説明

μmスケールの物体、およびnmスケールの物体を掴み、これをリリースする素子。

【構成】本発明は、周囲環境および真空環境内でμmサイズの物体およびnmサイズの物体を掴みこれを能動的にリリースできる素子を形成する設計および製造方法に関する。掴む動作は一つかそれ以上のマイクロアクチュエーターによって行い、迅速かつ正確な上に、再現性の高い能動的なリリースは、密着している物体に高速プランジ作用構造体による衝撃を与えることによって行う。本発明の新規なマイクログリップ作用素子およびナノグリップ作用素子を製造する2つの製造方法も本発明の範囲内に含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ操作およびナノ操作、マイクロ技術およびナノ技術、およびナノ/マイクロスケールでの自動化に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ/ナノ操作には、強い密着力のために端部エフェクターから掴んだ物体をリリースすることが長い間難しかった課題がある。力のスケーリングは毛細管作用力、静電力、および体積力(例えば重力)を支配するファンデルワース力を含む表面力(例えば密着力)の原因になる。迅速かつ正確にリリースする方法を求めて、現在までいくつかの提案がなされている。
【0003】
“拾い上げて置く”間の表面密着性を変えると、一つのニードルプローブでμmスケールサイズ物体を操作することができる(O.Fuchiwaki、A.Ito、D.Misaki,and H.Aoyama、“Multi−axial micromanipulation organized by veratile micro robots and micro tweezers”、in Proc.IEEE Int.Conf.Robotics Automation、Pasadena、CA、USA、May 2008、pp.893−898)。この方法は、物体をリリースする基体上に設けられたUV硬化接着剤を利用する方法である。
【0004】
従来は、一本のニードルプローブの回転運動を利用して物体を掴む操作と開放する操作との間で前記密着力を操作していたが、これはミクロな球体を使用してダイヤモンド形状の構造体を構成するさいには成功していた(S.Saito、H.T.Miyazaki、T.Sato、and K.Takahashi、“Kinematics of mechanical and adhesional micromanipulation under a scanning electron microscope”、J.Appl.Phys.、vol.92、pp.5140−5149、2002)。ところが、Saito等が提案した方法の場合、複雑な動作を実行するために高度な技術を持つ作業員が必要であり、試行錯誤的な方法を利用するものである。
【0005】
基体密着性を利用せずに物体をリリースする能動的な方法も提案されている。即ち、基体‐プローブ電位差が作り出す電場を利用して、プローブから物体をリリースする方法である(K.Takahashi、H.Kajihara、M.Urago、S.Saito、Y.Mochimaru、and T.Onzawa“Voltage required to detach an adhered particle by coulomb interaction for micromanipulation”、J.Appl.Phys.、vol.90、pp.432−437、2001)。ところが、この方法の場合、基体、プローブおよび物体はいずれも電導性でなければならない。
真空法の場合、物体を拾い上げる操作とこれを置く操作との間に生じる圧力差を利用していた(W.Zesch、M.Bmnner、and A.Weber,“Vacuum tool for handling micro objects with a nano robot,”in Proc.IEEE Int.Conf.Robotics Automation、Albuquerque、NM、USA、Apr.1997、pp.1761−1766)。ところが、この方法の場合、SEM(走査型電子顕微鏡)内部などの真空環境内で使用することには向いていないため、μm以下の物体を操作する能力に限界がある。
【0006】
マイクロペルティエ冷却機の場合、氷滴を同時形成して、μmサイズの物体を拾い上げ、そして氷滴を解凍して物体をリリースするために使用されていた(B.Lopez−Walle、M.Gauthier、and N.Chaillet、“Principle of a sub−merged freeze gripper for microassembly,”IEEE Transactions on Robotics、vol.24,pp.897−902、2008)。ところが、Lopez−Walleなどが開示している操作の場合、水性環境内で行う必要がある。
米国特許第6,987,277号公報には、走査型プローブ顕微鏡先端を使用して、パッシベーション処理した基体のスポットを選択的に活性化することによってnmスケールの物体を拾い上げ、これを置き、次に化学的・物理的結合力を使用して、nmスケールの物体をこの活性化されたスポット上にリリースする方法が開示されている。この方法の場合、特別に処理されたサンプルおよび基体が必要である。
【0007】
米国特許第6,648,389号公報には、サンプルを拾い上げ、リリースするための振動型放出マイクログリッパーが開示されている。このマイクログリッパーの製造プロセスは、そのスケールダウン能力に限界があり、開放精度も良くないことは、同様な振動型設計に見られる通りである(Y.Fang and X.Tan、“A dynamic jkr model with application to vibration release in micromanipulation,”in Proc.IEEE/RSJ Int.Conf.Intelligent Robots and Systems、Beijing、China、Oct.2006、pp.1341−1345)。
また、米国特許第7,025,619号公報には、機械式ソケットを使用して、2つのマイクロ部品をロックし組み立てることが開示されている。この方法の場合、組み立てのために、各部品が特別設計の機械式接続部をもつ必要がある。
【0008】
いくつかのマイクログリッパー特許設計が存在しているが、いずれも掴む能力のみに焦点を向けている。リリース性が信頼できる公知グリッパー設計は見当たらない。例えば、米国特許第6,862,921号公報(Veeco Instruments Inc.)には、2つの走査型プローブ顕微鏡先端を併用して、操作用ピンセットを形成することが開示されている。また、米国特許第7,261,352号公報(Samsung Electronic Co., Ltd)には、カーボンナノチューブグリッパー素子が開示されている。ZyvexやNascatecなどのマイクロ技術およびナノ技術を得意とする他の企業も物体を拾い上げることができる異なるタイプのマイクログリッパーおよびマイクロプローブを製品化しているが、いずれもリリース機構を欠いている。
【0009】
リリース機構を欠いているだけでなく、既存の設計は、ダウンスケーリング能力にも制限がある。nmサイズの物体を操作するためには、理想的には、素子の操作端部が物体に匹敵するサイズをもっていなければならない。これは、素子におけるすべての構造的部材が同じ厚さである、大半のMEMS型(マイクロエレクトロメカニカル系)マイクログリッパーでは実現しにくい。素子の厚さを薄くすると、重なり合う面積または容積が小さくなるため、マイクロアクチュエーターの性能が大きく低下し、またフレクシャーのアスペクト比が悪くなり、操作時に望ましくない動作が発生する。ニードルプローブの場合、ダウンスケーリングは実現しやすいが、拾い上げ能力がかなり制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,987,277号公報
【特許文献2】米国特許第6,648,389号公報
【特許文献3】米国特許第7,025,619号公報
【特許文献4】米国特許第6,862,921号公報
【特許文献5】米国特許第7,261,352号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】O.Fuchiwaki、A.Ito、D.Misaki,and H.Aoyama、“Multi−axial micromanipulation organized by veratile micro robots and micro tweezers”、in Proc.IEEE Int.Conf.Robotics Automation、Pasadena、CA、USA、May 2008、pp.893−898
【非特許文献2】S.Saito、H.T.Miyazaki、T.Sato、and K.Takahashi、“Kinematics of mechanical and adhesional micromanipulation under a scanning electron microscope”、J.Appl.Phys.、vol.92、pp.5140−5149、2002
【非特許文献3】K.Takahashi、H.Kajihara、M.Urago、S.Saito、Y.Mochimaru、and T.Onzawa“Voltage required to detach an adhered particle by coulomb interaction for micromanipulation”、J.Appl.Phys.、vol.90、pp.432−437、2001
【非特許文献4】W.Zesch、M.Bmnner、and A.Weber,“Vacuum tool for handling micro objects with a nano robot,”in Proc.IEEE Int.Conf.Robotics Automation、Albuquerque、NM、USA、Apr.1997、pp.1761−1766;
【非特許文献5】B.Lopez−Walle、M.Gauthier、and N.Chaillet、“Principle of a sub−merged freeze gripper for microassembly,”IEEE Transactions on Robotics、vol.24,pp.897−902、2008
【非特許文献6】Y.Fang and X.Tan、“A dynamic jkr model with application to vibration release in micromanipulation,”in Proc.IEEE/RSJ Int.Conf.Intelligent Robots and Systems、Beijing、China、Oct.2006、pp.1341−1345
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術の問題を要約すると、従来方法の場合、高度な再現性と正確なリリース性を欠いているため、その場でサンプルを作成し、操作するために重要であるだけでなく、μmサイズやnmサイズの構造/素子を構成するために重要な、効率が良く自動化されたnmレベルやμmレベルの操作に制限が出てくる。必要なことは、(1)μmおよびnmサイズの物体を簡単かつ確実に掴むことができること、(2)物体のリリースが迅速で、高度の再現性があり、正確であること、および(3)μmサイズ以下及びnmサイズの物体を操作するためのダウンスケーリングが容易なグリッパ−デザインである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一つの態様は、nmサイズ又はμmサイズの物体を掴むことができ、物体を能動的にリリースできる素子を提供するものである。
本発明の別な態様は、物体を掴み、この物体を能動的にリリースできる素子の製造方法を提供するものである。
【0014】
即ち、本発明の第1態様は、nmスケールサイズの物体あるいはμmスケールサイズの物体を操作する素子であって、
(a)物体を掴むグリップ作用アーム、
(b)物体をグリップ作用アームから能動的にリリースするリリースプランジャー、および
(c)グリップ作用アームおよびリリースプランジャーに接続され、グリップ作用アームおよびリリースプランジャーを作動させて物体を掴み、そしてグリップ作用アームから物体を能動的にリリースするマイクロアクチュエーション手段を有することを特徴とする前記素子である。
【0015】
本発明のさらに別な態様は、nmスケールサイズの物体またはμmスケールサイズの物体を操作する素子を製造する方法であって、この素子が構造要素を有し、これら構造要素が、物体を掴むグリップ作用アーム、物体をグリップ作用アームから能動的にリリースするリリースプランジャー、およびグリップ作用アームおよびリリースプランジャーに接続され、グリップ作用アームおよびリリースプランジャーを作動させて物体を掴み、そしてグリップ作用アームから物体を能動的にリリースするマイクロアクチュエーション手段を有するものであり、以下の工程を有することを特徴とする方法である:
(a)上面側および底面側を有し、それぞれが好適なエッチング選択性を示す材料からなる上部層、中間層および底部層からなるウェーハーを用意する工程、
(b)前記素子に対応する上部層の目的の最終パターンに上部層をパターンエッチングする工程、
(c)上面側から中間層の露出領域を底部層までエッチングする工程、および
(d)上面側から底部層の露出領域をエッチングして、物体を操作する素子を製造する工程。
【0016】
本発明のさらに別な態様は、nmスケールサイズの物体またはμmスケールサイズの物体を操作する素子を製造する方法であって、この素子が構造要素を有し、これら構造要素が、物体を掴むグリップ作用アーム、物体をグリップ作用アームから能動的にリリースするリリースプランジャー、およびグリップ作用アームおよびリリースプランジャーに接続され、グリップ作用アームおよびリリースプランジャーを作動させて物体を掴み、そしてグリップ作用アームから物体を能動的にリリースするマイクロアクチュエーション手段を有するものであり、このグリップ作用アームが所定厚さに設定されたグリップ作用先端を有し、そして前記方法が前記構造要素に対して前記先端の厚さを選択的に小さくできるもので、以下の工程を有することを特徴とする方法:
(a)上面側および底面側を有し、それぞれが好適なエッチング選択性を示す材料からなる上部層、中間層および底部層からなるウェーハーを用意する工程、
(b)前記素子に対応する上部層の目的の最終パターンに上部層をパターンエッチングする工程、
(c)上部層にフォトレジストマスクを設層し、前記素子の構造要素に対応する中間層の目的の最終パターンにこのマスクをパターニングする工程、
(d)上面側から中間層の露出領域を底部層までエッチングする工程、
(e)上面側から上部層および底部層の露出領域をエッチングする工程、および
(f)上面側から中間層の露出領域をエッチングして、前記構造要素に対して厚みを薄くしたグリップ作用先端部をもつ前記素子を提供する工程。
【0017】
本発明のさらに別な態様は、nmスケールサイズの物体またはμmスケールサイズの物体を操作する素子を製造する方法であって、この素子が構造要素を有し、これら構造要素が、物体を掴むグリップ作用アーム、物体をグリップ作用アームから能動的にリリースするリリースプランジャー、およびグリップ作用アームおよびリリースプランジャーに接続され、グリップ作用アームおよびリリースプランジャーを作動させて物体を掴み、そしてグリップ作用アームから物体を能動的にリリースするマイクロアクチュエーション手段を有するものであり、シリコン担持絶縁体ウェーハーをその一つの側からパターンエッチングすることを特徴とする前記方法である。
本発明のさらに別な態様は、ウェーハーの一つの側から2つの構成材料層をパターニングしてnmスケールサイズの物体またはμmスケールサイズの物体を操作する素子を製造するマイクロ製造方法であって、上記素子が高アスペクト比構造体および低アスペクト比構造体からなり、そして以下の工程を有することを特徴とする上記方法:
(a)上面側および底面側を有し、それぞれが好適なエッチング選択性を示す材料からなる上部層、中間層および底部層からなるウェーハーを用意する工程、
(b)前記素子に対応する上部層の目的の最終パターンに上部層をパターンエッチングする工程、
(c)上部層にフォトレジストマスクを設層し、前記素子の高アスペクト比構造体に対応する中間層の目的の最終パターンにこのマスクをパターニングする工程、
(d)上面側から中間層の露出領域を底部層までエッチングする工程、
(e)上面側から上部層および底部層の露出領域をエッチングする工程、および
(f)上面側から中間層の露出領域をエッチングして、前記素子の低アスペクト比構造体を形成する工程。
【0018】
本発明のさらに別な態様は、nmスケールサイズの物体またはμmスケールサイズの物体を操作できる素子を使用して物体を掴み、これを目的のターゲット領域に置く方法であって、前記素子が物体の周囲で開閉するグリップ作用アーム、物体をグリップ作用アームから能動的にリリースするリリースプランジャー、およびグリップ作用アームおよびリリースプランジャーに接続され、グリップ作用アームおよびリリースプランジャーを作動させるマイクロアクチュエーション手段を有するものであり、そして以下の工程を有することを特徴とする上記方法:
(a)掴むべき物体の周囲にグリップ作用アームを締める工程、
(b)素子を移動させて物体を持ち上げ、物体を目的のターゲット領域に移す工程、
(c)グリップ作用アームを開く工程、および
(d)リリースプランジャーを作動させて、グリップ作用アームのうち一つのアームに密着力によって密着されている物体を能動的にリリースし、物体をターゲット領域に置く工程。
本発明のさらに別な態様は、バッチ式マイクロ製造技術で製造したシングルチップ型集積(一体化)MEMS素子である。即ち、静電的か、あるいは電熱的に駆動されるグリッパーであり、2つの独立作動グリップ作用アームおよびこれと一体化された、物体を能動的にリリースするプランジャーを使用して、μmサイズの物体またはnmサイズの物体を掴むグリッパーである。このプランジャーは、物体に衝撃を与えるかあるいはこれを押すことができ、密着されている物体に密着力を超える十分なモーメンタム与えて、要求があればこれをリリースできるものである。
前述のように、物体を掴み能動的にリリースする素子を有する本発明によれば(1)μmサイズ又はnmサイズの物体を簡単かつ確実に掴むことができること、(2)物体のターゲット領域でのリリースが迅速で、高度の再現性があり、正確であること、および(3)μmサイズ以下やnmサイズの物体を操作するためのマイクログリップ作用先端のダウンスケーリングが正確であることといった作用効果を実現することができる。
【0019】
以下例示のみを目的として、添付図面を参考にして本発明の実施態様を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】能動的リリースプランジャーを一体化したグリッパーを示す図である。
【図2】図1のA−A軸線にそってみたグリッパーの横断面図である。
【図3】本発明の実施態様を使用する“拾い上げて置く”シーケンスの一例を示す図である。
【図4】能動的リリースプランジャーを使用して10μmのマイクロスフィアを置く実験結果を示す図で、精度はμm物体サイズの18%以上である。
【図5】製造プロセスAを示す図である。
【図6】製造プロセス全体を示す図である。
【図7(a)】製造プロセスBを示す図である。
【図7(b)】製造プロセスBを示す図である。
【図8】プロセス(A)を使用して製造した能動的リリースプランジャーを備えたマイクログリッパーのSEM像である。
【図9】プロセス(B)を使用して製造したグリッパー先端のSEM像である。なお、数値は、グリッパー先端部とそれ以外の構造体との厚み差を示す。
【図10】バイモルフマイクロアクチュエーターを使用した能動的リリース機構の別な構成を示す図である。
【0021】
添付図面を参考にして本発明の実施態様を例示のみを目的として説明する。なお、以下の説明および図面は説明のみを目的とし、理解の一助になるもので、本発明の範囲を限定して定義するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、μmサイズおよびnmサイズの物体を高度の反復性でかつ正確に“拾い上げて置く”ことができる能動的リリースプランジャーからなる素子を提供するものである。具体的には、本発明は、従来設計の問題(即ち、リリースおよびダウンスケーリングに関する問題)を解決するもので、要求に応じて物体を掴み、これをリリースできるμm/nmスケールの工具素子を提供し、かつ新規なマイクロ製造技術プロセスによってダウンスケーリングを容易にするものである。
【0023】
即ち、本発明の第1態様は、nmスケールサイズの物体あるいはμmスケールサイズの物体を操作する素子であって、
(a)物体を掴むグリップ作用アーム、
(b)物体をグリップ作用アームから能動的にリリースするリリースプランジャー、および
(c)グリップ作用アームおよびリリースプランジャーに接続され、グリップ作用アームおよびリリースプランジャーを作動させて物体を掴み、そしてグリップ作用アームから物体を能動的にリリースするマイクロアクチュエーション手段を有することを特徴とする前記素子である。
【0024】
本発明の別な態様は、ウェーハーの片面から2つの材料層をパターンニングできる新規なマイクロ技術製造方法である。このマイクロ技術製造方法は、多層ウェーハー(例えばシリコン担持絶縁体ウェーハーなど)を使用して、高アスペクト比構造体および端部が薄い構造体を有する素子を構成する最も標準的なマイクロ技術製造プロセスに統合できる。nmスケールサイズの物体を操作する素子の場合、このマイクロ技術製造方法を使用すると、操作すべきnmサイズの物体に匹敵する厚みをもち、高アスペクト比構造体および低アスペクト比構造体の両方を備えた素子を構成できる。即ち、本発明のさらに別な態様は、高アスペクト比構造体および低アスペクト比構造体をもつ、nmスケールサイズの物体を操作する素子の製造方法であって、以下の工程を有することを特徴とする:
(a)上面側および底面側を有し、それぞれが好適なエッチング選択性を示す材料からなる上部層、中間層および底部層からなるウェーハーを用意する工程、
(b)前記素子に対応する上部層の目的の最終パターンに上部層をパターンエッチングする工程、
(c)上部層にフォトレジストマスクを設層し、前記素子の高アスペクト比構造体に対応する中間層の目的の最終パターンにこのマスクをパターニングする工程、
(d)上面側から中間層の露出領域を底部層までエッチングする工程、
(e)上面側から上部層および底部層の露出領域をエッチングする工程、および
(f)上面側から中間層の露出領域をエッチングして、前記素子の低アスペクト比構造体を形成する工程。
【0025】
本発明の別な態様は、nmスケールサイズの物体やμmスケールサイズの物体を操作できる素子を使用して物体を掴み、これを目的のターゲット領域に置く方法であって、前記素子が物体の周辺で開閉するグリップ作用アーム、物体をグリップ作用アームから能動的にリリースするリリースプランジャー、およびグリップ作用アームおよびリリースプランジャーに接続され、グリップ作用アームおよびリリースプランジャーを作動させるマイクロアクチュエーション手段を有するものであり、そして以下の工程を有することを特徴とする:
(a)掴むべき物体の周囲にグリップ作用アームを締める工程、
(b)素子を移動させて物体を持ち上げ、物体を目的のターゲット領域に移す工程、
(c)グリップ作用アームを開く工程、および
(d)リリースプランジャーを作動させて、グリップ作用アームのうち一つのアームに密着力によって密着されている物体を能動的にリリースし、物体をターゲット領域に置く工程。
【0026】
本明細書では操作という用語を使用するが、これはnmスケールの物体またはμmスケールの物体の変位操作や組み立て操作を意味し、制限する意図はないが例示すれば、nmスケールの物体またはμmスケールの物体を掴む操作、持ち上げ操作、押す操作、解き放つ(リリース)操作、射出する操作をいう。
図1および図2に、本発明の物体を掴み、これを能動的にリリースする素子の一実施態様を示す。この実施態様の場合、物体を掴み、これを能動的にリリースする素子は、(i)それぞれが2つのグリップ作用アームG1、G2のうち一つを制御して掴み操作とグリッパー‐プランジャー動作をアラインメントさせる2つの静電くし形駆動マイクロアクチュエーターB、C、(ii)能動的リリースプランジャーを制御する静電くし形駆動アクチュエーターD、および(iii)作動する力を変位に変形するために使用する線形ビームフレクシャーF1、F2、F3の3つの構成部分からなる静電作動式マイクログリッパーからなる。
【0027】
図1および図2の実施態様の場合、グリッパーおよびプランジャーは横方向くし形駆動マイクロアクチュエーターによって作動するが、他の形式の静電アクチュエーター、電熱アクチュエーターやその他のマイクロアクチュエーターを運動/力増幅/逓減機構と併用することも可能であり、いずれも本発明の範囲に含まれる。
【0028】
帯域幅が広く、運動解像力が高く、温度勾配がなく、実装が簡単な上、表面密着力より強い十分な力出力があるため、横方向くし形駆動マイクロアクチュエーターは、マイクロ/ナノ操作に対して理想的な素子である。フレクシャーF1、F2、F3の寸法を変えることによって、あるいはくし形駆動マイクロアクチュエーターB、C、Dの寸法を変えることによってアクチュエーターの運動範囲および解像力を調節できる。
【0029】
このくし形駆動マイクロアクチュエーターBは、フレクシャーF1を偏向させる力を発生する。線形運動は、グリップ作用アームG1に直接伝達される。フレクシャーF2を介してマイクロアクチュエーターCに接続された第2のグリップ作用アームG2の構成は対称的である。グリップ作用アームは、電極E2とE1との間に、あるいはE4とE1との間に電圧を印加することによって個々に制御される。グリップ作用先端部の間隔が、掴むべき物体のサイズを決定する。
【0030】
くし形駆動マイクロアクチュエーターが発生する力がフレクシャーF3を偏向させ、線形運動を造り出す場合、電圧を電極E3とE1との間に印加することによって能動的リリースプランジャーPを制御する。4つのテザード式(tethered)フレクシャーF3によりプランジャー先端部に対するx−y面内における面外運動が最小になる。
【0031】
この能動的リリースプランジャーは別な方法でも使用することができる。基体を独立してリリースする場合、作動電圧が急に上昇するため、プランジャーPが高速移動し、グリップ作用アームG1またはG2に密着している物体に衝突する。この衝撃により密着している物体が十分なモーメンタムを獲得し、物体とグリップ作用アームとの間の密着力より大きくなる結果、リリースが生じる。プランジャーの移動速度が比較的低速の場合は、密着物体がグリップ作用アームから押し出され、直接基体内に落ちるが、リリースが上手くいくかどうかは、プランジャー/物体の接触面間の密着力差、および物体/基体接触面間の密着力差に依存する。プランジャーがグリップ作用アーム先端部を超えた場合にも、操作ニードルプローブとして機能する。
【0032】
アクチュエーション電圧の上昇分布が異なると、プランジャー速度および力も異なってくる。大きさが〜10μmのマイクロスフィアで行った一つの具体的な実験では、作動電圧が急に上昇すると、リリースを確保できることが実証された。高速ビデオグラフィー(13,000フレーム/秒)を使用して最大プランジ動作速度を定量化した結果から、プランジ動作速度が65.24mm/秒の場合、マイクロスフィア速度が105.01mm/秒になることが明らかになった。プランジ動作速度が高速になると、サンプル作成(例えばベーキング)にそれ程注意を向ける必要もなくなり、あるいは環境制御(例えば湿度)への必要性も少なくなる。
【0033】
図3は、高速プランジャーを使用して行うマイクロスフィアのマイクロ操作シーケンスを示す図である。即ち、(a)マイクログリッパーがマイクロスフィアに近づき、一つのグリップ作用アームを使用してこれを横方向に押してマイクロスフィアと基体との間の初期密着を破る。(b)2つのグリップ作用アームを閉じ、マイクロスフィアを掴みこれを持ち上げる。(c)マイクロスフィアをターゲット領域に移し、基体上に最小距離で置く。(d)グリップ作用アームを開き、マイクロスフィアが密着しているグリップ作用アームによりマイクロスフィアをプランジャーに対して右側に正しく移す。(e)プランジャーでマイクロスフィアを押し出し、基体上に正確に置く。(f)マイクログリッパーを後退させ、“拾い上げて置く”プロセスを繰り返す。
【0034】
物体を置く精度(ランディング精度)は、基体上のグリップ作用アームおよびプランジャーの高さに反比例する。ランディング精度を高めるためには、マイクログリッパーを目的地上に短い距離で置く必要がある。高速プランジャーを使用すると、衝撃時にこのマイクロ物体をプランジャーから離しておくことができるため、リリース性能を基体と無関係にしておくことができる。なお、ここで使用する“基体”とは、物体をリリースすべき任意の表面、例えば三次元構造の構成時などの別な物体の上部を意味する。図4に、基体の2μmの高さから10μmのマイクロスフィアを能動的にリリースした代表的な実験における精度結果を示す。
【0035】
この具体的な構成におけるリリース精度は0.7±0.46μmである。位置設定システムの精度/再現性は〜1μmで環境パラメーターを厳密に制御していないため、本発明技術のみのリリース精度は、数百nm以上と考えられる。
【0036】
直観的な能動的リリース設計が、周囲環境および真空環境の両者においてμmサイズの物体およびnmサイズの物体を拾い上げリリースできる設計は、この種の設計の嚆矢である。本発明の場合、対象とする物体のサイズ範囲は約1nm〜約500μmである。本発明による新規な素子は広い用途で利用できる。例示すれば、細胞研究で使用する電子顕微鏡における生物細胞の物理的変性および切断、光学顕微鏡および電子顕微鏡下での新規な三次元的μm/nmサイズ構造を構成する操作の自動化などである。
【0037】
本発明の素子を形成する2つの製造プロセスを図5および図7に示す。図5は、〜1μmまでの物体をマイクロ操作できる素子のマイクロ製造プロセス(A)を示す図である。図7は、μm以下のサイズ物体およびnmサイズの物体をナノ操作できる素子を製造する別なプロセス(B)を示す図である。いずれのプロセスもSOI(シリコン担持絶縁体)ウェーハーを使用する。これらマイクロ製造プロセスに好適なSOIウェーハーは、厚さが200〜500μmのシリコンハンドル層、SiOボックス層などの厚さが0.1〜2μmの埋設絶縁層、および厚さが10〜300μmのシリコン素子層を有するSOIウェーハーである。
【0038】
プロセス(A)の工程
1.SOIウェーハー60を準備する工程。
2.例えばDRIE(深反応性イオンエッチング)を使用して、埋設酸化物層40(フォトリソグラフィーマスク1)までウェーハー60のハンドル層20をエッチングする工程。
3.e−ビーム蒸着によってオーム接点30を形成しこれをリフトオフによってパターニングする(フォトリソグラフィーマスク2)工程。
4.フォトリソグラフィーマスク3を使用して素子層50をパターニングし、DRIEを使用して、BOX(埋設酸化物)層までエッチングする工程。
5.SiOBOX層をエッチングし、個々の素子10をウェーハー60から回収する工程。
nmサイズの物体を操作するためには、グリップ作用先端部が物体に匹敵する厚さであることが理想的である。標準的なSOI製造プロセスに基づいて、プロセス(A)で製造したマイクログリッパーをダウンスケーリングする場合、素子全体を薄層化するしか手段がない。これは、フレクシャーの十分でないアスペクト比、低いマイクロアクチュエーター性能、および低い素子集積度の結果として発生する望ましくない面外運動などの問題を引き起こす。
【0039】
素子全体の薄層化に関係する問題を解決するためには、グリップ作用先端部以外の素子構造を維持した状態で、グリップ作用先端部を選択的に薄くすることが理想である。これは、概念上は、薄い酸化物層をシリコンウェーハー上部に実装すると実現できる。酸化物層がグリップ作用先端構造を形成し、そしてシリコン層が素子のそれ以外の構造になる。この方法で得た素子は厚さが2〜300μm程度に過ぎず、素子を壊さずに取り扱うことは難しい。素子のこの取り扱い問題を解決するために、SOIウェーハーにさらにハンドル層を設層し、構造を強化することが便利である。
【0040】
3層以上の材料層からなるウェーハー(例えば素子シリコン層、埋設酸化物層、およびハンドルシリコン層の3層からなるSOIウェーハー)については、標準的な既存のマイクロ製造プロセスでは各層に異なるパターンを形成できない。本発明は、図6に示すように、また以下に説明するように、ウェーハーの一方の側から2つの材料層をパターニングできる新規な一般的な製造方法を提供するものである。SOIウェーハーの場合、この新規な方法を適用すると、埋設酸化物層を素子シリコン層とは異なるパターンでパターニングできる上に、μm以下サイズの物体およびnmサイズの物体を操作できる薄層化したグリップ作用先端部を形成できるようにパターニングを実施できる。また、通常のマイクロ加工プロセスを使用して、ウェーハーを最大4つまでの材料層を個別にパターニングすることができる。
【0041】
一般的なプロセスを記述する一般的な実施例を使用して、以下の工程(図7)によってウェーハーの一方の側から層A(上部)および層B(底部)の2つの材料層をパターニングできる。
1.エッチングマスクとして材料Bを層Aの上に設層する工程。
2.設層した層を層Bの目的の最終パターンにパターニングする工程。
3.設層した層Bのマスクフォトレジストを層Aの目的の最終パターンにパターニングする工程。
4.上部から露出材料Aをエッチングする工程。
5.上部から露出材料Bをエッチングする工程。
6.上部から露出材料Aをエッチングする工程。
【0042】
プロセス(X)の作業条件としては:
1.材料AおよびBには適当なエッチング方法が利用できる。
2.材料AおよびBは、例えばシリコンとSiOとの間のように好適なエッチング選択性をもつ。
3.フォトレジストは、材料AおよびBのエッチングに対して耐エッチング性を示す。
の3条件がある。
【0043】
材料Aが素子シリコン層で、材料BがSOIウェーハーのBOX層であるこの新規な製造プロセス(X)をプロセス(A)に一体化することによって、新規なマイクロ製造プロセス(B)は以下の工程を有することになる。
1.SOIウェーハー160の両側に、SiOなどの所定の電気抵抗をもつ材料110を熱的に成長させる工程。
2.素子層150にクロムを蒸着し、これをパターンニングしてくし形フィンガーおよびフレクシャーなどの特徴付けをする(フォトリソグラフィーマスク1)工程。
3.フォトリソグラフィーマスク2および所定のCrエッチングマスクを使用するRIE(反応性イオンエッチング)で上部SiO層をエッチングする工程。
4.e−ビーム蒸着によってオーム接点130を形成し、リフトオフによってパターニングする(マスク3)工程。
5.底部SiO層をパターニングして、ハンドル層上にDRIE(深反応性イオンエッチング)エッチングマスクを形成する(マスク4)工程。
6.DRIEを使用して、SiOBOX層までハンドル層120をエッチングする工程。
7.ハンドル層上に、所定の導電性をもつ材料の薄膜(金属/非金属)を蒸着する工程。
8.フォトリソグラフィーマスク5を使用して素子層150をパターンニングしてから、DRIEを使用して、露出シリコンをエッチングする工程。
9.上部層およびBOX層の両層から露出したSiOを上部からエッチングする工程。
10.RIEを使用して露出金属/非金属薄膜を上部からエッチングする工程。
11.DRIEを使用して、露出素子層シリコンを上部からエッチングする工程。
12.上部層およびBOX層から露出しているSiOを上部からエッチングして取り
去り、グリップ先端部に金属/非金属薄層を露出する工程(必要に応じて実施する工程)
【0044】
図7に示した一般的なプロセスをプロセス(B)に工程1、3、8、9および11として組み込むと、素子シリコン層を素子構造(マイクロアクチュエーターおよびフレクシャー)にパターニングすることができ、BOX層をグリップ作用先端部にパターニングすることができる。一般的なプロセスをプロセス(A)と一体化すると、グリップ作用先端を選択的にμm以下に薄膜化できるためnmサイズの物体を操作することができる。
【0045】
製造プロセスが複雑化するため、プロセス(B)の工程2を追加して、少ない部品数でアラインメント問題を最小限に抑えた。
用途における必要性に応じて、グリップ作用先端部を広い範囲の導電性材料または非導電性材料(プロセスB、工程7によって決る)から製造することができる。SEM(走査型電子顕微鏡)内部でグリッパーを上下を逆にして使用した場合、設層薄膜(プロセスB、工程7)が荷電作用を防止するため、画像がいっそう明瞭になる。このタイプのグリッパーの作業環境は、周囲環境があり、また真空環境がある。
【0046】
図8は、プロセス(A)を使用して製造した、能動的リリース式プランジャーを備えたグリッパーの一例のSEM像を示す図である。この素子は、サイズを約1μmまで小さくした物体のマイクロ操作に好適である。図9は、プロセス(B)を使用して製造した、能動的リリース式プランジャーを備えたグリッパーの一例のSEM像を示す図である。この素子は、サイズを約1μm以下に小さくした物体のナノ操作に好適である。
【0047】
なお、本発明は、能動的リリースの反復性および精度の点で嚆矢となる技術である。また、本発明は、新規な製造プロセス(X)を製造プロセス(A)に組み込むことを通じて、素子層の厚さを変えることなく、マイクログリッパー先端部厚さ全体を正確に制御できる嚆矢となる技術である。
【0048】
以上の説明は、プランジャーの面内運動を通じて能動式リリースを実現することに関する。能動式リリースの別な構成では、図1のマイクロアクチュエーターDの代わりに面外マイクロアクチュエーターを使用する。例えば、プランジャーは、図9に示すように、熱バイモルフマイクロアクチュエーターと交換できる。上部層310は、熱膨張係数が底部層より高い設層材料からなる。熱が発生する場合、熱係数差によってプランジャーの先端部が矢印で示す方向(−Z方向)に駆動され、プランジャーからの面外運動を通じて密着物体がリリースされる。
【0049】
なお、当業者ならば、以上の実施態様は、本発明の範囲から逸脱することなく、変更実施可能であることを理解できるはずである。
【符号の説明】
【0050】
B:マイクロアクチュエーター
C:マイクロアクチュエーター
D:マイクロアクチュエーター
E1〜4:電極
F1〜3:フレクシャー
G1〜2:グリップ作用アーム
P:プランジャー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
nmスケールサイズの物体又はμmスケールサイズの物体を操作する素子であって、
(a)前記物体を掴むグリップ作用アーム、
(b)前記物体をグリップ作用アームから能動的にリリースするリリースプランジャー、および
(c)前記グリップ作用アームおよび前記リリースプランジャーに接続され、前記グリップ作用アームおよび前記リリースプランジャーを作動させて前記物体を掴み、そして前記グリップ作用アームから前記物体を能動的にリリースするマイクロアクチュエーション手段を有することを特徴とする前記素子。
【請求項2】
前記マイクロアクチュエーターが静電マイクロアクチュエーター、電熱マイクロアクチュエーター、または圧電アクチュエーターを含むことを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項3】
サイズが約1nm〜約500μmの範囲にある物体を掴みこれを能動的にリリースできることを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項4】
前記物体と前記グリップ作用アームのうち一つのアームとの間に作用する密着力よりも大きいリリース力で前記物体に前記プランジャーが衝突することによって前記グリップ作用アームから前記物体を能動的にリリースできることを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項5】
前記プランジャーが、密着力によって前記グリップ作用アームのうち一つのアームに密着している前記物体を押し放すことによって前記グリップ作用アームから前記物体を能動的にリリースできることを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項6】
前記リリース式プランジャーがプランジャー速度および力を可変化できることを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項7】
前記マイクロアクチュエーション手段が前記グリップ作用アームに接続された第1組のマイクロアクチュエーター、および前記リリースプランジャーに接続された第2組のマイクロアクチュエーターからなり、これによって前記グリップ作用アームと前記プランジャーとの間で柔軟な操作およびアライメントを可能にしたことを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項8】
前記第2組のマイクロアクチュエーターを面内マイクロアクチュエーターによって構成して、前記プランジャーが面内方向から前記物体に衝撃を与えるか、あるいは前記第2組のマイクロアクチュエーターを面外マイクロアクチュエーターによって構成して、前記プランジャーが面外方向から前記物体に衝撃を与えるようにしたことを特徴とする請求項7に記載の素子。
【請求項9】
前記第1組のマイクロアクチュエーターをそれぞれ独立して各前記グリップ作用アームに接続されたマイクロアクチュエーターによって構成したことを特徴とする請求項7に記載の素子。
【請求項10】
前記グリップ作用アームおよび前記プランジャーをフレクシャーによって前記マイクロアクチュエーション手段に接続したことを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項11】
さらに、前記プランジャーが前記物体を操作するプローブとして機能することを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項12】
前記グリップ作用アームが閉まる位置と開放する位置で動作して物体を掴みこれをリリースし、そして前記プランジャーが、前記アームが開放位置にある間に、前記グリップ作用アームのうち一つのアームに密着力によって取り付けられた前記物体を能動的にリリースすることを特徴とする請求項1に記載の素子。
【請求項13】
nmスケールサイズの物体またはμmスケールサイズの物体を操作する素子を製造する方法であって、この素子が構造要素を有し、これら構造要素が、前記物体を掴むグリップ作用アーム、前記物体をグリップ作用アームから能動的にリリースするリリースプランジャー、および前記グリップ作用アームおよび前記リリースプランジャーに接続され、前記グリップ作用アームおよび前記リリースプランジャーを作動させて前記物体を掴み、そして前記グリップ作用アームから前記物体を能動的にリリースするマイクロアクチュエーション手段を有するものであり、以下の工程からなることを特徴とする方法である:
(a)上面側および底面側を有し、それぞれが好適なエッチング選択性を示す材料からなる上部層、中間層および底部層からなるウェーハーを用意する工程、
(b)前記素子に対応する前記上部層の目的の最終パターンに前記上部層をパターンエッチングする工程、
(c)前記上面側から前記中間層の露出領域を前記底部層までエッチングする工程、および
(d)前記上面側から前記底部層の露出領域をエッチングして、物体を操作する前記素子を製造することを特徴とする工程。
【請求項14】
前記グリップ作用アームが所定厚さのグリップ作用先端部からなり、そして前記構造要素に対して前記先端部の厚さを選択的に薄くできる方法であって、工程(b)に続いて、以下の工程を有することを特徴とする請求項13に記載の方法:
(c)前記上部層にフォトレジストマスクを設層し、前記素子の前記構造要素に対応する前記中間層の目的の最終パターンにこのマスクをパターニングする工程、
(d)前記上面側から前記中間層の露出領域を前記底部層までエッチングする工程、
(e)前記上面側から前記上部層および前記底部層の露出領域をエッチングする工程、および
(f)前記上面側から前記中間層の露出領域をエッチングして、前記構造要素に対して厚さを薄くしたグリップ作用先端部をもつ前記素子を提供する工程。
【請求項15】
前記ウェーハーがシリコン担持絶縁体であって、前記中間層が素子シリコン層であり、かつ前記底部層が前記素子層とハンドルシリコン層との間の埋設絶縁層である請求項13に記載の方法であって、工程(b)を行う前に、さらに、該ハンドルシリコン層に好適なエッチング選択性をもつ材料の底部層を設層し、該底部側から埋設絶縁層まで前記底部層を該ハンドル層の目的の最終パターンにパターンエッチングする工程を有する上記方法。
【請求項16】
さらに、前記底部側から所定の導電性をもつ材料の膜を被膜する工程を有することを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記グリップ作用アームが所定厚さのグリップ作用先端部を有し、前記素子の前記構造要素に対して前記先端部の厚さを選択的に薄くできる請求項16に記載の方法であって、工程(b)に続いて、以下の工程を有することを特徴とする上記方法:
(c)前記上部層にフォトレジストマスクを設層し、前記素子の前記構造要素に対応する前記素子シリコン層の目的の最終パターンにこのマスクをパターニングする工程、
(d)前記上面側から前記素子シリコン層および前記埋設絶縁層の露出領域をエッチングする工程、
(e)前記上面側から前記上部層および前記埋設絶縁層の露出領域をエッチングする工程、
(f)前記上面側から前記素子シリコン層の露出領域をエッチングする工程
(g)前記上面側から前記埋設シリコン層の露出領域を所定の導電性をもつ膜材料までエッチングすることによって、前記構造要素に対して薄い厚さのグリップ作用先端部を有する前記素子を提供する工程。
【請求項18】
前記パターニング工程をフォトリソグラフィーマスクによって行うことを特徴とする請求項13〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記上部層および前記底部層が二酸化シリコン層であることを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記中間層がシリコン層であることを特徴とする請求項13〜14に記載の方法。
【請求項21】
所定の導電性をもつ前記材料が導電性であることを特徴とする請求項16〜17に記載の方法。
【請求項22】
所定の導電性をもつ前記材料が非導電性であることを特徴とする請求項16〜17に記載の方法。
【請求項23】
さらにオーム接点を形成する工程を有することを特徴とする請求項13〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記素子が、サイズが約1μm未満の物体を掴みこれを能動的にリリースできることを特徴とする請求項14および17に記載の方法。
【請求項25】
前記グリップ作用先端部の前記厚さを、掴みリリースすべき前記物体に匹敵するレベルまで薄くしたことを特徴とする請求項14および17に記載の方法。
【請求項26】
nmスケールサイズの物体またはμmスケールサイズの物体を操作する素子を製造する方法であって、この素子が構造要素を有し、これら構造要素が、前記物体を掴むグリップ作用アーム、前記物体をグリップ作用アームから能動的にリリースするリリースプランジャー、および該グリップ作用アームおよび該リリースプランジャーに接続され、該グリップ作用アームおよび該リリースプランジャーを作動させて前記物体を掴み、そして該グリップ作用アームから前記物体を能動的にリリースするマイクロアクチュエーション手段を有するものであり、シリコン担持絶縁体ウェーハーをその一つの側からパターンエッチングすることを特徴とする前記方法。
【請求項27】
nmスケールサイズの物体またはμmスケールサイズの物体を操作する素子を製造する方法であって、前記素子が高アスペクト比構造体および低アスペクト比構造体からなり、そして以下の工程を有することを特徴とする前記方法:
(a)上面側および底面側を有し、それぞれが好適なエッチング選択性を有する材料からなる上部層、中間層および底部層からなるウェーハーを用意する工程、
(b)前記素子に対応する前記上部層の目的の最終パターンに前記上部層をパターンエッチングする工程、
(c)前記上部層にフォトレジストマスクを設層し、前記素子の高アスペクト比構造体に対応する中間層の目的の最終パターンにこのマスクをパターニングする工程、
(d)前記上面側から前記中間層の前記露出領域を前記底部層までエッチングする工程、
(e)前記上面側から前記上部層および前記底部層の前記露出領域をエッチングする工程、および
(f)前記上面側から前記中間層の前記露出領域をエッチングして、前記素子の低アスペクト比構造体を形成することを特徴とする工程。
【請求項28】
前記高アスペクト比構造体が、前記物体を掴むグリップ作用アーム、グリップ作用アームから前記物体を能動的にリリースするリリースプランジャー、および前記グリップ作用アームおよび前記リリースプランジャーに接続され、前記グリップ作用アームおよび前記リリースプランジャーを作動させて前記物体を掴み、そして前記グリップ作用アームから前記物体を能動的にリリースするマイクロアクチュエーション手段を有し、前記低アスペクト比構造体が前記グリップ作用アームのグリップ作用先端部を有することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項29】
前記物体がnmスケールサイズの物体である請求項28に記載の方法。
【請求項30】
nmスケールサイズの物体またはμmスケールサイズの物体を操作できる素子を使用して物体を掴み、これを目的のターゲット領域に置く方法であって、前記素子が前記物体の周辺で開閉するグリップ作用アーム、前記物体を前記グリップ作用アームから能動的にリリースするリリースプランジャー、および前記グリップ作用アームおよび前記リリースプランジャーに接続され、前記グリップ作用アームおよびリリースプランジャーを作動させるマイクロアクチュエーション手段を有するものであり、そして以下の工程を有することを特徴とする上記方法:
(a)掴むべき物体の周囲に前記グリップ作用アームを締める工程、
(b)前記素子を移動させて前記物体を持ち上げ、前記物体を目的のターゲット領域に移す工程、
(c)前記グリップ作用アームを開く工程、および
(d)前記リリースプランジャーを作動させて、前記グリップ作用アームのうち一つのアームに密着力によって密着されている前記物体を能動的にリリースし、前記物体を目的のターゲット領域に置くことを特徴とする工程。
【請求項31】
前記マイクロアクチュエーション手段をそれぞれ独立して前記グリップ作用アームおよび前記リリースプランジャーに接続することによって、前記物体が取り付けられた前記グリップ作用アームと前記リリースプランジャーとを柔軟にアラインメントできることを特徴とする請求項30に記載の物体を掴みこれを目的のターゲット領域に置く方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7(a)】
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【図7(b)】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−517903(P2012−517903A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549401(P2011−549401)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【国際出願番号】PCT/CA2009/000181
【国際公開番号】WO2010/094102
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(511198793)ザ ガバニング カウンシル オブ ザ ユニヴァーシティー オブ トロント (1)
【氏名又は名称原語表記】The Governing Council of the University of Toronto
【住所又は居所原語表記】Simcoe Hall,Room 133 S,27 King’s Street College Circle,Toronto,ON M5S 1A1 Canada
【Fターム(参考)】