ねじ形状測定方法
【課題】一般的な三次元測定機を利用してねじ形状の各種特性値の測定を行うことができるねじ形状測定方法を提供すること。
【解決手段】測定すべきねじ形状を有するワークが装着される三次元測定機と、この三次元測定機に装着される倣いプローブと、この倣いプローブに装着されかつワークに接触される接触部を有するスタイラスとを用い、前記倣いプローブの倣い測定軸線と前記ねじ形状の中心軸線とを合わせる軸合わせ工程(処理ST4)と、前記スタイラスを前記ねじ形状に接触させつつ前記倣いプローブを前記倣い測定軸線に沿って移動させる倣い測定工程(処理ST5、ST8)と、前記倣い測定で得られた測定データから前記ねじ形状の各種特性値を演算する演算工程(処理ST7、ST9)と、を実行する。
【解決手段】測定すべきねじ形状を有するワークが装着される三次元測定機と、この三次元測定機に装着される倣いプローブと、この倣いプローブに装着されかつワークに接触される接触部を有するスタイラスとを用い、前記倣いプローブの倣い測定軸線と前記ねじ形状の中心軸線とを合わせる軸合わせ工程(処理ST4)と、前記スタイラスを前記ねじ形状に接触させつつ前記倣いプローブを前記倣い測定軸線に沿って移動させる倣い測定工程(処理ST5、ST8)と、前記倣い測定で得られた測定データから前記ねじ形状の各種特性値を演算する演算工程(処理ST7、ST9)と、を実行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ形状測定方法に関し、特に一般的な三次元測定機を利用して、ねじ形状の特性値を測定できるようにしたねじ形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物品等の表面の形状測定には三次元測定機が多用されている。
三次元測定機では、形状測定を行う物品等(ワーク)をテーブル上に載置しておき、このテーブルに対して三次元的に相対移動するプローブ先端のスタイラスをワーク表面に接触させる。そして、接触した点の三次元座標位置を読出すことを順次繰返すことで、ワーク表面の立体形状を精密に捉えることが可能である。
【0003】
このような三次元測定機においては、従来、一般的なワーク表面の形状測定の他、ワーク表面に形成された穴の内径や中心軸位置の測定なども行われている。
また、ワーク表面に形成されたねじ穴について、各々の中心軸位置の測定あるいは複数のねじ穴の軸間距離の測定も行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ねじ形状(ねじ穴=雌ねじ、ねじ軸=雄ねじ)については、中心軸位置の他に、ねじ形状の特性を規定する多様なパラメータ(特性値)が存在する。例えば、ねじピッチ、ねじ有効径、ねじ山角度、ねじ切り長さ等である。
これらのねじ形状の特性値を測定する技術としては、従来様々な測定方法が知られている。
【0005】
例えば、光学式の変位センサをねじ形状に対して軸方向に移動させ、ねじ山の輪郭を非接触で倣い測定することで、ねじピッチ、ねじ山高さ、ねじ径、ねじテーパー等を測定するものがある(例えば、特許文献2,3参照)。また、非接触でなくねじ形状の軸線方向の輪郭を接触計測し、更にねじ溝に沿った形状測定により、ねじ形状の精密測定を行う技術も知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
なお、ねじ軸の有効径を測定する技術としては、従来より三針測定法が知られている。これは、ねじ軸の片側に2本、反対側に1本の針を、それぞれねじ溝に収まるように配置し、各側の針を押えるようにマイクロメータスピンドルで挟み、既知の針径に基づいて既定の演算式からねじ有効径を算出するものである。このために、専用の三針ゲージ、三針用アダプター、三針測定台が開発されている。これら三針式の測定については、JIS B 0271に規定がある。
【0007】
【特許文献1】特開平6−341826号公報
【特許文献2】特開昭62−27607号公報
【特許文献3】特開平9−264719号公報
【特許文献4】特開昭55−113907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、ねじ形状の特性値に対する測定技術は種々あるものの、一般的な三次元測定機を用いた形状測定の一環としてのねじ形状の測定は行われていなかった。
これは、三次元測定機を利用してねじ形状の各種測定を行うためには、既存のプローブ、スタイラスといったハードウェアが適していないとともに、動作プログラムにおいてもねじ形状の各種測定を行うための測定コマンドや測定アルゴリズムが準備されていなかったことによる。
しかし、製品製造工程におけるインライン測定に三次元測定機の導入が進んでいることもあり、ねじ形状の各種測定も三次元測定機で自動的に行えるようにすることが要望されていた。
【0009】
本発明の目的は、三次元測定機を利用してねじ形状の各種特性値の測定を行えるねじ形状測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(基本構成)
本発明は、三次元測定機を利用してねじ形状の測定を行うねじ形状測定方法であって、測定すべきねじ形状を有するワークが装着される三次元測定機と、この三次元測定機に装着される倣いプローブと、この倣いプローブに装着されかつワークに接触される接触部を有するスタイラスとを用い、前記倣いプローブの倣い測定軸線と前記ねじ形状の中心軸線とを合わせる軸合わせ工程と、前記スタイラスを前記ねじ形状に接触させつつ前記倣いプローブを前記倣い測定軸線に沿って移動させる倣い測定工程と、前記倣い測定で得られた測定データから前記ねじ形状の各種特性値を演算する演算工程と、を含み、前記倣い測定工程では側方に分岐した接触部を有する分岐型スタイラスを用い、前記演算工程は、前記分岐した接触部を接触させた倣い測定による測定データからねじ部の測定輪郭形状を取出し、この測定輪郭形状においてねじ斜面部分を直線で近似することで近似輪郭形状を取出し、この輪郭形状に従来の三針法の針の代替となる仮想円を接触させ、従来の三針法によりねじ形状の有効径を算出する有効径算出処理を含むことを特徴とする。
【0011】
(基本構成の要素)
測定対象のねじ形状としては、ねじ穴(雌ねじ)およびねじ軸(雄ねじ)の何れであってもよい。また、通常のねじ穴やねじ軸の他、半周分の部分ねじ等を対象としてもよい。
軸合わせ工程でのねじ形状の中心軸線は、ワークの設計データを参照してもよく、他の測定動作により仮測定を行ってもよい。
各特性値の演算にあたっては、倣い測定工程と並行する形で演算工程を行ってもよく、あるいはある特性値について倣い測定工程を行った後その特性値の演算工程を行い、次に別の特性値について倣い測定工程を行った後その特性値の演算工程を行う等としてもよい。
【0012】
倣いプローブとしては、装着したスタイラスを測定対象表面に当接させつつ滑らせてこの表面の輪郭形状を測定する、いわゆる倣い測定を行うために用いられている既存の倣い測定用のプローブを用いればよい。
スタイラスとしては、先端に球状の接触部を有する既存のものを用いればよい。この際、一つの接触部を有するものに限らず、先端が枝状に分岐して複数の接触部を有するもの、例えば十字型スタイラスなどを用いてもよい。
【0013】
三次元測定機としては、ワークを載置するテーブルとプローブ装着部分とが三次元で相対移動する既存のものが利用できる。
三次元測定機に各工程を実行させるために、制御手段として、三次元測定機の動作制御およびデータ処理を行うために用いられているホストコンピュータ、ホストコンピュータと三次元測定機の間に介在してホストコンピュータからの動作指令に基づいて三次元測定機を作動させるコントローラ等、三次元測定機の制御に用いられている既存の装置を用いればよい。
各工程を実行させるための動作プログラムは、外部で作成して磁気テープ、ディスク等の既存の情報記録媒体によって、またはオンライン通信で制御手段にロードされるようにすればよい。
【0014】
(基本構成の作用効果)
このような本発明においては、三次元測定機ないしスタイラスにより通常のワーク表面の形状測定を行うことができる。つまり、倣いプローブ、スタイラスに至るプローブ群は既存の構成であり、通常のワーク表面の形状測定動作を妨げるものではない。一方、ワークに形成されたねじ形状についても、同じ装置のままねじ形状の各種特性値の測定を行うことができる。
【0015】
すなわち、軸合わせ工程により、倣いプローブがワーク表面のねじ形状に対して、その軸線方向に倣い方向が合わせられた所定の姿勢でセットされる。そして、倣い測定工程により、ねじ形状が倣い測定される。さらに、演算工程により、倣い測定によるデータから、ねじ形状のねじピッチ、ねじ山角度、ねじ切り深さ等の特性を演算することができる。
【0016】
従って、三次元測定機を用いて、通常のワーク表面の形状測定から、従来は別途作業が必要だったねじ形状の測定までをシームレスに実行することができ、製造ライン等でのインライン測定を行うことも可能となる。
【0017】
(軸合わせ工程に関して)
本発明において、前記軸合わせ工程の前に、前記三次元測定機に設定される機械座標系と前記ワークに設定されるワーク座標系と前記倣いプローブおよびスタイラスに設定されるプローブ座標系との各々の間の相対関係を合わせる座標合わせ工程を行うことが望ましい。
【0018】
機械座標系とは、三次元測定機のテーブル等の上に設定される座標系であり、三次元測定機はこの座標系に基づいて動作する。適宜交換されるプローブ等の座標系をこの機械座標系に校正するために、テーブル上には例えば球状の校正ポイント等が設置される。このような校正ポイントに複数方向から接触することで、座標系の校正を行うことができる。
【0019】
ワーク座標系とは、ワークに設定される座標系であり、一般に設計データはこのワーク固有の座標系をとることになる。ワークを三次元測定機のテーブルに載置して測定を行う場合、ワーク各部の位置が機械座標系で表現される必要がある。ここで、ワークのXYZ各軸が三次元測定機の機械座標系の各軸方向と一致しているなら、ワーク座標原点の機械座標値を単純オフセットとして加減算すればよい。一方、ワークのXYZ各軸が機械座標系の方向に対して傾いているなら、回転成分を含めた変換が必要になるが、何れにせよ既存の演算処理で統合することができる。
【0020】
プローブ座標系は、三次元測定機のプローブ取付け部の基準位置等から相対指定される接触部の位置等を表すものであり、機械座標系における現在のプローブ座標系の原点位置とプローブ座標系の接触部座標値とから、機械座標系における接触部の座標値が得られる。なお、ワーク座標系の場合と同様、各軸方向が一致している場合は単純な加減算で済むが、傾いている場合や軸周りに回転している場合には角度を含めた演算が必要になる。
【0021】
更に、軸合わせ工程については以下のことが言える。
まず、前記倣いプローブの倣い測定軸線とは、倣いプローブが倣い測定を行う際の倣い移動方向である。この倣い測定軸線は、回転プローブヘッドの回転角度と傾き角度、および三次元測定機の移動位置に基づいて特定することができる。すなわち、三次元測定機の機械座標系に対して、プローブ座標系の初期状態が確認できていれば、その後のスタイラスの位置および向きは一意に決定できる。
【0022】
一方、前記ねじ形状の中心軸線は、ワークの設計データに対応するワーク座標系と三次元測定機の機械座標系とから特定することができる。すなわち、三次元測定機の機械座標系におけるワークの固定状態によりワーク座標系と機械座標系のオフセット(3軸の変位および傾き)が決定されるが、このオフセットとワークの設計データ上のねじ形状の中心軸線(位置および方向)とを合わせれば、機械座標系でのねじ形状の中心軸線が算出できる。
これらにより、各々の軸線を機械座標系に変換すれば、各々を合わせる操作は既存の技術により適宜行うことができる。
【0023】
なお、ねじ形状の中心軸線の深さ0の位置に、ねじ形状の基準面を想定することができる。この際、ねじ形状の中心軸線はねじ形状の基準面法線となる。
通常、ねじ形状はワークの表面に垂直に彫込まれるので、ねじ形状の基準面はワークの表面に平行となり、ねじ形状の深さ0となる開口面つまりワーク表面が基準面となる。従って、ワークのねじ形状形成部位の表面に垂直な法線方向がねじ形状の軸線となっていることが一般的であり、ワーク表面の形状からねじ形状の軸線方向を決定することもできる。但し、ワーク表面から傾いたねじ形状については、基準面はワーク表面に一致せず、設計データ等から軸線方向を割出すことが望ましい。
【0024】
(倣い測定工程に関して)
本発明において、前記倣い測定工程は、前記ねじ形状の周方向の複数箇所について各々軸線に沿って倣い動作を行うことが望ましい。
倣い動作としては、次のような形態が選択できる。
【0025】
ねじ穴を対象にする場合、開口側から奥へ進む方式と、先に先端(底部)まで進み開口まで戻る方式とが採用できる。
具体的に、前者としては、先ずワークのねじ穴開口周辺にスタイラスを当接させ、この状態でねじ穴内側に移動させ、ねじ穴内へ入る。そして、内周面のねじ形状を倣いながらねじ穴の先端まで倣い移動させる。後者としては、先ずワークのねじ穴の先端(底面)へ中心軸線に沿ってスタイラスを挿入し、外側に寄って内周面のねじ形状に接触させる。そして、中心軸線に沿って開口まで倣い移動させる。
【0026】
ねじ軸を対象にする場合、根元側から先端に向けて進む方式と、先に先端まで進み根元まで戻る方式とが採用できる。
具体的に、前者としては、先ずねじ軸の根元周辺のワーク表面にスタイラスを当接させ、内側に寄ってねじ形状に接触させる。そして、ねじ軸に沿って先端まで倣い移動させる。
【0027】
一方、後者としては、先ずねじ軸の先端の外周近傍にスタイラスを配置し、外周面に接触させる。そして、ねじ軸に沿って根元まで倣い移動させる。
倣い動作する複数箇所としては、例えば90度間隔で3〜4カ所が適当といえる。3カ所より少ないと演算が難しく、4カ所より多いと工数が増加する。
【0028】
なお、前記倣い動作をねじ穴の底面に向けて行う場合、ねじ形状の不完全ねじ部が始まる位置で終了することが望ましい。
この際、前記完全ねじ部の終了は、倣い動作の間に検出されるねじ形状の輪郭データの変化が一定幅以下になった場合に終了と判定することが望ましい。
【0029】
ねじ軸の根元に向って倣い動作する場合には、ねじ形状の完全ねじ部の長さを予めワークの設計データを参照して記憶しておき、この長さ分移動した時点で減速等することが望ましい。
このようにすれば、ねじ穴底面やワーク表面に対するスタイラスの衝突等の障害を未然に回避できる。
【0030】
前述した演算工程について、以下のことが言える。
前記演算工程は、前記倣い測定による測定データのねじ部のねじ谷深さの変化またはねじピッチの変化から不完全ねじ部を判定する不完全ねじ部判定処理を含むことが望ましい。
【0031】
一般に、ねじ形状は、基部(ねじ穴の開口近傍、ねじ軸の根元)から続く完全ねじ部と、先端近傍に存在する不完全ねじ部とに区分できる。本発明で測定するねじ形状の特性値は、本来のねじ形状としてのものであるから、完全ねじ部を測定対象とし、不完全ねじ部の情報は含まれない方が望ましい。また、ねじ長は完全ねじ部の長さであるから、この値をとるためには不完全ねじ部の判別は必須となる。
【0032】
不完全ねじ部判定処理は、ねじ形状軸線方向に対するねじ部のねじ谷深さの変化またはねじピッチの変化から、予め求めた関数または数値表に基づいて近似を行うことで、前記不完全ねじ部の開始点を判定することが望ましい。
このようにすれば、連続するねじ形状に対しても比例計算等で完全ねじ部の境界を規定することができ、完全ねじ部の区間を確定することでねじ有効長さを測定することができる。
【0033】
前記演算工程は、前記倣い測定による測定データからねじ部の測定輪郭形状を取出し、この測定輪郭形状においてねじ斜面部分を直線で近似することで近似輪郭形状を取出し、この近似輪郭形状からねじピッチ、ねじ山角度、ねじ切り深さを判定する近似輪郭形状処理を含むことが望ましい。
このようにすれば、ねじピッチ、ねじ山角度、ねじ切り深さ等のねじ形状の各種特性値の測定を容易に行うことができる。
【0034】
前記演算工程は、前記倣い測定による測定データからねじ部の測定輪郭形状を取出し、この測定輪郭形状においてねじ斜面部分を直線で近似することで近似輪郭形状を取出し、この輪郭形状に従来の三針法の針の代替となる仮想円を接触させ、従来の三針法によりねじ形状の有効径を算出する有効径算出処理を含むことが望ましい。
このようにすれば、ねじ形状の有効径の測定を容易に行うことができる。
【0035】
(プローブに関して)
本発明において、前記倣いプローブは回転プローブヘッドを介して前記三次元測定機に装着され、前記軸合わせ工程では前記スタイラスの軸線が前記倣い軸線に合うように前記回転プローブヘッドを傾けることが望ましい。
【0036】
回転プローブヘッドとしては、基部が三次元測定機のプローブ装着部分に装着可能で、先端部に他のプローブが装着可能であるとともに、先端部が基部に対して任意の方向へ回転または回動できるようになった既存のものを用いればよい。通常、プローブ装着部分の装着軸線周りに回転可能であり、かつこの軸線に対して0度から90度まで傾斜可能な2自由度のものが用いられる。
【0037】
本発明において、前記倣い測定工程では側方に分岐した接触部を有する分岐型スタイラスを用いることが望ましい。
分岐型スタイラスとしては、例えば十字型に分岐した各先端に接触部を有する十字接触子などが利用できる。
【0038】
このようにすれば、ねじ形状内側の複数箇所を倣い測定する場合など、各測定個所に最寄の側の接触部を用いることで、スタイラスを測定個所に合わせて回転させる等の補助的な動作を省略できる。
このほか、ねじ軸の外周であれば通常の直線的な軸部の先端に球状の接触部が一個だけ付いた標準スタイラスも使用でき、先端がL字型に折れ曲った形状のスタイラスを用いてねじ穴内の測定が可能である。
【0039】
本発明において、前記分岐型スタイラスを用いて前記倣い測定工程を行うのに先立って、前記分岐型スタイラスの接触部が突出する方向が前記倣い測定で検出する輪郭変動の方向に一致するように姿勢を調整しておくことが望ましい。
このような操作は、前述の回転プローブヘッドを用いることで簡単に実行することができる。あるいは回転プローブヘッドがなくてもツールストッカからの掴み直しをすることで実現可能である。
このようにすれば、倣い測定に最適な姿勢での測定動作を実行することができる。
【0040】
この際、ツールストッカにおけるスタイラスは、三次元測定機に装着された際に常に各スタイラスの軸線方向が三次元測定機の軸線方向に対応した所定の姿勢となるように保持しておくことが望ましい。
【0041】
このようにすれば、特定の方向に分岐した接触部を有する分岐式のスタイラスを用いる場合に、接触部の突出側が三次元測定機の座標系から確実に識別でき、ねじ形状の特定の側を倣い測定する際に確実な対応をとることができる。
但し、このようにした場合でも、装着後に校正ポイント等による方向チェックと、回転プローブヘッド等による方向調整とを確実に行うことが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1には、本発明に基づきねじ形状の測定も行えるようにした三次元測定機10が示されている。
三次元測定機10は、三次元測定機本体11と、この三次元測定機本体11から必要な測定値を取り込んで、これを処理するためのホストシステム12とから構成されている。
【0043】
三次元測定機本体11は、次のように構成されている。
すなわち、除振台111の上には、定盤112(テーブル)がその上面をベース面として水平面と一致するように載置され、この定盤112の両側端から立設されたアーム支持体113,114の上端にX軸ガイド115が支持されている。
【0044】
アーム支持体113は、その下端がY軸ガイド116に沿ってY軸方向に移動可能に配置され、また、アーム支持体114は、その下端がエアーベアリングによって定盤112上にY軸方向に移動可能に支持されている。
【0045】
前記X軸ガイド115は、垂直方向に延びるZ軸ガイド117をX軸方向にガイドする。Z軸ガイド117には、Z軸アーム118がZ軸ガイド117に沿って移動するように設けられ、Z軸アーム118の下端に接触式のプローブ13が装着されている。
【0046】
プローブ13は、定盤112上に載置されたワークWに接触した際にホストシステム12へ接触検出信号を出力する既存のタッチトリガープローブあるいは接触状態で倣い動作することで輪郭形状を連続して出力する倣いプローブ等であり、接触時点のX,Y,Z軸座標値あるいは連続した倣い測定データがホストシステム12に送られて定義演算処理されるようになっている。
【0047】
なお、プローブ13は、後述するように回転プローブヘッドを介してZ軸アーム118に接続されるとともに、先端のスタイラスが適宜交換可能である。この際、交換したスタイラス毎の変動誤差を抑えるために、三次元測定機10はスタイラス交換のつど校正動作を行うようになっている。このために、定盤112の角隅部分には校正ポイント119が設置されている。
【0048】
校正ポイント119は、球状の先端を有し、その中心位置および半径は正確に計測済である。従って、スタイラス交換をした場合、この校正ポイント119の計測により、個々のスタイラスの誤差を算出してその分の補正を行うことができる。
これにより、三次元測定機10に規定される機械座標系と、プローブ13ないしスタイラスに設定されるプローブ座標系との座標合わせが行なわれるようになっている。
【0049】
ホストシステム12は、次のように構成されている。
すなわち、ホストシステム12は、ホストコンピュータ121と、モニタ122、プリンタ123およびキーボード124とを備えている。
ホストコンピュータ121は、プローブ13からの信号からワークWの形状データを演算する既存のソフトウェアプログラムを備え、これらを適宜実行して所定の演算処理を行うことができるものである。
【0050】
具体的には、プローブ13がタッチトリガープローブである場合、接触信号に基づいて三次元測定機本体11の現在位置座標値を読出し、プローブ13先端の接触部の座標位置を割出す。この値はプローブ13が接触したワークW表面の位置となる。
また、プローブ13が倣いプローブである場合、三次元測定機本体11に所定の倣い動作を実行させるとともに、プローブ13からの測定データを連続的にモニタし、輪郭形状として記録する。これによりワークWの特定部分の輪郭形状が測定できる。
【0051】
図2にはプローブ13が示されている。
前述したように、本実施例のプローブ13は、回転プローブヘッド131を介してZ軸アーム118に装着されている。また、前述のように、プローブ13としてはタッチトリガープローブあるいは倣いプローブが適宜選択される。
【0052】
回転プローブヘッド131は、回転軸132を中心にしてプローブ13が0度から90度まで傾斜するように回転可能である(図中A方向)。また、Z軸アーム118に対する連結軸133に対して、本体部分が360度回転自在である(図中B方向)。
プローブ13に装着されるスタイラスとしては、直線状の標準スタイラス134または四方に分岐を有する十字スタイラス135が適宜選択される。何れのスタイラスも、先端に球状の接触部136を備えている。
【0053】
前述したプローブ13およびスタイラス134,135は、それぞれホストコンピュータ121からの動作指令に基づいて適宜交換される。また、選択的に使用されるプローブ13およびスタイラス134,135は、三次元測定機本体11の移動範囲内に配置されたツールストッカに準備しておくことで自動交換可能となっている(図1では省略)。
【0054】
次に、三次元測定機10を用いて行われるねじ形状の測定について説明する。
図3には、本実施形態で測定するねじ形状の特性値が示されている。
図3において、ワークWの表面W1にはねじ穴WHが形成されており、その内周にはねじ形状WSが形成されている。ねじ形状WSは開口SOから奥へ完全ねじ部S1、不完全ねじ部S2、ドリル下穴部S3となっている。ここで、ドリル下穴の深さSM、完全ねじ部S1のねじ長SL、完全ねじ部S1のねじ有効径SD、ねじ形状WSの中心軸線S4の位置SPが測定すべき特性値となっている。
【0055】
これらの特性値を測定するために、本実施形態では図4、図5、図6に示す一連の処理を実行する。これらの処理は、ホストコンピュータ121で実行されるプログラムに基づく動作指令に従って三次元測定機本体11が動作することで実行される。
【0056】
はじめに、座標系の設定を行う(処理ST1)。
この処理では、通常使用しているタッチトリガープローブと標準スタイラス134を装着した状態で、前述した校正ポイント119による機械座標系とプローブ座標系との整合を行った後、ワークWの所定の表面部位を数点測定する。つまり、ワークWの表面部位は予め設計データに基づいて解っているが、ワークWの定盤112に対する載置状態に応じて各点の測定値は変化する。従って、ここで複数点の測定値から校正値を割出し、この後のワークW各部の測定値を補正するようにする。
【0057】
次に、ワークWのねじ形状WSの中心座標SP'の仮測定を行う(処理ST2)。
この処理では、既存のねじ測定マクロコマンド等を利用する。具体的には、前述した従来のねじ軸位置測定方法を利用する。この処理によりねじ形状WSの中心軸線S4の位置SP'が暫定的に測定される
【0058】
暫定的な中心軸線S4の位置SP'が得られたら、測定対象の特性値の一つであるドリル下穴の深さSMの測定を行う(処理ST3)。
この処理においては、先ずプローブ13をタッチトリガープローブから倣いプローブに交換する。但し、スタイラスは標準スタイラス134とする。交換したら校正ポイント119で校正をしておく。
【0059】
この状態で、プローブ13を移動させ、スタイラス134をねじ穴WH内に導入し、中心軸線S4に沿って降下させ、図7に示すように先端の接触部136を底部中心S5に接触させる。接触までの移動距離はワークWの設計データを参照して概略的に決定すればよい。
スタイラス134の接触部136が底部中心S5に接触した状態では、接触部136の半径r、ドリル下穴部S3の内径dとして、X=(d/2)tanθ-r/cosθがドリル下穴部S3下端から接触部136の中心までの距離となる。従って、中心軸線S4の方向の座標位置からXを引いたものがドリル下穴の深さSMとなる。
【0060】
次に、測定対象の特性値であるねじ形状WSの中心座標SPの本測定と有効径SDの測定を行うための処理に移る。
まず、倣いプローブになっているプローブ13から標準スタイラス134を外し、十字スタイラス135を装着する。装着したら校正ポイント119で校正をしておく。併せて、スタイラス135の姿勢を調整しておく。具体的にはスタイラス135の+Y軸側、-Y軸側、+X軸側、-X軸側の接触部136が正しく機械座標系の各軸方向に向くように向きを調整する。
この状態で、回転プローブヘッド131を作動させ、プローブ13の倣い軸線をねじ穴WHの中心軸線S4に合わせる。中心軸線S4としてはワークWの設計データ値を参照する(処理ST4)。
【0061】
この状態で、ねじ穴WHの内周のねじ形状WSの倣い動作を行う(処理ST5)。この倣い動作の詳細は図5に示されている。
すなわち、スタイラス135をねじ穴WHの開口中心位置に配置し(処理ST11)、ねじ穴WH内に導入したうえ、中心軸線S4に沿って下降(奥側へ移動)させる(処理ST12)。ワークWの設計データあるいは先に測定したドリル下穴の深さSMに基づいて接触部136がねじ穴底部近傍に達したら減速し、底面に達したら移動を停止する(処理ST13)。
【0062】
続いて、何れかの接触部136の方向(例えば+Y方向)へ径方向移動させ(処理ST14)、この接触部136がねじ形状WSに接触したら停止させる(処理ST15)。この状態で、中心軸線S4に沿ってスタイラス135を上昇(開口側へ移動)させ(処理ST16)、ねじ穴開口SOに達したら(処理ST17)、スタイラス135をねじ穴WHの外へ取出す(処理ST18)。このうち、処理ST16の間にねじ形状WSの輪郭データを測定する。
【0063】
これらの一連の動作は図8に示すようになる。図8において、各矢印は接触部136の軌跡を示す。
これらにより、ねじ形状SWの一方向(+Y方向)の輪郭が仮に測定され、この方向におけるねじ穴開口SOからの山谷が把握される。
【0064】
図4に戻って、ねじ穴WHの有効径SDおよび中心位置SPを測定するために、ポイント測定を+Y,-Y,+X,-X各方向に90度間隔で4回繰返す(処理ST6)。このポイント測定の詳細は図6に示されている。
【0065】
すなわち、スタイラス135をねじ穴WHの開口中心位置に配置し(処理ST21)、ねじ穴WH内に導入したうえ、中心軸線S4に沿って下降(奥側へ移動)させ、先に処理ST14で選択したのと同じ接触部136(ここでは+Y方向)がねじ穴開口SOから4谷目となるZ軸位置にくるように移動する(処理ST22)。
【0066】
この状態で、先の+Y方向の接触部136を対応する+Y方向へ移動させ、対向するねじ形状WSの谷に接触させ、その位置をポイント測定する(処理23)
次に、スタイラス135を中心に戻すとともに、Z軸位置を4分の1ピッチ分下降させる(処理ST24)。この際のねじピッチPはワークWの設計データを利用する。
この状態で、隣接する+X方向の接触部136を対応する+X方向へ移動させ、対向するねじ形状WSの谷に接触させ、その位置をポイント測定する(処理25)
【0067】
この時、Z軸位置はP/4ずらされており、従って+X方向の接触部136は先に+Y方向の接触部136が入ったねじ谷と連続するねじ谷に入ることになる。
これらの径方向移動および中心でのZ軸P/4移動を繰返すことで続く-Y方向、-X方向のポイント測定も順次行われる(処理ST26〜ST29)。そして、+X方向のポイント測定が終ったらスタイラス135をねじ穴WHの外へ取出す(処理ST30)
【0068】
これらの一連の動作は図9および図10に示すようになる。各図において、各丸印は接触部136の各処理毎の位置を示し、各矢印は接触部136の軌跡を示す。
これらにより、ねじ形状SWの一連のねじ谷に関する+Y,-Y,+X,-Xの4方向、つまり90度づつ一周分のポイントが測定される。
【0069】
図4に戻って、以上により測定したねじ形状SWの一連のねじ谷に関する+Y,-Y,+X,-Xの4方向のポイントデータをホストコンピュータ121で演算処理することでねじ穴WHの有効径SDおよび中心位置SPが把握される(処理ST7)。
【0070】
なお、ねじ穴WHの有効径SDの演算は、ねじ軸の場合に利用される公知の三針式計算法をねじ穴に適用して次のように行う。
先ず、ポイント測定した4点のデータから4つの接触状態にある時の接触部136の中心座標が解るので、この中心座標を通る一つの円の直径SD1を求める。ここで、接触部136の半径r、ねじの公称ピッチP、ねじ山の角度α、ねじ山の高さh0とすると、図11に示す関係がある。
すなわち、図中の距離h1、h3、hは次式のようになる。
【0071】
(数1)
h1=h2 cosec(α/2)=r cosec(α/2)
h3=h0/2=(P/4)cot(α/2)
h=h1−h3={r cosec(α/2)}−{(P/4)cot(α/2)}
【0072】
従って、ねじ穴WHの有効径SDは次式の通りとなる。
【0073】
(数2)
SD=SD1+2h
=SD1+2[{r cosec(α/2)}−{(P/4)cot(α/2)}]
=SD1+2r cosec(α/2)−(P/2)cot(α/2)
【0074】
次に、ねじ穴WHの内周のねじ長SLを測定するために、ねじ形状WSの倣い動作を行う(処理ST8)。この倣い動作の詳細は前述の図5の手順である。
そして、ここで得られた倣い測定データに基づいて、ねじ形状WSの不完全ねじ部S2と完全ねじ部S1との境界位置を割出し、これにより完全ねじ部S1の長さとしてねじ長SLを演算する(処理ST9)。
【0075】
具体的には次のような演算手順を採用する。
図12において、ねじ形状WSは完全ねじ部S1の下方には不完全ねじ部S2があり、更に下方にはドリル下穴部S3が続いている。倣い測定軌跡WS1は、先の倣い動作の際の接触部136の中心位置を順次記録したものである。
【0076】
倣い測定軌跡WS1を直線近似することで、各ねじ山の斜面に沿った直線的な近似軌跡WS2を計算する。この近似軌跡WS2の山側の交点および谷側の交点は、加工誤差や丸み変形等を含まないため実際のねじ山先端およびねじ谷先端よりも高精度に位置を確定できる。そして、各交点のうち谷側の交点の中心軸線S4からの距離(=半径Ri)を順次計算する。
【0077】
ここで、公称のねじ外径R0に対し、その90%以上あれば完全ねじ部F1、以下であれば不完全ねじ部F2と規定する。つまり、真境界半径RS'=R0×0.9とする。そして、対応するねじ谷に対する接触部136(半径r)の中心位置の中心軸線S4からの距離を仮境界半径RS=RS'-rとする。
【0078】
このような仮境界半径RSに基づいて、先に計算した各谷の交点の半径Riを評価すると、例えば半径Rn+1以上は仮境界半径RSより大きく、Rn以下が仮境界半径RSより小さければ、この2つの谷の間に実際の境界が存在することになる。
【0079】
この実際の境界のZ軸位置は次のように確定することができる。
図13に示すように、完全ねじ部S1に属する半径Rn+1の谷と不完全ねじ部S2に属する半径Rnの谷とは1ピッチP分だけZ軸位置がずれている。そして、図から明らかなように(RS-Rn)/ΔZ=(Rn+1-Rn)/Pの関係があり、これからΔZ=P(Rn+1-Rn)/(RS-Rn)となる。従って、半径Rnとなった谷のZ軸位置からΔZを差引けば、実際の境界の位置が求まる。そして、この値から更にねじ穴WHの開口SOのZ軸位置を差引けば、完全ねじ部S1のねじ長SLが算出できる。
【0080】
なお、図13では谷部深さが直線的に変化する場合を示したが、この変化は他の関数、例えば指数関数的に変化するものであってもよい。
更に、これらの関係はテーブルに予め格納しておき、適宜参照できるようにしてもよい。
以上により、ねじ形状WSのドリル下穴の深さSM、完全ねじ部S1のねじ長SL、完全ねじ部S1のねじ有効径SD、ねじ形状WSの中心軸線S4の位置SPが全て測定できたことになる。
【0081】
このような本実施形態によれば次に示すような効果がある。
すなわち、三次元測定機10により通常のワークW表面の形状測定を行うことができる。つまり、プローブ13、スタイラス134,135に至るプローブ群は既存の構成であり、通常のワークW表面の形状測定動作を妨げるものではない。
【0082】
一方、ワークWに形成されたねじ形状WSについても、同じ装置のままねじ形状の各種特性値の測定を行うことができる。
すなわち、軸合わせ工程により、倣いプローブがワークW表面のねじ形状WSに対して、その軸線方向に倣い方向が合わせられた所定の姿勢でセットされる。そして、倣い測定工程により、ねじ形状WSが倣い測定される。さらに、演算工程により、倣い測定によるデータから、ねじ形状WSの各特性値を演算することができる。
【0083】
従って、三次元測定機10を用いて、通常のワークW表面の形状測定から、従来は別途作業が必要だったねじ形状WSの測定までをシームレスに実行することができ、製造ライン等でのインライン測定を行うことも可能となる。
【0084】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、以下に示す変形等も本発明に含まれるものである。
すなわち、前記実施形態では、測定するねじ形状WSの特性値として、ドリル下穴の深さSM、完全ねじ部S1のねじ長SL、完全ねじ部S1のねじ有効径SD、ねじ形状WSの中心軸線S4の位置SPの4つを設定したが、他の特性値を選択してもよい。
【0085】
すなわち、前記実施形態では専らワークの設計データから得たピッチPを用いていたが、倣い測定軌跡WS1の直線近似で得られた近似軌跡WS2(図12参照)におけるねじ山側の交点あるいは谷側の交点の位置から正確なピッチP'を求めてもよい。
また、同じく近似軌跡WS2において、ねじ山側の交点あるいは谷側の交点の交叉角度からねじ山角度を求めても良い。
【0086】
前記実施形態においては、座標系の設定(処理ST1)の後、既存方法による中心座標の仮測定(処理ST2)を行ったが、これは適宜省略してもよい。省略した場合、ワークWの設計データを代用する等ができる。
【0087】
また、前記実施形態では、4回のポイント測定の前に倣い動作1(処理ST5)を行い、その後にねじ長測定のための倣い動作2(処理8)を行ったが、これは兼用してもよい。例えば、先にねじ長測定を行い、後でポイント測定を行ってもよい。あるいは、ポイント測定の前の倣い動作1を省略してもよい。この場合、ワークWの設計データを参照する等によりねじ谷を探る等すればよい。
【0088】
更に、前記実施形態では各測定動作の都度、各特性値を演算するようにしたが、全ての測定動作を行った後に一括して演算工程を実施してもよい。
また、前記実施形態ではねじ穴の内側のねじ形状の測定を行ったが、ねじ軸の外側のねじ形状の測定を行ってもよい。
【0089】
また、前記実施形態ではスタイラスを穴の奥から開口側へ戻る形で倣い動作を行ったが、開口側から奥側へ向けて倣い動作を行うようにしてもよい。
図14ないし図16には本発明の他の実施形態が示されている。
図16に示すように、本実施形態では前記実施形態と同じ装置構成を用いるが、スタイラス135はねじ穴WHの開口SO側から内部へと向う倣い動作を3回繰返してねじ形状WSの測定を行うようになっている。
【0090】
図14において、座標系の設定(処理ST31)、スタイラス軸線の設定(処理ST32)は前記実施形態と同様である。続く倣い測定開始位置への移動(処理33)は、ねじ穴WHの開口SOのやや上方にスタイラス135を配置する。この開始位置から、続く3回の倣い測定(処理ST34〜ST36)を行う。
【0091】
図15において、各倣い測定においては、先ずスタイラス135をねじ穴WHの開口SOのやや上方に配置する(処理ST41)。次に、スタイラス135をワークWに近接させ(処理ST42)、ねじ穴WHの周辺のワークWの表面W1に倣い測定する接触部136を当接させる(処理ST43)。そして、当接状態のままスタイラス135をねじ穴WHの中心向きに移動させ(処理ST44)、接触部136がねじ穴WHの開口SOに達するまで続ける(処理ST45)。
【0092】
続いて、接触部136をねじ穴WHのねじ形状WSに当接させたまま、スタイラス135をねじ穴WHの中心軸線S4(図3参照)に沿って下降させ、ねじ形状WSの輪郭を倣い測定する(処理ST46)。この倣い測定は、不完全ねじ部F2(図3参照)が検出されるまで続ける。
【0093】
ここで、不完全ねじ部F2の検出は、倣い測定における輪郭データの径方向の値の変動が一定以下になった時(ねじ山ねじ谷の高さが小さくなった時)に検出と判定する(処理ST47)。不完全ねじ部が検出されたら、スタイラス135をねじ穴WHの中心に寄せ、外へ引出す(処理ST48)。
【0094】
これら3回の倣い測定の後、ねじ形状の各特性値を演算する(処理ST37)。ここでは、倣い測定によりねじ形状WSのねじ長SL、ねじピッチP'の他、周方向に3点の位置を測定することで中心軸線S4の位置や傾き等も検出可能である。
【0095】
以上に述べたように、本発明によれば、一般的な三次元測定機を利用してねじ形状の各種特性値の測定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、ねじ形状測定方法に関し、特に一般的な三次元測定機を利用して、ねじ形状の特性値を測定できるようにしたねじ形状測定方法に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の一実施形態の装置構成を示す斜視図。
【図2】前記実施形態のプローブを示す分解斜視図。
【図3】前記実施形態のねじ穴を示す模式断面図。
【図4】前記実施形態の基本工程を示すフローチャート。
【図5】前記実施形態の倣い動作を示すフローチャート。
【図6】前記実施形態のポイント測定を示すフローチャート。
【図7】前記実施形態のドリル下穴深さ測定を示す模式断面図。
【図8】前記実施形態の倣い動作を示す模式断面図。
【図9】前記実施形態のポイント測定を示す模式断面図。
【図10】前記実施形態のポイント測定を示す模式平面図。
【図11】前記実施形態の有効径の演算を示す模式断面図。
【図12】前記実施形態の完全ねじ部境界の演算を示す模式平面図。
【図13】前記実施形態の完全ねじ部境界の演算を示すグラフ。
【図14】本発明の他の実施形態の基本工程を示すフローチャート。
【図15】前記他の実施形態の倣い動作を示すフローチャート。
【図16】前記他の実施形態の倣い動作を示す模式斜視図。
【符号の説明】
【0098】
10 三次元測定機
11 三次元測定機本体
13 プローブ
121 ホストコンピュータ
131 回転プローブヘッド
134 標準スタイラス
135 十字スタイラス
136 接触部
W ワーク
WH ねじ穴
WS ねじ形状
W1 ワーク表面
SO ねじ穴開口
S1 完全ねじ部
S2 不完全ねじ部
S3 ドリル下穴部
S4 中心軸線
SP 中心軸線の位置
SM ドリル下穴深さ
SL ねじ長
SD 有効径
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ形状測定方法に関し、特に一般的な三次元測定機を利用して、ねじ形状の特性値を測定できるようにしたねじ形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物品等の表面の形状測定には三次元測定機が多用されている。
三次元測定機では、形状測定を行う物品等(ワーク)をテーブル上に載置しておき、このテーブルに対して三次元的に相対移動するプローブ先端のスタイラスをワーク表面に接触させる。そして、接触した点の三次元座標位置を読出すことを順次繰返すことで、ワーク表面の立体形状を精密に捉えることが可能である。
【0003】
このような三次元測定機においては、従来、一般的なワーク表面の形状測定の他、ワーク表面に形成された穴の内径や中心軸位置の測定なども行われている。
また、ワーク表面に形成されたねじ穴について、各々の中心軸位置の測定あるいは複数のねじ穴の軸間距離の測定も行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ねじ形状(ねじ穴=雌ねじ、ねじ軸=雄ねじ)については、中心軸位置の他に、ねじ形状の特性を規定する多様なパラメータ(特性値)が存在する。例えば、ねじピッチ、ねじ有効径、ねじ山角度、ねじ切り長さ等である。
これらのねじ形状の特性値を測定する技術としては、従来様々な測定方法が知られている。
【0005】
例えば、光学式の変位センサをねじ形状に対して軸方向に移動させ、ねじ山の輪郭を非接触で倣い測定することで、ねじピッチ、ねじ山高さ、ねじ径、ねじテーパー等を測定するものがある(例えば、特許文献2,3参照)。また、非接触でなくねじ形状の軸線方向の輪郭を接触計測し、更にねじ溝に沿った形状測定により、ねじ形状の精密測定を行う技術も知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
なお、ねじ軸の有効径を測定する技術としては、従来より三針測定法が知られている。これは、ねじ軸の片側に2本、反対側に1本の針を、それぞれねじ溝に収まるように配置し、各側の針を押えるようにマイクロメータスピンドルで挟み、既知の針径に基づいて既定の演算式からねじ有効径を算出するものである。このために、専用の三針ゲージ、三針用アダプター、三針測定台が開発されている。これら三針式の測定については、JIS B 0271に規定がある。
【0007】
【特許文献1】特開平6−341826号公報
【特許文献2】特開昭62−27607号公報
【特許文献3】特開平9−264719号公報
【特許文献4】特開昭55−113907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、ねじ形状の特性値に対する測定技術は種々あるものの、一般的な三次元測定機を用いた形状測定の一環としてのねじ形状の測定は行われていなかった。
これは、三次元測定機を利用してねじ形状の各種測定を行うためには、既存のプローブ、スタイラスといったハードウェアが適していないとともに、動作プログラムにおいてもねじ形状の各種測定を行うための測定コマンドや測定アルゴリズムが準備されていなかったことによる。
しかし、製品製造工程におけるインライン測定に三次元測定機の導入が進んでいることもあり、ねじ形状の各種測定も三次元測定機で自動的に行えるようにすることが要望されていた。
【0009】
本発明の目的は、三次元測定機を利用してねじ形状の各種特性値の測定を行えるねじ形状測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(基本構成)
本発明は、三次元測定機を利用してねじ形状の測定を行うねじ形状測定方法であって、測定すべきねじ形状を有するワークが装着される三次元測定機と、この三次元測定機に装着される倣いプローブと、この倣いプローブに装着されかつワークに接触される接触部を有するスタイラスとを用い、前記倣いプローブの倣い測定軸線と前記ねじ形状の中心軸線とを合わせる軸合わせ工程と、前記スタイラスを前記ねじ形状に接触させつつ前記倣いプローブを前記倣い測定軸線に沿って移動させる倣い測定工程と、前記倣い測定で得られた測定データから前記ねじ形状の各種特性値を演算する演算工程と、を含み、前記倣い測定工程では側方に分岐した接触部を有する分岐型スタイラスを用い、前記演算工程は、前記分岐した接触部を接触させた倣い測定による測定データからねじ部の測定輪郭形状を取出し、この測定輪郭形状においてねじ斜面部分を直線で近似することで近似輪郭形状を取出し、この輪郭形状に従来の三針法の針の代替となる仮想円を接触させ、従来の三針法によりねじ形状の有効径を算出する有効径算出処理を含むことを特徴とする。
【0011】
(基本構成の要素)
測定対象のねじ形状としては、ねじ穴(雌ねじ)およびねじ軸(雄ねじ)の何れであってもよい。また、通常のねじ穴やねじ軸の他、半周分の部分ねじ等を対象としてもよい。
軸合わせ工程でのねじ形状の中心軸線は、ワークの設計データを参照してもよく、他の測定動作により仮測定を行ってもよい。
各特性値の演算にあたっては、倣い測定工程と並行する形で演算工程を行ってもよく、あるいはある特性値について倣い測定工程を行った後その特性値の演算工程を行い、次に別の特性値について倣い測定工程を行った後その特性値の演算工程を行う等としてもよい。
【0012】
倣いプローブとしては、装着したスタイラスを測定対象表面に当接させつつ滑らせてこの表面の輪郭形状を測定する、いわゆる倣い測定を行うために用いられている既存の倣い測定用のプローブを用いればよい。
スタイラスとしては、先端に球状の接触部を有する既存のものを用いればよい。この際、一つの接触部を有するものに限らず、先端が枝状に分岐して複数の接触部を有するもの、例えば十字型スタイラスなどを用いてもよい。
【0013】
三次元測定機としては、ワークを載置するテーブルとプローブ装着部分とが三次元で相対移動する既存のものが利用できる。
三次元測定機に各工程を実行させるために、制御手段として、三次元測定機の動作制御およびデータ処理を行うために用いられているホストコンピュータ、ホストコンピュータと三次元測定機の間に介在してホストコンピュータからの動作指令に基づいて三次元測定機を作動させるコントローラ等、三次元測定機の制御に用いられている既存の装置を用いればよい。
各工程を実行させるための動作プログラムは、外部で作成して磁気テープ、ディスク等の既存の情報記録媒体によって、またはオンライン通信で制御手段にロードされるようにすればよい。
【0014】
(基本構成の作用効果)
このような本発明においては、三次元測定機ないしスタイラスにより通常のワーク表面の形状測定を行うことができる。つまり、倣いプローブ、スタイラスに至るプローブ群は既存の構成であり、通常のワーク表面の形状測定動作を妨げるものではない。一方、ワークに形成されたねじ形状についても、同じ装置のままねじ形状の各種特性値の測定を行うことができる。
【0015】
すなわち、軸合わせ工程により、倣いプローブがワーク表面のねじ形状に対して、その軸線方向に倣い方向が合わせられた所定の姿勢でセットされる。そして、倣い測定工程により、ねじ形状が倣い測定される。さらに、演算工程により、倣い測定によるデータから、ねじ形状のねじピッチ、ねじ山角度、ねじ切り深さ等の特性を演算することができる。
【0016】
従って、三次元測定機を用いて、通常のワーク表面の形状測定から、従来は別途作業が必要だったねじ形状の測定までをシームレスに実行することができ、製造ライン等でのインライン測定を行うことも可能となる。
【0017】
(軸合わせ工程に関して)
本発明において、前記軸合わせ工程の前に、前記三次元測定機に設定される機械座標系と前記ワークに設定されるワーク座標系と前記倣いプローブおよびスタイラスに設定されるプローブ座標系との各々の間の相対関係を合わせる座標合わせ工程を行うことが望ましい。
【0018】
機械座標系とは、三次元測定機のテーブル等の上に設定される座標系であり、三次元測定機はこの座標系に基づいて動作する。適宜交換されるプローブ等の座標系をこの機械座標系に校正するために、テーブル上には例えば球状の校正ポイント等が設置される。このような校正ポイントに複数方向から接触することで、座標系の校正を行うことができる。
【0019】
ワーク座標系とは、ワークに設定される座標系であり、一般に設計データはこのワーク固有の座標系をとることになる。ワークを三次元測定機のテーブルに載置して測定を行う場合、ワーク各部の位置が機械座標系で表現される必要がある。ここで、ワークのXYZ各軸が三次元測定機の機械座標系の各軸方向と一致しているなら、ワーク座標原点の機械座標値を単純オフセットとして加減算すればよい。一方、ワークのXYZ各軸が機械座標系の方向に対して傾いているなら、回転成分を含めた変換が必要になるが、何れにせよ既存の演算処理で統合することができる。
【0020】
プローブ座標系は、三次元測定機のプローブ取付け部の基準位置等から相対指定される接触部の位置等を表すものであり、機械座標系における現在のプローブ座標系の原点位置とプローブ座標系の接触部座標値とから、機械座標系における接触部の座標値が得られる。なお、ワーク座標系の場合と同様、各軸方向が一致している場合は単純な加減算で済むが、傾いている場合や軸周りに回転している場合には角度を含めた演算が必要になる。
【0021】
更に、軸合わせ工程については以下のことが言える。
まず、前記倣いプローブの倣い測定軸線とは、倣いプローブが倣い測定を行う際の倣い移動方向である。この倣い測定軸線は、回転プローブヘッドの回転角度と傾き角度、および三次元測定機の移動位置に基づいて特定することができる。すなわち、三次元測定機の機械座標系に対して、プローブ座標系の初期状態が確認できていれば、その後のスタイラスの位置および向きは一意に決定できる。
【0022】
一方、前記ねじ形状の中心軸線は、ワークの設計データに対応するワーク座標系と三次元測定機の機械座標系とから特定することができる。すなわち、三次元測定機の機械座標系におけるワークの固定状態によりワーク座標系と機械座標系のオフセット(3軸の変位および傾き)が決定されるが、このオフセットとワークの設計データ上のねじ形状の中心軸線(位置および方向)とを合わせれば、機械座標系でのねじ形状の中心軸線が算出できる。
これらにより、各々の軸線を機械座標系に変換すれば、各々を合わせる操作は既存の技術により適宜行うことができる。
【0023】
なお、ねじ形状の中心軸線の深さ0の位置に、ねじ形状の基準面を想定することができる。この際、ねじ形状の中心軸線はねじ形状の基準面法線となる。
通常、ねじ形状はワークの表面に垂直に彫込まれるので、ねじ形状の基準面はワークの表面に平行となり、ねじ形状の深さ0となる開口面つまりワーク表面が基準面となる。従って、ワークのねじ形状形成部位の表面に垂直な法線方向がねじ形状の軸線となっていることが一般的であり、ワーク表面の形状からねじ形状の軸線方向を決定することもできる。但し、ワーク表面から傾いたねじ形状については、基準面はワーク表面に一致せず、設計データ等から軸線方向を割出すことが望ましい。
【0024】
(倣い測定工程に関して)
本発明において、前記倣い測定工程は、前記ねじ形状の周方向の複数箇所について各々軸線に沿って倣い動作を行うことが望ましい。
倣い動作としては、次のような形態が選択できる。
【0025】
ねじ穴を対象にする場合、開口側から奥へ進む方式と、先に先端(底部)まで進み開口まで戻る方式とが採用できる。
具体的に、前者としては、先ずワークのねじ穴開口周辺にスタイラスを当接させ、この状態でねじ穴内側に移動させ、ねじ穴内へ入る。そして、内周面のねじ形状を倣いながらねじ穴の先端まで倣い移動させる。後者としては、先ずワークのねじ穴の先端(底面)へ中心軸線に沿ってスタイラスを挿入し、外側に寄って内周面のねじ形状に接触させる。そして、中心軸線に沿って開口まで倣い移動させる。
【0026】
ねじ軸を対象にする場合、根元側から先端に向けて進む方式と、先に先端まで進み根元まで戻る方式とが採用できる。
具体的に、前者としては、先ずねじ軸の根元周辺のワーク表面にスタイラスを当接させ、内側に寄ってねじ形状に接触させる。そして、ねじ軸に沿って先端まで倣い移動させる。
【0027】
一方、後者としては、先ずねじ軸の先端の外周近傍にスタイラスを配置し、外周面に接触させる。そして、ねじ軸に沿って根元まで倣い移動させる。
倣い動作する複数箇所としては、例えば90度間隔で3〜4カ所が適当といえる。3カ所より少ないと演算が難しく、4カ所より多いと工数が増加する。
【0028】
なお、前記倣い動作をねじ穴の底面に向けて行う場合、ねじ形状の不完全ねじ部が始まる位置で終了することが望ましい。
この際、前記完全ねじ部の終了は、倣い動作の間に検出されるねじ形状の輪郭データの変化が一定幅以下になった場合に終了と判定することが望ましい。
【0029】
ねじ軸の根元に向って倣い動作する場合には、ねじ形状の完全ねじ部の長さを予めワークの設計データを参照して記憶しておき、この長さ分移動した時点で減速等することが望ましい。
このようにすれば、ねじ穴底面やワーク表面に対するスタイラスの衝突等の障害を未然に回避できる。
【0030】
前述した演算工程について、以下のことが言える。
前記演算工程は、前記倣い測定による測定データのねじ部のねじ谷深さの変化またはねじピッチの変化から不完全ねじ部を判定する不完全ねじ部判定処理を含むことが望ましい。
【0031】
一般に、ねじ形状は、基部(ねじ穴の開口近傍、ねじ軸の根元)から続く完全ねじ部と、先端近傍に存在する不完全ねじ部とに区分できる。本発明で測定するねじ形状の特性値は、本来のねじ形状としてのものであるから、完全ねじ部を測定対象とし、不完全ねじ部の情報は含まれない方が望ましい。また、ねじ長は完全ねじ部の長さであるから、この値をとるためには不完全ねじ部の判別は必須となる。
【0032】
不完全ねじ部判定処理は、ねじ形状軸線方向に対するねじ部のねじ谷深さの変化またはねじピッチの変化から、予め求めた関数または数値表に基づいて近似を行うことで、前記不完全ねじ部の開始点を判定することが望ましい。
このようにすれば、連続するねじ形状に対しても比例計算等で完全ねじ部の境界を規定することができ、完全ねじ部の区間を確定することでねじ有効長さを測定することができる。
【0033】
前記演算工程は、前記倣い測定による測定データからねじ部の測定輪郭形状を取出し、この測定輪郭形状においてねじ斜面部分を直線で近似することで近似輪郭形状を取出し、この近似輪郭形状からねじピッチ、ねじ山角度、ねじ切り深さを判定する近似輪郭形状処理を含むことが望ましい。
このようにすれば、ねじピッチ、ねじ山角度、ねじ切り深さ等のねじ形状の各種特性値の測定を容易に行うことができる。
【0034】
前記演算工程は、前記倣い測定による測定データからねじ部の測定輪郭形状を取出し、この測定輪郭形状においてねじ斜面部分を直線で近似することで近似輪郭形状を取出し、この輪郭形状に従来の三針法の針の代替となる仮想円を接触させ、従来の三針法によりねじ形状の有効径を算出する有効径算出処理を含むことが望ましい。
このようにすれば、ねじ形状の有効径の測定を容易に行うことができる。
【0035】
(プローブに関して)
本発明において、前記倣いプローブは回転プローブヘッドを介して前記三次元測定機に装着され、前記軸合わせ工程では前記スタイラスの軸線が前記倣い軸線に合うように前記回転プローブヘッドを傾けることが望ましい。
【0036】
回転プローブヘッドとしては、基部が三次元測定機のプローブ装着部分に装着可能で、先端部に他のプローブが装着可能であるとともに、先端部が基部に対して任意の方向へ回転または回動できるようになった既存のものを用いればよい。通常、プローブ装着部分の装着軸線周りに回転可能であり、かつこの軸線に対して0度から90度まで傾斜可能な2自由度のものが用いられる。
【0037】
本発明において、前記倣い測定工程では側方に分岐した接触部を有する分岐型スタイラスを用いることが望ましい。
分岐型スタイラスとしては、例えば十字型に分岐した各先端に接触部を有する十字接触子などが利用できる。
【0038】
このようにすれば、ねじ形状内側の複数箇所を倣い測定する場合など、各測定個所に最寄の側の接触部を用いることで、スタイラスを測定個所に合わせて回転させる等の補助的な動作を省略できる。
このほか、ねじ軸の外周であれば通常の直線的な軸部の先端に球状の接触部が一個だけ付いた標準スタイラスも使用でき、先端がL字型に折れ曲った形状のスタイラスを用いてねじ穴内の測定が可能である。
【0039】
本発明において、前記分岐型スタイラスを用いて前記倣い測定工程を行うのに先立って、前記分岐型スタイラスの接触部が突出する方向が前記倣い測定で検出する輪郭変動の方向に一致するように姿勢を調整しておくことが望ましい。
このような操作は、前述の回転プローブヘッドを用いることで簡単に実行することができる。あるいは回転プローブヘッドがなくてもツールストッカからの掴み直しをすることで実現可能である。
このようにすれば、倣い測定に最適な姿勢での測定動作を実行することができる。
【0040】
この際、ツールストッカにおけるスタイラスは、三次元測定機に装着された際に常に各スタイラスの軸線方向が三次元測定機の軸線方向に対応した所定の姿勢となるように保持しておくことが望ましい。
【0041】
このようにすれば、特定の方向に分岐した接触部を有する分岐式のスタイラスを用いる場合に、接触部の突出側が三次元測定機の座標系から確実に識別でき、ねじ形状の特定の側を倣い測定する際に確実な対応をとることができる。
但し、このようにした場合でも、装着後に校正ポイント等による方向チェックと、回転プローブヘッド等による方向調整とを確実に行うことが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1には、本発明に基づきねじ形状の測定も行えるようにした三次元測定機10が示されている。
三次元測定機10は、三次元測定機本体11と、この三次元測定機本体11から必要な測定値を取り込んで、これを処理するためのホストシステム12とから構成されている。
【0043】
三次元測定機本体11は、次のように構成されている。
すなわち、除振台111の上には、定盤112(テーブル)がその上面をベース面として水平面と一致するように載置され、この定盤112の両側端から立設されたアーム支持体113,114の上端にX軸ガイド115が支持されている。
【0044】
アーム支持体113は、その下端がY軸ガイド116に沿ってY軸方向に移動可能に配置され、また、アーム支持体114は、その下端がエアーベアリングによって定盤112上にY軸方向に移動可能に支持されている。
【0045】
前記X軸ガイド115は、垂直方向に延びるZ軸ガイド117をX軸方向にガイドする。Z軸ガイド117には、Z軸アーム118がZ軸ガイド117に沿って移動するように設けられ、Z軸アーム118の下端に接触式のプローブ13が装着されている。
【0046】
プローブ13は、定盤112上に載置されたワークWに接触した際にホストシステム12へ接触検出信号を出力する既存のタッチトリガープローブあるいは接触状態で倣い動作することで輪郭形状を連続して出力する倣いプローブ等であり、接触時点のX,Y,Z軸座標値あるいは連続した倣い測定データがホストシステム12に送られて定義演算処理されるようになっている。
【0047】
なお、プローブ13は、後述するように回転プローブヘッドを介してZ軸アーム118に接続されるとともに、先端のスタイラスが適宜交換可能である。この際、交換したスタイラス毎の変動誤差を抑えるために、三次元測定機10はスタイラス交換のつど校正動作を行うようになっている。このために、定盤112の角隅部分には校正ポイント119が設置されている。
【0048】
校正ポイント119は、球状の先端を有し、その中心位置および半径は正確に計測済である。従って、スタイラス交換をした場合、この校正ポイント119の計測により、個々のスタイラスの誤差を算出してその分の補正を行うことができる。
これにより、三次元測定機10に規定される機械座標系と、プローブ13ないしスタイラスに設定されるプローブ座標系との座標合わせが行なわれるようになっている。
【0049】
ホストシステム12は、次のように構成されている。
すなわち、ホストシステム12は、ホストコンピュータ121と、モニタ122、プリンタ123およびキーボード124とを備えている。
ホストコンピュータ121は、プローブ13からの信号からワークWの形状データを演算する既存のソフトウェアプログラムを備え、これらを適宜実行して所定の演算処理を行うことができるものである。
【0050】
具体的には、プローブ13がタッチトリガープローブである場合、接触信号に基づいて三次元測定機本体11の現在位置座標値を読出し、プローブ13先端の接触部の座標位置を割出す。この値はプローブ13が接触したワークW表面の位置となる。
また、プローブ13が倣いプローブである場合、三次元測定機本体11に所定の倣い動作を実行させるとともに、プローブ13からの測定データを連続的にモニタし、輪郭形状として記録する。これによりワークWの特定部分の輪郭形状が測定できる。
【0051】
図2にはプローブ13が示されている。
前述したように、本実施例のプローブ13は、回転プローブヘッド131を介してZ軸アーム118に装着されている。また、前述のように、プローブ13としてはタッチトリガープローブあるいは倣いプローブが適宜選択される。
【0052】
回転プローブヘッド131は、回転軸132を中心にしてプローブ13が0度から90度まで傾斜するように回転可能である(図中A方向)。また、Z軸アーム118に対する連結軸133に対して、本体部分が360度回転自在である(図中B方向)。
プローブ13に装着されるスタイラスとしては、直線状の標準スタイラス134または四方に分岐を有する十字スタイラス135が適宜選択される。何れのスタイラスも、先端に球状の接触部136を備えている。
【0053】
前述したプローブ13およびスタイラス134,135は、それぞれホストコンピュータ121からの動作指令に基づいて適宜交換される。また、選択的に使用されるプローブ13およびスタイラス134,135は、三次元測定機本体11の移動範囲内に配置されたツールストッカに準備しておくことで自動交換可能となっている(図1では省略)。
【0054】
次に、三次元測定機10を用いて行われるねじ形状の測定について説明する。
図3には、本実施形態で測定するねじ形状の特性値が示されている。
図3において、ワークWの表面W1にはねじ穴WHが形成されており、その内周にはねじ形状WSが形成されている。ねじ形状WSは開口SOから奥へ完全ねじ部S1、不完全ねじ部S2、ドリル下穴部S3となっている。ここで、ドリル下穴の深さSM、完全ねじ部S1のねじ長SL、完全ねじ部S1のねじ有効径SD、ねじ形状WSの中心軸線S4の位置SPが測定すべき特性値となっている。
【0055】
これらの特性値を測定するために、本実施形態では図4、図5、図6に示す一連の処理を実行する。これらの処理は、ホストコンピュータ121で実行されるプログラムに基づく動作指令に従って三次元測定機本体11が動作することで実行される。
【0056】
はじめに、座標系の設定を行う(処理ST1)。
この処理では、通常使用しているタッチトリガープローブと標準スタイラス134を装着した状態で、前述した校正ポイント119による機械座標系とプローブ座標系との整合を行った後、ワークWの所定の表面部位を数点測定する。つまり、ワークWの表面部位は予め設計データに基づいて解っているが、ワークWの定盤112に対する載置状態に応じて各点の測定値は変化する。従って、ここで複数点の測定値から校正値を割出し、この後のワークW各部の測定値を補正するようにする。
【0057】
次に、ワークWのねじ形状WSの中心座標SP'の仮測定を行う(処理ST2)。
この処理では、既存のねじ測定マクロコマンド等を利用する。具体的には、前述した従来のねじ軸位置測定方法を利用する。この処理によりねじ形状WSの中心軸線S4の位置SP'が暫定的に測定される
【0058】
暫定的な中心軸線S4の位置SP'が得られたら、測定対象の特性値の一つであるドリル下穴の深さSMの測定を行う(処理ST3)。
この処理においては、先ずプローブ13をタッチトリガープローブから倣いプローブに交換する。但し、スタイラスは標準スタイラス134とする。交換したら校正ポイント119で校正をしておく。
【0059】
この状態で、プローブ13を移動させ、スタイラス134をねじ穴WH内に導入し、中心軸線S4に沿って降下させ、図7に示すように先端の接触部136を底部中心S5に接触させる。接触までの移動距離はワークWの設計データを参照して概略的に決定すればよい。
スタイラス134の接触部136が底部中心S5に接触した状態では、接触部136の半径r、ドリル下穴部S3の内径dとして、X=(d/2)tanθ-r/cosθがドリル下穴部S3下端から接触部136の中心までの距離となる。従って、中心軸線S4の方向の座標位置からXを引いたものがドリル下穴の深さSMとなる。
【0060】
次に、測定対象の特性値であるねじ形状WSの中心座標SPの本測定と有効径SDの測定を行うための処理に移る。
まず、倣いプローブになっているプローブ13から標準スタイラス134を外し、十字スタイラス135を装着する。装着したら校正ポイント119で校正をしておく。併せて、スタイラス135の姿勢を調整しておく。具体的にはスタイラス135の+Y軸側、-Y軸側、+X軸側、-X軸側の接触部136が正しく機械座標系の各軸方向に向くように向きを調整する。
この状態で、回転プローブヘッド131を作動させ、プローブ13の倣い軸線をねじ穴WHの中心軸線S4に合わせる。中心軸線S4としてはワークWの設計データ値を参照する(処理ST4)。
【0061】
この状態で、ねじ穴WHの内周のねじ形状WSの倣い動作を行う(処理ST5)。この倣い動作の詳細は図5に示されている。
すなわち、スタイラス135をねじ穴WHの開口中心位置に配置し(処理ST11)、ねじ穴WH内に導入したうえ、中心軸線S4に沿って下降(奥側へ移動)させる(処理ST12)。ワークWの設計データあるいは先に測定したドリル下穴の深さSMに基づいて接触部136がねじ穴底部近傍に達したら減速し、底面に達したら移動を停止する(処理ST13)。
【0062】
続いて、何れかの接触部136の方向(例えば+Y方向)へ径方向移動させ(処理ST14)、この接触部136がねじ形状WSに接触したら停止させる(処理ST15)。この状態で、中心軸線S4に沿ってスタイラス135を上昇(開口側へ移動)させ(処理ST16)、ねじ穴開口SOに達したら(処理ST17)、スタイラス135をねじ穴WHの外へ取出す(処理ST18)。このうち、処理ST16の間にねじ形状WSの輪郭データを測定する。
【0063】
これらの一連の動作は図8に示すようになる。図8において、各矢印は接触部136の軌跡を示す。
これらにより、ねじ形状SWの一方向(+Y方向)の輪郭が仮に測定され、この方向におけるねじ穴開口SOからの山谷が把握される。
【0064】
図4に戻って、ねじ穴WHの有効径SDおよび中心位置SPを測定するために、ポイント測定を+Y,-Y,+X,-X各方向に90度間隔で4回繰返す(処理ST6)。このポイント測定の詳細は図6に示されている。
【0065】
すなわち、スタイラス135をねじ穴WHの開口中心位置に配置し(処理ST21)、ねじ穴WH内に導入したうえ、中心軸線S4に沿って下降(奥側へ移動)させ、先に処理ST14で選択したのと同じ接触部136(ここでは+Y方向)がねじ穴開口SOから4谷目となるZ軸位置にくるように移動する(処理ST22)。
【0066】
この状態で、先の+Y方向の接触部136を対応する+Y方向へ移動させ、対向するねじ形状WSの谷に接触させ、その位置をポイント測定する(処理23)
次に、スタイラス135を中心に戻すとともに、Z軸位置を4分の1ピッチ分下降させる(処理ST24)。この際のねじピッチPはワークWの設計データを利用する。
この状態で、隣接する+X方向の接触部136を対応する+X方向へ移動させ、対向するねじ形状WSの谷に接触させ、その位置をポイント測定する(処理25)
【0067】
この時、Z軸位置はP/4ずらされており、従って+X方向の接触部136は先に+Y方向の接触部136が入ったねじ谷と連続するねじ谷に入ることになる。
これらの径方向移動および中心でのZ軸P/4移動を繰返すことで続く-Y方向、-X方向のポイント測定も順次行われる(処理ST26〜ST29)。そして、+X方向のポイント測定が終ったらスタイラス135をねじ穴WHの外へ取出す(処理ST30)
【0068】
これらの一連の動作は図9および図10に示すようになる。各図において、各丸印は接触部136の各処理毎の位置を示し、各矢印は接触部136の軌跡を示す。
これらにより、ねじ形状SWの一連のねじ谷に関する+Y,-Y,+X,-Xの4方向、つまり90度づつ一周分のポイントが測定される。
【0069】
図4に戻って、以上により測定したねじ形状SWの一連のねじ谷に関する+Y,-Y,+X,-Xの4方向のポイントデータをホストコンピュータ121で演算処理することでねじ穴WHの有効径SDおよび中心位置SPが把握される(処理ST7)。
【0070】
なお、ねじ穴WHの有効径SDの演算は、ねじ軸の場合に利用される公知の三針式計算法をねじ穴に適用して次のように行う。
先ず、ポイント測定した4点のデータから4つの接触状態にある時の接触部136の中心座標が解るので、この中心座標を通る一つの円の直径SD1を求める。ここで、接触部136の半径r、ねじの公称ピッチP、ねじ山の角度α、ねじ山の高さh0とすると、図11に示す関係がある。
すなわち、図中の距離h1、h3、hは次式のようになる。
【0071】
(数1)
h1=h2 cosec(α/2)=r cosec(α/2)
h3=h0/2=(P/4)cot(α/2)
h=h1−h3={r cosec(α/2)}−{(P/4)cot(α/2)}
【0072】
従って、ねじ穴WHの有効径SDは次式の通りとなる。
【0073】
(数2)
SD=SD1+2h
=SD1+2[{r cosec(α/2)}−{(P/4)cot(α/2)}]
=SD1+2r cosec(α/2)−(P/2)cot(α/2)
【0074】
次に、ねじ穴WHの内周のねじ長SLを測定するために、ねじ形状WSの倣い動作を行う(処理ST8)。この倣い動作の詳細は前述の図5の手順である。
そして、ここで得られた倣い測定データに基づいて、ねじ形状WSの不完全ねじ部S2と完全ねじ部S1との境界位置を割出し、これにより完全ねじ部S1の長さとしてねじ長SLを演算する(処理ST9)。
【0075】
具体的には次のような演算手順を採用する。
図12において、ねじ形状WSは完全ねじ部S1の下方には不完全ねじ部S2があり、更に下方にはドリル下穴部S3が続いている。倣い測定軌跡WS1は、先の倣い動作の際の接触部136の中心位置を順次記録したものである。
【0076】
倣い測定軌跡WS1を直線近似することで、各ねじ山の斜面に沿った直線的な近似軌跡WS2を計算する。この近似軌跡WS2の山側の交点および谷側の交点は、加工誤差や丸み変形等を含まないため実際のねじ山先端およびねじ谷先端よりも高精度に位置を確定できる。そして、各交点のうち谷側の交点の中心軸線S4からの距離(=半径Ri)を順次計算する。
【0077】
ここで、公称のねじ外径R0に対し、その90%以上あれば完全ねじ部F1、以下であれば不完全ねじ部F2と規定する。つまり、真境界半径RS'=R0×0.9とする。そして、対応するねじ谷に対する接触部136(半径r)の中心位置の中心軸線S4からの距離を仮境界半径RS=RS'-rとする。
【0078】
このような仮境界半径RSに基づいて、先に計算した各谷の交点の半径Riを評価すると、例えば半径Rn+1以上は仮境界半径RSより大きく、Rn以下が仮境界半径RSより小さければ、この2つの谷の間に実際の境界が存在することになる。
【0079】
この実際の境界のZ軸位置は次のように確定することができる。
図13に示すように、完全ねじ部S1に属する半径Rn+1の谷と不完全ねじ部S2に属する半径Rnの谷とは1ピッチP分だけZ軸位置がずれている。そして、図から明らかなように(RS-Rn)/ΔZ=(Rn+1-Rn)/Pの関係があり、これからΔZ=P(Rn+1-Rn)/(RS-Rn)となる。従って、半径Rnとなった谷のZ軸位置からΔZを差引けば、実際の境界の位置が求まる。そして、この値から更にねじ穴WHの開口SOのZ軸位置を差引けば、完全ねじ部S1のねじ長SLが算出できる。
【0080】
なお、図13では谷部深さが直線的に変化する場合を示したが、この変化は他の関数、例えば指数関数的に変化するものであってもよい。
更に、これらの関係はテーブルに予め格納しておき、適宜参照できるようにしてもよい。
以上により、ねじ形状WSのドリル下穴の深さSM、完全ねじ部S1のねじ長SL、完全ねじ部S1のねじ有効径SD、ねじ形状WSの中心軸線S4の位置SPが全て測定できたことになる。
【0081】
このような本実施形態によれば次に示すような効果がある。
すなわち、三次元測定機10により通常のワークW表面の形状測定を行うことができる。つまり、プローブ13、スタイラス134,135に至るプローブ群は既存の構成であり、通常のワークW表面の形状測定動作を妨げるものではない。
【0082】
一方、ワークWに形成されたねじ形状WSについても、同じ装置のままねじ形状の各種特性値の測定を行うことができる。
すなわち、軸合わせ工程により、倣いプローブがワークW表面のねじ形状WSに対して、その軸線方向に倣い方向が合わせられた所定の姿勢でセットされる。そして、倣い測定工程により、ねじ形状WSが倣い測定される。さらに、演算工程により、倣い測定によるデータから、ねじ形状WSの各特性値を演算することができる。
【0083】
従って、三次元測定機10を用いて、通常のワークW表面の形状測定から、従来は別途作業が必要だったねじ形状WSの測定までをシームレスに実行することができ、製造ライン等でのインライン測定を行うことも可能となる。
【0084】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、以下に示す変形等も本発明に含まれるものである。
すなわち、前記実施形態では、測定するねじ形状WSの特性値として、ドリル下穴の深さSM、完全ねじ部S1のねじ長SL、完全ねじ部S1のねじ有効径SD、ねじ形状WSの中心軸線S4の位置SPの4つを設定したが、他の特性値を選択してもよい。
【0085】
すなわち、前記実施形態では専らワークの設計データから得たピッチPを用いていたが、倣い測定軌跡WS1の直線近似で得られた近似軌跡WS2(図12参照)におけるねじ山側の交点あるいは谷側の交点の位置から正確なピッチP'を求めてもよい。
また、同じく近似軌跡WS2において、ねじ山側の交点あるいは谷側の交点の交叉角度からねじ山角度を求めても良い。
【0086】
前記実施形態においては、座標系の設定(処理ST1)の後、既存方法による中心座標の仮測定(処理ST2)を行ったが、これは適宜省略してもよい。省略した場合、ワークWの設計データを代用する等ができる。
【0087】
また、前記実施形態では、4回のポイント測定の前に倣い動作1(処理ST5)を行い、その後にねじ長測定のための倣い動作2(処理8)を行ったが、これは兼用してもよい。例えば、先にねじ長測定を行い、後でポイント測定を行ってもよい。あるいは、ポイント測定の前の倣い動作1を省略してもよい。この場合、ワークWの設計データを参照する等によりねじ谷を探る等すればよい。
【0088】
更に、前記実施形態では各測定動作の都度、各特性値を演算するようにしたが、全ての測定動作を行った後に一括して演算工程を実施してもよい。
また、前記実施形態ではねじ穴の内側のねじ形状の測定を行ったが、ねじ軸の外側のねじ形状の測定を行ってもよい。
【0089】
また、前記実施形態ではスタイラスを穴の奥から開口側へ戻る形で倣い動作を行ったが、開口側から奥側へ向けて倣い動作を行うようにしてもよい。
図14ないし図16には本発明の他の実施形態が示されている。
図16に示すように、本実施形態では前記実施形態と同じ装置構成を用いるが、スタイラス135はねじ穴WHの開口SO側から内部へと向う倣い動作を3回繰返してねじ形状WSの測定を行うようになっている。
【0090】
図14において、座標系の設定(処理ST31)、スタイラス軸線の設定(処理ST32)は前記実施形態と同様である。続く倣い測定開始位置への移動(処理33)は、ねじ穴WHの開口SOのやや上方にスタイラス135を配置する。この開始位置から、続く3回の倣い測定(処理ST34〜ST36)を行う。
【0091】
図15において、各倣い測定においては、先ずスタイラス135をねじ穴WHの開口SOのやや上方に配置する(処理ST41)。次に、スタイラス135をワークWに近接させ(処理ST42)、ねじ穴WHの周辺のワークWの表面W1に倣い測定する接触部136を当接させる(処理ST43)。そして、当接状態のままスタイラス135をねじ穴WHの中心向きに移動させ(処理ST44)、接触部136がねじ穴WHの開口SOに達するまで続ける(処理ST45)。
【0092】
続いて、接触部136をねじ穴WHのねじ形状WSに当接させたまま、スタイラス135をねじ穴WHの中心軸線S4(図3参照)に沿って下降させ、ねじ形状WSの輪郭を倣い測定する(処理ST46)。この倣い測定は、不完全ねじ部F2(図3参照)が検出されるまで続ける。
【0093】
ここで、不完全ねじ部F2の検出は、倣い測定における輪郭データの径方向の値の変動が一定以下になった時(ねじ山ねじ谷の高さが小さくなった時)に検出と判定する(処理ST47)。不完全ねじ部が検出されたら、スタイラス135をねじ穴WHの中心に寄せ、外へ引出す(処理ST48)。
【0094】
これら3回の倣い測定の後、ねじ形状の各特性値を演算する(処理ST37)。ここでは、倣い測定によりねじ形状WSのねじ長SL、ねじピッチP'の他、周方向に3点の位置を測定することで中心軸線S4の位置や傾き等も検出可能である。
【0095】
以上に述べたように、本発明によれば、一般的な三次元測定機を利用してねじ形状の各種特性値の測定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、ねじ形状測定方法に関し、特に一般的な三次元測定機を利用して、ねじ形状の特性値を測定できるようにしたねじ形状測定方法に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の一実施形態の装置構成を示す斜視図。
【図2】前記実施形態のプローブを示す分解斜視図。
【図3】前記実施形態のねじ穴を示す模式断面図。
【図4】前記実施形態の基本工程を示すフローチャート。
【図5】前記実施形態の倣い動作を示すフローチャート。
【図6】前記実施形態のポイント測定を示すフローチャート。
【図7】前記実施形態のドリル下穴深さ測定を示す模式断面図。
【図8】前記実施形態の倣い動作を示す模式断面図。
【図9】前記実施形態のポイント測定を示す模式断面図。
【図10】前記実施形態のポイント測定を示す模式平面図。
【図11】前記実施形態の有効径の演算を示す模式断面図。
【図12】前記実施形態の完全ねじ部境界の演算を示す模式平面図。
【図13】前記実施形態の完全ねじ部境界の演算を示すグラフ。
【図14】本発明の他の実施形態の基本工程を示すフローチャート。
【図15】前記他の実施形態の倣い動作を示すフローチャート。
【図16】前記他の実施形態の倣い動作を示す模式斜視図。
【符号の説明】
【0098】
10 三次元測定機
11 三次元測定機本体
13 プローブ
121 ホストコンピュータ
131 回転プローブヘッド
134 標準スタイラス
135 十字スタイラス
136 接触部
W ワーク
WH ねじ穴
WS ねじ形状
W1 ワーク表面
SO ねじ穴開口
S1 完全ねじ部
S2 不完全ねじ部
S3 ドリル下穴部
S4 中心軸線
SP 中心軸線の位置
SM ドリル下穴深さ
SL ねじ長
SD 有効径
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元測定機を利用してねじ形状の測定を行うねじ形状測定方法であって、
測定すべきねじ形状を有するワークが装着される三次元測定機と、この三次元測定機に装着される倣いプローブと、この倣いプローブに装着されかつワークに接触される接触部を有するスタイラスとを用い、
前記倣いプローブの倣い測定軸線と前記ねじ形状の中心軸線とを合わせる軸合わせ工程と、
前記スタイラスを前記ねじ形状に接触させつつ前記倣いプローブを前記倣い測定軸線に沿って移動させる倣い測定工程と、
前記倣い測定で得られた測定データから前記ねじ形状の各種特性値を演算する演算工程と、を含み、
前記倣い測定工程では側方に分岐した接触部を有する分岐型スタイラスを用い、
前記演算工程は、前記分岐した接触部を接触させた倣い測定による測定データからねじ部の測定輪郭形状を取出し、この測定輪郭形状においてねじ斜面部分を直線で近似することで近似輪郭形状を取出し、この輪郭形状に従来の三針法の針の代替となる仮想円を接触させ、従来の三針法によりねじ形状の有効径を算出する有効径算出処理を含むことを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載したねじ形状測定方法において、前記倣い測定工程は、前記ねじ形状の周方向の複数箇所について各々軸線に沿って倣い動作を行うことを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したねじ形状測定方法において、前記分岐型スタイラスを用いて前記倣い測定工程を行うのに先立って、前記分岐型スタイラスの接触部が突出する方向が前記倣い測定で検出する輪郭変動の方向に一致するように姿勢を調整しておくことを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れかに記載したねじ形状測定方法において、前記軸合わせ工程の前に、前記三次元測定機に設定される機械座標系と前記ワークに設定されるワーク座標系と前記倣いプローブおよびスタイラスに設定されるプローブ座標系との各々の間の相対関係を合わせる座標合わせ工程を行うことを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れかに記載したねじ形状測定方法において、前記演算工程は、前記倣い測定による測定データのねじ部のねじ谷深さの変化またはねじピッチの変化から不完全ねじ部を判定する不完全ねじ部判定処理を含むことを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載したねじ形状測定方法において、前記不完全ねじ部判定処理は、ねじ形状軸線方向に対するねじ部のねじ谷深さの変化またはねじピッチの変化から、予め求めた関数または数値表に基づいて近似を行うことで、前記不完全ねじ部の開始点を判定することを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までの何れかに記載したねじ形状測定方法において、前記演算工程は、前記倣い測定による測定データからねじ部の測定輪郭形状を取出し、この測定輪郭形状においてねじ斜面部分を直線で近似することで近似輪郭形状を取出し、この近似輪郭形状からねじピッチ、ねじ山角度、ねじ切り深さを判定する近似輪郭形状処理を含むことを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までの何れかに記載したねじ形状測定方法において、前記倣いプローブは回転プローブヘッドを介して前記三次元測定機に装着され、前記軸合わせ工程では前記スタイラスの軸線が前記倣い軸線に合うように前記回転プローブヘッドを傾けることを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項1】
三次元測定機を利用してねじ形状の測定を行うねじ形状測定方法であって、
測定すべきねじ形状を有するワークが装着される三次元測定機と、この三次元測定機に装着される倣いプローブと、この倣いプローブに装着されかつワークに接触される接触部を有するスタイラスとを用い、
前記倣いプローブの倣い測定軸線と前記ねじ形状の中心軸線とを合わせる軸合わせ工程と、
前記スタイラスを前記ねじ形状に接触させつつ前記倣いプローブを前記倣い測定軸線に沿って移動させる倣い測定工程と、
前記倣い測定で得られた測定データから前記ねじ形状の各種特性値を演算する演算工程と、を含み、
前記倣い測定工程では側方に分岐した接触部を有する分岐型スタイラスを用い、
前記演算工程は、前記分岐した接触部を接触させた倣い測定による測定データからねじ部の測定輪郭形状を取出し、この測定輪郭形状においてねじ斜面部分を直線で近似することで近似輪郭形状を取出し、この輪郭形状に従来の三針法の針の代替となる仮想円を接触させ、従来の三針法によりねじ形状の有効径を算出する有効径算出処理を含むことを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載したねじ形状測定方法において、前記倣い測定工程は、前記ねじ形状の周方向の複数箇所について各々軸線に沿って倣い動作を行うことを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したねじ形状測定方法において、前記分岐型スタイラスを用いて前記倣い測定工程を行うのに先立って、前記分岐型スタイラスの接触部が突出する方向が前記倣い測定で検出する輪郭変動の方向に一致するように姿勢を調整しておくことを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れかに記載したねじ形状測定方法において、前記軸合わせ工程の前に、前記三次元測定機に設定される機械座標系と前記ワークに設定されるワーク座標系と前記倣いプローブおよびスタイラスに設定されるプローブ座標系との各々の間の相対関係を合わせる座標合わせ工程を行うことを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れかに記載したねじ形状測定方法において、前記演算工程は、前記倣い測定による測定データのねじ部のねじ谷深さの変化またはねじピッチの変化から不完全ねじ部を判定する不完全ねじ部判定処理を含むことを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載したねじ形状測定方法において、前記不完全ねじ部判定処理は、ねじ形状軸線方向に対するねじ部のねじ谷深さの変化またはねじピッチの変化から、予め求めた関数または数値表に基づいて近似を行うことで、前記不完全ねじ部の開始点を判定することを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までの何れかに記載したねじ形状測定方法において、前記演算工程は、前記倣い測定による測定データからねじ部の測定輪郭形状を取出し、この測定輪郭形状においてねじ斜面部分を直線で近似することで近似輪郭形状を取出し、この近似輪郭形状からねじピッチ、ねじ山角度、ねじ切り深さを判定する近似輪郭形状処理を含むことを特徴とするねじ形状測定方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までの何れかに記載したねじ形状測定方法において、前記倣いプローブは回転プローブヘッドを介して前記三次元測定機に装着され、前記軸合わせ工程では前記スタイラスの軸線が前記倣い軸線に合うように前記回転プローブヘッドを傾けることを特徴とするねじ形状測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−20118(P2009−20118A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241614(P2008−241614)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【分割の表示】特願平11−260490の分割
【原出願日】平成11年9月14日(1999.9.14)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【分割の表示】特願平11−260490の分割
【原出願日】平成11年9月14日(1999.9.14)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】
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