説明

α,β−不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを液相中で、分子状酸素で酸化してα,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造する方法を提供する。
【解決手段】パラジウム含有担持触媒存在下、液相中でオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法であって、水とアルコールと有機カルボン酸とを含有する混合溶媒を前記液相の溶媒として用いて、且つ、前記混合溶媒における、水とアルコールと有機カルボン酸の質量比をX:Y:Zとしたとき、下記式(1)及び(2)〜(4)のいずれかを満たす、α,β−不飽和カルボン酸の製造方法。
X+Y+Z=1.00 (1)
X<0.20のとき、0.25≦Y≦0.65 (2)
0.20≦X<0.40のとき、0.01≦Y≦0.45 (3)
0.40≦Xのとき、0.01≦Y≦0.20 (4)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを液相中で、分子状酸素で酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α,β−不飽和カルボン酸は工業上有用な物質が多い。例えば、アクリル酸やメタクリル酸は合成樹脂原料などの用途に極めて大量に使用されている。α,β−不飽和カルボン酸を製造する方法として、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相中で酸化する方法が研究されている。
【0003】
特許文献1にはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で液相酸化して、α,β−不飽和カルボン酸を効率的に得るための反応溶媒として有機カルボン酸、アルコール又はケトンを含む有機溶媒と水とからなる含水有機溶媒で行うことが記載されている。
【0004】
特許文献2にはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で液相酸化して、α,β−不飽和カルボン酸を効率的に得るための反応溶媒として、水とケトンとカルボン酸からなる混合溶媒が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第02/083299号
【特許文献2】特開2005−220069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載されている方法を用いても、十分なα,β−不飽和カルボン酸の生産性が実現できず、さらなる向上が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを液相中で、分子状酸素で酸化してα,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るα,β−不飽和カルボン酸の製造方法は、パラジウム含有担持触媒存在下、液相中でオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法であって、水とアルコールと有機カルボン酸とを含有する混合溶媒を前記液相の溶媒として用いて、且つ、
前記混合溶媒における、水とアルコールと有機カルボン酸の質量比をX:Y:Zとしたとき、下記式(1)及び(2)〜(4)のいずれかを満たす、α,β−不飽和カルボン酸の製造方法。
【0009】
X+Y+Z=1.00 (1)
X<0.20のとき、0.25≦Y≦0.65 (2)
0.20≦X<0.40のとき、0.01≦Y≦0.45 (3)
0.40≦Xのとき、0.01≦Y≦0.20 (4)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを液相中で、分子状酸素で酸化してα,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例群4、5、比較例群2、3における、メタクロレイン濃度に対するメタクリル酸(MAA)生産性をプロットしたグラフである。
【図2】実施例群6、比較例群4における、混合溶媒中組成(アルコール)に対するメタクリル酸(MAA)生産性をプロットしたグラフである。
【図3】実施例群7、比較例群5における、混合溶媒中組成(アルコール)に対するメタクリル酸(MAA)生産性をプロットしたグラフである。
【図4】実施例8、比較例群6における、混合溶媒中組成(アルコール)に対するメタクリル酸(MAA)生産性をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るパラジウム含有担持触媒は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒である。この触媒は液相中で用いるのに適しており、以下、分子状酸素による液相中での酸化によってα,β−不飽和カルボン酸を製造することを適宜「液相酸化」という。
【0013】
本発明は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法に関する。
【0014】
本発明においては、鋭意検討した結果、水とアルコールと有機カルボン酸とを所定の比率で含有する混合溶媒を用いることにより、α,β−不飽和カルボン酸の生産性がさらに向上することを見出した。この混合溶媒は均一であることが望ましいが、不均一な状態で用いても差し支えない。
【0015】
混合溶媒に含まれる有機カルボン酸としては、溶媒として使用可能な公知の有機カルボン酸類から適宜選択して用いることができるが、炭素数1〜6の有機カルボン酸が好ましい。具体的には、酢酸、プロピオン酸、吉草酸および酪酸からなる群より選ばれる1種以上を用いることがより好ましく、酢酸がさらに好ましい。なお、前記有機カルボン酸は溶媒のため、前記有機カルボン酸には反応により生成するα,β−不飽和カルボン酸は含まれない。
【0016】
混合溶媒に含まれるアルコールとしては、溶媒として使用可能な公知のアルコール類から適宜選択して用いることができるが、炭素数1〜6のアルコールが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノールおよびt−ブタノールからなる群より選ばれる1種以上を用いることがより好ましく、メタノール、t−ブタノールがさらに好ましい。
【0017】
前記混合溶媒は、水とアルコールと有機カルボン酸とを含有するものであり、水とアルコールと有機カルボン酸の質量比をX:Y:Zとしたとき、下記式(1)及び(2)〜(4)のいずれかを満たす。
X+Y+Z=1.00 (1)
X<0.20のとき、0.25≦Y≦0.65 (2)
0.20≦X<0.40のとき、0.01≦Y≦0.45 (3)
0.40≦Xのとき、0.01≦Y≦0.20 (4)
式(1)〜(4)の条件を全て満たす混合溶媒を用いることで、例えば高濃度のα,β−不飽和アルデヒドを原料として使用した場合にも、いかなる理由により効果があるのかは明らかではないが、活性の低下幅を小さくすることができる。これにより、反応溶液中のα,β−不飽和アルデヒドの濃度が高い場合にも、高い生産性でα,β−不飽和カルボン酸を製造することができる。
【0018】
前記式(2)において、X<0.20のとき、0.30≦Y≦0.65であることが好ましく、0.35≦Y≦0.65であることがより好ましい。前記式(3)において、0.20≦X<0.40のとき、0.05≦Y≦0.40であることが好ましく、0.10≦Y≦0.35であることがより好ましい。前記式(4)において、0.40≦Xのとき、0.05≦Y≦0.20であることが好ましく、0.08≦Y≦0.20であることがより好ましい。なお、Xは0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましい。また、Xは0.70以下であることが好ましく、0.60以下であることがより好ましい。
【0019】
本発明のように、水とアルコールと有機カルボン酸とを所定の比率で含有する混合溶媒を用いることで、α,β−不飽和カルボン酸の生産性が高くなった理由としては以下のように考えられる。パラジウム含有担持触媒を用いてオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造する反応において水は必須である。また、反応サイクルを促進させるため有機カルボン酸が有効に働いていると考えられる。一方、反応においてパラジウム含有担持触媒表面に吸着している水素の脱離過程が律速の場合、反応速度を向上させるためには液中の溶存酸素濃度を上昇させる必要があり、酸素溶解度が高いアルコールの使用が有効に働いていると考えられる。さらに、アルコールを用いることで原料であるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの溶媒への分散性が向上しα,β−不飽和カルボン酸の生産性のさらなる向上がみられる好結果となったものと推察する。なお、ケトンに対しアルコールの方が揮発しにくいため、工業的に用いる場合にはケトンよりアルコールの方が、取扱いが容易である。
【0020】
本発明に係る混合溶媒には、水、アルコールおよび有機カルボン酸以外の他の溶媒が含まれても良い。その場合、混合溶媒全体に対する他の溶媒の含有量としては、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0021】
液相酸化の原料となるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの濃度は、反応器内に存在する溶媒100質量部当たり0.1〜30質量部が好ましく、0.5〜20質量部がより好ましい。
【0022】
分子状酸素の使用量は、液相酸化の原料となるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒド1モルに対して0.1〜20モルが好ましく、0.2〜15モルがより好ましく、0.3〜10モルがさらに好ましい。
【0023】
触媒の使用量は、反応器内に存在する溶液100質量部当たり0.1〜30質量部が好ましく、0.5〜20質量部がより好ましく、1〜15質量部がさらに好ましい。
【0024】
液相酸化の反応温度および反応圧力は、用いる溶媒および反応原料によって適宜選択される。反応温度は30〜200℃が好ましく、50〜150℃がより好ましい。反応圧力は大気圧(0MPa)〜10MPaが好ましく、0.1〜7MPaがより好ましい。
【0025】
本発明に用いるパラジウム含有担持触媒の担体としては、例えば、活性炭、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア、チタニア、ジルコニア等を挙げることができるが、中でもシリカ、アルミナ、ジルコニアが好ましく用いられる。これらの担体は1種類で用いても良いし、複数の成分を組み合わせても良い。
【0026】
パラジウム含有担持触媒のパラジウムの担持率は、担持前の担体質量に対して、1〜40質量%が好ましく、2〜30質量%より好ましく、4〜20質量%がさらに好ましい。
【0027】
なお、担持率の算出に用いるパラジウム元素の質量は、使用するパラジウム元素の原料におけるパラジウム含有率と配合量から算出する。後述するテルル等の他の元素を含む場合のパラジウム元素の割合、Te/Pdの算出についても同様とする。
【0028】
本発明に係る触媒は、例えば、アンチモン、タリウム、鉛、テルル等の卑金属元素を含有してもよい。なかでも、本発明に係る触媒はテルル元素を含有することが好ましい。他の元素は、1種を含有してもよく、2種以上を含有してもよい。高い触媒活性を発現させる観点から、パラジウム含有担持触媒に含まれる金属元素(担体金属成分を除く)のうち、パラジウム元素の割合は50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0029】
本発明に係る触媒がパラジウム元素とテルル元素とを含有する場合、パラジウム元素1モルに対するテルル元素のモル数(すなわちテルル元素とパラジウム元素のモル比:Te/Pd)を所定範囲にすることで、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸をより高い生産性で製造することができる。Te/Pdは0.005〜0.35が好ましく、0.01〜0.3がより好ましい。このTe/Pdは、パラジウム含有担持触媒の製造に使用するパラジウム原料およびテルル原料の配合比等により調整可能である。
【0030】
本発明に係る触媒は、担体にパラジウムの原料を担持させることにより製造することができる。
【0031】
パラジウムの原料は特に限定されず、パラジウム金属、パラジウム塩、酸化パラジウム等を挙げることができる。なかでもパラジウム塩が好ましい。パラジウム塩としては、例えば、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物およびビス(アセチルアセトナト)パラジウム等を挙げることができる。なかでも塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物が好ましく、硝酸パラジウムが特に好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0032】
本発明に係る触媒が前記卑金属元素を含む場合、パラジウムの原料と共にその卑金属元素の原料を担体に担持させればよい。
【0033】
パラジウム元素以外にテルル元素を含有する触媒を製造する場合に用いるテルル原料は特に限定されず、テルル金属、テルル塩、テルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩、酸化テルル等を挙げることができる。テルル塩としては、例えば、テルル化水素、四塩化テルル、二塩化テルル、六フッ化テルル、四ヨウ化テルル、四臭化テルル、二臭化テルル等を挙げることができる。テルル酸塩としては、例えば、テルル酸ナトリウム、テルル酸カリウム等を挙げることができる。亜テルル酸塩としては、例えば、亜テルル酸ナトリウム、亜テルル酸カリウム等を挙げることができる。なかでもテルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩、酸化テルルが好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、テルル原料に含まれるテルル元素は、酸化状態でも還元状態でも金属状態でもよい。
【0034】
原料を担体に担持させる方法は、特に限定されないが、例えば沈澱法、イオン交換法、含浸法、浸漬法、沈着法等が挙げられる。
【0035】
また、パラジウムの原料を担体に担持した後に熱処理して、パラジウム酸化物が担体に担持された状態にしてもよい。熱処理温度の範囲としては、150〜800℃が好ましく、200〜700℃がより好ましい。熱処理時間は特に限定されないが、1〜12時間の範囲が好ましい。
【0036】
そして、酸化状態のパラジウム元素が担体に担持された状態で、還元剤で還元してパラジウム含有担持触媒を製造することができる。
【0037】
用いる還元剤は特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタリルアルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられる。還元剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。気相での還元では、還元剤として水素を用いることが好ましい。また、液相での還元では還元剤としてヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、蟻酸の塩を用いることが好ましい。
【0038】
液相中での還元の際に使用する溶媒としては水が好ましいが、分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の有機溶媒を単独または複数組み合わせて用いることができる。これらと水との混合溶媒を用いることもできる。
【0039】
還元剤が気体の場合、溶液中への溶解度を上げるためにオートクレーブ等の加圧装置中で還元を行うことが好ましい。その際、加圧装置の内部は還元剤で加圧する。その圧力は0.1MPa(ゲージ圧;以下圧力はゲージ圧表記とする)から1.0MPaの範囲が好ましい。
【0040】
また、還元剤が液体の場合、還元を行う装置に制限はなく、溶液中に還元剤を添加することで還元を行うことができる。この時の還元剤の使用量は特に限定されないが、酸化状態のパラジウム元素1モルに対して1〜100モルの範囲が好ましい。
【0041】
還元温度および還元時間は還元剤等により異なるが、還元温度は−5〜150℃が好ましく、15〜80℃以下がより好ましい。還元時間は0.1〜4時間が好ましく、0.25〜3時間がより好ましく、0.5〜2時間がさらに好ましい。
【0042】
還元により調製したパラジウム含有担持触媒は、水、溶媒等で洗浄することが好ましい。水、溶媒等での洗浄により、例えば、塩化物、酢酸根、硝酸根、硫酸根等の原料由来の不純物が除去される。洗浄の方法および回数は特に限定されないが、不純物によってはオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの液相酸化を阻害する場合があるため、不純物を十分除去できる程度に洗浄することが好ましい。洗浄された触媒は、ろ別または遠心分離などにより回収した後、そのまま反応に用いてもよい。
【0043】
また、回収された触媒を乾燥してもよい。乾燥方法は特に限定されないが、通常は乾燥機を用いて空気中または不活性ガス中で乾燥する。乾燥された触媒は、必要に応じて液相酸化に使用する前に活性化することもできる。活性化の方法は特に限定されないが、例えば、水素気流中の還元雰囲気下で熱処理する方法が挙げられる。この方法によれば、パラジウム表面の酸化皮膜と洗浄で取り除けなかった不純物を除去することができる。調製した触媒の物性は、BET比表面積測定、XRD(X−ray Diffraction)測定、COパルス吸着法、TEM(Transmission Electron Microscope)測定、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)測定等により確認できる。
【0044】
次に、本発明に係るパラジウム含有担持触媒の存在下、液相中でオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で酸化して、α,β−不飽和カルボン酸を製造する方法について説明する。
【0045】
原料のオレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン等が挙げられるが、なかでもプロピレンおよびイソブチレンが好適である。オレフィンは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。原料のオレフィンは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。
【0046】
オレフィンから製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和カルボン酸である。具体的には、原料がプロピレンの場合アクリル酸が得られ、原料がイソブチレンの場合メタクリル酸が得られる。また、オレフィンからは通常α,β−不飽和アルデヒドが同時に得られる。このα,β−不飽和アルデヒドは、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和アルデヒドである。例えば、原料がプロピレンの場合アクロレインが得られ、原料がイソブチレンの場合メタクロレインが得られる。
【0047】
原料のα,β−不飽和アルデヒドとしては、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド(β−メチルアクロレイン)、シンナムアルデヒド(β−フェニルアクロレイン)等が挙げられる。中でもアクロレインおよびメタクロレインが好適である。α,β−不飽和アルデヒドは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。原料のα,β−不飽和アルデヒドは、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等を少量含んでいてもよい。
【0048】
α,β−不飽和アルデヒドから製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、α,β−不飽和アルデヒドのアルデヒド基がカルボキシル基に変化したα,β−不飽和カルボン酸である。具体的には、原料がアクロレインの場合アクリル酸が得られ、原料がメタクロレインの場合メタクリル酸が得られる。
【0049】
液相酸化の原料としては、オレフィンおよびα,β−不飽和アルデヒドのいずれか一方だけを使用してもよく、両者の混合物を使用してもよい。
【0050】
液相酸化は連続式、バッチ式のいずれの形式で行ってもよいが、生産性を考慮すると工業的には連続式が好ましい。
【0051】
液相酸化に用いる分子状酸素の源は、空気が経済的であり好ましいが、純酸素または純酸素と空気との混合ガスを用いることもでき、必要であれば、空気または純酸素を窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガスを用いることもできる。このような分子状酸素を含有するガスは、通常オートクレーブ等の反応容器内に加圧状態で供給することが好ましい。
【0052】
本発明に係る方法によれば、高い生産性でオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造できる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。下記の実施例および比較例中の「部」は質量部である。
【0054】
Te/Pdと、担持率の算出に用いるパラジウム元素およびテルル元素の質量は、使用するパラジウム元素の原料におけるパラジウム含有率と配合量、使用するテルル元素の原料におけるテルル含有率と配合量から算出した。
【0055】
(α,β−不飽和カルボン酸の製造における原料、生成物および副生物の分析)
生成するα,β−不飽和カルボン酸の生産性は以下のように定義される。
【0056】
α,β−不飽和カルボン酸の生産性(g/g/hr)=(A/B/C)×100
ここで、Aは生成したα,β−不飽和カルボン酸の質量(g)、Bは反応に使用したパラジウムの質量(g)、Cは反応時間(hr)である。
【0057】
[実施例1]
(触媒調製)
テルル酸0.054部に、その10倍の質量の蒸留水を加えて均一溶液とした。この均一溶液に、パラジウム溶液(N.E.ケムキャット製:22.88質量%硝酸パラジウム含有硝酸酸性水溶液)2.185部を加えて、さらに合計20.0部となるまで蒸留水を加えた。この溶液に粒状のシリカ担体(比表面積450m/g、細孔容積0.68cc/g、メディアン径53.58μm)20部を完全に浸漬した後、エバポレーションで浸漬溶媒を除去し、空気中200℃で3時間焼成を行った。得られた触媒前駆体を37質量%ホルムアルデヒド水溶液20部に加え、70℃に加熱し、2時間攪拌保持した。吸引ろ過後、温水1000部でろ過洗浄して、パラジウム含有担持触媒を得た。この触媒のTe/Pdは0.05であった。
【0058】
(反応評価)
オートクレーブに、上記の方法で得られた触媒のうち4.03部と、反応溶媒として水12質量%、メタノール44質量%、酢酸44質量%を含む混合溶媒100部を入れた。次いで、メタクロレインを10.0部導入し、オートクレーブを密閉した。その後、攪拌(回転数1000rpm)を開始し、90℃まで昇温した。昇温完了後、オートクレーブに圧縮空気を内圧3.2MPaまで導入した。その後、30分が経過した時点で反応を終了した。
【0059】
反応終了後、氷浴でオートクレーブ内を氷冷した。オートクレーブのガス出口にガス捕集袋を取り付け、ガス出口を開栓して出てくるガスを回収しながら反応器内の圧力を開放した。オートクレーブから触媒入りの反応液を取り出し、メンブランフィルターで触媒を分離して、反応液を回収した。回収した反応液と捕集したガスをガスクロマトグラフィーにより分析し、メタクリル酸(MAA)の生産性を算出した。結果を表1に示す。なお、本実施例に限らず、全ての実施例において溶媒として用いたアルコールは酸化されていないことを確認した。
【0060】
[実施例2]
反応溶媒を水12質量%、エタノール44質量%、酢酸44質量%を含む混合溶媒100部とした以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0061】
[実施例3]
反応溶媒を水12質量%、t−ブタノール44質量%、酢酸44質量%を含む混合溶媒100部とした以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0062】
[比較例1]
反応溶媒を水12質量%、酢酸88質量%を含む混合溶媒100部とした以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
[実施例群4、5、比較例群2、3]
実施例1と同様の方法により調製した触媒を用いて、混合溶媒の組成比およびメタクロレイン濃度の条件を変更して反応評価を行った。混合溶媒組成を表2に示す。また、反応評価結果を図1に示す。なお、図1においてメタクロレイン濃度とは混合溶媒100質量部当たりのメタクロレインの質量部である。また、実施例群5には実施例1が含まれ、比較例群3には比較例1が含まれる。
【0065】
[実施例群6、比較例群4]
実施例1と同様の方法により調製した触媒を用いて、混合溶媒合計1.00中の水(X)を0.12、混合溶媒100質量部当たりのメタクロレイン濃度を10.0質量部に固定し、混合溶媒における水(X)以外の組成を変更して反応評価を行った。水(X)の組成を表3に、反応評価結果を図2に示す。なお、図2において混合溶媒中組成(アルコール)とは混合溶媒合計1.00としたときのアルコール(Y)の質量比である。
【0066】
[実施例群7、比較例群5]
実施例1と同様の方法により調製した触媒を用いて、混合溶媒合計1.00中の水(X)を0.30、混合溶媒100質量部当たりのメタクロレイン濃度を10.0質量部に固定し、混合溶媒における水(X)以外の組成を変更して反応評価を行った。水(X)の組成を表3に、反応評価結果を図3に示す。なお、図3において混合溶媒中組成(アルコール)とは混合溶媒合計1.00としたときのアルコール(Y)の質量比である。
【0067】
[実施例8、比較例群6]
実施例1と同様の方法により調製した触媒を用いて、混合溶媒合計1.00中の水(X)を0.50、混合溶媒100質量部当たりのメタクロレイン濃度を10.0質量部に固定し、混合溶媒における水(X)以外の組成を変更して反応評価を行った。水(X)の組成を表3に、反応評価結果を図4に示す。なお、図4において混合溶媒中組成(アルコール)とは混合溶媒合計1.00としたときのアルコール(Y)の質量比である。
【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
なお、図1に関するデータを表4、図2〜4に関するデータを表5に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
本発明に係る水とアルコールと有機カルボン酸とを含有する混合溶媒を用いることでα,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造できる。特に、所定の組成比の混合溶媒を使用することにより、α,β−不飽和アルデヒド濃度が高い場合でもα,β−不飽和カルボン酸を高い生産性で製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム含有担持触媒存在下、液相中でオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法であって、水とアルコールと有機カルボン酸とを含有する混合溶媒を前記液相の溶媒として用いて、且つ、
前記混合溶媒における、水とアルコールと有機カルボン酸の質量比をX:Y:Zとしたとき、下記式(1)及び(2)〜(4)のいずれかを満たす、α,β−不飽和カルボン酸の製造方法。
X+Y+Z=1.00 (1)
X<0.20のとき、0.25≦Y≦0.65 (2)
0.20≦X<0.40のとき、0.01≦Y≦0.45 (3)
0.40≦Xのとき、0.01≦Y≦0.20 (4)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−250972(P2012−250972A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−9847(P2012−9847)
【出願日】平成24年1月20日(2012.1.20)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】