説明

アシタバの組織培養方法

【課題】カルコン類化合物を含有するアシタバの細胞及び/又は組織培養方法、および効率的にカルコン類化合物を製造する方法、並びにこれらの方法により得られる培養物及びカルコン類化合物を含有する食品又は医薬を提供すること。
【解決手段】工程(1):植物成長調節物質を含有する培地でアシタバの組織を培養する工程、及び工程(2):工程(1)で得られた培養物を0.2mg/L未満のオーキシン類を含有する培地もしくはオーキシン類を含有しない培地で培養する工程、を含むアシタバの細胞及び/又は組織培養方法、並びに、前記方法により得られる培養物から、カルコン類化合物を取得する工程を含むカルコン類化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシタバの細胞及び/又は組織培養方法、当該培養方法により得られる培養物を用いたカルコン類化合物の製造方法、並びに当該培養方法により得られる培養物及び当該製造方法により得られるカルコン類化合物を含有する食品又は医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
アシタバに豊富に含まれる2種類の主要なカルコン類化合物(キサントアンゲロールと4−ハイドロキシデリシン)には、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を促進する活性と脂肪細胞へのグルコースの取り込みを促進する活性などのインスリン様の活性があることが報告されている(例えば、特許文献1)。さらに、自然発症の糖尿病モデルマウスを用いた動物実験において、発症前、あるいは、発症後に上記2種類のカルコン類化合物を経口投与することにより血糖値が低下することも報告されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、培養組織における二次代謝産物の生成を利用した生薬原材料生産や物質生産に関しては、チョウセンニンジンが実用的に行われている。この例では、通常のカルス培養により得られる細胞組織そのものに有効成分であるジンセノサイドが生産されており、高効率に生産可能である(例えば、非特許文献1)。
【特許文献1】WO2004/096198号パンフレット
【非特許文献1】Journal of Natural Products,Vol.47,No.1,p.70−75,1984
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アシタバに含まれるカルコン類化合物はそのインスリン様の活性のために、医薬品や機能性食品素材となりうるが、その生産は自生や栽培されたアシタバ由来のものに限定される。さらにアシタバの栽培は気候によって生産性が左右され、またアシタバ中のカルコン類化合物の含有量は季節変動するので、カルコン類化合物を工業的に安定して提供するには問題がある。
【0005】
培養組織における二次代謝産物の生成に関しては、一般的には増殖するカルスや細胞では二次代謝産物を作らない例が多く、また、二次代謝産物を生成する場合にも、植物種や目的とする二次代謝産物によって培養条件等を検討する必要がある。すなわち、培養組織における二次代謝産物の生成は、目的物質の定量分析系の確立と培養条件、誘導条件を検討解析することによって初めて可能となる。従来、アシタバの培養植物組織におけるカルコン類化合物の生成に関する事例はなく、その培養条件は不明である。
【0006】
本発明の課題は、カルコン類化合物を含有するアシタバの細胞及び/又は組織培養方法、および効率的にカルコン類化合物を製造する方法、並びにこれらの方法により得られる培養物及びカルコン類化合物を含有する食品又は医薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、カルコン類化合物を含有するアシタバの細胞及び/又は組織培養物の培養条件について、鋭意検討したところ、最初の工程において、植物成長調節物質を含有する培地で培養することにより、アシタバの初期培養物(カルス)を得ることができ、さらに次の工程において、その培養物を特定の条件下で培養することにより、カルコン類化合物を含有するアシタバの培養物を得ることができることを見出して本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
〔1〕 工程(1):植物成長調節物質を含有する培地でアシタバの組織を培養する工程、及び
工程(2):工程(1)で得られた培養物を0.2mg/L未満のオーキシン類を含有する培地もしくはオーキシン類を含有しない培地で培養する工程
を含む、アシタバの細胞及び/又は組織培養方法、
〔2〕 前記〔1〕の方法により得られるアシタバの細胞及び/又は組織培養物を含有する食品、
〔3〕 前記〔1〕の方法により得られるアシタバの細胞及び/又は組織培養物を含有する医薬、
〔4〕 前記〔1〕の方法により得られる培養物から、カルコン類化合物を取得する工程を含むカルコン類化合物の製造方法、
〔5〕 前記〔4〕の方法により得られるカルコン類化合物を含有する食品、並びに
〔6〕 前記〔4〕の方法により得られるカルコン類化合物を含有する医薬
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、カルコン類化合物を含有するアシタバの細胞及び/又は組織培養方法、カルコン類化合物を製造する方法、当該細胞及び/又は組織培養物、又はカルコン類化合物を含有する医薬又は食品が提供される。本発明の方法により、季節変動に関係なく安定して、カルコン類化合物を含有する培養物が得られ、該培養物からカルコン類化合物を製造することができる。本発明の方法により、カルコン類化合物以外の成分を低減させたアシタバの細胞及び/又は組織培養物が得られることから、カルコン類化合物を積極的に摂取したい場合、アシタバの植物体と比較して本発明の方法により得られる培養物は非常に有用性の高いものとなる。従って、本発明の方法により得られる培養物およびカルコン類化合物は医薬や機能性食品素材として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の培養方法について詳細に説明する。
【0011】
工程(1):植物成長調節物質を含有する培地でアシタバの組織を培養する工程
工程(1)で培養される培養物としては、アシタバの組織切片を植物成長調節物質を含有する培地で培養することにより誘導される初期培養物であるカルス、当該カルスを植物成長調節物質を含有する培地でさらに培養することにより得られる、増殖された培養細胞及び/又は組織、アシタバの組織から分化した培養組織を植物成長調節物質を含有する培地で直接培養したもののいずれもが包含される。
【0012】
ここで使用されるアシタバの組織はいずれの部位由来でもよく、特に限定はないが、例えば根、茎、葉柄、葉又はこれらの混合物を使用することができ、カルスの誘導率を向上させる観点から、好適には、茎、葉柄、又はこれらの混合物を使用することができる。
【0013】
培養に使用するアシタバの組織は、通常は殺菌処理を施してから使用される。例えば、アシタバの組織切片を70%アルコールで消毒した後、次亜塩素酸ナトリウム溶液などで殺菌処理する。その後、無菌水で洗浄して、植物成長調節物質を含有する植物組織培養用の固形培地等に置床して、一定温度で培養することでカルス誘導が可能となる。
【0014】
植物成長調節物質としては、細胞分裂や細胞伸長、分化に関与するものであれば特に限定はないが、例えば、オーキシン類やサイトカイニン類が例示され、特にオーキシン類を必須成分として培地中に含有させることが好ましい。オーキシン類としては、例えば、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、インドール酢酸(IAA)、インドール酪酸(IBA)、ナフタレン酢酸(NAA)、2−ナフトキシ酢酸(NOA)等が例示され、早期にカルスを誘導する観点から、好適には2,4−Dが使用される。また、サイトカイニン類を使用する場合は、カイネチン、6−ベンジルアミノプリン(BA)、ゼアチン、イソペンテニルアデニン、4−ベンジルアミノベンゾイミダゾール、N,N’−ジフェニル尿素系(例えば、N−(2−クロロ−4−ピリジル)−N’−フェニル尿素等)等が例示され、カルスの誘導率を向上させる観点から、好適にはカイネチン、BA、ゼアチンが使用される。上記のオーキシン類やサイトカイニン類は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0015】
培地中の植物成長調節物質の含有量としては、特に限定はないが、カルスの誘導率を向上させる観点から、0.001〜100mg/Lが好ましく、0.005〜50mg/Lがより好ましく、0.01〜10mg/Lがさらに好ましい。例えば、オーキシン類を培地に含有させる場合は、培地中のオーキシン類の含有量としては、好適には0.2〜10mg/L、より好適には0.2〜5mg/L、さらに好適には0.5〜2mg/Lが例示される。また、サイトカイニン類を培地に含有させる場合は、培地中のサイトカイニン類の含有量としては、好適には0.001〜1mg/L、より好適には0.005〜0.5mg/L、さらに好適には0.01〜0.2mg/Lが例示される。これらの含有量については各種植物成長調節物質の発揮する植物成長調節活性に応じて、適宜設定することができ、活性の強い植物成長調節物質を含有させる場合は、含有量を減少させればよい。また、オーキシン類とサイトカイニン類のいずれをも培地に含有させる場合のそれぞれの培地中の含有量は、例えば2,4−Dとカイネチンを使用する場合、それぞれ0.5〜1mg/L、0.001〜0.1mg/Lが好適である。
【0016】
培養に使用される基本培地としては、MS(ムラシゲ&スクーグ)培地やB5培地、ホワイト培地、Nitsch&Nitsch培地、SH培地、LS培地、ヘラー培地の他、その他植物組織培養に用いられる公知の基本培地を用いることができる。
【0017】
さらに、カルスの誘導率や増殖率を向上させる観点から、培地は上記の基本培地の組成以外にもショ糖、グルコース等の糖類を含有することが好ましい。含有量としては、特に限定はないが、例えば、培地中、好適には1〜100g/L、より好適には5〜70g/L、さらに好適には10〜40g/Lである。
【0018】
また、培地の形態としては、液状、固形状のいずれでもよく、固形状の培地を使用する場合、固形剤としては寒天やゲランガム等が使用される。液状培地を用いる場合は、回転振とう培養や振とう培養を行なうことが好ましい。
【0019】
誘導したカルスをさらに培養することにより培養物を得る場合は、一定期間で植継ぎ増殖することができる。増殖用の培地はカルスを誘導した培地と同じ組成でもよく、また植物成長調節物質の種類を変更することもできる。変更する場合は、オーキシン類に関しては、2,4−Dの培地中の含有量を1とした場合、IAAとIBAはそれぞれ1から10倍量の含有量に、NAAは1から5倍量の含有量になるように変更することが望ましい。
【0020】
培養温度は、植物が低温で氷結しない、高温で乾燥しない、又は熱で枯死しないような温度範囲であれば特に限定はないが、例えば22℃から28℃が適しており、特に工程(1)の開始後早期にカルス誘導する場合には25℃から28℃が適している。また、安定して増殖させる場合には22℃から25℃が適している。
【0021】
培養日数については、特に限定はなく、例えばカルスを誘導する場合には最低でも約10日間培養する必要があり、好適には10〜100日間、より好適には10〜70日間の培養が実施される。なお、長期間培養する場合は、培地の交換や新たな培地への継代などを適宜実施することができる。
【0022】
培養は、明所でも暗所でもいずれで行ってもよいが、一般的なカルス誘導を行なう場合は暗所で行なわれる。なお、本明細書において暗所とは、通常、植物組織培養で用いられる暗所条件と同義であり、完全暗所である必要はない。すなわち、観察等において通常の光条件に一時的に曝すことがあったとしても暗所とする。暗所条件の作り方としては、特に限定はないが、培養室の明かりを点灯しない方法や培養物の入った容器を遮光性の容器に封入するか、もしくは容器をアルミホイル等により包む方法等が例示される。
【0023】
工程(2):工程(1)で得られた培養物を0.2mg/L未満のオーキシン類を含有する培地もしくはオーキシン類を含有しない培地で培養する工程
後述の実施例2に示すとおり、上記工程(1)で得られた培養物中には、カルコン類化合物はほとんど含有されておらず、カルコン類化合物を多く含有するアシタバの細胞及び/又は組織培養物を得るためには、当該工程(2)の培養が必須となる。即ち、カルコン類化合物を含有するアシタバの細胞及び/又は組織培養物を得るためには、工程(1)で得られた培養物を、オーキシン類を含有しないか、あるいは、含有したとしても含有量が0.2mg/L未満である培地で培養すればよい。以降、本発明において、当該工程(2)の培養物を単に本発明の培養物と称することがある。
【0024】
なお、本明細書において、カルコン類化合物とはカルコン骨格を有する化合物のことを意味する。アシタバは多種多様なカルコン類化合物を含有していることが知られているが、含有量から見た場合、そのほとんどがキサントアンゲロールと4−ハイドロキシデリシンである。本発明の方法により得られるカルコン類化合物含有培養物についても、キサントアンゲロールと4−ハイドロキシデリシンを多く含有することから、本発明においてカルコン類化合物とは、特にキサントアンゲロール及び/又は4−ハイドロキシデリシンを示すものとする。
【0025】
本発明の培養物とは、工程(1)で得られた培養物を、0.2mg/L未満のオーキシン類を含有する培地もしくはオーキシン類を含有しない培地で培養することにより得られるカルコン類化合物含有培養物や、当該カルコン類化合物含有培養物をさらに0.2mg/L未満のオーキシン類を含有する培地もしくはオーキシン類を含有しない培地で増殖させることにより得られる培養物のいずれもが包含される。また、カルコン類化合物を生成するという、本発明の特徴を維持する限り、継代して系統化することもできる。
【0026】
工程(1)で得られた培養物を、オーキシン類を含有しない、あるいは、含有したとしても含有量が0.2mg/L未満である培地で数日間培養することで、カルコン類化合物を含有する本発明の培養物を取得することができる。培地中のオーキシン類含有量としては、培養物中のカルコン類化合物含有量を高める観点から、0.1mg/L未満、あるいはオーキシン類を含有しないことが好ましいが、培地に含有されるオーキシン類の種類に依存するオーキシン活性により、培地中のオーキシン類含有量は0.2mg/L未満の範囲内で適宜調整することができる。なお、オーキシン類の種類としては、前述の工程(1)で例示するオーキシン類が挙げられる。
【0027】
培地中のオーキシン類以外の植物成長調節物質の有無については特に限定はないが、本発明の培養物中のカルコン類化合物の含有量を向上させるという観点からは、好ましくはジャスモン酸、サリチル酸及び/又はそれらの類縁化合物を含有することができる。ジャスモン酸の類縁化合物としては、特に限定はないが、例えばジャスモン酸メチル、7−イソジャスモン酸、7−イソジャスモン酸メチル、ジャスモン酸−アミノ酸結合体、ククルビン酸、スルホチュベロン酸、チュベロン酸、チュベロン酸グルコシドが例示される。サリチル酸の類縁化合物としては、特に限定はないが、例えば、サリチル酸グルコシド、サリチル酸グルコースエステル、サリチル酸メチルが例示される。
【0028】
培地中にジャスモン酸もしくはその類縁化合物を添加する場合、その添加量は、例えば、好ましくは0.1〜100mg/L、より好ましくは1〜70mg/L、さらに好ましくは10〜50mg/Lである。また、サリチル酸もしくはその類縁化合物を添加する場合、その添加量は、例えば、好ましくは1〜60mg/L、より好ましくは1〜40mg/L、さらに好ましくは10〜30mg/Lである。ジャスモン酸、サリチル酸及び/又はその類縁化合物を含有する培地での培養期間は、特に限定はなく、例えば工程(2)の全期間にわたり実施することができるが、好ましくは1〜3日間、より好ましくは1〜24時間実施することが望ましく、また当該培養時期については、特に限定はないが、工程(2)の開始時に実施することが好ましい。すなわち、後述の実施例5に記載のとおり、より高含量のカルコン類化合物を含有する細胞及び/又は組織培養物を得るためには、ジャスモン酸、サリチル酸及び/又はその類縁化合物を含有する培地で継続的に工程(2)の培養を実施するよりも、ジャスモン酸、サリチル酸及び/又はその類縁化合物を含有する培地で一時的に培養を実施する方が好ましい。
【0029】
また、工程(2)においては、オーキシン類以外の植物成長調節物質で、ジャスモン酸、サリチル酸及びそれらの類縁化合物以外の植物成長調節物質は、好適には培地中に含有されない方が好ましい。すなわち、当該工程で使用される培地としては、MS培地等の前述する基本培地そのものや、これらの基本培地にショ糖やグルコース等の糖類を添加したもの、必要に応じてジャスモン酸、サリチル酸、それらの類縁化合物又は植物成長調節物質以外の成分を添加したものが例示される。
【0030】
カルコン類化合物を誘導した培養物は、さらに培地の交換や植継ぎ培養することでさらに増殖することができる。ここで使用される培地は上記と同じでもかまわないし、0.2mg/L未満のオーキシン類含有量の範囲内であれば、オーキシン類の種類を変更してもよい。また、工程(2)において、培養当初からオーキシン類を含有しない培地を使用する場合は、植え継ぎや培地交換の際にもオーキシン類は含有しない方が良い。
【0031】
後述の実施例3に記載のとおり、本発明の培養物中の単位重量あたりのカルコン類化合物含有量は、培養当初は少ないが培養日数を重ねるにつれて高くなることから、より高い含有量のカルコン類化合物含有培養物を得る観点からは、当該工程の培養を60日間以上行なうことが好適である。すなわち、工程(2)の培養期間としては、特に限定はないが、例えば、好適には60日間以上、より好適には70〜120日間、さらに好適には80〜100日間が例示される。
【0032】
培養中の光条件については、取得したい目的のカルコン類化合物の種類に応じて適宜設定することができる。すなわち、暗所での培養を行なった場合には、キサントアンゲロールを多く含有する培養物を培養することができる。これは後述の実施例3の結果に基づくものであり、すなわち、当該工程の際に暗所条件下に置くと、アシタバに含まれる2種類の主要カルコン類化合物のうちの4−ハイドロキシデリシンの合成経路よりキサントアンゲロールの合成経路の方に生合成が傾き、カルコン類化合物中のキサントアンゲロールの比率が高まると予想される。逆に、明所条件下で培養を行うと、暗所条件下に比較して、カルコン類化合物中の4−ハイドロキシデリシンの比率が高まると予想される。
【0033】
その他、基本培地や培養温度、培養時間、培地の形態等については、前述の工程(1)と同様に行なうことができる。
【0034】
かくして本発明の方法により、培養温度、培養時間等の培養条件を調整することによって、目的のカルコン類化合物を含有する培養物を取得することができる。
【0035】
また、本発明の培養物は、食品や医薬の原料として使用することができるが、さらに当該培養物から、カルコン類化合物を製造することもできる。なお、ここでカルコン類化合物とは、カルコン類化合物の精製品も含まれるが、その他の交雑物が含まれていても、カルコン類化合物を分離する目的で取得されたものであれば本発明のカルコン類化合物に包含される。
【0036】
カルコン類化合物の製造方法としては、例えば、培養物もしくは培養物の乾燥物に有機溶媒を適宜加え、抽出を行い、抽出液から溶媒を除去する方法が挙げられる。有機溶媒としては、カルコン類化合物が良好に抽出されるものであれば特に限定はないが、エタノール、メタノール、酢酸エチル、クロロホルム、それらの水溶液等が挙げられる。得られるカルコン類化合物を食品素材として使用する場合に特に好適な有機溶媒としては、60%以上のエタノール水溶液が例示される。なお、このようにして得られた抽出物は本発明のカルコン類化合物として使用することができる。
【0037】
さらに上記の抽出物からのカルコン類化合物の精製については、化学的方法、物理的方法等の公知の精製手段を用いれば良く、シリカゲル、逆相系樹脂等を用いた各種クロマトグラフィー、ゲルろ過法、分画膜による分画法、溶媒分配法、イオン交換樹脂等、従来公知の精製方法を組み合わせて精製することができる。
【0038】
なお、本発明の培養物は、アシタバに含まれるカルコン類化合物を特異的に生産することができ、さらに後述の実施例3に示すとおり、当該培養物中ではアシタバ中のクマリン類の生産も抑えられている。従って、本発明の方法により得られるカルコン類化合物にはクマリン類の混入もほとんどなく、目的のアシタバ由来のカルコン類化合物を効率的に取得するために極めて有用な方法である。
【0039】
また、本発明は、上記の方法により得られた培養物又はカルコン類化合物を含有する食品(以下、本発明の食品と称することがある)を提供する。なお、本発明の食品において「含有」とは、含有、添加及び/又は希釈を意味する。ここで、「含有」とは食品中に本発明の方法により得られる培養物もしくはカルコン類化合物が含まれるという態様を、「添加」とは食品の原料に、本発明の方法により得られる培養物もしくはカルコン類化合物を添加するという態様を、「希釈」とは本発明の方法により得られる培養物もしくはカルコン類化合物に、食品の原料を添加するという態様を表すものである。本発明の食品はカルコン類化合物の生理活性を期待した食品、すなわち機能性食品として優れている。
【0040】
なお、本発明の培養物を含有する食品、もしくは後述する本発明の培養物を含有する医薬としては、本発明の培養物をそのまま添加してもよいが、好ましくは組織培養物の乾燥粉末、凍結乾燥粉末、抽出物、精製物、酵素消化物、発酵処理物等に加工して使用することが望ましい。
【0041】
本発明の食品としては、上記の方法により得られた培養物もしくはカルコン類化合物を含有する嗜好飲料(青汁、緑茶、紅茶、ウーロン茶、コーヒー、清涼飲料、乳酸飲料など)、アルコール飲料(日本酒、中国酒、ワイン、ウイスキー、焼酎、ウオッカ、ブランデー、ジン、ラム酒、ビール、清涼アルコール飲料、果実酒、リキュールなど)、穀物加工品(小麦粉加工品、デンプン類加工品、プレミックス加工品、麺類、マカロニ類、パン類、あん類、そば類、麩、ビーフン、はるさめ、包装餅など)、油脂加工品(可塑性油脂、てんぷら油、サラダ油、マヨネーズ類、ドレッシングなど)、大豆加工品(豆腐類、味噌、納豆など)、食肉加工品(ハム、ベーコン、プレスハム、ソーセージなど)、水産製品(冷凍すりみ、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、さつま揚げ、つみれ、すじ、魚肉ハム、ソーセージ、かつお節、魚卵加工品、水産缶詰、つくだ煮など)、乳製品(原料乳、クリーム、ヨーグルト、バター、チーズ、練乳、粉乳、アイスクリームなど)、野菜・果実加工品(ペースト類、ジャム類、漬け物類、果実飲料、野菜飲料、ミックス飲料など)、菓子類(チョコレート、ビスケット類、菓子パン類、ケーキ、餅菓子、米菓類など)、調味料(しょうゆ、ソース、酢、みりんなど)、缶詰・瓶詰め・袋詰め食品(牛飯、釜飯、赤飯、カレー、その他の各種調理済み食品)、半乾燥または濃縮食品(レバーペースト、その他のスプレッド、そば・うどんの汁、濃縮スープ類)、乾燥食品(即席麺類、即席カレー、インスタントコーヒー、粉末ジュース、粉末スープ、即席味噌汁、調理済み食品、調理済み飲料、調理済みスープなど)、冷凍食品(すき焼き、茶碗蒸し、うなぎかば焼き、ハンバーグステーキ、シュウマイ、餃子、各種スティック、フルーツカクテルなど)、固形食品、液体食品(スープなど)、香辛料類などの農産・林産加工品、畜産加工品、水産加工品などが挙げられる。
【0042】
本発明の食品は、形状に限定はなく、タブレット状、顆粒状、カプセル状等の形状で経口的に摂取可能な形状物であればよい。
【0043】
タブレット状食品の製造方法としては、公知の方法により製造することができ、特に限定はないが、例えば、賦形剤、例えば、デキストリン、難消化性デキストリン、コーンスターチ、タピオカデンプン、サイクロデキストリン等を添加して凍結乾燥、粉砕することにより、乾燥粉末を得た後、さらに乳糖、結晶セルロース、還元麦芽糖などの賦形剤;ショ糖脂肪酸エステルなどの滑沢剤;リン酸カルシウム、卵殻カルシウム、CMC−Caなどの結合剤;微粒二酸化ケイ素などの流動化剤;トレハロース、ビタミンC等の各種ビタミン類;クエン酸、ブドウ糖、砂糖、糖アルコール、ステビア等の甘味料;香料;粉末果汁;海藻由来粉末(例えば、フコイダン含有粉末、アガロオリゴ糖粉末等);きのこ粉末;乾燥野菜粉末(例えばアシタバ等のセリ科植物粉末)等を適宜混合し、必要に応じて造粒工程を施し、ロータリー式打錠機により打錠して製造することができる。
【0044】
また、顆粒状食品の製造方法としては、公知の方法により製造することができ、特に限定はないが、例えば上記のタブレット状食品の製造工程においてロータリー式打錠機に施す前に得られる各種混合した粉末に、エタノールを添加して練合し、押出し造粒機により造粒し、これを乾燥させて振動篩で整粒して顆粒状食品を製造することができる。
【0045】
また、カプセル状食品の製造方法としては、公知の方法により製造することができ、特に限定はないが、例えば上記のタブレット状食品の製造工程においてロータリー式打錠機に施す前に得られる各種混合した粉末、もしくは本発明の培養物もしくはカルコン類化合物そのままを、1号カプセルに充填して製造することができる。また、充填前の粉末にグリセリン脂肪酸エステル、ミツロウ等を添加して乳化させ、ゼラチンとグリセリンを被包材としてソフトカプセルを製造することもできる。
【0046】
また、本発明の食品としては、特に好適には本発明の培養物もしくはカルコン類化合物を含有する飲料(以下、本発明の飲料と称することがある)が例示される。
【0047】
本発明の飲料としては、公知の方法により製造することができ、特に限定はないが、例えば本発明の培養物もしくはカルコン類化合物に、適宜香料、甘味料(砂糖、スクラロース、エリスリトール、キシリトール等)、果汁、粉末果汁、野菜エキス、野菜ペースト、海藻由来成分や海藻抽出物(例えば、フコイダン含有物、アガロオリゴ糖含有物等)、きのこ粉末、アシタバ等の植物の乾燥粉末等を添加し、水やアルコールに溶解することにより本発明の飲料を製造することができる。また、上記の方法により得られた本発明の培養物やカルコン類化合物を、公知の青汁、清涼飲料やお茶飲料に添加して本発明の飲料を製造することもできる。特にアシタバの青汁に上記の方法により得られた本発明の培養物やカルコン類化合物を添加することにより、カルコン類化合物の含有量を向上させた青汁とすることができる。
【0048】
本発明の食品中のカルコン類化合物の含有量は特に限定されず、その官能とカルコン類化合物含量の観点から適宜選択できるが、例えば、食品中のキサントアンゲロールおよび4−ハイドロキシデリシンの総含有量として、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05〜20重量%、さらに好ましくは0.1〜15重量%である。
【0049】
また、本発明の食品は特定保健用食品等の機能性食品素材として特に適している。当該食品としては、そのカルコン類化合物の生理機能によって、血糖値が気になる方や体脂肪が気になる方、セルライトを解消したい方に対して有用であり、例えば血糖値の低下や上昇抑制、セルライトの解消等の表示を付した食品として極めて有用である。
【0050】
また、本発明の培養物、もしくは当該培養物より得られるカルコン類化合物を含有する医薬を提供する。当該医薬はカルコン類化合物を含有することから、カルコン類化合物の有する生理機能を利用した医薬、例えば、血糖値の低下や高脂血症の治療、肥満症の治療、アルツハイマー病や老人性痴呆症の治療のための医薬として有用である。
【0051】
本発明の医薬の製造は、通常、本発明の培養物または当該培養物から得られたカルコン類化合物(以下、本発明の有効成分と称することがある)を薬学的に許容できる液状または固体状の担体と配合することにより行われ、所望により溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を加えて、錠剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、カプセル剤等の固形剤、通常液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤とすることができる。また、使用前に適当な担体の添加によって液状となし得る乾燥品や、その他、外用剤とすることもできる。
【0052】
医薬用担体は、医薬の投与形態および製剤形態に応じて選択することができる。固体形状の経口剤とする場合は、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤等とすることができ、たとえば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩などの医薬用担体が利用される。また経口剤の調製に当っては、更に結合剤、崩壊剤、界面活性剤、潤沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料などを配合することもできる。たとえば、錠剤または丸剤とする場合は、所望によりショ糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロースなどの糖衣または胃溶性もしくは腸溶性物質のフィルムで被覆してもよい。液体形状の経口剤とする場合は、薬理学的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などとすることができ、たとえば、精製水、エタノールなどが担体として利用される。また、さらに所望により湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、防腐剤などを添加してもよい。
【0053】
一方、非経口剤とする場合は、常法に従い本発明の前記有効成分を希釈剤としての注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、落花生油、大豆油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどに溶解ないし懸濁させ、必要に応じ、殺菌剤、安定剤、等張化剤、無痛化剤などを加えることにより調製することができる。また、前記有効成分を含む固体組成物を製造し、使用前に無菌水または無菌の注射用溶媒に溶解して使用することもできる。
【0054】
外用剤としては、経皮投与用または経粘膜(口腔内、鼻腔内)投与用の、固体、半固体状または液状の製剤が含まれる。また、座剤なども含まれる。たとえば、乳剤、ローション剤などの乳濁剤、外用チンキ剤、経粘膜投与用液剤などの液状製剤、油性軟膏、親水性軟膏などの軟膏剤、フィルム剤、テープ剤、パップ剤などの経皮投与用または経粘膜投与用の貼付剤などとすることができる。
【0055】
上記のような各種製剤形態の医薬は、それぞれ公知の医薬用担体などを利用して、適宜、常法により製造することができる。また、かかる医薬における有効成分の含有量は、特に限定されるものではないが、その投与形態、投与方法などを考慮し、好ましくは1〜100重量%程度であることが望ましい。
【0056】
本発明の医薬は、製剤形態に応じた適当な投与方法で投与される。投与方法も特に限定はなく、例えば内用、外用および注射により投与することができる。本発明の治療剤又は予防剤を注射により投与する場合は、たとえば静脈内、筋肉内、皮下、皮内などに投与し得、外用により投与する場合は、たとえば、座剤等の外用剤として、その適する投与方法により投与すればよい。
【0057】
本発明の医薬の投与量は、その製剤形態、投与方法、使用目的および当該医薬の投与対象である患者の年齢、体重、症状によって適宜設定され一定ではない。一般には、製剤中に含有される前記有効成分の投与量で、例えば有効成分として本発明の培養物を使用する場合、乾燥重量で成人1日当り好ましくは0.5mg〜50g/kg体重、より好ましくは5mg〜5g/kg体重、さらに好ましくは50mg〜500mg/kg体重であり、また有効成分としてカルコン類化合物を使用する場合、成人1日当り好ましくは1μg〜100mg/kg体重、より好ましくは10μg〜10mg/kg体重、さらに好ましくは100μg〜1mg/kg体重である。もちろん投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、あるいは範囲を超えて必要な場合もある。投与は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で、または数回に分けて行ってもよい。投与期間も任意である。また、本発明の治療剤または予防剤はそのまま経口投与するほか、任意の食品に添加して日常的に摂取させることもできる。
【0058】
また、本発明の方法により得られる培養物やカルコン類化合物は、カルコン類化合物を含有することから、飼料もしくは化粧料の原料として使用することもできる。これらの調製や製造については公知の方法に従えばよい。
【実施例】
【0059】
以下に本発明を実施例をもって示すが、本発明はこれらの実施例の範囲のみに限定されるものではない。
【0060】
実施例1 アシタバからのカルスの誘導
栽培1−2年目のアシタバの葉、茎、葉柄、根を70%アルコールで5分間消毒した後、次亜塩素酸ナトリウム溶液(有効塩素濃度約2.2%)に10分間つけて殺菌処理した。その後、無菌水で洗浄して、カルス誘導に供する植物体の切片を作成した。切片はオーキシン類1mg/L、サイトカイニン類0.1mg/L又は0.2mg/Lを含むMS寒天培地(ショ糖30g/L含有)に置床して、一定温度(22℃または25℃または28℃)で暗所にて培養した。また、対照として、オーキシン類及びサイトカイニン類を含有しない培地(MSZ)でも同様に培養した。なお、オーキシン類(2,4−D、IAA、IBA)、サイトカイニン類(カイネチン、BA)を含有する各種培地について、下記表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
培養から10〜60日目のカルスの形成率を測定した。その結果、早いもので培養10日目よりカルスの誘導が始まった。図1は、25℃暗所における培養34日目のカルス誘導評価結果を示し、即ち、これは25℃暗所における植物成長調節物質の種類とアシタバ植物体の由来部位の組み合わせでカルス誘導を検討した結果の1例である。どの部位からも誘導が可能であるが、茎と葉柄が安定に誘導できた。培地はMSD0.1K>MSB0.1K=MSA0.2B>MSA0.1K>MSZの順に誘導に優れた。つまり、オーキシン類及びサイトカイニン類を含有する培地ではいずれでも誘導可能であるが、オーキシン類に関しては2,4−Dが適していることが明らかになった。
【0063】
図2は、サイトカイニンと培養温度がカルス誘導に及ぼす影響に関して、茎由来の培養56日目のカルス誘導評価結果を示す。即ち、オーキシン類として2,4−D 1mg/L存在下でのカルス誘導におけるサイトカイニンの種類と培養温度の組み合わせでカルス誘導を検討した結果の1例である。結果より、いずれのサイトカイニン類を用いた場合にも誘導可能であることが分かった。また、サイトカイニン類としては、カルスの誘導という観点からは特にベンジルアデニンやゼアチンが適していた。培養温度はいずれの温度でも誘導可能であるが、特に25℃から28℃が適していた。但し、日数が経過すると28℃では褐変化する傾向があるので、培養維持という意味では、25℃が適していた。
【0064】
カルス誘導における2,4−D濃度の影響を培養19日目の評価結果を図3に示す。即ち、オーキシン類として2,4−Dの各種濃度と植物体組織部位との組み合わせでカルス誘導を検討した結果の1例である。2,4−D濃度は0.5〜5mg/Lのいずれでも誘導可能であるが、特に0.5〜1mg/Lにおいて高い誘導が得られた。部位は葉を除くすべての供試部位から誘導が可能であったが、特に茎と葉柄が安定に誘導できた。
【0065】
実施例2 アシタバのカルスや組織の継代培養
実施例1で誘導したカルスあるいは組織を、実施例1で使用したものと同じ寒天培地で2週間あるいは4週間の間隔で継代培養を行った。培養中は、培地中の植物成長調節物質の種類によって、細胞、組織の形態が異なるために、カルス、特徴のある細胞や組織毎に継代培養を行った。次に、これらのカルス、組織をそれぞれ前述の継代培養時と培地組成が同じか、さらにオーキシン類濃度を増量した寒天を含まない液体培地中で、ヤマト科学(株)社製の回転振とう培養機を用いて、115r/minの速度での回転培養による増殖培養を行った。下記の表3に増殖培養時の増殖率を示す。なお、下記表3において、実施例1で使用した培地を誘導培地、実施例2で使用した培地を増殖培地と称す。
【0066】
その結果、これらは約2〜30倍の増殖倍率をしめした。誘導したカルスは増殖培地中において一定期間で植継ぎ増殖でき、また、増殖培地が誘導培地と同じでもよく、植物成長調節物質の種類を変更してもよいことが示された。なお、植物成長調節物質を変更する場合は、オーキシン類に関しては、培地中の含有量が2,4−D=1に対して、IAAは10倍の含有量に変更してもよいことが明らかになった。
【0067】
さらに得られたカルス及び組織中のカルコン類化合物(キサントアンゲロール(XA)と4−ハイドロキシデリシン(4HD))の含有量を下記の方法で測定した。すなわち、培養組織を凍結乾燥後、乾燥物50mgに対して1mLの60%エタノール水溶液を加え、30分間、室温で抽出を行った。次に抽出液を逆相系カラム(ODS−80TsQA;東ソー社製)を用いてHPLCで定量分析した。
【0068】
その結果、増殖の旺盛なカルスでは、ほとんどカルコン類化合物を生産していないことが明らかになった。また、増殖する分化の進んだ組織培養物では、カルコン類化合物を生産するが、その含有量は非常に少なかった。使用した培地組成を下記表2に示し、増殖率および得られたカルコン類化合物含有量について下記表3に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
実施例3 カルコン類化合物の誘導および分析
(1)2,4−Dを1mg/L含有するMS寒天培地で培養したカルスを2,4−Dを含まないMS寒天培地(ショ糖20g/L含有)に移植し、移植後は暗所および約3000ルクスの蛍光灯下の光照射条件下で25℃培養をおこなった。日数が30日を越えたものは同じ組成の培地に移植し継代培養した。得られた培養組織中のXAと4HDの含有量を上記の実施例2と同様の方法で測定した。また、比較対照として、アシタバの植物体葉茎中のカルコン類化合物の含有量についても同様の方法で測定した。
【0072】
(2)図4は、単位組織あたりのXAと4HDの総量をカルコン類化合物含量として、移植後の日数に対してプロットした図である。暗所での培養においては、移植後、30日目くらいからカルコン類化合物を作り始め、60日目にはトータル量として500mg/kgDWを越えるカルコン類化合物を生産することがわかった。図5〜7は、それぞれアシタバ植物体の葉茎、2,4−Dを含有する培地で誘導したカルス(実施例2の表3に記載のカルス)、オーキシン類を含有しない培地で暗所で培養した組織(実施例3−(1)で得られた培養物)について、カルコン類化合物を定量した時のHPLCのクロマトチャートの1例を示す。図5〜7において、縦軸は保持時間、横軸はシグナルの強度を示す。増殖の旺盛なカルスではほとんどカルコン類化合物を生産しないが、オーキシン類を含有しない培地へ移植培養後の組織培養物はカルコン類化合物をアシタバ植物体と同じレベルまで生産することがわかった。また、アシタバ植物体と比較すると、カルコン類化合物を生産する組織培養物はクマリン類についてはほとんど生産されていなかった。オーキシン類を含有しない培地で培養した組織のパターンは、アシタバ植物体のものと比較して、アシタバの精製過程で得られるような純度の高いHPLCパターンを示しており、工業的にアシタバ由来のカルコン類化合物を精製利用するには非常にメリットがあると考えられた。
【0073】
(3)また、光条件と生産されるXAと4HDの比率(XA/4HD)の関係について図8に示した。光照射条件下では、XAに比較して4HDの比率の上昇が見られた。このことから、アシタバ中のカルコン類化合物の生産バランスを、培養時の光条件により制御することができることがわかった。このことは、工業的に製造するカルコン類化合物の種類をコントロールするには非常にメリットがあると考えられた。
【0074】
実施例4 カルコン類化合物含有組織の増殖
実施例3で得られたカルコン類化合物含有組織培養物を増殖用の液体培地に移植して、増殖率とカルコン類化合物(XAおよび4HDの総量)の生産量を測定した。すなわち、カルコン類化合物含有組織培養物をオーキシン類を含まないMS寒天培地(ショ糖20g/L含有)に移植後、約80日目の十分にカルコン類化合物を生産している組織培養物を用いて、1Lフラスコ中の400mL MS液体培地(ショ糖20g/L含有)に湿重量で約3gの培養物を、もしくは100mLフラスコ中の50mL MS液体培地(ショ糖20g/L含有)に湿重量で約0.5gの培養物を移植して2週間培養した。1週間毎に組織重量と上記の実施例3に準じてカルコン類化合物の含有量を測定した結果について、図9に1Lフラスコのデータを、図10に100mLフラスコのデータを示す。その結果、いずれのフラスコについても組織重量は2週間で3〜8倍増殖し、カルコン類化合物の総量も増加した。
【0075】
実施例5 ジャスモン酸メチルおよびサリチル酸によるカルコン類化合物の誘導
実施例2で得られた増殖の旺盛なカルスを用いて、ジャスモン酸メチル及びサリチル酸による処理を図11のように行ない培養した。なお、図中JAはジャスモン酸メチル、SAはサリチル酸を示す。
【0076】
すなわち、コントロールは、2,4−Dを1mg/L含有するMS寒天培地で培養したカルスを2,4−Dを含まないMS寒天培地に移植して暗所25℃培養を39日間おこなった。実験区1は、2,4−Dを1mg/L含有するMS寒天培地で培養したカルスを、2,4−Dを含まない試験薬剤100μMを含むMS寒天培地に移植して暗所25℃培養を2日間おこなった後、2,4−Dを含まないMS寒天培地に移植して暗所25℃培養を37日間おこなった。実験区2は、2,4−Dを1mg/L含有するMS寒天培地で培養したカルスを、2,4−Dを含まないMS寒天培地に移植して暗所25℃培養を7日間おこなった後、2,4−Dを含まない試験薬剤100μMを含むMS寒天培地に移植して暗所25℃培養を2日間おこない、さらに、2,4−Dを含まないMS寒天培地に移植して暗所25℃培養を30日間おこなった。実験区3は、2,4−Dを1mg/L含有するMS寒天培地で培養したカルスを、2,4−Dを含まないMS寒天培地に移植して暗所25℃培養を15日間おこなった後、2,4−Dを含まない試験薬剤100μMを含むMS寒天培地に移植して暗所25℃培養を2日間おこない、その後、2,4−Dを含まないMS寒天培地に移植して暗所25℃培養を22日間おこなった。実験区4は、2,4−Dを1mg/L含有するMS寒天培地で培養したカルスを、2,4−Dを含まないMS寒天培地に移植して暗所25℃培養を15日間おこなった後、2,4−Dを含まない試験薬剤100μMを含むMS寒天培地に移植して暗所25℃培養を24日間おこなった。実験区5は、2,4−Dを1mg/L含有するMS寒天培地で培養したカルスを、2,4−Dを含まない試験薬剤100μMを含むMS寒天培地に移植して暗所25℃培養を39日間おこなった。なお、試験薬剤とは、ジャスモン酸メチル又はサリチル酸のことを示し、それぞれの薬剤について上記評価を行った。
【0077】
図12は、各実験区の最終培養物の単位組織あたりのカルコン類化合物含有量を示した。図中JAはジャスモン酸メチル、SAはサリチル酸を示す。ジャスモン酸メチルはすべての実験区においてカルコン類化合物含有量の増加が認められた。サリチル酸では培養開始時に短時間(2日間)処理したもの、培養15日目に短時間(2日間)処理したものにカルコン類化合物含有量の増加が認められ、培養開始時に短時間(2日間)処理したものの方が、より多くのカルコン類化合物含有量の増加が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明により、アシタバの細胞及び/又は組織培養物の培養方法、当該方法により得られる細胞及び/又は組織培養物を用いるカルコン類化合物の製造方法が提供される。本発明により、効率的にカルコン類化合物を生産することが可能となった。細胞及び/又は組織培養物はそのまま食品や医薬品原材料として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】各種の培地、植物組織を用いたカルスの誘導評価を示す図である。
【図2】各種のサイトカイニン類、培養温度を用いたカルスの誘導評価を示す図である。
【図3】カルス誘導における2,4−D濃度の影響を示す図である。
【図4】オーキシン類を含有しない培地で培養した組織中のカルコン類化合物の含有量を示す図である。
【図5】アシタバ植物体葉茎の分析物のHPLCチャートを示す図である。
【図6】2,4−Dを含有する培地で誘導したカルスの分析物のHPLCチャートを示す図である。
【図7】オーキシン類を含有しない培地で暗所で培養した組織の分析物のHPLCチャートを示す図である。
【図8】オーキシン類を含有しない培地で培養した組織における、XAと4HDの生成と光の影響について示す図である。
【図9】オーキシン類を含有しない培地で培養した組織を1Lフラスコでさらに液体培養した培養物の増殖量と培養物中のカルコン類化合物の含有量を示す図である。
【図10】オーキシン類を含有しない培地で培養した組織を100mLフラスコでさらに液体培養した培養物の増殖量と培養物中のカルコン類化合物の含有量を示す図である。
【図11】アシタバの組織培養工程を示す図である。
【図12】ジャスモン酸メチル又はサリチル酸によるカルコン類化合物の生成誘導を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(1):植物成長調節物質を含有する培地でアシタバの組織を培養する工程、及び
工程(2):工程(1)で得られた培養物を0.2mg/L未満のオーキシン類を含有する培地もしくはオーキシン類を含有しない培地で培養する工程
を含む、アシタバの細胞及び/又は組織培養方法。
【請求項2】
工程(2)が、さらにジャスモン酸、サリチル酸及び/又はそれらの類縁化合物を含有する培地で培養する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ジャスモン酸、サリチル酸及び/又はそれらの類縁化合物を含有する培地での培養期間が1〜3日間である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
ジャスモン酸、サリチル酸及び/又はそれらの類縁化合物を含有する培地での培養が工程(2)の開始時に実施される、請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
植物成長調節物質が、オーキシン類及び/又はサイトカイニン類を含む請求項1〜4いずれか記載の方法。
【請求項6】
アシタバの組織が茎及び/又は葉柄である請求項1〜5いずれか記載の方法。
【請求項7】
工程(2)の培養が暗所で行なわれる請求項1〜6いずれか記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の方法により得られるアシタバの細胞及び/又は組織培養物を含有する食品。
【請求項9】
請求項1〜7いずれか記載の方法により得られるアシタバの細胞及び/又は組織培養物を含有する医薬。
【請求項10】
請求項1〜7いずれか記載の方法により得られる培養物から、カルコン類化合物を取得する工程を含むカルコン類化合物の製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法により得られるカルコン類化合物を含有する食品。
【請求項12】
請求項10記載の方法により得られるカルコン類化合物を含有する医薬。


【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−37535(P2007−37535A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159004(P2006−159004)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】