説明

アクリルポリマー及びその製造方法

【課題】特殊な製造工程などを必要としなくても、高イオン伝導度及び電極とゲル電解質間の界面抵抗の低減を実現することにより、大電流での放電時にも電池性能を充分なレベルに保持し、長寿命で安定した電池性能を得ることができる高分子電解質に好適に用いられるアクリルポリマー及びその製造法を提供する。
【解決手段】(A’)アクリルポリマー全体の質量に対して60〜99質量%の(メタ)アクリレートに由来する構造単位;60〜99質量%と、(B’) アクリルポリマー全体の質量に対して1〜40質量%の側鎖に炭素−炭素二重結合を有する構造単位1〜40質量%からなるを含み、質量平均分子量が10,000〜25,000であり、及び、分子量分散度が1.5〜3.0であることを特徴とするアクリルポリマー及びその製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子電解質に好適に用いられるアクリルポリマーとその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子技術の進歩により、電子機器の性能が向上し、小型、ポータブル化が進み、電源として高エネルギー密度の電池が望まれている。従来の二次電池として、鉛電池、ニッケル−カドミウム電池が挙げられるが、エネルギー密度を得るという点では未だ不十分である。そこで、これらの電池に替わるものとして、高エネルギー密度のリチウム二次電池が開発され、急速に普及している。
【0003】
リチウム二次電池は、一般に3V以上の高電圧が得られ、且つ、軽量・高容量であるため、様々な用途に応用されている。このようなリチウム二次電池は、正極にコバルト酸リチウム、負極に炭素材料を活物質に用いたものが多かったが、最近、より高容量化するために活物質に関する研究開発が盛んに行われている。
【0004】
リチウム二次電池用の電解質としては、一般的にリチウム塩をカーボネート系の非プロトン性溶媒に溶解した非水電解液が用いられている。しかしながら、非水電解液を使用したリチウム電池は、電池温度が高くなった場合、電池内部で非プロトン性溶媒の揮発が生じるため、電池の膨れが生じたり、リーク弁からの揮発ガスの拡散や漏液が生じたりするという問題点を有している。
【0005】
また、非水電解液を使用したリチウム二次電池でしばしば問題となるのが、負極から正極方向に生長するリチウムのデンドライト状析出による内部ショートであり、非水電解液では特にこのデンドライト析出によるショート事故の制御が特に困難である。非水電解液自身は流動体であり、本質的にデンドライトの生長を抑制することができない。セパレータを用いた場合でも、正/負極間に流れる電流は限定されたイオン伝導路であるセパレータの細孔部に集中するため、結果としてリチウムデンドライトの生長がセパレータの細孔部で集中的に促進される。
【0006】
このような問題点を解決するため、高分子電解質を利用する電池系が考案され、現在、研究開発が盛んに行われている。この高分子電解質は、ポリマーにアルカリ金属塩を均一に固溶させたイオン伝導体であり、溶媒を使用していないので、揮発ガスの拡散や漏液の心配がなく、また電解質全面に電流が均一に流れるため、リチウムデンドライトの発生・生長を抑制することが可能であると言われている。
【0007】
近年、ポリエチレンオキシド成分を有する高分子電解質の研究が盛んに行われている。
例えば、特許文献1に記載されているようなエチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合物の両末端を架橋させる方法や、特許文献2に記載されているようなポリエチレングリコール成分を有するモノマーとウレタン基を有するモノマーを、重合して高分子量化又は三次元架橋化させることにより、機械強度を向上させ、反面、結晶化に伴うイオン伝導度の低下をも防止し、実用性のあるポリマーを得ようとしている。
【特許文献1】特公平06−23305号公報
【特許文献2】特開平02−007935号公報
【0008】
しかしながら、このような高分子電解質は、イオン伝導度が室温で10-5S/cm程度であり、非水電解液と比較して2桁程度低いという問題点がある。そのため、上述したような高分子電解質電池を使用した電池は、電池の内部抵抗値が大きくなり、単位時間当たりに取り出せる電流出力が非水電解質二次電池と比べて格段に劣っている。その結果、高分子電解質電池は、使用用途が限定されてしまう等の不都合があった。
このことから、産業上、実用的な値とされる10-3S/cm以上のイオン伝導度を有する高分子電解質が求められ、盛んに検討されている。
【0009】
高分子電解質のイオン伝導度を解決する方法の一つとして、ポリマー中に非水電解液を保持させたゲル状の高分子電解質がある。
例えば、特許文献3に記載されているようなポリフッ化ビニリデンを非水電解液で膨潤させたゲル電解質は、室温で10-3S/cm以上のイオン伝導度を示し、良好な電池性能を示す。
しかし、ポリフッ化ビニリデンは、非水電解液の保持性が低く、非水電解液で問題であった揮発性ガスの拡散や漏液を改善できない。
【特許文献3】特表平08−507407号公報
【0010】
一方、非水電解液の保持性を高めるために、非水電解液と高い親和性を有するポリエチレンオキシド系のポリマーを用いたゲル状高分子電解質が広く検討されており、現在までにこのゲル状高分子電解質を用いたリチウム電池は、ほぼ実用化レベルに至っている。
しかし、上記したようなポリエチレンオキシド系ポリマーを用いたリチウム電池は、小電流での放電時には充分な電池性能を示すが、大電流での放電時には、電極/ゲル状高分子電解質間の界面抵抗が大きく、電池性能を充分なレベルに保持することが困難であるという問題点があった。
【0011】
また、特許文献4及び特許文献5に記載されているような三次元架橋型のアクリルポリマーを用いたゲル電解質は、数種類のアクリルモノマーと架橋剤である2官能アクリルモノマーを非水電解液に溶かし、熱又は光により架橋反応させて10-3S/cm以上のイオン伝導度を有するゲル状高分子電解質を調製している。
【特許文献4】米国特許第5603982号明細書
【特許文献5】米国特許第5609974号明細書
【0012】
この方法は、アクリルモノマーを非水電解液に溶解させても、溶液粘度はそれほど大きくならず、電極への濡れ性に優れているので界面抵抗を非水電解液レベルまで低減できるという利点がある。
しかし、この方法は、二種類以上のアクリルモノマーを出発材料として使用するため重合が不均一に進行し、また、アクリルモノマー自身の重合性も充分ではない。そのため得られるポリマー中に未反応のアクリルモノマーが残り、未反応アクリルモノマーに存在する二重結合(残存二重結合)の影響により、サイクル特性が低下するという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記高分子電解質の種々問題点を解決するために鋭意検討したものであり、本発明の目的は、特殊な製造工程などを必要としなくても、高イオン伝導度及び電極とゲル電解質間の界面抵抗の低減を実現することにより、大電流での放電時にも電池性能を充分なレベルに保持し、長寿命で安定した電池性能を得ることができる高分子電解質に好適に用いられるアクリルポリマー及びその製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、
[1](A’)アクリルポリマー全体の質量に対して60〜99質量%の(メタ)アクリレートに由来する構造単位;及び(B’) アクリルポリマー全体の質量に対して1〜40質量%の側鎖に炭素−炭素二重結合を有する構造単位を含み、質量平均分子量が10,000〜25,000であり、及び、分子量分散度が1.5〜3.0であることを特徴とするアクリルポリマーに関する。
[2]更に(D’)アクリルポリマー全体の質量に対して10〜40質量%の(メタ)アクリロニトリルに由来する構造単位を、アクリルポリマー全体の質量に対する(A’)、(B’)及び(D’)単位の質量%の合計が100質量%となるように含む、上記[1]のアクリルポリマーに関する。
[3]前記アクリルポリマーの重合に用いる溶媒としてカーボネート系溶媒を用いる[1]又は[2]記載のアクリルポリマーに関する。
[4](1)(A)(メタ)アクリレートモノマーと(B)水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとを質量比70:30〜99:1で含む配合物を重合する工程;及び(2)前記(1)で得られた重合物と(C)イソシアナート基を有する(メタ)アクリレートモノマーとを反応させて、側鎖に炭素−炭素二重結合を有する質量平均分子量が10,000〜125,000で分散度が1.5〜3.0のアクリルポリマーを得る工程、を有することを特徴とする、アクリルポリマーの製造方法に関する。
[5]前記配合物が、さらに(D)(メタ)アクリロニトリルモノマーを前記(A)、(B)及び(D)成分の合計質量に対して10〜40質量%で含有する、上記[4]記載のアクリルポリマーの製造方法に関する。
[6]前記工程(1)及び(2)に用いる溶媒としてカーボネート系溶媒を用いる、上記[4]又は[5]記載のアクリルポリマーの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアクリルポリマーを使用した高分子電解質は、非水電解液の保持性、イオン伝導度及び電極との界面抵抗の低減に優れるため、本発明のアクリルポリマーを使用した高分子電解質を用いた電池は、大電流放電特性に優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、発明を実施するための最良の形態について詳述する。
(1)アクリルポリマー
本発明は、
(A’)(メタ)アクリレートに由来する構造単位;
(B’)側鎖に炭素−炭素二重結合を有する構造単位;任意の
(D’)(メタ)アクリロニトリルに由来する構造単位、
を含むアクリルポリマーに関する。
このアクリルポリマーは、(A)(メタ)アクリレートモノマーと、(B)水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーと、任意の(D)(メタ)アクリロニトリルモノマーとを重合してアクリルポリマーの主骨格を形成し、さらに、炭素−炭素二重結合を有する側鎖として(C)イソシアナート基を有する(メタ)アクリレートをアクリルポリマーの主骨格と反応させて側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入することによって得られる。
以下、各(A)〜(D)成分モノマーについて説明する。
【0017】
(1-1)(A)〜(D)成分モノマー
(1-1-1)(A)成分
本発明に用いる(A)成分の(メタ)アクリレートとしては、特に制限はないが、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸エチレングリコールメチルエーテル、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコールメチルエーテル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテル等の(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールアルキルエーテル、(メタ)アクリル酸アミノメチル、(メタ)アクリル酸N−メチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸アミノアルキル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸オリゴエチレンオキシド、(メタ)アクリル酸オリゴプロピレンオキシド、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、メタクリル酸、アクリル酸等が挙げられる。(A)成分として特に好ましくは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜6、好ましくは1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリレートである。これらの(A)成分は、単独で又は2種類以上組み合わせて使用され得る。
【0018】
(1-1-2) (B)成分
本発明に用いる(B)成分の水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、(C)成分を用いて側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入することができれば、特に制限はないが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜6、好ましくは、1〜4のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0019】
(1-1-3) (C)成分
本発明に用いる(C)成分のイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、特に制限はないが、例えば2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製、商品名:カレンズMOI)、2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート等が挙げられる。本発明に用いる(C)成分は、本発明のアクリルポリマーの貯蔵安定性向上に寄与する。
(1-1-4) (D)成分
本発明に用いる(D)成分は、イオン伝導度及び電解液保持性を向上するために使用される。(D)成分は、(メタ)アクリロニトリルモノマーであれば特に制限はないが、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等が挙げられる。
【0020】
(1-1-5) (A)〜(D)成分モノマーの使用量
本発明において、(A)成分の使用量は、前記(A)及び(B)成分の総量に対して70〜99質量%、好ましくは75〜95質量%、より好ましくは80〜90質量%の範囲とされるのが適当である。この使用量が70質量%以上であれば、イオン伝導度が低下することもなく、99質量%以下であれば、ゲル形成能を保持できる。
【0021】
本発明において、(B)成分の使用量は、前記(A)及び(B)成分の合計質量に対して1〜30質量%、好ましくは5〜25質量%、より好ましくは10〜20質量%の範囲とされるのが適当である。この使用量が1質量%以上であれば、必要な機械強度が得られ、30質量%以下であれば、電池を作製したときに電極界面抵抗を増大させる皮膜が形成されることもなく、電池のサイクル特性を維持できるので好ましい。
【0022】
(D)成分の含有量は、前記(A)、(B)及び(C)成分の総量に対して10〜40質量%が好ましく、15〜35質量%がより好ましく、20〜30質量%がさらに好ましい。この含有量が10質量%以上であれば、イオン伝導度や電解液保持性向上の効果が十分であり、40質量%以下であれば、電池を作製したときに電極界面抵抗を増大させる皮膜が形成されることもないので好ましい。
【0023】
(1-2)アクリルポリマーの重合
(1-2-1)重合様式
本発明のアクリルポリマーの製造方法は、(A)(メタ)アクリレートモノマーと、(B)水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーと、任意の(D)(メタ)アクリロニトリルモノマーとを重合してアクリルポリマーの主骨格を形成し、さらに、炭素−炭素二重結合を有する側鎖として(C)イソシアナート基を有する(メタ)アクリレートをアクリルポリマーの主骨格と反応させて側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入するというものである。
【0024】
(1-2-2)重合方法
本発明に用いられるアクリルポリマーの重合方法は特に制限はないが、好ましくは、前記(A)、(B)及び(C)成分と溶媒からなる溶液を公知のラジカル重合法などによって重合、好ましくは溶液重合することにより得られる。
【0025】
本発明の重合に用いる溶媒としては、カーボネート系溶媒が好ましい。該カーボネート系溶媒としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート等が挙げられる。溶媒の使用量は、重合開始時の(A)、(B)及び(C)成分等のモノマー成分100質量部に対して50〜300質量部が好ましく、70〜250質量部がより好ましく、80〜230質量部がさらに好ましい。50質量部以上であれば、生産の効率を維持することができ、300質量部以下であれば、重合のコントロールが容易になるので好ましい。また、50〜300質量部の範囲であれば、適度な分子量(質量平均分子量で1,000〜25,000程度)を有するアクリルポリマーを得ることができる。
【0026】
また、反応(重合)温度は、70℃〜150℃が好ましく、75℃〜120℃がより好ましく、80℃〜100℃が特に好ましい。重合温度が70℃以上であれば、重合速度が遅くなることもなく、150℃以下であれば、重合速度のコントロールが容易であるので好ましい。
【0027】
その他、本発明のアクリルポリマーの重合時には、重合開始剤、連鎖移動剤等の他の添加剤を加えてもよい。
重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル等のアゾビス系化合物が使用できる。
【0028】
重合開始剤の使用量は、(A)及び(B)成分の総量に対して0.1〜5質量部が好ましく、1〜4質量部がより好ましい。0.1質量部以上であれば、重合が速やかに進行し、5質量部以下であれば、重合が早すぎて反応をコントロールできなくなることもないので好ましい。
【0029】
連鎖移動剤としては、メルカプタン系化合物、チオグリコール、四塩化炭素、α−メチルスチレンダイマー等が使用できる。連鎖移動剤の使用量は(A)及び(B)成分の総量に対して0.01〜10質量部で使用することが好ましく、0.1〜5質量部で使用することがより好ましい。0.01質量部以上であれば、連鎖移動剤としての効果が十分に得られ、10質量部以下であれば、重合速度が低下することもないので好ましい
さらに、(B)成分のOH基と(C)成分のNCO基を反応させる際に(C)成分の二重結合を重合させないため、重合禁止剤を用いることも可能である。重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドのキノンメチルエーテル、p−メトキシフェノール等が挙げられる。
加えて、(B)成分のOH基と(C)成分のNCO基を反応を容易にするために触媒を用いることも可能である。例えば、オクチル酸錫、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、ジブチル錫ラウリレート等が挙げられる。
【0030】
反応停止時の重合率は90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上が特に好ましい。重合率90%以上であれば収率として十分であり、85%以下であれば分子量分散度(質量平均分子量/数平均分子量)が拡がることもない。
上記方法によって得られる本発明のアクリルポリマーの分子量分散度は1.5〜3.0、好ましくは1.5〜2.5、より好ましくは1.5〜2.0である。分子量分散度が3.0以下であれば電池を作製した時に電極界面抵抗が増大することもなく、電池のサイクル特性を維持できるので好ましい。
【0031】
(1-3)アクリルポリマーの特性
上述のようにして(A)〜(D)成分の組み合わせにより得られる本発明のアクリルポリマーは、
(A’)(メタ)アクリレートに由来する構造単位;(B’)側鎖に炭素−炭素二重結合を有する構造単位;及び、任意の(D’)(メタ)アクリロニトリルに由来する構造単位、を含む。
(A’)(メタ)アクリレートに由来する構造単位は、以下の構造式で示すことができる。

式中、R2:H又はCH3
3:C1〜C4のアルキル基
【0032】
(B’)側鎖に炭素−炭素二重結合を有する構造単位は、以下の構造式で示すことができる。

式中、R4及びR7:H又はCH3
5及びR6:C1〜C4のアルキル基
【0033】
(D’)(メタ)アクリロニトリルに由来する構造単位は、以下の構造式で示すことができる。

1:H又はCH3
【0034】
本発明のアクリルポリマーの構造式の一例を以下に示す。

式中、X:Y:Z=0.19〜0.75:0.20〜0.80:0.035〜0.15、好ましくは、0.28〜0.66:0.30〜0.70:0.055〜0.13、より好ましくは、0.38〜0.57:0.40〜0.60:0.073〜0.11である。( )X成分が、(A’)単位であり、( )Y成分が、(D’)単位であり、( )Z成分が、(B’)単位である。
【0035】
(1-3-1)各構成単位の質量
本発明における(A’)成分は、アクリルポリマー全体の質量に対して60〜99質量%、好ましくは、40〜75質量%、より好ましくは、45〜65質量%の割合で存在することが適当である。この量が60質量%以上であれば、イオン伝導度が低下することもなく、99質量%以下であれば、ゲル形成能を保持できる。
本発明における(B’)成分は、アクリルポリマー全体の質量に対して1〜40質量%、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜20質量%の割合で存在することが適当である。上記量が1質量%以上であれば、必要な機械強度が得られ、40質量%以下であれば、電池を作製した時に電極界面抵抗を増大させる皮膜が形成されることもなく、電池のサイクル特性を維持できるので好ましい。
本発明における(D’)成分は、アクリルポリマー全体の質量に対して10〜40質量%、好ましくは15〜30質量%、より好ましくは18〜25質量%の割合で存在することが適当である。この量が10質量%以上であれば、イオン伝導度や電解液保持性向上の効果が十分となり、40質量%以下であれば、電池を作製した時に電極界面抵抗を増大させる皮膜が形成されることもなく、電池のサイクル特性を維持できるので好ましい。
【0036】
(1-3-2)質量平均分子量
本発明において、アクリルポリマーの質量平均分子量は、10,000〜25,000、好ましくは10,000〜20,000、より好ましくは10,000〜15,000である。この質量平均分子量が10,000以上であれば、得られたアクリルポリマーのゲル化が十分に進行したことになり、25,000以下であれば、本発明のアクリルポリマーの非水電解液への溶解性が低下することもなく、本発明のアクリルポリマーの電極に対する濡れ性を十分に保持できるので好適である。なお、質量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー法(GPC)により標準ポリスチレンによる検量線を用いて測定することができる。
理論に拘束されるものではないが、本発明のアクリルポリマーは、上述した分子量分散度と上記質量平均分子量とを有することにより、アクリルポリマーの膨潤度が均一となって電池特性が向上し、かつ電池の寿命も向上する。
【0037】
(2)高分子電解質
(2-1)高分子電解質の作製方法
本発明の高分子電解質は、熱又は光重合を行うことによって、アクリルポリマーが相互に架橋・重合し、ゲル化し、高分子電解質となる。具体的には、本発明のアクリルポリマー、熱又は光重合開始剤、アルカリ金属塩及び任意の重合性多官能モノマーを非水電解液中に加え、熱又は光重合によってゲル化させることにより高分子電解質を作製することができる。
【0038】
本発明のアクリルポリマーを使用した電解質を作製する場合、アクリルポリマーの使用量は、アクリルポリマーを含む非水電解液の合計量に対して1〜30質量%とすることが好ましく、3〜20質量%とすることがより好ましい。アクリルポリマーの配合量が1質量%以上であれば十分にゲル化し、30質量%以下であれば、イオン伝導度が低下することもないので好ましい。
【0039】
熱重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル及びその誘導体、ヒドロパーオキシド及びその誘導体、クミルパーオキシド及びその誘導体等のジアルキル(アリル)パーオキシド類、ジアセチルパーオキシド及びその誘導体等のジアシルパーオキシド類、パーオキシケタール類、パーオキシエステル類、パーオキシカーボネート類等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等の化合物が挙げられる。
【0040】
光重合開始剤としては、例えば、ジメチルアミノ安息香酸類、ベンゾフェノン及びその誘導体、ベンジルジメチルケタール等のベンジル及びその誘導体、2,2−ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン誘導体、α−ヒドロキシイソブチルフェノンなどのブチルフェノン誘導体、チオキサントン及びその誘導体、アジド基を有する化合物、クマリン誘導体、フェニルケトン誘導体等の化合物が挙げられる。これらの熱重合開始剤又は光重合開始剤は、単独で又は2種類以上組み合わせて使用される。
【0041】
熱又は光重合開始剤の配合量は、本発明になるアクリルポリマー100質量部に対して0.005〜10質量部が好ましく、0.01〜5質量部がより好ましく、0.05〜3質量部が特に好ましい。熱重合開始剤の割合が、0.005質量部〜10質量部の範囲であれば、十分な機械強度が維持できるので好ましい。
【0042】
非水電解液の配合量は、アクリルポリマーを含む非水電解液の合計量に対して70〜99質量%とすることが好ましく、90〜97質量%とすることがより好ましい。非水電解液の配合量が70質量%以上であれば、イオン伝導度が低下することもなく、99質量%以下であれば、十分にゲル化するので好ましい。
【0043】
アルカリ金属塩としては、特に制限はないが、実用的な観点から、例えばLiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC29SO3、LiN(CF3SO22等のリチウム化合物が好ましい。これらのリチウム化合物は、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いられ、これらの塩のうちで特に好ましい塩はLiClO4、LiBF4、LiPF6及びLiN(CF3SO22である。
【0044】
アルカリ金属塩の配合量は、アクリルポリマーを含む非水電解液の合計量に対して1〜40質量%とすることが好ましく、5〜20質量%とすることがより好ましい。この配合量が1質量%〜40質量の範囲であれば、イオン伝導度が低下することもないので好ましい。
【0045】
非水電解液に用いられるアルカリ金属塩を溶解可能な非水溶媒としては、化学的に安定で非水系であれば特に制限はないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート化合物、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ポリエチレンオキシド等のエーテル化合物、γ−ブチロラクトン、プロピロラクトン等のラクトン化合物等が挙げられる。これらの非水溶剤は単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0046】
アルカリ金属塩を溶解可能な非水溶媒の配合量は、アクリルポリマーを含む非水電解液の合計量に対して30〜98質量%とすることが好ましく、70〜92質量%とすることがより好ましい。この非水溶媒の割合が30質量%以上であれば、イオン伝導度が低下することもなく、98質量%以下であれば、十分な機械強度を得ることができるので好ましい。
【0047】
(2-2)重合性多官能モノマー
本発明になるアクリルポリマーから高分子電解質を作成する際、さらに重合性多官能モノマーを加えて、熱又は光重合を行ってもよい。重合性多官能モノマーを加えることにより、本発明のアクリルポリマー同士はが重合性多官能モノマーを介してで架橋し、ゲル化し、高分子電解質となる。これにより、本発明のアクリルポリマーのゲル化時間を短縮することができる。
重合性多官能モノマーとしては、特に制限はないが、酢酸ビニル、アルキル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の単官能化合物、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA EO変性ジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス[4−((メタ)アクリロキシ・ジエトキシ)フェニル]プロパン等の2官能化合物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸EO変性トリ(メタ)アクリレート等の3官能化合物、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の4官能化合物、ジペンタエリスリトールペンタ、ヘキサ(メタ)アクリレート等の5〜6官能化合物、1〜6官能のメラミン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの重合性多官能モノマー成分は、単独で又は2種類以上組み合わせて使用される。
【0048】
重合性多官能モノマーを使用する場合の配合量は、本発明のアクリルポリマー100質量部に対して1〜30質量部が好ましく、3〜20質量部がより好ましく、5〜15質量部が特に好ましい。配合量が1質量部以上であれば、良好な電解液保持性が得られ、30質量部以下であれば、イオン伝導度が低下することもないので好ましい。
【0049】
(2-3) 高分子電解質の具体的作製方法
本発明のアクリルポリマーを用いた高分子電解質は、具体的には以下のようにして作製される。、
まず、アルカリ金属塩を非水溶媒に溶解し、非水電解液を調製する。この非水電解液に、本発明のアクリルポリマーと、熱又は光重合開始剤と、任意の重合性多官能モノマーとを溶解させ、得られた溶液を所望の厚さのスペーサーを設けたガラス基板上に塗布し、その後、別のガラス基板を被せて完全に密封し、熱又は光反応させて高分子電解質を得る。
【0050】
光反応の光照射の際用いられる活性光線としては、例えば、カーボンアーク灯、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライド等が挙げられる。露光量は、5mJ/cm2以上であることが好ましく、15mJ/cm2以上であることがより好ましく、25mJ/cm2以上であることが特に好ましい。露光量が5mJ/cm2以上であれば、光硬化が十分に進行し、十分な膜強度が得られるので好ましい。
【0051】
加熱温度は、20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、40℃以上であることが特に好ましい。加熱温度が20℃以上であれば、熱硬化や熱による不溶化が十分に進行し、十分な膜強度得られるので好ましい。
加熱時間は、5分以上であることが好ましい。加熱時間が5分以上であれば、熱硬化や熱による不溶化が十分に進行し、十分な膜強度が得られるので好ましい。
【0052】
(2-4)高分子電解質の用途
本発明のアクリルポリマーを使用した高分子電解質は、負極に黒鉛などの層間化合物を用いたリチウムイオン二次電池、負極にリチウム金属を用いたリチウム二次電池、リチウム一次電池、電気二重層キャパシタ、酵素センサ用電極材料等の電気化学的デバイスの電解質として用いることができる。特に電池の電解質として好ましく用いられる。
【0053】
また、本発明のアクリルポリマーを使用した高分子電解質を用いた電池は、携帯電話、PHS、ノート型パソコン、ゲーム機、携帯端末等の小型電子機器の主電源又はバックアップ用電源として用いることができ、さらに、据え置き型のロードレベリング用電源、停電時のバックアップ用電源、電気自動車用電池等に広く用いることができる。
【0054】
本発明のアクリルポリマーを使用した高分子電解質を用いた電池を得る方法の一つを例示する。
例えば、まず、上記に示した作製法で作製したフィルム状の高分子電解質を準備する。また、通常の電解液型リチウムイオン二次電池で用いる正極集電体シート上に正極材料をキャスティングした正極シート及び負極集電体シート上に負極材料をキャスティングした負極シートを準備する。本発明の高分子電解質をこれら正極シート及び負極シートで挟み、得られた積層体全体を加熱又は加圧することによって正極シート、高分子電解質、負極シートを相互に密着させて電池の電池反応を起こす部分を作製する。
【0055】
その後、得られた電池反応を起こす部分を大気中の湿気や酸素や窒素等と隔離するために例えば、アルミニウム製の絶縁された入れ物などで密封する。この際、正極シート及び負極シートにそれぞれ電極を形成する。電極の一部分はアルミニウム製の絶縁された入れ物の外部に露出させておく。これにより、電極を通じて充電及び放電が可能となる。こうして得られた本発明の高分子電解質を用いた電池は充電と放電を交互に行うことが可能な二次電池となる。
【0056】
上記正極集電体シートとしては、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、金箔、銀箔、チタン箔等が挙げられるが、高電位に対する安定性の見地からはアルミニウム箔であることが好ましい。
【0057】
前記正極材料としては、例えば、Li1-xCoO2、Li1-xNiO2、Li1-xMn24、Li1-xMO2、(0<X<1、MはCo、Ni、Mn、Fe等の複合体)、Li2-yMn24(0<y<2)、Li1-x25(0<X<1)、Li2-y25(0<y<2)、Li1-x'Nb25(0<X'<1.2)等の酸化物、Li1-xTiS2、Li1-xMoS2、Li1-xNbSe2、Li1-zNbSe3(0<Z<3)等の金属カルコゲナイド、ジチオール誘導体、ジスルフィド誘導体等の有機化合物などが挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0058】
前記負極集電体シートとしては、例えば、銅箔、ニッケル箔、金箔、銀箔等が挙げられ、良好な電子導電性及び廉価性の見地から銅箔であることが好ましい。
前記負極材料としては、例えば、金属リチウム、アルミ・リチウム合金、マグネシウム・アルミ・リチウム合金等の金属リチウム、グラファイト、非晶質炭素、低温焼成高分子等の炭素材料、AlSb、Mg2Ge、N系材料、SnM'系酸化物(M'はSi、Ge、Pb等を示す)、Si1-yM''yz(M''W、Sn、Pb、B等を示す)等の複合酸化物、酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物のリチウム固溶体、Li7MnN4、Li3FeN4、Li3-xCoxN、Li3-xNiN、Li3-xCuxN、Li3BN2、Li3AlN2、Li3SiN3等の窒化物などのセラミックスが挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例及びその比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限するものではない。本実施例で得られた高分子電解質の評価方法を以下に示す。
【0060】
<電解液保持性>
ゲル電解質作製直後の質量と、アルゴン雰囲気下で一日放置したゲル電解質質量を測定し、次式より電解液保持性を算出した。
【0061】
【数1】

【0062】
<イオン伝導度>
イオン伝導度の測定は、25℃において高分子電解質をステンレス鋼電極で挟み込むことで電気化学セルを構成し、電極間に交流を印加して抵抗成分を測定する交流インピーダンス法を用いて行い、コール・コールプロットの実数インピーダンス切片から計算した。
【0063】
<界面抵抗>
電極/高分子電解質界面抵抗は、25℃において高分子電解質をリチウム電極同士で挟み込むことで電気化学セルを構成し、電気化学セルを構成して1時間後、電極間に交流を印加して抵抗成分を測定する交流インピーダンス法を用いて行い、コール・コールプロットの実数インピーダンス切片から計算した。
【0064】
<実施例1〜6のアクリルポリマーの製造方法>
混合機及び冷却器を備えた反応器に表1に示す配合物(I)を入れ、88〜92℃に加熱し、表1に示す配合物(II)を2時間で添加し、さらに90±2℃で2〜4時間保温した。なお、カーボネート系溶媒として、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートを用いた。また、光重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリルを用いた。
















【0065】
【表1】

【0066】
次に、表1に示す配合物(III)を1時間で滴下し、さらに1〜2時間保温した。その後、70±2℃まで冷却し、表1に示す配合物(IV)を添加した後、表1に示す配合物(V)を30分間で滴下し、次いで2〜4時間保温することにより実施例1〜6のアクリルポリマーを得た。
実施例1、3〜5で得られたアクリルポリマーの構造式を以下に示す。

【0067】
実施例2及び6で得られたアクリルポリマーの構造式を以下に示す。

式中、X:Y:Z(モル比)は、以下の通りである。
表2

【0068】
表3

表3中、値は質量%
【0069】
この実施例1〜6のアクリルポリマーの質量平均分子量は、以下に示す方法で測定した。
[質量平均分子量の測定方法]
ゲルパーミエイションクロマトグラフィー法(GPC)により標準ポリスチレンによる検量線を用いて測定する。
【0070】
〈GPC条件〉
使用機器:日立635型HPLC〔(株)日立製作所製〕
カラム :ゲルパックR440、R450、R400M
〔日立化成工業(株)製、商品名〕溶離液 :テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
流量 :2.0ml/min.
検出器 :示差屈折計
測定結果を表1に示す。
【0071】
(1)高分子電解質の作製
実施例7
実施例1のアクリルポリマー218質量部と熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.1質量部を、1mol/l LiBF4のエチレンカーボネートとジメチルカーボネート(体積比:1/1)電解液2000質量部に溶解し、この溶液を厚さ100μmのシリコーンゴムスペーサーを設けたガラス基板上に注ぎ、そこに別のガラス基板を被せて完全に密封して、アルゴン雰囲気下、80℃で3時間熱反応させて厚さ100μmの実施例7による高分子(ゲル)電解質を得た。得られた実施例7による高分子電解質の電解液保持性、イオン伝導度及び界面抵抗を評価した結果を表4に示す。
【0072】
実施例8
実施例1のアクリルポリマー218質量部と重合性多官能モノマーとしてトリメチロールプロパントリメタクリレート5質量部及び光重合開始剤としてベンゾフェノン1質量部を、1mol/l LiBF4のエチレンカーボネートとジエチルカーボネート(体積比:1/1)電解液2000質量部に溶解し、この溶液を厚さ100μmのシリコーンゴムスペーサーを設けたガラス基板上に注ぎ、そこに別のガラス基板を被せて完全に密封して、アルゴン雰囲気下、30mJ/cm2の紫外線を照射して厚さ100μmの実施例8による高分子電解質を得た。得られた実施例8による高分子電解質の電解液保持性、イオン伝導度及び界面抵抗を評価した結果を表4に示す。
【0073】
実施例9
実施例2のアクリルポリマー218質量部と重合性多官能モノマーのトリメチロールプロパントリアクリレート15質量部及び熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.5質量部を、1mol/l LiPF6のエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネート(体積比:1/1/1)の混合系電解液2000質量部に溶解し、この溶液を厚さ1.5mmのステンレス容器(高さ1.5mm×直径16mmφの円筒型)に注ぎ、そこに別のステンレス基板を被せて完全に密封して、アルゴン雰囲気下、80℃で1時間熱反応させて実施例9の高分子電解質を作製した。得られた高分子電解質の電解液保持性、イオン伝導度及び界面抵抗を評価した結果を表4に示す。
【0074】
実施例10
実施例2のアクリルポリマー186質量部と重合性多官能モノマーとしてペンタエリスリトールテトラアクリレート15質量部及び熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.5質量部を、1mol/l LiPF6のエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネート(体積比:1/1/1)の混合系電解液2000質量部に溶解させ、この溶液を実施例7で使用したものと同じステンレス容器に注ぎ、そこに別のステンレス基板を被せて完全に密封して、アルゴン雰囲気下、80℃で1時間熱反応させて実施例10の高分子電解質を作製した。得られた高分子電解質の電解液保持性、イオン伝導度及び界面抵抗を評価した結果を表4に示す。
【0075】
実施例11
アクリルポリマーとして実施例3のアクリルポリマーを315質量部用いる以外は実施例7と同様の材料を使用し、実施例7と同様の工程を経て実施例11の高分子電解質を作製した。得られた高分子電解質の電解液保持性、イオン伝導度及び界面抵抗を評価した結果を表4に示す。
【0076】
実施例12
アクリルポリマーとして実施例4のアクリルポリマーを309質量部用いる以外は実施例7と同様の材料を使用し、実施例7と同様の工程を経て実施例12の高分子電解質を作製した。得られた高分子電解質の電解液保持性、イオン伝導度及び界面抵抗を評価した結果を表4に示す。
【0077】
実施例13
アクリルポリマーとして実施例5のアクリルポリマーを315質量部用いる以外は実施例7と同様の材料を使用し、実施例7と同様の工程を経て実施例13の高分子電解質を作製した。得られた高分子電解質の電解液保持性、イオン伝導度及び界面抵抗を評価した結果を表4に示す。
【0078】
実施例14
アクリルポリマーとして実施例6のアクリルポリマーを315質量部用いる以外は実施例7と同様の材料を使用し、実施例7と同様の工程を経て実施例14の高分子電解質を作製した。得られた高分子電解質の電解液保持性、イオン伝導度及び界面抵抗を評価した結果を表4に示す。
【0079】
比較例1
質量平均分子量1136のポリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学社製)100質量部と熱重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.1質量部を、1mol/l LiBF4のエチレンカーボネートとジメチルカーボネート(体積比:1/1)の混合系電解液1000質量部に溶解させ、この溶液を厚さ100μmのシリコーンゴムスペーサーを設けたガラス基板上に注ぎ、そこに別のガラス基板を被せて完全に密封して、アルゴン雰囲気下、80℃で3時間熱反応させて厚さ100μmの比較例1による側鎖に炭素−炭素二重結合を有さないポリマーからなる高分子電解質を得た。得られた比較例1による高分子電解質の電解液保持性、イオン伝導度及び界面抵抗を評価した結果を表4に示す。
【0080】
比較例2
メチルメタクリレート45質量部、アクリロニトリル45質量部、トリエチレングリコールジメタクリレート10質量部と過酸化ベンゾイル0.1質量部を、1mol/l LiBF4のエチレンカーボネートとジメチルカーボネート(体積比:1/1)の混合系電解液1000質量部に溶解させ、この溶液を厚さ100μmのシリコーンゴムスペーサーを設けたガラス基板上に注ぎ、そこに別のガラス基板を被せて完全に密封して、アルゴン雰囲気下、80℃で3時間熱反応させて厚さ100μmの比較例2による側鎖に炭素−炭素二重結合を有さないポリマーからなる高分子電解質を得た。得られた比較例2による高分子電解質の電解液保持性、イオン伝導度及び界面抵抗を評価した結果を表4に示す。
【0081】
比較例3
ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合物(エルフ・アトケム社製)1gを、アセトン5gに溶解した。この溶液を、ガラス基板上にアプリケーターで塗布し、常圧下アルゴン雰囲気中2時間放置した後、真空下60℃で12時間乾燥してアセトンを除去し、膜厚が40μmのポリマーフィルムを得た。このポリマーフィルムを1mol/l LiBF4のエチレンカーボネートとジメチルカーボネート(体積比:1/1)の混合系電解液により膨潤させて比較例3による側鎖に炭素−炭素二重結合を有さないポリマーからなる高分子電解質を得た。得られた比較例3による高分子電解質の電解液保持性、イオン伝導度及び界面抵抗を評価した結果を表4に示す。




【0082】
【表2】

【0083】
表4に示すように、実施例7〜14の高分子電解質は、高電解液保持性、高イオン伝導度を有し、低界面抵抗化にも優れていることが明らかである。
これに対し、比較例1の高分子電解質は、実施例7〜14の高分子電解質と比べて電解液保持性、イオン伝導度は同等又はそれ以上であるが、界面抵抗が大きいことが明らかである。
また、比較例2の高分子電解質は、実施例7〜14の高分子電解質と比べて電解液保持性は同等であるが、イオン伝導度が劣り、界面抵抗も大きいことが明らかである。
さらに、比較例3の高分子電解質は、実施例7〜14の高分子電解質と比べて電解液保持性、イオン伝導度が劣っており、界面抵抗も大きいことが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A’)アクリルポリマー全体の質量に対して60〜99質量%の(メタ)アクリレートに由来する構造単位;及び
(B’) アクリルポリマー全体の質量に対して1〜40質量%の側鎖に炭素−炭素二重結合を有する構造単位
を含み、質量平均分子量が10,000〜25,000であり、及び、分子量分散度が1.5〜3.0であることを特徴とするアクリルポリマー。
【請求項2】
更に(D’)アクリルポリマー全体の質量に対して10〜40質量%の(メタ)アクリロニトリルに由来する構造単位を、アクリルポリマー全体の質量に対する(A’)、(B’)及び(D’)単位の質量%の合計が100質量%となるように含む、請求項1記載のアクリルポリマー。
【請求項3】
前記アクリルポリマーの重合に用いる溶媒としてカーボネート系溶媒を用いる請求項1又は2記載のアクリルポリマー。
【請求項4】
(1)(A)(メタ)アクリレートモノマーと(B)水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとを質量比70:30〜99:1で含む配合物を重合する工程;及び
(2)前記(1)で得られた重合物と(C)イソシアナート基を有する(メタ)アクリレートモノマーとを反応させて、側鎖に炭素−炭素二重結合を有する質量平均分子量が10,000〜25,000で分散度が1.5〜3.0のアクリルポリマーを得る工程、
を有することを特徴とする、アクリルポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記配合物が、さらに(D)(メタ)アクリロニトリルモノマーを前記(A)、(B)及び(D)成分の合計質量に対して10〜40質量%で含有する、請求項4記載のアクリルポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記工程(1)及び(2)に用いる溶媒としてカーボネート系溶媒を用いる、請求項4又は5記載のアクリルポリマーの製造方法。

【公開番号】特開2008−156629(P2008−156629A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310859(P2007−310859)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】