説明

アクリル積層板とその製造方法

【課題】基板上のシルク印刷を損なうことなく透明アクリル板を接着する。
【解決手段】シルク印刷12を施した基板11上に接着剤を塗布して薄い接着剤層13を形成する。該接着剤層には固化する以前にPPフィルム16を被覆する。前記接着剤が乾燥したのちにPPフィルムを剥離し、露出した接着剤面上に透明アクリル板15を接着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、看板や装飾用に用いられるアクリル積層板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル板等の板材を接合する方法として、例えば特許文献1に示されるように板材の接合面にウレタン液等からなる接着剤を流し込んで固化させる手法が一般に知られている。アクリル板同士の接合においては、2枚の板材を1mm弱程度の隙間を空けて保持し、この隙間に接着剤を注入して接合する手法が適用されている。
【特許文献1】特開平10-6424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、透明アクリル板を接着する基板表面に印刷を施した場合、印刷インクと接着剤とが同種の溶剤を用いている場合には、接着剤を流し込んだ後に印刷インクが接着剤層に溶け出してしまうという問題を生じる。例えばシルク印刷を適用した場合にはアクリル用接着剤により印刷が滲みやすいため、透明アクリル板を用いた看板や装飾板にはシルク印刷を適用できないという制約があった。
【0004】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、印刷を損なうことなしに基板上に透明アクリル板を接合することができるアクリル積層板の製造方法と、この製造方法により得られる装飾性に優れたアクリル積層板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるアクリル積層板の製造方法は、、
・印刷を施した基板面に接着剤を塗布して薄い接着剤層を形成する工程、
・前記塗布した接着剤が乾燥する以前に、該接着剤の上から剥離可能なフィルム材を被覆する工程、
・前記接着剤が乾燥したのちに前記フィルム材を剥離し、露出した接着剤面上に透明アクリル板を接着する工程、を有することを特徴とする。
【0006】
また、本発明によるアクリル積層板は、複数のアクリル板を層状に接着したアクリル積層板であって、前記アクリル板の接合面を含む複数の面に印刷を施してあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアクリル積層板の製造方法によれば、印刷を施した基板上に透明アクリル板を接着する際、予め形成した薄い接着剤層により印刷面が保護されているので、透明アクリル板の接着時に適用される多量の接着剤により印刷が滲んでしまうようなことがなく、美しいアクリル積層板を製造することができる。
【0008】
加えて、接着剤層が乾燥するまでのあいだフィルム材によりその表面を保護しているので、接着剤が空気に触れることに原因する曇りの発生や油脂、埃等の付着を防止することができる。
【0009】
また、本発明に係るアクリル積層板は、印刷を複数のアクリル板の接合面間に多層的に設けたことにより、立体感のある独特の装飾表現または看板効果を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の方法により製造したアクリル積層板の構造を示している。図中の11は基板、12はシルク印刷部、13は第1の接着剤層、14は第2の接着剤層、15は透明アクリル板である。基板11の材質は任意であり、例えば透明な素材の他、半透明または着色した不透明のアクリル板等を適用する。なお、図は実施形態の構造を説明するためのものであり、図面上の各部の寸法は必ずしも実寸と対応していない(以下の各図面についても同様)。
【0011】
本発明は、印刷を施した基板11に透明アクリル板15を接着するにあたり、前処理としてあらかじめ薄い接着剤層13を形成しておくことを特徴としている。以下この点を含めて、前記アクリル積層板の製造工程の実施形態につき図2に基づいて説明する。
【0012】
図2の(a)〜(d)は前記アクリル積層板の製造工程の側面図である。図の(a)は積層の対象となる印刷済み基板を示しており、11はアクリル製基板、12はその表面(後に透明アクリル板15を接合する面)に施されたシルク印刷部である。基板11は図示しない作業台の上に水平に載置した状態で以後の工程に移る。
【0013】
最初の工程では、前記印刷部12を設けた基板11の接合面に流動性を有するアクリル用接着剤を適量流し込み、その上からフィルム材16を被せる。フィルム材16としては、乾燥後の接着剤から剥離可能な素材として、例えばPPフィルムを適用する。フィルム材16の寸法は、基板11に被せたときに基板11の周囲にややはみ出す程度とする。
【0014】
図の(b)はフィルム材16を接着剤の上に被せた状態を示しており、基板11上の一端部(図では左端部)からスキージ17の先端部を前記フィルム材16の表面に押し当て、そのまま適度な押圧力を作用させながらスキージ17を矢印Aで示したように他端部(右端部)の方向に向かって移動させることで、フィルム材16と基板11との間の余分な接着剤を両者の隙間から外部へと押し出しながら、略均一な厚さの薄い接着剤層13を形成する。なお、スキージとはゴム製ないしは合成樹脂製の均し用のへらである。
【0015】
接着剤層13の厚さは、通常のアクリル板同士の接着の際に形成される接着剤層の厚さよりも薄く、例えば約0.3mm程度とする。ただし適切な厚さは接着剤の材質にもよる。接着剤の溶剤濃度が低いほど、または粘性が高いほど厚くすることができる。接着剤層13をある程度薄くすることで接着剤ないし溶剤の絶対量を少なくして印刷インクの滲みを抑えやすくなる。
【0016】
この実施形態ではフィルム材16の表面にスキージ17を押し当てて接着剤を圧延するという作業により、接着剤層13に対するフィルム材6の被着と薄い接着剤層13の形成とを同時的に行っているが、ノズルを使用して最初から薄い膜状となるように接着剤を流し込み、その後に速やかにその表面をフィルム材で被覆するようにしてもよい。
【0017】
なお、スキージ17を使用した作業では接着剤層13の厚さは必ずしも均一にならないが、この接着剤層13には後に比較的厚い第2の接着剤層14を介して透明アクリル板15を接合することになるので、厚さの若干の不均一性または凹凸の存在は問題とならない。また、接着剤としては、アクリル用接着剤のほか、透明インクを適用することも可能である。
【0018】
前記作業によりフィルム材16を被せて略均一な厚さの接着剤層13を形成したのち、この接着剤層13が乾燥するのを待って、図の(c)に示したようにフィルム材16を接着剤層13から剥がす。このフィルム剥離作業は、接着剤層13が完全に乾燥および固化するのを待ってから行うか、またはある程度乾燥が進んで接着剤が基板11に定着した段階で行う。この第1の接着剤層13は、透明アクリル板15を接合する接着剤から印刷部12を保護するためのものであるから、この接着作業時に接着剤層13が再溶解して印刷部12が損なわれない程度に乾燥していればよい。
【0019】
前述のようにしてフィルム材16を剥がした後、接着剤層13の上に接着剤を流し込み、透明アクリル板15を接着して、図の(d)に示したように基板11と透明アクリル板15との間にシルク印刷部12を挟み込んだ構造のアクリル積層板を完成させる。透明アクリル板15を接着する方法は任意であるが、例えば基板11と透明アクリル板15とを、互いの接合面間に約0.7〜1.0mm程度の隙間が空くように保持し、この隙間にバキュームにより液状接着剤を導入して接合面間全体に行き渡らせ、そのまま乾燥させることで接合することができる。図の第2の接着剤層14は、このようにして第1の接着剤層13よりもやや厚い層として形成してある。
【0020】
このようなアクリル積層板の製造方法によれば、シルク印刷部12を設けた基板11上に透明アクリル板15を接着する際、予め形成した薄い接着剤層13により印刷インクが保護されるので、透明アクリル板15の接着時に適用される接着剤により印刷が滲んでしまうようなことがない。また、第1の接着剤層13が乾燥するまでのあいだフィルム材16によりその表面を保護しているので、乾燥過程の接着剤が空気に触れることに原因する曇りの発生や油脂、埃等の付着を防止することができる。したがって、これらの結果として、内部に印刷面を封入した美しいアクリル積層板を製造することができる。また、本発明の方法により製造したアクリル積層板は、印刷部分をアクリル板の内側に封入しているので耐久性が高く、またアクリル板により紫外線が減殺されるので印刷インクの退色も抑えられる。
【0021】
なお、この実施形態では、前述したようにスキージ17を使用した圧延作業により接着剤層13に対するフィルム材6の被着と薄い接着剤層13の形成とを同時的に行っているので製造工程を効率化することができる。このような手法は特に手作業により小型のアクリル積層板を製造するのに適している。
【0022】
図3は本発明に係るアクリル積層板の実施形態を示している。これは、構造的には、図1または図2に示した透明アクリル板15の上にさらに第2の印刷部22および第2の透明アクリル板25を積層したものである。第2の透明アクリル板25を接着するにあたり、印刷部22を設けた第1のアクリル板15の表面に第1の接着剤層13を形成し、その後第2の接着剤層14により第2の透明アクリル板25を接合するという手順は、図2によって示した工程と同様である。このように印刷面を透明アクリル板の接合面間に多層的に設けることにより、立体感のある独特の装飾表現または看板効果を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の方法により形成したアクリル積層板の実施形態の要部縦断面図。
【図2】本発明によるアクリル積層板の製造方法の実施形態を示す工程説明図。
【図3】本発明に係るアクリル積層板の実施形態の縦断面図。
【符号の説明】
【0024】
11 基板
12 印刷部
13 第1の接着剤層
14 第2の接着剤層
15 透明アクリル板
16 PPフィルム(フィルム材)
17 スキージ
22 第2の印刷部
25 第2の透明アクリル板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷を施した基板面に接着剤を塗布して薄い接着剤層を形成する工程、
前記塗布した接着剤が乾燥する以前に、該接着剤の上から剥離可能なフィルム材を被覆する工程、
前記接着剤が乾燥したのちに前記フィルム材を剥離し、露出した接着剤面上に透明アクリル板を接着する工程、
を有することを特徴とするアクリル積層板の製造方法。
【請求項2】
基板面に置いた流動性を有する接着剤の上からフィルム材を被せ、該フィルム材の表面にスキージを当てて接着剤を圧延することにより略均一な厚さの接着剤層を形成する請求項1に記載のアクリル積層板の製造方法。
【請求項3】
前記接着剤層の厚さを約0.3mmとする請求項1に記載のアクリル積層板の製造方法。
【請求項4】
前記基板はアクリル板である請求項1に記載のアクリル積層板の製造方法。
【請求項5】
前記フィルム材はPPフィルムである請求項1に記載のアクリル積層板の製造方法。
【請求項6】
前記接着剤として透明インクを適用する請求項1に記載のアクリル積層板の製造方法。
【請求項7】
前記印刷はシルク印刷である請求項1に記載のアクリル積層板の製造方法。
【請求項8】
前記透明アクリル板の表面に印刷を施し、
該印刷をした透明アクリル板に対して、前記接着剤層を形成する工程、フィルム材を被覆する工程、第2の透明アクリル板を接着する工程を繰り返すことにより、多層的に印刷面を形成するようにした請求項1に記載のアクリル積層板の製造方法。
【請求項9】
複数のアクリル板を層状に接着したアクリル積層板であって、前記アクリル板の接合面を含む複数の面に印刷を施したことを特徴とするアクリル積層板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−76284(P2007−76284A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269780(P2005−269780)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(596179139)株式会社エティック (4)
【Fターム(参考)】