説明

X線分析装置

【課題】測定種別の選択と光学部品の交換作業とを関連付けて、交換すべき光学部品の情報を図を用いて画面に表示することで、測定準備作業を容易にする。
【解決手段】X線分析装置の測定準備作業に関連して、選択画面において、複数の測定種別の中からオペレータが所望の測定種別を選択すると、その測定種別に応じて、取り付けるべき光学部品及び取り外すべき光学部品の情報が、図を伴って表示装置の画面に表示される。オペレータは、その作業指示を見て、X線分析装置の光学系から光学部品を取り外したり、光学部品を取り付けたりする作業を実行する。図を伴って表示する形態には、交換すべき光学部品16,18の光学系上の位置を図示することや、取り付け作業と取り外し作業の区別を絵記号69で表示することや、光学部品の識別マーク70,72を表示すること、が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オペレータの測定準備作業を容易にしたX線分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料のX線回折測定を実施するときは、測定条件の設定作業が必要になるが、その設定作業は、X線回折測定に不慣れなオペレータには大変である。図15は従来のX線回折装置の条件設定画面の一例である。この画面に見られるように、設定項目が多数あり、各項目について、適切な条件を選択したり、適切な数値を入力したりするのは大変な作業である。
【0003】
このような条件設定作業を容易にするものとして、次の特許文献1に記載されたX線回折定性分析装置が知られている。
【特許文献1】特開平6−74923号公報
【0004】
この特許文献1に記載されたX線回折定性分析装置は、測定環境に関する質問を表示して、オペレータからの答えを受けて、知識ベースを用いて測定条件を推論している。これにより、誰でも容易に測定条件を設定することができる。
【0005】
測定条件を設定するときには、それに伴って、光学部品を交換する作業を必要とすることがある。その場合に、光学部品の取り付け状況を装置自体が認識できれば、取り付けられた光学部品に関する情報をオペレータに知らせることができる。この点に関しては、関連する従来技術があり、次の特許文献2に記載された放射線治療装置では、装置に取り付けたコリメータの種別を認識できるようにしている。
【特許文献2】特開平8−155045号公報
【0006】
この特許文献2に記載された放射線治療装置は、種別の異なる複数のコリメータを準備しており、オペレータが選択したコリメータをホルダに装着すると、どのコリメータが装着されたかを、ホルダの外部からオペレータが目視できるようになっている。さらに、光センサを用いることで、コリメータの種別に関する情報を装置が取得できるようにしている。この情報に基づいて、装着されたコリメータが正しいものであるか否かをコンピュータで管理することができ、間違ったコリメータが装着されたら警報を出すことができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のX線回折定性分析装置は、測定条件の設定に関するガイダンス機能を備えているが、光学部品の交換作業には触れていない。このX線回折装置は、定性分析だけを目的とする装置なので、光学部品を交換することなく測定条件の設定が可能であると推測される。すなわち、発散スリットと空気散乱防止スリットと検出スリットは、いずれも可変スリットであると考えられ、測定条件に応じてスリット幅を変化させれば足りると考えられる。したがって、測定条件の設定に関連して、光学部品の交換作業と連動させて測定準備作業を正しく完了させるような機能は開示していない。また、特許文献2の放射線治療装置は、装着したコリメータの種別を判別して警報を出すことはできるが、測定条件の設定に関するガイダンス機能とコリメータの交換作業とを関連付けることは開示していない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、測定種別の選択と光学部品の交換作業とを関連付けて測定準備作業を容易にしたX線分析装置を提供することにある。
【0009】
本発明のX線分析装置は、次の(ア)乃至(キ)を備えている。(ア)試料のX線分析を実行する光学系を含む装置本体。(イ)前記装置本体に関する情報を画面に表示する表示装置。(ウ)複数の測定種別の中から所望の測定種別を選択できる選択画面を前記表示装置に表示させる選択画面表示手段。(エ)前記選択画面でオペレータが選択した測定種別を取得する測定種別取得手段。(オ)前記複数の測定種別について、測定種別とその測定種別で使用すべき光学部品との対応関係を記憶した対応関係記憶手段。(カ)前記装置本体に取り付けられた光学部品の種別を識別して検出するセンサ。(キ)前記測定種別取得手段で取得した測定種別について、前記対応関係記憶手段に記憶された前記対応関係に基づいて、その測定種別に対応する光学部品の種別を取得し、その取得した光学部品の種別と、前記センサによって検出された光学部品の種別とを比較して、不一致の光学部品について、前記装置本体に取り付けるべき光学部品及び前記装置本体から取り外すべき光学部品の少なくとも一方の情報を、図を用いて前記表示装置に表示させる作業指示手段。
【0010】
前記作業指示手段は、取り付けるべき光学部品または取り外すべき光学部品の名称を表示装置に表示させるとともに、その光学部品の光学系上の位置を表示装置に図示させることが好ましい。さらに、前記作業指示手段は、光学部品の取り付け作業と取り外し作業を区別して絵画的に表示装置に図示させることが好ましい。さらに、光学部品を複数の項目に分類して、同一の項目に属する複数の光学部品の間で光学部品の交換が行われるようにし、各光学部品にはその項目を識別するための識別マークを付与して、前記作業指示手段は、装置本体に取り付けるべき光学部品または装置本体から取り外すべき光学部品を表示装置に表示させる際に、その光学部品に付与されている識別マークを表示させることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、測定種別の選択機能と光学部品の交換作業とを関連付けているので、オペレータは、選択画面で測定種別を選択すれば、その測定種別を実行するのに必要な光学部品の交換作業を容易に知ることができ、その作業指示画面に従って、光学部品の交換作業を実行することができる。特に、交換すべき光学部品の情報を図を用いて画面に表示するので、光学部品を取り付ける位置や光学部品の種別などが容易にわかる。そして、間違った光学部品を取り付けると、正しい光学部品に交換すべき作業指示が出るので、光学部品の取り付けミスを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳しく説明する。図1(A)は本発明のX線分析装置の一実施例の光学系の配置例を概略的に示した斜視図である。このX線分析装置は薄膜試料評価用の装置であり、X線回折測定やX線小角散乱測定、反射率測定などを実施できる。図1(A)において、X線管10と試料台12の間には入射側の光学部品が配置されている。試料台12とX線検出器14の間には受光側の光学部品が配置されている。
【0013】
入射側の光学部品は、項目名として、CBO選択スリット16と入射光学素子18と入射平行スリット20と長手制限スリット22がある。入射光学素子18と入射平行スリット20は、取り付け箇所としては同じ位置にある。各項目名のところには、その項目名に属する具体的な光学部品が取り付けられる。CBO選択スリット18に属する具体的な光学部品は、CBOユニット24に取り付けられる。入射光学素子18に属する具体的な光学部品は、入射光学素子ベース26に取り付けられる。入射平行スリット20に属する具体的な光学部品は、入射光学素子18に属する光学部品のうちの2結晶モノクロメータに取り付けられるか、または、入射平行スリットアダプタを介して、入射光学素子ベース26に取り付けられる。長手制限スリット22に属する具体的な光学部品は、入射スリットボックス28に取り付けられる。
【0014】
受光側の光学部品は、項目名として、フィルター30と受光光学素子32と受光平行スリット34とカウンタモノクロメータ36とモノクロメータスリット38がある。カウンタモノクロメータ36とモノクロメータスリット38は、取り付け箇所としては、X線検出器14と同じ位置に図示している。入射側と同様に、各項目名のところには、その項目名に属する具体的な光学部品が取り付けられる。フィルター30に属する具体的な光学部品は、受光スリットボックス40に取り付けられる。受光光学素子32に属する具体的な光学部品は、受光光学素子ベース42に直接取り付けられるか、または、受光光学素子アダプタを介して受光光学素子ベース42に取り付けられる。受光平行スリット34に属する具体的な光学部品は、受光平行スリットアダプタ44に取り付けられる。カウンタモノクロメータ36に属する具体的な光学部品は、カウンタアダプタ46に取り付けられる。モノクロメータスリット38は、カウンタアダプタ46にカウンタモノクロメータが取り付けられている場合に、そのカウンタモノクロメータユニットに取り付けられる。
【0015】
このX線分析装置は、水平な試料台12の上に試料を水平に配置するタイプである。例えば、広角のX線回折測定を実施するときは、図1(B)に示すように、入射側の光学系50は水平な回転中心線48の周りを回転でき、受光側の光学系52は、同じ回転中心線48の周りを回転できる。また、インプレーン回折測定を実施するときは、図1(A)において、直立する回転中心線49の周りを受光側の光学系が回転する。
【0016】
図2は入射側の光学系の各項目に属する具体的な光学部品の一覧表である。選択可能な具体的な光学部品は「部品名称」の欄に記載されている。各光学部品は、それが装置に取り付けられると、その光学部品の種別がセンサで認識されて検出される。図2の一覧表の「センサの種類」の欄は、そのセンサの種類を示している。「光センサ」は反射式の光センサである。これについては後述する。CBO選択スリットと入射平行スリットと長手制限スリットの項目が光センサを利用している。「コネクタ」は、光学部品と装置とを電気的に接続するためのコネクタの中の特定の端子が、光学部品を識別するためのセンサの役割を果たしている。2結晶モノクロメータと4結晶モノクロメータは、装置とモノクロメータとの間で電気信号の授受を行うために信号ケーブルが付属しているが、その信号ケーブルのコネクタに、上述のようなセンサ用の端子が備わっている。このコネクタをセンサとして利用している項目は入射光学部品である。
【0017】
CBO選択スリットの項目は、「ユニットなし」と「選択スリットなし」を含めて、6種類の選択肢がある。CBOユニットに取り付けることが可能な選択スリットとしては、4種類の選択スリットBB、PB、SA、MAがある。CBOは、Cross Beam Opticsの略であり、CBOユニットは、X線源からそのまま出てくる発散X線ビームをそのまま使用する集中法と、人工放物面多層膜ミラーを用いて発散ビームを平行ビームにして使用する平行ビーム法について、それらの選択を選択スリットの交換だけで簡単にできるようにしたものである。BBは集中法用、PBは平行ビーム法用、SAは小角散乱測定用、MAは微小部測定用である。SAはPBのスリット幅を細くしたもの、MAはPBの長さを短くしたものである。
【0018】
入射光学素子は、「モノクロメータなし」を含めて5種類の選択肢がある。モノクロメータの種別としては、2結晶モノクロメータGe(220)×2と、2結晶モノクロメータGe(400)×2と、4結晶モノクロメータGe(220)×4と、4結晶モノクロメータGe(440)×4がある。
【0019】
入射平行スリットは、「アダプタなし」と「スリットなし」を含めて、8種類の選択肢がある。入射平行スリットに属する光学部品は、上述の2結晶モノクロメータが存在するときは、そのモノクロメータに取り付けられる。モノクロメータが存在しないときは、入射平行スリットアダプタが入射光学素子ベース26(図1を参照)に取り付けられて、その入射平行スリットアダプタに、入射平行スリットに属する光学部品が取り付けられる。この光学部品としては、3種類のソーラースリットと3種類のインプレーンPSCがある。PSCは平行スリットコリメータ(Parallel Slit Collimator)の略である。
【0020】
長手制限スリットは、「長手制限スリットなし」を含めて、6種類の選択肢がある。長手制限スリットとしては、0.5mm〜15mmまでの5種類がある。
【0021】
図3は受光側の光学系の各項目に属する具体的な光学部品の一覧表である。センサの種類について述べると、受光光学素子の項目のうち、受光光学素子アダプタに取り付ける光学部品については、光センサを利用している。受光平行スリットの項目も光センサを利用している。受光光学素子の項目のうち、結晶アナライザはコネクタを利用している。カウンタモノクロメータの項目については、コネクタとマイクロスイッチを併用している。フィルターとモノクロメータスリットの項目については、マイクロスイッチを利用している。マイクロスイッチは、光学部品が存在するか否かだけを検出すれば足りる場合(オン・オフの出力信号で足りる場合)に使うことができる。
【0022】
フィルターは、「フィルターなし」と、CuKβフィルターのいずれかである。
【0023】
受光光学素子は、「アナライザ/アダプタなし」を含めて、10種類の選択肢がある。受光光学素子ベース42(図1を参照)に直接取り付けるものとして、2結晶アナライザGe(220)×2と、2結晶アナライザGe(400)×2がある。また、受光光学素子アダプタを介して受光光学素子ベースに取り付けるものとして、「PSAなし」を含めて、7種類がある。
【0024】
受光平行スリットは、「アダプタなし」と「スリットなし」を含めて、7種類の選択肢がある。受光平行スリットに属する光学部品としては、2種類のソーラースリットと3種類のインプレーンPSAがある。PSAは平行スリットアナライザ(Parallel Slit Analyzer)の略である。
【0025】
カウンタモノクロメータは、「ユニットなし」と「カウンタモノクロメータユニットなし」を含めて、4種類の選択肢がある。カウンタモノクロメータに属する光学部品としては、カウンタモノクロメータBentと、カウンタモノクロメータFlatがある。
【0026】
モノクロメータスリットは、「モノクロメータスリットなし」と、モノクロメータスリットBBMのいずれかである。
【0027】
図4は光センサによる種別検出方法を説明する斜視図である。この図面は、入射平行スリットアダプタ54にソーラースリット56を取り付ける状態を示している。入射平行スリットアダプタ54には、3個の光センサ58が設けられている。それぞれの光センサは発光素子と受光素子の組からなる。ソーラースリット56の底面60には3個の標識部62,64,66があり、そのうちのひとつが光反射部64(白色)であり、残りの二つが光吸収部62,66(黒色)である。各光センサ58は、反射光を受光するか受光しないかに応じて2値信号(1ビット)を出力する。3個の光センサを用いることで、3ビットの信号を出力でき、これにより、2の3乗=8種類の光学部品を識別することができる。このような光センサを、入射平行スリットのほかに、CBO選択スリット、長手制限スリット、受光光学素子、受光平行スリットの各項目で利用している。また、ソーラースリット56には、光学部品を識別するためのシール57が貼り付けられている。このシール57には、識別マーク59と、光学部品の名称(Soller slit 2.5deg)が記載されている。識別マーク59は、光学部品の項目を識別するためのマークであり、この例では、入射光学素子または入射平行スリットに属することを示す特有の識別マーク(◆印)となっている。
【0028】
図5はX線分析装置に付属する表示装置に表示される選択画面である。この選択画面には、複数の測定種別が表示されていて、オペレータは所望の測定種別を選択することができる。図示の画面では、例えば、膜厚評価のための測定種別として、「反射率(中分解能PB)」と「反射率(高分解能PB−Ge(220)×2)」と「反射率(超高分解能PB−Ge(220)×4)」の3種類のいずれかを選択できる。また、配向評価のための測定種別として、「極点(中分解能PB)」を選択できる。さらに、粉末定性・構造評価のための測定種別として、「簡易広角(集中法)」と「簡易広角(中分解能PB/PSA)」が見えている。所望の測定種別をクリックすると、その測定種別を選択することができる。
【0029】
図5の画面の下方の領域68には、選択した測定種別についての三つの動作パーツ、すなわち、光学系調整パーツ、試料位置調整パーツ、データ測定パーツ、が示されている。この例は、「反射率(中分解能PB)」を選択したときの三つの動作パーツ、すなわち、光学系調整(PB)、試料位置調整、反射率測定のパーツを示している。「反射率(中分解能PB)」を実行するには、この三つの動作パーツを実行する必要があり、そのそれぞれについて測定条件の設定が必要となる。
【0030】
図6、図7及び図8は「簡易広角(集中法)」の測定種別を選択したときの光学系調整、試料位置調整及びデータ測定の三つの動作パーツのそれぞれの設定画面である。図6は光学系調整の設定画面であり、この画面では、オペレータは表示内容を確認するだけで済み、特に設定する項目はない。
【0031】
図7は試料位置調整の設定画面である。この設定画面では、オペレータは試料位置調整条件を設定する。すなわち、試料が平らな試料か否かを選択し、平らな試料の場合は試料の厚さを入力する。それ以外の設定項目については、「おまかせ条件」にしておけば、標準的な条件が設定される。この「おまかせ条件」がデフォルトになっている。標準条件以外の内容で設定したい場合は、「条件をカスタマイズ」を選択して、「カスタマイズ」ボタンをクリックすれば、オペレータが希望する条件を設定することができる。
【0032】
図8はデータ測定の設定画面である。すなわち、「簡易広角測定(集中法)」のデータ測定についての設定画面である。この設定画面では、オペレータは、測定データを保存するファイル名と、試料の種類を設定する。それ以外の設定項目については、「おまかせ条件」にしておけば、標準的な条件が設定される。
【0033】
図9、図10及び図11は「反射率(高分解能Ge(220)×2)」の測定種別を選択したときの光学系調整、試料位置調整及びデータ測定の三つの動作パーツのそれぞれの設定画面である。図9は光学系調整(PB)の設定画面であり、この画面では、オペレータは表示内容を確認するだけで済み、特に設定する項目はない。
【0034】
図10は試料位置調整の設定画面である。この設定画面では、オペレータは試料位置調整条件を設定する。すなわち、試料の厚さ、幅及び高さを入力する。それ以外の設定項目については、「おまかせ条件」にしておけば、標準的な条件が設定される。
【0035】
図11はデータ測定の設定画面である。すなわち、反射率測定のデータ測定についての設定画面である。この設定画面では、オペレータは、測定データを保存するファイル名を設定する。それ以外の設定項目については、「おまかせ条件」にしておけば、標準的な条件が設定される。
【0036】
図12は測定種別と光学部品の種別との対応関係を示す一覧表である。ここでは、3種類の測定種別だけを示している。まず、「簡易広角測定(集中法)」を説明する。この「簡易広角測定(集中法)」はX線回折測定の一種であり、集中法を用いて、比較的広い角度範囲で回折測定を実施するものである。試料としてはガラス試料板に充填した粉末を用いる。光学系調整と試料位置調整とデータ測定の三つのパーツのすべてにおいて、同一の光学部品を使っている。使用する光学部品を説明すると、CBO選択スリットは選択スリットBBを選択し、入射光学素子は何も使わず、入射平行スリットはソーラースリットの5.0°を選択し、長手制限スリットは10mmを選択し、フィルターは使わず、受光光学素子はPSA openを選択し、受光平行スリットはソーラースリットの5.0°を選択し、カウンタモノクロメータはBentを選択し、モノクロメータスリットはあり、という条件である。
【0037】
「反射率測定(高分解能)」と「透過小角散乱測定」についても、使用する試料と光学部品の種別を図12に示している。図12に示すような、測定種別と光学部品の種別との対応関係は、X線分析装置の制御装置に付属する記憶手段に記憶されている。
【0038】
次に、測定準備作業の全体の流れを具体例を用いて説明する。X線分析装置の現在の光学系が、図12に示す「簡易広角測定(集中法)」に対応する状態になっているものと仮定する。そして、このようなX線分析装置を使って、次に「反射率測定(高分解能)」を実施するものと仮定する。まず、図5の選択画面において、「反射率(高分解能PB−Ge(220)×2)」を選択する。これに対応して、領域68には、「反射率(高分解能PB−Ge(220)×2)」のための三つの動作パーツが表示される。オペレータが、その三つの動作パーツをそれぞれ順番にクリックすると、図9〜図11に示す設定画面が表示されて、それぞれの設定画面で必要な設定をする。その後、「実行」ボタンをクリックする。X線分析装置は、現在の光学部品の取り付け状態をセンサで確認して(図12の上段の光学部品種別となっている)、そして、反射率(高分解能)の測定に必要な光学部品を図7に示す対応関係に基づいて取得し(図12の中段の光学部品種別を取得する)、両者を比較する。両者を比較してみると、CBO選択スリットと入射光学素子と入射平行スリットと長手制限スリットとカウンタモノクロメータとモノクロメータスリットの6種類の項目について、光学部品の交換が必要であることがわかる。そこで、X線分析装置は、図13に示すような画面を表示する。この画面は、交換すべき光学部品をオペレータに知らせる画面であり、6種類の項目において光学部品の交換が必要であることがわかる。図13の画面で「OK」ボタンをクリックすると、図14と図15に示すような作業指示画面が現れる。ひとつの画面を図14と図15に分けて表示している。
【0039】
図14と図15の作業指示画面の内容を説明する前に、作業指示画面の読み方を図16を用いて説明する。図16(A)において、この絵表示は、X線分析装置の光学系の各項目を図形を用いて簡略的に表示している。図1に対応させて説明すると、この絵表示には、X線管10、CBO選択スリット16、入射光学素子18、入射平行スリット20、長手制限スリット22、フィルター30、受光光学素子32、受光平行スリット34、X線検出器14、カウンタモノクロメータ36及びモノクロメータスリット38の各項目が象徴的に示されている。そして、光学系の絵表示の右側に、光学部品の取り付け作業と取り外し作業とを区別して表示する絵記号69(絵画的に図示したもの)がある。この絵記号は、人間の手が光学部品を装置に取り付けることを象徴する絵になっている。
【0040】
図16(B)は、取り付け作業の指示方法を示す例である。この例は、CBO選択スリット16に光学部品を取り付けることを指示している。光学部品を取り付けるべき項目(CBO選択スリット16)は強調表示される。そして、その項目に特有の識別マーク70(この例では、CBO選択スリットに特有の●印)が光学部品の上方に表示される。そして、具体的にどの光学部品を取り付けるべきかは文章で示される。したがって、絵画的に図示されるものは、取り付けるべき光学部品の項目を示す識別マーク(ここでは●印)と、その光学部品の位置と(強調表示される)、取り付け作業の絵記号69である。ところで、上述の特有の識別マーク70(●印)は、CBO選択スリットに属する現実の光学部品のそれぞれに共通して付与されている(図4を参照)。したがって、オペレータは、●印が付いている光学部品の中から必要なものを探せばよく、数ある光学部品の中から目的の光学部品を容易に見つけ出すことができる。
【0041】
図16(C)は、取り外し作業の指示方法を示す例である。この例は、入射光学素子18の項目から光学部品を取り外すことを指示している。入射光学素子18の位置が強調表示され、かつ、入射光学素子の項目に特有の識別マーク72(◆印)が示され、さらに、取り外し作業の絵記号74が表示される。この絵記号は、人間の手が光学部品を装置から取り外すことを象徴する絵になっている。
【0042】
次に、図14と図15の画面に戻って、光学部品の交換作業の指示画面の説明をする。図14において、画面の一番上に、「高さ基準試料板をアタッチメントに載せてください。」という指示が文章で示される。そして、高さ基準試料板の絵も表示される。この指示に従い、オペレータは高さ基準試料板を試料台のアタッチメントに載せる。
【0043】
次に、「CBOユニットに選択スリットPBを挿入してください。⇒現在、選択スリットBBが挿入されています。」という指示が文章で示され、その指示内容が絵画的に表示される。すなわち、CBO選択スリット16の位置が強調表示され、その位置の上方に、CBO選択スリットに特有の識別マーク70(●印)が示される。さらに、一番右側の作業種別表示部では、光学部品の取り付け作業を示す絵記号69が示される。オペレータはこれらの表示を見ることで、X線分析装置のCBOユニット24(図1を参照)から選択スリットBBを取り外して、選択スリットPBを挿入する作業が必要であることを理解する。そして、●印が付与されている複数の光学部品(4種類の選択スリットBB、PB、SA、MA)の中から、選択スリットPBを探し出して、それをCBOユニットに挿入する。ところで、光学部品の交換作業は、現在取り付けられている光学部品を取り外す作業と、新しい光学部品を取り付ける作業の組み合わせからなるが、指示内容が簡単な場合は、ひとつの作業指示として表示し、その場合は、作業の絵記号としては取り付け作業の絵記号69を表示している。
【0044】
次の作業指示では「IPS adaptorを取り外してください。」という指示が文章で示され、その指示内容が絵画的に表示される。「IPS adaptor」は、入射平行スリットアダプタ(Incident parallel slit adaptor)を意味する。そして、入射光学素子18の位置が強調表示され、その位置の上方に、入射光学素子に特有の識別マーク70(◆印)が示される。さらに、一番右側の作業種別表示部では、光学部品の取り外し作業を示す絵記号74が示される。オペレータはこれらの表示を見ることで、X線分析装置の入射光学素子ベース26(図1を参照)から入射平行スリットアダプタを取り外す作業が必要であることを理解する。そして、その作業を実行する。
【0045】
以下、同様に、図14と図15の画面に表示された作業指示に従って、オペレータは、入射光学素子ベース26(図1を参照)に「2結晶モノクロメータGe(220)×2」を取り付け、その2結晶モノクロメータに「Soller slit open」を取り付け、高さ基準試料板に「Center slit」を挿入し、カウンタアダプタ46(Detector adaptor)(図1を参照)から「DBMユニット」(Diffracted beam monochromator)を取り外し、そのDBMユニットからカウンタ(X線検出器)を取り外し、そのカウンタをカウンタアダプタ46(Detector adaptor)に取り付ける、という各作業を実行する。そして、「OK」ボタンをクリックする。
【0046】
すると、X線分析装置は、光学系調整を自動的に実行する。この場合、おまかせ条件で進められるので、オペレータは何もすることがなく、光学系調整が完了するのを待つ。光学系調整が完了すると、図17の作業指示画面が表示される。
【0047】
図17の作業指示画面では、「試料厚調整板(0−3mm)およびウェーハ試料板(標準)をアタッチメントに載せてください。」という指示が示されるので、オペレータは試料台のアタッチメントにそれらを載せる作業を実行する。さらに、「ウェーハ試料板に試料を取り付けてください。」という指示が示されているので、その作業も実行する。
【0048】
それから、次の作業指示としては、「入射スリットボックスに長手制限スリット5(mm)を挿入してください。⇒現在、長手制限スリット10(mm)が挿入されています。」という指示が文章で示され、その指示内容が絵画的に表示される。オペレータは、その指示に従い、入射スリットボックス28(図1を参照)から「長手制限スリット10(mm)」を取り外して、「長手制限スリット5(mm)」を取り付ける。この長手制限スリットの交換は、光学系調整から試料位置調整に移るためのものである。「OK」ボタンをクリックすると、X線分析装置は、試料位置調整を自動的に実行する。この場合も、おまかせ条件で進められるので、オペレータは何もすることがなく、試料位置調整が完了する。その後、X線分析装置は自動的にデータ測定に移り、反射率測定が終了する。
【0049】
次に、間違った光学部品を取り付けた場合の処理を説明する。図14の作業指示画面では、選択スリットPBを挿入する指示になっているが、オペレータが間違えて、選択スリットSAを取り付けた場合を例にして説明する。この場合、オペレータが図15の「OK」ボタンをクリックしたあとに、X線分析装置は、選択スリットの種別が指示内容と異なっていることを、センサの出力信号に基づいて判断する。この場合は、光学系調整を開始せずに、図18の作業指示画面を表示する。この画面では、間違った光学部品について、正しい光学部品に交換すべき作業指示が表示される。すなわち、間違っている選択スリットSAを、正しい選択スリットPBに交換する作業についての指示が文章で示され、その指示内容が絵画的に表示される。
【0050】
次に、X線分析装置の全体構成を説明する。図19はX線分析装置の全体像を概略的に示す正面図である。X線分析装置は装置本体76と制御装置78と表示装置80を含む。装置本体76には図1に示す光学系が収納されている。表示装置80は、図5に示す選択画面を表示するほか、図6〜図11、図13、図14〜15、図17及び図18の各画面を表示する。制御装置78は選択画面表示手段82と測定種別取得手段84と対応関係記憶手段86と作業指示手段88を含む。選択画面表示手段82は、図5に示す選択画面を表示装置80に表示させる機能を実現する手段である。測定種別取得手段84は、図5に示す選択画面においてオペレータが選択した測定種別を取得する機能を実現する手段である。対応関係記憶手段86は図12に示す対応関係を記憶する手段である。作業指示手段88は、図13、図14〜15、図17及び図18に示す作業指示画面を表示装置80に表示させる機能を実現する手段である。選択画面表示手段82と測定種別取得手段84と作業指示手段88はコンピュータのソフトウェアによって実現される。対応関係記憶手段86はコンピュータの記憶装置によって実現される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明のX線分析装置の一実施例の光学系の配置例を示した斜視図である。
【図2】入射側の光学系の各項目名に属する具体的な光学部品の一覧表である。
【図3】受光側の光学系の各項目名に属する具体的な光学部品の一覧表である。
【図4】光センサによる種別検出方法を説明する斜視図である。
【図5】X線分析装置に付属する表示装置に表示される選択画面である。
【図6】簡易広角測定の光学系調整の設定画面である。
【図7】簡易広角測定の試料位置調整の設定画面である。
【図8】簡易広角測定のデータ測定の設定画面である。
【図9】反射率測定の光学系調整の設定画面である。
【図10】反射率測定の試料位置調整の設定画面である。
【図11】反射率測定のデータ測定の設定画面である。
【図12】測定種別と光学部品の種別との対応関係を示す一覧表である。
【図13】交換すべき光学部品をオペレータに知らせる画面である。
【図14】作業指示画面の前半部分である。
【図15】作業指示画面の後半部分である。
【図16】作業指示画面の読み方を説明する説明図である。
【図17】別の作業指示画面である。
【図18】さらに別の作業指示画面である。
【図19】X線分析装置の全体像を示す正面図である。
【図20】従来のX線回折装置の条件設定画面である。
【符号の説明】
【0052】
10 X線管
12 試料台
14 X線検出器
16 CBO選択スリット
18 入射光学素子
20 入射平行スリット
22 長手制限スリット
24 CBOユニット
26 入射光学素子ベース
28 入射スリットボックス
30 フィルター
32 受光光学素子
34 受光平行スリット
36 カウンタモノクロメータ
38 モノクロメータスリット
40 受光スリットボックス
42 受光光学素子ベース
44 受光平行スリットアダプタ
46 カウンタアダプタ
54 入射平行スリットアダプタ
56 ソーラースリット
58 光センサ
62,64,66 標識部
70 識別マーク
76 装置本体
78 制御装置
80 表示装置
82 選択画面表示手段
84 測定種別取得手段
86 対応関係記憶手段
88 作業指示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のものを備えるX線分析装置。
(ア)試料のX線分析を実行する光学系を含む装置本体。
(イ)前記装置本体に関する情報を画面に表示する表示装置。
(ウ)複数の測定種別の中から所望の測定種別を選択できる選択画面を前記表示装置に表示させる選択画面表示手段。
(エ)前記選択画面でオペレータが選択した測定種別を取得する測定種別取得手段。
(オ)前記複数の測定種別について、測定種別とその測定種別で使用すべき光学部品との対応関係を記憶した対応関係記憶手段。
(カ)前記装置本体に取り付けられた光学部品の種別を識別して検出するセンサ。
(キ)前記測定種別取得手段で取得した測定種別について、前記対応関係記憶手段に記憶された前記対応関係に基づいて、その測定種別に対応する光学部品の種別を取得し、その取得した光学部品の種別と、前記センサによって検出された光学部品の種別とを比較して、不一致の光学部品について、前記装置本体に取り付けるべき光学部品及び前記装置本体から取り外すべき光学部品の少なくとも一方の情報を、図を用いて前記表示装置に表示させる作業指示手段。
【請求項2】
請求項1に記載のX線分析装置において、前記作業指示手段は、取り付けるべき光学部品または取り外すべき光学部品の名称を前記表示装置に表示させるとともに、その光学部品の前記光学系上の位置を前記表示装置に図示させることを特徴とするX線分析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のX線分析装置において、前記作業指示手段は、光学部品の取り付け作業と取り外し作業を区別して絵画的に前記表示装置に図示させることを特徴とするX線分析装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載のX線分析装置において、このX線分析装置に使われる光学部品が複数の項目に分類されていて、同一の項目に属する複数の光学部品の間で光学部品の交換が行われ、各光学部品にはその項目を識別するための識別マークが付与され、前記作業指示手段は、前記装置本体に取り付けるべき光学部品または前記装置本体から取り外すべき光学部品を前記表示装置に表示させる際に、その光学部品に付与されている前記識別マークを表示させることを特徴とするX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−57989(P2008−57989A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231728(P2006−231728)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】