説明

めっきポリエステル樹脂成形品及びその製造方法

【課題】めっき層の表面平滑性と密着強度に優れ、高度の耐熱性を有し、必要に応じて難燃化することができ、材料強度が顕著に優れためっき合成樹脂成形品とその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂成形品1の表面にめっき層2が形成され、照射架橋されためっきポリエステル樹脂成形品であって、ISO178に従って測定した曲げ強度が110MPa以上、めっき層表面の算術平均粗さRaが1μm以下、該樹脂成形品とめっき層との間の密着強度が2MPa以上、かつリフロー炉の260℃に設定したゾーンを60秒間通過させる条件で測定した寸法変化率が長手方向及び幅方向ともに1%以下であるめっきポリエステル樹脂成形品、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっきポリエステル樹脂成形品(Plated-Polyester Article)とその製造方法に関し、さらに詳しくは、高強度と高耐熱性を有し、めっき層の表面平滑性と密着性に優れ、しかも、必要に応じて高度に難燃化することができるめっきポリエステル樹脂成形品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス実装技術分野においては、膜形成技術、微小接続技術、封止技術などを駆使して、半導体や機能部品などを回路基板上に配置し、接続して、これらを他の構成部品とともに筺体に立体的に組み込んで、所要の性能を有する電子機器に仕上げている。ICやLSI等の半導体チップのパッケージには、各種実装方式が開発されている。
【0003】
半導体パッケージ内部において、半導体チップに形成された電極と外部配線のインナーリードとをボンディングワイヤにより電気的に接続し、エポキシ樹脂やセラミックスなどで封止するワイヤボンディング法が開発されている。近年、半導体チップの集積度が年々向上しており、それに伴って端子数が増加している。そこで、パッケージを小型化し、高密度実装するために、多層プリント配線板の技術を応用したBGA(Ball Grid Array)などのエリアアレイ端子型のパッケージが開発されている。
【0004】
さらに、最近では、電子機器の小型化、軽量化、高機能化に加えて、機器内の合理化、省スペース化、組立性向上など配線合理化の要求が高まっている。このような配線合理化の要求に対して、射出成形品の表面に立体的に配線を形成した三次元射出成形回路部品(Molded Interconnect Device;以下、「MID」と略記する)が開発されている。 MIDでは、プリント配線板とは異なり、銅箔の代わりにめっき膜(めっき層)を用いて回路形成を行っている。
【0005】
MIDを製造するには、めっきグレードの樹脂を用いて射出成形し、得られた成形品の全面を粗面化(エッチング)した後、めっき触媒を付与し、めっき膜を形成する。めっき膜の形成は、一般に無電解めっきまたは無電解めっきとその上の電気めっきとにより行われる。次いで、レジストを用いて回路形成を行う。回路形成法としては、例えば、エッチングレジストを用いたサブトラクティブ法、めっきレジストを用いたセミアディティブ法がある。
【0006】
MIDの他の製造方法としては、易めっき性樹脂を成形して三次元回路用成形品を作成した後、触媒を付与する。次に、易めっき性樹脂成形品のめっき不要部分に、難めっき性樹脂を成形して一体の成形品を作製する。最後に、フルアディティブ法によりめっきを行い、回路を形成する。成形された難めっき性樹脂は、めっきの際のめっきレジストの役割を果たす。
【0007】
このように、MIDは、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の成形品の表面に、無電解めっきや電気めっきなどの湿式めっきプロセスを利用して回路を形成したものである。MIDは、構造部材や機能部品としての機能と配線部材としての機能を併せ持った配線基板である。樹脂成形品は、射出成形法などの溶融成形法により製造するため、その形状を自在に設計することができ、生産性にも優れている。しかも、めっき層は、樹脂成形品の任意の表面に形成することができるので、回路を三次元的に形成することができ、半導体チップのパッケージとして用いるのに好都合である。
【0008】
MIDは、単に半導体チップのパッケージとして利用するだけでなく、周辺の回路部品や機構部品を一体化して1つの部品として集約することも可能であり、コンパクトで合理的な実装設計が可能となる利点もある。そのため、MIDは、電子デバイス部品用パッケージケース、配線合理化製品、ハイブリッドIC用アダプタなどの広範な分野での用途展開が図られている。
【0009】
MIDは、電子機器の限られたスペースにおいて利用されることが多いので小型化、薄肉化の傾向にある。また、MIDのめっき回路部分は、半導体パッケージとワイヤーボンディングにより電気接続され、さらに、リフロー炉はんだ付けにより、表面実装部品が実装される。
【0010】
したがって、MIDには、小型化、薄肉化に対応できる高い材料強度、強固なワイヤーボンディングができるだけのめっき層の平滑性及び密着強度、並びにリフローはんだ付け実装に耐えるだけの耐熱性を有することが求められている。
【0011】
具体的に、材料強度については、多くの場合、少なくとも0.4mm厚の部分が割れないだけの強度を有することが求められる。この強度は、IS0178に従って測定した曲げ強度が110MPa以上である場合に相当する。めっき層の平滑性については、ワイヤーボンディングによる接続信頼性の観点から、めっき層の表面粗度が算術平均粗さRaで1μm以下であることが望ましい。めっき密着性については、後記する測定方法により2MPa以上の値を示すと、接続信頼性が良好であると評価することができる。耐熱性については、鉛フリー半田の表面実装が主流になりつつあることを考慮すると、260℃の温度で変形しないだけの高度の耐熱性が必要とされる。すなわち、長さ30×幅10×厚み0.4mmの射出成形したプレートをリフロー炉の260℃に設定したゾーンを60秒間で通過させて、長手方向及び幅方向の寸法変化率がともに1%以下であれば、耐リフロー性が良好であると評価することができる。
【0012】
材料強度と耐熱性とを両立させるには、液晶ポリマー(LCP)に代表されるスーパーエンジニアリングプラスチックが用いられる。しかし、LCPは、無機フィラーの分散状態が悪いことから、エッチングした際に表面粗さのばらつきが大きくなる。めっき後の表面粗さは、めっき前のエッチング時における表面粗さを反映する。めっき層の表面粗さRaが1μm以下になるようにLCP成形品の表面をエッチングすると、密着強度が2MPa以下の部分が生じ、逆に、密着強度が2MPa以下の部分が生じないようにエッチングすると、表面粗さが1μm以上の部分が生じる(後記の比較例1〜2参照)。
【0013】
本発明者らは、ポリエステル樹脂成形品の表面にめっき層が形成され、かつ該ポリエステル樹脂成形品が電離放射線の照射により架橋されためっきポリエステル樹脂成形品を提案している(特許文献1)。具体的には、電離放射線の照射により架橋可能なポリエステル樹脂に、平均粒径1〜10μmの無機フィラーを分散した樹脂組成物を溶融成形して樹脂成形品を作製し、その表面にめっき層を形成し、かつポリエステル樹脂を電離放射線によって照射架橋しためっきポリエステル樹脂成形品である。このめっきポリエステル樹脂成形品は、めっき層の算術平均粗さRaを小さくすることができ、しかもなお、めっき層の密着強度を高くすることができる。
【0014】
しかし、特許文献1に開示されている方法に従って、ポリブチレンテレフタレート(PBT)100重量部に対して、グリシジルメタクリレート5重量部、トリアリルイソシアヌレート3重量部、ピロリン酸カルシウム(平均粒径6μm)45重量部、及び酸化防止剤0.1重量部を2軸混合機で溶融混合し、射出成形により80mm×10mm×4mmの樹脂成形品を作製し、250kGy電子線照射して曲げ試験用サンプルを作製したところ、このサンプルのIS0178に従って測定した曲げ強度は、84MPaと低いことが判明した(後記の比較例3参照)。
【0015】
樹脂成形品の曲げ強度を向上させる方法としては、アスペクト比が高い繊維状強化充填剤を用いる方法が知られている。例えば、ケイ酸カルシウムの如きアスペクト比が高い無機フィラーを配合した熱可塑性ポリエステル樹脂射出成形品をめっきする方法が提案されている(特許文献2)。そこで、ポリブチレンテレフタレート(PBT)100重量部に対して、グリシジルメタクリレート5重量部、トリアリルイソシアヌレート3重量部、ケイ酸カルシウム(平均繊維径3μm、アスペクト比10)43重量部、及び酸化防止剤0.1重量部を2軸混合機で溶融混合し、射出成形により80mm×10mm×4mmの成形品を作製し、250kGy電子線照射して曲げ試験用サンプルを得た。このサンプルについて、IS0178に従って曲げ強度を測定したところ、120MPaであり、良好な強度が得られることがわかった。しかし、同じ材料を用いて、長さ30×幅10×厚み0.4mmのプレートを射出成形し、250kGy電子線照射した試験サンプルをリフロー炉の260℃に設定したゾーンを60秒間で通過させて、その寸法変化率を測定したところ、長手方向の変化率が2.1%で、幅方向の寸法変化率が1.5%になり、耐熱性(耐リフロー性)が不足していることがわかった(後記の比較例4参照)。
【0016】
熱可塑性ポリエステル樹脂にガラス繊維を含有させた樹脂組成物を成形し、得られた成形品の表面を粗面化した後、めっき処理を施す表面金属化樹脂成形品の製造方法が提案されている(特許文献3)。しかし、ポリエステル樹脂に、単にガラス繊維を配合する方法では、めっき層の密着強度を高めるために粗面化の程度を上げる必要があり、そのため、めっき層の表面粗さが低下する。逆に、粗面化の程度を低くすると、めっき層の表面粗さが良好となるものの、めっき層の密着強度が低下する(後記の比較例5〜6参照)。
【0017】
以上のような理由から、110MPa以上の曲げ強度、Raが1μm以下のめっき平滑性、2MPa以上のめっき密着強度、及び260℃の耐熱性を併せ持つ樹脂成形品は実現されておらず、それを製造できる材料とプロセスの開発が望まれていた。
【0018】
さらに、家電や事務機器などの電子機器は、それに組み込まれた配線基板が発火・燃焼しないように、難燃化が図られている。そのため、電子機器内で使用する配線基板には、難燃性が必要とされている。難燃性として、具体的にはUL規格のUL94に規定されているV−0のような厳しい規格値を満足する高度の難燃性が要求されている。したがって、前記の如き特性を有することに加えて、必要に応じて、高度に難燃化することができるMIDなどに適しためっき樹脂成形品が求められている。
【0019】
【特許文献1】国際公開第2004/022815号パンフレット
【特許文献2】特公昭62−3173号公報
【特許文献3】特公平6−96769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、めっき層の表面平滑性と密着強度に優れ、高度の耐熱性を有し、必要に応じて難燃化することのできることに加えて、材料強度が顕著に優れためっき合成樹脂成形品とその製造方法を提供することにある。
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、電離放射線の照射により架橋することのできるポリエステル樹脂に、平均繊維径が0.1〜5μm、アスペクト比が5〜100、pHが2〜10の無機繊維を特定の体積比率で分散せしめた樹脂組成物を用いてポリエステル樹脂成形品を成形し、該ポリエステル樹脂成形品の表面にめっき層を形成し、そして、該めっき層の形成の前または後に、電離放射線を照射して該ポリエステル樹脂を架橋することにより、めっき層の表面粗さRaが1μm以下、めっき密着強度が2MPa以上、260℃の耐リフロー性を満足することに加えて、曲げ強度が110MPa以上のめっきポリエステル樹脂成形品が得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明によれば、ポリエステル樹脂成形品(A)の表面にめっき層(B)が形成され、かつ該ポリエステル樹脂成形品(A)を形成するポリエステル樹脂が電離放射線の照射により架橋されているめっきポリエステル樹脂成形品であって、
(a)ISO178に従って測定した曲げ強度が110MPa以上、
(b)めっき層(B)表面の算術平均粗さRaが1μm以下、
(c)ポリエステル樹脂成形品(A)とめっき層(B)との間の密着強度が2MPa以上、かつ
(d)リフロー炉の260℃に設定したゾーンを60秒間通過させる条件で測定した寸法変化率が長手方向及び幅方向ともに1%以下
であることを特徴とするめっきポリエステル樹脂成形品が提供される。
【0023】
また、本発明によれば、ポリエステル樹脂成形品(A)の表面にめっき層(B)が形成され、かつ該ポリエステル樹脂成形品(A)を形成するポリエステル樹脂が電離放射線の照射により架橋されているめっきポリエステル樹脂成形品の製造方法であって、
ポリエステル樹脂成形品(A)の表面にめっき層(B)が形成され、かつ該ポリエステル樹脂成形品(A)を形成するポリエステル樹脂が電離放射線の照射により架橋されているめっきポリエステル樹脂成形品の製造方法であって、
(I)電離放射線の照射により架橋可能なポリエステル樹脂に、平均繊維径が0.1〜5μm、アスペクト比が5〜100、pHが2〜10の無機繊維を5〜50体積%の割合で分散した樹脂組成物を調製する工程1;
(II)該樹脂組成物を所望の形状のポリエステル樹脂成形品(A)の形状に溶融成形する工程2;
(III)該ポリエステル樹脂成形品(A)の表面にめっき層を形成する工程3;及び
(IV)工程3の前または後に、ポリエステル樹脂成形品(A)に電離放射線を照射して架橋する工程4;
を含むことを特徴とするめっきポリエステル樹脂成形品の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高強度と高耐熱性を有し、めっき層の表面平滑性と密着性に優れ、必要に応じて高度に難燃化することができるめっきポリエステル樹脂成形品とその製造方法が提供される。本発明のめっきポリエステル樹脂成形品は、電子機器の小型化、薄肉化に対応する強度と、十分な密着強度とワイヤーボンディング可能な平滑なめっき層とを有し、しかもリフロー温度での耐熱性に優れ、必要に応じて高度の難燃性を付与することができることから、半導体パッケージ等に利用するMID等の電子部品の製造分野で利用価値は大きいものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
1.照射架橋可能なポリエステル樹脂
本発明では、電離放射線の照射により架橋可能なポリエステル樹脂を用いる。ポリエステル樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリシクロヘキシレンテレフタレート(PCT)、ポリシクロヘキシレンテレフタレート・ポリエチレンテレフタレート共重合体(PCT−PET)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート・イソフタレート共重合体(PCTA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)等を例示することができる。これらのポリエステル樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、PBTが特に好ましい。
【0026】
これらのポリエステル樹脂は、例えば、以下のような方法により、電離放射線の照射により架橋可能なポリエステル樹脂とすることができる。
【0027】
(1)多官能性モノマーを配合する方法:
前記の如きポリエステル樹脂に多官能性モノマーを配合することにより、電離放射線の照射により架橋可能なポリエステル樹脂を得ることができる。多官能性モノマーとしては、ジエチレングリコールジアクリレートなどのジアクリレート類;エチレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートなどのジメタクリレート類;トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのトリアクリレート類;トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどのトリメタクリレート類;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの(イソ)シアヌレート類;などが挙げられる。これらの多官能性モノマーの中でも、トリアリルイソシアヌレート及びトリメチロールプロパントリメタクリレートが好ましい。
【0028】
多官能性モノマーは、ポリエステル樹脂100重量部に対して、通常0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜15重量部、より好ましくは1〜10重量部の割合で使用される。多官能性モノマーの配合量が少なすぎると、電離放射線を照射してもポリエステル樹脂の架橋の程度が不十分となることがある。架橋の程度が不十分であると、耐リフロー性などの耐熱性を満足することが困難になる。多官能性モノマーの配合量が多すぎると、ポリエステル樹脂との溶融混合が困難となり、さらには、成形時のバリが多くなるため、好ましくない。
【0029】
(2)重合性官能基を導入する方法:
ポリエステル樹脂と多官能性有機化合物とを反応させて、ポリエステル樹脂中に重合性官能基を導入することにより、電離放射線の照射により架橋可能なポリエステル樹脂を得ることができる。
【0030】
多官能性有機化合物として、同一分子内に、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの重合性官能基と、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基(グリシジル基)、カルボキシル酸基、酸無水物基などの官能基とを有する有機化合物を使用する。
【0031】
このような多官能性有機化合物としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、o−,m−またはp−アリルフェノールのグリシジルエーテル、3,4−エポキシ−1−ブテン、3,4−エポキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−エポキシ−1−ペンテン、5,6−エポキシ−1−ヘキセン、1,3−ジアリル−5−グリシジルイソシアヌレート、1−アリル−3,5−ジグリシジルイソシアヌレート、クロトン酸、無水マレイン酸、無水クロトン酸、ウンデシレン酸、β−メタクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、プロピレングリコールモノアクリレート、プロピレングリコールモノメタクリレート、アリルアルコール、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸tert−ブチルアミノエチルなどを挙げることができる。
【0032】
これらの多官能性有機化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、グリシジルメタクリレート及びβ−メタクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネートが好ましい。ポリエステル樹脂と多官能性有機化合物とを反応させるには、両者を溶融混合する方法を採用することが好ましい。溶融混合に際し、他の添加剤成分を一緒に混合することもできる。
【0033】
多官能性有機化合物は、ポリエステル樹脂100重量部に対して、通常0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜15重量部、より好ましくは1〜10重量部の割合で使用される。多官能性有機化合物の使用量が少なすぎると、電離放射線の照射による架橋の程度が不十分となることがある。多官能性有機化合物の使用量が多すぎると、ポリエステル樹脂との溶融混合が困難となり、さらには、成形時のバリが多くなるため、好ましくない。
【0034】
(3)主鎖に炭素−炭素二重結合を導入する方法:
ポリエステル樹脂の重合段階において、不飽和ジオール及び/または不飽和ジカルボン酸を共重合して、主鎖に炭素−炭素二重結合を有するポリエステル樹脂を合成することにより、電離放射線の照射により架橋可能なポリエステル樹脂を得ることができる。不飽和ジオールとしては、例えば、2−ブテン−1,4−ジオールを挙げることができる。不飽和カルボン酸としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸、これらのアルキルエステル、及びこれらの酸無水物などを挙げることができる。
【0035】
これらの不飽和ジオール及び/または不飽和ジカルボン酸は、ジオール成分及び/またはジカルボン酸成分を基準として、通常1〜20モル%、好ましくは1〜10モル%の割合で用いられる。不飽和ジオール及び/または不飽和ジカルボン酸の共重合割合が小さすぎると、電離放射線の照射による架橋の程度が不十分となり、十分な耐熱性を得ることが難しくなり、大きすぎると、ポリエステル樹脂の融点が低下して耐熱性が低下することがある。不飽和ジオールと不飽和ジカルボン酸は、両者を併用してもよい。
【0036】
(4)前記方法の組み合わせ法:
前記の方法(1)〜(3)を組み合わせた方法も採用することができる。好ましい方法としては、前記方法(2)または(3)と方法(1)とを組み合わせる方法が挙げられる。例えば、前記方法(2)により重合性官能基を導入したポリエステル樹脂に、多官能性モノマーを配合する方法が好ましい方法として挙げられる。
【0037】
2.無機繊維
無機繊維としては、例えば、ホウ酸アルミニウム、六チタン酸カリウム等の繊維を挙げることができる。ホウ酸アルミニウムや六チタン酸カリウムは、繊維状またはウイスカー状に生成することが知られている。無機繊維には、ウイスカーの如き針状フィラーが含まれる。これらの中でもホウ酸アルミニウム繊維(ホウ酸アルミニウムウイスカー)は、樹脂組成物の溶融流動性と成形品の機械的強度などの観点から好ましい。これらの無機繊維は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
本発明で使用する無機繊維の平均繊維径は、0.1〜5μm、好ましくは0.3〜3μmである。無機繊維の平均繊維径が小さすぎると、ポリエステル樹脂中で無機繊維の凝集が生じやすくなるため、ポリエステル樹脂成形品表面をエッチング処理した後の表面粗さが粗くなりやすい。その結果、樹脂成形品表面に形成しためっき層の表面粗さRaが1μmを超えて、ワイヤーボンディング性が低下する。無機繊維の平均繊維径が大きすぎると、めっき層の表面粗さRaが1μmを超えて、ワイヤーボンディング性が低下する。
【0039】
無機繊維のアスペクト比は、5〜100、好ましくは7〜80である。アスペクト比が小さすぎると、曲げ強度を110MPa以上にすることができない。大きすぎると、ポリエステル樹脂との混合中に割れやすくなり、やはり曲げ強度を110MPa以上にすることができない。
【0040】
無機繊維のpHは、2〜10、好ましくは4〜8である。無機繊維のpHが高すぎると、めっきポリエステル樹脂成形品の耐熱性が低下し、リフロー炉の260℃に設定したゾーンを60秒間通過させたとき、寸法変化率が大きくなる。無機繊維のpHが低すぎると、めっき層に錆が発生しやすくなる。無機繊維のpHは、無機繊維をイオン交換水中に分散し、10分間放置した後、濾過し、そのとき得られた濾液のpHを測定する方法により測定した値である。
【0041】
無機繊維の添加量は、樹脂組成物の全量基準で、5〜50体積%、好ましくは10〜30体積%である。無機繊維の添加量が少なすぎると、ポリエステル樹脂成形品とめっき層との間の密着強度が低下し、多すぎると、該樹脂成形品表面をエッチング処理した後の表面粗さが大きくなり、その結果、めっき層の表面粗さRaが1μmを超えて、ワイヤーボンディング性が低下する。
【0042】
3.その他の添加剤
本発明で使用するポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の無機フィラー、難燃剤、着色剤、滑剤、酸化防止剤、加水分解抑制剤、加工安定剤などの各種添加剤を配合することができる。したがって、本発明のめっきポリエステル樹脂成形品は、これらの添加剤を含有するものであってもよい。
【0043】
めっきポリエステル樹脂成形品を難燃化する場合には、ポリエステル樹脂成形品の製造時に、樹脂組成物中に難燃剤を配合すればよい。比較的少量の添加で高度の難燃性を得るには、臭素系難燃剤を使用することが好ましい。
【0044】
臭素系難燃剤としては、例えば、エチレンビステトラブロモフタルイミド、エチレンビスペンタブロモジフェニル、テトラブロモ無水フタル酸、テトラブロモフタルイミド、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールS−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリエステル、臭素化アクリル樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモエチルベンゼン、デカブロモジフェニル、ヘキサブロモジフェニルオキサイド、オクタブロモジフェニルオキサイド、デカブロモジフェニルオキサイド、ポリペンタブロモベンジルアクリレート、オクタブロモナフタレン、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、ビス(トリブロモフェニル)フマルイミド、N−メチルヘキサブロモジフェニルアミンなどが挙げられる。
【0045】
これらの臭素系難燃剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、テトラビスフェノールAカーボネートオリゴマー、臭素化ポリスチレン、及び臭素化ポリフェニレンエーテルが好ましく、エチレンビステトラブロモフタルイミドが射出成形時の溶融粘度の経時変化が少ない点で特に好ましい。
【0046】
臭素系難燃剤を配合する場合には、ポリエステル樹脂100重量部に対して、通常5〜50重量部、好ましくは10〜45重量部、特に好ましくは15〜35重量部の割合で使用する。臭素系難燃剤を上記範囲内で配合することにより、UL−94試験において、規格値V−0を満足する高度の難燃性を達成することができる。臭素系難燃剤の配合量が少なすぎると、UL−94試験において規格値V−0を満足する難燃性を達成することが困難である。臭素系難燃剤の配合量が多すぎると、射出成形品にバリ等の不良が生じやすくなる。
【0047】
臭素系難燃剤とともに、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛、ホウ酸亜鉛等の無機系の難燃剤または難燃助剤;赤リン、リン酸エステル等のリン系難燃剤;パークロロペンタシクロデカンのような塩素系難燃剤;などを必要に応じて適宜配合することも可能である。
【0048】
4.めっきポリエステル樹脂成形品とその製造方法
本発明では、ポリエステル樹脂成形品(A)の表面にめっき層(B)が形成されためっきポリエステル樹脂成形品を、以下の工程(I)〜(III)により製造する。
【0049】
(I)電離放射線の照射により架橋可能なポリエステル樹脂に、平均繊維径が0.1〜5μm、アスペクト比が5〜100、pHが2〜10の無機繊維を5〜50体積%の割合で分散した樹脂組成物を調製する工程1;
(II)該樹脂組成物を所望の形状のポリエステル樹脂成形品(A)の形状に溶融成形する工程2;
(III)該ポリエステル樹脂成形品(A)の表面にめっき層を形成する工程3;及び
(IV)工程3の前または後に、ポリエステル樹脂成形品(A)に電離放射線を照射して架橋する工程4。
【0050】
樹脂組成物を調製する方法は、特に限定されないが、通常は、各成分を溶融混合する方法が採用される。溶融混合は、単軸混合機、二軸混合機等の押出機型の混合機;バンバリーミキサー、加圧ニーダー等のインテンシブ型の混合機;等の既知の混合装置が使用可能である。押出機型の溶融混合装置を用いて、各成分を溶融混合し、ペレット化することが好ましい。押出機型の溶融混合装置を用いる場合には、予め各成分をミキサー等で予備混合することが好ましい。
【0051】
樹脂組成物の成形方法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形など、任意の溶融成形法を採用することができるが、めっきポリエステル樹脂成形品をMIDなどの電子部品の用途に適用するには、射出成形法を採用することが好ましい。
【0052】
ポリエステル樹脂成形品(A)の形状は、用途に応じて適宜定めることができる。他の合成樹脂成形品などの基材の表面にポリエステル樹脂成形品(A)からなる層を形成してもよい。また、ポリエステル樹脂成形品(A)の表面に、難めっき性樹脂成形品をパターン状に形成して一体化してもよい。
【0053】
ポリエステル樹脂成形品(A)の表面にめっき層(B)を形成する方法としては、常法に従って無電解めっきを行う方法が好ましい。無電解めっきとしては、無電解銅めっきが好ましい。具体的に、ポリエステル樹脂成形品表面への無電解銅めっきは、常法に従って、(1)プレディップ(触媒化液への水洗水の持ち込みを防止)、(2)塩化すず、塩化パラディウム、塩化ナトリウムなどを含有する溶液を用いた触媒化(キャタリスト)、(3)アクセラレーター、及び(4)無電解銅めっきの各工程で実施する。
【0054】
無電解銅めっきの組成としては、例えば、銅イオン源(例えば、硫酸銅)、錯化剤(例えば、ETDA)、還元剤(例えば、ホルムアルデヒド)、pH調整剤(例えば、NaOH)、添加剤(例えば、ジピリジル)などが代表的なものである。無電解銅めっき液としては、市販品を使用することができる。
【0055】
無電解めっきの後、水洗してから、電気銅めっきなどの電気めっきを行うことができる。電気めっきは、常法に従って、堆積させたい金属が溶けた水溶液に陰極と陽極を挿入し、直流電流を流し、一般には、陰極上の基板に金属を堆積させる方法が採用される。
【0056】
無電解めっきだけで、回路として適当な厚みのあるめっき層を形成してもよいが、無電解めっきと電気めっきを併用してめっき層の厚みを増大させてもよい。さらに、基板端部の接触部分(エッジコネクタ端子)の表面処理や、ワイヤーボンディング用パッドの表面処理、はんだ付け用表面処理として、銅めっき層の上に、ニッケルめっき下地の金めっきを行うことが好ましい。ニッケルめっきは、電気めっきでも無電解めっきでもよい。金めっきは、電気めっきまたは無電解めっきにより行う。
【0057】
めっき層の厚みは、使用目的に応じて適宜定めることができるが、通常5〜50μm、好ましくは8〜40μm、より好ましくは10〜20μmである。めっき層の厚みが薄すぎると、回路の電気抵抗が大きくなるので好ましくない。めっき層の厚みが厚すぎると、成形品のめっき厚みにばらつきが生じやすくなり、完成品寸法が安定しないので、好ましくない。
【0058】
本発明において、めっき処理と電離放射線の照射による架橋処理の順序は、特に限定する必要はなく、めっき処理の後、電離放射線を照射してもよいし、電離放射線を照射した後、めっき処理を行ってもよい。めっき処理工程の容易さ、めっき層の密着強度などの観点からは、めっき層の形成工程後に電離放射線の照射による架橋工程を配置することが好ましい。
【0059】
ポリエステル樹脂成形品(A)は、電離放射線を照射して架橋させる。電離放射線としては、電子線(ベータ線)、ガンマ線、アルファ線、紫外線を例示することができるが、線源利用の簡便さや架橋処理の迅速性などの点から、電子線が特に好ましい。ポリエステル樹脂成形品(A)の表面にめっき層を形成してから照射架橋する場合には、透過厚みの関係から、加速電子線やガンマ線を用いることが好ましい。
【0060】
照射線量は、好ましくは50〜1000kGy、より好ましくは100〜800kGyの範囲である。照射線量が低すぎると、めっきポリエステル樹脂成形品の耐熱性(耐リフロー性)が不十分となり、高すぎると、成形品を構成するポリエステル樹脂の分解を招くおそれがある。
【0061】
本発明のめっきポリエステル樹脂成形品は、ポリエステル樹脂成形品(A)の表面にめっき層(B)が形成されたものであり、めっき層(B)表面の算術平均粗さRaが1μm以下、かつポリエステル樹脂成形品(A)とめっき層(B)との間の密着強度が2MPa以上である。めっき層表面の算術平均粗さRaは、共焦点顕微鏡を用いて測定することができる。めっき層(B)表面の算術平均粗さRaの下限は、通常0.1μm、多くの場合0.2μmである。ポリエステル樹脂成形品(A)とめっき層(B)との間の密着強度の上限は、通常20MPa、多くの場合15MPaである。
【0062】
本発明のめっきポリエステル樹脂成形品は、耐リフロー性に優れている。具体的に、本発明のポリエステル樹脂成形品(A)を、リフロー炉の260℃に設定したゾーンを60秒間で通過させる条件下で耐リフロー性を評価すると、寸法変化率が長手方向及び幅方向ともに1%以下となる。したがって、本発明のめっきポリエステル樹脂成形品は、リフローはんだ付け工程で、めっき層の膨れや部分的剥離などの不都合を生じることがない。
【0063】
本発明のめっきポリエステル樹脂成形品は、ポリエステル樹脂成形品(A)中に難燃剤を含有させることにより、めっき層の表面平滑性や密着強度、耐リフロー性などを損なうことなく、UL−94試験において規格値V−0を満足する難燃性を達成することができる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例及び比較例をもって本発明について更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されない。
【0065】
[実施例1]
1.ポリエステル樹脂組成物の調製:
ポリブチレンテレフタレートとグリシジルメタクリレートとを反応混合することにより、電離放射線の照射により架橋可能なポリブチレンテレフタレートに改質するとともに、多官能性モノマー、無機フィラー、酸化防止剤を配合した樹脂組成物を調製した。
【0066】
すなわち、ポリブチレンテレフタレート(PBT)100重量部に対して、グリシジルメタクリレート5重量部、トリアリルイソシアヌレート3重量部、ホウ酸アルミニウム(平均繊維径0.8μm、アスペクト比30、pH6)43重量部(15体積%)、及び酸化防止剤0.1重量部を、容積20リットルのスーパーミキサーに投入して、室温で予備混合した。得られた予備混合物を2軸混合機(45mmφ、L/D=32)に投入し、バレル温度260℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混合し、ダイからストランド状に押し出し、そして、吐出ストランドを水冷カットする方法によりポリエステル樹脂組成物のペレットを作製した。
【0067】
2.曲げ試験とサンプルの作製:
前記ペレットを、型締力40トンの射出成形機により、バレル温度260℃、射出圧500kg/cm、射出時間10秒、金型温度60℃の条件にて射出成形して、長さ80mm×幅10mm×厚み4mmのプレートを作製した。次いで、得られたプレートに加速電圧3MeVの電子線を250kGy照射して、曲げ試験用サンプルを作製した。曲げ試験は、ISO178に従って実施した。この曲げ強度が110MPa以上であれば、良好な強度を有していると評価することができる。
【0068】
3.耐リフロー試験とサンプルの作製:
前記ペレットを、型締力40トンの射出成形機により、バレル温度260℃、射出圧500kg/cm2、射出時間10秒、金型温度60℃の条件にて射出成形して、長さ30mm×幅10mm×厚み0.4mmのプレートを作製した。次いで、得られたプレートに加速電圧3MeVの電子線を250kGy照射して、耐リフロー試験用サンプルを作製した。
【0069】
耐リフロー試験は、試験用サンプルをリフロー炉の260℃に設定したゾーンを60秒間で通過させて、寸法変化率を測定する方法により行った。試験用サンプルの長手方向及び幅方向の寸法変化率がともに1%以下であれば、耐リフロー性が良好であると評価することができる。
【0070】
4.めっき評価用サンプルの作製:
前記ペレットを、型締力40トンの射出成形機により、バレル温度260℃、射出圧500kg/cm2、射出時間10秒、金型温度60℃の条件にて射出成形して、長さ20mm×幅20mm×厚み1mmのプレートを作製した。得られたプレートを85℃の45%水酸化ナトリウム水溶液に12分間浸漬する方法でエッチング処理した後、4%の塩酸水溶液で中和し、次いで、流水中で十分に洗浄した。このプレートを用いて、以下に示す手順に従って、その表面に無電解銅めっき、電気銅めっきなどのめっき処理を行った後、加速電圧3MeVの電子線を250kGy照射した。このようにして、表面にめっき層が形成され、電離放射線によって照射架橋されためっき評価用サンプルを作製した。
【0071】
i)無電解銅めっき
(1)コンディショニング:
上記で調製したプレートを、ニユートラライザー3320〔シプレイ・ファーイースト(株)製〕を100ml/リットルの濃度で含む水溶液に45℃で5分間浸漬後、イオン交換水で水洗した。
【0072】
(2)プリディップ:
プレートを、塩化ナトリウム180g/リットル、35%塩酸80ml/リットル、オムニシールド1505〔シプレイ・ファーイースト(株)製〕20ml/リットルを含む水溶液に室温で3分間浸漬した。
【0073】
(3)キャタリスト:
プレートを、塩化ナトリウム1 8 0 g/リットル、35%塩酸100ml/リットル、オムニシールド1505を20ml/リットル、オムニシールド1558を20ml/リットル〔シプレイ・ファーイースト(株)製〕を含む水溶液に45℃で15分間浸漬後、イオン交換水で水洗した。
【0074】
(4)アクセラレーター:
プレートを、オムニシールド1560〔シプレイ・ファーイースト(株)製〕100ml/リットルを含む水溶液に室温で5分間浸漬後、イオン交換水で水洗した。
【0075】
(5)無電解銅めっき:
プレートを、オムニシールド1598〔シプレイ・ファーイースト(株)製〕100ml/リットルを含む水溶液に45℃で20分間浸漬し、厚さ0.5μmの銅めっき層を形成した。
【0076】
ii)電解銅めっき
無電解銅めっき層を形成したプレートを、硫酸銅5水和物80g/リットル、硫酸200ml/リットル、35%塩酸147μl、スルカップETN〔上村工業(株)製〕10ml/リットルを含む水溶液中で、電流密度2.5A/dmの電流を室温で23分間通電し、厚み10μmの電気銅めっき層を形成した。
【0077】
iii)無電解ニッケルめっき
さらに、以下に示す手順に従って、銅めっき層上に無電解ニッケルめっき処理を行った。
【0078】
(1)脱脂:
銅めっき層を形成したプレートを、プリポジットクリーナー742〔シプレイ・ファーイースト(株)製〕100ml/リットルを含む水溶液に50℃で5分間浸漬し、次いで、イオン交換水で洗浄した。
【0079】
(2)銅エッチング:
上記プレートを、硫酸10ml/リットル、プリポジットエッチ748〔シプレイ・ファーイースト(株)製〕60ml/リットルを含む水溶液に室温で1分間浸漬し、次いで、イオン交換水で洗浄した。
【0080】
(3)酸洗浄:
上記プレートを、10%の硫酸水溶液に室温で1分間浸漬後、イオン交換水で洗浄した。
【0081】
(4)キャタリスト:
上記プレートを、6%塩酸に室温で30秒間浸漬後、35%塩酸9ml/リットル、オムニシールド1573〔シプレイ・ファーイースト(株)製〕6ml/リットルを含む水溶液に室温で1分間浸漬し、しかる後、イオン交換水で洗浄した。
【0082】
(5)無電解ニッケルめっき:
上記プレートを、エバロンBM2〔シプレイ・ファーイースト(株)製〕310ml/リットルを含む水溶液に85℃で30分間浸漬し、厚み5μmのニッケルめっき層を形成した。
【0083】
iv)金めっき
さらに、以下に示す手順に従って、ニッケルめっき層の上に金めっき処理を行った。
【0084】
(1)無電解ストライクめっき:
前記プレートを、シアン化金カリウム3g/リットル、オウロレクトロレスSMT210〔日本リーロナール(株)製〕500ml/リットルを含む水溶液に90℃で10分間浸漬した。
【0085】
(2)無電解金めっき:
上記プレートを、シアン化金カリウム6g/リットル、オウロレクトロレスSMT301〔日本リーロナール(株)製〕750m1/リットルを含む水溶液に85℃で60分間浸潰し、厚さ0.5μmの金めっき層を形成した。
【0086】
5.めっき層の表面粗さの測定:
めっき層の表面粗さの測定は、共焦点顕微鏡〔キーエンス(株)製VK8550〕を用いて行い、算術平均粗さRaを求めた。表面粗さRaは、ワイヤーボンディング性を考慮して、1μm以下のものを良好と評価した。
【0087】
6.めっき層の密着強度の測定:
めっき層の密着強度の測定は、図1の方法に従って行った。すなわち、樹脂成形品1の表面に形成しためっき層2の上に、直径1.5mmφの金属線4を垂直に立てて、その端部をめっき層の上にはんだ溶接した。溶接部3の直径を4mmφ、高さを2mmとした。この金属線4を引張速度10mm/分でめっき層2の面の直角方向に引き剥がし、その際の剥離強度を測定して、その測定値をめっき層の密着強度とした。めっき層の密着強度が2MPa以上であれば、密着性が良好であると評価することができる。
【0088】
[実施例2]
ホウ酸アルミニウムに代えて、平均繊維径0.4μm、アスペクト比40、pH7の六チタン酸カリウムを用いたこと以外は、実施例1と同様に各サンプルを作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0089】
[実施例3及び4]
実施例3及び4は、表1に示すように、難燃剤を添加し、かつ、平均繊維径が0.1〜5μm、アスペクト比が5〜100、pHが2〜10の範囲にある無機繊維を樹脂組成物中に15体積%の割合で分散した樹脂組成物を用いた実験例である。これらの樹脂組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様に各サンプルを作製し、同様に評価した。難燃性は、UL94燃焼試験により評価した。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
(脚注)
(*1)ポリブチレンテレフタレート;東レ(株)製、商品名「トレコン1401−X06」、
(*2)ホウ酸アルミニウム繊維(平均繊維径0.8μm、アスペクト比30、pH6);四国化成(株)製、商品名「アルボレックスY」、
(*3)六チタン酸カリウム繊維(平均繊維径0.4μm、アスペクト比40、pH7);大塚化学(株)製、商品名「ティスモN」、
(*4)臭素系難燃剤;アルベマール日本(株)製、商品名「サイテックスBT93」、
(*5)精巧化学(株)製、商品名「ノンフレックスアルバ」。
【0092】
実施例1及び2は、平均繊維径0.1〜5μm、アスペクト比5〜100、及びpH2〜10の各範囲内にある無機繊維を15体積%の割合で分散した樹脂組成物を用いた実験例である。曲げ強度は、いずれも110MPa以上で良好な強度を示した。リフロー試験後の寸法変化率は、いずれも長さ方向及び幅方向ともに1%以下で良好な耐リフロー性を示した。めっき層の密着強度は、いずれも2MPaを超え、良好な密着強度を示した。表面粗さRaについても、いずれも1μm以下と良好であった。
【0093】
実施例3及び4は、平均繊維径0.1〜5μm、アスペクト比5〜100、及びpH2〜10の各範囲内にある無機繊維を15体積%の割合で分散し、かつ難燃剤を添加した実験例である。曲げ強度は、いずれも110MPa以上で良好な強度を示した。リフロー試験後の寸法変化率は、いずれも長さ方向及び幅方向ともに1%以下で良好な耐リフロー性を示した。リフロー試験後の寸法変化率は、いずれも長さ方向及び幅方向ともに1%以下であり、良好な耐リフロー性を示した。めっき層の密着強度は、いずれも2MPaをはるかに超え、良好な密着強度を示した。表面粗さRaについても、いずれも1μm以下と良好であった。UL94試験法にて難燃性を評価したところ、いずれもV−0にランクできることがわかった。
【0094】
[比較例1]
樹脂組成物としてめっきグレードのLCP〔ポリプラスチック(株)、商品名「ベクトラC820」〕を用いた。該LCPを、型縮力40トンの射出成形機により、バレル温度330℃、射出圧500kg/cm2、射出時間10秒、金型温度60℃の条件にて射出成形し、実施例1と同じ形状の試験用サンプルを作製した。次に、このサンプルを用いて、実施例1と同様にめっき処理を行った。実施例1と同様にして、諸特性を評価した。結果を表2に示す。
【0095】
[比較例2]
比較例1と同じ樹脂組成物を用いて同様にサンプルを作製した。めっき評価用サンプルについては、85℃の45%水酸化ナトリウム水溶液によるエッチング処理時間を3分間に短縮し、その後、4%の塩酸水溶液で中和後、流水中で十分に洗浄し、実施例1と同様にめっき処理を行い、加速電圧3MeVの電子線を250kGy照射して試験用サンプルを得た。実施例1と同様にして諸特性を評価した。結果を表2に示す。
【0096】
[比較例3]
実施例1において、ホウ酸アルミニウムに代えて、平均粒径2μmのピロリン酸カルシウムを樹脂組成物中に15体積%の割合で分散した樹脂組成物を用いたこと以外は、同様に行った実験例である。実施例1と同様にして諸特性を評価した。結果を表2に示す。
【0097】
[比較例4]
実施例1において、ホウ酸アルミニウムに代えて、平均繊維径3μm、アスペクト比10、pH10.5のケイ酸カルシウムを樹脂組成物中に15体積%の割合で分散した樹脂組成物を用いたこと以外は、同様に行った実験例である。実施例1と同様にして諸特性を評価した。結果を表2に示す。
【0098】
[比較例5]
実施例1において、ホウ酸アルミニウムに代えて、平均繊維径13μm、アスペクト比230、pH7のガラス繊維を樹脂組成物中に15体積%の割合で分散した樹脂組成物を用いたこと以外は、同様に行った実験例である。実施例1と同様にして諸特性を評価した。結果を表2に示す。
【0099】
[比較例6]
比較例5と同じ樹脂組成物を用いて同様にサンプルを作製した。めっき評価用サンプルについては、85℃の45%水酸化ナトリウム水溶液によるエッチング処理時間を3分間に短縮し、その後、4%の塩酸水溶液で中和後、流水中で十分に洗浄し、実施例1と同様にめっき処理を行い、加速電圧3MeVの電子線を250kGy照射して試験サンプルを得た。実施例1と同様にして諸特性を評価した。結果を表2に示す。
【0100】
【表2】

【0101】
(脚注)
(*1)液晶ポリマー;ポリプラスチック(株)製、商品名「ベクトラC820」、
(*2)ポリブチレンテレフタレート;東レ(株)製、商品名「トレコン1401−X06」、
(*3)川鉄工業(株)製、商品名「ウォラストナイト」、
(*4)日本電気硝子(株)製、商品名「ECS03T−187」、
(*5)精巧化学(株)製、商品名「ノンフレックスアルバ」。
【0102】
表2の結果から、以下のことが分かる。比較例1は、LCP成形品のエッチング処理時間を長くして、めっき層の密着強度を高めた実験例であるが、めっき層の表面粗さが3.4μmと大きくなり、平滑性が悪くなった。他方、比較例2は、LCP成形品のエッチング処理時間を短縮して、めっき層の表面粗さを1μm以下に小さくした実験例であるが、めっき層の密着強度は、1.2MPaと低くなり、不十分であった。
【0103】
比較例3は、平均粒径2μmの粒子状無機物であるピロリン酸カルシウムを混合した実験例であるが、曲げ強度が84MPaと不十分であった。比較例4は、平均繊維径3μm、アスペクト比10、pH10.5のケイ酸カルシウムを混合した実験例であるが、260℃リフロー後の長手方向と幅方向の寸法変化率がいずれも1%を超え、耐熱性が不十分であった。
【0104】
比較例5は、平均繊維径13μm、アスペクト比230、pH7のガラス繊維を混合した実験例であるが、めっき層の表面粗さが2.8μmと大きくなり、平滑性が悪くなった。比較例6は、比較例5と同等の配合でエッチング処理時間を短縮して、めっき層の表面粗さを小さくした実験例であるが、めっき層の密着強度は、0.9MPaと著しく低下し、不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のめっきポリエステル樹脂成形品は、電子機器の小型化、薄肉化に対応する強度と、十分な密着強度とワイヤーボンディング可能な平滑なめっき層とを有し、しかもリフロー温度での耐熱性に優れ、必要に応じて高度の難燃性を付与することができることから、例えば、半導体パッケージに利用するMID等の電子部品の製造分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、樹脂成形品に対するめっき層の密着強度を測定する方法を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0107】
1:樹脂成形品、
2:めっき層、
3:はんだ溶接部、
4:金属線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂成形品(A)の表面にめっき層(B)が形成され、かつ該ポリエステル樹脂成形品(A)を形成するポリエステル樹脂が電離放射線の照射により架橋されているめっきポリエステル樹脂成形品であって、
(a)ISO178に従って測定した曲げ強度が110MPa以上、
(b)めっき層(B)表面の算術平均粗さRaが1μm以下、
(c)ポリエステル樹脂成形品(A)とめっき層(B)との間の密着強度が2MPa以上、かつ
(d)リフロー炉の260℃に設定したゾーンを60秒間通過させる条件で測定した寸法変化率が長手方向及び幅方向ともに1%以下
であることを特徴とするめっきポリエステル樹脂成形品。
【請求項2】
ポリエステル樹脂成形品(A)が、電離放射線の照射により架橋可能なポリエステル樹脂に、平均繊維径が0.1〜5μm、アスペクト比が5〜100、pHが2〜10の無機繊維を5〜50体積%の割合で分散した樹脂組成物を溶融成形してなる成形品であって、電離放射線の照射により架橋されたものである請求項1記載のめっきポリエステル樹脂成形品。
【請求項3】
無機繊維が、ホウ酸アルミニウム繊維及び六チタン酸カリウム繊維からなる群より選ばれる少なくとも一種の無機繊維である請求項2記載のめっきポリエステル樹脂成形品。
【請求項4】
ポリエステル樹脂成形品(A)の表面にめっき層(B)が形成され、かつ該ポリエステル樹脂成形品(A)を形成するポリエステル樹脂が電離放射線の照射により架橋されているめっきポリエステル樹脂成形品の製造方法であって、
(I)電離放射線の照射により架橋可能なポリエステル樹脂に、平均繊維径が0.1〜5μm、アスペクト比が5〜100、pHが2〜10の無機繊維を5〜50体積%の割合で分散した樹脂組成物を調製する工程1;
(II)該樹脂組成物を所望の形状のポリエステル樹脂成形品(A)の形状に溶融成形する工程2;
(III)該ポリエステル樹脂成形品(A)の表面にめっき層を形成する工程3;及び
(IV)工程3の前または後に、ポリエステル樹脂成形品(A)に電離放射線を照射して架橋する工程4;
を含むことを特徴とするめっきポリエステル樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−117984(P2006−117984A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305723(P2004−305723)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】