説明

アライメント方法、アライメント装置、有機EL表示装置の製造方法及び製造装置

【課題】基板とマスクとのアライメント動作回数を少なくすることによって、基板とマスクへのダメージを低減したアライメント方法及びアライメント装置を提供する。
【解決手段】基板11を基板保持手段13に保持した後、該基板11の重力方向の振動の振幅を検出し、該振幅が所定の値以下になった時点で、基板11とマスク12とにそれぞれ設けたアライメントマークの相対位置を撮像装置15によって撮像し、位置合わせを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板にマスクを介して蒸着材料を蒸着させる際に、基板とマスクとのアライメントを行うアライメント方法とアライメント装置に関し、特に、有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置の製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機ELを利用した有機EL素子は低電圧駆動による高輝度発光が可能な発光素子として注目されている。このような発光素子を用いた表示装置の製造において、フルカラー化するためにR(赤)、G(緑)、B(青)の各発光性有機材料を微細なパターンとして電極上へ選択的に形成する方法として、特許文献1に記載されたような、マスク蒸着方法が知られている。マスク蒸着方法においては、基板とマスクのアライメント動作を行い、所定の位置に有機EL材料を蒸着する必要がある。
【0003】
一般的に、基板とマスクとのアライメント動作は、基板とマスクそれぞれに設けられたアライメントマークをカメラで撮像し、画像処理によって位置を認識してマークの位置を機械的に合わせる。通常、アライメント動作は基板を蒸着装置内に搬入した後に行われ、アライメントマーク同士の相対位置の誤差確認は、基板搬入直後の基板とマスクが離れた状態、及び基板をマスクに接触させた際に行われる。基板とマスクを接触させた後に行うアライメントマーク同士の誤差確認において、目標とする誤差範囲に入っていなかった場合、基板をマスクから一旦引き離し、再度アライメント動作を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−64758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したように基板とマスクのアライメント動作を行うのは、基板搬入直後である場合が多く、基板が重力方向に振動している状態で、カメラを用いて基板及びマスク上のアライメントマークの位置を認識している。基板が重力方向に振動していると、アライメントマークの大きさが変化して見えるため、画像処理した際のアライメントマークの認識率、位置精度に影響を与える。そして、アライメントマーク認識率の低下により、目標とする誤差範囲におさまらず、基板とマスクの接触を繰り返す可能性があり、基板とマスクにダメージを与え、且つタクトタイムが一定にならず、生産性向上も困難となる。
【0006】
本発明の課題は、上記した基板とマスクとのアライメント動作回数を少なくすることによって、基板とマスクへのダメージを低減したアライメント方法及びアライメント装置を提供することにある。さらには、該アライメント方法及びアライメント装置を用いて、生産性を向上した有機EL表示装置の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、基板とマスクとのアライメント方法であって、
マスクをマスク保持手段に固定する工程と、
基板を基板保持手段に保持する工程と、
基板とマスクとを所定の距離を離して対向配置させた状態で、基板の重力方向の振動が、所定の振幅以下に収束するまで待機する待機工程と、
前記振動が収束した後、前記基板とマスクにそれぞれ設けられたアライメントマークの相対位置を、前記基板の重力方向から撮像して、前記アライメントマークが所定の相対位置になるように前記基板又はマスクを移動させる工程と、
を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の第2は、基板とマスクとのアライメントを行うアライメント装置であって、
前記基板の重力方向の振動の振幅を検出する振動検出手段と、
基板とマスクにそれぞれ設けられたアライメントマークの相対位置を、前記基板の重力方向から撮像して、前記アライメントマークが所定の相対位置になるように、前記基板又はマスクを移動させるアライメント手段と、
を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の第3は、基板の被成膜面にマスクを介して有機材料を蒸着させる蒸着工程を有する有機EL表示装置の製造方法であって、前記蒸着工程における前記基板とマスクとのアライメントを、前記本発明のアライメント方法によって行うことを特徴とする。
【0010】
本発明の第4は、真空蒸着室内で蒸着源から発した有機材料を、基板の被成膜面にマスクを介して蒸着させる蒸着工程を行う有機EL表示装置の製造装置であって、前記本発明のアライメント装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マスクと基板のアライメントにおいて、基板の振動の影響を低減して、安定したアライメントが可能となり、アライメントの精度向上と、アライメント動作のリトライ低減によるタクト向上が可能となる。よって、有機EL表示装置を生産性良く製造する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の本発明の有機EL表示装置の製造装置の一実施形態の構成を示す模式図である。
【図2】本発明に係る、基板の重力方向の振動を示す概念図である。
【図3】本発明に係る、マスクと基板の平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のアライメント方法及びアライメント装置は、有機EL表示装置において、真空蒸着室内で有機材料を基板にマスクを介して蒸着させる際の基板とマスクとのアライメント(位置合わせ)に関する。本発明のアライメント方法においては、基板とマスクのアライメントに際し、基板の重力方向の振動を観測し、該振動が収束するまで待機することに特徴を有する。これにより、基板の振動の収束直後に、基板とマスクのそれぞれに設けられたアライメントマークの水平方向の位置合わせをすることになり、振動の影響を受けず、且つ、効率良く位置合わせを行うことができる。よって、基板とマスクとを非接触の状態で精度良くアライメントすることができ、接触後に再度基板とマスクを離してアライメントしなおす回数が低減される。即ち、基板とマスクの接触及び非接触の繰り返しを必要最小限に抑えることにより、基板とマスクの接触によるダメージを低減すると共に、短時間にアライメントを実施することができる。
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。尚、以下の実施形態において、特に図示または記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知又は公知技術を適用する。また以下に説明する実施形態は、発明の一つの実施形態であって、これらに限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明のアライメント装置を備えた有機EL表示装置の製造装置の一実施形態の構成を示す模式図である。図1において、真空チャンバ10内には、基板11と該基板1の下方にマスク12が配置される。基板11は有機EL素子においては通常ガラス基板である。図1の真空チャンバ10内において、マスク12は不図示のマスク保持手段に固定されており、基板11は不図示の基板搬送機構によって真空チャンバ10内に移送され、基板保持手段13に保持されている。また真空チャンバ10内には基板11に成膜するための蒸着源16が設けられる。
【0016】
図3(a)に、マスク12の平面模式図を、図3(b)に基板11の平面模式図をそれぞれ示す。図3(a)に示すように、マスク12には、複数の開口30が画素パターンに応じて形成されており、所定の位置にアライメントマーク31が形成されている。また、図3(b)に示すように、基板11には表示部32が配置され、端部の所定の位置にアライメントマーク33が形成されている。基板のアライメントマーク33はCr等の反射材料で形成される。マスク12のアライメントマーク31は一般的には貫通孔である。また、基板11のアライメントマーク33とマスク12のアライメントマーク31は互いに対応する位置に形成される。即ち、マスク12側から見て、マスク12のアライメントマーク31の中央に、マスク12の下方に位置する基板11のアライメントマーク33が観察される状態が、基板11とマスク12との所望の相対位置である。
【0017】
図1の真空チャンバ10の上方には、基板11のアライメントマーク33及びマスク12のアライメントマークである貫通孔31に対応する位置に窓14が形成されている。そして、係る窓14を介して垂直上方に撮像装置15が配置されている。撮像装置15はCCDカメラ、レンズ等で構成され、基板11及びマスク12のアライメントマークの反射又は透過像を撮像するものである。照明装置17は、例えば、ハロゲン光源及びレンズ等からなり、ハーフミラー19等を介して基板11及びマスク12へCCDカメラの光軸と同軸方向に照射光を照射するものである。基板11及びマスク12の上方から照射光を照射しても良いし、下方から照射しても良い。下方から照射した場合、撮像装置15には基板11及びマスク12のアライメントマークの透過像が撮像される。受光素子18は、基板11からの反射光を受光するものである。本例では光源として撮像装置15で撮像するための照明光を用いているが、別に照明装置を設けても良い。照明装置17、撮像装置15、及び受光素子18は2台に限らず、1台或いは3台以上でも良い。
【0018】
本発明の有機EL表示装置の製造方法における基板11とマスク12とのアライメント方法について、図1の装置を例に説明する。先ず、マスク12が真空チャンバ10内のマスク保持手段(不図示)に固定され、次いで、基板11が基板搬送機構(不図示)によってマスク上方の基板保持手段13に保持される。この時点で、基板11の被成膜面とマスク12とは、所定の距離を介して対向配置している。そして、照射装置17から照明光が出射され、基板11及びマスク12に反射して撮像装置15に受光される。撮像装置15で得られた受光情報は振動検出手段20に送られ、基板11の重力方向の振動の振幅を算出し、該振動が収束するのを判別する。より具体的には、撮像装置15で得られた画像より、振動検出手段20が基板11の振動によって生じる基板11の被成膜面方向の位置検出誤差に基づいて、基板11の振動の振幅を算出する。そして、係る振幅が予め設定した振幅以下となるのを判別する。
【0019】
図2は検出された基板11の振動を示す概念図である。縦軸が基板11の変位、横軸が時間であり、基板11が保持されてから振動が次第に収束していく様子が見られる。基板11の静定位置は基板11の振幅中心付近になるので、アライメントマーク位置の誤差精度から基板11の振動がアライメントに影響を及ぼさない範囲の振幅(z)を予め求めておく。振動検出手段20において、検出された基板11の振動の最大振幅が係る振幅(z)以下になった時点(T)において、基板11の振動が収束した(基板11が静定した)と判断する。
【0020】
尚、本発明では、基板11の素材や保持手段等によって基板11の振動が収束し、静定するまでの時間を先に学習し、基板11が基板保持手段13に保持されてからの時間で制御を行っても良い。また、予め使用する基板11の撓みや反りを考慮して静定位置に対してオフセットを用いてもよい。さらに使用する基板11をアライメント完了後の基板11の位置情報から基板の振動振幅と静定後の位置を学習しフィードバックをかけてもよい。また、基板11の振動検出において検出に用いる光路は撮像装置15と同軸でなくてもよく、光量変動を検知する照明はCCDで撮像するための照明装置17からの光を用いてもよいし、別に照明機構を設けても良い。例えば短波長のレーザー又は高NAレンズ等を用いて焦点深度を浅くする方が基板振動の変位を高精度に検出する上では望ましい。また、本発明においては、基板保持部材13の基板11と接する箇所に弾性部材を用いることで、積極的に基板11の振動を抑制し、基板11の静定までの時間を短縮することができる。
【0021】
本発明において、基板11の振動を検出する手段としては既存の技術を用いることができる。例えば、基板11から反射した光を分割された受光素子で光量のバランスから算出してもよい。また、予想される基板静定位置にフォーカスを合わせた状態のCCDカメラで撮像された撮像情報において、その画像のコントラスト比から算出しても良く、これらに限定されない。
【0022】
基板11の振動収束後、基板11とマスク12のそれぞれに設けたアライメントマークの水平方向の位置合わせを行う。先ず、撮像装置15によって得られた撮像情報に対して、不図示の画像処理制御装置によってパターンマッチングなどの画像認識処理が行われ、基板11のアライメントマークとマスク12のアライメントマークとの相対位置が検出される。そして、基板11とマスク12の水平方向のズレ量が算出され、算出されたズレ量に基づいてアライメントマークが所定の相対位置になるように基板11又はマスク12を水平方向に移動させる。基板11又はマスク12の移動後に再度撮像を行い、アライメントマークが所定の相対位置になければ再度撮像及び位置合わせを行い、所定の位置になれば、アライメントマークの水平方向の位置合わせ終了となる。その後、基板11とマスク12とを密着させて、再度アライメントマークの撮像を行い、アライメントマークが所定の位置になければ再び基板11とマスク12とを離し、アライメントをやり直す。基板11とマスク12とが密着状態でアライメントマークが所定の位置にあることが確認されれば、アライメント完了である。アライメントが完了したら、蒸着源16によりマスクのパターンに応じた蒸着が行われる。
【0023】
上記のように基板11の振動の収束を待ってアライメントマークの水平方向の位置合わせを行うことによって、基板振動の影響を低減して、高精度及び高速に基板11とマスク12とのアライメントを行うことが可能となる。
【実施例】
【0024】
(実施例)
図1に例示した構成の有機EL表示装置の製造装置において、基板11とマスク12とのアライメントを行った。基板11としては460mm×365mm×0.5mmのガラス基板を用い、マスク12との距離を4.5mm、基板11から撮像素子15までの距離を200mmとした。基板11のアライメントマークは直径0.3mmのクロム膜であり、マスク12のアライメントマークは直径0.5mmの貫通孔である。
【0025】
基板11の重力方向の振動がアライメント時に許容される振幅の値を200μmとし、基板11とマスク12のアライメントを10回行った。その結果、アライメント精度は平均±4.3μm、基板搬入完了からアライメント完了までの所要時間は平均15秒であった。2分タクト想定において、平均タクトは1分55秒でタクトを満足する結果であった。
【0026】
(比較例)
基板11の重力方向の振動を検出しなかった以外は実施例と同様にして、基板11とマスク12のアライメントを10回行った。その結果、アライメント精度は平均4.8μm、基板搬入完了からアライメント完了までの所要時間は平均25秒であった。2分タクト想定において、平均タクトは2分15秒でタクトを満足できなかった。実施例に比べて本例においてアライメント完了までの所要時間が長かった理由は、振動が充分に収束する前に基板11とマスク12とのアライメントを行ったため、アライメントのやり直し回数が増えたためである。
【符号の説明】
【0027】
11:基板、12:マスク、13:基板保持手段、20:振動検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板とマスクとのアライメント方法であって、
マスクをマスク保持手段に固定する工程と、
基板を基板保持手段に保持する工程と、
基板とマスクとを所定の距離を離して対向配置させた状態で、基板の重力方向の振動が、所定の振幅以下に収束するまで待機する待機工程と、
前記振動が収束した後、前記基板とマスクにそれぞれ設けられたアライメントマークの相対位置を、前記基板の重力方向から撮像して、前記アライメントマークが所定の相対位置になるように前記基板又はマスクを移動させる工程と、
を有することを特徴とするアライメント方法。
【請求項2】
前記待機工程において、前記基板の重力方向の振動の振幅を検出し、前記振動が所定の振幅以下になった時点で前記振動が収束したと判別することを特徴とする請求項1に記載のアライメント方法。
【請求項3】
基板とマスクとのアライメントを行うアライメント装置であって、
前記基板の重力方向の振動の振幅を検出する振動検出手段と、
基板とマスクにそれぞれ設けられたアライメントマークの相対位置を、前記基板の重力方向から撮像して、前記アライメントマークが所定の相対位置になるように、前記基板又はマスクを移動させるアライメント手段と、
を有することを特徴とするアライメント装置。
【請求項4】
基板の被成膜面にマスクを介して有機材料を蒸着させる蒸着工程を有する有機EL表示装置の製造方法であって、前記蒸着工程における前記基板とマスクとのアライメントを、請求項1又は2に記載のアライメント方法によって行うことを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。
【請求項5】
真空蒸着室内で蒸着源から発した有機材料を、基板の被成膜面にマスクを介して蒸着させる蒸着工程を行う有機EL表示装置の製造装置であって、請求項3に記載のアライメント装置を有することを特徴とする有機EL表示装置の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−92397(P2012−92397A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240761(P2010−240761)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】