説明

アリーロキシシラン化合物、その製造方法、及びその用途

【課題】 新規アリーロキシシラン化合物とその製法、並びにそれからなる液状封止材、アンダーフィル剤、導電ペーストなどの用途に有用なエポキシ樹脂の硬化剤、これを含むエポキシ樹脂組成物、及びその硬化物を提供すること。
【解決手段】 式(1)のアリーロキシシラン化合物(Arはフェニレン基又はナフタレン基)、それを式(4)の2官能型シラン化合物と式(5)の芳香族化合物から製造する方法、並びにそれからなるエポキシ樹脂硬化剤、それを含むエポキシ樹脂組成物、及びその硬化物。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規アリーロキシシラン化合物とその製法、及びその用途に関する。好適な用途は、液状封止材、アンダーフィル剤、導電ペーストなどの用途において有用なエポキシ樹脂の硬化剤、およびこれを含有してなるエポキシ樹脂組成物に関するものであり、さらには上記用途において硬化速度の制御が可能で好適な流動性と可使時間を有するエポキシ樹脂組成物を与え、低吸水性で高いガラス転移温度のエポキシ樹脂硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂の硬化剤としてこれまでに用いられている化合物には、アミン類、酸無水物類、ポリアミド類、イミダゾール類、メルカプタン類、フェノール類などがあり、これらを含むエポキシ樹脂組成物は、半導体やLEDなどの封止材料、プリント基板や積層基板などの基板材料、ソルダーレジストや積層基板用途などの絶縁材料など電気・電子材料分野において広汎に使用される。
【0003】
半導体封止分野においては、トランスファー成形用の固形のフェノール系硬化剤のほか、近年では液状封止材、アンダーフィル剤、導電ペーストなどの用途拡大に伴い、液状または低粘度型の硬化剤のニーズが高まっている。特に最近では耐湿信頼性の観点から、フェノール系、アミン系の硬化剤が注目されている。
【0004】
一般にフェノール系硬化剤は、水酸基を多く含むとエポキシ樹脂組成物は低流動性となる。そのため、高流動性のためのアプローチとしてフェノール系硬化剤の水酸基による水素結合を防止あるいは阻害する手段が用いられる。たとえば、フェノール性水酸基を部分的または完全にアシル基またはシリル基で保護したフェノール誘導体(特許文献1〜5参照)や、フェノール性水酸基のオルソ位に置換基を導入する手段などが用いられている(特許文献6参照)。これらアプローチにより、前述用途において高流動性、低吸水性などの好ましい特性を発揮する一方で、硬化が遅く高いガラス転移温度の硬化物が得られにくいほか、硬化剤がエポキシ樹脂組成物に相溶しにくいなどの難点もある。
【0005】
またアミン系硬化剤は一般的に硬化速度が遅く硬化時間の制御も困難なケースが多いが、通常高耐熱性に優れる硬化物を与えるため重用されている。一方硬化速度の制御ついては、適切な硬化促進剤が少なく満足できる促進効果が得られないことが多く、用途によっては成形性や可使時間の観点からその使用に制限があるなど、好適な手段が見つかっていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−53675号公報
【特許文献2】特開平8−208807号公報
【特許文献3】特開平10−168283号公報
【特許文献4】特開2001−151783号公報
【特許文献5】特開2006−96838号公報
【特許文献6】特開2000−169537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フェノール系およびアミン系硬化剤における上記課題の解決と流動性の維持の両立を実現する硬化剤を創出するものである。すなわち本発明は、硬化が早く低吸水性で高いガラス転移温度の硬化物が得られるとともに、流動性に優れた硬化剤を提供する。
また本発明は、液状封止材、アンダーフィル剤などの用途に有用である、該硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物、およびこれを硬化してなるエポキシ樹脂硬化物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記一般式(1)で表されるアリーロキシシラン化合物を提供する。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、nは0〜10の整数、R、Rはそれぞれ炭素数1〜10の炭化水素基、Arは、それぞれ下記一般式(2)で示されるフェニレン基または下記一般式(3)で示されるナフタレン基であり、
【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

、R、Rは、それぞれ炭素数1〜10の炭化水素基、s、t、uはそれぞれ0〜4の整数)
【0013】
本発明はまた、下記一般式(4)
【0014】
【化4】

(式中、n、R、Rは前記式1と同じ、Xはハロゲン又は炭素数1〜5のアルコキシ基)で表される2官能型シラン化合物と、下記一般式(5)
【0015】
【化5】

(式中、Arは前記式2または3と同じ)で表される芳香族化合物との混合物を触媒存在下で脱ハロゲン化水素又は脱アルコールにより縮合させる前記アリーロキシシラン化合物の製造方法を提供する。
【0016】
前記触媒が、金属アルコキシド、金属カルボン酸塩、金属水酸化物、カルボン酸、アミン化合物である前記したアリーロキシシラン化合物の製造方法は、本発明の好ましい態様である。
【0017】
また本発明は、アリーロキシシラン化合物からなるエポキシ樹脂硬化剤、それとエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物、それを硬化して得られるエポキシ樹脂硬化物を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によりエポキシ樹脂硬化剤に有用で新規なアリーロキシシラン化合物、およびその製法が提供される。本発明が与えるアリーロキシシラン化合物は、エポキシ樹脂に対して相溶性が高く、これを硬化剤として含むエポキシ樹脂組成物は好適な流動性と可使時間を有するほかに硬化速度の制御が可能であり、低吸水性で高いガラス転移温度のエポキシ樹脂硬化物の提供を実現する。
本願により得られるエポキシ樹脂組成物は、液状封止材、アンダーフィル剤などの用途に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1で得られたアリーロキシシラン1の1H-NMRチャートである。
【図2】実施例2で得られたアリーロキシシラン2の1H-NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、前記一般式(1)で表されるアリーロキシシラン化合物を提供するものである。
【0021】
前記式(1)〜(3)における、炭素数1〜10の炭化水素基としては、アルキル基、置換基を有していてよいアリール基などが挙げられるが、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基であり、特に好ましいのはメチルまたはフェニル基である。
【0022】
前記式(1)において、nが0〜4の整数、R、Rがそれぞれメチル基、フェニル基のいずれかより選択されるアリーロキシシラン化合物は、好ましい化合物である。
【0023】
前記式(2)および(3)のR、R、Rが、それぞれ炭素数1〜3の炭化水素基であり、s、t、uがそれぞれ0〜1の整数であるアリーロキシシラン化合物もまた好ましい化合物である。
【0024】
本発明の前記アリーロキシシラン化合物を製造する方法は特に限定されないが、好ましい製造方法として以下の方法を挙げることができる。
すなわち前記一般式(4)で表される2官能型シラン化合物と、前記一般式(5)で表される芳香族化合物との混合物を触媒存在下で脱ハロゲン化水素又は脱アルコールにより縮合させてアリーロキシシラン化合物を得ることができる。
【0025】
前記式(4)に記載の2官能型シラン化合物の例としては、ジクロロジメチルシラン、ジクロロジエチルシラン、ジクロロジプロピルシラン、ジクロロジイソプロピルシラン、ジクロロジブチルシラン、ジクロロジフェニルシラン、ジクロロメチルフェニルシラン、ジクロロジメチルシラン、ジブロモメチルエチルシラン、ジヨードジフェニルシランなどのジハロシランモノマー、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジメトキシジプロピルシラン、ジメトキシジイソプロピルシラン、ジメトキシジブチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジプロポキシメチルエチルシラン、ジイソプロポキシジフェニルシランなどのジアルコキシシランモノマーを例示することができる。このほか、これらの加水分解生成物であるポリシロキサン化合物も2官能型シラン化合物として使用することができる。
【0026】
前記式(4)のnは、0〜10以上のものが使用に適するが、高流動性と耐熱性との両立を考慮すると0〜4の範囲が好ましく、R、Rについては、入手面や特性面を考慮すると、メチル基またはフェニル基が好ましい。これらの理由から好ましいものとして、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、およびこれらのポリシロキサン型誘導体が列記できる。
【0027】
前記式(5)に記載の芳香族化合物の例としては、2−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4−アミノフェノール、2−アミノ−3−メチルフェノール、2−アミノ−4−メチルフェノール、2−アミノ−5−メチルフェノール、2−アミノ−6−メチルフェノール、3−アミノ−1−メチルフェノール、3−アミノ−4−メチルフェノール、3−アミノ−5−メチルフェノール、3−アミノ−6−メチルフェノール、4−アミノ−2−メチルフェノール、4−アミノ−3−メチルフェノール、2−アミノ−3−メチル−4−メトキシフェノール、3−アミノ−1−メチル−5−フェニルフェノール、4−アミノ−3−メチル−5−アリルフェノールなどを例示することができる。
【0028】
原料の入手面や特性面を考慮すると、前記式(2)および(3)のR、R、Rが、それぞれ炭素数1〜3の炭化水素基、s、t、uがそれぞれ0〜1の整数で表されるものが好ましく、好ましい具体例としては、アミノフェノール類、アミノメチルフェノール類が列記できる。
【0029】
芳香族化合物と2官能型シラン化合物との反応は無溶剤で行うことができるが、溶剤を使用することもできる。溶剤を使用する場合には、使用する原料と反応せず沸点が50〜200℃の範囲の留去可能なものが好ましい。具体的には、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、デカリン、ドデカンのような脂肪族炭化水素化合物、トルエン、キシレン、メシチレンのような芳香族炭化水素、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソールなどのエーテル類を例示することができる。これらは単独で使用してもよく、あるいは2種類以上混合して使用してもよい。
【0030】
芳香族化合物と2官能型シラン化合物との反応における所用時間は、用いる原料の種類にも依存するが、通常の場合は1〜24時間程度の時間を必要とする。反応温度の設定については、使用する原料が蒸散しない程度の反応温度とすればよい。したがって具体的には、50〜250℃程度の温度範囲が好適である。
【0031】
反応終了後は、必要に応じて減圧留去、濾過、洗浄などの操作により溶媒や触媒などを除去することによって目的とする本発明のアリーロキシシラン化合物を単離することができる。本発明のアリーロキシシラン化合物は沸点が高く熱にも安定であるため、このような精製操作を導入しても変質せずに純度良くアリーロキシシラン化合物を得ることができる。
【0032】
本発明の前記アリーロキシシラン化合物は、エポキシ樹脂硬化剤として好適に使用される。前記アリーロキシシラン化合物からなるエポキシ樹脂硬化剤は、本発明の好ましい態様である。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂及び本発明のエポキシ樹脂用硬化剤を含有する。本発明のエポキシ樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に制限はなく、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、アミノフェノールのトリグリシジル化物等が挙げられる。常温下で液状のエポキシ樹脂組成物とする用途に対しては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、アミノフェノールのトリグリシジル化物の使用が好ましい。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂組成物において硬化剤の使用量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.7〜1.2当量が好ましい。エポキシ基1当量に対して、0.7当量に満たない場合、あるいは1.2当量を超える場合、いずれも硬化が不完全となり良好な硬化物性が得られない恐れがある。
【0035】
エポキシ樹脂の硬化に際しては、硬化促進剤を併用することが望ましい。かかる硬化促進剤としては、エポキシ樹脂をフェノール樹脂系硬化剤で硬化させるための公知の硬化促進剤を用いることができ、例えば第3級アミン、第4級アンモニウム塩、イミダゾール類、有機ホスフィン化合物、第4級ホスホニウム塩などを挙げることができる。より具体的には、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセンー7などの第3級アミン、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィンなどの有機ホスフィン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラナフトエ酸ボレートなどを挙げることができる。
【0036】
硬化促進剤は、本発明のエポキシ樹脂硬化剤に添加する方法、あるいはエポキシ樹脂硬化剤とエポキシ樹脂を混合してエポキシ樹脂組成物としたものに添加する方法のいずれでもよい。硬化促進剤の添加量は本発明のエポキシ樹脂硬化剤100重量部に対して0.001〜10.0重量部とするのがよい。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物は必要により無機充填材を含有する。用いうる無機充填材の具体例としてはシリカ、アルミナ、タルク、窒化硼素、窒化珪素等が挙げられる。無機充填材は本発明のエポキシ樹脂組成物中において0〜90重量%を占める量が用いられる。更に本発明のエポキシ樹脂組成物には、シランカップリング剤、ステアリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の離型剤、顔料等の種々配合剤を添加することができる。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記各成分を均一に混合することにより得られる。本発明のエポキシ樹脂組成物は従来知られている方法と同様の方法で容易にその硬化物とすることができる。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物が、特に液状封止などの用途において常温下で液状をすることが好ましい態様である。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記各成分を均一に混合することにより得られる。本発明のエポキシ樹脂組成物は従来知られている方法と同様の方法で容易にその硬化物とすることができる。例えば、エポキシ樹脂と硬化剤、並びに必要により硬化促進剤及び無機充填材及び配合剤とを必要に応じて押出機、ニーダ、ロール等を用いて均一になるまで充分に混合することより本発明のエポキシ樹脂組成物を得て、そのエポキシ樹脂組成物が固形であれば、溶融注型法あるいはトランスファー成型法やインジェクション成型法、圧縮成型法などによって成型し、更に80〜200℃で2〜10時間に加熱することにより硬化物を得ることができる。エポキシ樹脂組成物が液状のものは、ディスペンス法、注型法、印刷法などの公知の封止方法により、同様の加熱温度で硬化物とすることができる。
【0041】
特に常温で液状の本発明のエポキシ樹脂組成物の粘度は、その配合内容や用途にもよるが、常温周辺の温度での使用の観点から、無機充填剤を含まないときの25℃時の粘度として、15000mPa・s以下、好ましくは7500mPa・s以下であることが望ましい。
【0042】
また本発明のエポキシ樹脂組成物を、ガラス繊維、カ−ボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維、紙などの基材に含浸させ加熱乾燥して得たプリプレグを熱プレス成形して硬化物を得ることもできる。この際の溶剤は、本発明のエポキシ樹脂組成物と該溶剤の混合物中で通常10〜70重量%、好ましくは15〜70重量%を占める量を用いる。
【0043】
前記したような特徴を有する本発明のエポキシ樹脂組成物は、液状封止材、アンダーフィル材、固形封止材、接着剤、積層材料、塗料、レジストなどの用途に好適に使用されるものである。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0045】
(参考例)液状フェノールノボラック型硬化剤の合成
フェノール117.6g(1250ミリモル)、2-アリルフェノール503.2g(3750ミリモル)、37%-ホルマリン81.2g(1000ミリモル)の混合物を60℃に加熱後、蓚酸二水和物2gを添加して2時間かけながら95℃まで昇温した。そのあとさらに蓚酸二水和物2gを添加して95℃で3時間保持した。反応終了後、減圧留去により液状フェノールノボラック型硬化剤232.9gを得た(水酸基当量:135g/eq、50℃粘度:430mPa・s)。
【0046】
(実施例1)アリーロキシシラン1の合成[モル比(ジメトキシメチルフェニルシラン/3−アミノフェノール/水)=1/2/0]
下部に抜出口のある200mlの4つ口フラスコに、ジメトキシメチルフェニルシラン31.8g(0.175モル)、3−アミノフェノールを38.2g(0.350モル)、オルトチタン酸テトライソプロピル0.099gを仕込み150℃に昇温した。反応で発生するメタノールを系外に揮散させながら150℃で8時間保持し、反応液中に未反応の3−アミノフェノールが残存しないことをガスクロマトグラフィーで確認した後、反応液を抜き出して茶褐色で透明な反応物56.9g(アリーロキシシラン1)を得た。
アリーロキシシラン1の50℃の溶融粘度を測定したところ、650mPa・sであった。硬化剤当量は下式により54.2g/eqであった。
硬化剤当量[g/eq]=反応物重量[g]/(反応に使用した3-アミノフェノールノeq数[eq])
得られたアリーロキシシラン1についてジメチルスルホキシド-d6中で1H-NMRチャートを図1に示す。図1のシグナルの化学シフトと面積比より、3-アミノフェノール由来のアミノ基の水素(δ5.06ppm)とベンゼン環上の水素(δ6.21〜6.86ppm)およびジメトキシメチルフェニルシラン由来のメチル基の水素(δ0.48ppm)とフェニル基の水素(δ7.41〜7.67ppm)がそれぞれ帰属され、ジメトキシメチルフェニルシランのメトキシ基が3−アミノフェノールとの反応によりメタノールとして外れて1分子中にアミノ基を2個有するフェノキシシラン種を与えていることがわかる。
【0047】
(実施例2)アリーロキシシラン2の合成[モル比(ジメトキシメチルフェニルシラン/3−アミノフェノール/水)=2/2/1]
下部に抜出口のある200mlの4つ口フラスコに、ジメトキシメチルフェニルシラン49.1g(0.270モル)、オルトチタン酸テトライソプロピル0.068gを仕込み75℃に昇温した後、水2.4g(0.135モル)とメタノール21.6gを混合した溶液を3時間かけて添加した。添加した混合溶液のメタノールと反応で発生するメタノールを系外に揮散させながら反応を行い、添加終了後は75℃で1時間保持した。保持後、反応液に3−アミノフェノールを29.4g(0.270モル)を添加し、150℃に昇温した。このとき反応で発生するメタノールはそのまま系外へ揮散させながら150℃で8時間保持し、反応液中に未反応の3−アミノフェノールが残存しないことをガスクロマトグラフィーで確認した後、反応液を抜き出して茶褐色で透明な反応物65.2g(アリーロキシシラン2)を得た。
得られたアリーロキシシラン2は実施例1と同様の要領で50℃の溶融粘度と硬化剤当量を求めた。それによると、50℃の溶融粘度は0.24Pa・s、硬化剤当量は80.5g/eqであった。
【0048】
得られたアリーロキシシラン2についてジメチルスルホキシド-d6中で1H-NMRチャートを図2に示す。図2のシグナルの化学シフトと面積比より、3-アミノフェノール由来のアミノ基の水素(δ4.98〜5.06ppm)とベンゼン環上の水素(δ6.00〜6.85ppm)およびジメトキシメチルフェニルシラン由来のメチル基の水素(δ0.32〜0.50ppm)とフェニル基の水素(δ7.41〜7.67ppm)がそれぞれ帰属され、ジメトキシメチルフェニルシランのメトキシ基が水と3−アミノフェノールとの反応によりメタノールとして外れて1分子中にアミノ基を2個有しシロキサン構造も含むアリーロキシシラン種を与えていることがわかる。
【0049】
(比較例1)
参考例で得られた液状フェノールノボラック型硬化剤、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エピコート806、ジャパンエポキシレジン(株)、エポキシ当量:168g/eq)、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7を表1に示す割合で配合し、充分に混合してエポキシ樹脂組成物を得た。これを用いて25℃組成物粘度、粘度上昇率およびゲル化時間を測定した。またエポキシ組成物を120℃下で1時間、150℃下で1時間、さらに180℃下で5時間加熱してガラス転移温度および吸水率測定用のテストピースを作成した。結果を表1に示す。
【0050】
本発明における物性の測定は下記の方法によって行った。
(1)組成物粘度
エポキシ樹脂組成物の25℃の粘度を測定した。
(2)168時間後の粘度上昇率
エポキシ樹脂組成物を−5℃で168時間放置する前と後の25℃の粘度を測定し、式1により算出した。
168時間後粘度上昇率[%]=(168時間放置後の粘度-初期粘度)×100/初期粘度(式1)
(3)ゲル化時間
150℃熱板上でゲル化が観測されるまでの時間を測定した。
(4)ガラス転移温度(Tg)
TMAにより得られる線膨張係数の変曲点をガラス転移温度とした。
(5)168時間後吸水率
サンプル形状50mm径×3mmの円盤を、85℃、相対湿度85%RH雰囲気下で168時間吸水させたときの吸水率を式2により算出した。
168時間後吸水率[%]=(168時間放置後の重量増加分/初期重量)×100(式2)
【0051】
(比較例2)
比較例1の液状フェノールノボラック型硬化剤の代わりに液状芳香族アミン型硬化剤(EPOX-MKQ544、プリンテック(株)、官能基当量:43g/eq)を用いて表1のような配合とした以外は、比較例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例3)
比較例1の液状フェノールノボラック型硬化剤の代わりに液状芳香族アミン型硬化剤(EPOX-MKQ544、プリンテック(株)、官能基当量:43g/eq)を用いて表1のような配合とした以外は、比較例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例3)
比較例1の液状フェノールノボラック型硬化剤の代わりに実施例1のアリーロキシシラン1を用いて表1のような配合とした以外は、比較例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例4)
比較例1の液状フェノールノボラック型硬化剤の代わりに実施例2のアリーロキシシラン2を用いて表1のような配合とした以外は、比較例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例5)
比較例1の液状フェノールノボラック型硬化剤の代わりに実施例2のアリーロキシシラン2を用いて表1のような配合とした以外は、比較例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
本発明が与えるアリーロキシシラン化合物は上表の配合成分に対して高相溶性であり、これを含むエポキシ樹脂組成物は常温で液状である。その粘度は液状フェノール系硬化剤使用時より低く、粘度上昇率は液状アミン系硬化剤使用時より低く、また、触媒の使用量により硬化速度の制御が可能である。これを熱硬化させることにより得られる硬化物は高いガラス転移温度と低吸水性を示す。したがって、本発明が与えるアリーロキシシラン化合物は、フェノール系硬化剤とアミン系硬化剤の互いに両立しがたい特色を兼ね備えた硬化剤として挙動することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明により、液状封止材、アンダーフィル剤、導電ペーストなどの用途において有用なエポキシ樹脂組成物が提供される。本発明が与えるアリーロキシシラン化合物は、上記用途において従来使用されていたフェノール系硬化剤およびアミン系硬化剤がそれぞれ備える長所を併せ持つ硬化剤として有用である。すなわちエポキシ樹脂組成物およびエポキシ樹脂硬化物に対して、高相溶性、速硬化性、高耐熱性、低吸水性の特徴を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアリーロキシシラン化合物。
【化1】

(式中、nは0〜10の整数、R、Rはそれぞれ炭素数1〜10の炭化水素基、Arは、それぞれ下記一般式(2)で示されるフェニレン基または下記一般式(3)で示されるナフタレン基であり、
【化2】

【化3】

、R、Rは、それぞれ炭素数1〜10の炭化水素基、s、t、uはそれぞれ0〜4の整数)
【請求項2】
前記式(1)のnが0〜4の整数、R、Rがそれぞれメチル基、フェニル基のいずれかより選択される請求項1に記載のアリーロキシシラン化合物。
【請求項3】
前記式(2)および(3)のR、R、Rが、それぞれ炭素数1〜3の炭化水素基、s、t、uはそれぞれ0〜1の整数で表される請求項1または2に記載のアリーロキシシラン化合物。
【請求項4】
下記一般式(4)
【化4】

(式中、n、R、Rは前記式1と同じ、Xはハロゲン又は炭素数1〜5のアルコキシ基)で表される2官能型シラン化合物と、下記一般式(5)
【化5】

(式中、Arは前記式2または3と同じ)
で表される芳香族化合物との混合物を触媒存在下で脱ハロゲン化水素又は脱アルコールにより縮合させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアリーロキシシラン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記触媒が、金属アルコキシド、金属カルボン酸塩、金属水酸化物、カルボン酸、アミン化合物である請求項4に記載のアリーロキシシラン化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のアリーロキシシラン化合物からなるエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項7】
常温下で液状を呈する請求項6に記載のエポキシ樹脂硬化剤。
【請求項8】
請求項6または7に記載のエポキシ樹脂硬化剤とエポキシ樹脂とからなるエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
硬化促進剤を含有する請求項8に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
常温下で液状を呈する請求項8または9に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
液状封止材、アンダーフィル剤、導電ペーストに用いるものである請求項10に記載のエポキシ樹脂組成物
【請求項12】
請求項8〜11のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られるエポキシ樹脂硬化物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−57577(P2011−57577A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206561(P2009−206561)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000126115)エア・ウォーター株式会社 (254)
【Fターム(参考)】