説明

検知装置および検知方法

【課題】 本発明は、強磁性体の固有磁気特性を検知する装置および方法の提供を目的とする。
【解決手段】 本発明は、強磁性体の持つ特異特性に着目し、励磁電源(7)からの励磁電流により励起される励磁コイル(8)で強磁性体膜(3)を励磁し、近傍に配置されたセンスコイル(9)により強磁性体膜(3)から出る磁束変化を検出し、増幅器(10)により信号を増幅した後、信号処理して高調波成分を検知する手段によって上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性体固有の磁気特性から当該強磁性体の存在を検知するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、証券類のようにセキュリティを目的に磁気インクによる印刷を施したり、文字読み取りを目的とした磁気インク印刷文字等を施すことが知られている。磁気インク印刷文字の場合、JIS規格(JIS C-6251)を例にとると磁気印刷した文字パターンの磁性体を直流磁化ヘッドで飽和磁化させ、規定ギャップ幅を持つ磁気読み取りヘッドで読み取り、出力電圧により文字パターンを判別している。磁気インクを用いた応用例としてバーコードを磁気インクで印刷し、磁気ヘッドで読み出すことも行われている。一般的なバーコードは光の反射を利用するために、汚れに弱く、美観的見地から外観上問題となることもある。この点磁気インクを用いたバーコードは、外観上の汚れは殆ど問題とならない利点がある。
【0003】
現在、磁気インクを印刷に用いる主な目的はセキュリティ性と耐汚濁性である。しかしながら、殆ど全ての磁気インクは酸化鉄を主成分とする磁気粉体を樹脂等のバインダに混合したものであり、原材料は入手し易いためセキュリティ性には欠ける欠点がある。
【0004】
一方、固有の磁気特性を有する強磁性体はセキュリティ材料として利用することができる〔本願発明者等が提案した平成7年7月11日付特許出願:特願平7-197100号「安全保護紙の真偽判定装置」参照〕。この先願例では、樹脂基板上にスパッタ等で生成したアモルファス磁性膜をその樹脂基板を含めてタグ(安全線条)の形状で紙等にすき込むか又はカード類の表面に張り付けて安全線条の強磁性特性を利用して真偽判定するようにしている。このような安全線条において、アモルファス強磁性体を磁気粉体にするとその固有磁気特性が失われてしまうという報告がある。〔センサ技術1987年1月Vol1.No.1参照〕
【0005】
たとえ磁気粉体により固有の磁気特性を得ようとしても、磁性層の厚さは10〜20μm、大きさは幅10〜30mm、長さは10〜50mmの範囲が好ましく、粉末径が15μmで塗布後2000ガウス以上の配向処理が必要であり実用上制限のあるものとなってしまう欠点がある。
〔特許文献1「磁気検知マーカーとの存在判定システム」参照〕
磁気検知マーカーの存在確認する方法の原理は、特許文献1の図4に開示されている。
【特許文献1】特開平6-119565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示の手段ではセキュリティ性に耐えうる磁気検知ができないという課題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、例えば、強磁性体の固有磁気特性を失うことなく、また配向等の後処理の必要がなく、さらに一般的磁気インクのごとくプリンタで任意の磁気印刷が可能である感熱磁気転写体を用いて転写して得た印刷物を対象物とし、当該対象物の固有磁気特性を検知するための検知装置ならびに検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の各態様に記載の手段により上記の課題を解決するものである。
【0009】
本発明の第1の態様は、強磁性体膜(3)を励磁する励磁コイル(8)と、該励磁コイルにより励磁された強磁性体膜からの磁束変化を検出するセンスコイル(9)と、該センスコイルにより検出された磁束変化を増幅する増幅器(10)と、該増幅器により増幅された信号から前記強磁性体膜の固有磁気特性を検出するための信号処理回路(11)とを備えたことを特徴とする検知装置である。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記信号処理回路(11)はアナログあるいはディジタルフィルタであることを特徴とする検知装置である。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様において、前記固有磁気特性は強磁性体の持つ特異特性による高調波成分であることを特徴とする検知装置である。
【0012】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記強磁性体はアモルファス強磁性体であり、かつ、前記高調波成分はアモルファス強磁性体の持つ大バルクハウゼン効果による高調波成分であることを特徴とする検知装置である。
【0013】
本発明の第5の態様は、強磁性体膜を励磁し、励磁された強磁性体膜からの磁束変化を検出し、検出された磁束変化から得られる強磁性体膜の固有磁気特性を検出することで当該強磁性体膜の存在を検知するようにしたことを特徴とする検知方法である。
【0014】
本発明の第6の態様は、第5の態様において、前記固有磁気特性は強磁性体の持つ特異特性による高調波成分であることを特徴とする検知方法である。
【0015】
本発明の第7の態様は、第6の態様において、前記強磁性体はアモルファス強磁性体であり、かつ、前記高調波成分はアモルファス強磁性体の持つ大バルクハウゼン効果による高調波成分であることを特徴とする検知方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、例えば、配向等の後処理の必要なしに、通常の磁気インクの如き手軽な操作で任意の磁気印刷されたパターンの固有の強磁性体特性の検知が行えるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
まず、本発明による検知装置ならびに検知方法を実施する対象物について説明する。本発明の最良の形態においては、強磁性体としてアモルファス強磁性体を使用する。以下、アモルファス強磁性体を使用した場合の実施の形態について説明する。
アモルファス強磁性体の固有磁気特性として磁束の急激な反転作用(大バルクハウゼン現象)があげられる。これは磁区を構成する磁壁が瞬間的に移動するために生ずる。すなわちこの現象が起こるためには一定量の磁区が必要であり、粉体状のものではこの現象がなくなることが知られている。一定量の磁区構造を保持したまま被印刷対象物に転写することができれば、転写された印刷文字、あるいはバーコードのようなパターンからこの特異な磁気特性を検出することが出来る。
【0018】
本発明を実施する対象物では、樹脂基板上に熱を加えると軟化して後硬化する熱可塑性樹脂を塗布したものの上に極めて薄いアモルファス強磁性体を生成しておき、さらにその上に熱可塑性樹脂を塗布しておく。これを感熱磁気リボンとして用いる。感熱プリンタのサーマルヘッドから加えられた熱は感熱リボンの熱可塑性樹脂を溶かし、被印刷物に磁性体の溶かされた部分を選択的に接着させる。また、転写された磁性体の表面は熱可塑性樹脂により保護膜として覆われる。
このように感熱転写用リボンとして形成されたアモルファス強磁性体膜は、その性質を保持したままセキュリティ性の高い印刷インクと同様に用いることができる。
【0019】
図1は、本発明を実施する対象物の一例を説明するための斜視図である。ここで、1は樹脂基板で、例えば5〜10μm程度の薄く熱に強いポリエチレンテレフタレートPETやポリエチレンナフタレートPEN樹脂で構成される。2は熱可塑性樹脂膜で、ポリエチレンやポリアミドのように70℃〜100℃程度の熱で溶融する性質を持つ材料で構成される。3は強磁性体膜で、コバルトCo,鉄Fe,ニッケルNiを主基としたアモルファス強磁性体で、スパッタ法により熱可塑性樹脂膜2の上に蒸着したものである。
【0020】
図2は、本発明を実施する対象物の他の一例を説明するための斜視図である。同図のものは、熱可塑樹脂膜2の上にスパッタ法によりアルミニウム,銅などの非磁性金属膜(非磁性体膜)4を蒸着し、更に非磁性体膜4の上にアモルファス強磁性体膜3を蒸着したものである。これは強磁性体の磁気特性をより安定にして蒸着させる効果をもたらす。これら膜の厚さはの合計は0.1μm〜0.25μmであり、熱可塑樹脂膜2とともに感圧ヘッドの圧力と可塑樹脂膜2の部分的溶融で簡単に周囲から切り放すことができる。
【0021】
図3は、本発明を実施する対象物の更なる他の一例を説明するための斜視図である。同図のものは、印刷物に有色効果を持たせるための有色剤を熱可塑樹脂に混入させた有色剤混入熱可塑性樹脂膜2aの構造を有するものである。例えば、黒色の印字をしようとした場合には、カーボン等の黒色粉末を熱可塑性樹脂に混入させることで実現することができる。
【0022】
図4は、このようにして作られた磁気膜を含んだ転写リボン、すなわち、感熱磁気転写体を用いて被印刷物に印刷(転写)することができる原理を示したもので、感熱プリンタの感熱ヘッドによる印刷(転写)方法とまったく同様にして印刷(転写)される。感熱ヘッド5により樹脂基板1を通して熱可塑性樹脂膜2が溶融し、被印刷物6に強磁性体膜3を含んだ熱可塑性樹脂膜2が粘着する。感熱ヘッド5の圧力と粘着力から強磁性体膜3の一部が被印刷物6に転写される。強磁性体膜3の表面は、樹脂基板1側に塗られた熱可塑性樹脂膜2が覆うこととなり、保護膜としての役割を持つ。
【0023】
図5は、上記感熱磁気転写体を用いた印刷例であり、(a)に示すバーコード状や(b)に示す文字,数字などの通常のプリンタでできる印刷は全て可能である。また、印刷対象物としては熱可塑性樹脂が接着するものならば何でもよく、金属,皮,セラミック,布,プラスチックなどへ印刷することができる。
【0024】
図6は、本発明による検知装置の検知動作を説明するための系統図である。同図においては、感熱磁気転写体を用いて所定パターンの転写された磁気印刷物を対象物として、当該磁気印刷物からの磁気パターンの検知動作を説明している。即ち、同図は、この磁気印刷物のデータおよび、セキュリティのための検出回路例である。
前述のようにアモルファス強磁性体の持つ特異特性、例えば大バルクハウゼン効果を利用して高調波信号の発生を利用する方法がある。図6の検出回路例によれば、励磁電源7からの励磁電流により励起される励磁コイル8で強磁性体膜3を励磁し、近傍に配置されたセンスコイル9により強磁性体膜3から出る磁束変化を検出し、増幅器10により信号を増幅した後、高調波成分の大きさを検知するアナログあるいはディジタルフィルタを備えた信号処理回路11により強磁性体膜3が存在することを検知することができる。
【0025】
図7は、本発明による検知装置による磁気パターンの検知信号を説明するための印刷物(a)と検出信号例(b)である。検出信号例(b)は、たとえばバーコード状に印刷された印刷物(a)を図6の回路で検知した検出信号であり、強磁性体膜3の存在する位置に対応して高調波の含まれた励磁信号が存在し、励磁コイル8およびセンスコイル9と被印刷物6の一方を他方に対して相対的に移動させることにより、強磁性体膜3の印刷パターンが時系列信号として得られる。励磁コイル8とセンスコイル9は強磁性体膜3に接触する必要はなく、データ読み取り分解能が許す範囲で非接触とすることができるため、例えば紙の裏側に印刷したり、印刷したものを覆い隠しておくこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、固有の磁気特性を有する強磁性体膜を転写材とするプリンタ用感熱磁気リボンの如き感熱磁気転写体により転写された印刷対象物が所定の強磁性体であるか否かの検知に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を実施する対象物の一例を説明するための斜視図である。
【図2】本発明を実施する対象物の他の一例を説明するための斜視図である。
【図3】本発明を実施する対象物の更なる他の一例を説明するための斜視図である。
【図4】本発明を実施する対象物の感熱磁気転写体の転写動作を説明するための側面図である。
【図5】本発明を実施する対象物の感熱磁気転写体を用いた転写印刷例を説明するための斜視図である。
【図6】本発明による検知装置の検知動作を説明するための系統図である。
【図7】本発明による検知装置による磁気パターンの検知信号を説明するための印刷物(a)と検出信号例(b)である。
【符号の説明】
【0028】
1 樹脂基板
2 熱可塑性樹脂膜
2a 有色剤混入熱可塑性樹脂膜
3 強磁性体膜
4 非磁性体膜
5 感熱ヘッド
6 被印刷物
7 励磁電源
8 励磁コイル
9 センスコイル
10 増幅器
11 信号処理回路



【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性体膜を励磁する励磁コイルと、該励磁コイルにより励磁された強磁性体膜からの磁束変化を検出するセンスコイルと、該センスコイルにより検出された磁束変化を増幅する増幅器と、該増幅器により増幅された信号から前記強磁性体膜の固有磁気特性を検出するための信号処理回路とを備えたことを特徴とする検知装置。
【請求項2】
前記信号処理回路はアナログあるいはディジタルフィルタであることを特徴とする請求項1記載の検知装置。
【請求項3】
前記固有磁気特性は強磁性体の持つ特異特性による高調波成分であることを特徴とする請求項1または2記載の検知装置。
【請求項4】
前記強磁性体はアモルファス強磁性体であり、かつ、前記高調波成分はアモルファス強磁性体の持つ大バルクハウゼン効果による高調波成分であることを特徴とする請求項3記載の検知装置。
【請求項5】
強磁性体膜を励磁し、励磁された強磁性体膜からの磁束変化を検出し、検出された磁束変化から得られる強磁性体膜の固有磁気特性を検出することで当該強磁性体膜の存在を検知するようにしたことを特徴とする検知方法。
【請求項6】
前記固有磁気特性は強磁性体の持つ特異特性による高調波成分であることを特徴とする請求項5記載の検知方法。
【請求項7】
前記強磁性体はアモルファス強磁性体であり、かつ、前記高調波成分はアモルファス強磁性体の持つ大バルクハウゼン効果による高調波成分であることを特徴とする請求項6記載の検知方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−3351(P2006−3351A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156231(P2005−156231)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【分割の表示】特願平7−293309の分割
【原出願日】平成7年10月17日(1995.10.17)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】