説明

アセロラ由来の新規ポリフェノール配糖体

【課題】本発明は、従来知られていない結合様式を有するアセロラ由来のポリフェノール配糖体及びその用途を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、式(I):


で表される化合物、並びにそれを含む抗酸化剤、グルコシダーゼ阻害剤、食品、化粧品、及び皮膚外用剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規ポリフェノール配糖体、その製造方法及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノール配糖体としてケルセチン−3−グルコシド(イソクエルシトリン):
【化1】

が知られている(非特許文献1)。この配糖体では、ケルセチンの3位の炭素にグリコシド結合により糖が結合している。ケルセチンの4位の炭素にグリコシド結合により糖が結合している配糖体は知られていない。
【0003】
ケルセチンに類似するポリフェノール化合物としてデヒドロケルセチン(タキシフォリン):
【化2】

及び、ロイコシアニジン:
【化3】

が知られている。植物体内では、デヒドロケルセチンの4位の炭素に結合している酸素に水素が結合することによりロイコシアニジンが生成され、ロイコシアニジンからシアニジンが生成されることが知られている。すなわちデヒドロケルセチン及びロイコシアニジンはシアニジン合成の中間体である。デヒドロケルセチン及びロイコシアニジンについても、4位の炭素にグリコシド結合により糖が結合している配糖体は知られていない。
【0004】
一方、近年の食生活やライフスタイルの変化に伴い、糖尿病患者は増加傾向にある。現在のわが国の糖尿病患者は700万人にのぼり、糖尿病の予備軍を含めると、1500万人に達するといわれている。糖尿病とは、インスリンというホルモンの作用不足によって高血糖状態が長く続くという代謝疾患群である。高血糖状態が続くと、神経障害、白内障、腎障害、網膜症、関節硬化症、アテローム性動脈硬化症、糖尿病性壊疽等の種々の合併症を発症することがある。
【0005】
このため、血糖値の上昇を抑制することが糖尿病を治療・予防する方法の一つと考えられる。これに関して、従来より、糖尿病の治療・予防のための多くの薬剤が開発されている。
【0006】
例えば、血糖値が上昇しないように抑制するために炭水化物の消化吸収阻害をするα-グルコシダーゼ阻害薬が開発されている。代表的なα-グルコシダーゼ阻害剤として、ボグリボースやアカルボースが知られている。
【0007】
しかし、これらの薬剤は、効果が強力である一方、服用したときの腹部膨満感、他の血糖降下薬との併用による低血糖状態の誘引、吐き気や頭痛等、患者に対する様々な副作用が問題となる。そこで、効果は穏やかであるが、副作用の問題はないとされる天然の成分由来の薬剤も開発されている。天然成分由来のα-グルコシダーゼ阻害剤としては、シソ抽出物(特許文献1)、マテ葉抽出物(特許文献2)、羅布麻葉抽出物(特許文献3)、枇杷葉抽出物(特許文献4)などが知られているが、まだ数は少ない。
【0008】
一方、活性酸素は生体に悪影響を与えることが知られている。生体への悪影響としては例えば、老化、発ガン、シミ又はソバカスの発生等が挙げられる。活性酸素はまた化粧品や飲食品を劣化させることも知られている。活性酸素を除去する抗酸化剤としてはアスコルビン酸(ビタミンC)等が化粧品や飲食品に利用されている。近年、より安全な抗酸化剤として天然物由来の抗酸化剤が求められている。
【0009】
【特許文献1】特開2000−102383号公報
【特許文献2】特開2003−146900号公報
【特許文献3】特開2002−053486号公報
【特許文献4】特開2003−128571号公報
【非特許文献1】Chem.Pharm.Bull.49(2)151−153(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来知られていない結合様式を有するアセロラ由来のポリフェノール配糖体及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の発明を包含する。
【0012】
(1)式(I):
【化4】

で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【0013】
(2)(1)に記載の式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有するグルコシダーゼ阻害剤。
(3)(1)に記載の式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する抗酸化剤。
(4)(1)に記載の式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する食品。
(5)(1)に記載の式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する化粧品。
(6)(1)に記載の式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する皮膚外用剤。なお、本発明において「皮膚外用剤」は医薬品に限定されるものではなく、医薬部外品、一般的な皮膚化粧料、薬用化粧料等を包含するものである。
(7)アセロラ果実又はその処理物から(1)に記載の式(I)で表される化合物を単離することを特徴とする該化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により新規なポリフェノール配糖体が提供される。この化合物は高い抗酸化性及びグルコシダーゼ阻害活性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る化合物(新規ポリフェノール配糖体)は、ポリフェノール(タキシフォリン)の3位及び4位の炭素の両方にグリコシド結合によりグルコースが結合しているという特徴的な結合様式を有する。この結合様式は従来知られていない。
【0016】
本発明に係る新規ポリフェノール配糖体は塩として存在することもでき、好ましくは薬理学上許容される塩として存在することができる。そのような塩としては、薬理学上許容される非毒性塩が挙げられ、例えばナトリウム塩、カリウム塩又はカルシウム塩等のアルカリ金属塩、又はアルカリ土類金属塩、塩酸塩等のハロゲン化水素塩、硝酸塩、硫酸塩又はリン酸塩等の無機酸塩、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等のスルホン酸塩、フマル酸、コハク酸、クエン酸、シュウ酸又はマレイン酸等の有機酸塩及びグルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸塩等を挙げることができる。
【0017】
本発明に係る新規ポリフェノール配糖体はまた、溶媒和物として存在することもある。好ましい溶媒和物としては、水和物、エタノール和物等を挙げることができる。
【0018】
DPPH試薬を用いたラジカル消去活性試験の結果、本発明に係る新規ポリフェノール配糖体はα−トコフェロール(ビタミンE)とほぼ同等のラジカル消去活性があることが判明した。生体内における酸化は、酸素や脂質などから生じたフリーラジカルにより引き起こされることが知られており、このラジカルを消去する作用が強いことは抗酸化性が強いことを示す。ビタミンEは、油溶性で水には不溶性であるが、本発明のポリフェノール配糖体は、疎水性のフェノール基と親水性の糖の構造の両方を有していることから、幅広い用途に使用できると期待される。
【0019】
本発明のポリフェノール配糖体はまたグルコシダーゼ阻害剤としても有用である。これまでに、アセロラ由来ポリフェノール成分の中でイソクエルシトリンが高いグルコシダーゼ阻害活性を有することが明らかにされている。本発明のポリフェノール配糖体は、イソクエルシトリンよりも数倍高いグルコシダーゼ阻害活性を有することが判明した。また、本発明のポリフェノール配糖体と構造的に類似するタキシフォリンよりも数倍高いグルコシダーゼ阻害活性を有することも判明した。本発明の配糖体における上記の特徴的な結合様式の存在により、グルコシダーゼ阻害活性が高められているものと推測される。
【0020】
本発明のポリフェノール配糖体は、アセロラ果実又はその処理物から単離精製することにより調製することができる。
【0021】
本発明で用いるアセロラ果実の生産地や品種は特に限定されないが、生産地としては、例えば沖縄、ブラジルが挙げられる。本明細書において果実とは、可食部と種部を含んだ果実全体を指す。
【0022】
本発明においてアセロラ果実の処理物とは、アセロラ果実を常法に従って搾汁したアセロラ搾汁、アセロラ搾汁を濃縮したアセロラ濃縮果汁、アセロラ濃縮果汁を酵母により発酵させてぶどう糖と果糖を除去したもの、アセロラ果実(可食部と種部又は種部を取り除いた可食部)をミキサー等で破砕、粉砕等したアセロラ破砕物、等を指すが、これらに限定されるわけではない。これらのものは更に、自然乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等の常法で乾燥させることにより、粉末状に調製することもできる。その際、賦形剤(例えば食物繊維、酸化カルシウム)等と混合して乾燥させて粉末化してもよい。
【0023】
単離方法は特に限定されないが、好ましくは、アセロラ果実又はその処理物に対して水/酢酸エチルの溶媒系により液−液分画を行い水層画分を回収し、次にこの水層画分に対して水/ブタノールの溶媒系により液−液分画を行いブタノール層画分を回収し、このブタノール層画分から常法により単離精製することにより本発明のポリフェノール配糖体を得る。この方法は、水/酢酸エチル系により液−液分画を行った段階に、水層画分を回収して水/ブタノール系による液液分画に供するという点で、通常のポリフェノール類の単離精製方法(水/酢酸エチル系により液−液分画を行った段階で酢酸エチル画分を回収する)と大きく異なる。
【0024】
精製処理の方法としては、例えば順相又は逆相クロマトグラフィー、合成吸着剤クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過等が挙げられる。これらの方法を組み合わせて用いることもできる。
【0025】
本発明のポリフェノール配糖体は、抗酸化剤やグルコシダーゼ阻害剤としては、純粋な化合物として単離されていることは必ずしも必要ではなく、アセロラ由来の他の成分との混合物として提供されてもよい。例えばアセロラ由来のポリフェノール(例えば、シアニジン−3−ラムノシドとペラルゴニジン−3−ラムノシド等のアントシアニン系色素、クエルシトリン(ケルセチン−3−ラムノシド)、イソクエルシトリン(ケルセチン−3−グルコシド)、ハイペロサイド(ケルセチン−3−ガラクトシド)等のケルセチン配糖体、アスチルビン)との混合物として提供されてもよい。
【0026】
本発明のポリフェノール配糖体は公知の医薬用担体と組み合わせて製剤化することができる。かかる製剤は例えば抗酸化剤又はグルコシダーゼ阻害剤として投与することができる。
【0027】
投与形態としては、特に制限はなく、必要に応じ適宜選択されるが、一般には錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、丸剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤等の経口剤、又は注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経粘膜吸収剤、経鼻剤、経腸剤、皮膚外用剤(例えば経皮吸収剤、貼付剤、軟膏剤)等の非経口剤として、症状に応じて単独で、又は組み合わせて使用される。グルコシダーゼ阻害剤としては経口剤の形態が好ましく、抗酸化剤としては経口剤又は皮膚外用剤の形態が好ましい。
【0028】
製剤の投与量は、患者の年令、体重、疾患の程度、投与経路により異なるが、経口投与では、本発明のポリフェノール配糖体として、通常1日0.1mg〜1000mgである。
【0029】
上記製剤は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用して常法により調製することができる。
賦形剤の具体例としては、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等が挙げられる。
【0030】
結合剤の具体例としては、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、プルラン、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、アラビアゴム末、寒天、ゼラチン、白色セラック、トラガント、精製白糖、マクロゴールが挙げられる。
【0031】
崩壊剤の具体例としては、結晶セルロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、トラガントが挙げられる。
【0032】
界面活性剤の具体例としては、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロマクロゴールが挙げられる。
【0033】
滑沢剤の具体例としては、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類、水素添加植物油、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0034】
流動性促進剤の具体例としては、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムが挙げられる。
【0035】
また、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤として投与する場合には、矯味矯臭剤、着色剤を含有してもよい。
【0036】
本発明のポリフェノール配糖体はまた、常法に従って、固形、半固形、液体等の形態の食品に添加することができる。かかる食品は抗酸化性又はグルコシダーゼ阻害活性を有する食品として摂取することができる。限定されるわけではないが、固形食品としては、ビスケット等のブロック菓子類、粉末スープ等の粉末状食品等を挙げることができる。また、本発明のポリフェノール配糖体の濃度が高められたアセロラ果実の処理物をそれ自体食品として使用することもできる。半固形食品としては、カプセル、ゼリー等を挙げることができる。飲料としては、例えば果汁飲料、清涼飲料、アルコール飲料等を挙げることができる。また、摂取時に水等の液体担体を用いて希釈する粉末飲料の形態としてもよい。さらに、これらの食品はいわゆる特定保健用食品とすることもできるであろう。
【0037】
また、このような食品に、必要に応じて常法に従って、安定化剤、pH調整剤、糖類、甘味料、各種ビタミン類、ミネラル類、抗酸化剤、賦形剤、可溶化剤、結合剤、滑沢剤、懸濁剤、湿潤剤、皮膜形成物質、矯味剤、矯臭剤、着色剤、香料、保存料等を添加することができる。
【0038】
本発明のポリフェノール配糖体はまた、常法に従って、化粧水、乳液、クリーム、パック等の基礎化粧料、ファンデーション、口紅等のメークアップ化粧料、薬用化粧料等の各種化粧品に添加することもできる。かかる化粧品は、例えば、ポリフェノール配糖体の抗酸化性に基づく効果(美白効果など)やグルコシダーゼ阻害活性に基づく効果を有することがある。
【0039】
本発明の製剤の製造原料であるアセロラは現在までに製剤、食品、飲料、化粧品等に供されており、安全性は確立されている。
【実施例1】
【0040】
本発明品のポリフェノール配糖体を調製する原料として、アセロラ濃縮果汁を酵母により発酵させ、ぶどう糖と果糖を除去し、賦形剤として食物繊維及び酸化カルシウムを溶解させて粉末化したアセロラパウダー(株式会社ニチレイ製、ニチレイ・アセロラパウダーVC30)を使用した。
【0041】
このアセロラパウダー400gを精製水で溶解させ、20%(W/W)水溶液、2000gを調製した。この水溶液に半量(容積基準)の酢酸エチルを添加して攪拌し、分液ロートを用いて液−液分画を行い、水層画分を回収した。この水層画分に半量(容積基準)のブタノールを添加して攪拌し、分液ロートを用いて液−液分画を行い、ブタノール層画分を回収した。このブタノール層画分に精製水を適量加え減圧蒸留処理を行い、乾固させ、24gの固形分を回収した。
【0042】
上記の固形分を50mLの精製水に溶解させ、C18カラム(Sep−Pak Vac 35cc(10g)C18 cartridges,Waters社製)により部分精製を行った。これは、サンプルを負荷し、精製水及び10%メタノール水溶液でカラム洗浄を行った後、20%メタノール水溶液で溶出させた画分を回収した。これを減圧蒸留器により蒸発乾固させ、0.8gの固形分を回収した。
【0043】
この固形分を10mLの20%メタノール水溶液で溶解させ、この検体を高速液体クロマトグラフィーにより、高純度精製を行った。分取用カラムには、Inertsil ODS−3 5μm 4.6x250mm(GL−science社製)を用いた。分取操作は1回に0.5mLの検体をカラムに負荷させ、10%メタノール水溶液でカラムを洗浄した後、10%〜50%メタノール濃度になるグラジエントにより溶出させ、目的とするポリフェノール配糖体を含むピークを回収した。この分取操作を20回繰り返した。
【0044】
上記の方法により精製した本発明のポリフェノール配糖体を含有するメタノール水溶液を減圧蒸留器により乾固させ、精製水に懸濁し、不溶物を遠心分離により上清と分離して回収した。この不溶物を再度メタノールで溶解させ、減圧蒸留器により蒸発乾固させ、再度精製水で懸濁し、不溶物を回収した。この不溶物を回収し、凍結乾燥機により水分を除去し、本発明のポリフェノール配糖体10mgを得た。
【0045】
同様な手順及び方法によりアセロラ濃縮果汁からも本発明品を回収することができたが、純度は、アセロラパウダーから回収したものが高かった。
【実施例2】
【0046】
実施例1において単離された本発明のポリフェノール配糖体の構造を、各種スペクトル測定を用いて決定した。
各測定条件を表1に示す。
【0047】
【表1】



【0048】
高分解能ESI−MS
トータルイオンクロマトグラムを図1aに、高分解能ESIマススペクトルを図1bに示す。この測定では、m/z473のナトリウム付加イオン(M+Na)が強く観測され、その精密質量(実測値)であるm/z 473.1064を用いて組成演算を行った。組成演算には、C,H,O,Naの各元素を使用した。この結果、組成式はC212211Naと決定された。理論値の精密質量は、m/z 473.1060であり、誤差は0.4mDaであった。この測定ではナトリウム付加イオンがあるため、本発明の化合物の組成式は、C212211で分子量は450である。
NMR測定
高磁場側(右側)からH NMRシグナルに記号a〜o、13C NMRシグナルに記号A〜Uを付けて解析を進めた。
H NMR
H NMRスペクトルを図2に、シグナルの一覧を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
H NMRスペクトルより1,2,4−置換ベンゼン(o,n,mシグナル)及び1,2,4,5−置換ベンゼン(l又はkシグナル)の部分構造が存在することが示された。またa〜jシグナルは化学シフト値よりCH−O(n=1又は2)に帰属された。
13C NMR
13C NMRスペクトルを図3に、シグナルの一覧を表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
13C NMRスペクトルでは21本のシグナルが観測され、MS測定結果に一致した。ケトンカルボニルのシグナルは観測されなかった。
【0053】
DEPT
DEPTスペクトルを図4に示す。スペクトルから各シグナルの帰属する炭素が決定された(表4参照)。
DQF−COSY
DQF−COSYスペクトルを図5に示す。スペクトルから次の部分構造が導かれた。
(1)j(5.31ppm)−g(4.25ppm)−I(4.87ppm)
−CH(j)−CH(g)−CH(i)−
(2)h(4.63ppm)−a(3.27ppm)−d(3.58ppm)−b(3.35ppm)又はc
f(3.81ppm)−e(3.62ppm)−c(3.36ppm)又はb
HSQC
【0054】
HSQCスペクトルを図6に示す。J(H、13C)で結合するHと13CをHSQCスペクトルから決定した。結果を表4にまとめた。
【0055】
【表4】

【0056】
HMBC
HMBCスペクトルを図7に示す。HMBCスペクトルで観測されたロングレンジの主要な相関シグナルを表5に示す。
【0057】
【表5】

【0058】
この結果から本発明の化合物の平面構造が導かれた。
【0059】
NOESY測定
NOESYスペクトルを図8に示す。NOESYスペクトルでは、次のプロトン間の相関シグナルが観測された。
【0060】
【化5】

【0061】
h,a=7.9Hz、Ja,d=9.5Hz、Jd,b=8.4Hzは糖類に特徴的なaxial−axial型プロトンのスピン結合定数である。
hとcプロトン間にNOEが観察されたことからcプロトンもaxial位にあり、したがって糖成分はβ−グルコースと決定された。
gプロトンとI炭素、iプロトンとH炭素及びaプロトンとB炭素間のHMBC相関シグナルからグルコースの1位と2位のOHが上記のように結合した構造が考えられた。
Aとi、hとj、gとiプロトン間のNOEからj、g、iプロトンの相対配置は上記のように推定された。
i,g=11.0Hz、Jg,i=3.4Hzは上記の相対配置であることを指示した。
【0062】
原子に番号を付けた帰属表を表6にまとめた。
【0063】
【表6】

【実施例3】
【0064】
DPPHラジカル消去による抗酸化活性測定
安定なラジカルであるDiphenyl−p−picrylhydradil(DPPH)のエタノール液を用いて、抗酸化活性を評価した。250mM酢酸緩衝液(pH=5.5)1600μlにエタノール1200μl、各種濃度のサンプル溶液(溶媒としてメタノールを使用)400μlを混合し、30℃、5分間プレインキュベートする。この液に500μM DPPH/エタノール溶液を800μl添加混合し30℃、30分間放置後、517nmの吸光度を測定する。α−トコフェロールについても同様の操作を行い、これをポジティブコントロールとした。ブランクには、試料溶液の代わりにメタノールを用いて同様の操作を行ったものを用いた。測定された吸光度から、次式によりラジカル消去率を算出した。
【0065】
【数1】

【0066】
試料溶液の試料濃度を段階的に変更して上記消去率の測定を行い、DPPHラジカルの消去率が50%になる試料溶液の濃度を求め、DPPHラジカル50%消去濃度とした。よって、この数値が低いほど、ラジカル消去能が高いといえる。
【0067】
本発明品とα−トコフェロールの50%阻害濃度を表7に示す。
本発明品は同等以上のラジカル消去活性を示すことから、α−トコフェロールと同等以上の抗酸化作用が期待できる。
【0068】
【表7】

【実施例4】
【0069】
α−グルコシダーゼ阻害活性
α−グルコシダーゼとしては酵母由来の試薬(和光純薬製)を用い、これを0.2%牛血清アルブミンを溶解させた10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた。
【0070】
本発明のポリフェノール配糖体との比較のために、タキシフォリン(シグマ、カタログ番号T4512)、イソクエルシトリン(関東化学(株)、カタログ番号20311−96)、クエルシトリン(和光純薬工業(株)、カタログ番号174−00031)、アカルボース(LKT Laboratories、Inc.、カタログ番号A0802)を用いた。
【0071】
実験は、100mMリン酸緩衝液0.25mL、各種濃度のサンプル溶液0.25mL及び基質として10mg/mL濃度のマルトース水溶液0.125mLを混合し、37℃、5分間加温した。これにα−グルコシダーゼ溶液0.125mLを加え、37℃、60分間の酵素処理を実施した。反応停止液として0.2M炭酸ナトリウム溶液0.5mLを加え、混合した。この反応溶液中のグルコース濃度をグルコースCIIテストワコー(和光純薬製)で測定した。この測定結果からサンプルを添加していないブランクのグルコース濃度とサンプルを添加したグルコース濃度の比率から阻害率(%)を算出した。このサンプル濃度の阻害率から50%酵素活性を阻害するサンプル濃度を算出し、比較した。測定結果を表8に示す。
【0072】
本発明品は、イソクエルシトリン(ケルセチン構造にグルコースが結合した構造の化合物)及びタキシフォリン(本発明のポリフェノール配糖体にグルコースが付加されていない構造の化合物)より数倍以上酵素阻害活性が強いことが確認された。このことは、本発明のポリフェノール配糖体におけるポリフェノールと糖との新規な結合様式によりα−グルコシダーゼ阻害活性が強くなっていることを示唆する。
【0073】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1a】本発明の化合物のトータルイオンクロマトグラムを示す図である。
【図1b】本発明の化合物の高分解能ESIマススペクトルを示す図である。
【図2】本発明の化合物のH NMRスペクトルを示す図である。
【図3】本発明の化合物の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図4】本発明の化合物のDEPTスペクトルを示す図である。
【図5】本発明の化合物のDQF−COSYスペクトルを示す図である。
【図6】本発明の化合物のHSQCスペクトルを示す図である。
【図7】本発明の化合物のHMBCスペクトルを示す図である。
【図8】本発明の化合物のNOESYスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項2】
請求項1に記載の式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有するグルコシダーゼ阻害剤。
【請求項3】
請求項1に記載の式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する抗酸化剤。
【請求項4】
請求項1に記載の式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する食品。
【請求項5】
請求項1に記載の式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する化粧品。
【請求項6】
請求項1に記載の式(I)で表される化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する皮膚外用剤。
【請求項7】
アセロラ果実又はその処理物から請求項1に記載の式(I)で表される化合物を単離することを特徴とする該化合物の製造方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−176454(P2006−176454A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372266(P2004−372266)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(505145149)株式会社ニチレイバイオサイエンス (7)
【Fターム(参考)】