説明

α−アノマーが濃厚な2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノシルスルホネートの製造方法およびβヌクレオシドの製造方法

【課題】抗腫瘍剤、ゲムシタビンのようなβ−ヌクレオシドの製造における中間体として有用である、α−アノマーが濃厚な2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノシルスルホネートの製造方法の提供。
【解決手段】変換を可能にするスルホネート塩の効果的な量非存在下で、β-2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノシルスルホネートを加熱して、α-2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノシルスルホネートに変換する。さらに、2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノシルスルホネートのα−アノマーおよびβ−アノマーのアノマー混合物は、水と溶媒の混液に溶解され、加熱されてラクトールを生じることができ、それはさらにα−アノマーが濃厚な2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノシルスルホネートに変換され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連発明
本出願は、2005年6月3日に出願された米国仮出願第60/687,593号に優先権主張するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
1.本発明の技術分野
本発明は、抗癌剤であり、βヌクレオシド類の製造における中間体として有益であるα−アノマーが濃厚な2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノシルスルホネート類の製造方法に関する。詳細には、本発明は、所望のβヌクレオシド類に、さらに変換され得るα-2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノシルスルホネート類への、β-2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノシルスルホネート類の変換方法に関する。
【0003】
2.関連技術の説明
ヌクレオシド製造のための立体的選択方法は、アノマー位におけるフラノース糖の立体化学的異性化を含む。したがって、β−ヌクレオシドが所望の生成物である場合、α−アノマーが富化している好適な糖中間体が、グリコシル化反応における基体として好んで用いられる。例えば、公知物質ゲムシタビン(gemcitabine)は、β配置のヌクレオシドであり、したがって、α−配置にある好適な糖スルホネート中間体へのブロックされているシトシンのSN2置換から生じるセンターの反転により好適に製造され得る。
【0004】
現在の公知技術は、低温におけるブロックされている糖ラクトールのスルホン化剤との反応によるα−アノマーが濃厚なスルホネートエステル類の製造に帰着する。所望のα−アノマーは純度が高められて結晶化され得るが、収率が低い。残りの物質は、通常、濃厚なα−アノマーが容易に単離できないαおよびβ−アノマー類の混合物である。この物質の回収およびそれを所望の濃厚なαモノマーに変換する効果的な方法なしに、α−アノマーの収率は低く、前記の方法の商業化は危うくなっている。
【0005】
米国特許第5,256,798号(特許文献1)は、不活性有機溶媒中、スルホン酸の共役アニオン源(すなわち、スルホネート塩)を用いるβ−アノマーリボフラノシル スルホネートの高められた温度での処理によるα−アノマーが濃厚なリボフラノシル スルホネートの製造方法を開示している。しかしながら、溶媒へのスルホン酸の共役アニオンを溶解することの困難、ならびに溶媒除去および水を含んだ処理の必要性は、この方法の有用性を制限している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,256,798号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
α−アノマーが濃厚な2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノシルスルホネートの製造方法およびβヌクレオシドの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨
本発明は、リボフラノシルスルホネートのα−アノマーへの変換を容易にするためのスルホネート塩の有効量の非存在下で、β−アノマーをα−アノマーへ変換するために、式(II):
【化1】

[式中、各Yはヒドロキシ保護基から独立して選択され、Rはアルキル、置換されているアルキル、アリールまたは置換されているアリール基である]
のβ−アノマーを加熱することを含む、式(I):
【化2】

[式中、各Yはヒドロキシ保護基から独立して選択され、Rはアルキル、置換されているアルキル、アリールまたは置換されているアリール基である]
のα−アノマーが濃厚なリボフラノシル メタンスルホネートの製造方法を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、
a) 有機溶媒、好ましくは極性有機溶媒および水の混液中に、式(I)のα−アノマーと式(II)のβ−アノマーとの混合物を溶解させ;
b) 混合物を高められた温度で加熱して加溶媒分解反応を生じさせ;そして
c) 混合物を水で希釈し、式(III):
【化3】

[式中、各Yはヒドロキシ保護基から独立して選択される]
のラクトールを有機溶媒で抽出する
工程を含む式(III)のラクトールの製造方法を提供する。
【0010】
この式(III)のラクトールは、スルホン化剤と反応させることにより、リボフラノシルスルホネート、好ましくは濃厚になった式(I)のα−アノマーに変換され得る。
【0011】
式(I)のα−アノマーは、核酸塩基誘導体との反応を生じることができ、式(IV):
【化4】

[式中、各Yはヒドロキシ保護基から独立して選択され、R' は核酸塩基である]
のβ−アノマーが濃厚なヌクレオシドを製造できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、α−アノマーが濃厚な2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノシルスルホネートの製造方法およびβヌクレオシドの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
これらのおよび他の特性、様相ならびに本発明の利点は、以下の記載および添付のクレームを参照してより理解されるようになる。
現在の具体的な態様の詳細な説明
【0014】
ここで用いられているように、用語「α/β混合物」は、式(I)および(II)の2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノースのスルホネートエステル類を意味し、それは重量/重量の比またはパーセントで表される。
【0015】
用語「エピマー化」は、式(I)および(II)のスルホネートエステル類の異性化を意味する。
【0016】
用語「ラクトール」は、式(III)の2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノースを意味する。
【0017】
用語「α−濃厚な」または「α−富化された」の混合は、1:1より大きいαおよびβ−アノマー類の比を有することを意味し、かつ実質的に純粋なα−モノマーを含む。
【0018】
用語「加水分解」または「加溶媒分解」は、ラクトールを形成するヒドロキシ基によるスルホネート エステルの置換を意味する。
【0019】
用語「熱による異性化」は、スルホネート塩を添加せずにα/β混合物を加熱してβ−アノマーをα−アノマーに変換し、β−アノマーのα−アノマーへの変換を可能にすることを意味する。
【0020】
用語「アルキル」は、直鎖、環状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素基を意味する。
【0021】
用語「低級アルキル」は、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシルまたは3−メチルペンチルなどの炭素原子7に至るまでを含むアルキル基を意味する。
【0022】
用語「アリール」は、例えばフェニル、ナフチルまたはチエニルなどの炭素環式または複素環式基を意味する。
【0023】
用語「低級アリール」は、炭素原子6〜12を含む、例えばフェニル、置換されているフェニル、ナフチルなどのアリール基を意味する。
【0024】
α−アノマー式(I)およびβ−アノマー式(II)における「R」は、好ましくは低級アルキルまたはアリール基である。
【0025】
用語「置換されている」は、例えばシアノ、ハロ、カルボアルコキシ、アリール、ニトロ、アルコキシ、アルキルおよびジアルキルアミノなどの1以上の基による、水素原子または一般的な部分の置換を意味する。
【0026】
ここで用いられている「核酸塩基(R')」は、有機化学者にとっては周知であり、これらの合成の議論は必要ない。しかしながら、本発明のグリコシル化方法が有益であるために、ヌクレオシド誘導体またはアミノもしくはヒドロキシ基を有するそれらの互変異性同等物は、選択された核酸塩基誘導体の特性に応じて、例えば1級アミノ保護基(W)および/またはヒドロキシ保護基(Z)のような保護基を好ましくは含む。この保護基類は、β−またはα−アノマー 炭水化物類に対する競争反応サイトを提供し得るヒドロキシまたはアミノ基をブロックする。核酸塩基(R')に結合されている保護基類は、式(I)のα−アノマーが濃厚な炭水化物と反応し、その後そこから除去される。核酸塩基誘導体類の保護方法は、米国特許第4,526,988号に記載されており、その全内容は参考としてここに組込まれる。同様に、有機化学者は、式(I)または(II)のαまたはβ炭水化物に所望の核酸塩基(R')を結合させるための好適な核酸塩基誘導体を容易に選択できる。たとえば、米国特許第5,426,183号および4,526,988号は多数の核酸塩基類および核酸塩基誘導体類を開示している。米国特許第5,426,183号および4,526,988号の全内容は参考としてここに組込まれる。
【0027】
例えば、保護基がない核酸塩基は、以下の:
【化5】

[式中、R1は水素、アルキル、ハロおよびそれらの誘導体からなる群から選択され、R2は水素、アルキル、ハロおよびそれらの誘導体からなる群から選択される]
を含む。
【0028】
保護された核酸塩基は、例えば、以下:
【化6】

【0029】
[式中、Zはヒドロキシ保護基であり、Wはアミノ保護基であり;R1は水素、アルキル、ハロおよびそれらの誘導体からなる群から選択され、R2は水素、アルキル、ハロ、およびそれらの誘導体からなる群から選択される]
を含む。
【0030】
好適な核酸塩基誘導体は、例えば、以下:
【化7】

[式中、Zはヒドロキシ保護基であり、Wはアミノ保護基であり;R1は水素、アルキル、ハロおよびそれらの誘導体からなる群から選択され、R2は水素、アルキル、ハロ、およびそれらの誘導体からなる群から選択される]
を含む。
【0031】
用語「スルホネート塩」は、米国特許第5,256,798号に説明されているようにスルホン酸の共役アニオン源を意味し、その全内容は参考としてここに組込まれる。
【0032】
用語「スルホン化剤」は、式(III)のラクトールと反応でき、式(I)または(II)の2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノースのスルホネート エステルを製造する試薬を意味する。好適なスルホン化剤は、アリールスルホニル ハライド類、置換されているアリールスルホニル ハライド類、アリールスルホニル 無水物類および 置換されているアリールスルホニル 無水物類からなる群から選択できる。置換されているアリールスルホニル ハライド類は、2−ニトロベンゼンスルホニル クロリド、p−シアノベンゼンスルホニル 3−ニトロベンゼンスルホニル クロリド、2,4−ジニトロベンゼンスルホニル クロリド、p−ブロモベンゼンスルホニル クロリド、p−フロロベンゼンスルホニル クロリド、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルホニル クロリド、2,4,6−トリメチルベンゼンスルホニル クロリド、p−ヨードベンゼンスルホニル クロリド、p−クロロベンゼンスルホニル クロリド、p−メトキシベンゼンスルホニル クロリド、および−トルエンスルホニル クロリドからなる群から選択され;好ましくは、2−ニトロベンゼンスルホニル クロリド、3−ニトロベンゼンスルホニル クロリド、p−ブロモベンゼンスルホニル クロリド、p−フロロベンゼンスルホニル クロリドおよびp−クロロベンゼンスルホニル クロリドであり;最も好ましくは、p−ブロモベンゼンスルホニル クロリドである。好ましいアリールスルホニル 無水物類は、ベンゼンスルホン酸 無水物およびp−ブロモベンゼンスルホン酸 無水物から選択される。好ましいアリールスルホニル ハライド類は、ベンゼンスルホニル クロリドおよび2−ナフチレンスルホニル クロリドから選択され;より好ましくはベンゼンスルホニル クロリドである。
【0033】
用語「ヒドロキシ保護基(YおよびZ)」は、ここで用いられているように、合成工程の間に望ましくない反応に対してヒドロキシ基を保護するための脱離し易い化学分子を意味する。前記合成工程の後に、ヒドロキシ保護基は、ここに記載されているように選択的に除去され得る。ヒドロキシ保護基は当業者に公知であり、「Protective Groups in Organic Chemistry」、McOmie編、Plenum Press、ニューヨーク(1973)の第3章および「Protective Groups in Organic Synthesis」、Green、John、J.、Wiley and Sons、ニューヨーク(1981)第2章に記載されており;これらの文献の両方の全内容は参考としてここに組込まれる。好ましいヒドロキシ保護基は、例えばホルミル、アセチル、置換されているアセチル、プロピオニル、ブチニル、ピバロイル、2−クロロアセチル、ベンゾイル、置換されているベンゾイル、フェノキシカルボニル、メトキシアセチルなどのエステル形成基;例えばフェノキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル エトキシカルボニル、ビニロキシカルボニル、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニルおよびベンジルオキシカルボニルなどのカルボネート誘導体類;例えばベンジル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、t−ブチル、メトキシメチル、テトラヒドロピラニル、アリル、テトラヒドロチエニル、2−メトキシエトキシメチルなどのアルキルエーテル 形成基類;ならびに例えばトリアルキルシリル、トリメチルシリル、イソプロピルジアルキルシリル、アルキルジイソプロピルシリル、トリイソプロピルシリル、t−ブチルジアルキル-シリルおよび1,1,3,3−テトライソプロピルジシロキサニルなどのシリルエーテル 形成基;例えばN−フェニルカルバメートおよびN−イミダゾイルカルバメートなどのカルバメート類;しかしながら、より好ましくはベンゾイル、モノ−置換されているベンゾイルおよびジ置換されているベンゾイル、アセチル、ピバロイル、トリフェニルメチルエーテル類、およびシリルエーテル 形成基類であり、特にt−ブチルジメチルシリルが好ましく;一方で、最も好ましいのは、ベンゾイルである。
【0034】
用語「アミノ保護基(W)」は、ここで用いられているように、合成工程の間に望ましくない反応に対してアミノ基を保護する化学変化を起こしやすい化学的分子を意味する。上記の合成工程の後に、アミノ保護基は、ここに記載されているように選択的に除去され得る。当業者に公知であるようにアミノ保護基は、T. H. GreeneおよびP. G. M. Wuts、「Protective Groups in Organic Synthesis」、第3版、John Wiley & Sons、ニューヨーク(1999)に一般的に記載されており、その全内容は参考としてここに組込まれる。アミノ保護基の例は、例えばトリアルキルシリル、t−ブチルジアルキルシリルおよびt−ブチルジアリールシリルなどのシリルエーテル形成基類;例えばt−ブトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、4−メトキシベンジルオキシカルボニル、9−フルオレニルメトキシカルボニルおよび4−ニトロベンジルオキシカルボニルなどのカルバメート類;ホルミル、アセチル、ベンゾイルおよびピバルアミド;例えばメトキシメチル、t−ブチル、ベンジル、アリルおよびテトラヒドロピラニルなどのエーテル形成基類;例えば2−トリアルキルシリルエトキシメチル、4−メトキシベンジル、3,4−ジメトキシベンジル、t−ブチル、フタルアミド、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニル、メトキシメチルエーテル、メトキシチオメチル、トリチル、ピバルアミド、t−ブチルジメチルシリル、t−ヘキシルジメチルシリル、トリイソプロピルシリル、トリクロロエトキシカルボニル、トリフロロアセチル、ナフトイル、ホルミル、アセチルなどのアルキルカルボキシアミド類、ハロアルキルカルボキシアミド類およびアリールカルボキシアミド類;例えばアルキルスルホンアミドおよびアリールスルホンアミドなどのスルホンアミド類を含むが、これに制限されるものではない。
【0035】
用語「ハロ」はフロロ、クロロ、ブロモおよびヨードを意味する。
【0036】
用語「不活性な極性溶媒」は、ここで用いられているように、反応条件に対して不活性である極性溶媒を意味する。不活性な極性溶媒は、アミド類、スルホキシド類、ニトリル類、およびエーテル類、より具体的には、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、グリム、ジグリム、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ピリジン、N−メチルピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾロン、N,N−ジメチルアセトアミドおよびこれらの混液を含み;最も好ましいのはN,N−ジメチルホルムアミドである。
【0037】
溶媒の選択は、式(III)のラクトール製造の加水分解反応を行なうためのいくらかの水溶性を考慮するべきである。
【0038】
式(I)のα−アノマーと核酸塩基誘導体との間のグリコシル化反応は、何れかの好適な方法、例えば、米国特許第5,606,048号に開示されている方法(その全内容は参考としてここに組込まれる)により実行できる。たとえば、グリコシル化反応は、例えば芳香族、ハロアルキル、アルコキシ−およびハロ置換芳香族溶媒などの不活性溶媒中、約50℃〜100℃を範囲とする温度で実行できる。好ましくは不活性溶媒は、不活性な極性溶媒である。
【0039】
2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノース スルホネート類のアノマー混合物類は、先行技術、例えば米国特許第4,526,988号;第4,965,374号;および第5,252,756号に公表されている方法により容易に合成できる。これらの特許それぞれの全内容は、ここに参考として組込まれる。反応温度は、β−スルホネートよりα−スルホネートの形成に大いに影響を及ぼすことが示された(米国特許第5,401,861号参照)。より高い温度の使用は、α−スルホネート形成のより少ない富化を生じ、したがって、結晶化後に富化されたα−スルホネートの低い収率を生じる。
【0040】
本発明は、再富化された混合物を、α−スルホネートが富化された生成物に戻して再利用するために、結晶化後に残るα/β混合物を、再富化させる様々な方法を提供する。
【0041】
第1の方法は、極性有機溶媒と水の混液中で、スルホネートを加溶媒分解してラクトールに戻すことができることをうまく利用する。これを、以下に示す。
【化8】

[式中、各Yはヒドロキシ保護基から独立して選択され、Rはアルキル、置換されているアルキル、アリールまたは置換されているアリール基である]
【0042】
生じるラクトールは、次いでスルホン化方法に容易に付すことができ、α−スルホネート、特にα−スルホネートが富化されたアノマー混合物を生じる。このサイクルは最初のラクトールから得ることができる濃厚なα−メシレートの収率を大いに増加する。ラクトールから生じるα−スルホネート、特に、α−スルホネートが濃厚なアノマー混合物のスルホン化方法は、例えば米国特許第5,401,861号に開示されている低温方法(その全内容は参考としてここに組込まれる)などの好適な何れかの方法であり得る。
【0043】
この加溶媒分解は、熱条件下でSN1メカニズムにより起こる。水が溶解している極性の、より高く沸騰している非求核性有機溶媒が好ましい。好適な溶媒は、制限されることなく、水溶性のエーテル類、アミド類、ニトリル類およびスルホキシド類であり得る。よりよい反応速度のためには、少なくとも100℃の温度が好ましく、約100℃〜約140℃の温度範囲がより好ましい。スルホネートの完全な変換は、分単位(minutes)から時間単位(hours)で起こり、ラクトール生成物は、水の添加および有機溶媒での抽出により容易に回収できる。
【0044】
本発明の一つの態様によれば、式(V)のスルホネート類から式(III)のラクトールの製造方法は、以下のようにして実行できる:a)水混和性溶媒、水、および任意に弱塩基性物質、例えば酢酸ナトリウムのようなカルボキシレート類、4級アミン類、pH4〜9の間の緩衝液の混液中に式(V)のα/βスルホネート混合物を溶解させ;b)加溶媒分解が完結するまでa)の混合物を高められた温度で加熱し;c)混合物を水で希釈し、有機溶媒で抽出して式(III)のラクトールを生じさせる。
【0045】
ラクトールの抽出に用いられる有機溶媒は、水に非混和性のいずれの溶媒、例えばトルエン、メチレンクロリド、エチルアセテートなどであり得る。
【0046】
αが富化されたリボフラノシルスルホネートを回収する第2の方法は、米国特許第5,256,798号の方法により用いられたどんなスルホネート塩も添加せずに、α/β混合物の直接熱異性化をとおして進行する。
【0047】
米国特許第5,256,798号は、「不活性溶媒中の2−デオキシ−2,2−ジフロロリボフラノシル メタンスルホネートの溶液を、130℃まで延長した時間帯で加熱することが、アノマーのアノマー配置に影響しない」ことを開示している。したがって、米国特許第5,256,798号は、不活性溶媒中、スルホネート塩でβ−アノマー リボフラノシル スルホネートを高められた温度で処理することによりα−アノマーが濃厚なリボフラノシル スルホネートを提供するためのアノマー化方法を提案している。
【0048】
我々は、驚くべきことに、本質的にいずれの溶媒の非存在下、いずれのスルホネート塩の非存在下に、式(II)のβ−アノマー スルホネートを単に約130℃に至るまでの高められた温度で加熱することが、アノマー異性化を容易に生じる事を見出した。好ましい温度範囲は、約90℃〜約130℃である。事実、この方法は、反応を通常のように単に処理し、溶媒を除去し、残渣を加熱し、好適な有機溶媒を添加し、濃厚なα−スルホネートを結晶化させることによる、メシル化反応から直接αが富化された混合物の製造に用いられ得る。濃厚なα−スルホネートの各単離後に、単に溶媒を除去し、残渣を加熱し、好適な有機溶媒を添加し、濃厚なα−スルホネートを結晶化させることにより、残渣は再利用できる。αが富化された混合物を製造するためのこの方法の実施との関連で、いずれの溶媒も本質的にない条件は、αが富化された混合物の製造を実質的に妨げる量もない溶媒の存在中を意味する。
【実施例】
【0049】
以下の実施例は本発明の特定の態様を説明するものであり、いずれの態様においてもそれらの範囲を制限することを意図するものではなく、そのように解釈されるべきである。
【0050】
実施例1
2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノース メシレートのアノマー混合物の異性化:
適当なフラスコ中に、α/β比1.43を有する2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノース メシレート10gを入れる。この混合物を、溶媒を用いずに120℃で3時間加熱して、異性化を達成させる。この混合物を75℃に冷却し、HPLCは、約2:1のα/β比を示す。この混合物に酢酸エチル28ml、ヘプタン42mlおよび活性炭1gを充満した。この混合物を70℃で1時間撹拌し、ろ過し、20℃に冷却した。2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノースα-メシレートの種結晶および混合物を、さらに0℃に撹拌しながら冷却した。2時間撹拌後、生成物をろ過により回収し、α−メシレートが回収された。収量は20:1のα/β比を示す物質2.3gであった。溶媒をろ液から除去し、同様の結果で異性化および結晶化方法を繰り返した。
【0051】
実施例2
2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノースβ-メシレートの2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノースα-メシレートが濃厚な混合物への異性化:
2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノース β-メシレート (α/β;1:8)の相当量を含む混合物をいずれの溶媒の非存在下で、130℃で3時間加熱した。HPLC分析は1.7:1のα/β比を示した。
【0052】
実施例3
2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノース メシレートのアノマー混合物の加水分解
2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノース メシレート アノマー混合物(α/β;1:1)50gを含むフラスコに、DMF250mlおよび水12mlを加えた。この混合物を、時間分析で全てのメシレートが2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノースに変換され戻ることを示した4時間、加熱還流した。この混合物を水で希釈し、酢酸エチルで抽出する。その溶液を水で洗浄し、溶媒を除去する。トルエンを加え、蒸留し、低温反応(例えば、米国特許第5,401,861号に開示の低温方法)を用いて、2−デオキシ−2,2−ジフロロ−D−リボフラノースα-メシレートが濃厚な生成物を生じることができる油(48g)を得る。
【0053】
本発明は、実施例としてのみ示した上記の態様に限定されるものではなく、添付の特許クレームにより定義された保護の範囲内で種々の方法により変更できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の:
a) 極性有機溶媒およびpH4〜9の水の混液中に、式(V):
【化1】

[式中、各Yはヒドロキシ保護基から独立して選択され、Rはアルキル、置換されているアルキル、アリールまたは置換されているアリール基である]
のアノマー混合物を溶解し、
b) 上記の混合物を高められた温度で加熱して加溶媒分解反応を生じさせて、式(III)のラクトールを得、
c) 該混合物を水で希釈し、式(III)のラクトールを水不混和性の有機溶媒で抽出する
工程を含む、式(III)のラクトールの製造方法。
【請求項2】
前記温度が少なくとも100℃である請求項1の方法。
【請求項3】
前記温度が約100℃〜140℃である請求項1の方法。
【請求項4】
前記極性有機溶媒がアミド類、スルホキシド類、ニトリル類およびエーテル類から選択される請求項1の方法。
【請求項5】
前記極性有機溶媒がN,N−ジメチルホルムアミドである請求項1の方法。
【請求項6】
Yがベンゾイルまたは置換されているベンゾイルであり、Rがメチルである請求項1の方法。
【請求項7】
式(I):
【化2】

[式中、各Yはヒドロキシ保護基から独立して選択され、Rはアルキル、置換されているアルキル、アリールまたは置換されているアリール基である]
のα−アノマーを製造するために、ラクトールをスルホン化剤と反応させる請求項1の方法。
【請求項8】
製造されるα−アノマーが、α−アノマーが濃厚な混合物の形態で存在する請求項7の方法。
【請求項9】
前記式(I)のα−アノマーを、核酸塩基誘導体と反応させ、ヌクレオシドを製造する請求項7の方法。
【請求項10】
a) 式(V):
【化3】

[式中、各Yはヒドロキシ保護基から独立して選択され、Rはアルキル、置換されているアルキル、アリールまたは置換されているアリール基である]
のアノマー混合物を、極性有機溶媒とpH4〜9の水との混液に溶解し、
b) 上記の混合物を高められた温度で加熱して、加溶媒分解を生じさせて、式(III)のラクトールを得、
c) 該混合物を水で希釈し、式(III)のラクトールを水不混和性の有機溶媒で抽出し、
d) 前記式(III)のラクトールをスルホン化剤と反応させて、式(I):
【化4】

[式中、各Yはヒドロキシ保護基から独立して選択され、Rはアルキル、置換されているアルキル、アリールまたは置換されているアリール基である]
を生じさせ、
e) 式(I)のα−アノマーをヌクレオシド誘導体と反応させてヌクレオシドを製造する
ことを含む、式(IV):
【化5】

[式中、各Yはヒドロキシ保護基から独立して選択され、R'は核酸塩基である]
のヌクレオシドの製造方法。
【請求項11】
製造された式(I)のα−アノマーが、α−アノマーが濃厚な混合物の形態で存在する請求項10の方法。
【請求項12】
R'が、以下の:
【化6】

[式中、R1は水素、アルキル、ハロおよびそれらの誘導体からなる群から選択され、R2は水素、アルキル、ハロおよびそれらの誘導体からなる群から選択される]
の何れか一つである請求項10の方法。
【請求項13】
ヌクレオシドがゲムシタビンである請求項10の方法。
【請求項14】
Yが、ベンゾイルまたは置換されたベンゾイルである請求項10の方法。

【公開番号】特開2012−236851(P2012−236851A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−176061(P2012−176061)
【出願日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【分割の表示】特願2008−514697(P2008−514697)の分割
【原出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(507397364)シノファーム タイワン,リミテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】SCINOPHARM TAIWAN,LTD.
【住所又は居所原語表記】1,NAN−KE 8TH ROAD,Tainan Science−based Industrial Park,Tainan County,741,TAIWAN
【出願人】(507397375)
【氏名又は名称原語表記】SCHLOEMER,George
【住所又は居所原語表記】No.1,Nan−ke 8th Road,Shan−hua,Tainan County,74144,TAIWAN
【Fターム(参考)】