説明

α−アミラーゼ阻害剤

【課題】天然物由来の,安全で温和な効力を有するα−アミラーゼ阻害剤,及び,該α−アミラーゼ阻害剤を含有する血糖値上昇予防又は治療薬,或いは,血糖値上昇抑制機能を付与した飲食品,或いはペットフードを提供すること。
【解決手段】ヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペンを有効成分として含むキウイフルーツの葉をアルコール又は熱水で抽出して得た抽出液を,90%メタノールで抽出される精製画分を採取することにより調製することができる。また,更に,シリカカラム及び/又はODSカラムによるカラムクロマトグラフィーにより精製・分離し,精製画分を採取することにより,更に精製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,α−アミラーゼ阻害剤,ヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペンを有効成分とするα−アミラーゼ阻害剤。特に(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidを有効成分とするα−アミラーゼ阻害剤,及び該α−アミラーゼ阻害剤を含有する血糖値上昇予防又は治療薬,或いは,血糖値上昇抑制機能を付与した飲食品,或いはペットフードに関する。
【背景技術】
【0002】
肥満や糖尿病等は,食生活のような生活習慣,環境因子によりその発症が大きく影響されることから,生活習慣病とも呼ばれている。近年,日本では食べ過ぎ等の食生活が原因となるII型糖尿病が増加の一途をたどっている。糖尿病には,インスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)とインスリン非依存型糖尿病(II型糖尿病)の2タイプがあるが,その90%は後者のタイプである。インスリン非依存型糖尿病における高血糖の原因として,食後の急峻な血糖上昇に対応し,瞬時に分泌されるべきインスリン早期相の欠如と食後高血糖の持続により誘導される内因性基礎インスリン分泌低下が挙げられる。
【0003】
食後高血糖の是正には消化系における糖質の急速な吸収を防ぐ方法がある。消化系における糖質の吸収としては,唾液中や膵液中のα−アミラーゼや小腸中のα−グルコシダーゼが関与しており,これらの酵素を阻害することにより,食後の血糖値上昇が抑制され,更にそれに続くインスリン値の上昇も抑制されることが明らかにされている。一般的な経口糖尿病薬にはアカルボース,ボグリボース,ミグリトールといったα−グルコシダーゼを競合的かつ拮抗的に阻害するα−グルコシダーゼ阻害剤がある。
【0004】
これまで植物或いは植物抽出物からなる各種の血糖値上昇抑制剤が開示されているが,ヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペンを有効成分とするα−アミラーゼ阻害剤。特に(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidのような成分からなるα−アミラーゼ阻害剤は開示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は,天然物由来の安全で,温和な効力を有するα−アミラーゼ阻害剤,及び,該α−アミラーゼ阻害剤を含有する血糖値上昇予防又は,治療薬,或いは,血糖値上昇抑制機能を付与した飲食品,或いは,ペットフードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは,先に,キウイフルーツの葉のメタノール抽出物が顕著な血糖値上昇抑制作用を有することを見い出し,該抽出物を有効成分とする血糖値上昇抑制剤等について,特許出願を行なった(特願2007−35483号)
【特許文献1】。そして更に,キウイフルーツの葉の血糖値上昇を抑制する物質について,鋭意検討する中で,キウイフルーツの葉の血糖値上昇を抑制する物質として数種類の五環性のヒドロキシトリテルペン類が含まれることを見い出し,その中から特に(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acidおよび(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidを精製・単離することに成功し,該物質がα−アミラーゼ阻害を有することを確認し,本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち,本発明は,ヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペンを有効成分とするα−アミラーゼ阻害剤。特に(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidを有効成分とするα−アミラーゼ阻害剤からなる。本発明の,(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidは,下記一般式で表される。
【0008】
【化1】

【化2】

【0009】
本発明のα−アミラーゼ阻害剤の有効成分であるヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペン類,特に(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidは,アルコール又は熱水抽出物を抽出して得られるヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペン精製画分,特に(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidを採取することにより調製できる。また,アルコール又は熱水抽出物を抽出し,90%メタノールで抽出して得られるヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペン精製画分,特に(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidを採取することにより調製できる。更に,シリカカラム及び/又はODSカラムによるカラムクロマトグラフィーにより精製・分離し,ヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペン類画分を採取することにより,更に精製された(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidを調製することができる。
【0010】
本発明のヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペン類,特に(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidを1種または2種含むことを特徴とするα−アミラーゼ阻害剤は,消化管における糖質の分解を阻害することでグルコースの血中への吸収を抑制し,該α−アミラーゼ阻害剤を添加,含有させることにより,血糖値上昇予防または治療薬を,或いは,血糖値上昇抑制機能を付与した飲食品,或いはペットフードを提供することができる。
【0011】
すなわち具体的には本発明は,(1)ヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペンを有効成分とするα−アミラーゼ阻害剤。(2)(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidを1種または2種含むことを特徴とするα−アミラーゼ阻害剤からなる。
【0012】
また本発明は,(3)上記(1または2)に記載のα−アミラーゼ阻害剤を含有することと特徴とする血糖値上昇予防または治療薬や,(4)上記(1または2)に記載のα−アミラーゼ阻害剤を添加したことを特徴とする血糖値上昇抑制機能を付与した飲食品や,(5)上記(1または2)に記載のα−アミラーゼ阻害剤を添加したことを特徴とする血糖値上昇抑制機能を付与したペットフードからなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のα−アミラーゼ阻害剤の有効成分であるヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペンを有効成分とするα−アミラーゼ阻害剤。特に(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidは,植物のような天然由来の有効成分として,穏やかなかつ顕著なα−アミラーゼ阻害作用を奏する。したがって,本発明は,天然物由来の安全で,温和な効力を有するα−アミラーゼ阻害剤を提供するとともに,該α−アミラーゼ阻害剤を含有する血糖値上昇予防又は治療薬,或いは,血糖値上昇抑制機能を付与した飲食品,或いは,ペットフードを提供し,人間又は動物の糖尿病のような生活習慣病の予防,改善のための有力な対処法を提供することができる。
【0014】
本発明は,ヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペンを有効成分とするα−アミラーゼ阻害剤。(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidを1種または2種含むことを特徴とするα−アミラーゼ阻害剤,及び,該α‐アミラーゼ阻害剤を含有する血糖値上昇予防又は治療薬,或いは,α−アミラーゼ阻害剤を添加した血糖値上昇抑制機能を付与した飲食品,或いは,ペットフードからなる。
【0015】
本発明のα−アミラーゼ阻害剤の有効成分であるヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペンを有効成分とするα−アミラーゼ阻害剤。特に(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidを調製するには,トリテルペン類からの合成法により製造することもできるが,α−アミラーゼ阻害剤の有効成分としての用途の目的からは,植物エキスからの抽出・精製することによる調製方法が特に好ましい。ヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペンを有効成分とするα−アミラーゼ阻害剤。特に(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidを調製するには,まず,植物抽出液を調製する。植物抽出液は,葉部および花部,或いは植物全体をそのまま用いてもよく,これらを乾燥した乾燥体,若しくは乾燥後粉砕した粉末を用いることもできる。また,これらを水抽出,熱水抽出,酸性下での抽出,アルカリ性下での抽出,メタノール,エタノール,アセトン,酢酸エチル,ヘキサン等各種の有機溶媒を用いて,抽出した抽出物を用いることもできる。
【0016】
植物抽出液から,本発明の有効成分であるヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペン類精製画分,特に(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidの精製画分を精製・分離して採取するには,例えば,植物の葉のメタノール抽出液または熱水抽出液を,90%メタノールで抽出したヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペン類精製画分精製画分を採取する。該画分は,更に,シリカカラム及び/又はODS(Octadecylsilane)カラムによるカラムクロマトグラフィーにより精製・分離し,(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acid精製画分を採取することができる。
【0017】
ヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペン類画分,特に(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acid精製画分を用いて,血糖値上昇抑制剤,或いは,血糖値上昇予防又は治療薬を製造するには,上記の方法で製造した精製画分を情報に従って公知の医薬用無毒性担体と組み合わせて製剤化すればよい。本発明に関わる血糖値上昇抑制剤は,種々の剤型での投与が可能であるが,経口投与剤として製剤化される。例えば,経口投与剤としては錠剤,顆粒剤,散剤,カプセル剤,ソフトカプセル剤などの固形剤,溶液剤,懸濁剤,乳化剤等の液剤,凍結乾燥剤等が挙げられ,これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。
【0018】
上記医薬用無毒性担体としては,例えば,グルコース,乳糖,ショ糖,でんぷん,マンニトール,デキストリン,脂肪酸グリセリド,ポリエチレングリコール,ヒドロキシエチルでんぷん,エチレングリコール,ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル,アミノ酸,アルブミン,水,生理食塩水などが挙げられる。また,必要に応じて安定化剤,滑沢剤,湿潤剤,乳化剤,結合剤等の慣用の添加剤を適宜添加することができる。本発明に関わる血糖値上昇抑制剤において,有効成分であるヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペン類精製画分および該画分に含有される(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidの投与量は,患者の年齢,体重,症状,疾患の程度,投与スケジュール,製剤形態等により,適宜選択,決定されるが,例えば,一日当たり生薬当価量として0.1から100g/kg体重程度とされ,一日数回に分けて投与してもよい。
【0019】
また,本発明に関わるヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペン類精製画分および該画分に含有される(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidは,毒性を有することは報告されていないことから,血糖値上昇抑制を目的とした飲食品として摂取することもできる。本発明の有効成分を添加した血糖値上昇抑制機能を付与した飲食品は,特定保健用食品,栄養機能食品,又は健康食品等として位置付けることができる。機能性食品としては,例えば,本発明の有効成分に適当な所剤を添加した後,慣用の手段を用いて,食用に適した状態,例えば,顆粒状,粒状,錠剤,カプセル剤,ソフトカプセル剤,ペースト状等に形成したものを用いることができる。この飲食品はそのまま食用に供してもよく,また種々の食品(例えばハム,ソーセージ,かまぼこ,ちくわ,パン,バター,粉乳,菓子など)に添加して使用したり,水,酒類,果汁,牛乳,清涼飲料水等の飲物に添加して使用してもよい。かかる食品の形態における本発明の有効成分の摂取量は,年齢,体重,症状,疾患の程度,食品の形態等により適宜選択・決定されるが,例えば,一日当たり生葉等価量として0.1から100g/kg体重程度とされ,一日数回に分けて投与してもよい。
【0020】
また,本発明に関わるヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペン類精製画分および該画分に含有される(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidは,動物用にペットフードとして用いることもでき,摂取量はペットの種類,年齢,体重,症状,疾患の程度,食品の形態等により適宜選択されるが,食品に準拠して投与すればよい。
【0021】
以下,実施例により本発明を具体的に説明するが,本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
[キウイフルーツ葉エキスのα−アミラーゼ阻害活性成分の抽出分離]
キウイフルーツの葉エキスに有意な血糖値上昇抑制作用があることから,該血糖値上昇抑制作用を有する活性成分の抽出分離を,図1のフローに従って行なった。すなわち,キウイフルーツの葉のメタノール(MeOH)抽出エキス(8.0g)を1.5Lの蒸留水(Water)に溶解させ,等量の酢酸エチル(EtOAc)を加え,Water[1]画分とEtOAc画分に分配した。この操作を3回繰り返した。Water[1]画分をエバポレーターで減圧濃縮後,同様の操作により,更にWater[2]画分とn‐BuOH画分(n‐ブタノール)画分に分配した。また,酢酸エチル画分をエバポレーターで減圧濃縮後,同様の操作により,更に90%メタノール画分とn‐Hex画分(n‐ヘキサン)画分に分配した。全ての画分をエバポレーターで減圧濃縮後,凍結乾燥し,重量を測定した。これらの分配操作により,Water[2]画分1.0g,n‐BuOH画分2.8g,90%MeOH画分1.3g,n‐Hex画分2.6gの4つの画分を得た。Water[2]画分,n‐BuOH画分,90%MeOH画分のうち,90%MeOH画分とn‐BuOH画分が,スターチを負荷したマウスにおいて血糖値上昇抑制作用を示した。
【0023】
上記で得られたキウイフルーツ葉エキスのα−アミラーゼ阻害活性成分を含有する90%MeOH画分を精製・分離して,該α−アミラーゼ阻害活性成分の構造について分析した。90%MeOH画分の精製・分離のフローを上記に続いて図1に示す。すなわち,上記で得られたキウイフルーツ葉エキスのα−アミラーゼ阻害活性成分を含有する90%MeOH画分を,Silicaカラム(ゲル20g,n‐Hex/EtOAc=1/0(1vol.)→MeOH(10vol.))クロマトグラフィーにより,6個の画分に分画したところ,Fr.B−3がグルコースを負荷したマウスにおいて血糖値上昇抑制作用を示した。更に,この画分を高速液体クロマトグラフィーシステムを用いたODSカラム(HG‐5,直径20mm,50%MeOH → MeOH,215nm)クロマトグラフィーにより,単一の成分である6個の画分に分画したところ,Fr.D−1からFr.D−3がグルコースを負荷したマウスにおいて血糖値上昇抑制作用を示した。
【0024】
[キウイフルーツ葉エキスの分離画分の血糖値上昇抑制作用の確認]
上記キウイフルーツ葉エキスのα−アミラーゼ阻害活性成分の抽出分離によって,分離途中で得られたWater[2]画分,n‐BuOH画分,90%MeOH画分の3つの画分について,スターチ負荷(1,000mg/kg)による血糖値上昇の抑制作用(in vivo試験)とα−アミラーゼ阻害活性試験(in vitro試験)を確認するために試験した。
【0025】
(キウイフルーツ葉エキスの分離画分のスターチ負荷試験の結果)
上記キウイフルーツ葉エキスのα−アミラーゼ阻害活性成分の分離において得られたWater[2]画分,n‐BuOH画分,90%MeOH画分の3つの画分について,スターチ負荷試験を行なった結果を,図2に示す。図2に示されるように,n‐BuOH画分と90%MeOH画分において,糖負荷後30分時に対照群に対して有意な血糖値上昇抑制作用を示した。このことから,この画分にスターチ負荷による血糖値上昇を抑制する活性成分が含有されていることが示された。
(キウイフルーツ葉エキスの分離画分のα−アミラーゼ阻害活性試験)
α−アミラーゼ阻害活性試験はXiaoらの方法を改良して行った。2mM CaCl2と0.2%ウシ血清アルブミン含有0.1 Mリン酸バッファー(pH6.9),基質として2.5 mg/mlの可溶性デンプン溶液(Wako),酵素として0.2 unitsの豚膵臓由来α−アミラーゼ (E.C. 3.2.1.1),呈色液にヨウ素溶液を用い,一定時間の反応ののち分解されずに残存したデンプンをヨウ素デンプン反応で評価した。96ウェルプレートにバッファーとサンプルの希釈段階を作製し,総量50 μlとした。ここに基質を100℃で加熱してα化させたものを50 μl加えて,37℃で5分間プレインキュベーションした。反応は酵素を100 μl加えることによって開始し,37℃で10分間インキュベーションした。インキュベーション後,反応停止液と呈色液の混合液100 μlを反応液に加え,反応停止直後に600 nmで吸光度を測定した。α−アミラーゼ阻害活性はIC50値(μg/ml)で表した。上記キウイフルーツ葉エキスのα−アミラーゼ阻害活性成分の分離において得られたn‐BuOH画分,90%MeOH画分の2つの画分について,α−アミラーゼ阻害活性試験を行なった結果を,図3に示す。図3に示されるように,90%MeOH画分において,IC50値は42.9(μg/ml)であり,一般的な経口糖尿病薬であるvogliboseと同等の値を示したことから,この画分にα−アミラーゼを阻害する活性成分が含有されていることが示された。
【0026】
[キウイフルーツ葉エキスの分離画分の血糖値上昇抑制作用の確認]
上記キウイフルーツ葉エキスのα−アミラーゼ阻害活性成分の分離において得られたFr.B−3と高速液体クロマトグラフィーシステムを用いたODSカラム(HG−5,直径20mm,50%MeOH→MeOH,215nm)クロマトグラフィーにより得られたと単一の成分である化合物D−1からD−6の6つの画分について,スターチ負荷(1,000mg/kg)による血糖値上昇の抑制作用を確認するために試験した。
【0027】
(キウイフルーツ葉エキスの分離画分のスターチ負荷試験の結果)
上記キウイフルーツ葉エキスのα−アミラーゼ阻害活性成分の分離において得られたFr.B−3と高速液体クロマトグラフィーシステムを用いたODSカラム(HG−5,直径20mm,50%MeOH →MeOH,215nm)クロマトグラフィーにより得られた単一の成分である化合物D−1から化合物D−6の6つの画分について,スターチ負荷試験を行なった結果を,図2に示す。対照群の糖負荷後30分時の値から0分時の値を引いたものを100%として示した。図2に示されるように,Fr.B−3画分において,糖負荷後30分時に対照群に対して有意な血糖値上昇抑制作用を示した。また,化合物D−1からD−3が糖負荷後30分時に対照群に対して血糖値上昇抑制傾向を示した。このことから,この化合物D−1,化合物D−2,化合物D−3がスターチ負荷による血糖値上昇を抑制する活性成分であることが示された。
【0028】
[キウイフルーツ葉エキスのα−アミラーゼ阻害活性成分の同定]
上記の分離操作により90%MeOH画分から分離されたα−アミラーゼ阻害活性成分は,TLC上で,各々単一スポットとして確認されたため,NMRによる分析(1H NMR;13C NMR;DEPT;COSY;HMQC;HMBC;NOESY)を行なった。化合物D−2と化合物D−3の1H NMRによる分析の結果を,図3に示すH NMRスペクトル(400 MHz、CDOD)。化合物D2の1H NMRスペクトルにおいて,特徴的なシグナルとして,δH1.3から0.8ppm付近にみられる6個のメチル基と考えられるシグナル,δH4.6から3.2ppm付近に酸素と隣り合った炭素に結合する水素と考えられるシグナル(4H分),δH5.2ppm付近にオレフィンプロトンと考えられる1H分のシグナルが観測された。一方,化合物D3の1H NMRスペクトルは,化合物D−2のスペクトルでδH2.8ppm付近に見られた1H分のシグナルが,D−3ではδH2.2ppm付近にシフトしているほかは、よく似たシグナルを示した。
【0029】
また,化合物D−2と化合物D−3の13C NMRスペクトルによる分析の結果を,図4に示す13C NMRスペクトル(100 MHz、CDOD)。はじめに化合物D−2の13C NMRスペクトル,DEPTスペクトル及びHMQCスペクトルより,1個のカルボニル炭素(δC178.7),2個のオレフィン炭素(δC144.3,122.5),2個のオキシメチン炭素(δC73.8,66.6),1個のオキシメチレン炭素(δC66.0)の存在が示唆された。この他に,6個の四級炭素(δC47.0,44.2,42.0,39.8,38.4,30.9),3個のメチン炭素(δC49.0,47.8,41.6),9個のメチレン炭素(δC46.2,42.0,34.1,32.65,32.60,27.9,23.3,22.2,18.6),6個のメチル炭素(δC33.2,26.2,23.75,23.70,16.9,16.8)の存在が示唆された。つぎに化合物D3の13C NMRスペクトル,DEPTスペクトル及びHMQCスペクトルより,1個のカルボニル炭素(δC182.3),2個のオレフィン炭素(δC140.3,127.2),2個のオキシメチン炭素(δC75.1,67.5),1個のオキシメチレン炭素(δC66.4)の存在が示唆された。この他に,5個の四級炭素(δC47.0,45.9,43.9,41.5,39.7),5個のメチン炭素(δC54.9,50.4,49.4,40.95,40.93),8個のメチレン炭素(δC43.2,38.6,35.1,32.3,29.7,25.8,25.1,19.9),6個のメチル炭素(δC24.6,23.6,22.1,18.1,18.2,17.9)の存在が示唆された。
【0030】
また,COSYスペクトル,HMBCスペクトルの解析により,化合物D−2については五環性トリテルペンの一種であるoleanen骨格が明らかとなった。更にNOESYによる立体配置の解析により一般式(1)の化合物であることが示された。この化合物は白色針状結晶として得られ,メタノールに可溶である。高分解能質量分析(ESIMS)より,[m/z511.3415(M+Na)+]に分子イオンピークが確認されたことから,分子式はC30H48O5であると決定された。以上の分析結果から,化合物D−2は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acidであると同定された。
【0031】
同様に,化合物D−3については五環性トリテルペンの一種であるursen骨格が明らかとなった。更にNOESYによる立体配置の解析により一般式(2)の化合物であることが示された。この化合物は白色針状結晶として得られ,メタノールに可溶である。高分解能質量分析(ESIMS)より,[m/z511.3389(M+Na)+]に分子イオンピークが確認されたことから,分子式はC30H48O5であると決定された。以上の分析結果から,化合物D−3は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidであると同定された。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例におけるキウイフルーツ葉エキスのα−アミラーゼ阻害活性成分の抽出分離において,活性成分の抽出分離のフローおよびを示す図である。
【図2】本発明の実施例における,化合物D−2と化合物D−3のスターチ負荷試験の結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例におけるキウイフルーツ葉エキスのα−アミラーゼ阻害活性成分の同定において,分離されたα−アミラーゼ阻害活性成分の1H NMRによる分析の結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例におけるキウイフルーツ葉エキスのα−アミラーゼ阻害活性成分の同定において,分離されたα−アミラーゼ阻害活性成分の13C NMRによる分析の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシオレアンネンタイプまたはヒドロキシウルセンタイプの五環性トリテルペンを有効成分とするα−アミラーゼ阻害剤。
【請求項2】
(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−oleanen−28−oic acid又は(2α,3α)2,3,24−trihydroxy−12−ursen−28−oic acidから1種または2種を含むことを特徴とするα−アミラーゼ阻害剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のα−アミラーゼ阻害剤を含有することを特徴とする血糖値上昇予防又は治療薬。
【請求項4】
請求項1または2に記載のα−アミラーゼ阻害剤を添加したことを特徴とする血糖値上昇抑制機能を付与した飲食品。
【請求項5】
請求項1または2に記載のα−アミラーゼ阻害剤を添加したことを特徴とする血糖値上昇抑制機能を付与したペットフード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−116714(P2011−116714A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276797(P2009−276797)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年6月5日 新規素材探索研究会主催の「新規素材探索研究会 第8回セミナー」において文書をもって発表
【出願人】(509160948)
【出願人】(507391465)
【Fターム(参考)】