説明

すべり軸受およびこれを備えた建設機械

【課題】長期に亘って優れた潤滑性能を維持できると共に、優れた強度を発揮できる新規なすべり軸受およびこれを備えた建設機械の提供。
【解決手段】少なくともブッシュ10と軸部20とを有するすべり軸受であって、前記軸部20に、前記軸部20とブッシュ10との摺動面に外部からグリースGを供給する給脂通路70を設け、前記ブッシュ10を多孔質の金属焼結体で形成すると共に、そのブッシュ10の摺動面に分解触媒Sを付着させる。これによって、軸部20とブッシュ10との摺動面に外部から給脂通路70を介してグリースGを容易に供給できると共に、供給されたグリースGが分解触媒70によって基油が分離されてそのままブッシュ10にしみ込んでその空隙C内に保持されるため、潤滑油切れがなくなり長期に亘って優れた潤滑性能と強度を維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種機械一般に用いられるすべり軸受に係り、特に油圧ショベルなどに代表される建設機械のすべり軸受のように、高面圧、低摺動で潤滑条件が厳しい箇所に適したすべり軸受およびこれを備えた建設機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベルなどの建設機械には、高面圧、低摺動条件下で使用されるすべり軸受が多数設けられている。例えば、図5に示すように従来の油圧ショベル200は、アーム210の先端にバケット220が回動自在に連結された構造となっており、それぞれ複数の油圧シリンダ230によって駆動される。そして、このアーム210とバケット220の連結部および油圧シリンダ230の端部などは、それぞれすべり軸受300を介して回動自在に軸支されている。
【0003】
このような部位に使用されるすべり軸受300は、掘削作業時には、そのすべり軸受300を構成するブッシュと軸部との摺動面に極めて大きな面圧がかかると同時に両者は低速で摺動する関係となっているため、ブッシュと軸部との接触面(摺動面)は、潤滑条件が厳しく、潤滑油切れによる焼き付き、かじり、偏摩耗などを起こしやすい。
【0004】
そのため、従来では、例えば以下の特許文献1や2などに示すように軸部と摺動するブッシュとして、FeとCuを主成分とする多孔質の焼結合金ブッシュを用い、この焼結合金ブッシュに予め高粘度の潤滑油を含浸させておき、摺動時の圧力や摩擦熱によって含浸された潤滑油が摺動面にしみ出すようにすることによってその摺動面の潤滑油切れなどを回避する構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2832800号公報
【特許文献2】特許第5414416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、予め潤滑油を含浸させた焼結合金ブッシュを用いる構造の場合、含浸された潤滑油には限りがあるため、油切れを起こす前に潤滑油を含浸させた新たな焼結合金ブッシュと頻繁に交換しなければならない。そのため、焼結合金ブッシュの空隙(気孔)率を高くして潤滑油の含浸量を大きくすることも考えられるが、そうするとブッシュの強度が著しく低下してしまい、破損を招く可能性が高くなる。さらに、予めブッシュに潤滑油を含浸させるための作業が必要になる上に、含浸させた潤滑油が装着時などに周囲に飛散してしまうことがあり、ハンドリングが難しい。
【0007】
そこで、本発明はこれらの課題を解決するために案出されたものであり、その目的は、ブッシュの交換作業や油含浸作業などを行わなくとも長期に亘って優れた潤滑性能を維持できると共に、優れた強度を発揮できる新規なすべり軸受およびこれを備えた建設機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために第1の発明は、
少なくともブッシュとこのブッシュの軸孔に挿入されて互いに摺動する軸部とを有するすべり軸受であって、前記軸部に、前記軸部とブッシュとの摺動面に外部からグリースを供給する給脂通路を設けると共に、前記ブッシュを多孔質の金属焼結体で形成し、当該ブッシュの摺動面に前記グリースを分解して基油を分離する分解触媒を備えたことを特徴とするすべり軸受である。
【0009】
このような構成によれば、外部から給脂通路を介して軸部とブッシュとの摺動面に潤滑剤となるグリースを供給できると共に、供給されたグリースがそのまま多孔質の金属焼結体からなるブッシュ内にしみ込んでその空隙に保持されるようになる。また、ブッシュの摺動面に存在する分解触媒によって、その摺動面に供給されたグリースが分解されてグリース中から基油(ベースオイル)が分離され、この基油がその摺動面からブッシュ内にしみ込んでその空隙に保持されるようになる。
【0010】
これによって、ブッシュの交換作業や油含浸作業などを行わなくとも潤滑油切れがなくなり、長期に亘って優れた潤滑性能を維持できる。また、含油量を増やすためにブッシュとなる金属焼結体の空隙(気孔)率を高くする必要もなくなるため、優れた強度を発揮できる。さらに、予めブッシュに潤滑油を含浸させておく必要がなくなるため、装着時などに潤滑油が周囲に飛散してしまうことがなくなり、ハンドリングが容易になる。ここで、本発明で用いるグリースは、分解触媒によって増稠剤である石けん基を分解してそのグリース中から基油が分離できるように、少なくとも基油と増稠剤である石けん基を含むものであることが望ましい。
【0011】
また、第2の発明は、
第1の発明において、前記ブッシュは、空隙率が2〜10Vol%の多孔質の金属焼結体であることを特徴とするすべり軸受である。
このような構成によれば、軸部と摺動するブッシュの空隙率が従来の焼結体よりも低くなるため、従来よりも優れた強度を発揮することができる。ここで、ブッシュの空隙(気孔)率を2〜10Vol%と規定したのは、空隙率が10Vol%を越えると強度が大きく低下し、反対に2Vol%未満では、潤滑剤の含浸容量が極端に少なくなって十分な潤滑性能を発揮できないからである。
【0012】
第3の発明は、
第1または第2の発明において、前記ブッシュの摺動面には、油吸着性を有する無機微粉体が付着していることを特徴とするすべり軸受である。
このような構成によれば、ブッシュの摺動面に供給されたグリース、またはそのグリースから分離した基油が油吸着性を有する無機微粉体によってブッシュ側に吸着されるため、効果的にブッシュ内へしみ込んでその空隙内に保持されやすくなる。
【0013】
第4の発明は、
第3の発明において、前記無機微粉体は、セラミック粒子であることを特徴とするすべり軸受である。
このように前記ブッシュの摺動面に付着させる無機微粉体として高硬度材料であるセラミック粒子を用いれば、さらにその摺動面の耐摩耗性を向上することができる。
【0014】
第5の発明は、
第3の発明において、前記無機微粉体は、硫黄化合物粒子であることを特徴とするすべり軸受である。
このように前記ブッシュの摺動面に付着させる無機微粉体として硫黄化合物粒子を用いれば、さらにその摺動面の摺動性(潤滑性)を向上することができる。
【0015】
第6の発明は、
第3の発明において、前記無機微粉体は、セラミック粒子と硫黄化合物粒子との複合物であることを特徴とするすべり軸受である。
このように前記ブッシュの摺動面に付着させる無機微粉体としてセラミック粒子と硫黄化合物粒子との複合物を用いれば、さらにその摺動面の耐摩耗性と摺動性(潤滑性)を向上することができる。
【0016】
第7の発明は、
第3乃至6の発明において、前記無機微粉体をバインダーで前記ブッシュの摺動面に付着したことを特徴とするすべり軸受である。
このような構成によれば、前記無機微粉体をブッシュの摺動面に確実に付着させることができると共に、バインダー自体が基油を吸収して保持する効果も得られる。
【0017】
第8の発明は、
面圧が50MPa以上、摺動速度が3.0m/min以下の高面圧低摺動速度用すべり軸受を備えた建設機械であって、前記すべり軸受に、前記のいずれかのすべり軸受を用いたことを特徴とする建設機械である。
このように高面圧、低摺動速度といった極めて潤滑条件が悪い箇所のすべり軸受として前記いずれかのすべり軸受を用いることによって、当該部分の信頼性が高く、高寿命の建設機械を提供できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ブッシュと摺動する軸部に、ブッシュの摺動面と連通する給脂通路を設けたため、この摺動面に外部からグリースを自在に供給できる。また、ブッシュを多孔質の金属焼結体で形成すると共に、そのブッシュの摺動面に分解触媒を備えたため、その摺動面に供給されたグリースがその分解触媒によって分解されて基油(ベースオイル)が分離され、この基油がその摺動面からブッシュ内に容易にしみ込んでその空隙に保持されるようになる。これにより、ブッシュの交換作業や潤滑油含浸作業などを行わなくとも長期に亘って優れた潤滑性能を維持できる。また、潤滑油を保持するための金属焼結体の空隙率を低くできるため、優れた強度を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るすべり軸受100の実施の一形態を示す縦断面図である。
【図2】図1中A部を示す部分拡大概念図である。
【図3】図2中A部を示す部分拡大概念図である。
【図4】本発明に係るすべり軸受100の他の実施の形態を示す縦断面図である。
【図5】すべり軸受300(100)を適用した建設機械(油圧ショベル)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明に係るすべり軸受100の実施の一形態を示す縦断面図である。図中符号10は、両端が開口した円筒状のブッシュであり、このブッシュ10の軸孔には、これを貫通するように円柱状の軸部20が回転自在に挿入されている。そして、このブッシュ10の内面と軸部20の外面とが接してそれぞれ高面圧(例えば数MPa〜数十MPa)下で互いに低速度(例えば3.0m/min以下)で摺動し合う摺動面となっている。
【0022】
このブッシュ10はさらにボス30の内部に嵌着されていると共に、このボス30の内部であって、ブッシュ10の両端面には、それぞれダストシール40,40が圧入されており、ゴミなどの異物の侵入を阻止している。また、このボス30の両端面にはブラケット50,51が設けられており、それぞれの隙間にはシム52,52が介在している。そして、この隙間の上端の外部にそれぞれO−リング53,53が装着されている。なお、ボス30とブッシュ10は当業者に周知の任意の方法、例えば焼き嵌めまたは冷却嵌めなどのような収縮嵌めなどにより相互に嵌着固定させることができる。
【0023】
軸部20は、この両端のブラケット50,51を貫通するように位置しており、その一端が一方のブラケット51を径方向に貫通する回転係止ボルト60によって回転不能に係止されている。また、この軸部20内には、その一端面側から側部に亘って貫通する給脂通路70が形成されており、この給脂通路70内にはグリースGが充填されている。また、この給脂通路70の一端にはグリスニップル80が螺着されており、このグリスニップル80によって給脂通路70内が封止されると共に、これを取り外すことで外部から給脂通路70内へグリースGを容易に供給可能となっている。この給脂通路70内に充填されたグリースGは、その出口から軸部20とブッシュ10との摺動面側に達し、その摺動面を潤滑するように作用する。
【0024】
そして、このブッシュ10は、鉄(Fe)成分が90wt%以上、空隙(気孔)率が2〜10Vol%である多孔質の金属焼結体から形成されている。ここで、このような条件のブッシュ10は当業者に周知の任意の方法によって容易に製作することができる。すなわち、原料となる90wt%以上の鉄粉末と10wt%未満の銅などの合金粉末を円筒状の型に入れて集合させ、その集合体を鉄粉末の融点よりも低い温度で所定時間加熱することによって容易に得ることができる。また、その空隙率は使用する金属粉の粒径などを調整することによって容易に制御することができる。内部の空隙(気孔)は表面から相互に連通した状態であることが望ましい。
【0025】
また、さらに図2に示すように、このブッシュ10の摺動面には、グリースGから基油(ベースオイル)を分離するための粒子状をした分解触媒(接触還元触媒)Sが付着して存在している。ここで、分解触媒Sとしては、グリースG中の増稠剤である石けん基を分解できるものであれば特に限定されるものではなく、例えばプラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)などの公知の接触還元触媒を用いることができる。従って、本発明で用いるグリースGは、これら分解触媒(接触還元触媒)Sによって分解される増稠剤として石けん基を有し、この石けん基が分解されることによって基油が分離可能なものが用いられる。増稠剤として石けん基を有する主なグリースGとしては、例えばカルシウム石けん基グリース、カルシウム複合石けん基グリース、ナトリウム石けん基グリース、アルミニウム石けん基グリース、リチウム石けん基グリースなどがある。
【0026】
このような構成をした本発明に係るすべり軸受100にあっては、外部(軸部20の端部)から給脂通路70を介して軸部20とブッシュ10との摺動面にグリースGを容易に供給できると共に、図2に示すように、摺動面に供給されたグリースGが、そのまま金属焼結体からなるブッシュ10の表面(摺動面)からその内部にしみ込んでその空隙C内に含浸され、保持されるようになる。そして、この空隙C内に含浸されたグリースGが摩擦熱などによって摺動面全体にしみ出してきてブッシュ10の摺動面と軸部20の摺動面との間に薄い油膜を形成することでこれら摺動面同士の摩擦を低減するように作用する。
【0027】
また、さらに前述したようにこのブッシュ10の摺動面には、プラチナなどの粒子状の分解触媒(接触還元触媒)Sが付着しているため、ブッシュ10の摺動面に供給されたグリースGの一部がこの分解触媒(接触還元触媒)Sと接触することにより増稠剤である石けん基が分解される。これによってグリースGから粘性の低い基油が(ベースオイル)が分離してその摺動面から多孔質のブッシュ10内に容易にしみ込んでその内部に保持されるようになる。
【0028】
すなわち、潤滑剤として用いられるグリースGに含まれている基油は、増稠剤である石けん基の存在により通常は分離され難くなっているが、そのグリースGがプラチナなどの分解触媒Sと接触すると石けん基が分解されて基油が分離され、これがブッシュ10内の空隙Cに余裕がある限り、継続的にその内部へしみ込んでくるようになるからである。
【0029】
そして、この基油は、増稠剤を含む高粘度のグリースGに比べて粘度が低いため、その摺動面から多孔質のブッシュ10内にしみ込みやすく、さらに毛細管現象により、内部の空隙Cを介してより広くかつ深い層まで達して保持されやすくなる。この結果、ブッシュ10内の潤滑剤Gの含浸量およびしみ出し量が増えるため、より優れた潤滑性能を発揮することができる。従って、このブッシュ10内に最初にしみ込んだ基油が摺動などにより消費しても、給脂通路70から潤滑剤Gが供給される続ける間は継続的にブッシュ10に基油を供給して保持することが可能となる。
【0030】
これによって、従来のようにブッシュ10の交換作業などを行わなくとも潤滑油切れがなくなり、長期に亘って優れた潤滑性能を維持できる。つまり、給脂通路70内に充填された潤滑剤Gが不足してきた場合には、グリスニップル80を開いてその部分から給脂通路70内に新たなグリースGを注入すれば常に十分なグリースGを保持することができる。また、この給脂通路70内に充填されたグリースGは徐々に消費されて減少するため、定期的に補充する必要があるが、その補充作業はグリースGを注入するだけで済むため、簡単に作業を終えることができる。
【0031】
さらに、このように給脂通路70から軸部20とブッシュ10との摺動面にグリースGを供給する方式であるため、従来のようにブッシュ10に予め潤滑油を含浸させておく必要がない。このため、潤滑油の含浸工程などが不要になると共に、ブッシュ10の装着時などにグリースが周囲に飛散してしまうことがなくなり、ハンドリングが容易になる。
【0032】
また、このブッシュ10は、鉄(Fe)成分が90wt%以上、かつ空隙(気孔)率が2〜10Vol%の多孔質の金属焼結体であり、従来のものよりも鉄成分が高く、かつ空隙率も低くなっているため、優れた強度を発揮でき、高い圧力が加わっても簡単に破損するようなことがない。ここで、金属焼結体のFe成分を90wt%以上としたのは、90wt%以上であれば一般に高面圧用ブッシュとして十分な強度が得られるからである。また、空隙(気孔)率を2〜10Vol%としたのは、10Vol%を越えると空隙が多すぎて金属焼結体の強度が大きく低下し、反対に2Vol%未満では、金属焼結体内の潤滑剤の含浸量が極端に少なくなってしまい、十分な潤滑性能が発揮できないからである。
【0033】
また、このブッシュ10を製作するに当たっては、さらに公知の表面硬化処理を行えば、その摺動面の耐摩耗性を向上させることができる。すなわち、前記のような公知の製法によって鉄を主成分とする金属焼結体(ブッシュ10)を形成した後、その金属焼結体に浸炭、窒化および高周波焼入れし、その後、その表面(摺動面)に化成(例えば、リン酸亜鉛、リン酸マンガンなど)またはガス浸硫処理法によって1〜3mm、好ましくは2mm程度の浸炭硬化層を形成させることでブッシュ10の耐摩耗性を向上させることができる。また、軸部20に対しても同様な表面改質処理を行えば、その摺動面と潤滑剤Gとのぬれ性が改善され、潤滑効果および摺動特性が向上する。
【0034】
また、このブッシュ10を構成する金属焼結体に、軸部20を構成する鉄鋼材よりも硬度が高いセラミック粒子や硫黄化合物粒子を摩耗防止や摺動特性向上のための材料として1〜3wt%含有させれば、その耐摩耗性をさらに大幅に向上することができる。
【0035】
ここで、このブッシュ10を構成する金属焼結体に含有可能なセラミック粒子としては、ブッシュの耐摩耗性を向上できるものであれば特に限定されるものでなく、例えばジルコニア(ZrO)やアルミナ(Al)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)などを用いることができる。また、硫黄化合物粒子も特に限定されるものでなく、例えば硫化銅(CuS)などを用いることができる。また、これらセラミック粒子や硫黄化合物粒子の含有量は1〜3wt%が望ましい。1wt%未満では、十分な耐摩耗性や摺動特性を発揮できず、反対に3wt%を越えると、摺動相手材となる軸部20への攻撃性が強くなり、相手材を過剰に摩耗させたり摺動特性が低下して摩耗を促進する恐れがあるためである。また、粒子のサイズも特に限定されるものでなく、数μm〜数百m程度が望ましい。また、複数種類の粒子を複合または混合したものでも良く、またその複合比または混合比も特に限定されるものでない。なお、このようにブッシュ10に、軸部20を構成する鉄鋼材よりも硬度が高いセラミック粒子などを含有させると、軸部20の摩耗を促進するように考えられるが、前記のように含有量が微量(1〜3wt%)であるため、特に問題とはならない。
【0036】
また、図3に示すように、このブッシュ10を構成する金属焼結体の摺動面に、油吸着性を有する無機微粉体Pを図示しないバインダーによって付着(塗布)しておけば、ブッシュ10の摺動面に供給されたグリースGが油吸着性を有する無機微粉体Pによってブッシュ10側になじんで吸着されるため、効果的にブッシュ10内へしみ込んでその空隙C内に保持されやすくなる。このため、図示するようにこの無機微粉体Pはブッシュ10の表面(摺動面)だけでなく、ブッシュ10内の空隙C内にも存在していることが望ましいが、最低限ブッシュ10の表面(摺動面)に存在するだけであっても良い。ここで、バインダーとしては、それ自体が基油を吸収、保持する効果を有するものが望ましく、具体的にはヒドロキシステアリン酸塩などを用いることができる。なお、このバインダーは、無機微粉体Pを付着させるだけでなく、これら無機微粉体Pと共に前記分解触媒(粒子)Sを付着させるために用いてもよい。
【0037】
また、さらに図4に示すように、軸部20に形成した給脂通路70を摺動面側に向かって複数に分岐させ、それら複数の分岐通路の出口を等間隔に形成すれば、摺動面側に対してグリースGを均一かつより効果的に供給することができる。
【0038】
そして、このような構成をした本発明のすべり軸受100を、例えば図5に示すように、面圧が50MPa以上、摺動速度が3.0m/min以下といった高面圧・低摺動で潤滑条件が厳しい建設機械(油圧ショベル)200のすべり軸受100として用いることによって、当該部分の信頼性が高く、かつ高寿命の建設機械(油圧ショベル)を提供することができる。
【0039】
なお、本発明のすべり軸受100を図5に示すような建設機械200などに組み付ける際には、グリースGを含浸させていない状態のブッシュ10を用い、組み付け後に軸部20の給脂通路70内にグリースGを充填するようにすれば、ブッシュ10装着時における油飛散や油含浸工程などを回避できるが、予めグリースGをその摺動面だけ、あるいは全体に充分に含浸させた状態のブッシュ10を用いて組み付けるようにしても良い。後者の方法によれば、最初に油含浸工程が必要となるが、組み付け後におけるブッシュ10へのグリースGのしみ込み時間が不要となるため、直ちに運転が可能となるという長所がある。また、後者の方法であっても組み付け後は継続的に新しいグリースGが供給されるため、含浸油の消費による油切れなどを回避できるといった効果は同じである。
【0040】
また、ブッシュ10の摺動面に存在する分解触媒Sは前述したようにバインダーによってその摺動面に付着させる他に、金属焼結体を形成する際に同時にその表面に焼結させて一体的に設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
10…ブッシュ(金属焼結体)
20…軸部
30…ボス
40…ダストシール
50、51…ブラケット
52…シム
53…O−リング
60…回転係止ボルト
70…給脂通路
80…グリスニップル
100…すべり軸受
200…建設機械(油圧ショベル)
210…アーム
220…バケット
230…油圧シリンダ
C…空隙(気孔)
G…グリース
P…無機微粉体
S…分解触媒(接触還元触媒)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともブッシュとこのブッシュの軸孔に挿入されて互いに摺動する軸部とを有するすべり軸受であって、
前記軸部に、前記軸部とブッシュとの摺動面に外部からグリースを供給する給脂通路を設けると共に、前記ブッシュを多孔質の金属焼結体で形成し、当該ブッシュの摺動面に前記グリースを分解して基油を分離する分解触媒を備えたことを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
請求項1に記載のすべり軸受において、
前記ブッシュは、空隙率が2〜10Vol%の多孔質の金属焼結体であることを特徴とするすべり軸受。
【請求項3】
請求項1または2に記載のすべり軸受において、
前記ブッシュの摺動面には、油吸着性を有する無機微粉体が付着していることを特徴とするすべり軸受。
【請求項4】
請求項3に記載のすべり軸受において、
前記無機微粉体は、セラミック粒子であることを特徴とするすべり軸受。
【請求項5】
請求項3に記載のすべり軸受において、
前記無機微粉体は、硫黄化合物粒子であることを特徴とするすべり軸受。
【請求項6】
請求項3に記載のすべり軸受において、
前記無機微粉体は、セラミック粒子と硫黄化合物粒子との複合物であることを特徴とするすべり軸受。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれかに記載のすべり軸受において、
前記無機微粉体をバインダーで前記ブッシュの摺動面に付着したことを特徴とするすべり軸受。
【請求項8】
面圧が50MPa以上、摺動速度が3.0m/min以下の高面圧低摺動速度用すべり軸受を備えた建設機械であって、
前記すべり軸受に、前記請求項1乃至7のいずれかに記載のすべり軸受を用いたことを特徴とする建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−145138(P2012−145138A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2134(P2011−2134)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】