説明

はんだ用フラックス這い上がり防止組成物、該組成物を被覆したはんだ用電子部材、該部材のはんだ付け方法および電気製品

【課題】生体および環境へのリスクを大きく低下させながらも、従来の炭素数8以上のポリフルオロアルキル基を有する重合体を含むフラックス這い上がり防止剤と同等のフラックス這い上がり防止性能を有するはんだ用フラックス這い上がり防止組成物の提供。
【解決手段】下記式(a)で表される化合物から導かれる少なくとも1種の重合単位(A)と、下記式(b)で表される化合物または不飽和結合を有する環状のカルボン酸無水物から導かれる少なくとも1種の重合単位(B)とを含有する重合体を含むはんだ用フラックス這い上がり防止組成物:
CH=C(R1)−COO−Q−R (a)
式中、R:水素原子またはメチル基、
:単結合または2価の連結基、
:主鎖の鎖長が炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基を示す。
CH=C(R1)−COO−Q−COOH (b)
式中、R:前記式(a)と同じ、Q:2価の連結基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接点を有する電子部品またはプリント基板等の電子部材のはんだ付けの際に、はんだ用フラックスの這い上がりを防止するための前処理剤として用いられるフラックス這い上がり防止組成物に関する。また本発明は、該組成物から形成された被膜を有するはんだ用電子部品またはプリント基板などの電子部材、該組成物を用いるはんだ付け方法、さらに、はんだ付けされた上記電子部材を含む電気製品に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板に各種部品をはんだ付けしたり、ICソケットにICをはんだ付けする際には、予め、はんだの接着性を向上させるためのフラックス処理が施される。一般のフラックスは、溶媒中に酸性成分を含む腐食剤である。このため、コネクタ、スイッチ、ボリューム、半固定抵抗等の電子部品の電気接点部分、またはプリント基板のはんだ付けが不要な部分などにフラックスが浸透あるいは付着することは望ましくなく、これを防ぐ必要がある。特に、電子部品のスルーホール部分などで起きる、フラックスが毛細管現象等により這い上がる「フラックスの這い上がり」と呼ばれる現象により、はんだ付けの不要な部分にまでフラックスが付着あるいは浸透し、腐食を起こすことを防ぐ必要がある。
【0003】
このため、はんだ付けに先立って、フラックス這い上がりを防止するための前処理が行われている。この前処理に用いられるフラックス這い上がり防止剤は、通常、フラックスの溶媒に対し撥溶媒性のあるポリマーを含む組成物である。従来、フラックスの溶媒は典型的にIPAであることから、撥IPA性がフラックス這い上がり防止性能の目安となる指標として使用されている。そのため、フラックス這い上がり防止剤の有効成分として、撥IPA性の高い、ポリフルオロアルキル基含有重合体が使用されてきた。
【0004】
このような重合体は、従来、典型的に、CH=C(R1)COO−Q−Rf(式中、R1:水素原子またはメチル基、Q:2価連結基、Rf:炭素数4〜14のポリフルオロアルキル基)で表されるポリフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートから導かれる重合体である(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−303536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
米国環境保護庁(USEPA)は、野生動物や人の血液を含め、種々の環境から検出されるパーフロオロオクタン酸(PFOA)の安全性に関する予備リスク調査報告書を2003年3月に公開した。さらに、2006年1月には、PFOAとその類縁物質、およびこれらの前駆体物質の環境中への排出削減と製品中の含有量削減計画への参加をフッ素樹脂メーカー等に提唱している。パーフルオロアルキル基の炭素数が6以下になると、生体および環境へのリスクが大きく低下する。
【0007】
しかしながら、重合体中のパーフルオロアルキル基に起因する、疎水性、疎油性などの性能は、パーフルオロアルキル基の炭素数が8以上であると高いが、炭素数が6以下であると著しく低下する。これは、炭素数が8以上のパーフルオロアルキル基が結晶性を持つためと言われている。フラックス這い上がり防止剤の性能の指標として重要な撥IPA性も、パーフロオロアルキル基の炭素数が6以下になると、急激に低下する。特に低濃度で浸漬処理した場合の性能低下は非常に大きい。
【0008】
さらに、フラックス這い上がり防止剤は、電子部品の接点部に処理されたフラックス這い上がり防止皮膜により、接触不良が生じるのを防ぐため、非常に薄い皮膜であることが要求される。浸漬処理を行う場合は、非常に低濃度での撥IPA性能が要求される。
【0009】
本発明は、生体および環境への影響が少ない炭素数が6以下のポリフルオロアルキル基を有する不飽和化合物から導かれる重合単位を含有する重合体であるが、従来のポリフルオロアルキル基の炭素数が8以上の不飽和化合物から導かれる重合単位を含有する重合体を含むフラックス這い上がり防止剤と同等の性能を有し、フラックス這い上がり防止性能が高い、はんだ用フラックス這い上がり防止組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような諸問題に鑑み、本発明は、生体および環境への影響が少ない炭素数が6以下のポリフルオロアルキル基を有する不飽和化合物から導かれる重合単位を含有する重合体であるが、該重合体中へのカルボキシル基またはその酸無水物構造の導入することで、従来のポリフルオロアルキル基の炭素数が8以上の不飽和化合物から導かれる重合単位を含有する重合体を含むフラックス這い上がり防止剤と同等の性能を有するフラックス這い上がり防止組成物の提供を可能とした。
【0011】
すなわち、本発明は以下のフラックス這い上がり防止組成物を提供する。
本発明のフラックス這い上がり防止組成物は、下記式(a)で表される化合物から導かれる少なくとも1種の重合単位(A)と、下記式(b)で表される化合物または不飽和結合を有する環状のカルボン酸無水物から導かれる少なくとも1種の重合単位(B)とを含有する重合体を含むはんだ用のフラックス這い上がり防止組成物である。
CH=C(R1)−COO−Q−R (a)
式中、R:水素原子またはメチル基、
:単結合または2価の連結基、
:主鎖の鎖長が炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基を示す。
CH=C(R1)−COO−Q−COOH (b)
式中、R:前記式(a)と同じ、Q:2価の連結基。
【0012】
前記式(a)におけるR基が、炭素数1〜6の直鎖のパーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基である重合体が好ましい。
【0013】
また、前記重合体中の前記重合単位(B)の割合が10質量%以下である組成物が好ましい。
【0014】
また、本発明は、電子部材の少なくともフラックスで処理する部分に、前記のいずれかに記載の組成物からなる被膜を有し、はんだ用フラックス這い上がり防止性能を有する電子部材を提供する。
【0015】
また、本発明は、電子部材の少なくともフラックスで処理する部分に、前記のいずれかに記載の組成物からなる被膜を形成し、該被膜の上にはんだ用フラックスを塗布した後、はんだ付けする、電子部材のはんだ付け方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、前記はんだ付け方法ではんだ付けした電子部材を含む電気製品を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、フラックス這い上がり防止組成物において、重合体中の炭素数が8以上のポリフルオロアルキル基の含有量を抑えて、生体および環境への安全性を確保するだけではなく、ポリフルオロアルキル基の鎖長の減少による這い上がり防止性能の低下を抑え、従来品と同程度の性能を維持することを可能にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
なお本明細書中、(メタ)アクリレートとは、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの両方またはどちらか一方を表す。
【0019】
本発明のはんだ用フラックスの這い上がり防止組成物(「這い上がり防止剤」とも記す)が被覆成分として含む重合体は、下記式(a)で表される化合物から導かれる少なくとも1種の重合単位(A)と、下記式(b)で表される化合物または不飽和結合を有する環状のカルボン酸無水物から導かれる少なくとも1種の重合単位(B)とを含有する。
CH=C(R1)−COO−Q−R (a)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子またはメチル基、
:単結合または2価の連結基、
:主鎖の鎖長が炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基。
CH=C(R1)−COO−Q−COOH (b)
式中、R:前記式(a)と同じ、Q:2価の連結基。
【0020】
ポリフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子の2個ないし全部がフッ素原子に置換された部分フルオロ置換またはパーフルオロ置換アルキル基を意味する。上記Rf基で示されるポリフルオロアルキル基は、直鎖構造または分岐構造のいずれであってもよい。Rf基で示されるポリフルオロアルキル基は、主鎖の鎖長(側鎖を含まない炭素数)が炭素数1〜6であり、直鎖構造または分岐構造のアルキル基に対応する、部分フルオロ置換またはパーフルオロ置換アルキル基である。具体的には、たとえば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、イソプロピル、3−メチルブチルなどの直鎖構造または分岐構造のアルキル基に対応する、部分またはパーフルオロ置換アルキル基が挙げられる。
また、ポリフルオロエーテル基とは、上記ポリフルオロアルキル基中の1箇所以上の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基を意味する。
【0021】
上記のうちでも、R基のパッキングを上げる観点からR基は直鎖構造が好ましい。同様の理由から、分岐構造である場合には、分岐部分がR基の末端部分に存在する場合が好ましい。
また、R基としては、ポリフルオロアルキル基が好ましい。さらに、R基は、実質的に全フッ素置換されたパーフルオロアルキル基(R)が好ましく、主鎖の鎖長が炭素数1〜6のR基であることがより好ましく、直鎖のR基であることが特に好ましい。
【0022】
式中のQは単結合または2価の連結基である。Qは単結合または2価の連結基であれば適宜選択可能であり、これらに限定されるものではない。
【0023】
2価の連結基としては、直鎖状もしくは分岐状の2価のアルキレン基またはアルケニレン基、2価のオキシアルキレン基、6員環芳香族基、4〜6員環の飽和もしくは不飽和の脂肪族基、5〜6員環の複素環基、または下記式(α)で表される2価の連結基が挙げられる。これら2価の連結基は組み合わされていても良く、環基は縮合していても良い。
−Y−Z− (α)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
Y:直鎖状もしくは分岐状の2価のアルキレン基、6員環芳香族基、4〜6員環の飽和もしくは不飽和の脂肪族基、5〜6員環の複素環基、またはこれらの縮合した環基。
Z:−O−、−S−、−CO−、−COO−、−COS−、−N(R)−、−SO−、−PO−、−N(R)−COO−、−N(R)−CO−、−N(R)−SO−、−N(R)−PO−。
R:水素原子、炭素数1〜3のアルキル基。
【0024】
上記の連結基は、置換基を有していてもよく、置換基の例としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、水酸基、シアノ基、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、ブトキシ、オクチルオキシ、メトキシエトキシなど)、アリーロキシ基(フェノキシなど)、アルキルチオ基(メチルチオ、エチルチオなど)、アシル基(アセチル、プロピオニル、ベンゾイルなど)、スルホニル基(メタンスルホニル、ベンゼンスルホニルなど)、アシルオキシ基(アセトキシ、ベンゾイルオキシなど)、スルホニルオキシ基(メタンスルホニルオキシ、トルエンスルホニルオキシなど)、ホスホニル基(ジエチルホスホニルなど)、アミド基(アセチルアミノ、ベンゾイルアミノなど)、カルバモイル基(N,N−ジメチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイルなど)、アルキル基(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、ブチル、2−カルボキシエチル、ベンジルなど)、アリール基(フェニル、トルイルなど)、複素環基(ピリジル、イミダゾリル、フラニルなど)、アルケニル基(ビニル、1−プロペニルなど)、アルコキシアシルオキシ基(アセチルオキシ、ベンゾイルオキシなど)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなど)、および重合性基(ビニル基、アクリロイル基、メタクロイル基、シリル基、桂皮酸残基など)などが挙げられる。
【0025】
は単結合または2価の連結基であれば適宜選択可能であるが、中でも単結合、直鎖状もしくは分岐状の2価のアルキレン基、下記式(α’)で表される基、またはこれらの基の組合せが好ましい。
−Y−Z− (α’)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:直鎖状もしくは分岐状の2価のアルキレン基、または6員環芳香族基。
:−N(R)−、−SO−、−N(R)−SO−。
R:水素原子、炭素数1〜3のアルキル基。
【0026】
式(a)で表される化合物のうちでも好適なものは、下記式(a1)で表される。
CH=C(R1)−COO−(CH−R (a1)
式中、p:0〜6の整数、
、R:式(a)と同じ。
【0027】
上記のうちでも、Rが炭素数1〜6の直鎖のパーフルオロアルキル基(R)である構造の化合物が特に好適である。このような化合物は、具体的には、
CH=CH−COO−(CH−C13
CH=C(CH)−COO−(CH−C13
CH=CH−COO−(CH−C
CH=C(CH)−COO−(CH−C
などである。
【0028】
重合単位(B)は、下記式(b)で表される化合物または不飽和結合を有する環状のカルボン酸無水物から導かれる。
不飽和結合を有する環状のカルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、等が挙げられる。
CH=C(R1)−COO−Q−COOH (b)
式中、R:前記式(a)と同じ、Q:Qは、2価の連結基であれば適宜選択可能であり、前記式(a)におけるQと同様のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
上記化合物(b)のうちでも、下記式(b1)で表される化合物が好ましい。
CH=C(R)−COO−Q−COOH (b1)
式中、Rは前記と同じであり、Qは、アルキレン基、フェニレン基、シクロヘキシレン基、エステル結合、アミド結合、−CO−、−O−、−(CHCHO)−、−(CHCHCHO)−、またはこれらの組合せである(ここでのnは1〜30の整数)。これらの基は、たとえば水酸基、アリール基等の置換基を有していてもよい。Qの具体例を表1に示す。
【表1】

上記表1におけるn=1〜10、m=1〜5。
【0030】
本発明の這い上がり防止剤に含まれる重合体は、重合体の撥IPA性能を保持し、良好なフラックスの這い上がり防止性能を得ることができるという観点から、重合単位(A)が式(a1)で表される化合物から導かれ、かつ重合単位(B)が式(b1)で表される化合物または無水マレイン酸から導かれるものであるのが好ましい。
【0031】
重合体の重合単位(A)の含有量は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。重合単位(A)の含有量が90質量%以上であれば、撥IPA性能を保持し、這い上がり防止性能を保持することができる。
【0032】
重合体の重合単位(B)の含有量は、好ましくは0.1〜10質量%であり、より好ましくは0.5〜5質量%である。上記範囲内であると、共重合体の撥IPA性能が向上し、良好なフラックスの這い上がり防止性能を得ることができる。含有量が少なすぎると這い上がり防止性能が低く、含有量が多すぎると共重合体の溶剤への溶解性が著しく低くなる。
なお、本発明の這い上がり防止剤に含まれる重合体において、各重合単位の含有量は、実質的に、重合仕込み量とみなすことができる。また、重合単位(A)または(B)において、重合単位が2種以上からなる場合には、上記含有量は、各重合単位の合計でのものである。
【0033】
本発明の這い上がり防止剤に含まれる重合体は、上記のような重合単位(A)および(B)とともに、他の重合単位(C)を含んでいてもよい。他の重合単位(C)は、上記(A)および(B)を形成する化合物と共重合しうる化合物から導かれる重合単位であれば特に限定されない。この化合物として、通常、重合性基を有する化合物(c)が挙げられ、具体的には、スチレン系化合物(c1)、上記重合単位(A)および(B)について例示した化合物以外の(メタ)アクリル酸系化合物(c2)などの不飽和基を有する化合物(c)およびさらに他の重合性化合物(c3)が挙げられる。このような化合物(c)の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0034】
上記(c1)としては、下記式で表わされるスチレン系化合物が挙げられる。
【化1】


式中、R:−H、CH、−Cl、−CHO、−COOH、−CHCl、−CHNH、−CHN(CH)、−CHN(CH)Cl、−CHNHCl、−CHCN、−CHCOOH、−CHN(CHCOOH)、−CHSH、−CHSONaまたは−CHOCOCHである。
【0035】
上記(c2)としては、アクリル酸、メタクリル酸および下記式で表わされる(メタ)アクリレートが挙げられる。
CH=C(R)−COO−R
式中、R:水素原子またはメチル基であり、R:−CH−CHCHN(CH)、−(CH)H (m=2〜20)、−CHCH(CH)、−CH−C(CH)−OCO−Ph、−CHPh、−CHCHOPh、−CHN(CHCl、−(CHCHO)CH(m=2〜20)、−(CH)−NCO、
【化2】


である。
【0036】
上記(c2)としては、さらに、アクリル酸ジエステル等の(メタ)アクリル酸のポリエステルおよび下記式で表わされる化合物なども挙げられる。
CH=C(R)−CONH−R
式中、R:水素原子またはメチル基であり、R:−C2m+1(m=2〜20)、−Hである。
【0037】
さらに他の重合性化合物(c3)としては、上記(c1)および(c2)以外のビニル化合物、たとえば塩化ビニル(CH=CHCl)、アクリロニトリル(CH=CHCN)などが挙げられる。
また、重合性化合物(c3)としては、以下のようなエポキシ基を有する不飽和エステルも挙げられる。
【化3】

【0038】
本発明の這い上がり防止剤に含まれる重合体は、重合単位(C)として、上記のような化合物(c)の1種または2種以上から導かれる重合単位を含むことができ、その種類によっても異なるが、重合単位(C)全量で、50質量%以下、好ましくは20質量%以下の量で含むことができる。
【0039】
本発明の這い上がり防止剤に含まれる重合体の分子量は、十分な這い上がり防止性能を発揮するために重量平均分子量が4万以上が好ましく、10万以上がより好ましい。分子量が大きすぎると溶媒への溶解性、重合物の取り扱いが困難になるため、最大でも200万までが好ましく、50万以下がより好ましい。なお、本発明における重量平均分子量とは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー;カラム充填剤:スチレンジビニルベンゼン共重合体,移動層:アサヒクリンAK−225(商品名))により測定されるポリメチルメタクリレート(標準物質)換算分子量である。
【0040】
本発明の這い上がり防止剤に含まれる重合体は、上記のような重合単位(A)および(B)、付加的な重合単位(C)を含む以外は、重合形態などについては特に制限されない。重合形態は、ランダム、ブロック、グラフトなどのいずれでもよく、特に制限されないが、通常、ランダム共重合体が好ましい。
【0041】
その製造方法についても特に制限されないが、本発明では、通常、各化合物中の不飽和基に基づき付加重合させることができる。重合に際しては、公知の不飽和化合物の付加重合条件を適宜に採択して行うことができる。たとえば重合開始源としては、特に限定されないが、有機過酸化物、アゾ化合物、過硫酸塩等の通常の開始剤が利用できる。
【0042】
本発明の這い上がり防止剤に含まれる重合体を重合する際には、重合原料の上記化合物とともに、本発明の効果を損ねない範囲において、所望されるその他の成分を使用してもよい。その他の成分としては、上記開始剤、さらには重合調整剤、重合触媒、反応性の染料および帯電防止剤等が挙げられる。このようなその他の成分の重合体中の合計含有率は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0043】
本発明の這い上がり防止剤は、上記重合体を含み、通常、該重合体が溶媒に溶解または分散した液状組成物である。このため、重合体を後述する溶媒を重合媒体とする溶液重合で製造し、重合により液状組成物を直接調製することは好ましい態様である。重合原料の化合物が、塩化ビニルなどのガスである場合には、圧力容器を用いて、加圧下に連続供給してもよい。
【0044】
組成物を形成する溶媒は、重合体を溶解または分散できるものであればよく、特に限定されず、各種有機溶媒、水、またはこれらの混合媒体などが挙げられる。重合体は、特にフッ素系溶媒に溶解しやすく、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)およびパーフルオロカーボン(PFC)の使用も可能である。社会的環境問題を考慮すると、ハイドロフルオロカーボン(HFC)またはハイドロフルオロエーテル(HFE)などが好ましい。使用可能なフッ素系溶媒の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0045】
m−キシレンヘキサフルオリド(以下、m−XHFと記す。)、
p−キシレンヘキサフルオリド(以下、p−XHFと記す。)、
CFCHCFCH
CFCHCFH、
13OCH
13OC
OCH
OC
13H、
CFHCFCHOCFCFH、
CFCFHCFHCFCH
CF(OCFCFn(OCFmOCFH(m、nはいずれも1〜20)、
OCH
15OCH
OCH
OC
CF(CFOC
(CFCFCFOC
CHCH
CFCHOCFCFCFH、
CFCFCHCl
CClFCFCHClF
およびこれらの混合物。
たとえばCFCFCHClとCClFCFCHClFとの混合物がアサヒクリンAK−225(旭硝子(株)製)の商品名で、CF(CFOCと(CFCFCFOCとのハイドロフルオロエーテル混合物がノベックHFE7200(3M社製)の商品名で入手可能である。
【0046】
本発明の這い上がり防止剤は、通常、上記重合体を好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜1質量%の濃度で含む。重合体の濃度がこの範囲内であれば、這い上がり防止性能を十分に発揮でき、組成物の安定性も良好である。なお這い上がり防止剤中の上記重合体濃度は、最終的濃度であればよく、たとえば這い上がり防止剤を重合組成物として直接調製する場合には、重合直後の重合組成物の重合体濃度(固形分濃度)が10質量%を超えていてもなんら差し支えない。高濃度の重合組成物は、最終的に上記好ましい濃度となるように適宜に希釈することができる。
【0047】
本発明の這い上がり防止剤は、組成物の安定性、フラックス這い上がり防止性能または外観等に悪影響を与えない範囲であれば、任意の所望成分を含んでいてもよい。このような成分としては、たとえば被膜表面の腐食を防止するためのpH調整剤、防錆剤、組成物を希釈して使用する場合に液中の重合体の濃度管理をする目的や未処理部品との区別をするための染料、染料の安定剤、難燃剤、消泡剤、および帯電防止剤等が挙げられる。
【0048】
本発明では、電子部材のフラックスで処理する部分に、本発明の這い上がり防止剤からなる被膜を有し、はんだ用フラックス這い上がり防止性能を有する電子部材が提供される。
また、本発明では、電子部材の表面のフラックスで処理する部分の一部または全部に、上記のような這い上がり防止剤の被膜を形成し、該被膜の一部または全部をはんだ用フラックスで処理した後、はんだ付けする、電子部材のはんだ付け方法が提供される。
この際には、這い上がり防止剤を目的および用途に応じて、任意の濃度に希釈し、電子部材に被覆することができる。被覆方法としては、一般的な被覆加工方法が採用できる。たとえば、浸漬塗布、スプレー塗布、または本発明の組成物を充填したエアゾール缶による塗布等の方法がある。
【0049】
電子部材としては、具体的に、コネクタ、スイッチ、ボリューム、または半固定抵抗等の電気接点を有する電子部品、電気接点を有するプリント基板などが挙げられる。本発明の這い上がり防止剤で被覆される箇所としては、プリント基板にコネクタ等の電子部品をはんだ付けする際に、フラックスの這い上がりが起こりうる箇所が挙げられる。より詳しくは、プリント基板に取り付けるコネクタ等の電子部品の付け根部分、プリント基板の電子部品本体が実装される側の基板表面、または電子部品を取り付けるためのプリント基板に設けられたスルーホール等が挙げられる。また、電子部品またはプリント基板の表面全体に本発明の這い上がり防止剤を被覆してもよく、上記以外の被覆方法も採用できる。たとえば、被覆効率のよい全浸漬または半浸漬による方法も採用できる。
【0050】
這い上がり防止剤塗布後は、溶媒の沸点以上の温度で乾燥を行うことがより好ましい。無論、被処理部品の材質などにより、加熱乾燥が困難な場合には、加熱を回避して乾燥すべきである。なお、加熱条件は、塗布する組成物の組成や、塗布面積等に応じて選択すればよい。
【0051】
本発明の這い上がり防止剤は、電子部材(電子部品またはプリント基板)の表面に被膜を形成させ、はんだ用フラックスの這い上がりを防止する。したがって本発明により、フラックスによる腐食が防止された電子部材(電子部品またはプリント基板)が提供される。
【0052】
上記により被膜(乾燥)が表面に形成された電子部材(電子部品またはプリント基板)は、次にはんだ用フラックスで処理(例えば、塗布)され、その後、はんだ付けが行われる。フラックスの処理方法は特に制限されない。例えば、塗布、浸漬が挙げられる。はんだ付けの方法は特に制限されることなく、従来公知の方法に従って実施される。
フラックス及びはんだの種類についても、特に制限されることはなく、電子部材のはんだ付けに常用されているものが使用可能である。
【0053】
そして該電子部材(電子部品またはプリント基板)は種々の電気製品の材料として用いられる。該電気製品は、フラックスによる腐食が原因で起こる障害が防止された、優れた品質の電気製品である。該電気製品の具体例としては、コンピュータ用機器、テレビ、オーディオ用機器(ラジオカセット、コンパクトディスク、ミニディスク)等に用いられる機器用、携帯電話などが挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断わりのない限り、以下の実施例の記載において「%」で表示されるものは「質量%」を表すものとする。
以下の調製例で使用した重合モノマーを表2に示す。これらの化合物は、すべて市場から試薬として入手することができる。
【0055】
【表2】

ただし、式中のPhはフェニル基、tBuはt‐ブチル基を意味する。
【0056】
(実施例1〜10)
<重合組成物の調製>
密閉容器に、モノマー、重合溶剤(m−XHF)、開始剤のジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオナート)(V−601:和光純薬工業(株)製商品名)を、それぞれ表3に記載の仕込み比で仕込み、70℃で26時間反応を行い、重合組成物1〜10を得た。以下のように求めた各重合組成物の各重合体の分子量を表3に示す。
以下において、重合組成物を希釈する際には、反応により得られた所定量の重合組成物を120℃で2時間乾燥させた後の乾燥残分を重合体として秤量し、重合組成物の重合体濃度%(質量%)を求めた。
【0057】
[重量平均分子量の測定]
重合組成物を、重合体の濃度が約1%になるように、アサヒクリンAK−225(旭硝子(株)製)を用いて希釈し、測定サンプルとした。昭和電工株式会社製Shodex GPC−104を用いて、以下の条件でGPCを測定した。
<GPC測定条件>
Separtion Column:LF−604(充填剤:スチレンジビニルベンゼン共重合体,昭和電工株式会社製)×2
Default Column:KF600RH(充填剤:なし,昭和電工株式会社製)×2
Clean Liquid:AK−225
Flow Rate:0.2ml/min
標準物質:ポリメチルメタクリレート
【0058】
(比較例1〜8)
表4に記載の仕込みモノマーに代えた以外は、実施例1と同様にして比較重合組成物1〜8を得た。実施例と同様にして求めた各重合組成物の各重合体の分子量を表4に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
(試験1)撥IPA性
上記実施例および比較例で得られた各重合組成物を、HFE7200(3M社製)で希釈し、重合体濃度0.05%の各はんだ用フラックス這い上がり防止剤を調製した。
このはんだ用フラックス這い上がり防止剤について、IPAに対する接触角を測定し、撥IPA性を評価した。結果を上記表3、表4に示す。IPA接触角の測定方法は以下のとおりである。IPA接触角の単位は「°」である。
[IPA接触角の測定]
銀めっき加工(3μm)を施したテストピースをフラックス這い上がり防止組成物の各々に、常温で1分間浸漬後、取出して室温で乾燥させて、テストピースに這い上がり防止剤の被膜を形成した。該銀めっき板に、2−プロパノール(IPA)を滴下してIPA接触角の測定を行った。IPA接触角の測定には、自動接触角計OCA−20[dataphysics社製]を用いた。
【0062】
表3、4に示す結果から明らかなように、重合単位(B)を含有しない重合体を含む比較例2〜8は、IPA接触角が低い。このことからフラックス這い上がり防止性能に劣ると考えられる。
これに対して、実施例1〜10は、従来のフラックス這い上がり防止組成物(比較例1)と同等、またはそれ以上のIPA接触角を有することから、従来のものと同等またはそれ以上のフラックス這い上がり防止効果を有すると考えられる。
また、実施例1〜10は低濃度でも充分な性能を示した。
【0063】
(試験2)
実施例1、6、8および10と、比較例1から3で得られた重合組成物を、HFE7200で希釈し、重合体濃度0.05%の極低濃度の希釈液を調製し、それらのフラックスの這い上がり性能を検討した。
具体的な這い上がり性能評価の一例として、サイド型コネクター05FDZ−ST(S)(LF)(SN)(日本圧着端子製)を用い、いくつかの試験的条件を設定する方法により、以下のような試験を実施した。
コネクター部品全体を上記希釈液に1分間浸漬し、コネクター部品を希釈液から取り出した後室温で30分間乾燥させた。コネクター部品のリード線の先端からリード線の付け根までフラックスに10秒間漬けた。リード線をフラックスから引き上げた後、コネクター部品をスルーホール用の基板にマウント(はんだ付け前で、スルーホールに部品を差し込んだだけの状態)した。コネクター部品を基板にマウントした状態で、基板のはんだ付け面(リード線の足が出ている面)をフラックスに漬けた。その後、245℃で溶融させた共晶はんだ(H63A-B20 千住金属工業株式会社)に、はんだ付け面を漬け、はんだ付けを行った。はんだ付け後(基板にはコネクター部品がはんだ付けされている状態)、コネクター部品を解体して、コネクター部品の内部にフラックスが這い上がっているかどうか、フラックスの浸入具合を目視で確認した。
上記のようなフラックスの這い上がり性能評価の結果を表5に示す。
なお、希釈液で処理していないコネクター部品についても上記と同様にして這い上がり性能を評価した。表5において「未処理」としてその結果を示す。
表5に示す結果から明らかなように、未処理のコネクター部品や比較例2〜3は這い上がりが認められた。
これに対して、本発明の這い上がり防止剤は、低濃度でも充分な這い上がり防止性能を示すことが確認できた。
【0064】
【表5】

○:這い上がり無
×:這い上がり有

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(a)で表される化合物から導かれる少なくとも1種の重合単位(A)と、下記式(b)で表される化合物または不飽和結合を有する環状のカルボン酸無水物から導かれる少なくとも1種の重合単位(B)とを含有する重合体を含むはんだ用フラックス這い上がり防止組成物:
CH=C(R1)−COO−Q−R (a)
式中、R:水素原子またはメチル基、
:単結合または2価の連結基、
:主鎖の鎖長が炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基またはポリフルオロエーテル基を示す。
CH=C(R1)−COO−Q−COOH (b)
式中、R:前記式(a)と同じ、Q:2価の連結基。
【請求項2】
前記R基が炭素数1〜6の直鎖のパーフルオロアルキル基またはパーフルオロエーテル基である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記重合体中の前記重合単位(B)の割合が10質量%以下である請求項1、2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
電子部材の少なくともフラックスで処理する部分に、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物からなる被膜を有し、はんだ用フラックス這い上がり防止性能を有する電子部材。
【請求項5】
電子部材の少なくともフラックスで処理する部分に、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物からなる被膜を形成し、該被膜の上にはんだ用フラックスを塗布した後、はんだ付けする、電子部材のはんだ付け方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法ではんだ付けした電子部材を含む電気製品。

【公開番号】特開2010−40916(P2010−40916A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204289(P2008−204289)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000108030)AGCセイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】