説明

アクティブスラグリアクター

【課題】マイクロリアクターの小型化、集積化を可能にすることにある。
【解決手段】アクティブスラグリアクター1は、入口2,3と出口4との間を繋ぐ流路5を具え、前記流路5の互いに対向する内面5a,5bがそれぞれ、その流路5に沿って並んだ凹凸を有し、前記互いに対向する内面5a,5b間の最小距離が、前記流路5内を流れるスラグ流のスラグがその表面張力下でそれら互いに対向する内面の両方に同時に接触しつつ移動する距離であり、前記互いに対向する内面5a,5bが前記スラグを変形させながらその流路に沿って案内する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロ化学プロセスに必要な微量流体の混合および反応を実現するマイクロリアクターに関し、特には高効率のリアクター機能を達成するためにスラグの様相の変化を積極的に利用するアクティブスラグリアクターに関するものである。
この発明は、有機合成化学、分析化学、化学工学、機械工学、生化学などと密接に関わっており、各種の工業化学プロセスへ即座に適用可能なものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロ化学プロセス用デバイスに必要とされる重要な機能として「混合」があり、公知のマイクロ化学プロセス用の混合装置としては、例えば以下に挙げるものが提案され、または既に使用されている。
(1) 機械的な撹拌による混合方式(例えばドイツIMM社製マイクロミキサー)。
(2) 交互流れ流による混合方式(例えば非特許文献1参照)。
(3) T字路による混合方式(例えば非特許文献2参照)。
(4) Y字路による混合方式(例えば非特許文献3参照)。
【非特許文献1】Donata et al., Chem. Eng. J. 135S (2008) S37-S45.
【非特許文献2】Soleymani et al., Chem. Eng. J. 135S (2008) S219-S228.
【非特許文献3】Batoul et al., Chem. Eng. J. 135S (2008) S280-S283.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記(1)および(2)の方式は何れも、装置が大掛かりになり、かつ構造も複雑になるため、その大きさ、重量、そして価格がマイクロ化学プロセスには適していない。例えば、ドイツIMM社の液々マイクロミキサーは、単純なパターンの流路で構成され、これを連結するものであるが、混合部位以外の不必要な部分(ジョイント部など)を含むため、装置が大型化してしまい、マイクロリアクターの一つの特徴である小型化を困難にする原因の一つとなっている。
【0004】
また上記(3)および(4)の方式は、(1)および(2)の方式の欠点を解決するための簡易的かつ一般的な方法として、「チューブで連結されたT字管(T字路)やY字管(Y字路)内で流体を衝突させる際に生じる乱れを利用する方法」や「吐出噴出流による衝突乱流を利用する方法」等として提案されているが、これらの方法は、乱れの発生が一カ所だけであり、特に乱れの継続性を実現できないことに最大の欠点がある。
【0005】
そこで本発明者等は、乱れを継続的に発生させる方法の一つとして、衝突の回数を増やす方式を考え、特許出願している。しかしながら、衝突回数を増やすことで乱れを継続的に持続させる方式として、合流と分離を繰りかえす方法を用いているため、結果として流路長が長くなること、さらには流路の加工が複雑であり、コスト高になる等の改良すべき点がある。
【0006】
そして、これら管やチューブを連結した方法や噴出流衝突方法では、流路の姿勢、位置関係、長さ等の寸法的条件の他、対象流体の流れ特性の変化等、流れ状態を正確に設定することの困難を伴い、乱れた状態の確実性や継続性を維持することが非常に難しく、流れ特性の不安定を招き、混合特性にばらつきを生ずることがある。
【0007】
それゆえこの発明は、マイクロチャンネル内部で混合対象の複数流体により発生するスラグの様相の変化を混合および反応に積極的に利用し、マイクロリアクターの小型化、集積化を可能にするための構造を提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記課題を有利に解決するために、2相以上の流体によるスラグ流に関し、変形するスラグを発現させるための凹凸形状の流路内面構造を備えたマイクロ化学プロセス用デバイスを提案し、単純かつ独創的な流路構造により、継続的な乱れを可能とする高効率な混合機能を与えるものであり、より具体的には、流路幅が数十μm〜数mm微小な流路の内部をスラグ流という様相で流れる流体に、乱れを確実かつ継続的に発生させて、高効率な混合を得るための効果的な方策として、流路内面の対称凹凸形状効果(直線、多角形あるいは円弧等による凹凸を軸線に関し対称に有するもの)、流路内面の非対称凹凸形状効果、流路内面形状による断面積変化効果等を独立に、あるいは幾つか組み合わせた構造を提案するものである。
【0009】
すなわち、この発明のアクティブスラグリアクターは、入口と出口との間を繋ぐ流路を具え、前記流路の互いに対向する内面がそれぞれ、その流路に沿って並んだ凹凸を有し、前記互いに対向する内面間の最小距離が、前記流路内を流れるスラグ流のスラグがその表面張力下でそれら互いに対向する内面の両方に同時に接触しつつ移動する距離であり、前記互いに対向する内面が、前記スラグを変形させながらその流路に沿って案内するものであるということを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
かかる構成を具えるこの発明のアクティブスラグリアクターにあっては、入口と出口との間を繋ぐ流路の互いに対向する内面が、それぞれその流路に沿って並んだ凹凸を有し、互いに対向する内面間の最小距離が、その流路内を流れるスラグ流のスラグがその表面張力下でそれら互いに対向する内面の両方に同時に接触しつつ移動する距離であることから、入口から出口へと流路内を流れるスラグ流のスラグが、流路の互いに対向する内面の両方に同時に(但し、必ずしも内面の凹部の奥までは接触しない場合も含めて)接触しながら移動し、それらの内面が有する凹凸が、スラグをその凹凸に概ね添わせて変形させながらその流路に沿って案内するので、流路内でのスラグの移動中に、スラグ内およびスラグの近傍の流体内で乱れが確実かつ継続的に発生する。
【0011】
従って、この発明のアクティブスラグリアクターによれば、スラグ内の流体の混合・反応や、スラグとその近傍の流体との間の界面を介した抽出・混合・反応等を効率良く発生させることができ、しかも、従来問題となっていた流路構造と作成過程とが複雑であるという問題を解決するので、流路長を短くし、かつ容易に作成することが可能で、マイクロリアクターの小型化、集積化を可能にすることができ、並列処理をも容易に実現することができる。
【0012】
なお、この発明のアクティブスラグリアクターにおいては、前記流路は、二つの部材間に挟まれたプレートに形成されたスリットまたは、部材もしくはプレートの表面に形成されて他の部材で蓋をされた溝により構成され、前記互いに対向する内面は、前記スリットまたは前記溝の壁面であっても良く、このようにすれば、プレートが充分に薄い場合はスリットが微小流路を形成し、部材もしくはプレートの表面に形成された溝もその深さや幅が充分に小さい場合は数十μm〜数mmの幅や深さの微小流路を形成するので、マイクロリアクターの小型化、集積化を容易に可能にすることができる。
【0013】
また、この発明のアクティブスラグリアクターにおいては、前記互いに対向する内面間の最小距離は、前記内面の濡れ性が低いほど大きくされても良く、このようにすれば、例えば商品名テフロン(登録商標)等の濡れ性の低い材料で流路内面を形成することで、互いに対向する内面間の最小距離を大きくして流量をより多くすることができる。
【0014】
さらに、この発明のアクティブスラグリアクターにおいては、前記互いに対向する内面の凹凸は、前記流路の軸線に関し対称な断面形状を有していても良く、このようにすれば容易に流路に沿って流路断面積を変化させることができるので、より確実にスラグを変形させることができる。
【0015】
一方、この発明のアクティブスラグリアクターにおいては、前記互いに対向する内面の凹凸は、前記流路の軸線に関し非対称な断面形状を有していても良く、このようにすればスラグの変形も非対称になるので、スラグ内の流体の混合・反応をより多く生じさせることができる。
【0016】
さらに、この発明のアクティブスラグリアクターにおいては、前記互いに対向する内面の凹凸の断面形状は、鋸刃状をなしていても良く、このようにすれば、スラグを滑らかに変形させて流路抵抗を小さくすることができる。
【0017】
一方、この発明のアクティブスラグリアクターにおいては、前記互いに対向する内面の凹凸の断面形状は、円弧を組み合わせた形状をなしていても良く、このようにすれば、スラグを急激に変形させてスラグ内の流体の混合・反応をより多く生じさせることができる。
【0018】
さらに、この発明のアクティブスラグリアクターにおいては、前記互いに対向する内面の凹凸の断面形状は、円弧と直線とを組み合わせた形状をなしていても良く、その場合には流路抵抗を小さくするとともにスラグ内の流体の混合・反応を多く生じさせることができる。
【0019】
さらに、この発明のアクティブスラグリアクターにおいては、前記流路は湾曲して延在していても良く、このようにすれば、限れられた広さの領域内により長い流路を形成し得て、マイクロリアクターの小型化、集積化をより容易に可能にすることができる。
【0020】
そして、この発明のアクティブスラグリアクターにおいては、前記流路は、複数並列に組み合わされていても、また、複数直列に組み合わされていても良く、このようにすれば、マイクロリアクターの小型化、集積化をより容易に可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を実施例によって、図面に基づき詳細に説明する。ここに、図1(a),(b),(c),(d)は、この発明のアクティブスラグリアクターの一実施例を示す平面図、側面図、流路詳細図およびそのA部詳細図であり、図中符号1はこの実施例のアクティブスラグリアクター、2は第1の入口、3は第2の入口、4は出口、そして5はそれら入口2,3と出口4とを繋ぐ流路をそれぞれ示す。なお、以下の各実施例における寸法はあくまで例示であり、この発明のアクティブスラグリアクターは、これらの寸法のものには限定されない。
【0022】
図1に示す実施例では、厚さtが0.3mmのステンレス鋼(SUS 304)製のプレート6に、上下に貫通する幅0.5mmから1.3mmのスリットを形成することで、入口2,3と出口4とを繋ぐ流路5を具えるアクティブスラグリアクター1を構成しており、入口2,3からの流路5は合流点Iで合流し、その合流点Iから出口4までの流路5は、上記スリットの壁面で形成される互いに対向する内面5a,5bを有し、それらの内面5a,5bの、プレート6の表面に平行な平面で切った断面形状は、図1(d)に示すように、流路5の中心軸線Cに関して対称な鋸刃状をなしている。
【0023】
この互いに対向する内面5a,5bの断面形状は、より具体的には、中心軸線Cに関して対称にその中心軸線Cに対し30°の角度で交差して最大で互いに1mm離間する二本の基準線5cに対しそれぞれ外側に0.15mm距離をおいてそれらの基準線5cに平行に延在するように定められており、これによりこの実施例では、内面5a,5bの鋸刃状の凹凸の各先端部のなす角度を120°とするとともに、内面5a,5bの間の最小距離を約0.35mm、最大距離を約1.35mmとしている。なお、この鋸刃状の凹凸の各先端部のなす角度は、図1(e)の変形例に示すように90°としても良いが、120°の方が、凹形状内でスラグが表面張力の影響を受けにくいため、凹形状の奥までスラグが接触してスラグが十分変形されるので好ましい。
【0024】
このプレート6は、それと略同一の大きさの、スラグ流の観察を可能にする場合には例えば石英ガラス製の、また反応等のみを目的とする場合は例えばステンレス鋼製の、図示しない二枚の厚板で密に挟持され、それらの厚板の一方には、または双方に分配されて、第1の入口2と第2の入口3とにそれぞれ繋がる二つの入口流路と、出口4に繋がる出口流路とが形成されている。これにより、二つの入口流路から第1の入口2と第2の入口3とに交互に流入した流体が合流点Iで合流してスラグ流(いわゆる各々の流体が交互に流れる様相)を形成し、そのプラグ流が合流点Iから出口4へ向かって流路5内を流動した後出口4を通って出口流路から流出する。
【0025】
図2は、この実施例のアクティブスラグリアクター1の流路内にプラグ流を流す実験を行った結果を示す説明図であり、石英ガラス製の二枚の厚板でプレート6を挟持して、青色の水Aを第1の入口2から、また橙色のシクロヘキサン(cyclohexane)Bを第2の入口3から交互に流入させて合流点でスラグ流を形成すると、そのスラグ流のスラグ(流体要素:符号は流体と同じものを用いる)A,Bのうち、それ自身の表面張力で丸まった水のスラグAが、内面5a,5bの鋸刃状の凹凸で押されて雲のように括れた形状に変形されて、その括れ部位を連続的に流れの後方へ移動させつつ出口4へ向かって移動する。
【0026】
従って、この実施例のアクティブスラグリアクター1によれば、二種類の液体あるいは液体と気体、もしくは液体と粉体等からなるプラグ流におけるスラグ内での混合・反応や、スラグとその近傍の流体との間の界面を介した抽出・混合・反応等を効率良く発生させることができ、しかも流路構造および作成過程が何れも単純なため、流路長を短くし、かつ容易に作成することが可能であるので、マイクロリアクターの小型化、集積化を可能にすることができる。
【0027】
図3(a),(b),(c),(d)は、この発明のアクティブスラグリアクターの他の一実施例を示す平面図、側面図、流路詳細図およびそのA部詳細図であり、図中、先の実施例と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。この実施例のアクティブスラグリアクター1は、流路5の互いに対向する内面5a,5bの、プレート6の表面に平行な平面で切った断面形状が、図3(d)に示すように、流路5の中心軸線Cに関して対称をなすように流路5に沿って並んだ多数の略半円形状からなっている点のみ、先の実施例と異なっており、他の点では先の実施例と同様に構成されている。
【0028】
この互いに対向する内面5a,5bの断面形状は、より具体的には、中心軸線Cに平行に延在するとともに互いに0.3mm離間する二本の基準線5cに対しそれぞれ外側にその基準線5c上の点を中心とした半径0.15mmの円弧を0.355mmピッチで中心軸線Cに関して対称に多数描き、それらの円弧を半径0.03mmの円弧で繋いだ形状とされており、これによりこの実施例では、内面5a,5bの間の最小距離を0.3mm、最大距離を約0.6mmとしている。
【0029】
この実施例のアクティブスラグリアクター1によれば、先の実施例と同様の作用効果をもたらすことができるのに加えて、特に、内面5a,5bの凸形状が急峻ゆえスラグの変形度合いを著しくできるので、スラグ内での混合・反応や、スラグとその近傍の流体との間の界面を介した抽出・混合・反応等をより効率良く発生させることができる。
【0030】
図4(a),(b),(c)は、この発明のアクティブスラグリアクターの他の一実施例を示す平面図、側面図および流路詳細図であり、図中、先の実施例と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。この実施例のアクティブスラグリアクター1は、流路5の互いに対向する内面5a,5bの、プレート6の表面に平行な平面で切った断面形状が、図4(c)に示すように、流路5の中心軸線Cに関して非対称をなすように流路5に沿って並んだ多数の略半円形状からなっている点のみ、図1,図3に示す実施例と異なっており、他の点ではそれらの実施例と同様に構成されている。
【0031】
この互いに対向する内面5a,5bの断面形状は、より具体的には、中心軸線Cに平行に延在するとともに互いに0.3mm離間する二本の基準線5cに対し内面5aでは外側、内面5bでは内側にその基準線5c上の、中心軸線Cに関し対称に位置する点を中心とした半径0.15mmの円弧を多数並べて描き、それらの円弧を、加工可能な最小半径の円弧で繋いだ形状とされており、これによりこの実施例では、内面5aの形状を中心軸線Cと直交する方向へ0.3mm平行移動させたものを内面5bの形状とし、内面5a,5bの間の最小距離を内面5aの凸部と内面5bの凸部との間で0.3mmよりも小さくしている。
【0032】
この実施例のアクティブスラグリアクター1によれば、先の実施例と同様の作用効果をもたらすことができるのに加えて、特に、内面5a,5bの凹凸形状が中心軸線Cに関して非対称をなしているゆえ、スラグの変形を中心軸線Cに関して非対称にできるので、スラグ内での混合・反応や、スラグとその近傍の流体との間の界面を介した抽出・混合・反応等をより効率良く発生させることができる。
【0033】
図5(a),(b),(c)は、この発明のアクティブスラグリアクターのさらに他の一実施例を示す平面図、側面図および流路詳細図であり、図中、先の実施例と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。この実施例のアクティブスラグリアクター1は、流路5の互いに対向する内面5a,5bの、プレート6の表面に平行な平面で切った断面形状が、図5(c)に示すように、流路5の中心軸線Cに関して非対称をなすように流路5に沿って並んだ多数の略半円形状からなっている点のみ、図1,図3に示す実施例と異なっており、他の点ではそれらの実施例と同様に構成されている。
【0034】
この互いに対向する内面5a,5bの断面形状は、より具体的には、中心軸線Cに平行に延在するとともに互いに0.3mm離間する二本の基準線5cに対し内面5aでは外側、内側の順、内面5bでは内側、外側の順にその基準線5c上の、中心軸線Cに関し対称に位置する点を中心とした半径0.15mmの円弧を多数並べて描き、それらの円弧を繋いだ形状とされており、これによりこの実施例では、内面5aの形状を中心軸線Cと直交する方向へ0.3mm平行移動させたものを内面5bの形状とし、内面5a,5bの間の最小距離を内面5aの凸部と内面5bの凸部との間で0.3mmよりも小さくしている。
【0035】
この実施例のアクティブスラグリアクター1によれば、図1,3に示す実施例と同様の作用効果をもたらすことができるのに加えて、特に、図4に示す実施例と同様、内面5a,5bの凹凸形状が中心軸線Cに関して非対称をなしているゆえ、スラグの変形を中心軸線Cに関して非対称にできるので、スラグ内での混合・反応や、スラグとその近傍の流体との間の界面を介した抽出・混合・反応等をより効率良く発生させることができる。
【0036】
図6(a),(b),(c)は、この発明のアクティブスラグリアクターのさらに他の実施例における流路5の内面5a,5bの断面形状をそれぞれ示す略線図であり、図6(a)に示す実施例では、円弧同士を繋いだ形状を内面5a,5bで中心軸線に関して対称に形成した後、内面5a,5bの一方を半ピッチずらしており、図6(b)に示す実施例では、円弧同士を繋いだ形状を内面5aで形成した後、中心軸線と直交する方向へ平行移動させて内面5bを中心軸線Cに関し内面5aと非対称に形成しており、図6(c)に示す実施例では、内面5a,5bを、それぞれ円弧の間を直線で繋いで中心軸線に関して対称に形成している。これらの実施例によっても、先の実施例と同様の作用効果をもたらすことができる。
【0037】
図7は、この発明のアクティブスラグリアクターのさらに他の実施例における流路5の形状を示す略線図であり、この実施例では、流路5を湾曲させて延在させ、特に図示例では渦巻状に延在させるとともに、内面5a,5bの断面形状を図1に示す実施例と同様の鋸刃状にしている。なお、湾曲の形態は図示例の如き渦巻状だけでなく蛇腹状でも良く、それらを組み合わせても良い。
【0038】
この実施例のアクティブスラグリアクター1によれば、先の実施例と同様の作用効果をもたらすことができるのに加えて、特に、限れられた広さの領域内により長い流路5を形成し得て、マイクロリアクターの小型化、集積化をより容易に可能にすることができる。
【0039】
図8は、この発明のアクティブスラグリアクターのさらに他の一実施例における流路5の構成を示す略線図であり、この実施例では、鋸刃状の内面を持つ流路5を複数列(図示例では3列)並列に組み合わせ、それらの流路5の出口同士を合流させてアクティブスラグリアクターを構成しており、この発明のアクティブスラグリアクターでは、この実施例のように同一または異なる種類の複数の流路を並列に組み合わせるだけでなく、同一または異なる種類の複数数の流路を複数直列に組み合わせても良く、あるいは並列と直列とに組み合わせても良い。このようにすれば、マイクロリアクターの小型化、集積化をより容易に可能にすることができる。
【0040】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更し得るものであり、例えばプレート6を、商品名テフロン(登録商標)等の濡れ性の低い材料で形成するか、あるいは上述したステンレス鋼の如き金属製のプレート6の流路5を形成するスリットの壁面を濡れ性の低い材料で覆って内面を形成するようにしても良く、このようにして流路内面の濡れ性を低くすれば、流路の内面間の最小距離を大きくしても流路内の二種類の流体を並行流になりにくくし得て、流路の流通抵抗をより小さくすることができる。また、上記例ではスリットで流路を構成したが、部材表面に形成した溝で流路を構成しても良い。
【0041】
さらに、上記実施例では流路の壁面に相当する内面の形状を二次元的に変化させたが、流路の上下面に相当する内面の形状を二次元的に変化させても良く、あるいは流路の全周(上下左右)面を三次元的に凸凹に変化させても良い。
また、図6,図8以外の各実施例では二つの入口2,3を具えているが、別途スラグ流を形成していれば、図6,図8に示す各実施例のように流路の入口が一つでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
かくしてこの発明のアクティブスラグリアクターによれば、スラグ内の流体の混合・反応や、スラグとその近傍の流体との間の界面を介した抽出・混合・反応等を効率良く発生させることができ、しかも、流路長を短くし、かつ容易に作成することが可能で、マイクロリアクターの小型化、集積化を可能にすることができ、並列処理をも容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a),(b),(c),(d)は、この発明のアクティブスラグリアクターの一実施例を示す平面図、側面図、流路詳細図およびそのA部詳細図である。
【図2】上記実施例のアクティブスラグリアクター1の流路内にプラグ流を流す実験を行った結果を示す説明図である。
【図3】(a),(b),(c),(d)は、この発明のアクティブスラグリアクターの他の一実施例を示す平面図、側面図、流路詳細図およびそのA部詳細図である。
【図4】(a),(b),(c)は、この発明のアクティブスラグリアクターの他の一実施例を示す平面図、側面図および流路詳細図である。
【図5】(a),(b),(c)は、この発明のアクティブスラグリアクターのさらに他の一実施例を示す平面図、側面図および流路詳細図である。
【図6】(a),(b),(c)は、この発明のアクティブスラグリアクターのさらに他の実施例における流路の内面の断面形状をそれぞれ示す略線図である。
【図7】この発明のアクティブスラグリアクターのさらに他の実施例における流路の形状を示す略線図である。
【図8】この発明のアクティブスラグリアクターのさらに他の一実施例における流路の構成を示す略線図である。
【符号の説明】
【0044】
1 アクティブスラグリアクター
2 第1の入口
3 第2の入口
4 出口
5 流路
5a,5b 内面
5c 基準線
6 プレート
A 青色の水
B 橙色のシクロヘキサン
C 中心軸線
I 合流点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口と出口との間を繋ぐ流路を具え、
前記流路の互いに対向する内面がそれぞれ、その流路に沿って並んだ凹凸を有し、
前記互いに対向する内面間の最小距離が、前記流路内を流れるスラグ流のスラグがその表面張力下でそれら互いに対向する内面の両方に同時に接触しつつ移動する距離であり、
前記互いに対向する内面が、前記スラグを変形させながらその流路に沿って案内するものである、アクティブスラグリアクター。
【請求項2】
前記流路は、二つの部材間に挟まれたプレートに形成されたスリットまたは、部材もしくはプレートの表面に形成されて他の部材で蓋をされた溝により構成され、
前記互いに対向する内面は、前記スリットまたは前記溝の壁面であることを特徴とする、請求項1記載のアクティブスラグリアクター。
【請求項3】
前記互いに対向する内面間の最小距離は、前記内面の濡れ性が低いほど大きくされることを特徴とする、請求項1または2記載のアクティブスラグリアクター。
【請求項4】
前記互いに対向する内面の凹凸は、前記流路の軸線に関し対称な断面形状を有することを特徴とする、請求項1から3までの何れか1項記載のアクティブスラグリアクター。
【請求項5】
前記互いに対向する内面の凹凸は、前記流路の軸線に関し非対称な断面形状を有することを特徴とする、請求項1から3までの何れか1項記載のアクティブスラグリアクター。
【請求項6】
前記互いに対向する内面の凹凸の断面形状は、鋸刃状をなしていることを特徴とする、請求項1から5までの何れか1項記載のアクティブスラグリアクター。
【請求項7】
前記互いに対向する内面の凹凸の断面形状は、円弧を組み合わせた形状をなしていることを特徴とする、請求項1から5までの何れか1項記載のアクティブスラグリアクター。
【請求項8】
前記互いに対向する内面の凹凸の断面形状は、円弧と直線とを組み合わせた形状をなしていることを特徴とする、請求項1から5までの何れか1項記載のアクティブスラグリアクター。
【請求項9】
前記流路は湾曲して延在していることを特徴とする、請求項1から8までの何れか1項記載のアクティブスラグリアクター。
【請求項10】
前記流路は、複数並列に組み合わされていることを特徴とする、請求項1から9までの何れか1項記載のアクティブスラグリアクター。
【請求項11】
前記流路は、複数直列に組み合わされていることを特徴とする、請求項1から10までの何れか1項記載のアクティブスラグリアクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−233483(P2009−233483A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78924(P2008−78924)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(599035627)学校法人加計学園 (43)
【出願人】(502089693)財団法人 岡山県産業振興財団 (14)
【Fターム(参考)】