説明

Znを主成分とするPbフリーはんだ合金

【課題】 実質的に300℃程度のリフロー温度に耐えることが可能な、濡れ性、接合性、および信頼性に優れた高温用のPbフリーはんだ合金を提供する。
【解決手段】 Znを主成分とするPbフリーはんだ合金であって、第2元素としてGeを0.01質量%以上16.0質量%以下含有し、第3元素としてAlおよびSnの内の少なくとも一方を、Alの場合は0.01質量%以上1.0質量%未満、Snの場合は0.01質量%以上10.0質量%以下含有し、Pは0.500質量%を超えて含有していない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Pbを含まない、いわゆるPbフリーはんだ合金に関するものであり、特に高温用であってZnを主成分とするPbフリーはんだ合金およびそのPbフリーはんだ合金を用いて接合された電子基板、並びにその電子基板が搭載された各種装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワートランジスタ素子のダイボンディングを始めとして、各種電子部品の組立工程におけるはんだ付では高温はんだ付が行われており、300℃程度の比較的高温の融点を有するはんだ合金が用いられている。この時使用されるはんだ合金には、Pb−5質量%Sn合金に代表されるPb系はんだ合金が従来から主に用いられている。しかし、近年では環境汚染に対する配慮からPbの使用を制限する動きが強くなってきており、例えばRohs指令などではPbは規制対象物質になっている。こうした動きに対応して、電子部品の組立の分野においてもPbを含まないはんだ合金が求められている。
【0003】
中低温用(約140℃〜230℃)のはんだ合金に関しては、Snを主成分とするものでPbフリー化がすでに実用化されている。例えば、特許文献1には、Snを主成分とし、Agを1.0〜4.0質量%、Cuを2.0質量%以下、Niを0.5質量%以下、Pを0.2質量%以下含有するPbフリーはんだ合金の組成が記載されている。また、特許文献2には、Agを0.5〜3.5質量%、Cuを0.5〜2.0質量%含有し、残部がSnからなるPbフリーはんだ合金が記載されている。
【0004】
一方、300℃程度のリフロー温度に十分耐え得る高温用のはんだ材料でのPbフリー化に関しては、Bi系はんだ合金やZn系はんだ合金などがさまざまな機関で開発されている。例えば、Bi系はんだ合金においては、特許文献3に、Biを30〜80質量%含有し、溶融される温度が350〜500℃であるBi/Agろう材が開示されている。また、特許文献4には、Biを含む共晶合金に2元共晶合金を加え、さらに添加元素を加えることによって、液相線温度の調整とばらつきの減少が可能な生産方法が開示されている。
【0005】
Zn系はんだ合金においては、例えば、特許文献5に、Znに融点を下げるべくAlが添加されたZn−Al合金を基本とし、これにGeおよび/またはMgを添加することによりさらなる低融点化が図られたZn系はんだ合金が開示されている。また、Snおよび/またはInを添加することによって、より一層融点を下げる効果があることも述べられている。具体的には、特許文献5にはAlを1〜9質量%または5〜9質量%含み、Geを0.05〜1質量%および/またはMgを0.01〜0.5質量%含み、必要に応じてSnおよび/またはInを0.1〜25質量%含み、残部がZnおよび不可避不純物からなる高温はんだ付用Zn合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開1999−077366号公報
【特許文献2】特開平8−215880号公報
【特許文献3】特開2002−160089号公報
【特許文献4】特開2006−167790号公報
【特許文献5】特許第3850135号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的な電子部品や基板の材料には熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが多用されているため、接合時の作業温度は400℃未満、望ましくは370℃以下にする必要がある。しかしながら、特許文献3のはんだ合金は、液相線温度が400〜700℃と高いため、接合時の作業温度も400〜700℃以上になると推測され、接合される電子部品や基板が耐えうる温度を超えていると考えられる。また、特許文献4の方法は、液相線の温度調整のみで4元系以上の多元系はんだ合金になるうえ、Biが有する脆弱な機械的特性については特に検討がなされていない。
【0008】
さらに、特許文献5に開示されている組成の範囲内では合金の加工性が十分とは言えず、最も高い加工性が要求されるワイヤに適用する場合は困難を伴うことが考えられる。さらに、Znは還元性が強いため自らは酸化され易く、よって、濡れ性が悪くなることが懸念される。とりわけ、このはんだ合金を用いてCu基板やNiを最上層に有するCu基板などに電子部品を接合した場合、当初は接合されていても、車載用などのように厳しい環境下で使用し続けると問題を生じるおそれがある。
【0009】
GeやMgが添加されていても酸化したZnは還元できず濡れ性を向上させることはできないため、信頼性が大きく向上するとは考えにくい。この点に関し、特許文献5には、接合性に関して比較例に比べ実施例の方が優れていると記載されてはいるものの、車載用などの厳しい環境下において長期に亘って問題なく使用できる接合性が得られているとは考えにくい。
【0010】
このように、高温用Pbフリーはんだ合金は、濡れ性をはじめとして解決すべき課題が多く、従来のPb系はんだ合金を代替できる実用的なPbフリーはんだ合金はまだ提案されていないのが実情である。本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、電子部品の組立などで用いるのに好適な300℃〜400℃程度の融点を有し、濡れ性、接合性、信頼性等に優れたZnを主成分とする高温用Pbフリーはんだ合金、およびその高温用Pbフリーはんだ合金を用いて接合された電子基板、並びにその電子基板が搭載された各種装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、第1元素であるZnを主成分とするPbフリーはんだにおいて、第2元素としてGeを含有し、第3元素としてAlおよびSnの内の少なくとも一方を含有し、Pは所定の量を超えて含まれていないようにすることにより、濡れ性、接合性、信頼性等に優れ、且つ300℃程度のリフロー温度に十分耐えうるはんだ材料を実現できることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明が提供するPbフリーはんだ合金は、Znを主成分とし、第2元素としてGeを0.01質量%以上16.0質量%以下含有し、第3元素としてAlおよびSnの内の少なくとも一方をAlの場合は0.01質量%以上1.0質量%未満、Snの場合は0.01質量%以上10.0質量%以下含有し、Pは0.500質量%を超えて含有していないことを特徴としている。
【0013】
また、本発明は、上記Pbフリーはんだ合金を用いて電子部品が接合されている電子基板、およびこの電子基板が搭載されている各種装置を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、実質的に300℃程度のリフロー温度に耐えることが可能な、濡れ性、接合性、および信頼性に優れた高温用のPbフリーはんだ合金を提供することができる。これにより、高い強度が必要な電子部品と基板との接合部分に高温でのPbフリーはんだ付けが可能となり、このPbフリーはんだを利用した電子基板や該電子基板が搭載された各種装置の信頼性を著しく高めることができるので、工業的な貢献度は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、まず金属の融点に着目し、さらに必須元素であるZnとGeの2元系合金に着目した。すなわち、高温用のはんだ合金では接合温度は300℃〜400℃程度であるのに対して、Znだけでは融点が419℃と高すぎるため、Geを添加することにより融点を下げた。これにより、Zn−Ge合金は共晶温度が394℃であるため、狙いとする融点を実現できた。さらに、GeはZnよりも酸化されにくいため、接合時にはんだ表面に酸化膜ができにくくなる。その結果、濡れ性および接合性が向上した。
【0016】
Geの含有量は0.01質量%以上16.0質量%以下とする。この含有量が0.01質量%未満では、後述する第3元素や第4元素を添加しても融点が高すぎて所望の接合温度が得られない。一方、この量が16.0質量%を超えると、Zn−Ge2元合金で液相温度が500℃を超えてしまい、第3元素や第4元素を添加しても融点が高すぎる。
【0017】
Zn−Ge2元系合金では融点が接合温度の上限に近いため、融点の範囲を広げてより使い易い材料にするため、本発明のはんだ合金は第3元素としてAlまたはSnを必須元素としている。これは、AlとSnは、ともに融点を下げる効果を有しているからである。
【0018】
本発明では、はんだ合金にAlとSnの内のいずれか一方のみが含まれているのがより好ましい。なぜなら、AlとSnとが両方とも含まれている場合は、Zn−Al−Sn合金を形成し、これが悪影響を及ぼす恐れがあるからである。すなわち、Zn−Al−Sn合金は所定の条件下で経時変化し、より脆化していくことが確認されるからである。例えば、ある合金組成のZn−Al−Sn合金をシート状に加工し、これをデシケーター内で5日間保管した後に取り出すと、加工直後に比べ脆くなり、曲げるだけで容易に折れてしまうことがある。
【0019】
当然のことながら、Zn−Al−Sn合金の組成や含有する割合が上記脆化の度合いに影響を及ぼすため、例えばZn−Al−Sn合金が少量しか含まれていない場合は、あまり問題にならない。例えば、Znを主成分として、Al、Snがそれぞれ1質量%未満程度の添加量であれば、強度の諸特性が急激な経時変化を起こすことはなく問題にならない。とはいえ、Zn−Al−Sn合金が存在していなければ、上記経時変化の恐れがなくなるので、前述したように、第3元素としてはAlおよびSnの内のいずれか一方のみが含まれているのが望ましい。
【0020】
次に各元素について詳細に説明する。第3元素として添加されるAlは、Zn−Al2元系合金において共晶点を有し、融点を下げる効果が大きい。しかし、AlはZnよりも酸化しやすいため、ある量以上含まれていると濡れ性を低下させてしまう。したがって、Alの含有量は1.0質量%未満、好ましくは0.7質量%未満である。一方、含有量が0.01質量%未満では、Alの実質的な効果が現れず意味を成さない。
【0021】
次に、第3元素として添加されるもう一方の元素であるSnについて説明する。SnはAlよりも融点を下げる効果があり、この点においてAlよりも好ましい。しかし、Sn−Zn2元系合金は固相温度が199℃であるため、多量に添加するとリフロー時に液相が生じ、電子部品の固定ができなくなる恐れがある。
【0022】
Snの含有量の上限値は、このリフロー時に許容される液相の量から定められる。すなわち、リフロー時に許容される液相の存在量は、接合する電子部品や基板、接合時の雰囲気ガスや温度プロファイル等の接合条件に依存するものの、概ね10質量%以下である。一方、Snの含有量の下限値は、0.01質量%である。これより低い含有量では、Snの実質的な効果が現れず意味を成さない。
【0023】
第4元素としてPを添加する効果は大きい。つまり、Pは自らが酸化して気化するため、接合時におけるはんだ表面の酸化膜除去に大きく役立つ。特にZnを主成分とするはんだのように酸化しやすい材料の場合に効果を発揮する。ただし、上記した3または4元素で濡れ性が十分である場合はPを添加しなくてもよい。Pの含有量は0.500質量%以下である。この量が0.500質量%を超えると、Pが偏析して加工性を悪化させたり、接合性や信頼性を逆に低下させたりすることになるからである。
【0024】
以上説明した本発明のPbフリーはんだ合金を用いて電子部品を基板に接合して得た電子基板は耐久性を備えているため、ヒートサイクルが繰り返されるような過酷な条件下においても長期に亘って問題なく使用することができる。よって、この電子基板を、例えばサイリスタやインバータなどのパワー半導体装置、自動車などに搭載される各種制御装置、太陽電池などの過酷な条件下で使用される装置に搭載することによって、それら各種装置の信頼性をより一層高めることができる。
【実施例】
【0025】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0026】
まず、原料として、それぞれ純度99.9質量%以上のZn、Ge、Al、Sn、およびPを準備した。大きな薄片やバルク状の原料については、溶解後の合金においてサンプリング場所による組成のばらつきがなく均一になるように留意しながら切断、粉砕等を行い、3mm以下の大きさになるように細かくした。次に、高周波溶解炉用グラファイトるつぼに、これらの原料の所定量を秤量して入れた。溶融しにくい高融点金属については、あらかじめ固溶しやすい金属と溶融させて合金を作り、砕いて再溶解させた。
【0027】
原料の入ったるつぼを高周波溶解炉に入れ、酸化を抑制するために窒素を原料1kg当たり0.7L/分以上の流量で流した。この状態で溶解炉の電源を入れ、原料を加熱溶融させた。金属が溶融しはじめたら混合棒でよく攪拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混ぜた。十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切って速やかにるつぼを取り出し、るつぼ内の溶湯を鋳型に流し込んではんだ母合金を作製した。鋳型は、はんだ母合金の製造の際に一般的に使用している形状と同様のものを使用した。
【0028】
このようにして、各原料の混合比率を変えることにより試料1〜15のはんだ母合金を作製した。これら試料1〜15のはんだ母合金の組成をICP発光分光分析器(SHIMAZU S−8100)を用いて分析した。その分析結果を下記の表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
次に、上記表1の試料1〜15のはんだ母合金の各々を圧延機でシート状に加工し、はんだ合金の加工性を評価した。また、シート状のはんだ合金に対して、下記の方法で濡れ性(接合性)の評価およびヒートサイクル試験を行った。なお、はんだの濡れ性や接合性等の評価は、通常はんだ形状に依存しないため、ワイヤ、ボール、ペーストなどの形状で評価してもよいが、本実施例においては、シートに成形して評価した。
【0031】
<はんだ合金の加工性>
上記表1に示す試料1〜15のはんだ母合金(厚さ5mmの板状インゴット)を、圧延機を用いて0.10mmの厚さまで圧延した。その際、インゴットの送り速度を調整しながら圧延し、その後スリッター加工により25mmの幅に裁断した。このようにしてシート状に加工した後、得られたシートのはんだ合金を観察して、傷やクラックがなかった場合を「○」、シート10m当たり割れやクラックが1〜3箇所あった場合を「△」、4箇所以上あった場合を「×」として評価した。
【0032】
<濡れ性(接合性)の評価>
上記のごとくシート状に加工したはんだ合金を、濡れ性試験機(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機)を用いて評価した。すなわち、濡れ性試験機のヒーター部分に2重のカバーをしてヒーター部の周囲4箇所から窒素を流しながら(窒素流量:各12L/分)、ヒーター設定温度を試料の融点より約10℃高い温度に設定して加熱した。ヒーター温度が設定温度で安定した後、Cu基板(板厚:約0.70mm)をヒーター部にセッティングし、25秒加熱した。
【0033】
次に、シート状のはんだ合金をCu基板の上に載せ、25秒加熱した。加熱が完了した後、Cu基板をヒーター部から取り上げてその横の窒素雰囲気が保たれている場所に移して冷却した。十分に冷却した後、大気中に取り出して接合部分を確認した。Cu基板に接合できなかった場合を「×」、接合できたが濡れ広がりが悪かった場合(はんだが盛り上がった状態)を「△」、接合でき且つ濡れ広がった場合(はんだが薄く濡れ広がった状態)を「○」と評価した。
【0034】
<ヒートサイクル試験>
はんだ接合の信頼性を評価するためにヒートサイクル試験を行った。なお、この試験は、上記濡れ性評価で「○」又は「△」と評価されたもののみを対象とした。まず、はんだ合金が接合されたCu基板に対して、−50℃の冷却と135℃の加熱を1サイクルとして、これを500サイクルまで繰り返し行った。
【0035】
その後、はんだ合金が接合されたCu基板を樹脂に埋め込み、断面研磨を行い、SEM(装置名:HITACHI S−4800)により接合面の観察を行った。接合面にはがれやはんだにクラックが入っていた場合を「×」、そのような不良がなく、初期状態と同様の接合面を保っていた場合を「○」とした。これらの評価結果を下記の表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
上記表2から判るように、本発明の要件を満たしている試料1〜7のはんだ母合金は、各評価項目において良好な特性を示している。つまり、シートに加工しても傷やクラックは無く、濡れ性も非常に良好でありCu基板に濡れ広がった。さらにヒートサイクル試験においても500回まで加熱冷却を繰り返しても割れなどが発生せず良好な接合性、信頼性を示した。このように、本発明の要件を満たすはんだ合金は、非常に優れていることが確認できた。
【0038】
一方、本発明の要件を満たしていない比較例の試料8〜15のはんだ母合金は、いずれかの評価において好ましくない結果が生じており、特に加工性においては全ての試料において傷やクラックが発生した。また、濡れ性の評価では特に問題のない試料であっても、ヒートサイクル試験で500回までに不良が発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znを主成分とし、第2元素としてGeを0.01質量%以上16.0質量%以下含有し、第3元素としてAlおよびSnの内の少なくとも一方をAlの場合は0.01質量%以上1.0質量%未満、Snの場合は0.01質量%以上10.0質量%以下含有し、Pは0.500質量%を超えて含有していないことを特徴とするPbフリーはんだ合金。
【請求項2】
請求項1に記載のPbフリーはんだ合金を用いて電子部品が接合されていることを特徴とする電子基板。
【請求項3】
請求項2に記載の電子基板が搭載されていることを特徴とする装置。

【公開番号】特開2011−251298(P2011−251298A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125103(P2010−125103)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】