説明

硬質塩化ビニル系樹脂管の製造方法

【課題】塩化ビニル系樹脂管として優れた表面平滑性と耐久性とを併せもつ硬質塩化ビニル樹脂管の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】塩化ビニルモノマー100重量部と、式 CH2=CH−SiRn3-n(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、nは0〜2の整数である。)で表されるビニルシラン化合物0.1〜10重量部を共重合して得られる架橋性塩化ビニル共重合体に、錫メルカプト系化合物と錫マレート触媒とを含有してなる塩化ビニル系樹脂組成物を押出機に供給し、押出成形時にベント孔から減圧して管状成形体を成形し、その後、該管状成形体を架橋処理することを含む硬質塩化ビニル系樹脂管の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質塩化ビニル系樹脂管の製造方法に関し、より詳細には、架橋性塩化ビニル系樹脂組成物を管状に成形するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、給水用や排水用の管として、塩化ビニル系樹脂管が利用されている。このような用途の塩化ビニル系樹脂管では、管内面に液状物質、例えば、水を流すため、特にその内面において高い表面平滑性が求められる。
また、このような管及び管継手には、耐久化が求められている。
【0003】
塩化ビニル系樹脂管の表面平滑性は、一般に、成形温度が高くなるほど良好になる傾向があることが知られている。このため、大型押出成形機で塩化ビニル系樹脂管を製造する場合、高めの成形温度が選択される。また、混練の際に、塩化ビニル樹脂のせん断により発熱するため、この熱量を利用することは有用である。
このように、成形温度を高めに設定することは、押出機内で塩化ビニル樹脂を充分ゲル化する上でも、より短い滞留時間内で押出成形する上でも、重要である。
【0004】
また、耐久化のためには、例えば、塩化ビニル樹脂管の樹脂層の厚みを肉厚化する方法、優れた機械的強度を有する高重合度化樹脂等を用いる方法等がある。具体的には、架橋性塩化ビニル重合体を用いて、機械的強度を向上する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2008−120923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の架橋性塩化ビニル系樹脂組成物を用いて管状に成形した後、架橋処理した成形体は機械的強度は優れているものの、塩化ビニル樹脂管内面の表面平滑性は充分ではなかった。
したがって、塩化ビニル系樹脂管の耐久性及び表面平滑性の双方を満足するものは未だ実現されていないのが現状である。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、塩化ビニル系樹脂管として優れた表面平滑性と耐久性とを併せもつ硬質塩化ビニル樹脂管の製造方法を提供することを一目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の硬質塩化ビニル系樹脂管の製造方法は、塩化ビニルモノマー100重量部と、式
CH2=CH−SiRn3-n
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、nは0〜2の整数である。)
で表されるビニルシラン化合物0.1〜10重量部を共重合して得られる架橋性塩化ビニル共重合体に、錫メルカプト系化合物と錫マレート触媒とを含有してなる塩化ビニル系樹脂組成物を押出機に供給し、
押出成形時にベント孔から減圧して管状成形体を成形し、
その後、該管状成形体を架橋処理することを含むことを特徴とする。
【0008】
このような硬質塩化ビニル系樹脂管の製造方法では、前記架橋性塩化ビニル系共重合体100重量部に対して、錫メルカプト系化合物が1.0〜10重量部、錫マレート触媒が0.1〜3.0重量部配合されてなることが好ましい。
また、錫メルカプト系化合物と錫マレート触媒との配合比率は、錫メルカプト系化合物/錫マレート触媒=4/1〜1/1であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塩化ビニル系樹脂管として優れた表面平滑性と耐久性とを併せもつ硬質塩化ビニル樹脂管を、簡便な方法にて製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の硬質塩化ビニル樹脂管の製造方法は、特定の塩化ビニル系樹脂組成物を用いて、押出機により管状成形体に成形し、その後、管状成形体を架橋処理する製造方法である。
【0011】
この塩化ビニル系樹脂組成物は、架橋性塩化ビニル共重合体と、錫メルカプト系化合物と、錫マレート触媒とを含有してなる。
架橋性塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルモノマー100重量部に対して、ビニルシラン化合物0.1〜10重量部を共重合して得られる架橋性塩化ビニル共重合体である。
【0012】
ビニルシラン化合物としては、式
CH2=CH−SiRn3-n
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、nは0〜2の整数である。)
で表わされる化合物が適している。
ここで、Rにおける炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル基を用いることができる。
また、Xは、加水分解性を有する有機基であることが好ましい。例えば、炭素数1〜3のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ基が挙げられる。ただし、アルコキシ基の炭素数が大きくなると、加水分解速度が遅くなる傾向があり、架橋工程に時間がかかる傾向があるため、好ましくは炭素数2のエトキシ基である。
【0013】
ビニルシラン化合物の具体例としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン等を挙げることができる。これらのビニルシラン化合物は目的とする用途により、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
ビニルシラン化合物は、塩化ビニルモノマー100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、さらに0.5〜3重量部であることが好ましい。ビニルシラン化合物の量が少なくなると架橋が十分に進行せず、強度が向上しないという傾向がある。多くなると成形時の架橋が顕著となりすぎて成形性を損なう傾向がある。
【0015】
架橋性塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル成分の重合度は、小さ過ぎても、大きすぎても、塩化ビニル系樹脂成形体の成形性が得られにくくなるため、600〜2000が適当であり、好ましくは800〜1500である。重合度を調整する方法としては、主に重合温度等が例示される。一般に重合温度が高いほど重合度は低くなる。
【0016】
なお、架橋性塩化ビニル系樹脂は、目的に応じて塩化ビニルモノマー及びビニルシラン化合物以外のラジカル重合性モノマーをさらに追加して共重合してもよい。
このラジカル重合性モノマーとしては、例えば、塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーが挙げられ、ビニルモノマーの全てが含まれる。例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα−オレフィン類:酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類:エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類:メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0017】
架橋性塩化ビニル系樹脂を得る方法は、特に限定されず、水懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合法など、種々の共重合方法を用いることができる。共重合の際には、塩化ビニルモノマー及びビニルシラン化合物の反応比、溶媒への分散性等により各々の重合率が変化することを考慮する必要がある。重合反応は、ランダム共重合、ブロック共重合又はこれらを併用してもよい。重合の制御のしやすさ、得られた架橋性塩化ビニル系樹脂の取り扱い性及び成形性のよさを考慮すると、水懸濁重合法により得られたものが好ましい。
【0018】
架橋性塩化ビニル系共重合体に添加する錫メルカプト系化合物は、シロキサン触媒となりうる錫金属を含むにもかかわらず、シロキサン触媒の効果を発揮せず、熱安定剤としてのみ作用する化合物である。ここで、シロキサン触媒とは、ビニルシラン化合物による架橋を促進するもので、互いにSi−OHをもつ化合物からSi−O−Si結合(シロキサン結合)する際の反応を促進する触媒となるものを意味する。
一方、錫マレート触媒は、シロキサン触媒として作用する化合物であり、通常、単独で用いると、それらの化合物由来の水酸基が関与し、架橋反応を進行させる化合物である。
従って、錫メルカプト系化合物と錫マレート触媒との双方を組み合わせて用いることにより、成形時の熱安定性を確保することが可能となり、表面の平滑性を確保しながら成形することができる。また、成形後に架橋率を制御することで成形体の耐久性を向上させることができる。
【0019】
このような錫メルカプト系化合物は、シロキサン触媒としては作用しない錫メルカプト系化合物を用いることが好ましい。例えば、ジメチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
錫マレート触媒としては、例えば、ジメチル錫マレート、ジオクチル錫マレート、ジブチル錫マレート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
また、必要に応じて他の錫系触媒を併用することもできる。錫マレート触媒と併用する錫系触媒としては錫ラウレート触媒が挙げられる。例えば、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー、ジオクチル錫ラウレート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
錫ラウレート触媒は、樹脂中での流動性が良好であるため、錫マレート触媒との併用効果による表面平滑性の確保が期待できる。
【0022】
錫メルカプト系化合物は、架橋性塩化ビニル共重合体100重量部に対して、1.0〜10重量部配合することが好ましく、1.0〜3.0重量部がより好ましい。
錫マレート系化合物は、架橋性塩化ビニル共重合体100重量部に対して、0.1〜3重量部配合することが好ましく、0.5〜1.0重量部がより好ましい。
さらに、錫メルカプト系化合物と錫マレート触媒との配合比率は、錫メルカプト/錫マレート系化合物=4/1〜1/1程度とすることが好ましい。錫マレート触媒の比率が高いと架橋反応を促進する傾向にある。このような範囲とすることにより、錫メルカプト系化合物によって、架橋率の制御が可能となる。
また、錫メルカプト化合物と錫マレート触媒との合計量は、架橋性塩化ビニル共重合体100重量部に対して、1.0〜10重量部であることが好ましく、1.0〜3.0重量部であることがより好ましい。
【0023】
塩化ビニル系樹脂組成物には、成形時の架橋進行を制御する目的で、必要に応じてさらに熱安定剤を添加することができる。このような熱安定剤は、錫マレート系又は錫ラウレート系化合物と併せて添加してもよいし、あらかじめ錫マレート系又は錫ラウレート系化合物と混合して、混合系安定剤を調製し、これを添加してもよい。このような熱安定剤としては、上述した錫マレート系又は錫ラウレート系化合物とは異なるものであり、例えば、ステアリン酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の鉛系安定剤、カルシウム−亜鉛系安定剤、バリウム−亜鉛系安定剤、バリウム−カドミウム系安定剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
塩化ビニル系樹脂組成物には、塩化ビニル系樹脂、錫メルカプト系化合物、錫マレート又は錫ラウレート触媒以外に、さらに必要に応じて、シロキサン触媒、安定化助剤、滑剤、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料等の各種添加剤の1種又は2種以上が添加されていてもよい。
【0025】
シロキサン触媒としては、例えば、カルボン酸金属塩、チタンキレート化合物、チタン酸アルキル、ジルコン酸アルキル等の金属有機化合物、有機塩基、有機酸等を用いることができる。具体的な例としては、カルボン酸金属塩として、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジアセテート、オクタン酸第一錫、オクタン酸鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、ブテン酸コバルト、オクタン酸コバルト、2−エチルヘキサン酸鉄、チタン酸テトラブチル、チタン酸エチレングリコール等が挙げられる。有機塩基としては、エチルアミン、ヘキシルアミン、ジブチルアミン、エチレンジアミン等が挙げられる。有機酸としては、p−トルエンスルホン酸、酢酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
シロキサン触媒の添加量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して0〜5重量部が好ましい。添加量を多くしても一定のところで触媒効果が平衡するからである。
【0027】
安定化助剤としては、特に限定されず、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ豆油エポキシ化テトラヒドロフタレート、エポキシ化ポリブタジエン、リン酸エステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
滑剤としては、特に限定されず、例えば、モンタン酸ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ステアリン酸ブチル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
加工助剤としては、特に限定されず、例えば、重量平均分子量10万〜200万のアルキルアクリレート/アルキルメタクリレート共重合体であるアクリル系加工助剤が挙げられ、具体的には、n−ブチルアクリレート/メチルメタクリレート共重合体、2−エチルヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系抗酸化剤、硫黄系抗酸化剤、ホスファイト系抗酸化剤等が挙げられる。
【0031】
光安定剤としては、特に限定されず、例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤、あるいはヒンダードアミン系の光安定剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
顔料としては、特に限定されず、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料、酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアン化物系等の無機顔料等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
添加剤の添加方法及び添加順序は、特に限定されるものではなく、任意の方法及び順序とすることができる。例えば、添加方法としては、特に限定されず、塩化ビニル系樹脂に、ホットブレンド法、コールドブレンド法等により添加することができる。
【0034】
本発明では、上述した塩化ビニル系樹脂組成物を押出機に供給し、押出成形時にベント孔から減圧して管状成形体を成形する。
ここで用いる押出機としては、当該分野で通常使用されているものを用いることができるが、なかでも、溶融混練時のせん断発熱が少ない2軸押出機が好適に用いられる。また、押出機は、ベント孔を有するものであることが必要である。
ベント孔の位置、数、大きさ等は特に限定されるものではなく、押出機のシリンダ内から空気を排出することができる位置、数、大きさとすることが適している。また、押出成形時、押出機途中に形成されているものが好ましい。
減圧する手段としては、例えば真空ポンプを用いる。減圧した真空度は、ベント孔と接続した配管途中にある真空ゲージで測定される。
【0035】
ベント孔からの減圧の程度は、特に限定されるものではなく、大気圧を基準(真空度0mmHg)として、これよりも低い圧力、つまり、真空度を0mmHg未満とすることが適している。さらに、380mmHgより大きい真空度であることが好ましく、400mmHg程度以上の真空度であることがより好ましく、700mmHg程度以上の真空度であることがとりわけ好ましい。この範囲の真空度とすることにより、上述した特定の塩化ビニル系樹脂組成物、つまり、架橋性塩化ビニル共重合体と、錫メルカプト系化合物と、錫マレート触媒とを含有する組成物における錫メルカプト系化合物と錫マレート触媒との双方の作用と相まって、成形時の熱安定性を確保することが可能となり、表面の平滑性を十分に確保しながら成形することができる。
【0036】
押出成形時の樹脂温度は、通常、180℃〜220℃程度である。より好ましくは、185℃〜200℃である。樹脂温度が低すぎると塩化ビニルのゲル化が不十分となり物性に影響を及ぼす傾向がある。管表面の光沢、平滑性を向上するためには高い方が好ましいが、高すぎると塩化ビニルの分解、架橋を促進することがある。
【0037】
管状成形体を成形した後、この管状成形体を架橋処理する。
架橋処理は、必要に応じて水分の存在下において行うことができる。水分の供給方法は特に限定されず、系内の水分、空気中の水分を利用して架橋させてもよい。また、加熱により架橋速度を著しく促進することができるため、熱水により架橋処理を行ってもよい。加熱方法は特に限定されないが、水分の供給を同時に行うことから、60℃以上の温水、水蒸気、加圧水蒸気を供給することが好ましい。
【0038】
架橋性塩化ビニル系樹脂成形体の架橋度合いはゲル分率により測定することができる。ゲル分率は特定の溶剤に試料を溶解させ、その重量変化率より算出される。ゲル分率が大きくなると、架橋が進行していることを示す。
具体的には、試料をテトラヒドロフラン(THF)中に16時間抽出したときの重量変化率であり、
(ゲル分率)=(THF抽出後の試料重量)/(THF抽出前の試料重量)
で定義される。
【0039】
従って、架橋処理は、処理後のゲル分率が10%程度以上、100%以下となるように行うことが好ましい。ゲル分率が小さい場合には、機械的強度が不十分となることがあるため、より好ましくは、50%程度以上である。
【0040】
また、成形した直後のゲル分率は小さいことが好ましい。成形した直後のゲル分率が大きすぎると、成形機内の圧力上昇が起こり、得られる成形体の外観性能が悪くなる傾向がある。外観性能の面から5%程度以下が好ましい。
なお、成形直後とは、塩化ビニル系樹脂成形体の最終形状に成形した後であって、通常、成形機から排出され、後述するような、成形体の物性を変化させるための何らかの処理、例えば、架橋処理、好ましくは水分の存在下での架橋処理等を行う前を指す。
【0041】
以下、本発明の硬質塩化ビニル系樹脂管の製造方法の実施例について説明するが、下記の例に限定されるものではない。
【0042】
実施例1〜6
(架橋性塩化ビニル系樹脂の製造)
攪拌機の備えられたジャケット付25リットルの耐圧重合器に、イオン交換水133部、ビニルエトキシシラン及び塩化ビニルモノマーをそれぞれ表1に示す所定重量部、油溶性ラジカル開始剤としてジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカルボネート0.05部、界面活性剤としてポリプロピレンオキサイドオレイルエーテル1部、水溶性増粘剤としてポリ塩化アルミニウム0.1部を供給した。
【0043】
【表1】

重合器を密閉して空気を排除した後、塩化ビニルモノマー100部を圧入し、次いで、攪拌しながら、58℃まで昇温し、重合器内の温度が58℃に保持しながら水懸濁重合を行った。
重合器内圧が降下を始めてから30分経過してからジャケットに冷却水を通して重合器を冷却した。その後、未反応の塩化ビニルモノマーなどを除去し、重合スラリーを取り出し、これをイオン交換水で洗浄し、乾燥して架橋性塩化ビニル共重合体を得た。
【0044】
(塩化ビニル系樹脂組成物の製造)
得られた架橋性塩化ビニル共重合体100重量部に対して、錫メルカプト系化合物と、安定剤として有機錫系安定剤であるジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫ラウレート、滑剤として(商品名「Hiwax220RKT(ポリエチレンワックス)」(三井化学社製)、「S30(ステアリン酸)」(花王社製)、加工助剤として「P530A」「P710」(三菱レーヨン社製)を、表2に示す所定量(重量部)添加し、スーパーミキサー(100L、カワタ社製)にて攪拌混合して塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
【0045】
上記で得られた塩化ビニル系樹脂組成物を、直径50mmの2軸異方向回転押出機(SLM50)に供給し、表2の記載した樹脂温度、ベント孔での減圧した時の真空度で、サイズ20Aの硬質塩化ビニル系樹脂管を得た。
押出成形直後の内面平滑性、管の内外面での凹凸による外観を、表2に示す。
また、上記で得られた硬質塩化ビニル系樹脂管を、90℃の熱水に12時間暴露することにより、架橋硬質塩化ビニル系樹脂管を得た。
熱水処理後のゲル分率を測定した。また、外観、内面平滑性、熱間内圧クリープ等の種々の物性を評価した。それらの結果を表2に併せて示す。
【0046】
比較例1
ベント孔より減圧しなかったこと以外は実施例1と同様にして成形を行った。
【0047】
比較例2
ベント孔より減圧した際の真空度を380mmHgとしたこと以外は実施例1と同様にして成形を行った。
【0048】
比較例3
表1の配合B1に示す架橋性塩化ビニル樹脂を使用したこと以外は実施例1と同様にして架橋塩化ビニル系樹脂管を得た。
【0049】
比較例4
表1の配合B2に示す架橋性塩化ビニル樹脂を使用したこと以外は実施例1と同様にして押出成形を行った。
【0050】
比較例5
表2に示す通り、触媒として錫マレートを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして架橋塩化ビニル系樹脂管を得た。
【0051】
外観、内面平滑性、熱間内圧クリープは、以下の方法で評価した。
外観:成形時の目視とし、管の内外面で著しく凹凸があるものは×とした。
内面平滑性:東京精密社製サーフコム480Aの測定条件(測定速度:0.3mm/s、評価長さ0.25mm、カットオフ値:0.08mm)で管内面表面粗さ(Rmax)を測定した。ここでのサンプル数は、N=1、R=5とした。
熱間内圧クリープ:JIS K 6742の熱間内圧クリープ試験の試験条件に準拠し、試験温度は60℃の水中下で、成形体の管の周方向への負荷応力を変化させ、1000時間後の推定応力値として測定した。
【表2】

【0052】
このように、本発明の硬質塩化ビニル樹脂管の製造方法では、実施例1から6に示す通り、架橋性塩化ビニル共重合体の材料自体が有する優れた特性を、管状成形体としての性能として十分に発揮させることができ、機械的強度に優れる硬質塩化ビニル樹脂管を製造することができた。
一方、特に、比較例1、2及び4では、押出機が過負荷状態となり、管の形状を保持しないため、内面平滑性、熱間内圧クリープ性能は評価できなかった。また、その他の比較例では、架橋処理後においても架橋が十分進行しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、表面平滑性及び耐久性に優れた塩化ビニル系樹脂製品を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニルモノマー100重量部と、式
CH2=CH−SiRn3-n
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、nは0〜2の整数である。)
で表されるビニルシラン化合物0.1〜10重量部を共重合して得られる架橋性塩化ビニル共重合体に、錫メルカプト系化合物と錫マレート触媒とを含有してなる塩化ビニル系樹脂組成物を押出機に供給し、
押出成形時にベント孔から減圧して管状成形体を成形し、
その後、該管状成形体を架橋処理することを含む硬質塩化ビニル系樹脂管の製造方法。
【請求項2】
前記架橋性塩化ビニル系共重合体100重量部に対して、錫メルカプト系化合物が1.0〜10重量部、錫マレート触媒が0.1〜3.0重量部配合されてなる請求項1に記載の硬質塩化ビニル系樹脂管の製造方法。
【請求項3】
錫メルカプト系化合物と錫マレート触媒との配合比率は、錫メルカプト系化合物/錫マレート触媒=4/1〜1/1である請求項1又は2に記載の硬質塩化ビニル系樹脂管の製造方法。

【公開番号】特開2010−99834(P2010−99834A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270412(P2008−270412)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】