説明

X線分析装置

【課題】起動から検出器が安定状態になるまでの無駄な待機時間を短縮するとともに、検出器が不安定である状態での無駄なデータ収集を防止する。
【解決手段】起動時には検出器3でノイズが多く発生するためプリアンプ4で生成される階段状の電圧パルス信号の傾斜は急でリセットパルスRSTの時間間隔tは狭いが、検出器3が安定状態になってノイズが減ると時間間隔tは広がる。そこで、リセットパルスRSTの発生の間隔をパルス間隔測定部11により計測し、判定部12はその計測された時間間隔tが所定の閾値t1を超えたならば表示部13に指示を与え、分析可能状態になったことを知らせる表示を行う。これにより、無駄な待機時間がなくなり、確実に検出器が安定状態となった後に分析を実行することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線分析装置に関し、さらに詳しくは、X線検出器として半導体検出器を用いたエネルギー分散型のX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析装置は、固体試料、粉体試料、又は液体試料に1次X線を照射し、その1次X線により励起されて放出される蛍光X線を検出することによって、その試料に含まれる元素の定性分析や定量分析を行うものである。この蛍光X線分析装置は、波長分散型(WDS)とエネルギー分散型(EDS)の2つに大別される。波長分散型蛍光X線分析装置は、分光結晶とスリットとを組み合わせたX線分光器により特定波長の蛍光X線を選別した上で検出器で検出する構成を有する。
【0003】
一方、エネルギー分散型蛍光X線分析装置は、上記波長選別を行わずに蛍光X線を直接、半導体検出器などで検出し、その後に検出信号をエネルギー(つまり波長)毎に分離する処理を行う構成を有する。蛍光X線スペクトルを得る場合、波長分散型では波長走査を行う必要があるのに対し、エネルギー分散型では多数の波長の情報が同時に得られるため、短時間で蛍光X線スペクトルを取得できるという特徴を有する。
【0004】
図4は、例えば特許文献1などに開示されているエネルギー分散型蛍光X線分析装置の概略構成図である。X線照射部1から発せられた1次X線が試料2に当たると、1次X線により励起された蛍光X線が試料2より放出され、半導体検出器3に入射して電流信号として検出される。検出器3の出力電流はプリアンプ4により積分されて電圧信号に変換され、その積分電圧が閾値電圧を超えるとリセットされる。これにより、プリアンプ4の出力信号は図4中に示すような階段状の電圧パルス信号となる。この信号の各段の高さが試料2に含まれる各元素のエネルギーつまり波長に対応している。この電圧パルス信号は波形整形回路6を含む比例増幅器5に入力され、上記各階段の高さに応じた波高を持つ適当な形状のパルスに成形されて出力される。
【0005】
A/D変換器7はこのパルス波形状のアナログ信号を所定のサンプリング周期でサンプリングしてデジタル化し、マルチチャンネルアナライザ8はデジタル化されたパルス信号の波高値に応じて各パルスを弁別した後にそれぞれ計数し、波高分布図(エネルギースペクトルヒストグラム)を作成してデータメモリ9に格納する。波高分布図では、分析対象である試料中に含まれる元素から放出される蛍光X線のエネルギー値に対応する位置に各元素固有のピークが現れる。データ処理部10はこのピークの出現位置やそのX線強度値などに基づいて、含有元素の定性や定量を行う。
【0006】
上述のようにエネルギー分散型蛍光X線分析装置では、X線検出器として例えばリチウムドリフトSi半導体検出器、マルチカソード検出器、Ge半導体検出器などの半導体検出器が多く利用されているが、こうした検出器では、特に電源投入後に動作が安定するまでの期間に、リーク電流等に起因するノイズが比較的多く、動作が安定するまでに比較的長い時間が掛かる。検出器のノイズが多いとノイズによる信号がプリアンプ4で積分され、その影響により、X線スペクトル上では或る元素のX線スペクトルが本来のエネルギー位置に出現しないエネルギーずれを引き起こす(図3(a)参照)。
【0007】
上記のような電源投入直後の検出器の不安定性を回避するために、従来、検出器の動作が安定するまでの時間を見込んだ待機時間(例えば30分)だけ待ってから分析を実行するようにしている。しかしながら、検出器が安定するまでに要する時間は、使用する検出器の種類のみならず、検出器とプリアンプとの組み合わせによっても変わる。また、検出器の使用状態(使用回数や使用期間など)などによっても変わる。そのため、上記待機時間は一般的な検出器が十分に安定するまでに要する時間よりもかなり余裕をみて設定されるため、使用者は分析を開始するまでに不必要に長い時間待たなければならず分析効率が悪かった。一方、検出器の経時劣化が進んで検出器容器内の真空度が大きく低下しているような場合には、所定の待機時間を経過しても検出器が完全に安定しない場合もあったが、従来は、そうした不安定状態でも分析を実行してしまい正確性を欠くデータを収集するというおそれもあった。
【0008】
【特許文献1】特開平10-318946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、検出器が安定するまでの不必要な待機時間をできるだけ短縮するとともに、確実に検出器が安定した状態で分析を実行することができるX線分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明は、X線を検出する半導体検出器、該検出器による検出信号を積算するプリアンプ、及び、該プリアンプの出力信号が所定電圧に達したことを検知して該プリアンプの出力をリセットするリセット回路、を含む検出部により階段状信号を生成するX線分析装置において、
a)前記リセット回路によるリセットの発生の時間間隔を検出し、該時間間隔が所定時間以上に長いか否かを判定する判定手段と、
b)前記判定手段により前記時間間隔が所定時間以上である場合に分析可能であることを使用者に報知する報知手段と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
上記判定手段の判定基準である所定時間は、例えばX線スペクトル上でのスペクトルピークのエネルギーずれがない、又はそのエネルギーずれが許容範囲に収まる程度に検出器が安定した状態となることを考慮して予め決められる。
【0012】
例えば電源投入直後で検出器が不安定な状態である場合には、ノイズが多いためにプリアンプはノイズ信号を積算し、階段状信号波形の傾きは急である。そのため、プリアンプの出力がリセットされてから電圧が上昇して次のリセットが行われるまでの時間間隔は短い。時間が経って検出器の状態が安定してくると、ノイズの発生等が減ってリセットの発生の時間間隔は次第に延びる。電源投入直後から暫く時間が経過するまでは、リセット回路によるリセットの発生の時間間隔は上記所定時間よりも短いが、検出器が十分に安定した状態となると、リセットの発生の時間間隔は上記所定時間よりも長くなる。この判定結果を判定手段から受けた報知手段は、それまでの分析不可(正確な分析が行えない状態であること)を示す報知から分析が可能になったことを知らせる報知に切り替える。それによって、使用者は分析が可能な状態になったことを知り、速やかに分析作業に取り掛かることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るX線分析装置によれば、実際には検出器が安定状態になっているにも拘わらず分析を開始せずに待機しているような時間の無駄をなくすことができ、分析効率やスループットの向上を図ることができる。また逆に、検出器が未だ不安的な状態にあるときに誤って分析を実行してしまうことを防止でき、無効な分析データの取得を回避することができる。また、検出器の種類や検出器とプリアンプとの組合せなど、検出器の起動から安定状態なるまでに要する時間の長短に影響を与える要素がある場合でも、使用者はそうした要素を何ら気にすることなく、常に正確に無駄なく分析開始のタイミングを知ることができる。
【0014】
但し、例えば検出器の経時劣化が甚だしい等の理由により、起動からいくら時間が経っても検出器が十分な安定状態に達しない場合があり得る。そこで、本発明に係るX線分析装置の一態様として、前記判定手段は、当該装置の起動時から規定時間内に前記時間間隔が所定時間以上に達したと判定されないことを検出し、その検出時に前記報知手段は当該装置の異常に関する報知を行う構成とするとよい。
【0015】
この構成では、起動から或る程度の時間が経っても検出器が十分な精度の測定が行えるような状態にならない場合に、報知手段はこれを使用者に知らせる。したがって、使用者は精度を欠くデータの収集を行うことなく、装置の修理や部品交換などの適切な処置を迅速にとることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係るX線分析装置の一実施例について図1〜図3を参照して説明する。図1は本実施例のX線分析装置の検出部の概略回路構成図、図2はこの検出部の主要な動作を説明するための波形図の一例、図3は本実施例のX線分析装置で取得されるX線スペクトルの一例である。
【0017】
図1において、例えばリチウムドリフトSi検出器などの半導体検出器3の検出信号を受けるプリアンプ4は、電流−電圧変換と積分(積算)を兼ねたコンデンサ41と、コンデンサ41の両端を短絡させて出力電圧VOUTをリセットするリセットスイッチ42とを含む。出力電圧VOUTは前述のように図1では図示しない比例増幅器(図4中の比例増幅器5)に入力されるとともに、リセット回路を構成するコンパレータ43に入力され、コンパレータ43はこの出力電圧VOUTと基準電圧Vrefとを比較し、前者が後者を超えるとリセットパルスRSTを出力する。このリセットパルスRSTがリセットスイッチ42をオンさせる。
【0018】
リセットパルスRSTはパルス間隔測定部11にも入力され、ここで時間的に隣接する2つのリセットパルスRSTの時間間隔tが計測される。得られた結果は判定部12で所定の閾値t1と比較され、計測された時間間隔tが閾値t1よりも長くなったならば、検出器3の動作が安定状態になったことを示す信号が表示部13に与えられ、表示部13はこれに応じた表示を実行する。
【0019】
パルス間隔測定部11及び判定部12はハードウエア回路により具現化することも可能であるし、マイクロコンピュータを用いてソフトウエア的に具現化することもできる。例えばハードウエア回路で実現する場合には、隣接する2つのリセットパルスRSTの間隔を高い周波数のクロック信号で計数することでパルス数に変換し、そのパルス数が閾値(時間的な閾値t1をパルス数に換算した値)以上であるか否かをカウンタ等を含む回路を用いて判定することで時間間隔tが閾値t1以上であるか否かを判定することができる。一方、マイクロコンピュータを用いる場合には、リセットパルスRST(場合によっては整形したパルス)をマイクロコンピュータに直接入力し、タイマ機能を利用して時間間隔を計測し、その計測値が閾値t1以上であるか否かを判定すればよい。
【0020】
本装置の電源投入直後、つまり起動直後においては、半導体検出器3でのリーク電流などに起因するノイズが多いために、出力電圧VOUTは図2(a)に示すように傾斜が急な階段状の電圧パルス信号となる。したがって、リセットパルスRSTの時間間隔t=RTは非常に短い。こうした状態では、図3(a)に示すように、X線スペクトル上に現れる各元素に対応したスペクトルピークは本来のエネルギー位置からずれた位置に出現する。また、そのエネルギーずれ量も必ずしも一定しない。そのため、こうしたX線スペクトルを用いても正確な定性は不可能である。
【0021】
このとき、パルス間隔測定部11で計測された時間間隔RTは所定の閾値t1以下であると判定部12で判定され、表示部13は分析不能又は検出器が不安定状態であることを示す表示を行う。装置の起動時点から時間が経過して半導体検出器3のノイズが減少するに伴い、出力電圧VOUTの傾斜は緩やかになり、リセットパルスRSTの時間間隔tも徐々に長くなる。そして、起動から或る程度の時間が経過した時点では図2(b)に示すように出力電圧VOUTの傾斜はかなり緩やかになり、リセットパルスRSTの時間間隔t=REは十分に長い状態となる。
【0022】
X線スペクトルでみると、起動時から時間が経過するに伴いエネルギーずれは縮小してゆき、図3(b)に示すように、各元素に対応したスペクトルピークが本来のエネルギー位置に出現するようになる。そこで、このようなX線スペクトル上での各スペクトルピークのエネルギーずれがなくなった又は許容範囲内に収まったときに安定状態になったとみなすようにし、このときの時間間隔tを閾値t1として予め判定部12に設定しておくようにする。こうした閾値t1は予め実験的に求めておくことができる。
【0023】
起動から時間が経って半導体検出器3が十分に安定な状態になると、リセットパルスRSTの時間間隔tが閾値t1を超えるから、これを検知した判定部12から表示部13に指示が与えられ、表示部13は分析不能状態から分析可能状態であることを知らせる表示に切り替える。この表示の切り替わりにより、使用者は分析が可能になったことを認識し、分析を開始することができる。
【0024】
一方、判定部12は、起動開始からの経過時間が予め設定された別の閾値t2に達したか否かを繰り返し判定し、上述のようにリセットパルスRSTの時間間隔tが閾値t1を超える前に経過時間が閾値t2に達してしまった場合には、異常であることを示す信号を表示部13へ送る。閾値t2は、標準的な半導体検出器が安定状態に達するまでに要する時間の平均値、などに応じて適宜に決められる。異常信号を受けた表示部13は異常報知を行い、使用者はこれを見て、例えば装置の保守サービス担当者に連絡する等の適宜の対応をとることができる。
【0025】
なお、上記実施例は一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。例えば、上記実施例において、半導体検出器の種類は特に問わない。また、リセットパルスRSTの時間間隔の判定を行う代わりに、リセットパルスRSTの周波数を計測してこれを判定してもよい。また、本発明は蛍光X線分析装置のみならず、X線を検出する、他の様々なX線分析装置に適用できることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施例であるX線分析装置の検出部の概略回路構成図。
【図2】図1に示した検出部の主要な動作を説明するための波形図の一例。
【図3】本実施例のX線分析装置で取得されるX線スペクトルの一例。
【図4】一般的なエネルギー分散型蛍光X線分析装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0027】
1…X線照射部
2…試料
3…半導体検出器
4…プリアンプ
41…コンデンサ
42…リセットスイッチ
43…コンパレータ
5…比例増幅器
6…波形整形回路
7…A/D変換器
8…マルチチャンネルアナライザ
9…データメモリ
10…データ処理部
11…パルス間隔測定部
12…判定部
13…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を検出する半導体検出器、該検出器による検出信号を積算するプリアンプ、及び、該プリアンプの出力信号が所定電圧に達したことを検知して該プリアンプの出力をリセットするリセット回路、を含む検出部により階段状信号を生成するX線分析装置において、
a)前記リセット回路によるリセットの発生の時間間隔を検出し、該時間間隔が所定時間以上に長いか否かを判定する判定手段と、
b)前記判定手段により前記時間間隔が所定時間以上である場合に分析可能であることを使用者に報知する報知手段と、
を備えることを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線分析装置であって、前記判定手段は、当該装置の起動時から規定時間内に前記時間間隔が所定時間以上に達したと判定されないことを検出し、その検出時に前記報知手段は当該装置の異常に関する報知を行うことを特徴とするX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−8176(P2010−8176A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166661(P2008−166661)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】