説明

X線集束素子及びX線照射装置

【課題】出射側開口端から被検査体までの作動距離を長くすることができ、表面に凹凸がある被検査体の分析、蛍光X線分析、X線回折分析を被検査体の大きさに拘わらず行うことができるX線集束素子及び該X線集束素子を備えるX線照射装置を提供する。
【解決手段】X線遮蔽部材23は、入射側開口端の口径(キャピラリ20の外径)と略同径の環状部材232からX線遮蔽部材23を支持する3本の支持部材233をX線遮蔽部材23の中心に向かって設け、環状部材232をキャピラリ20に固定している。環状部材232、支持部材233、X線遮蔽部材23は、タンタル、タングステン、モリブデンなどのX線を遮蔽する金属を用いて一体成形により形成する。X線遮蔽部材23の軸方向寸法(厚さ)は、X線を遮蔽するのに十分な寸法に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状体を備え、入射したX線を管状体内で反射し、反射したX線を出射集束させるX線集束素子及び該X線集束素子を備えたX線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の開発若しくは生体の検査などの研究開発、又は異物分析若しくは不良解析などの品質管理等の様々な用途で、試料にX線を照射し、試料から放出される蛍光X線、試料を透過する透過X線、又は回折X線などを検出し、試料の内部組成の分析、試料の結晶構造の分析などを行うX線分析装置が利用されている。X線分析装置には、X線源から放射されたX線をX線ミラーで反射集束させて試料に照射するものがある。
【0003】
しかし、X線ミラーを採用するX線分析装置の場合、例えば、試料に照射されるX線のビーム径を1μm程度にするためには、X線ミラー表面での散乱を防止するためミラー表面の高度な加工精度が要求されるとともに、ミラー表面に入射するX線のエネルギーにより生ずる熱ひずみの影響を抑制するため温度制御が必要であるという欠点があった。この欠点を解消するために使用されるX線導管(キャピラリ)は、細長いガラス管で構成されるため、熱ひずみの影響を軸対称構造により抑制することができ、簡単な構成で高密度のX線を集束することができる。
【0004】
例えば、X線導管の一開口端からX線を入射し、入射したX線をX線導管内面で全反射させ、他開口端から試料に向けて出射集束させるX線導管が提案されている。また、X線導管内面を回転放物面又は回転楕円面とすることで、X線の集束能力がさらに向上することが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−85192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のX線導管にあっては、両端が開口しているため、一開口端から入射したX線がX線導管内で反射せず、他開口端から直接出射することを防止するためには、出射側の開口端の口径を小さくする必要がある。しかし、出射側の開口端の口径を小さくした場合、出射したX線が集束するまでの距離が短くなり、出射側の開口端から被検査体までの作動距離(WD)を十分に確保することができない(例えば、0.1mm程度)。このため、表面に凹凸がある試料(被検査体)を分析できない問題、試料から放出される蛍光X線の取り出し角を確保できない問題、及び試料を回転又は傾斜させることができないためX線回折分析が十分に行えない問題などがあった。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、管状体の入射側開口端の口径を前記出射側開口端の口径より大きくし、該出射側開口端の口径と略同寸法の口径を有し、中心が管状体の軸上に配置されたX線遮蔽部材を備えることにより、出射側開口端から被検査体までの作動距離を長くすることができるとともに、表面に凹凸がある被検査体の分析、蛍光X線分析、X線回折分析を被検査体の大きさに拘わらず行うことができるX線集束素子及び該X線集束素子を備えるX線照射装置を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明の他の目的は、入射側開口端近傍に固定された環状部材からX線遮蔽部材の中心に向かって配置された複数の支持部材でX線遮蔽部材を支持することにより、簡単な構成で不要なX線を遮蔽することができるX線集束素子及び該X線集束素子を備えるX線照射装置を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、前記X線遮蔽部材は、X線の入射側に向かって縮径してなる板状体であることにより、不要な散乱X線が入射することを防止することができるX線集束素子及び該X線集束素子を備えるX線照射装置を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、前記X線遮蔽部材は、X線の入射面が球面の一部をなすことにより、不要な散乱X線が入射することを防止することができるX線集束素子及び該X線集束素子を備えるX線照射装置を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、前記X線遮蔽部材は球状体をなし、前記管状体の内面と前記X線遮蔽部材表面との間に、該X線遮蔽部材を前記管状体に固定する固定部材を複数備えることにより、X線遮蔽部材の中心を管状体の軸上に容易に配置することができるX線集束素子及び該X線集束素子を備えるX線照射装置を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、前記固定部材は、球状体であることにより、簡単な構成でX線遮蔽部材の中心を管状体の軸上に容易に配置することができるX線集束素子及び該X線集束素子を備えるX線照射装置を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、前記固定部材は、前記管状体の周方向に沿って適長離隔して配置された棒状体であることにより、簡単な構成でX線遮蔽部材の中心を管状体の軸上に容易に配置することができるX線集束素子及び該X線集束素子を備えるX線照射装置を提供することにある。
【0013】
また、本発明の他の目的は、前記出射側開口端に前記X線遮蔽部材を固定するX線透過シートを備えることにより、簡単な構成で不要なX線を遮蔽するとともに、多くのX線を集光させることができるX線集束素子及び該X線集束素子を備えるX線照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明に係るX線集束素子は、管状体を備え、一側開口端から入射したX線を前記管状体の内面で反射し、反射したX線を他側開口端より出射して集束するX線集束素子において、入射側開口端の口径は、出射側開口端の口径より大きく、該出射側開口端の口径と略同寸法の口径を有し、中心が前記管状体の軸上に配置されたX線遮蔽部材を備えることを特徴とする。
【0015】
第2発明に係るX線集束素子は、第1発明において、前記入射側開口端近傍に固定された環状部材と、該環状部材から前記X線遮蔽部材の中心に向かって配置され、該X線遮蔽部材を支持する複数の支持部材とを備えることを特徴とする。
【0016】
第3発明に係るX線集束素子は、第2発明において、前記X線遮蔽部材は、X線の入射側に向かって縮径してなる板状体であることを特徴とする。
【0017】
第4発明に係るX線集束素子は、第2発明において、前記X線遮蔽部材は、X線の入射面が球面の一部をなすことを特徴とする。
【0018】
第5発明に係るX線集束素子は、第1発明において、前記X線遮蔽部材は、球状体をなし、前記管状体の内面と該X線遮蔽部材表面との間に、該X線遮蔽部材を前記管状体に固定する固定部材を複数備えることを特徴とする。
【0019】
第6発明に係るX線集束素子は、第5発明において、前記固定部材は、前記管状体の周方向に沿って離隔して配置された球状体であることを特徴とする。
【0020】
第7発明に係るX線集束素子は、第5発明において、前記固定部材は、前記管状体の周方向に沿って適長離隔してあり、前記管状体の軸方向に略平行に配置された棒状体であることを特徴とする。
【0021】
第8発明に係るX線集束素子は、第1発明において、前記出射側開口端に前記X線遮蔽部材を固定するX線透過シートを備えることを特徴とする。
【0022】
第9発明に係るX線照射装置は、X線源から放射されたX線を集束するX線集束素子を備え、集束されたX線を照射するX線照射装置において、前記X線集束素子は、第1発明乃至第8発明のいずれかに係るX線集束素子であることを特徴とする。
【0023】
第1発明及び第9発明にあっては、管状体の内面は、例えば、管状体の軸回りに回転放物面又は回転楕円面となるように構成している。入射側開口端から管状体の軸に平行に入射したX線は、全反射臨界角より小さい入射角で管状体内面に入射した場合、管状体内面で全反射され、管状体内面の回転放物面又は回転楕円面で構成される焦点に集束するように出射側開口端から出射される。管状体の入射側開口端の口径は、前記出射側開口端の口径より大きくしてあり、該出射側開口端の口径と略同寸法の口径を有し、中心が前記管状体の軸上になるようにX線遮蔽部材を配置する。これにより、前記X線遮蔽部材は、管状体の内面で反射せずに管状体内をそのまま通過しようとする入射X線を遮蔽し、直接出射側開口端から出射されることを防止する。また、X線遮蔽部材で遮蔽されない入射X線は、管状体の内面で全反射して、焦点に集束するように出射側開口端から出射される。
【0024】
また、管状体の出射側開口端の口径は、X線遮蔽部材の口径と略同寸法であることより、微細X線ビームを被検査体に照射するために、管状体の出射側開口端の口径を微小な寸法にする必要がなく、管状体の出射側開口端の口径を大きくして、出射側開口端からX線が収束する焦点までの距離、すなわち作動距離を長くする。
【0025】
第2発明及び第9発明にあっては、環状部材からX線遮蔽部材を支持する複数の支持部材を前記X線遮蔽部材の中心に向かって設け、前記環状部材を前記入射側開口端近傍に固定する。これにより、X線遮蔽部材の中心が管状体の軸上に配置されるようにX線遮蔽部材を管状体に固定する。
【0026】
第3発明及び第9発明にあっては、前記X線遮蔽部材は板状体であって、X線の入射側に向かって縮径してある。X線遮蔽部材の口径は、入射側開口端の口径より小さいため、入射側開口端から入射したX線が、X線遮蔽部材の軸方向に沿った側面で反射し、不要な散乱X線となる場合があり、X線遮蔽部材の軸方向寸法が大きいほど散乱X線は増加する。X線遮蔽部材をX線の入射側に向かって縮径させることにより、入射したX線の進行方向を大きく変えて前記側面で反射した不要な散乱X線が管状体の内面に進入することを防止する。
【0027】
第4発明及び第9発明にあっては、前記X線遮蔽部材を、X線の入射面が球面の一部をなすようにすることにより、X線遮蔽部材の軸方向に平行な側面部分を排除する。これにより、X線遮蔽部材に入射したX線が不要な散乱X線として管状体の内面に進入することを防止する。
【0028】
第5発明及び第9発明にあっては、前記X線遮蔽部材を球状体にする。該X線遮蔽部材を前記管状体に固定する固定部材を前記管状体の内面と該X線遮蔽部材表面との間に複数設ける。これにより、X線遮蔽部材の中心を管状体の軸上に容易に配置する。
【0029】
第6発明及び第9発明にあっては、前記固定部材は、前記管状体の周方向に沿って適長離隔して配置された球状体である。これにより、球状体の径を同一にする場合、前記X線遮蔽部材の中心は管状体の軸上に配置される。
【0030】
第7発明及び第9発明にあっては、前記固定部材は、前記管状体の周方向に沿って適長離隔してあり、前記管状体の軸方向に略平行に配置された棒状体である。これにより、棒状体の径又は厚みを同一にする場合、前記X線遮蔽部材の中心は管状体の軸上に配置される。
【0031】
第8発明及び第9発明にあっては、前記出射側開口端に前記X線遮蔽部材を固定するX線透過シートを備える。これにより、不要なX線は前記X線遮蔽部材で遮蔽するとともに、前記X線透過シートにより多くのX線を透過させる。
【発明の効果】
【0032】
第1発明及び第9発明にあっては、管状体の入射側開口端の口径を前記出射側開口端の口径より大きくし、該出射側開口端の口径と略同寸法の口径を有し、中心が管状体の軸上に配置されたX線遮蔽部材を備えることにより、入射X線が管状体の内面で全反射せずに出射側開口端から直接出射することがなく、出射側開口端の口径を大きくすることができ、出射側開口端から被検査体までの作動距離を長くすることができる。また、作動距離が長くなることにより、被検査体の表面に凹凸がある場合であっても被検査体の所望の箇所にX線を照射することができ、被検査体から放出される蛍光X線の取り出し角を十分確保することができ、被検査体を所望の角度回転させること又は所望の距離移動させることができるため、被検査体の大きさにかかわらず、被検査体の分析、蛍光X線分析、X線回折分析を行うことができる。
【0033】
第2発明及び第9発明にあっては、入射側開口端近傍に固定された環状部材からX線遮蔽部材の中心に向かって配置された複数の支持部材でX線遮蔽部材を支持することにより、簡単な構成で不要なX線を遮蔽することができる。
【0034】
第3発明及び第9発明にあっては、前記X線遮蔽部材は、X線の入射側に向かって縮径した板状体であることにより、不要な散乱X線が入射することを防止することができる。
【0035】
第4発明及び第9発明にあっては、前記X線遮蔽部材は、X線の入射面が球面の一部をなすことにより、不要な散乱X線が入射することを防止することができる。
【0036】
第5発明及び第9発明にあっては、前記X線遮蔽部材は球状体をなし、前記管状体の内面と前記X線遮蔽部材表面との間に該X線遮蔽部材を前記管状体に固定する固定部材を複数備えることにより、X線遮蔽部材の中心を管状体の軸上に容易に配置することができる。
【0037】
第6発明及び第9発明にあっては、前記固定部材は、前記管状体の周方向に沿って適長離隔して配置された球状体であることにより、前記X線遮蔽部材の中心を管状体の軸上に容易に配置することができる。
【0038】
第7発明及び第9発明にあっては、前記固定部材は、前記管状体の周方向に沿って適長離隔してあり、前記管状体の軸方向に略平行に配置された棒状体であることにより、前記X線遮蔽部材の中心を管状体の軸上に容易に配置することができる。
【0039】
第8発明及び第9発明にあっては、前記出射側開口端に前記X線遮蔽部材を固定するX線透過シートを備えることにより、簡単な構成で不要なX線を遮蔽するとともに、多くのX線を集光させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
実施の形態1
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本発明に係るX線集束素子を備えるX線分析装置の構成を示すブロック図である。図において、1はX線のオン/オフ及び出力強度を制御するためのX線シャッター及びフィルタである。X線シャッター及びフィルタ1にはX線集束素子2を取り付けてある。X線シャッター及びフィルタ1から出力された平行X線をX線集束素子2に入射し、X線集束素子2は、入射されたX線をX線集束素子2内面で全反射させて出射し、試料ステージ12の近傍に設けられた開口部15に、例えば、1μm単位の細いビーム径に絞りつつ導く。
【0041】
開口部15は、X線透過体14で塞がれた空間であり、開口部15内は真空である。この場合、X線透過体14で試料ステージ12と開口部15とを区切ることにより開口部15に真空空間を形成しているが、開口部15は大気であってもよく、試料ステージ12を含めた空間全体を真空空間としてもよい。ただし、X線照射空間は2次X線の減衰などを防止するため、真空に保つことが望ましい。
【0042】
開口部15には、X線集束素子2の出射側開口端を配置してある。また、開口部15には、X線を照射した試料(被検査体)13から放出される蛍光X線を検出する蛍光X線検出器8の先端部を配置してある。また、開口部15には、試料ステージ12に配置された試料13を撮像する撮像装置11の受光部を設けてある。
【0043】
X線透過体14の下側には、例えば、環状であって回折X線を検出する回折X線検出器9を配置してあり、試料ステージ12の試料13を配置した反対側には、試料13を透過した透過X線を検出する透過X線検出器10を配置している。なお、回折X線検出器9は環状に限定されるものではなく、環状以外の形状であってもよい。
【0044】
試料ステージ12には、モータ7が取り付けてあり、モータ7は、試料ステージ12を、試料ステージ12の試料13配置面と平行な直交する2方向(X方向及びY方向)に移動するとともに、X線の試料13に対する照射方向を所望の角度に回転する。また、モータ7は、試料ステージ12を、試料ステージ12の試料13配置面の法線方向に移動し、開口部15との距離を調節する。なお、回折X線の分析の際には、さらに、R、θ、ψの3軸の回転を行うステージ(不図示)が用いられる。
【0045】
モータ7にはステージコントローラ6を接続してあり、ステージコントローラ6は、モータ7を制御することにより、試料ステージ12に配置した試料13の位置制御を行う。
【0046】
X線シャッター及びフィルタ1には、X線コントローラ3を接続してあり、X線コントローラ3は、シャッターの開閉及びフィルタの切り替えを行って、X線のオン/オフ及び出力強度を制御する。
【0047】
撮像装置11、X線コントローラ3、ステージコントローラ6には、データ処理部5を接続してあり、データ処理部5は、通信インタフェース部(不図示)を介して撮像装置11、X線コントローラ3、及びステージコントローラ6に制御信号を送信して、撮像装置11、X線コントローラ3、及びステージコントローラ6の動作を制御する。また、データ処理部5には、通信インタフェース部を介して、コンピュータ4、蛍光X線検出器8、回折X線検出器9、透過X線検出器10を接続してある。
【0048】
データ処理部5は、コンピュータ4からX線シャッター及びフィルタ1の制御パラメータを受信した場合、受信したパラメータに応じた制御信号を生成し、X線コントローラ3へ送信する。X線コントローラ3は、受信した制御信号に基づいてX線シャッター及びフィルタ1で発生するX線のオン/オフを制御するとともに出力強度を制御する。
【0049】
また、データ処理部5は、コンピュータ4から撮像装置11の制御パラメータを受信した場合、受信したパラメータに応じた制御信号を生成し、撮像装置11へ送信する。撮像装置11は、受信した制御信号に基づいて試料ステージ12に配置した試料13を撮像し、撮像画像(静止画像を含む)をコンピュータ4へ送信する。
【0050】
また、データ処理部5は、コンピュータ4から試料ステージ12の制御パラメータを受信した場合、受信したパラメータに応じた制御信号を生成し、ステージコントローラ6へ送信する。ステージコントローラ6は、受信した制御信号に基づいてモータ7を駆動して、試料ステージ12を移動又は回転させる。例えば、データ処理部5は、撮像装置11で撮像した試料の撮像画像をコンピュータ4へ送信し、コンピュータ4の表示部(不図示)で撮像画像を画面表示させ、画面上の操作ボタンを操作することにより、データ処理部5は、コンピュータ4から試料ステージ12の制御パラメータを受信する。これにより、コンピュータ4の表示部に表示された試料13の撮像画像を見ながら、試料13の位置を制御することができる。
【0051】
また、データ処理部5は、蛍光X線検出器8、回折X線検出器9、透過X線検出器10で検出した検出信号を、通信インタフェース部(不図示)を介して受信し、受信した検出信号に基づいて所定のデータ処理を行ない、処理結果をコンピュータ4へ出力する。
【0052】
コンピュータ4は、CPU、RAM、各種データを記憶する記憶部、データ処理部5などとの間でデータ通信を行うための通信部、マウス、キーボード等の入出力部、ディスプレイ等の表示部(いずれも不図示)などを備えている。データ処理部5から出力されたデータに基づいて、試料13に対する所定の分析処理を行ない、分析結果を表示部に表示し、又は記憶部(不図示)に記憶する。
【0053】
図2はX線集束素子2の外観斜視図である。X線集束素子2は、ガラス製のキャピラリ(管状体)20と後述するX線遮蔽部材23とを備え、キャピラリ20の軸方向の長さは、例えば、100mm、200mmである。X線が入射する入射側のキャピラリ20の径は、例えば、5mmであり、入射側開口端22の口径は、1mm程度である。また、X線が出射する出射側のキャピラリ20の径は、例えば、4.6mmであり、出射側開口端21の口径は、0.6mm程度である。
【0054】
図3はキャピラリ20の縦断面を示す模式図である。図に示すように、キャピラリ20の軸をx軸とし、キャピラリ20の一径方向をy軸とする。キャピラリ20は、x軸の回りに回転対称をなし、キャピラリ20の内面20aは回転放物面をなす。キャピラリ20の入射側開口端22の口径φ2は、出射側開口端21の口径φ1より大きく(φ2>φ1)、出射側開口端21の口径φ1と同じ口径を有する円板状のX線遮蔽部材23をキャピラリ20の入射側開口端22近傍に設けている。
【0055】
入射側開口端22からキャピラリ20の軸(x軸)に平行に入射したX線は、キャピラリ内面20aに入射角θで入射し、入射角θが全反射臨界角θcより小さい場合、キャピラリ内面20aで全反射して、出射側開口端21より出射され焦点Fに集束する。軸(x軸)を中心として口径φ1内に入射するX線は、X線遮蔽部材23により遮蔽される。これにより、入射側開口端22から入射したX線は、すべてキャピラリ内面20aで全反射されて出射側開口端21より出射され焦点F(試料13の位置)に集束し(例えば、X線ビーム径は1μm程度)、キャピラリ内面20aで全反射されずに直接出射側開口端21より出射されることはない。
【0056】
キャピラリ内面20aの放物面をy2 =4axとする。入射側開口端の点P2の座標をP2(x2、y2)、出射側開口端の点P1の座標をP1(x1、y1)、点P1におけるx軸となす角度をθ、放物面の焦点Fの座標をF(a、0)とする。
【0057】
数1に示すように、y2 =4axをxについて微分することにより、aは式(1)で表される。ここで、y´は式(2)で表されるから、y´は式(3)で表すことができる。式(3)を式(1)に代入することにより、aは式(4)で表される。また、キャピラリ20の長さ(軸方向寸法)をLとすると、y2は式(5)で表される。また、出射側開口端21から焦点Fまでの距離Sは式(6)で表される。また、X線の集束効率Eは、式(7)で表される。
【0058】
【数1】

【0059】
次に具体的な数値を当てはめて説明する。キャピラリ20の長さLを100mm、X線遮蔽部材23の口径、及び出射側開口端21の口径を0.6mm、すなわち、点P1のy座標y1を0.3mm、全反射臨界角θcを3mradとする。なお、全反射臨界角θcは、X線のエネルギーなどにより変化する。この場合、例えば、X線のエネルギーは10keV程度である。
【0060】
上記の各条件の場合、式(4)よりa=0.00045mm、x1=y12 /4aよりx1=50mm、式(5)よりy2=0.52mm、式(6)より作動距離WDであるS=50.0mm、式(7)よりX線の集束効率E=66.7%となる。そして、放射光施設で使用した場合、入射X線の輝度として、1012photon/sec/mm2とすると、前記入射X線の径を1μmに絞ることにより、7×1017photon/sec/mm2 が実現できる。
【0061】
また、キャピラリ20の長さLを100mm、X線遮蔽部材23の口径、及び出射側開口端21の口径を0.6mm、すなわち、点P1のy座標y1を0.3mm、全反射臨界角θcを4mradとする。なお、全反射臨界角θcは、X線のエネルギーなどにより変化する。この場合、例えば、X線のエネルギーは7.5keV程度である。
【0062】
上記の各条件の場合、式(4)よりa=0.00060mm、式(5)よりy2=0.574mm、式(6)より作動距離WDであるS=37.5mm、式(7)よりX線の集束効率E=72.7%となる。
【0063】
上述のとおり、X線のエネルギーがより小さいものを使用する場合(すなわち、全反射臨界角θcが大きくなる場合)、出射点から焦点位置までの作動距離WDは小さくなるがX線の集束効率は向上する。また、X線のエネルギーがより大きいものを使用する場合(すなわち、全反射臨界角θcが小さくなる場合)、作動距離WDは大きくなるがX線の集束効率は低下する。これらの数値例は、一例であって、所望の作動距離WD、X線集束効率を得るために任意に設定することが可能であるが、いずれにしても、作動距離WDを十分確保することができるとともに、高効率でX線を試料に集束させることができる。
【0064】
図4はX線遮蔽部材23の形状を示す説明図である。図4(a)はX線遮蔽部材23の正面図を示し、図4(b)は縦断面図を示す。X線遮蔽部材23は、入射側開口端22の口径(キャピラリ20の外径)と略同径の環状部材232からX線遮蔽部材23を支持する3本の支持部材233をX線遮蔽部材23の中心に向かって設け、環状部材232をキャピラリ20に固定している。
【0065】
環状部材232、支持部材233、X線遮蔽部材23は、タンタル、タングステン、モリブデンなどのX線を遮蔽する金属を用いて一体成形により形成することができる。なお、X線遮蔽部材23の軸方向寸法(厚さ)は、X線を遮蔽するのに十分な寸法を設定することができる。また、支持部材233は、X線の入射を遮らないように、X線の入射面に対する面積をできるだけ小さくすることが好ましく、かつX線遮蔽部材23を支持するに十分な強度を確保するため、細い棒状であって、軸の周りに相互に120度の角度をなすように配置することができる。なお、支持部材233は、3本に限られるものではなく、2本又は4本以上であってもよいが、強度及びX線の遮蔽抑制のためには、3本が適している。
X線遮蔽部材の形状は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、他の形状のものであってもよい。
【0066】
実施の形態2
図5はX線遮蔽部材の他の形状を示す説明図である。図5(a)はX線遮蔽部材24の正面図を示し、図5(b)は縦断面図を示す。実施の形態1との相違点は、X線遮蔽部材24の口径がX線の入射側に沿って縮径している点にある。
【0067】
X線遮蔽部材24は、入射側開口端22の口径(キャピラリ20の外径)と略同径の環状部材242からX線遮蔽部材24を支持する3本の支持部材243をX線遮蔽部材24の中心に向かって設け、環状部材242をキャピラリ20に固定している。この場合、入射側開口端22から入射したX線が、X線遮蔽部材24の軸方向に沿った側面で反射したときに、入射したX線の進行方向を大きく変えるため、X線遮蔽部材24で反射した不要な散乱X線がキャピラリ20内を進入することを防止する。
【0068】
実施の形態3
図6はX線遮蔽部材の他の形状を示す説明図である。図6(a)はX線遮蔽部材25の正面図を示し、図6(b)は縦断面図を示す。実施の形態1との相違点は、X線遮蔽部材25のX線の入射面が球面の一部をなすようにしている点にある。
【0069】
X線遮蔽部材25は、入射側開口端22の口径(キャピラリ20の外径)と略同径の環状部材252からX線遮蔽部材25を支持する3本の支持部材253をX線遮蔽部材25の中心に向かって設け、環状部材252をキャピラリ20に固定している。この場合、入射側開口端22から入射したX線が、X線遮蔽部材25の軸方向に沿った側面で反射することなく、入射したX線を遮蔽するため、X線遮蔽部材25で反射した不要な散乱X線がキャピラリ20内を進入することを防止する。
【0070】
実施の形態4
図7はX線遮蔽部材の他の形状を示す説明図である。図7(a)はX線遮蔽部材26の正面図を示し、図7(b)は縦断面図を示す。実施の形態1との相違点は、X線遮蔽部材26は球状体をなし、支持部材233に代えて球状体の固定部材27を用いる点にある。
【0071】
X線遮蔽部材26は、タンタル、タングステン、モリブデンなどの金属性であって、出射側開口端21の口径φ1と同寸法の口径を有する。固定部材27は、X線遮蔽部材26の口径よりも小径の球状体であって、キャピラリ20の周方向に沿って適長離隔して配置してある。これにより、X線遮蔽部材26の中心はキャピラリ20の軸上に配置される。
【0072】
また、入射側開口端22から入射したX線が、X線遮蔽部材26の軸方向に沿った側面で反射することなく、入射したX線を遮蔽するため、X線遮蔽部材26で反射した不要な散乱X線がキャピラリ20内を進入することを防止する。また、固定部材27は、X線の入射を遮らないように、径をできるだけ小さくすることが好ましく、軸の周りに相互に120度の角度をなすように配置することができる。なお、固定部材27は、3個に限られるものではなく、2個又は4個以上であってもよい。
【0073】
実施の形態5
固定部材27の形状は、上述の実施の形態4に限定されるものではなく、他の形状のものであってもよい。図8は固定部材の他の形状を示す説明図である。図8(a)は固定部材28の正面図を示し、図8(b)は縦断面図を示す。実施の形態4との相違点は、固定部材28は、球状体に代えて棒状体をなす点にある。
【0074】
固定部材28は、キャピラリ20の周方向に沿って適長離隔してあり、キャピラリ20の軸方向に略平行に配置された棒状体である。これにより、X線遮蔽部材26の中心は管状体の軸上に配置される。
【0075】
また、入射側開口端22から入射したX線が、X線遮蔽部材26の軸方向に沿った側面で反射することなく、入射したX線を遮蔽するため、X線遮蔽部材26で反射した不要な散乱X線がキャピラリ20内を進入することを防止する。また、固定部材28は、X線の入射を遮らないように、できるだけ肉厚を小さくすることが好ましく、軸の周りに相互に120度の角度をなすように配置することができる。なお、固定部材28は、3個に限られるものではなく、2個又は4個以上であってもよい。
【0076】
実施の形態6
X線遮蔽部材の固定方法は、実施の形態1〜5に限定されるものではなく、他の固定方法を用いることもできる。図9はX線遮蔽部材の他の固定例を示す説明図である。図9(a)はX線集束素子2の正面図を示し、図9(b)はX線集束素子2の縦断面図を示す。図において、30はX線透過率の高い樹脂フィルム(例えば、PETシートなど)である。樹脂フィルム30をキャピラリ20の出射側開口端21に貼付し、樹脂フィルム30の中央部には、出射側開口端21の口径φ1と同じ口径を有する半円球状のX線遮蔽部材29を出射側開口端21の外側に向かって固定してある。
【0077】
樹脂フィルム30の位置を調整することにより、X線遮蔽部材29の中心がキャピラリ20の軸上に位置するように容易に調整することができる。この場合、X線の透過率の高い樹脂フィルム30を用いることにより、入射側開口端22から入射したX線は、X線遮蔽部材29で遮蔽されるとともに、必要なX線は樹脂フィルム30を透過するため、多くのX線を集束させることができる。
【0078】
上述の実施の形態6では、X線遮蔽部材29を樹脂フィルム30に対して出射側開口端21の外側に向かって配置する構成であったが、これに限定されるものではなく、X線遮蔽部材29を樹脂フィルム30に対して出射側開口端21の内側に向かって配置する構成であってもよい。
【0079】
以上説明したように、本発明にあっては、キャピラリ20の入射側開口端22の口径φ2を出射側開口端21の口径φ1より大きくし、キャピラリ20の軸上に中心を配置し、該軸からの口径が出射側開口端21の口径φ1と同寸法のX線遮蔽部材を備えることにより、入射X線がキャピラリ20の内面で全反射せずに出射側開口端21から直接出射することがなく、出射側開口端21の口径φ1を大きくすることができ、出射側開口端21から試料13までの作動距離を長くすることができるとともに、簡単な構造でX線を高効率で集束させることができるX線集束素子を実現することができる。
【0080】
また、X線集束素子の作動距離が長くなることにより、試料の表面に凹凸がある場合であっても試料の所望の箇所にX線を照射することができ、試料から放出される蛍光X線の取り出し角を十分確保することができ、試料を所望の角度回転させること又は所望の距離移動させることができるため、試料の大きさにかかわらず、試料の分析、蛍光X線分析、X線回折分析を行うことができるX線分析装置を実現することができる。
【0081】
上述の実施の形態においては、X線遮蔽部材を入射側開口端22の近傍に配置する構成であったが、X線遮蔽部材のキャピラリ軸上の位置はこれに限定されるものではなく、X線源とキャピラリとの間に配置してもよく、また、キャピラリ内の任意の位置に配置することもできる。例えば、キャピラリを中途部で2分割し、分割された一方のキャピラリの開口端近傍にX線遮蔽部材を設け、分割されたキャピラリ同士を固定することもできる。
【0082】
上述の実施の形態においては、キャピラリ20の入射側開口端22からキャピラリ20の軸に平行な平行X線を入射させ、X線を集束する構成であったが、キャピラリの内面を回転放物面又は回転楕円面で構成し、一方の焦点位置に点光源のX線源を配置し、X線源から入射したX線をキャピラリ内面で全反射させて平行X線にし、平行X線を再度キャピラリの内面で全反射させて他方の焦点位置にX線を集束させるとともに、入射側開口端の口径と略同寸法の口径を有するX線遮蔽部材をキャピラリ内部に配置して、入射側開口端から出射側開口端に直接通過するX線を遮蔽するような構成であってもよい。
【0083】
上述の実施の形態においては、X線集束素子2をX線分析装置に採用した例を説明したが、X線集束素子の適用例は、これに限定されるものではなく、例えば、集束されたX線ビームを試料に照射し、試料から放出される光電子を計測するような光電子顕微鏡にも適用することができる。この場合、X線ビームを微細焦点に高効率で集束させることができるため、X線密度が向上し、従来に比べて高速、かつリアルタイムで試料の観測を行うことができる。また、その他に、X線リソグラフィ、X線を用いて化学反応を起こす装置、X線顕微鏡の照射側レンズなど、X線を照射するX線照射装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に係るX線集束素子を備えるX線分析装置の構成を示すブロック図である。
【図2】X線集束素子の外観斜視図である。
【図3】キャピラリの縦断面を示す模式図である。
【図4】X線遮蔽部材の形状を示す説明図である。
【図5】X線遮蔽部材の他の形状を示す説明図である。
【図6】X線遮蔽部材の他の形状を示す説明図である。
【図7】X線遮蔽部材の他の形状を示す説明図である。
【図8】固定部材の他の形状を示す説明図である。
【図9】X線遮蔽部材の他の固定例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0085】
2 X線集束素子
20 キャピラリ
21 出射側開口端
22 入射側開口端
23、24、25、26 29 X線遮蔽部材
30 樹脂フィルム
232、242、252 環状部材
233、243、253 支持部材
27、28 固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状体を備え、一側開口端から入射したX線を前記管状体の内面で反射し、反射したX線を他側開口端より出射して集束するX線集束素子において、
入射側開口端の口径は、出射側開口端の口径より大きく、
該出射側開口端の口径と略同寸法の口径を有し、中心が前記管状体の軸上に配置されたX線遮蔽部材を備えることを特徴とするX線集束素子。
【請求項2】
前記入射側開口端近傍に固定された環状部材と、
該環状部材から前記X線遮蔽部材の中心に向かって配置され、該X線遮蔽部材を支持する複数の支持部材と
を備えることを特徴とする請求項1に記載のX線集束素子。
【請求項3】
前記X線遮蔽部材は、
X線の入射側に向かって縮径してなる板状体であることを特徴とする請求項2に記載のX線集束素子。
【請求項4】
前記X線遮蔽部材は、
X線の入射面が球面の一部をなすことを特徴とする請求項2に記載のX線集束素子。
【請求項5】
前記X線遮蔽部材は、球状体をなし、
前記管状体の内面と該X線遮蔽部材表面との間に、該X線遮蔽部材を前記管状体に固定する固定部材を複数備えることを特徴とする請求項1に記載のX線集束素子。
【請求項6】
前記固定部材は、前記管状体の周方向に沿って離隔して配置された球状体であることを特徴とする請求項5に記載のX線集束素子。
【請求項7】
前記固定部材は、前記管状体の周方向に沿って適長離隔してあり、前記管状体の軸方向に略平行に配置された棒状体であることを特徴とする請求項5に記載のX線集束素子。
【請求項8】
前記出射側開口端に前記X線遮蔽部材を固定するX線透過シートを備えることを特徴とする請求項1に記載のX線集束素子。
【請求項9】
X線源から放射されたX線を集束するX線集束素子を備え、集束されたX線を照射するX線照射装置において、
前記X線集束素子は、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のX線集束素子であることを特徴とするX線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−225314(P2007−225314A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43960(P2006−43960)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】