説明

W/O/W型エマルション組成物

【課題】内水相が短時間(数秒〜30分以内)に膨潤し、膨潤した状態であっても長期間安定なW/O/W型エマルション組成物を提供する。
【解決手段】1000mPa・s以上の粘度を有するW/O/W型エマルション組成物であって、1重量%水溶液における浸透圧が200mOsm以下である浸透圧剤(ポリアスパラギン酸塩、ポリグルタミン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、還元デンプン加水分解物及び三〜六糖類等)を含有し、かつ、内水相の浸透圧より低い浸透圧の液体が添加されることによって該組成物の粘度が上昇することを特徴とする粘度変化型のW/O/W型エマルション組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度変化型のW/O/W型エマルション組成物に関し、特に、外水相に内水相より浸透圧の低い液体を添加することによってエマルション粒子が膨脹し粘度の上昇するW/O/W型エマルション組成物、塩類などを添加することによってエマルション粒子が収縮し、粘度の低下するW/O/W型エマルション組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
W/O/W型エマルションは、水性成分中に油中水型エマルションを含む複合エマルションである。このエマルション組成物は、W/O/W型エマルションの内水相中に様々な有用成分を内包させることにより、徐放性や酸化防止などの効果をもつ機能性エマルションとして利用が可能であり、医薬、化粧品、食品などとして非常に有用である。
【0003】
W/O/W型エマルションが安定している状態では、通常、内水相の浸透圧と外水相の浸透圧とが平衡を保っている。前述のように、エマルションの用途に応じ、内水相には各種成分を含有させることが試みられている。しかし、浸透圧剤として塩化ナトリウム、グルコース、多価アルコールなどを含有した場合、内水相の浸透圧が上昇し、外水相の浸透圧より高くなると、外水相の水が内水相に移動して膨潤し、内水相の破裂などによってエマルションが不安定となることが知られている(特許文献1,特許文献2及び特許文献3参照)。
【特許文献1】特開昭60−166604号公報
【特許文献2】特開昭60−193529号公報
【特許文献3】特開平8−501488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、粘度変化型のW/O/W型エマルション組成物に関し、さらに詳しくは内水相が短時間(数秒〜30分以内)に膨潤し、膨潤した状態であっても長期間安定なW/O/W型エマルション組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記従来技術の問題点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、内水相に1重量%水溶液の浸透圧が200mOsm以下であるポリアスパラギン酸塩、ポリグルタミン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、還元デンプン加水分解物及び三〜六糖類等の浸透圧剤を含有させることによって、安定なW/O/W型エマルション組成物が得られることを見出した。また、通常、エマルション組成物に水などを添加すると希釈されて粘度が低下するが、本発明者は、このエマルション組成物に内水相の浸透圧より低浸透圧の液体を添加すると、瞬間的に粘度が低下し液状組成物になるものの、短時間で内水相が膨潤して粘度が上昇し、高粘度のエマルション組成物(例えば、乳液状、クリーム状)に変化すること、該高粘度のエマルション組成物に塩類を添加すると内水相が収縮し、低粘度のエマルション組成物(例えば液状)に変化することを見出した。本発明はこれら知見に基づき完成されたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、下記のW/O/W型エマルション組成物を提供するものである。
項1.1000mPa・s以上の粘度を有するW/O/W型エマルション組成物であって、1重量%水溶液における浸透圧が200mOsm以下である浸透圧剤を含有し、かつ、内水相の浸透圧より低い浸透圧の液体が添加されることによって該組成物の粘度が上昇することを特徴とする粘度変化型のW/O/W型エマルション組成物。
項2.1000mPa・s以上の粘度を有するW/O/W型エマルション組成物であって、1重量%水溶液における浸透圧が200mOsm以下である浸透圧剤を含有し、かつ、該組成物に1重量%の塩化ナトリウムが加えられることによって、該組成物の粘度が500mPa・s以下に低下することを特徴とする粘度変化型のW/O/W型エマルション組成物。
項3.浸透圧剤がポリアスパラギン酸塩、ポリグルタミン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、三〜六糖類及び還元デンプン加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種である項1又は2に記載のW/O/W型エマルション。
項4.浸透圧剤が三〜六糖類からなる群から選択される少なくとも1種の糖である項1〜3のいずれかに記載のW/O/W型エマルション。
項5.浸透圧剤がグルコシルトレハロース、マルトシルトレハロース及びマルトトリオシルトレハロースからなる群から選択される少なくとも1種のトレハロースである項1〜4いずれかに記載のW/O/W型エマルション。
項6.浸透圧剤がポリアスパラギン酸塩である項1〜3のいずれかに記載のW/O/W型エマルション。
【0007】
1.浸透圧剤
浸透圧剤は、浸透圧を調節するものであり、浸透圧剤の1重量%水溶液を調製した時、その1重量%水溶液の浸透圧が200mOsm以下、好ましくは2〜100mOsm(Osmometerによる測定)となるものである。したがって、塩化ナトリウム(1重量%水溶液の浸透圧は約330mOsm)は本発明における浸透圧剤に包含されない。
【0008】
本発明における浸透圧剤は、例えば、ポリアミノ酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、三〜六糖類、還元デンプン加水分解物などが挙げられ1種単独で又は2種以上併用して使用することができる。ポリアミノ酸塩としてはポリアスパラギン酸塩、ポリグルタミン酸塩などが例示される。上記の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが挙げられ、好ましくはナトリウム塩である。ポリアスパラギン酸塩の重量平均分子量は、通常300〜10000程度、好ましくは2000〜7000程度、より好ましくは3000〜5000程度である。ポリアクリル酸塩の重量平均分子量は、好ましくは300〜500万程度、より好ましくは1000〜100万程度である。
【0009】
三〜六糖類の構成糖は、特に制限されないが、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、ラムノース、グルコサミン、ガラクトサミン、フコース、アラビノース、リボース、2−デオキシリボース、ソルボースなどが挙げられ、1種単独で又は2種以上併用されていても良い。好ましい構成糖は、グルコースである。構成糖の数は3〜6であるが、好ましくは4又は5である。三糖類としては、グルコシルトレハロース、セロトリオース、カコトリオース、ゲンチアノース、イソマルトトリオース、イソパノース、マルトトリオース、マンニノトリオース、メレンジトース、パノース、プランテオース、ラフィノース、ソラトリオース、ウンベリフェロースなどが挙げられる。四糖類としては、マルトシルトレハロース、マルトテトラオース、スタキオースなどが挙げられる。五糖類としては、マルトトリオシルトレハロース、マルトペンタオース、ベルバスコースなどが挙げられる。六糖類としてはマルトヘキサオースなどが挙げられる。好ましい糖類は、グルコシルトレハロース、マルトシルトレハロース、マルトトリオシルトレハロースである。還元デンプン加水分解物は例えば、甘藷、馬鈴薯、トウモロコシ、タピオカ、小麦などから得られるデンプンを加水分解した後、水素添加して得られるものであり、マルトトリイトール、マルトテトライトール、マルトペンタイトール、マルトヘキサトリイトールなどが挙げられる。一般的に上記の糖類及び還元デンプン加水分解物は混合物として市販されており、例えばグルコシルトレハロース、マルトシルトレハロース、マルトトリオシルトレハロースを多く含むものとしてTornare(林原研究所製)が使用でき、還元デンプン加水分解物の混合物としてはエスイーシリーズ(日研化成製)が使用できる。
【0010】
2.油相
本発明のW/O/W型エマルション組成物を構成する油相の成分は常温で液状であれば特に限定されず、公知の液状の油相成分を使用することができる。例えば、流動パラフィン、スクワランなどの炭化水素類;オクタン酸セチル、イソオクタン酸セチル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソトリデシル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、イソステアリン酸イソステアリル、オレイン酸エチル、オレイン酸エステル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、2-エチルヘキサン酸エステル、テトライソステアリン酸エステル等のエステル油類;オリーブ油などのトリグリセリド類;イソステアリルアルコールなどの高級アルコール類;環状シリコーン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンなどのシリコーン類などが挙げられる。これらのうちエステル油類が好ましく、イソノナン酸エステル、2-エチルヘキサン酸エステル、イソステアリン酸エステル、テトライソステアリン酸エステル、オレイン酸エステルなどの不飽和又は分岐の液状脂肪酸エステルがさらに好ましく、特にイソステアリン酸イソステアリル、オレイン酸エチルがより好ましい。
【0011】
さらに、油相成分としては界面活性剤が必須であり、例えば、ポリグリセリン縮合脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、親油性ポリオキシエチレン硬化ひまし油、親油性ポリオキシエチレンひまし油、親油性ポリオキシエチレン硬化ひまし油脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、親油性ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、親油性ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジポリヒドロキシ脂肪酸エステルなどが挙げられる。好ましい界面活性剤はポリグリセリン縮合脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールジポリヒドロキシ脂肪酸エステルである。
【0012】
また、これらの液状油相成分に、油脂、ワックス類、油溶性薬効剤、香料、顔料、防腐剤、酸化防止剤、油ゲル化剤などを含ませることもできる。油脂としては、シア脂などのトリグリセリド類、ワックスとしてはミツロウ、パラフィンワックスなど、油溶性薬効剤としては、ビタミンA、ビタミンE、酢酸トコフェロール、油溶性甘草エキス、アスコルビン酸のパルミチン酸エステルなど、防腐剤としてはパラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、フェノキシエタノールなど、酸化防止剤としてはジブチルヒドロキシトルエンなど、油ゲル化剤としてはパルミチン酸デキストリンなどが例示できる。
【0013】
本発明のエマルション組成物における油相の量は、組成物全量に対して0.1〜25重量%、好ましくは2〜10重量%である。
【0014】
3.内水相
本発明のW/O/W型エマルション組成物の内水相は、油相とともに一次W/Oエマルションを形成する。内水相は、必須である水以外に、グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどの多価アルコール類;1,2−ヘキサンジオールなどのポリオール類;パラベン、フェノキシエタノールなどの防腐剤;塩酸ピリドキシン、ビタミンC、グリチルリチン酸ジカリウム、α−ヒドロキシ酸、植物エキス(ヘチマエキス、センブリエキス、トウキンセンカエキス、ゲンチアナエキス、オウバクエキス、セイヨウノコギリソウエキス、朝鮮ニンジンエキス、コガネバナエキス、ヨモギエキス、シラカバエキスなど)、プラセンタエキス、加水分解タンパク質などの水溶性薬効剤;水溶性コラーゲンなどを含有してよい。
【0015】
内水相は、通常、上記浸透圧剤を1.0〜50重量%、好ましくは1.5〜40重量%含有する。内水相の浸透圧より低い浸透圧の液体がエマルション組成物に添加されることによって内水相が膨潤し、該組成物の粘度が上昇する。また、内水相の浸透圧より高い浸透圧の液体がエマルション組成物に添加されることによって収縮し、該組成物の粘度が下降する。
【0016】
4.外水相
本発明のW/O/W型エマルションの外水相は、内水相と同様の含有物質を有していてよい。外水相の浸透圧が内水相の浸透圧に対して高くない方がエマルション組成物の粘度が適切なものとなりやすく、粘度変化も容易におこる。
具体的には、主成分の水のほかに、一般にO/Wエマルションを形成させるための界面活性剤、さらに高分子増粘剤などが含有されていてもよい。これの代表的な例は、キサンタンガム、グアーガム、寒天などの多糖類;アルギン酸塩;ポリエチレングリコール;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース類;高分子量ポリエチレングリコールモノおよびジ脂肪酸エステル類;ポリアクリル酸塩;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドンなどである。また、たとえばフェノキシエタノール、パラベン類、ソルビン酸などの防腐剤、保存剤、香料、着色料も含有されていてよい。
【0017】
界面活性剤としては、HLB値が9.0以上、好ましくは12.0以上である非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などの界面活性剤などが通常使用される。
【0018】
非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレン(POE)(30)セチルエーテル、POE(20)オレイルエーテル、POE(40)ステアリルエーテル、POE(30)ノニルフェニルエーテル、POE(50)オクチルフェニルエーテル、POE(20)ラウリルエーテル、POE(25)ヘキシルデシルエーテル、POE(25)イソステアリルエーテル、POE(25)オクチルドデシルエーテル、POE(30)ベヘニルエーテル、POE(25)デシルペンタデシルエーテル、POE(25)デシルテトラデシルエーテル、POE(30)コレステリルエーテル、POE(40)グリセリルモノイソステアレート、POE(40)グリセリルモノステアレート、POE(40)ソルビタンモノオレエート、POE(20)ソルビタンモノラウレート、POE(20)ソルビタンモノパルミテート、POE(20)ソルビタンモノイソステアレート、POE(30)フィトステロール、POE(40)ラノリンアルコール、POE(20)POP(4)セチルエーテル、POE(100)硬化ひまし油、デカグリセリルモノラウレート、デカグリセリルモノイソステアレート、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステルなどが挙げられる。
【0019】
アニオン性界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、N−アシルグルタミン酸塩、アルキロイルサルコシン塩、アルキロイルメチル−β−アラニン塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸塩、アルキロイルメチルタウリン塩、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、高級脂肪酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、イセチオネート系界面活性剤、アシル化ポリペプチドなどが挙げられる。
【0020】
カチオン性界面活性剤としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、脂肪酸アミドアミン塩、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、ジココイルエチルヒドロキシエチルアンモニウムサルフェートなどが挙げられる。
【0021】
両性界面活性剤としては、アルキルベタイン型界面活性剤、アミドプロピルベタイン型界面活性剤、イミダゾリニウムベタイン型界面活性剤、スルホベタイン型界面活性剤、ホスホベタイン型界面活性剤などが挙げられる。
【0022】
好ましい界面活性剤は、ポリオキシエチレン(POE)(30)セチルエーテル、POE(20)オレイルエーテル、POE(40)ステアリルエーテル、POE(30)ノニルフェニルエーテル、POE(50)オクチルフェニルエーテル、POE(20)ラウリルエーテル、POE(25)ヘキシルデシルエーテル、POE(25)イソステアリルエーテル、POE(25)オクチルドデシルエーテル、POE(30)ベヘニルエーテル、POE(25)デシルペンタデシルエーテル、POE(25)デシルテトラデシルエーテル、POE(30)コレステリルエーテル、POE(30)フィトステロール、POE(20)POP(4)セチルエーテルである。
【0023】
5.W/O/W型エマルション組成物の製造方法
本発明のW/O/W型エマルション組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、油相となる液体又は流動体を、必要に応じて通常50〜90℃程度に加温しながら、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、高速撹拌機、超音波乳化機などで撹拌しながら内水相成分を混ぜ合わせることにより、一次W/Oエマルションを調製する。油相と内水相との重量比は特に制限されない。好ましくは80:20〜20:80、より好ましくは60:40〜40:60である。
【0024】
一次W/Oエマルションの調製後、これを、外水相成分とともに室温で撹拌してW/O/W型エマルションを調製する。一次W/Oエマルションと外水相の重量比は特に制限されない。好ましくは5:95〜70:30、より好ましくは5:95〜50:50である。つぎに、このエマルションを、たとえば水酸化アルカリ金属、有機酸、有機酸塩等の添加によって所望のpH値に調整してもよい。
【0025】
上記のエマルションの調製における分散では、一般的なプロペラ撹拌機や、特公昭59-39173号公報に開示されているような流体混合装置(ラモンドミキサー)に通過させ分散させる方法などがある。
【0026】
6.W/O/W型エマルション組成物
本発明のW/O/W型エマルション組成物は1000mPa・s以上の粘度を有し、1重量%水溶液における浸透圧が200mOsm以下である浸透圧剤を含有する。本発明のW/O/W型エマルション組成物は内水相の浸透圧より低浸透圧の液体を添加されると短時間で粘度が上昇し、粘度が上昇した状態のW/O/W型エマルションに塩類を添加すると粘度が低下し、液状に変化する性質を有する。
【0027】
本発明のエマルション組成物はその形態が変化する性質を利用し、様々な応用が可能である。例えばクリーム状のエマルション組成物を調製し、これを皮膚化粧料として肌に塗布すると皮膚に存在する塩分等によって内水相が収縮し液状形態に変化するので、肌にみずみずしいしっとり感などを与えることができると同時に形態変化による視覚的な興味を使用者に与えることができる。
【0028】
一方、例えば乳液状のエマルション組成物を調製し、これを皮膚化粧料として使用する際に、水などの浸透圧の低い物質を添加したり、該組成物が適用される部分における水などの浸透圧の低い物質の存在によって、内水相が膨潤しクリーム状形態に変化する。このため、肌に長時間留まり、皮膚化粧料としての効果を持続させることができると同時に形態変化による視覚的な興味を使用者に与えることができる。
【0029】
本発明のエマルション組成物は形態変化する特徴を有するため、使用者に視覚的興味を与えるだけでなく、乳液状で塗布後クリーム状に変化させたり、クリーム状で塗布後液状に変化させることができる。その用途は特に限定されず、従来エマルション組成物が利用されてきた分野で幅広く利用できる。例えば、化粧品、染毛料、食品、医薬品、口腔用組成物、玩具、入浴剤、医薬品、洗浄剤、芳香剤、コンクリート補修材、糊材、接着剤などが挙げられる。また、本発明のエマルションには用途、目的等に応じて様々な基剤、希釈剤、添加剤等を配合することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のW/O/W型エマルションは、様々な製品に配合されることによって、製品に従来と異なる食感、触感、視覚的効果、徐放性、滞留性などの効果を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0032】
実施例1〜5並びに比較例1〜3
表1(表中の成分の単位は重量%)に示した成分を相ごとに混合し内水相成分混合物、油相成分混合物及び外水相成分混合物を調製した。油相成分混合物に内水相成分混合物を投入しながら、ホモジナイザー(TKホモミキサー HV-M、特殊機化工業社製)を用い、7000rpmにて10分間撹拌し、W/O型エマルションを調製した。次に、外水相成分混合物に撹拌しながらW/O型エマルションを添加し、流体混合装置(ラモンドスーパーミキサー、環境科学工業社製)にて分散し、W/O/W型エマルション組成物を調製した。得られたエマルション組成物を以下の内容で評価した。また、評価で用いる「添加溶液」として、表1に示した成分をスターラーにて混合溶解し、各実施例並びに比較例に用いた。
「初期の粘度」
調製1日後の組成物の粘度をBL型粘度計(東京計器製)にて測定した。1000mPa・s以上のものを「適」、1000mPa・s以下のものを「不適」と評価した。
「粘度変化」
各組成物に添加溶液を混合比(重量)が6:4になるように混合したときの粘度をBL型粘度計にて測定し、初期の粘度評価が適であって初期の粘度より上昇したものを「○」、初期の粘度評価が不適であるもの又は初期の粘度評価が適であって初期の粘度より上昇しないものを「×」と評価した。
「安定性」
各組成物をガラス瓶中に密閉して40℃で2ヶ月観察し、下記の基準で評価した。
○:2ヶ月後に初期の状態を保っているもの
△:1ヶ月後に初期の状態を保っているがそれ以降粘度が低下するもの
×:1ヶ月以内に粘度が低下するもの
「総合評価」
粘度変化及び安定性に関する結果について下記のように評価した。
◎:両方の評価が○であるもの
○:粘度変化評価が○で安定性評価が△であるもの
×:一方乃至両方の評価が×を含むもの
【0033】
【表1】

【0034】
実施例6〜15並びに比較例4〜6
表2(表中の成分の単位は重量%)に示した成分を相ごとに混合し内水相成分混合物、油相成分混合物及び外水相成分混合物を調製した。油相成分混合物に内水相成分混合物を投入しながら、ホモジナイザー(TKホモミキサー HV-M、特殊機化工業社製)を用い、7000rpmにて10分間撹拌し、W/O型エマルションを調製した。次に、外水相成分混合物に撹拌しながらW/O型エマルションを添加し、流体混合装置(ラモンドスーパーミキサー、環境科学工業社製)にて分散し、W/O/W型エマルション組成物を調製した。得られたエマルション組成物を以下の内容で評価した。
「初期の粘度」
調製1日後の組成物の粘度をBL型粘度計(東京計器製)にて測定した。1000mPa・s以上のものを「適」、1000mPa・s以下のものを「不適」と評価した。
「NaClを加えたときの粘度変化」
組成物100gあたり1gのNaClを加えたときの粘度をBL型粘度計にて測定し、初期の粘度評価が適であって500mPa・s以下に粘度が低下したものを「○」、初期の粘度評価が不適であるもの又は初期の粘度評価が適であって測定粘度が500mPa・sを超えるものを「×」と評価した。
「安定性」
各組成物をガラス瓶中に密閉して40℃で2ヶ月観察し、下記の基準で評価した。
○:2ヶ月後に初期の状態を保っているもの
△:1ヶ月後に初期の状態を保っているがそれ以降粘度が低下するもの
×:1ヶ月以内に粘度が低下するもの
「総合評価」
粘度変化及び安定性に関する結果について下記のように評価した。
◎:両方の評価が○であるもの
○:粘度変化評価が○で安定性評価が△であるもの
×:一方乃至両方の評価が×を含むもの
【0035】
【表2】

【0036】
実施例16(スキンクリーム)
(a)内水相
マルトトリオース 1
マルトテトライトール 0.5
グルコシルトレハロース 0.5
シラカバエキス 2
防腐剤 0.01
精製水 15
(b)油相
イソステアリン酸イソステアリル 6
ジポリヒドロキシステアリン酸ポリエチレングリコール 2
(c)外水相
防腐剤 0.2
モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン 0.4
精製水 残部
合計 100(重量%)

(a)、(b)、(c)毎に混合溶解し、(b)混合液に(a)混合液を投入して、撹拌し、高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー、みずほ工業社製)を用いて98MPa(1000kg/cm)で乳化してW/O型エマルションを調製した。次に、このエマルションを(c)混合液に投入し、緩やかに撹拌した後、流体混合装置にて分散し、W/O/W型エマルション組成物を調製した。得られたエマルション組成物はW/O粒子が膨潤しており、クリーム状の形態であった(粘度:28500mPa・s)。このエマルション組成物をスキンクリームとして皮膚に塗って1分以内にクリーム状から液状に変化し、皮膚にみずみずしいしっとり感を与えた。
【0037】
実施例17(2剤式スキンクリーム)
<1剤>
(a)内水相
ポリアスパラギン酸ナトリウム 1
オウゴンエキス 2
防腐剤 0.01
精製水 15
(b)油相
オレイン酸エチル 6
ジポリヒドロキシステアリン酸ポリエチレングリコール 2
(c)外水相
防腐剤 0.2
ポリアスパラギン酸ナトリウム 5
モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン 0.4
精製水 残部
合計 100(重量%)
<2剤>
(d)
防腐剤 0.3
精製水 残部
合計 100(重量%)
<1剤の調製>
(a)、(b)、(c)毎に混合溶解し、(b)混合液に(a)混合液を投入して、撹拌し、流体混合装置にて分散させ、W/O型エマルションを調製した。次に、このエマルションを(c)混合液に投入し、緩やかに撹拌した後、再び流体混合装置にて分散させてW/O粒子の微細化を行い、1剤(W/O/W型エマルション組成物)を得た(粘度:1800mPa・s)。
【0038】
<2剤の調製>
(d)を加温溶解させ、2剤を得た。
【0039】
1剤は乳液状の形態であった。内水相、外水相共に浸透圧剤(ポリアスパラギン酸ナトリウム)を含有しており浸透圧の差が小さいためW/O粒子の膨潤変化は小さいため、乳液状になったものである。1剤と2剤を1:1(重量比)で混合したところクリーム状の形態となった(粘度:67500mPa・s)。これは、1剤の外水相が希釈されて浸透圧が低下し、外水相から内水相への水の移動が生じたためにW/O粒子が膨潤し、クリーム状となったものである。このクリームを肌に塗ると、実施例11の場合と同様に液状に変化し皮膚にみずみずしいしっとり感を与えた。
【0040】
実施例18(ヘアトリートメント)
<1剤>
(a)内水相
ポリアスパラギン酸ナトリウム 2
防腐剤 0.03
精製水 5
(b)油相
オレイン酸エチル 3
ジメチルポリシロキサン(200cs) 2
ジポリヒドロキシステアリン酸ポリエチレングリコール 1
ポリエーテル変性シリコーン 1
(c)外水相
防腐剤 0.2
POE(20)POP(4)セチルエーテル 2.0
精製水 残部
合計 100(重量%)
<2剤>
(d)
塩化ナトリウム 3.0
精製水 残部
合計 100(重量%)
<1剤の調製>
(a)、(b)、(c)毎に混合溶解し、(b)混合液に(a)混合液を投入して、撹拌し、高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー、みずほ工業社製)を用いて98MPa(1000kg/cm)で乳化してW/O型エマルションを調製した。次に、このエマルションを(c)混合液に投入し、緩やかに撹拌した後、流体混合装置にて分散し、W/O/W型エマルション組成物を調製した。得られたエマルション組成物はW/O粒子が膨潤しており、クリーム状の形態であった(粘度:16500mPa・s)。
【0041】
<2剤の調製>
(d)を加温溶解させ、2剤を得た。
【0042】
1剤をヘアトリートメントとして使用後しばらく放置し、2剤を噴霧すると、ヘアトリートメントは液状に変化し、使用者に視覚的興味を与えた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のエマルションの用途は特に限定されず、例えば、化粧品、染毛料、食品、医薬品、口腔用組成物、玩具、入浴剤、医薬品、洗浄剤、芳香剤、コンクリート補修材、糊材、接着剤などで利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1000mPa・s以上の粘度を有するW/O/W型エマルション組成物であって、1重量%水溶液における浸透圧が200mOsm以下である浸透圧剤を含有し、かつ、内水相の浸透圧より低い浸透圧の液体が添加されることによって該組成物の粘度が上昇することを特徴とする粘度変化型のW/O/W型エマルション組成物。
【請求項2】
1000mPa・s以上の粘度を有するW/O/W型エマルション組成物であって、1重量%水溶液における浸透圧が200mOsm以下である浸透圧剤を含有し、かつ、該組成物に1重量%の塩化ナトリウムが加えられることによって、該組成物の粘度が500mPa・s以下に低下することを特徴とする粘度変化型のW/O/W型エマルション組成物。
【請求項3】
浸透圧剤がポリアスパラギン酸塩、ポリグルタミン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、三〜六糖類及び還元デンプン加水分解物からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載のW/O/W型エマルション。
【請求項4】
浸透圧剤が三〜六糖類からなる群から選択される少なくとも1種の糖である請求項1〜3のいずれかに記載のW/O/W型エマルション。
【請求項5】
浸透圧剤がグルコシルトレハロース、マルトシルトレハロース及びマルトトリオシルトレハロースからなる群から選択される少なくとも1種のトレハロースである請求項1〜4いずれかに記載のW/O/W型エマルション。
【請求項6】
浸透圧剤がポリアスパラギン酸塩である請求項1〜3のいずれかに記載のW/O/W型エマルション。

【公開番号】特開2006−307037(P2006−307037A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132168(P2005−132168)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】