説明

車体前部構造

【課題】車体前部を前後方向に短く構成しながら、衝突時のエネルギ吸収ストロークを確保することができる車体前部構造を得る。
【解決手段】車体前部構造10は、フロントピラー18とトーボード30を含むアッパボディ12と、フロントピラー18下端が結合されたロッカ46とフロントサイドメンバ60とを含むロアフレーム14と、トーボード30に対し前後方向に相対変位可能にフロントサイドメンバ60に設けられた下側クラッシュ部66と、フロントサイドメンバ60に対し前後方向に相対変位可能にアッパボディ12の前端に設けられた上側クラッシュ部70とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フロントピラーと前後方向の同等位置に位置するフロントクロスメンバから、T字状を成すロアサポートメンバを車両前方に突出させることで、十分な強度を確保して衝突時の衝撃吸収性を向上させることができる電気自動車の車体前部構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−225450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、小型の車両において、内部空間の確保と衝突時のエネルギ吸収ストロークの確保との両立を図ることについては未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明は、車体前部を前後方向に短く構成しながら、衝突時のエネルギ吸収ストロークを確保することができる車体前部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明に係る車体前部構造は、フロントピラーと、前記フロントピラーに対する車両前側で車室の一部を構成する車室前部壁とを含む車体上部と、前記フロントピラーの車両上下方向の下端部が結合されたピラー結合部と、該ピラー結合部に対する車両前側で車両前後方向に沿って延在する左右一対のサイドメンバとを含む車体下部と、前記車体上部における前記車室前壁に対する車両前後方向の前側に設けられ、前面衝突の荷重により車両前後方向に潰れる上側のエネルギ吸収部と、前記車体下部における前記フロントピラーに対する車両前後方向の前側でかつ前記上側のエネルギ吸収部に対して車両前後方向にずれた部分に、前記車室前部壁に対し車両前後方向に相対変位可能に設けられ、前記サイドメンバに入力される前面衝突の荷重により車両前後方向に潰れる下側のエネルギ吸収部と、を備えている。
【0007】
請求項1記載の車体前部構造では、前面衝突が発生した場合、車体上部における上側のエネルギ吸収部、車体下部における下側のエネルギ吸収部が前後方向に潰される。ここで、車室前部壁は、車体下部に対し前後方向に相対変位可能であるため、下側のエネルギ吸収部によるエネルギ吸収(変形)に伴い変形されることがない。これにより、車室前部の空間が維持される。また、上下の衝撃吸収部の配置が前後にずれているので、車体上部と下部とは互いの制約の影響を受けずに衝撃吸収ストロークを確保することができる。
【0008】
すなわち、上下のエネルギ吸収部の前後位置を一致させると、所要の衝撃吸収ストロークを確保するために部品や空間の配置が制約を受けたり車体が前後に大型化したりするが、本車体前部構造では、限られた前後方向の寸法内で所要の衝撃吸収ストロークを確保することができる。このため、小型でありながら車室空間を確保することができる。
【0009】
このように、請求項1記載の車体前部構造では、車体前部を前後方向に短く構成しながら、衝突時のエネルギ吸収ストロークを確保することができる。
【0010】
請求項2記載の発明に係る車体前部構造は、請求項1記載の車体前部構造において、前記車体下部の一対のサイドメンバには、車両走行のための駆動力を発生するパワーユニットが支持されており、前記下側のエネルギ吸収部は、前記車室前部壁の車両上下方向の下側でかつ前記パワーユニットに対する車両後側に配置された後下側のエネルギ吸収部を含んで構成されており、前記上側のエネルギ吸収部は、前記パワーユニットの車両上下方向の上側に配置されている。
【0011】
請求項2記載の車体前部構造では、前面衝突時に、車体上部における車室の前部を成す車室前部壁すなわち車室空間が確保されるべき部分の下方で、後下側のエネルギ吸収部が圧縮されると共に、車室空間が確保されるべき部分の前方で上側のエネルギ吸収部が圧縮される。これにより、所要のエネルギ吸収が果たされる。例えば上下のエネルギ吸収部を前後方向にずらすことなくパワーユニットと車室前部壁とが車両前後方向にずらされた構成ではエネルギ吸収ストロークを確保することが困難となる。これに対して本車体前部構造では、上記の如く車室前部壁に対する前側及び下側で上下のエネルギ吸収部が圧縮されるので、車体空間の確保と、衝突時のエネルギ吸収ストロークの確保とを両立することができる。
【0012】
請求項3記載の発明に係る車体前部構造は、請求項2記載の車体前部構造において、前記下側のエネルギ吸収部は、前記パワーユニットに対する車両前側に配置された前下側のエネルギ吸収部を含んで構成されている。
【0013】
請求項3記載の車体前部構造では、パワーユニットの前後の空間を利用して下側のエネルギ吸収部が配置されている。このため、本車体前部構造では、限られた前後方向の寸法内で所要の衝撃吸収ストロークを確保しやすい。
【0014】
請求項4記載の発明に係る車体前部構造は、請求項2又は請求項3記載の車体前部構造において、前記車体下部には、前記下側のエネルギ吸収部よりも車両前後方向の潰れに対する強度が高い高強度部が、前記下側のエネルギ吸収部に対し車両前後方向にずれて設けられており、前記パワーユニットは、側面視で前記高強度部にオーバラップして配置されている。
【0015】
請求項4記載の車体前部構造では、前後方向の潰れに対し強度が高い高強度部とパワーユニットとが側面視でオーバラップされているので、これらを避けた位置に配置された下側のエネルギ吸収部は前面衝突の際に効果的に潰される。
【0016】
請求項5記載の発明に係る車体前部構造は、請求項1〜請求項4の何れか1項記載の車体前部構造において、前記サイドメンバにおける前記下側のエネルギ吸収部に対する車両前側部分又は前記下側のエネルギ吸収部に設けられたステアリングギヤハウジングと、前記車体下部における前記下側のエネルギ吸収部に対する車両前後方向の後側の部分に固定され、前記ステアリングギヤハウジングに対し車両上下方向の上側でかつ車両前後方向の後側から接触又は近接したガイド部を有するガイド部材と、をさらに備えている。
【0017】
請求項5記載の車体前部構造では、前面衝突による下側のエネルギ吸収部の前後方向の潰れに伴ってステアリングギヤハウジングは、後方に変位される。すると、ガイド部材のガイド部がステアリングギヤハウジング又はステアリングロッドを下方に押し下げることとなり、ステアリングホイールが車両前方に引き込まれる。これにより、乗員の胸部の保護性能が向上する。
【0018】
請求項6記載の発明に係る車体前部構造は、請求項2〜請求項4の何れかに従属する請求項5に記載の車体前部構造において、前記ガイド部材は、車両前後方向に長手とされると共に、車両前端部が前記駆動源に結合されている。
【0019】
請求項6記載の車体前部構造では、前面衝突の相手方に対し、パワーユニットを介して車両後部の慣性質量(マス)を早期に伝達することができる。これにより、衝突後期の車両の運動エネルギの低減に寄与する。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明に係る車体前部構造は、車体前部を前後方向に短く構成しながら、衝突時のエネルギ吸収ストロークを確保することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る車体前部構造を示す側断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車体前部構造を一部分解して示す側断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る車体前部構造を一部分解して示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係る車体前部構造が適用された自動車を模式的に示す側面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る車体前部構造が適用された自動車を模式的に示す平面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る車体前部構造の衝撃吸収状態を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態に係る車体前部構造10について、図1〜図6に基づいて説明する。なお、図中に適宜記す矢印FRは車両前後方向の前方向を、矢印UPは車両上下方向の上方向を、矢印Wは車幅方向をそれぞれ示す。先ず、車体前部構造10が適用された自動車11の概略全体構成を説明し、次いで車体前部構造10の要部を説明することとする。
【0023】
(自動車の概略全体構成)
図4には、車体前部構造10が適用された自動車11が模式的な側面図にて示されており、図5には、自動車11が模式的な平面図にて示されている。これらの図に示される如く、自動車11は、車体上部としてのアッパボディ12と、車体下部としてのロアフレーム14とを備えている。
【0024】
図4に示される如く、アッパボディ12は、乗員Pのための空間であるキャビンCを囲む骨格であるアッパフレーム16を構造上の主要部として構成されている。アッパフレーム16は、フロントピラー18と、センタピラー20と、リヤピラー22と、これらの上端を繋ぐルーフサイドレール24とを含んで構成されている。図示は省略するが、左右のフロントピラー18の上端間、センタピラー20の上端間、リヤピラー22の上端間は、フロントルーフヘッダ、ルーフリインフォースメント、リヤルーフヘッダにてそれぞれ架け渡されている。
【0025】
また、図1、図2に示される如く、アッパボディ12は、キャビンCを覆うフロアパネル26、ダッシュパネル28、図示しないルーフパネルを備えている。フロアパネル26には、フロントピラー18、センタピラー20、リヤピラー22の下端部が接合されている。このフロアパネル26の車両前端部は、ダッシュパネル28の車両下端部と接合されている。ダッシュパネル28は、フロントピラー18に対する車両前側に位置している。
【0026】
ダッシュパネル28の下部(フロアパネル26の前部)には、乗員Pの足Fを載せる傾斜部であるトーボード(フットレスト)30が形成されている。トーボード30の上方には、乗員Pが足Fで操作するペダル(アクセルペダル又はブレーキペダル)32が配置されており、該ペダル32の操作ストロークに干渉しないようにトーボード30が形成されている。この実施形態では、トーボード30が車室前部壁に相当すると捉えても良く、トーボード30形成されたダッシュパネル28が車室前部壁に相当すると捉えても良く、さらに、これらの何れかにフロアパネル26の前端部を合わせたものが車室前部壁に相当すると捉えても良い。
【0027】
図3に示される如く、フロントピラー18における上下方向の中間部からは、平面視で後向きに「コ」字状を成すクロスメンバ34の端部が接合されている。クロスメンバ34におけるフロントピラー18に対する前方で車幅方向に延在するクロス部34Aには、ダッシュパネル28の上端が直接的又は間接的に接合されている。
【0028】
また、クロス部34Aには、ロアフレーム14の前端に配置されたフロントバンパリインフォースメント62(後述)との間を架け渡す左右一対の前後メンバ36の車両後端が接合されている。図3に示される如く前後メンバ36の前下端間は、クロス部材35にて架け渡されており、このクロス部材35がフロントバンパリインフォースメント62の荷重入力部62Aに接合されている。さらに、アッパボディ12の前端部は、キャビンC(ダッシュパネル28)の車両前方に形成された空間R(左右の前後メンバ36)がフード部材38にて前側から覆われている。
【0029】
図5に示される如く、ロアフレーム14は、前後の車輪Wf、Wr間に配置された平面視で略正方形枠状を成すセンタフレーム40と、センタフレーム40の車幅方向の中央部から後方に張り出されたリヤフレーム42と、センタフレーム40の車幅方向の中央部から前方に張り出されたフロントフレーム44とを主要部として構成されている。
【0030】
センタフレーム40は、左右一対のロッカ(サイドシル)46と、左右のロッカ46の前端間、中央部間、後端間をそれぞれ架け渡すフロントクロスメンバ48、センタクロスメンバ50、リヤクロスメンバ52とを含んでいる。また、センタフレーム40は、フロントクロスメンバ48の車幅方向中央部からセンタクロスメンバ50を経由してリヤクロスメンバ52の車幅方向中央部に至るセンタ前後メンバ54を備える。これらにより、この実施形態におけるセンタフレーム40は、平面視で略「田」字状(格子状)に形成されている。
【0031】
リヤフレーム42は、それぞれの前端がリヤクロスメンバ52に結合された左右一対のリヤサイドメンバ56と、リヤサイドメンバ56の後端間を架け渡したリヤバンパリインフォースメント58とを主要部として構成されている。リヤサイドメンバ56はロッカ46に対し車幅方向内側にオフセットして配置されており、このリヤサイドメンバ56に対する車幅方向外側に後輪Wrが配置されている。
【0032】
フロントフレーム44は、それぞれの後端がフロントクロスメンバ48に結合された左右一対のフロントサイドメンバ60と、フロントサイドメンバ60の前端を架け渡したフロントバンパリインフォースメント62とを主要部として構成されている。フロントサイドメンバ60は、ロッカ46に対し車幅方向内側にオフセットして配置されており、このリヤサイドメンバ56に対する車幅方向外側に前輪Wfが配置されている。フロントバンパリインフォースメント62は、正面視で下向きに開口する「コ」字状を成しており、車幅方向に延在する荷重入力部62Aがフロントサイドメンバ60に対し車両上方にオフセットして配置されている。
【0033】
(車体前部構造の構成)
図1及び図2に示される如く、車体前部構造10においては、アッパボディ12とロアフレーム14とは、フロントピラー18の下端とロッカ46の前端とが結合されると共に、左右の前後メンバ36の前下端とフロントバンパリインフォースメント62の荷重入力部62Aとが結合され、これらの間は結合されない構成とされている。この実施形態では、ロッカ46がピラー結合部に相当する。
【0034】
そして、ロアフレーム14におけるフロントバンパリインフォースメント62の後方には自動車11の走行のための駆動力を発生するパワーユニット64が配置されており、パワーユニット64はフロントフレーム44に支持されている。この支持状態でパワーユニット64は、キャビンC(トーボード30)に対する車両前方に位置している。なお、パワーユニット64としては、例えば内燃機関、電気モータ、及びこれらを組み合わせたもの等の何れかを採用することができる。
【0035】
以上説明したロアフレーム14は、自動車11の前面衝突の際に圧縮変形されてエネルギ吸収する下側のエネルギ吸収部としての下側クラッシュ部66を有する。この実施形態では、下側クラッシュ部66は前後に離間して複数(2つ)設けられている。具体的には、下側クラッシュ部66は、フロントバンパリインフォースメント62を所定値以上の前後方向の荷重によって圧潰される構造とした前下側クラッシュ部66Bと、フロントサイドメンバ60の後部において所定値以上の前後方向の荷重によって圧潰される構造とされた後下側クラッシュ部66Aとで構成されている。
【0036】
後下側クラッシュ部66Aは、パワーユニット64の配置空間の後方部分で、フロントサイドメンバ60に脆弱部としてのクラッシュビード68を形成することで構成されている。この実施形態では、後下側クラッシュ部66Aは、ダッシュパネル28に対する車両後方に配置されている。
【0037】
一方、アッパボディ12は、自動車11の前面衝突の際に変形されてエネルギ吸収する上側のエネルギ吸収部としての上側クラッシュ部70を有する。上側クラッシュ部70は、フード部材38とダッシュパネル28との間の空間Rをエネルギ吸収ストロークとして前後に潰れる(圧縮される)如く変形することで、前面衝突の際にエネルギ吸収する構成とされている。
【0038】
上側クラッシュ部70としては、図示は省略するが、例えば、フード部材38等の板金の塑性変形、前後メンバ36の塑性変形(曲げ)、フード部材38とダッシュパネル28との間に配置したウレタンや樹脂、金属等の緩衝部材の圧縮変形等の一部又は少なくとも一部の組み合わせによって、構成することができる。上記の通りダッシュパネル28の車両前方に位置する上側クラッシュ部70は、下側クラッシュ部66の後下側クラッシュ部66Aに対して車両前側にオフセットして配置されている。
【0039】
そして、上記の通り、アッパボディ12とロアフレーム14とは、フロントピラー18とロッカ46との結合部と、前後メンバ36(クロス部材35)とフロントバンパリインフォースメント62との結合部との間が、互いに結合されない非拘束構成とされている。このため、アッパボディ12におけるフロントピラー18とクロス部材35との間の部分は、フロントサイドメンバ60に対し車両前後方向に相対変位可能になっている。これにより、アッパボディ12は、下側クラッシュ部66の前後方向の圧縮変形に拘束されることはなく、ロアフレーム14のフロントサイドメンバ60は、上側クラッシュ部70の前後方向の圧縮変形に拘束されることがない構成とされている。
【0040】
また、ロアフレーム14のフロントサイドメンバ60における後下側クラッシュ部66Aとフロントバンパリインフォースメント62(前下側クラッシュ部66B)との間の部分は、中間部60Aとされている。中間部60Aには、前輪Wfを支持するフロントサスペンションを構成するロアアーム72の車幅方向内端部が前後方向に沿った軸線回りに回転可能に支持されている。この中間部60Aの前後方向長さは、前輪Wfにおけるタイヤが装着される金属製のロードホイールWw(図4、図6参照)の直径と同等程度とされている。図4に示される如く、パワーユニット64は、側面視でロードホイールWwの外縁内に収まる配置とされている。
【0041】
このロードホイールWwは、下側クラッシュ部66に対し前後方向に潰れに対し強度が高く、ロアフレーム14において前面衝突の際に潰れ残りやすい部分として捉えられる。この実施形態では、フロントサスペンションを介して中間部60Aの中間部60Aに支持されたロードホイールWwを本発明の高強度部と捉えても良く、フロントサイドメンバ60の中間部60A自体を本発明の高強度部と捉えても良く、ロードホイールWwとフロントサイドメンバ60の中間部60Aとの組み合わせ(ロードホイールWwにて前突荷重に対し補強された中間部60A)を本発明の高強度部と捉えても良い。本発明の高強度部をフロントサイドメンバ60の中間部60Aと捉えた場合には、該高強度部は下側クラッシュ部66(後下側クラッシュ部66A、前下側クラッシュ部66B)に対し車両前後方向の異なる位置に(ずれて)配置されているものと捉えられる。一方、本発明の高強度部がロードホイールWwを含むものと捉えた場合には、高強度部が下側クラッシュ部66に対し車両前後方向の異なる位置に配置された上記の如き構成の他に、該高強度部と下側クラッシュ部66とが、図1に示される如く側面視で車両前後方向の一部をオーバラップさせつつ、車両前後方向にずれて配置される構成が含まれるものと捉えることができる。
【0042】
さらに、図1及び図5に示される車体前部構造10では、左右のフロントサイドメンバ60の中間部60Aの後端(後下側クラッシュ部66Aとの境界部)近傍に、ステアリングギヤハウジング(ステアリングギヤボックス)74の長手方向端部が固定されている。ステアリングギヤハウジング74は、左右の前輪Wfを転舵させるためのもので、図示しないタイロッドを介して前輪Wfに連結されている。
【0043】
また、ステアリングギヤハウジング74は、ステアリングシャフト76を介してステアリングホイール78に連結されている。そして、乗員Pによるステアリングホイール78の操作力が、ステアリングシャフト76を介してステアリングギヤハウジング74に伝わり、該ステアリングギヤハウジング74のアシスト力を加えて前輪Wfに転舵力として伝わる構成とされている。
【0044】
ロアフレーム14を構成するフロントクロスメンバ48の車幅方向中央部からは、ガイド部材としてのセンタメンバ80が車両前向きに突設されている。センタメンバ80は、平面視で、フロントクロスメンバ48を介してセンタ前後メンバ54の前端に連続するように設けられている。
【0045】
このセンタメンバ80の下面は、車両前側よりも後側が低位となる傾斜面又は湾曲面であるガイド部としてのガイド面80Aとされており、ステアリングギヤハウジング74の車幅方向中央部に対し上後側から接触(当接)又はごく近接している。このため、車体前部構造10では、後下側クラッシュ部66Aの圧縮に伴ってステアリングギヤハウジング74が車両後方に移動すると、該移動に伴ってステアリングギヤハウジング74がガイド面80Aにガイドされつつ車両下方にも移動されるようになっている。
【0046】
さらに、センタメンバ80の前端80Bは、ロアフレーム14に支持されているパワーユニット64に連結されている。図示は省略するが、センタメンバ80の前端80Bは、例えば周知のトルクロッドの如くパワーユニット64からの各方向の振動を遮断しつつ、大荷重(変位)を伝達するように連結されている。そして、図5に示される如く、上記の如くセンタメンバ80の後方に連続するように位置するセンタ前後メンバ54は、自動車11を構成する質量の大きな部品であるバッテリ82、制御装置であるPCU(パワーコントロールユニット)84に結合されている。
【0047】
この実施形態では、バッテリ82は、フロントクロスメンバ48と一方のロッカ46とセンタクロスメンバ50とセンタ前後メンバ54とに囲まれた空間内に配置されており、車幅方向内端部がセンタ前後メンバ54に結合されている。一方、PCU84は、フロントクロスメンバ48と他方のロッカ46とセンタクロスメンバ50とセンタ前後メンバ54とに囲まれた空間内に配置されており、車幅方向内端部がセンタ前後メンバ54に結合されている。
【0048】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0049】
上記構成の車体前部構造10では、自動車11がバリヤBに前面衝突すると、アッパボディ12において上側クラッシュ部70が前後方向に圧縮されると共に、ロアフレーム14において前下側クラッシュ部66B、後下側クラッシュ部66Aが前後方向に圧縮される。これら上側クラッシュ部70、下側クラッシュ部66の変形によって衝突のエネルギが吸収される。
【0050】
具体的には、衝突の初期には、上側クラッシュ部70が前端側から圧縮される(潰れる)と共に、前下側クラッシュ部66Bが前端側から圧縮されることで、エネルギ吸収が果たされる。一方、衝突の後期には、図6に示される如く、上側クラッシュ部70が完全に圧縮されると共に、後下側クラッシュ部66Aが圧縮されることで、エネルギ吸収が果たされる。衝突後にも、パワーユニット64、ロードホイールWw、フロントサイドメンバ60の中間部60Aは潰れ残る。
【0051】
ここで、車体前部構造10では、上側クラッシュ部70と下側クラッシュ部66(の少なくとも一部)とで車両前後方向の位置がオフセットされており、これらが前面衝突に伴う荷重によって独立して変形される。このため、車体前部を前後方向に短く構成しながら、衝突時のエネルギ吸収ストロークを確保することができる。以下、具体的に説明する。
【0052】
例えば、車両前後方向の1箇所にエネルギ吸収部が集約されている比較例では、該エネルギ吸収部を避けてキャビンCやパワーユニット64を配置することとなる。このため、この比較例では、所要のエネルギ吸収ストロークを確保するためには、エネルギ吸収部を前後に長くする必要があり、車体前部のコンパクト化が困難である。
【0053】
これに対して車体前部構造10では、フロントバンパリインフォースメント62とフロントピラー18との間で、アッパボディ12とロアフレーム14とが前後方向に相対変位可能であり、これにより上側クラッシュ部70と下側クラッシュ部66との前後方向位置が異なる構成が実現された。このため、アッパボディ12では、トーボード30を避けた上側クラッシュ部70でエネルギ吸収が果たされる一方、ロアフレーム14では、パワーユニット64を避けた下側クラッシュ部66でエネルギ吸収が果たされる。したがって、車体前部構造10では、後下側クラッシュ部66Aの上方にキャビンCの前部を構成するトーボード30を配置することで、エネルギ吸収ストロークを確保しつつ、キャビンCを前方に広くとることができる。また、パワーユニット64の上方の空間を利用して、上側クラッシュ部70を構成することで、ロアフレーム14が吸収すべきエネルギを減らすことができ、これにより要求される衝撃吸収ストロークが短縮される。
【0054】
これらにより、車体前部構造10では、上記した通り、車体前部を前後方向に短く構成しながら、衝突時のエネルギ吸収ストロークを確保することができる。また、側面視でロードホイールWwの外縁内すなわち前面衝突時に潰れにくい領域(非クラッシュゾーン)内に、同様に前後に潰れにくいパワーユニット64が配置されているので、これらを避けた前後位置で上側クラッシュ部70、下側クラッシュ部66を効果的に潰すことができる。すなわち、この配置によってエネルギ吸収ストロークの確保に寄与する。特に、車体前部構造10では、下側クラッシュ部66がパワーユニット64の前後に配置された前下側クラッシュ部66Bと後下側クラッシュ部66Aとを含んで構成されているため、車両前後方向の限られた寸法内で下側クラッシュ部66のエネルギ吸収ストロークを確保することができた。
【0055】
またここで、車体前部構造10では、後下側クラッシュ部66Aの圧縮に伴って後方に移動するステアリングギヤハウジング74は、センタメンバ80のガイド面80Aに案内されつつ下方にも移動する。この変位に伴って、ステアリングギヤハウジング74を支持するフロントサイドメンバ60の中間部60Aがパワーユニット64と共に後下方に移動する。このため、後方に移動するパワーユニット64は、キャビンCに干渉することがなく、前面衝突後においてもキャビンCの変形量が小さく抑えられる。しかも、ステアリングギヤハウジング74が下方に移動されることで、ステアリングシャフト76を介してステアリングギヤハウジング74に連結されたステアリングホイール78は、車両前方に移動される。これにより、乗員Pの胸部とステアリングホイール78との距離が拡大され、該乗員Pの上体(胸部)の保護性能が向上される。
【0056】
さらに、車体前部構造10では、前面衝突の相手方であるバリヤBに対し、パワーユニット64を介してバッテリ82、PCU84の慣性質量(マス)を早期(衝突の初期)に伝達することができる。これにより、衝突後期における自動車11の運動エネルギの低減に寄与する。すなわち、キャビンCを後方から潰すようなモードの変形が衝突の後期に生じることが効果的に抑制される。
【0057】
なお、上記実施形態では、センタメンバ80が車幅方向中央部に1つ設けられた例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、左右一対のセンタメンバ80を設けた構成としても良い。この場合、例えば、左右のセンタメンバ80をバッテリ82、PCU84に直接的に結合しても良く、また例えば、センタフレーム40のフロントクロスメンバ48を介してバッテリ82、PCU84の慣性質量がセンタメンバ80に支持されるようにしても良い。
【0058】
また、上記した実施形態では、自動車11の全体がアッパボディ12とロアフレーム14とで構成された例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、自動車11におけるフロントピラー18から前側の部分だけを車体上部と下部とで構成するようにしても良い。
【0059】
その他、本発明は、上記したアッパボディ12、ロアフレーム14の形状等に限定されることはなく、各種変形して実施可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0060】
10 車体前部構造
12 アッパボディ(車体上部)
14 ロアフレーム(車体下部)
18 フロントピラー
30 トーボード(車室前部壁)
46 ロッカ(ピラー結合部)
60 フロントサイドメンバ(サイドメンバ)
64 パワーユニット
66 下側クラッシュ部(下側のエネルギ吸収部)
70 上側クラッシュ部(上側のエネルギ吸収部)
74 ステアリングギヤハウジング
80 センタメンバ(ガイド部材)
80A ガイド面(ガイド部)
C キャビン(車室)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントピラーと、前記フロントピラーに対する車両前側で車室の一部を構成する車室前部壁とを含む車体上部と、
前記フロントピラーの車両上下方向の下端部が結合されたピラー結合部と、該ピラー結合部に対する車両前側で車両前後方向に沿って延在する左右一対のサイドメンバとを含む車体下部と、
前記車体上部における前記車室前壁に対する車両前後方向の前側に設けられ、前面衝突の荷重により車両前後方向に潰れる上側のエネルギ吸収部と、
前記車体下部における前記フロントピラーに対する車両前後方向の前側でかつ前記上側のエネルギ吸収部に対して車両前後方向にずれた部分に、前記車室前部壁に対し車両前後方向に相対変位可能に設けられ、前記サイドメンバに入力される前面衝突の荷重により車両前後方向に潰れる下側のエネルギ吸収部と、
を備えた車体前部構造。
【請求項2】
前記車体下部の一対のサイドメンバには、車両走行のための駆動力を発生するパワーユニットが支持されており、
前記下側のエネルギ吸収部は、前記車室前部壁の車両上下方向の下側でかつ前記パワーユニットに対する車両後側に配置された後下側のエネルギ吸収部を含んで構成されており、
前記上側のエネルギ吸収部は、前記パワーユニットの車両上下方向の上側に配置されている請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記下側のエネルギ吸収部は、前記パワーユニットに対する車両前側に配置された前下側のエネルギ吸収部を含んで構成されている請求項2記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記車体下部には、前記下側のエネルギ吸収部よりも車両前後方向の潰れに対する強度が高い高強度部が、前記下側のエネルギ吸収部に対し車両前後方向にずれて設けられており、
前記パワーユニットは、側面視で前記高強度部にオーバラップして配置されている請求項2又は請求項3記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記サイドメンバにおける前記下側のエネルギ吸収部に対する車両前側部分又は前記下側のエネルギ吸収部に設けられたステアリングギヤハウジングと、
前記車体下部における前記下側のエネルギ吸収部に対する車両前後方向の後側の部分に固定され、前記ステアリングギヤハウジングに対し車両上下方向の上側でかつ車両前後方向の後側から接触又は近接したガイド部を有するガイド部材と、
をさらに備えた請求項1〜請求項4の何れか1項記載の車体前部構造。
【請求項6】
前記ガイド部材は、車両前後方向に長手とされると共に、車両前端部が前記パワーユニットに結合されている請求項2〜請求項4の何れかに従属する請求項5に記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−240762(P2011−240762A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112949(P2010−112949)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】