とを具え、軸部12の実質中心線である軸基準線に対し、翼部の実質中心面である翼基準面とが非平行状態に構成されていることを特徴として成るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エンジン等に用いられるVGSタイプターボチャージャ〔VGSはVariable Geometry Systemの略〕において、タービンに送り込む排気ガスの流量を調整する可変翼に関するものであって、特に排気ガスの流れ方向を更に多様に案内することができる、新規な可変翼に係るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンの高出力化、高性能化の一手段として用いられる過給機として、ターボチャージャが知られている。このものはエンジンの排気エネルギによってタービンを駆動し、このタービンの出力によってコンプレッサを回転させ、エンジンに自然吸気以上の過給状態をもたらす装置である。このターボチャージャは、エンジンが低速回転しているときには、排気流量の低下によりタービンロータがほとんど働かず、従って高回転域まで回るエンジンにあってはタービンが効率的に回るまでのもたつき感と、その後の一挙に吹き上がるまでの所要時間いわゆるターボラグ等が生ずることを免れないものであった。また、もともとエンジンの回転数が低いディーゼルエンジンでは、ターボ効果を得にくいという欠点があった。
【0003】
このため低回転域からでも効率的に作動するVGSタイプのターボチャージャ(VGSユニット)が開発されてきている。このものは、少ない排気流量を可変翼(羽)で適宜絞り込み、排気の速度を増し、タービンロータの仕事量を大きくすることで、低速回転時でも高出力を発揮できるようにしたものである。このためVGSユニットにあっては、別途可変翼の可変機構等に関し、性能向上や、コスト低減のための改良が、常に求められている。本出願人も、VGSタイプのターボチャージャに関し、鋭意研究や開発を重ね、多くの特許出願に至っている(例えば特許文献1〜8参照)。
【0004】
ところで、このようなVGSタイプユニットの可変翼は、製造コスト、機能、性能を考慮すると、例えばファインブランキングの手法により製造することが一つの有力な手法であって、本出願人もこの手法による製品を好評裏に市場に提供している。
このような製造手法に因み、可変翼の形状自体もその手法に適合した形態をとるものであり、例えば可変翼の面方向の実質中心面である翼基準面を見ると、幾分か湾曲面ではあるもののほぼ二次元平面に近い形状が採られいる。このような形状は目下必要充分な性能を発揮しているが、排気ガスの案内作用に関し、タービンロータのブレードへの案内効果や、排気ガスのリーク防止効果等をも絡ませて考慮すると、更なる改良点を見出され、これが技術課題として認識されるに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−49655号公報
【特許文献2】特開2003−49663号公報
【特許文献3】特開2003−49656号公報
【特許文献4】特開2003−49657号公報
【特許文献5】特開2003−49658号公報
【特許文献6】特開2003−49659号公報
【特許文献7】特開2003−48033号公報
【特許文献8】特開2003−49660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような背景を考慮してなされたものであって、更なる将来への改良を目指すべく、前記可変翼の案内方向をより積極的に好適化できる可変翼の形状を提案することを技術課題としたものある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち請求項1記載のVGSタイプターボチャージャの可変翼は、タービンロータの外周位置に配置された複数の可変翼をレバープレートを介してドライブリングのシフトにより回動させ、エンジンから排出された比較的少ない排気ガスを、この可変翼によって適宜絞り込み、排気ガスの速度を増幅させ、排気ガスのエネルギでタービンロータを回し、タービンロータに直結されたコンプレッサで自然吸気以上の空気をエンジンに送り込み、低速回転時であってもエンジンが高出力を発揮できるようにしたVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリに組み込まれる可変翼であって、この可変翼は、翼部と軸部とを具え、軸部の実質中心線である軸基準線に対し、翼部の実質中心面である翼基準面が非平行状態に構成されていることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項2記載のVGSタイプターボチャージャの可変翼は、前記請求項1記載の要件に加え、前記翼基準面は、ほぼ二次元平面であって、軸部幅方向間の中間部位において軸基準線と交差して両者が非平行状態に構成されていることを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項3記載のVGSタイプターボチャージャの可変翼は、前記請求項1記載の要件に加え、前記翼基準面は、三次元の湾曲面であって、その全ての範囲、または一部の範囲で軸基準線と非平行状態であることを特徴として成るものである。
【発明の効果】
【0010】
これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
すなわち請求項1記載の発明によれば、排気ガスの案内方向をより多様化でき、排気ガスを有効にタービンロータのブレードに導いたり、あるいは排気ガスを、その漏洩を回避する方向に案内することができる。
【0011】
また請求項2記載の発明によれば、翼部そのものの形状は、ほぼ二次元平面で構成することから比較的シンプルな形態となり、製造適性が良い。
【0012】
また請求項3記載の発明によれば、翼部そのものの形状は、三次元曲面で構成することから、更に多様な排気ガスの案内方向を選択しうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の可変翼を組み込んだ排気ガイドアッセンブリの一例を示す分解斜視図、並びにVGSタイプのターボチャージャの一例を示す斜視図(a)、並びに本発明の可変翼が排気ガイドアッセンブリ適用されている状態を示す拡大斜視図(b)である。
【図2】本発明の可変翼を拡大して示す斜視図、並びに一部破断側面図である。
【図3】同上背面図である。
【図4】同上平面図である。
【図5】同上側面図である。
【図6】本発明の可変翼におけるスケルトン要素線を併せ示す斜視図である。
【図7】本発明の可変翼の他の実施例を示す斜視図(a)、及びそのスケルトン(b)である。
【図8】本発明の可変翼における排気ガスの流れを示す背面図である。
【図9】従来の可変翼における排気ガスの流れを示す背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の形態を含むものである。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を図示の実施例に基づいて具体的に説明する。
なお、説明にあたっては、本発明に係る可変翼が適用されている可変機構を組み込んだVGSタイプのターボチャージャCにおける排気ガイドアッセンブリASについて概略的に説明しながら、可変翼1の具体的な態様について説明する。
【0016】
排気ガイドアッセンブリASは、特にエンジンの低速回転時において排気ガスGを適宜絞り込んで排気流量を調節するものであり、一例として図1に示すように、タービンロータTの外周に設けられ実質的に排気流量を設定する複数の可変翼1と、可変翼1を回動自在に保持するフレーム基材2と、排気ガスGの流量を適宜設定すべく可変翼1を一定角度回動させる可変機構3とを具えて成るものである。以下、各構成部について説明する。
【0017】
まず本発明に係る可変翼1について説明する。このものは一例として図1に示すように、タービンロータTの外周に沿って円環状に複数(一基の排気ガイドアッセンブリASに対して概ね10〜15個程度)配設され、そのそれぞれが、ほぼ均等に且つ一斉に回動して排気流量を調節する。また可変翼1は、図2〜6に示すように翼部11と、軸部12とを具えて成り、以下、これらについて説明する。
【0018】
本発明に係る可変翼1における翼部11は、主にタービンロータTの幅寸法に応じた幅を有するように形成されるものであり、その幅方向における断面が翼形に形成され、排気ガスGが効果的にタービンロータTに向かうように構成されている。
更にまた、翼部11には、軸部12との境界部(接続部)に、軸部12より幾分大径の鍔部13が形成される。なお鍔部13の側面(座面)は、翼部11の端面と、ほぼ同一平面上に形成され、この平面が可変翼1をフレーム基材2に挿入した際の座面となり、タービンロータTにおける幅方向の位置規制を図る作用を担っている。
【0019】
一方、軸部12は、翼部11と一体的に連続形成されるものであり、翼部11を動かす際の回動軸となる。そして、この軸部12の先端には、可変翼1の取付状態の基準となる基準面15が形成される。なお、この基準面15は、後述する可変機構3に対しカシメ等によって固定される部位であり、一例として図1に示すように、軸部12を対向的に切り欠いた二平面として形成される。
図示した可変翼1は、翼部11の両側に軸部12が形成された、いわゆる両軸タイプないしは両持ちタイプと称されるものである。しかしながら、可変翼1としては、翼部11の一方のみに軸部12が形成された、いわゆる片持ちタイプの可変翼1のものも適用できる。
【0020】
そして、本発明の可変翼1は、軸部12に対し、翼部11が傾いた状態または捻じれたような状態で形成されていることを特徴とする。
このように軸部12と、翼部11とが三次元的に配設されることから、この形態を説明するためにスケルトン要素線を以下のように定義する。まず軸部12の実質的な中心線を軸基準線C2とするものであって、回動軸芯となる一本の線である。また、翼部11は、面状に形成され、且つ湾曲状等、三次元曲面を具えることから、翼部11の厚み方向中心を通るスケルトン要素を次のように表す。すなわち図6に示すように翼部長手方向に添うスケルトン要素線を翼長スケルトン線L1と表し、また翼部幅方向に添うスケルトン要素線を翼幅スケルトン線L2と表す。そして、翼部幅方向中心における翼長スケルトン線L1を特に翼中心線C1とする。またこれら翼長スケルトン線L1と翼幅スケルトン線L2との集合により形成される面、すなわち実質的に翼部11の中心面を翼基準面Fとする。
【0021】
本発明に係る翼部11は、軸部12に対しその軸基準線C2に対して、翼基準面Fが非平行状態になるように形成されている。図1〜6に示す実施例は、翼基準面Fの幅方向のほぼ中心、すなわち翼中心線C1付近で翼基準面Fが軸基準線C2とほぼ交差しながら、翼部11がその幅方向に傾いたような形状を採っている。そしてこの実施例においては、翼基準面Fはほぼ二次元平面を構成している。
【0022】
このような翼基準面Fが軸基準線C2に対し、非平行状態である態様は、種々採り得るものであり、例えば図7に示す実施例にあっては、翼基準面F自体が三次元曲面として構成されている。この実施例では、翼基準面Fを構成するために集合している翼幅スケルトン線L2のうち、軸基準線C2に合致する部位では一例として両者は平行ないしは同一線上にあるが、翼部11の前後において翼幅スケルトン線L2は、軸基準線C2とは非平行状態となり、いわば捻じれたような翼基準面Fを構成しているものである。
なお翼中心線C1に関しては、図6に示す実施例、図7に示す実施例のいずれの場合も、軸基準線C2に対し、上方からの投影形状において直交するような状態のほか、斜めに交差する斜交するような状態が採り得る。
【0023】
本発明に係る可変翼1は、以上述べたような形態を採るものであり、更にこのものが組み込まれるフレーム基材2等について説明する。
このものは、複数の可変翼1を回動自在に保持するフレーム部材として構成されるものであって、一例として図1に示すように、取付側フレーム基材21と対向側フレーム基材22とによって可変翼1(翼部11)を挟み込むように構成される。
取付側フレーム基材21は、中央部分が開口状態に形成され、その周縁部分に可変翼1の軸部12を受け入れる軸受部23が等配されて成るものである。また、この取付側フレーム基材21の外周部には、後述する可変機構3が設けられる。
また対向側フレーム基材22は、一例として図1に示すように中央部分を開口した円板状に形成される。
【0024】
そして、これら取付側フレーム基材21と対向側フレーム基材22とによって挟み込まれた可変翼1を、常に円滑に回動させ得るように、両部材間の寸法が、ほぼ一定(概ね可変翼1の翼幅h程度)に維持されるものであり、一例として軸受部23の外周部分に、四カ所設けられたカシメピン24によって両部材間の寸法が維持される。ここで、このカシメピン24を受け入れるために取付側フレーム基材21及び対向側フレーム基材22に開口形成される孔をピン孔24Pとする。
【0025】
次に、レバープレート5を含む可変機構3について説明する。可変機構3は、排気流量を調節するために可変翼1を適宜回動させるものであり、一例として図1に示すように、排気ガイドアッセンブリAS内において可変翼1の回動を生起するドライブリング31と、この回動を可変翼1に伝達するレバープレート5とを主な構成部材とする。
【0026】
ドライブリング31は、例えば図示したような切り欠き状の駆動係合部33を周面に多数具えるものであり、ここに前記レバープレート5が係合してドライブリング31の回転が、レバープレート5の回動動作になるようにシフトするものである。なおドライブリング31は、その一部においてアクチュエータACからの駆動を受け入れるU字状の切り込みとした入力部36を有する。そしてこのことから、理解されるようにこのレバープレート5は、ドライブリング31と可変翼11の軸部12との間に介在して、可変翼11の回動を行うものである。
【0027】
本発明に係る可変翼11は、以上述べたような形状を有するものであり、このものが排気ガイドアッセンブリASに組み付けられた際には、次のような作用を行う。
【0028】
基本的な動作は、前記可変機構3により可変翼1の先端が開閉し、排気ガイドアッセンブリASのフレーム基材2への排ガスGの流路開口面積を設定するものである。このとき可変翼1の翼部11が、軸部12の回動方向に対して、いわば捻じれた状態ないしは傾いた状態に設定されていることから、図8に示すようにこれにより可変翼1に流入してくる排気ガスGの案内方向が積極的に設定されてくる。このことは、例えば図9に示す従来型では可変翼101における可変機構側への軸部112に側での排ガスG漏洩が従来不可避であったが、本発明では図8に示すように漏洩方向に排気ガスGの流れが向わないように積極的に案内することができる。これにより、ここからの排気ガスGの漏洩が防止される。
また更に、このような排気ガスGの案内作用は、タービンロータTのブレートに対する排気ガスGの導入方向についてもより自然な方向に設定でき、タービンロータTの駆動効率も更に向上させることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 可変翼
2 フレーム基材
3 可変機構
5 レバープレート
11 翼部
12 軸部
13 鍔部
15 基準面
2 フレーム基材
21 取付側フレーム基材
22 対向側フレーム基材
23 軸受部
24 カシメピン
24P ピン孔
3 可変機構
31 ドライブリング
33 駆動部
36 入力部
101 可変翼
112 軸部
AC アクチュエータ
AS 排気ガイドアッセンブリ
C ターボチャージャ
C1 翼中心線
C2 軸基準線
F 翼基準面
G 排気ガス
L1 翼長スケルトン線
L2 翼幅スケルトン線
T タービンロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンロータの外周位置に配置された複数の可変翼をレバープレートを介してドライブリングのシフトにより回動させ、
エンジンから排出された比較的少ない排気ガスを、この可変翼によって適宜絞り込み、排気ガスの速度を増幅させ、排気ガスのエネルギでタービンロータを回し、タービンロータに直結されたコンプレッサで自然吸気以上の空気をエンジンに送り込み、低速回転時であってもエンジンが高出力を発揮できるようにしたVGSタイプターボチャージャの排気ガイドアッセンブリに組み込まれる可変翼であって、
この可変翼は、翼部と軸部とを具え、軸部の実質中心線である軸基準線に対し、翼部の実質中心面である翼基準面とが非平行状態に構成されていることを特徴とするVGSタイプターボチャージャの可変翼。
【請求項2】
前記翼基準面は、ほぼ二次元平面であって、軸部幅方向間の中間部位において軸基準線と交差して両者が非平行状態に構成されていることを特徴とする請求項1記載のVGSタイプターボチャージャの可変翼。
【請求項3】
前記翼基準面は、三次元の湾曲面であって、その全ての範囲、または一部の範囲で軸基準線と非平行状態であることを特徴とする請求項1記載のVGSタイプターボチャージャの可変翼。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−216283(P2010−216283A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61406(P2009−61406)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(593146110)株式会社アキタファインブランキング (15)
【Fターム(参考)】