説明

ひずみ測定装置

【課題】シリコン基板からなるひずみ測定装置によりひずみを測定する場合、シリコン基板の剛性が大きいため、ひずみ感度のばらつきが大きい。
【解決手段】シリコン基板の主面に少なくともひずみ検出部が設けられており、前記ひずみ検出部の上面に絶縁膜、さらにその上面に保護層が設けられており、前記保護層には、ひずみ検出部と電気的に接続された電気配線が設けられ、かつ、前記保護層の表面に実装面が設けられることにより達成される。
【効果】剛性が大きいシリコン基板を介すことなくひずみ検出部を被測定物に近づけられるため、ひずみ追従性が安定する領域が拡大され、ひずみ感度のばらつきが低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物体のひずみを計測することが可能である装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象の変形(ひずみ)を測定する技術として、金属箔の抵抗値がひずみによって変化することを利用した金属箔ひずみゲージを用いる技術が知られている。このひずみゲージを測定対象に接着することで測定対象のひずみに追従して金属箔の長さを変化させ、その結果変化する金属箔の抵抗値を検出することで測定対象のひずみ測定を可能にする技術である。
【0003】
しかしながら、これらを電池駆動しようとすると、消費電力が大きいために電池がすぐに消費してしまうという問題があった。そこで、発明者らは、ひずみ感応抵抗体を低消費電力化するために、ひずみ感応抵抗体として単結晶シリコンに不純物を導入した不純物拡散抵抗(以下、拡散抵抗)を用いた半導体力学量測定装置を考案した(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−114443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリコン基板からなるひずみ測定装置によりひずみを測定する場合、シリコン基板の剛性が大きいため、ひずみ検出部のひずみ感度のばらつきが大きくなってしまうことが懸念される。特許文献1に記載のひずみ測定装置では、シリコン基板の拡散抵抗を形成した主面の反対面側を被測定物に取り付けているため、シリコン基板の剛性がひずみ検出の感度に大きく影響を与えてしまう。
【0006】
本発明の目的は、低い消費電力で駆動し、かつ高精度な測定が可能であり、ひずみ感度のばらつきが小さく、かつ信頼性の高いひずみ測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は、被測定物に取り付けてひずみを測定するひずみ測定装置において、半導体基板と、前記半導体基板の一主面に設けられた不純物拡散層を有するひずみ検出部と、前記一主面上に設けられ、樹脂材料からなる保護層と、前記保護層内に設けられ、前記ひずみ検出部と電気的に接続された配線とを備え、前記保護層は、前記半導体基板と反対側に、被測定物または実装部材に取り付ける実装面を有することを特徴とするひずみ測定装置により達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、剛性が大きいシリコン基板を介すことなくひずみ検出部を被測定物に近づけられるため、ひずみ追従性が安定する領域が拡大され、ひずみ感度のばらつきが低減され、信頼性の高いひずみ測定装置を提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、本発明における第1の実施形態を図1,図2により説明する。
【0011】
本実施形態によるひずみ測定装置の主要部平面構造を図1に、図1のA−Aの断面構造を図2に示す。
【0012】
図1,図2に示す本実施形態のひずみ測定装置100においては、単結晶の半導体基板である半導体基板1の主面1aに少なくともひずみ検出部2が設けられ、ひずみ検出部2は、主として不純物拡散抵抗から形成されている。さらに、ひずみ検出部2は4つの不純物拡散抵抗からなるホイートストンブリッジ回路から形成されることにより、温度ドリフトによる出力変動を除去することができ、ひずみを高精度に検出することが可能である。
【0013】
また、ひずみ検出部2上には、絶縁膜8が設けられている。なお、図示していないが、ひずみ検出部2と絶縁膜8の間には、必要に応じて電気信号を取り出すための配線、これらを絶縁するための絶縁材料などの薄膜群が形成される。本実施例においては、半導体基板1と、半導体基板1の主面1a上に形成されたひずみ検出部2,絶縁膜8、その他の薄膜群を総称してセンサチップ200と呼ぶ。なお、センサチップ200表面には基板パッド9が設けられており、ひずみ検出部2と電気的に接続されている。
【0014】
絶縁膜8に接するように有機フィルムからなる保護層3が設けられており、保護層3の内部には配線4が設けられている(配線4はA−A断面上に存在するものではないが、説明の便宜上そのA−A断面への投影を図2に示す)。この配線4は基板パッド9と保護層パッド10を電気的に接続する。保護層パッド10からリード線などを引き出し、データロガーなどの外部の測定装置本体に接続してひずみを測定する。保護層3内に配線4を備えることで、配線4の断線や配線4同士の接触を防止することが出来る。保護層3は、その上部にひずみ検出部が取り付けられ配線4を有さない中心部(第一の領域)3aと、中心部3aの周囲で配線を内包し、半導体基板を有する面に保護パッドを備えている周辺部(第二の領域)3bとを有している。配線4はひずみ検出部2が取り付けられる中心部
3aを避けてその周辺部3bに配置することで、配線4によるひずみ感度のばらつきを低減できる。保護層3の半導体基板1と反対側の表面には実装面11が設けられており、被測定物6または実装板(図示せず)等の実装部材にこの実装面11を向けて取り付けられる。実装面11は平坦であることが望ましい。
【0015】
本実施例においては、センサチップ200と配線4が設けられた保護層3を総称してひずみ測定装置100と呼ぶ。
【0016】
第1の実施形態によるひずみ測定装置を被測定物に設けた場合の主要部断面図を図3に示す。ひずみ測定装置100の実装面11が、接着層5を介して被測定物6の表面が接着されている。これにより、被測定物6のひずみ変化によりひずみ測定装置100にもひずみが生じ、ひずみ検出部2の出力変化からひずみ量を換算することができる。例えば接着層5は、エポキシ系接着材やフェノール系の接着剤とすることができる。
【0017】
次に、本実施形態による作用,効果を説明する。
【0018】
半導体基板1表面に形成した不純物拡散層をひずみ感応抵抗体とし、不純物拡散層のピエゾ抵抗効果を利用してひずみ計測するひずみ測定装置の場合、半導体基板1の剛性が大きいため、ひずみ検出部2のひずみ感度のばらつきが大きくなってしまうことが懸念される。本発明によるひずみ測定装置においては、半導体基板1の主面にひずみ検出部2を形成し、主面1a上に配線4を保護するための保護層3が設けられ、保護層3の実装面11を被測定物に貼り付けることにより、剛性が大きい半導体基板1を介すことなくひずみ検出部2を被測定物6に近づけられるため、ひずみ追従性が安定する領域が拡大され、ひずみ感度のばらつきを低減することが可能である。
【0019】
なお、保護層3のヤング率が高い場合はひずみ追従性が上がり、ヤング率が低い場合はひずみ感度のバラつきが低減される。また、実装面11が平坦であることにより、ひずみ感度のばらつきが低減される。また、ひずみ検出部2が半導体基板1の中央付近に配置されていることにより、ひずみ感度のばらつきが低減される。また、保護層3に樹脂材料を用いることにより、保護層界面と接着剤における接着強度が向上する。さらに、図4のように、センサチップ200全体が樹脂などの被覆材12で覆われていることにより、対候性が向上する。
【0020】
以上のように、半導体基板1の主面にひずみ検出部2を形成し、主面上に配線を保護するための保護層3が設けられ、保護層3を被測定物に貼り付けることにより、信頼性の高いひずみ測定装置が提供される。
【0021】
また、これらのひずみ測定装置100は半導体基板である半導体基板1を基に形成するため、半導体プロセスを用いて作製することができる。半導体プロセスにおいては、通常、半導体基板1の一主面のみに素子等が形成される。本発明のひずみ検出装置では、ひずみ検出部2及びひずみ検出部2から信号を取り出すための基板パッド9を同じ主面に形成しているので、製造工程が簡略化され、低価格・大量供給に適したセンサチップ200となる。この場合において、信号を取り出す基板パッド9は、被測定物6を向いた主面に存在することとなるが、保護層3内に配線4を設けることにより、センサチップ200の被測定物6側の主面から信号を取り出すことが可能になる。仮に、信号を取り出すパッドを半導体基板1の側面やひずみ検出部2と反対の主面に形成する場合には、製造工程を複雑化し、製造コストが増大する。
【0022】
また、センサチップ200は半導体他のCPU等のデジタル回路やメモリ回路,通信回路等と混載することが可能である。また、半導体製造設備を用いて高精度且つ低価格・大量供給を行うことができるという効果もある。
【0023】
なお、図3においてはひずみ測定装置100を被測定物6表面に設けた場合を示したが、ひずみ測定装置の一部または全体を埋め込むように設けても同様の効果が得られる。
【実施例2】
【0024】
次に、本発明における第2の実施形態を図5により説明する。図5は、第2の本実施形態によるひずみ測定装置の主要部断面構造と平面構造を示しており、第1の実施形態と共通の部分には同一の符号を付している。
【0025】
第1の実施形態による図1のひずみ測定装置100においては、接着材10を設ける接着領域が保護層3の下面全体に亘っているのに対し、図5においては、接着領域はひずみ検出部2を有する保護層中心部3aのみで、配線を有する周辺部3bは貼り付けない構造となっている。本実施形態では、第1の実施形態と同様の効果が得られ、周辺部3bを被測定物6に取り付けなく、被測定物6に対して滑ることが可能とすることにより、保護層周辺部3bに伝わるひずみ及び配線4に加わるひずみが軽減され、配線4の断線を防止することができる。なお、周辺部3bと被測定物6の間は、間隙を有していても接していてもいずれでもよい。
【実施例3】
【0026】
本発明における第3の実施形態を図6により説明する。図6は、第3の本実施形態によるひずみ測定装置の主要部断面構造と平面構造を示しており、第1の実施形態と共通の部分には同一の符号を付している。
【0027】
第1の実施形態による図1のひずみ測定装置100においては、半導体基板1の保護層3は一体となっているのに対し、図6に示す本実施形態のひずみ測定装置101においては、ひずみ検出部2の下に保護層3の中心部(第一の領域)3aとして別体で緩衝層7が設けられている。緩衝層7はセンサチップのひずみ検出部2下部全体を覆い、配線4及び基板パッド9にはかからないようにする。本実施形態では、第1の実施形態と同様の効果が得られ、さらに、緩衝層7を保護層3の周辺部3bよりもヤング率の小さいものにすることにより、保護層3の周辺部3b及び配線4に加わるひずみが軽減され、配線4の断線を防止することができる。この緩衝層7の部分を空洞にして、そこに接着剤を充填し被測定物に貼り付ける構造としてもよい。また、緩衝層7が別体でありかつ緩衝層7が周辺部
3bと独立して変形可能にすれば、周辺部3b及び配線4に伝わるひずみが極めて小さくなり、配線4が保護される。
【0028】
緩衝層7の構造としては、図7のようにひずみ検出部2下部のみを覆う方法と、図8のようにひずみ検出部2の下部を覆いながら、保護層全体を横切るように設ける方法がある。図7の構造は、半導体プロセスを用いて作製することができるので、作製方法が簡便という利点があり、図8の構造は、保護層3に加わるひずみをより軽減することができるという利点がある。
【実施例4】
【0029】
次に、本発明における第4の実施形態を図9により説明する。図9は、第4の本実施形態によるひずみ測定装置の主要部断面構造を示しており、第3の実施形態と共通の部分には同一の符号を付している。
【0030】
第3の実施形態による図6のひずみ測定装置101においては、保護層3と緩衝層7の下面は同一平面上にあるのに対し、図9に示す本実施形態のひずみ測定装置102においては、保護層3の下面は緩衝層7の下面よりも上にある形態となっている。緩衝層7が周辺部3bに対して突出して緩衝層7のみが被測定物に接着されることにより、保護層3にはひずみが加わらず、配線の断線を防止することができる。
【0031】
なお、この実施例では、保護層中心部3aである緩衝層7と保護層周辺部3bを別部材としているが、同部材として保護層の中心部3aと周辺部3bとを一体形成し、中心部
3aの実装面11側を周辺部3bよりも突出させる形態としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施形態による力学量測定装置の主要部断面構造を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態による力学量測定装置の主要部平面構造を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による力学量測定装置を被測定物に設けた例を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態による力学量測定装置の主要部断面構造を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態による力学量測定装置の主要部平面構造を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態による力学量測定装置の主要部平面構造を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施形態による力学量測定装置の主要部断面構造を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施形態による力学量測定装置の主要部平面構造を示す図である。
【図9】本発明の第4の実施形態による力学量測定装置の主要部断面構造を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1…半導体基板、1a…主面、2…ひずみ検出部、3…保護層、3a…中心部(第一の領域)、3b…周辺部(第二の領域)、4…配線、5…接着層、6…被測定物、7…緩衝層、8…絶縁膜、9…基板パッド、10…保護層パッド、11…実装面、12…被覆材、100,101,102…ひずみ測定装置、200…センサチップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物に取り付けてひずみを測定するひずみ測定装置において、
半導体基板と、
前記半導体基板の一主面に設けられた不純物拡散層を有するひずみ検出部とを備え、
前記不純物拡散層を設けた一主面側を被測定物または実装部材に向けて取り付ける実装面側としたことを特徴とするひずみ測定装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記一主面上に設けられた樹脂材料からなる保護層を備え、
前記保護層は、被測定物または実装部材に取り付ける実装面を有することを特徴とするひずみ測定装置。
【請求項3】
被測定物に取り付けてひずみを測定するひずみ測定装置において、
半導体基板と、
前記半導体基板の一主面に設けられた不純物拡散層を有するひずみ検出部と、
前記一主面上に設けられた樹脂材料からなる保護層と、
前記保護層内に設けられ、前記ひずみ検出部と電気的に接続された配線とを備え、
前記保護層は、前記半導体基板と反対側に、被測定物または実装部材に取り付ける実装面を有することを特徴とするひずみ測定装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記半導体基板は、前記一主面に、前記ひずみ検出部と電気的に接続される基板パッドを有し、
前記保護層は、前記半導体基板よりも面積が大きく、前記半導体素子を設けた面に、外部に電気的に接続するための保護層パッドを有し、
前記配線は、前記基板パッドから前記保護層パッドに電気的に接続されていることを特徴とするひずみ測定装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記保護層は、
その上部に前記半導体基板の前記ひずみ検出部が取り付けられる第一の領域と、
その上部に前記半導体基板の前記基板パッドが存在し、前記保護層パッドと前記配線を有する第二の領域とを備えたことを特徴とするひずみ測定装置。
【請求項6】
請求項3において、
前記保護層は、
その上部に前記半導体基板の前記ひずみ検出部が取り付けられる第一の領域と、
その内部に前記配線を有する第二の領域とを備えたことを特徴とするひずみ測定装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記第一の領域は、前記被測定物または前記実装部材に取り付けられ、
前記第二の領域は、前記被測定物または前記実装部材との間に間隙を有していることを特徴とするひずみ測定装置。
【請求項8】
請求項6において、
前記第一の領域は、前記実装面側が前記第二の領域よりも突出していることを特徴とするひずみ測定装置。
【請求項9】
請求項6において、
前記第一の領域は、前記被測定物に取り付けられ、前記第二の領域は、前記被測定物に対して滑動可能であることを特徴とするひずみ測定装置。
【請求項10】
請求項6において、
前記第一の領域の材料は、前記第二の領域の材料よりもヤング率が小さいことを特徴とするひずみ測定装置。
【請求項11】
請求項6において、
前記第一の領域は、前記第二の領域よりも薄い、または前記第一の領域は空洞であることを特徴とするひずみ検出装置。
【請求項12】
請求項6において、
前記第一の領域と前記被測定物または前記実装部材との間に接着材を充填して、前記被測定物または前記実装部材に取り付けることを特徴とするひずみ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−8694(P2008−8694A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177486(P2006−177486)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】