説明

X線CT装置

【課題】X線の線量分布の差が低減されて、各検出器列からの投影データに基づき再構成される複数枚の断層画像の画質の差を抑えることができるX線CT装置を提供する。
【解決手段】X線管は、電子線を放出する陰極と、陰極と対向する位置に傾斜面が形成され、放出された電子線が傾斜面に衝突することで、傾斜面の傾斜角度に応じた方向にX線を放出する円盤状のターゲットとを備え、ターゲットの傾斜面は、円周方向に等分された複数の領域からなり、複数の領域における傾斜角度は、互いに隣接する領域と異なり、隣接する領域の境界部分は、滑らかに繋がれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体に対して回転陽極X線管からX線を照射して、その透過X線を被検体の体軸方向に配列された複数の検出器列を有する検出器により検出することで、被検体の体軸方向に関する断層画像を同時に複数枚再構成するX線CT装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線CT装置のX線照射源として、回転陽極X線管が用いられている。この回転陽極X線管は、主に、熱電子を放出するフィラメントと、このフィラメントの周囲に配置され、フィラメントから放出された熱電子を集束して、陽極のターゲット上に焦点を形成する集束溝を有する集束電極と、から構成される陰極部と、この陰極部に対向して配置され、傘状の対向面を有するターゲットと、このターゲットを支持して回転させる回転機構部と、この回転機構部を回転自在に支持する固定部と、から構成される陽極部と、これら陰極部と陽極部とを絶縁して支持し、真空気密に封入する外囲器と、から構成されている。
【0003】
当該回転陽極X線管は、陰極部と陽極部との間に高電圧が印加されることで、ターゲット上の焦点からX線を放出する構成であると共に、この際に陽極部から大量の熱を発生することから、X線管容器(以下、管容器と略す)内に封入して使用される。より詳細には、この管容器内において、回転陽極X線管は絶縁支持され、絶縁油中に浸漬される。この管容器には、回転陽極X線管のターゲットの近傍にX線放出窓が、陰極部及び陽極部の近傍には、高電圧を導入するためのケーブルレセプタクルが設けられている。陰極側のケーブルレセプタクルに陰極側高電圧ケーブルが接続され、負の高電圧と、フィラメントを加熱するためのフィラメント加熱電圧が導入される。また、陽極側のケーブルレセプタクルには、陽極側高電圧ケーブルが接続され、正の高電圧が導入される(但し、近年においては陽極側のケーブルレセプタクルを接地させる陽極接地型のものもある)。また、陽極部の回転機構部の周囲には、陽極部を回転させるためのステータが取り付けられる。
【0004】
当該回転陽極X線管は、上述したように、陰極部と陽極部との間に高電圧(百数十kV)が印加され、陰極部のフィラメントから放出された熱電子が陽極部のターゲットに衝突することによりX線を発生する。フィラメントは、タングステンなどの電子放射材料から成る細線をコイル状に巻いた構造をしており、フィラメント加熱電流を流すことによって高温に加熱される。加熱されたフィラメントからは、その温度に応じた量の熱電子が放出され、陰極部と陽極部間に印加された高電圧によって形成される電界によって、電子線として陽極部に向けて加速される。このとき、電子線は集束電極の集束溝によって形成される電界によって、陽極部のターゲット上で所望の寸法の焦点となるように集束される。
【0005】
この電子線の流れがX線管電流であり、陰極部と陽極部の間に印加される高電圧がX線管電圧である。ターゲットで発生するX線の線量は、このX線管電流及びX線管電圧の値が大きい程大きくなる。また、X線の線量はターゲットの材質にも依存し、ターゲット材料の原子番号が大きい程大きくなる。しかし、X線撮影に使用されるX線管電圧の領域でのX線の発生効率は非常に低く、1%以下であるため、ターゲットの焦点に衝突する電子線によって入力されるエネルギーの大部分は熱エネルギーに変換される。このため、陽極部のターゲットは、電子ビームによる焦点の局所的な過熱を防ぐために、回転機構部により高速に回転される。
【0006】
また、ターゲットは、上述したように、傘状の対向面を有しており、ターゲットで発生するX線は、この対向面の傾斜角(より詳細には、当該ターゲットの回転軸に直交する面に対する傾斜角であり、以下、ターゲット角と称する)に応じた方向に放出される。そして、X線放射窓を透過したX線は、被検体に対して照射される。尚、このターゲットの形状は、例えば特開2001−76657号公報に開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
ところで、この回転陽極X線管は、被検体の体軸方向に関する複数枚の断層画像を再構成することが可能なマルチスライス型X線CT装置に利用されている。このマルチスライス型X線CT装置においては、複数枚の断層画像を再構成するために、その各々に対応する透過X線量を同時に収集するべく、被検体の体軸方向(以下、スライス方向とも称する)に複数の検出器列を有する検出器、具体的には、多列検出器又は平面検出器を備えている。
【0008】
ところが、このような検出器においては、回転陽極X線管に対するスライス方向における各検出器列の位置の差が大きくなるために、図9に示すように、各検出器列のスライス方向の位置によって、これに照射されるX線の見かけの焦点サイズや線量、線質等に差(以下、これらをX線の線質の感度変化と称する)が生じることになる。特に、最近のマルチスライス型X線CT装置においては、検出器列の数は、128〜256といった膨大な数に及ぶため、これに伴い各検出器列のスライス方向における位置の差も非常に大きなものとなるので、このX線の線質の感度変化を無視することが出来ない現状がある。因みに、これまでのマルチスライス型X線CT装置においては、検出器列の数は、4〜16程度であり、各検出器列のスライス方向における位置の差もそれ程大きくなかったため、このX線の線質の感度変化は無視することができた。
【0009】
また一方で、最近のマルチスライス型X線CT装置においては、断層画像をより高分解能にて再構成するために、より正確な投影データを収集することが要求されている。これを実現するためには、正確で一様なX線量分布を有するX線を被検体に対して照射し、各検出器列によってその投影データを収集することが条件とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−76657号公報(段落〔0016〕‐〔0019〕、第1図及び第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述したように、回転陽極X線管から照射されるX線の線量分布は、被検体の体幅方向に関してはほぼ一様な分布となるが、体軸方向に関しては、各検出器列のスライス方向における位置に応じた差をもつ分布、具体的には、なだらかな傾斜をもつ分布となるため、各検出器列により検出される投影データに基づき再構成される断層画像の画質は、当該検出器列の位置の差に起因するこのX線の線量分布の差により不均一なものになってしまう問題がある。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、被検体の体軸方向に複数の検出器列を有する検出器を用いることにより発生する、回転陽極X線管から照射されるX線の当該検出器の各検出器列における線量分布の差を低減することで、各検出器列からの投影データに基づき再構成される複数枚の断層画像の画質の差を抑えることが可能なX線CT装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、X線管と、被検体の体軸方向に複数の検出器列を配列してなり、被検体を透過したX線を検出する検出器とを備え、前記X線管及び前記検出器前記被検体の体軸周りに回転させつつ、前記検出器により検出されたX線の線量に基づき、前記被検体の断層画像を再構成するX線CT装置において、前記X線管は、電子線を放出する陰極と、前記陰極と対向する位置に傾斜面が形成され、前記放出された電子線が当該傾斜面に衝突することで、当該傾斜面の傾斜角度に応じた方向にX線を放出する円盤状のターゲットとを備え、前記ターゲットの傾斜面は、前記円周方向に等分された複数の領域からなり、当該複数の領域における傾斜角度は、互いに隣接する領域と異なり、前記隣接する領域の境界部分は、滑らかに繋がれていることを特徴とするX線CT装置である。
【0014】
上記課題を解決するために、請求項2記載の発明は、請求項1記載のX線CT装置であって、前記検出器において前記複数の検出器列毎のX線の線量の検出が一通り完了するまでの検出周期を導出する周期導出手段と、前記導出された検出周期に基づいて、当該検出周期が前記ターゲットの回転周期の整数倍となるように前記ステータコイルにより前記円盤状のターゲットの回転数を調整する制御を行う回転制御部と、をさらに備えたことを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決するために、請求項3記載の発明は、請求項2記載のX線CT装置であって、前記周期導出手段は、前記検出器において前記複数の検出器列毎のX線の線量の検出が開始された時点から終了された時点までの時間を前記検出周期として検知する開始/終了検知手段と、を有していることを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決するために、請求項4記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のX線CT装置であって、前記ターゲットの回転位置を検出する位置検出手段と、前記陰極から放出される電子線の進行を妨げる方向に磁界を発生させることで、前記陰極から前記電子線が放出されることを抑制する電子線放出抑制手段と、前記検出された回転位置に基づいて、前記複数の領域の境界部分を特定して、前記電子線が当該境界部分を避けて衝突するように前記電子線放出抑制手段により前記陰極から前記電子線を放出するタイミングを調整する制御を行う電子線放出制御手段と、をさらに備えたことを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決するために、請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のX線CT装置であって、前記ターゲットの傾斜面を等分する複数の領域は、前記ターゲットの回転軸を基準とする点対象となるように、その個数と傾斜角度とが決定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明である請求項1に係るX線CT装置によれば、X線を放出するターゲットの傾斜面が、円周方向に等分された複数の領域からなり、当該複数の領域における傾斜角度が互いに隣接する領域と異なる角度を有しているので、当該ターゲットから放出されるX線の照射方向を複数回に亘って切り替えて、その線量分布の差を低減することができる。従って、被検体の体軸方向に複数配列される各検出器列においては、X線の線量分布の差が低減されて、各検出器列からの投影データに基づき再構成される複数枚の断層画像の画質の差を抑えることができる。また、隣接する領域の境界部分を滑らかに繋いだので、X線の線量分布を滑らかに連続させることが可能となる。
【0019】
また、本発明である請求項2及び請求項3に係るX線CT装置によれば、検出器において複数の検出器列毎のX線の線量の検出が一通り完了するまでの検出周期内に、ターゲットから放出されるX線の照射方向を複数回に亘って切り替えることができるので、適正に各検出器列におけるX線の線量分布の差を低減することができる。
【0020】
また、本発明である請求項4に係るX線CT装置によれば、ターゲットの回転位置を検出することで、当該ターゲットの傾斜面の複数の領域の境界部分を特定して、陰極から放出される電子線が当該境界部分を避けて衝突するように、そのタイミングを調整することができるので、ターゲットから適正にX線を放出することができる。
【0021】
また、本発明である請求項5に係るX線CT装置によれば、ターゲットの傾斜面を等分する複数の領域が、当該ターゲットの回転軸を基準とする点対象となるように、その個数と傾斜角度とが設けられるので、当該ターゲットの回転時における安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るX線CT装置の一実施形態における全体構成を表す構成図である。
【図2】図1に示す回転陽極X線管の全体構成を表す断面図である。
【図3】図1に示すX線検出器アレイの詳細構成を説明するための説明図である。
【図4】図4(A)は図2に示すターゲットの全体構成を表す側面図であり、図4(B)は図2に示すターゲットの全体構成を表す正面図である。
【図5】図5(A)は、図4(A)、図4(B)に示すターゲットにより、X線検出器アレイの各検出器列に照射されるX線の線量分布の差が低減されることを説明するための説明図であり、図5(B)は、図4(A)、図4(B)に示すターゲットにより、X線検出器アレイの各検出器列に照射されるX線の線量分布の差が低減されることを説明するための説明図である。
【図6】図4(A)、図4(B)に示すターゲットにより、X線検出器アレイの各検出器列に照射されるX線の線量分布の差が低減されることを説明するための説明図である。
【図7】図1に示すX線CT装置において、ターゲットの回転周期をX線検出器アレイのデータ収集周期の整数分の1に調整する制御を行うための制御構成を表すブロック図である。
【図8】図1に示すX線CT装置において、ターゲットの複数の傾斜面の境界部分を避けてフィラメントからの熱電子が衝突するように、フィラメントから発生する熱電子の出力制御を行うための制御構成を表すブロック図である。
【図9】従来のX線CT装置に用いられる回転陽極X線管のターゲットにより多列検出器を構成する各検出器列に照射されるX線の線量分布に差が生じることを説明するための説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係るX線CT装置の好適な実施の形態の一例について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0024】
[X線CT装置]
<X線CT装置の構成>
まず、本実施形態におけるX線CT装置の全体構成について、図1を参照しながら説明する。図1に示すように、当該X線CT装置は、主に、被検体Pの体幅方向に扇状に広がるX線により、被検体PのAxial/Hericlスキャンを行う走査ガントリ10と、被検体Pを載せて体軸方向に移動させる撮影テーブル19と、ユーザがこれらの操作を行うための操作コンソール40と、を含み構成されている。
【0025】
走査ガントリ10は、回転陽極X線管11と、この回転陽極X線管11の管電圧、管電流、曝射時間等を制御するX線制御部12と、X線の体幅方向及び体軸方向の曝射範囲を制限するコリメータ13と、このコリメータ13の位置制御を行うコリメータ制御部14と、多数のX線検出素子をマトリクス状に配列した多列検出器であるX線検出器アレイ16と、このX線検出器アレイ16の検出データ、即ち、投影データを収集するデータ収集部(DAS)17と、これらを被検体Pの体軸回りに回転させる回転機構部15と、を含み構成されている。
【0026】
X線検出器アレイ16は、図2に示すように、多数のX線検出素子が被検体Pの体軸方向及び体幅方向にマトリクス状に配列された構成となっており、スライス方向に配列された検出器列毎に投影データを収集する。
【0027】
また、操作コンソール40は、当該X線CT装置の主制御処理(スキャン制御、断層画像再構成処理等)を行う中央処理装置41(そのCPU41a及びこのCPU41aが使用する主メモリ(MEM)41bから成る)と、キーボードやマスス等から成る入力装置42と、撮影計画のための撮像パラメータ(管電圧、管電流、スキャン時間、被検体体軸方向のスライス厚等)や撮影結果の断層画像等を表示するための表示装置(CRT)43と、CPU41aと走査ガントリ10や撮影テーブル19との間で各種の制御信号やモニタ信号のやり取りを行う制御インタフェース44と、データ収集部17からの投影データを蓄積するデータ収集バッファ45と、X線CT装置の運用に必要な各種データやアプリケーションプログラム等を記憶する二次記憶装置(ディスク等)46と、CPU41aの共通バス47と、を含み構成されている。
【0028】
このような構成において、当該X線CT装置において行われるX線撮影の動作を説明すると、回転陽極X線管11から照射されるX線は、被検体Pを透過してX線検出器アレイ16の各検出器列に一斉に入射する。データ収集部17は、X線検出器アレイ16の各検出器列から被検体Pの投影データを収集(この際、スライス方向に配列された各検出器列において順次投影データ収集する走査が行われる)して、データ収集バッファ45に格納する。さらに、走査ガントリ10が僅かに回転した位置において、上述した撮影を再度行い、その投影データを収集、蓄積する。以下、同様にして走査ガントリ10の1回転分の投影データを収集、蓄積すると共に、Axial/Hericlスキャン方式に従って撮影テーブル19を被検体Pの体軸方向に間欠的/連続的に移動させて、被検体Pの所要撮影領域についての全投影データを収集、蓄積する。そして、CPU41aは、得られた全投影データに基づき、被検体PのCT断層像を複数枚再構成し、表示装置43に表示する。
【0029】
<回転陽極X線管の構成>
次に、図1に示す回転陽極X線管11の全体構成について、図3を参照しつつ説明する。図3に示すように、回転陽極X線管11は、管内を真空に保つ外囲器61と、熱電子を発生するフィラメント62と、このフィラメント62から発生し、加速された熱電子を集束する集束電極63と、これらフィラメント62及び集束電極63を支持する陰極スリーブ64と、傘状のタングステン円盤等から成り、熱電子が衝突することでX線を発生するターゲット65と、このターゲット65を回転支持する回転陽極子67と、この回転陽極子67を軸支するベアリング68と、当該回転陽極X線管11の陽極側を支持する陽極軸69と、を含み構成されている。尚、回転陽極子67は、外囲器61の周囲に設けられた不図示のステータコイルから加わる磁界(回転磁界等)によって高速で回転する。また、ターゲット65の傘状部分の傾斜角度は、当該ターゲット65から放出されるX線がX線検出器アレイ16の各検出器列に一斉に入射するように設けられている。また、当該回転陽極X線管11からは大量の熱が発生することから、その周囲をアルミ製等のハウジング70で覆い、この中に外部から冷却油を循環させて当該回転陽極X線管11を強制冷却することが行われる。
【0030】
このような構成において、フィラメント62で発生した熱電子は、陰極スリーブ64と回転陽極子67との間に印加される高電圧によって加速され、電子線として集束電極63により集束されて、ターゲット65上の小さな焦点66に衝突する。これにより、ターゲット65の焦点66においてX線が発生する。一般に、熱電子のX線への変換効率は1%以下と低く、このためエネルギーの大半は熱に変換され、焦点66において高熱が発生するため、回転陽極子67(ターゲット65)を陽極軸69の回りに高速(130〜160Hz程度)で回転させて、焦点66の実効面積を拡大し、所要のX線出力を得ると共に、X線管11の故障や破損につながる過熱を防止することが行われる。
【0031】
<ターゲットの構成>
ここで、本発明の特徴部分である回転陽極X線管11のターゲット65の全体構成について、図4(A)、図4(B)を参照しながら説明する。図4(A)、図4(B)に示すように、ターゲット65は、例えばその円周方向に複数の領域に区分された傾斜面、具体的には、回転角90度毎に、その傾斜角(以下、ターゲット角と称する)を6度と10度とで交互に入れ替えた複数の傾斜面を有している。即ち、当該ターゲット65がステータコイルからの回転磁界により90度回転される毎に、6度と10度とでターゲット角が切り替えられて、当該ターゲット65から発生するX線は、そのターゲット角に応じた方向に、且つ、X線検出器アレイ16のスライス方向の各検出器列に対してその線量分布が一様となるように照射される構成となっている。因みに、ターゲット65の互いに隣接する傾斜面の境界部分は、エッジにより熱電子のエネルギーが極端に損失されることを防止するために滑らかに繋がれている。
【0032】
尚、当該ターゲット65の複数の傾斜面の個数と、そのターゲット角とは、当該ターゲット65の回転時における安定性を考慮して、それらの回転重心が当該ターゲット65の回転軸上に位置するように、当該ターゲット65の回転軸を基準とする点対象となるべく設けられることとする。具体的には、複数の傾斜面の個数は、4個若しくは8個に決定されることが好ましく、また、それらのターゲット角は、互いに異なる角度が交互に同じ回数だけ繰り返されることが好ましい。ここで、ターゲット角としては、当該ターゲット角がターゲット65とX線検出器アレイ16間の距離や、ターゲット64に衝突するフィラメント62からの熱電子の入射角に応じて決定され、また、従来のマルチスライス型X線CT装置のターゲットにおけるターゲット角が、一般に7度や9度であることを鑑みて、これをカバーする範囲内においてX線の照射方向の切り替えを行うべく、6度及び10度、若しくは、その近傍の角度に決定されることが好ましい。
【0033】
このような構成により、当該ターゲット65から放出されるX線は、図5(A)、図5(B)に示すように、6度のターゲット角と10度のターゲット角とに対応した照射方向をもって、X線検出器アレイ16のスライス方向における各検出器列に照射されることになり、それらの線量を合算した線量分布は、図6に示すように、従来における場合(図9を参照)と比較して一様となり、その差が低減されることになる(但し、ターゲット65から照射されるX線は、当該ターゲット65の1回転につき、6度のターゲット角と10度のターゲット角とに対応した照射方向をもって、2回程繰り返して照射されることから、図6(A)、図6(B)においては、それらを合計した線量を示してある)。尚、ターゲット65から照射されるX線は、後述するように、当該ターゲット65の回転周期がX線検出器アレイ16のデータ収集周期(各検出器列における一連のデータ収集が一通り完了するまでの周期)の整数分の1に調整されることから、さらに当該整数回だけ繰り返して照射されることとなり、その線量は図6(A)、図6(B)に示した値の当該整数倍となる。これをもって、図9に示す従来の場合と同等の線量となる。
【0034】
従って、このようにターゲット65から放出されるX線の照射方向を複数回に亘って切り替えることで、X線検出器アレイ16のスライス方向における各検出器列においては、その線量分布の差が低減されることから、当該各検出器列により検出された投影データに基づき再構成される断層画像の画質の差を抑えることができる。
【0035】
尚、当該X線CT装置においては、このターゲット65の回転周期は、X線検出器アレイ16のデータ収集周期(各検出器列における一連のデータ収集が一通り完了するまでの周期)と当該ターゲット65の回転周期が異なることによりX線検出器アレイ16のデータ収集周期内において各検出器列に照射されるX線の線量の分布に不均一さが生じることを防止するために、X線検出器アレイ16のデータ収集周期の整数分の1に調整する制御を行うこととする。即ち、X線検出器アレイ16のデータ収集周期内において各検出器列に照射されるX線の照射方向が繰り返し、丁度、整数回だけ切り替えられるように、ターゲット65の回転周期をX線検出器アレイ16のデータ収集周期の整数分の1に調整する制御を行う。
【0036】
図7に、このターゲット65の回転周期をX線検出器アレイ16のデータ収集周期の整数分の1に制御するための制御構成を表すブロック図を示す。図7に示すように、ターゲット65の回転軸には、その回転位置を検出するロータリエンコーダ等の位置検出器110が設けられている。また、X線検出器アレイ16には、当該X線検出器アレイ16のデータ収集周期に応じて、当該データ収集周期とターゲット65の回転周期を整数倍した周期とを同期させるための同期信号(X線検出器アレイ16の各検出器列においてデータ収集が開始された時点と完了された時点を報知する信号)を発生する同期信号発生器120が設けられている。このような構成において、回転制御部130(上述したX線制御部12により構成しても良い)は、位置検出器110から出力されるターゲット65の回転位置に関する位置信号と、同期信号発生器120から発生される同期信号とに基づいて、X線検出器アレイ16のデータ収集周期を算出(具体的には、データ収集が開始された時点を報知する同期信号と、データ収集が完了された時点を報知する同期信号との発生時間差を算出する)しつつ、ターゲット65の回転周期がそのデータ収集周期の整数分の1になるように当該ターゲット65の回転数を調整するべく、ステータコイルにより発生する回転磁界の強度を制御する。
【0037】
これにより、X線検出器アレイ16のデータ収集周期内において、ターゲット65から照射されるX線の照射方向が整数回だけ繰り返し切り替えられることになるため、X線検出器アレイ16のデータ収集周期内において各検出器列に照射されるX線の線量の分布に不均一さが生じることを防止することができる。
【0038】
さらに、当該X線CT装置においては、上述したように、ターゲット65の複数の傾斜面の境界部分にフィラメント62からの熱電子が衝突して、発生するX線の線量に不均一さが生じることを防止するために、回転制御部130は、ターゲット65の複数の傾斜面の境界部分を避けてフィラメント62からの熱電子が衝突するように、このフィラメント62から発生する熱電子の出力制御を行うこととする。
【0039】
図8に、このフィラメント62から発生する熱電子の出力制御を行うための制御構成を表すブロック図を示す。図8に示すように、ターゲット65の回転軸には、その回転位置を検出するロータリエンコーダ等の位置検出器110が設けられている。また、X線検出器アレイ16には、当該X線検出器アレイ16のデータ収集周期に応じて、ターゲット65の回転周期を同期させるための同期信号(X線検出器アレイ16の各検出器列においてデータ収集が開始された時点と完了された時点を報知する信号)を発生する同期信号発生器120が設けられている。さらに、フィラメント62の前面に設けられ、自身に負のバイアス電圧が印加されることでフィラメント62から放出される熱電子を阻止する方向に磁界を発生させるグリッド71と、このグリッド71に、所定のタイミングにて上述した負のバイアス電圧を印加することで熱電子の放出制御(熱電子を放出するタイミングの制御)を行うグリッド制御装置140とが設けられている。このような構成において、回転制御部130(上述したX線制御部12により構成しても良い)は、位置検出器110から出力されるターゲット65の回転位置に関する位置信号と、同期信号発生器120から発生される同期信号とに基づいて、X線検出器アレイ16のデータ収集周期を算出(具体的には、データ収集が開始された時点を報知する同期信号と、データ収集が完了された時点を報知する同期信号との発生時間差を算出する)しつつ、ターゲット65の回転周期がそのデータ収集周期の整数分の1になるように当該ターゲット65の回転数を調整するべく、ステータコイルにより発生する回転磁界の強度を制御する。さらに、グリッド制御装置140は、位置検出器110から出力されるターゲット65の回転位置に関する位置信号に基づいて、ターゲット65の複数の傾斜面の境界部分の位置を特定(即ち、ターゲット65の回転位置と複数の傾斜面の境界部分の位置とは、予め対応付けられている)して、当該境界位置を避けてフィラメント62からの熱電子が衝突するように、グリッド71に対して所定のタイミングにて上述した負のバイアス電圧を印加することでフィラメント62から熱電子が放出されるタイミングを調整すると同時に、同期信号発生器120から発生される同期信号に基づいて、X線検出器アレイ16のデータ収集期間内においてのみターゲット65からX線を照射するべく、グリッド71に対して所定のタイミングにて上述した負のバイアス電圧を印加することでフィラメント62から熱電子が放出されるタイミングを調整する制御を行う。
【0040】
尚、以上に説明した本実施形態におけるX線CT装置は、本発明の好適な一実施形態を例示したものであり、その他の実施形態を除外するものではない。
【0041】
例えば、本実施形態におけるX線CT装置では、ターゲット65の複数の傾斜面の個数を4個とし、それらのターゲット角を6度と10度とで交互に切り替える構成としたが、これらは、上述したように、ターゲット65の回転時における安定性を考慮して、それらの回転重心がターゲット65の回転軸上に位置するように、ターゲット65の回転軸を基準とする点対象となるべく設けられれば良く、本条件を満たす限り、この他の個数と角度が設定されても良い。また、ターゲット角は、ターゲット65とX線検出器アレイ16間の距離や、ターゲット64に衝突するフィラメント62からの熱電子の入射角に応じて決定されるものであり、本条件に対応した範囲内であれば、この他の角度が設定されても良い。
【0042】
また、本実施形態におけるX線CT装置では、X線検出器として、複数の検出器列がアレイ状に配列されるX線検出器アレイ16を例に挙げて説明したが、この他にも、マトリクス状に配置された検出素子が区分されることで複数の検出器列が構成される平面検出器を用いることにしても良い。
【符号の説明】
【0043】
10 走査ガントリ 11 回転陽極X線管 12 X線制御部
13 コリメータ 14 コリメータ制御部 15 回転機構部
16 X線検出器アレイ 17 データ収集部(DAS) 19 撮影テーブル
40 操作コンソール 41 中央処理装置 41a CPU
41b 主メモリ(MEM) 42 入力装置 43表示装置(CRT)
44 制御インタフェース 45 データ収集バッファ
46 二次記憶装置(ディスク等) 47 共通バス
61 外囲器 62 フィラメント 63 集束電極 64 陰極スリーブ
65 ターゲット 66 焦点 67 回転陽極子 68 ベアリング
69 陽極軸 70 ハウジング 71 グリッド
110 位置検出器 120 同期信号発生器 130 回転制御部
140 グリッド制御装置 P 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管と、被検体の体軸方向に複数の検出器列を配列してなり、被検体を透過したX線を検出する検出器とを備え、前記X線管及び前記検出器前記被検体の体軸周りに回転させつつ、前記検出器により検出されたX線の線量に基づき、前記被検体の断層画像を再構成するX線CT装置において、
前記X線管は、
電子線を放出する陰極と、
前記陰極と対向する位置に傾斜面が形成され、前記放出された電子線が当該傾斜面に衝突することで、当該傾斜面の傾斜角度に応じた方向にX線を放出する円盤状のターゲットとを備え、
前記ターゲットの傾斜面は、前記円周方向に等分された複数の領域からなり、当該複数の領域における傾斜角度は、互いに隣接する領域と異なり、
前記隣接する領域の境界部分は、滑らかに繋がれていることを特徴とするX線CT装置。
【請求項2】
前記検出器において前記複数の検出器列毎のX線の線量の検出が一通り完了するまでの検出周期を導出する周期導出手段と、
前記導出された検出周期に基づいて、当該検出周期が前記ターゲットの回転周期の整数倍となるように前記円盤状のターゲットの回転数を調整する制御を行う回転制御部と、をさらに備えることを特徴とする請求項1記載のX線CT装置。
【請求項3】
前記周期導出手段は、前記検出器において前記複数の検出器列毎のX線の線量の検出が開始された時点から終了された時点までの時間を前記検出周期として検知する開始/終了検知手段と、を有していることを特徴とする請求項2記載のX線CT装置。
【請求項4】
前記ターゲットの回転位置を検出する位置検出手段と、
前記陰極から放出される電子線の進行を妨げる方向に磁界を発生させることで、前記陰極から前記電子線が放出されることを抑制する電子線放出抑制手段と、
前記検出された回転位置に基づいて、前記複数の領域の境界部分を特定して、前記電子線が当該境界部分を避けて衝突するように前記電子線放出抑制手段により前記陰極から前記電子線を放出するタイミングを調整する制御を行う電子線放出制御手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のX線CT装置。
【請求項5】
前記ターゲットの傾斜面を等分する複数の領域は、前記ターゲットの回転軸を基準とする点対称となるように、その個数と傾斜角度とが設けられることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−148920(P2010−148920A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67457(P2010−67457)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【分割の表示】特願2003−411582(P2003−411582)の分割
【原出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】