説明

アルカリ電池

【課題】扁平型構成の無水銀化されたアルカリ電池における耐漏液性の低下を改善する。
【解決手段】酸化銀もしくは二酸化マンガンを正極活物質とする正極合剤4と、粒状亜鉛合金を負極活物質とする負極合剤6と、開口端縁が断面U字状に外周面に沿って折り返された折り返し部13及び折り返し底部13aを有する内面が銅よりなる負極カップ3を負極端子として用いたアルカリ電池において、負極カップの折り返し部及び折り返し底部を含まない内面領域に銅よりも水素過電圧の高い金属もしくは合金を成膜34し、粒状亜鉛合金がビスマスと亜鉛、またはビスマスとインジウムと亜鉛、またはビスマスとインジウムとアルミニウムと亜鉛とからなる粒状亜鉛合金であり、かつこの粒状亜鉛合金が一粒の重量が1mg以上であるものの分布が10%以下の粒状分布を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は扁平型構成によるコイン型アルカリ電池あるいはボタン型アルカリ電池に関し、特に扁平型構成の無水銀化されたアルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子腕時計、携帯用電子計算機等の小型電子機器に使用されるコイン型あるいはボタン型アルカリ電池を、図3に示す概略断面図を用いて説明する。正極缶1の開口端が、ガスケット2を介して負極端子となる負極カップ3によって封止される。負極カップ3は、その開口端縁に断面U字状に外周面に沿って折り返された折り返し部13が形成され、この折り返し部13において、ガスケット2を介して正極缶1の開口端縁の内周面によって締めつけられて密封保持される。この負極カップ3は、ニッケル(Ni)よりなる外表面層31と、ステンレス(SUS)よりなる金属層32と銅(Cu)よりなる集電体層33との3層クラッド材が断面を有するカップ状にプレス加工されて構成される。
【0003】
正極缶1内には、酸化銀もしくは二酸化マンガンを正極活物質とする正極合剤4が収容され、負極カップ3内には、正極合剤4とセパレータ5を介して水銀(Hg)を含まない粒状亜鉛(Zn)または粒状亜鉛合金を負極活物質とする負極合剤6が配置され、アルカリ電解液が注入されて成る。
【0004】
負極合剤6は、粒状亜鉛または粒状亜鉛合金に水銀をアマルガム化した汞化亜鉛を使用することにより、粒状亜鉛または粒状亜鉛合金から発生する水素ガス(H2)、さらに粒状亜鉛または粒状亜鉛合金が、負極カップの集電体層33の銅とアルカリ電解液を介して接触することによってこの集電体から発生する水素ガス(H2)を抑制するようにしている。
【0005】
この水素ガス発生の反応は、粒状亜鉛または粒状亜鉛合金がアルカリ電解液に溶解して起こる反応であり、亜鉛は酸化されて酸化亜鉛に変化するものである。これに対し、上述したように、水銀によりアマルガム化された汞化亜鉛を使用することによって、水素発生の抑制を行うことができ、これによってこの水素発生に伴う容量保存性の低下、内圧の上昇による耐漏液性の低下、電池の膨れをそれぞれ抑制する効果を得ることができる。以上が従来の水銀を用いた電池の作用効果である。
【0006】
近年さまざまな分野で環境問題についての研究が盛んになり、コイン型あるいはボタン型のアルカリ電池においても、環境に直接影響を与える水銀の使用を回避するための多くの研究がなされている。
【0007】
例えば、特許文献1にはアルカリ電解液中の粒状亜鉛合金からの水素ガスの発生を抑える方法として、水素過電圧の高い金属を粒状亜鉛に合金として添加する方法が開示されている。この水素ガスの発生を効果的に抑えるために、図4に示すように、この集電体の銅よりも水素過電圧の高い金属であるスズ(Sn)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)の1種あるいは1種以上の合金より成る被覆層30を被着する方法の提案がなされている。
【0008】
また、特許文献2には、アルカリ電解液に水素発生を抑制するいわゆるインヒビターを添加する方法が提案されている。しかしながら、これらの方法によっても、粒状亜鉛または粒状亜鉛合金が集電体とアルカリ電解液を介して接触することにより発生する水素ガスを完全に抑えることができない。
【0009】
また、特許文献3には、被覆方法として、負極カップ3の前記折り返し部及び折り返し底部を含まない内面領域に被覆する方法が電解液の這い上がりが防止できるとして提案されている。
【0010】
【特許文献1】特許第2003−272636号公報
【0011】
【特許文献2】特許第2002−373651号公報
【0012】
【特許文献3】特許第2002−198014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、この集電体への金属被覆法でも、水銀を使用しないアルカリ電池の耐漏液特性を向上させるには十分なレベルまでは達していない。したがって、この発明は、水銀を使用しない扁平型構成の無水銀化されたアルカリ電池における耐漏液性の低下を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を解決するために、この発明は、酸化銀もしくは二酸化マンガンを正極活物質とする正極合剤と、粒状亜鉛合金を負極活物質とする負極合剤と、開口端縁が断面U字状に外周面に沿って折り返された折り返し部及び折り返し底部を有する内面が銅よりなる負極カップを負極端子として用いたアルカリ電池において、前記負極カップの前記折り返し部及び折り返し底部を含まない内面領域に銅よりも水素過電圧の高い金属もしくは合金を成膜し、上記粒状亜鉛合金がビスマスと亜鉛、またはビスマスとインジウムと亜鉛、またはビスマスとインジウムとアルミニウム(Al)と亜鉛とからなる粒状亜鉛合金であり、かつこの粒状亜鉛合金が一粒の重量が1mg以上であるものの分布が10%以下の粒状分布を有することを特徴とするアルカリ電池を提供する。
【0015】
さらにこの発明によれば、ビスマス、インジウム、アルミニウムの配合量を規定しているので、負極カップ上の銅よりも水素過電圧の高い金属と亜鉛に配合されたビスマス、インジウム、アルミニウムの相互作用による影響が最適化され、優れた耐漏液特性を示している。
【0016】
具体的には、粒状亜鉛合金組成としてビスマスのみの添加では、例えば0.01重量%〜0.1重量%の範囲であり、ビスマスとインジウムの場合は、例えば、ビスマスを0.01重量%〜0.1重量%、インジウムを例えば、0.01重量%〜0.1重量%の範囲で含み、ビスマスとインジウムとアルミミウムを含む場合は、例えば、ビスマスを0.01重量%〜0.1重量%、インジウムを0.01重量%〜0.1重量%、アルミニウムを0.0001重量%〜0.001重量%の範囲で含む粒状亜鉛合金である。
【0017】
この発明では、負極合剤中にさらに酸化ビスマス(Bi23)を粒状亜鉛合金に対し、50ppm以上1000ppm以下で添加しているので、亜鉛からの水素ガス発生を抑制でき、水素ガス発生に起因する電池の漏液発生を防止できる。
【0018】
また粒度分布を上記のように規定して均質な粒度を持つ粒状亜鉛合金を採用することにより、特に添加した酸化ビスマス(Bi23)がアルカリ電解液中に溶解して後、粒状亜鉛合金の表面に析出する際、偏りのあるビスマス析出による異常ガス発生に起因する電池の漏液を回避できる。粒度分布として一粒の重量が1mg以上であるものの粒度分布が10%以下の粒状亜鉛合金を用いることで、活物質の秤量制度が上がり、活物質の添加が多すぎることに起因する電池の漏液を回避できる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、負極カップの内面にU字状折り返し部の折り返し底部及び外部折り返し部を除く内面領域に銅よりも水素過電圧の高い金属もしくは合金の被膜を設け、負極活性物質として粒状亜鉛合金を用い、その亜鉛合金の合金種として、ビスマス、インジウム、アルミニウムの配合比を規定して配合することにより発生する水素ガス(H2)を抑制し、また、活物質の秤量制度を上げることで、活物質の添加が多すぎることに起因する電池の漏液を回避でき、耐漏液特性を向上できるので、無水銀化されたアルカリ電池の耐漏液特性を改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図1を参照してこの発明アルカリ電池の実施の形態の例を説明する。図1は偏平型のコイル型ないしはボタン型のアルカリ電池の概略断面図を示し、図中、正極缶1の開口端が断面J字状ガスケット20を介して負極カップ3によって封止される。この正極缶1は、ステンレススチール板にニッケルメッキを施した構成とされ、正極端子を兼ねた構成とされる。この正極缶1内には酸化銀もしくは二酸化マンガンを正極活物質とした正極合剤4が、コイン状もしくはボタン状に成形されたペレットとして収容配置される。
【0021】
そして、この正極缶1内の正極合剤4上に、セパレータ5を配置する。このセパレータ5は、例えば不織布、セロファン、ポリエチレンをグラフト重合した膜の3層構造とする。そして、セパレータ5に、アルカリ電解液を含浸させる。アルカリ電解液としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液、あるいは水酸化カリウム水溶液を用いることができる。
【0022】
正極缶1の開口端縁の内周面に例えばナイロン製のリング状のガスケット20を配置する。そして、このガスケット20内のセパレータ5上に、負極合剤6を配置する。この負極合剤6は、非含有水銀すなわち、水銀を含まない粒状亜鉛合金とアルカリ電解液、増粘剤等からなるジェル状をなす。粒状亜鉛合金としては、ビスマス、インジウム、アルミニウムと亜鉛との合金を用いることが望ましく、具体的には、ビスマスと亜鉛またはビスマスとインジウムと亜鉛、またはビスマスとインジウムとアルミニウムと亜鉛とからなる亜鉛合金粉末である。
【0023】
この負極合剤6を収容するように、正極缶1の開口端縁内に、負極カップ3を挿入する。この負極カップ3は、その開口端縁に断面U字状に外周面に沿って折り返されたU字状折り返し部13が形成され、このU字状折り返し部13において、ガスケット20を介して正極缶1の開口端縁の内周面によって締めつけられて密封保持される。この負極カップ3は、ニッケル外表面層31と、ステンレス金属層32と、銅よりなる集電体層33との3層クラッド材に、その集電体層33上に、銅より水素過電圧の高いスズを、メッキしてスズ被覆層34が被着された板材を形成し、これを、スズ被覆層34側を内側にして段部を有するカップ状にプレス加工して構成することができる。この場合のスズ被覆層34は、メッキによるほか、蒸着、スパッタリングによって形成することもできる。
【0024】
あるいは、上述した3層クラッド材を、集電体層33を内側にしてカップ状にプレス加工して後に、カップ内にスズの無電解メッキ液を滴下して流延被着することによってスズ被覆層34を形成することによって負極カップ3を形成することもできる。また、同様にカップ状プレス加工の後に、スズ被覆層34を蒸着、スパッタリングによって形成することもできる。
【0025】
この負極カップ3におけるスズ被覆層34は、負極カップ3のU字状折り返し部13の折り返し底部13aと、これよりの外周折り返し部13bとを除いて負極カップ3の内面の限定された領域に形成する。このスズ被覆層34の形成は、その形成時点で、上述した限定された領域に、限定的に形成することもできるし、全領域に形成して後、不要部分をエッチング等によって排除あるいは剥離することによって限定された領域に形成することもできる。
【0026】
スズ被覆層34の厚さは、0.01μm〜100μmに選定することが好ましい。これは、0.01μm未満の厚さでは、このスズ被覆層34に、ピンホールが発生することが考えられるなど、集電体層33を確実に被覆することができない場合が生じ、信頼性に問題が生じるおそれがある。
【0027】
また、100μmを越えるとこのスズ被覆層34の効果の差がない上に、その形成に長時間と、コスト高を要し、電池内の容積の低下を引き起こす原因となるなど、なんらその膜厚を大きくすることにより得られ有効性ない。
【0028】
ガスケット20の負極カップ3内の先端をこの負極カップ3の段部の内面に接触するごとくし、負極カップ3の内面のスズ被覆層34のない部分にアルカリ電解液が接するおそれがないように構成する。
【0029】
この発明において、粒状亜鉛合金は、ビスマスもしくはビスマス、インジウム、もしくはビスマス、インジウム、アルミニウムと亜鉛とからなる亜鉛合金粉末である。また、この粒状亜鉛合金は一粒当りの重量が1mg以上であるものの粒度分布が10%以下となるように適当な網目を有するナイロン網目の篩等で篩い分けし、その粒度分布をコントロールしたものである。
【0030】
さらにビスマス、インジウム、アルミニウムの配合量を、ビスマスのみの添加では、例えば、好ましくは0.01重量%〜0.1重量%の範囲である。また、ビスマスとインジウムの場合は、例えば、ビスマスを好ましくは0.01重量%〜0.1重量%、インジウムを0.01重量%〜0.1重量%の範囲で含むことが好ましく。ビスマスとインジウムとアルミニウムを含む場合は、ビスマスを0.01重量%〜0.1重量%、インジウムを0.01重量%〜0.1重量%、アルミニウムを0.0001重量%〜0.001重量%の範囲で添加ことが好ましい。このように配合することで、負極カップ上の銅よりも水素過電圧の高い金属と亜鉛に配合されたビスマス、インジウム、アルミニウムの相互作用による影響が最適化され、優れた耐漏液特性が得られる。
【0031】
また、この発明のアルカリ電池によれば、粒状亜鉛合金の一粒当りの重量が1mg以上であるものの粒度分布を10%以下に抑えることで、活物質の秤量制度が上がり、活物質の添加が多すぎることに起因する電池の漏液の回避が可能である。この粒度分布のコントロールは、通常粒状亜鉛合金を作製する際に発生してしまう1mgを超える大きな粒状合金を適当な網目構造を有するナイロン製篩等を用いて篩い分けする。秤量精度の低下の原因となる大きな粒状合金は少なければ少ないほどよく、より0に近いことが好ましい。1mg以上の大きな粒状合金の存在は10%以下に抑えることで秤量精度を向上できる。
【0032】
この発明では負極合剤中にさらに酸化ビスマス(Bi23)を粒状亜鉛合金に対し、50ppm以上1000ppm以下の範囲で添加しているので、さらに亜鉛からの水素ガス発生を抑制でき、水素ガス発生に起因する電池の漏液発生を防止できる。
【0033】
酸化ビスマス(Bi23)の添加量については50ppm未満であると抑制効果が得られず、1000ppm超の場合もまた、耐漏液効果が低下する。
【0034】
以下、実施例、比較例により、この発明をさらに詳しく説明するが、この発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
〔実施例1〕
発明を実施する最良の形態で示した図1の構造のSR626SW電池を作製した。まず、図2に示すように、上述したニッケル外表面層31と、ステンレス(SUS304)による金属層32と、銅による集電体層33との3層による厚さ0.2mmの3層クラッド材40を用意した。このクラッド材40に、位置決め用孔41を用意した。このクラッド材40に位置決め用孔41を穿設する。この位置決め用孔41は、後述するマスキングテープへの透孔に穿設に際しての位置決めと、負極カップのプレス加工時の位置決めに用いられる物である。クラッド材40の、銅による集電体層33側の面に、マスキングテープ42を貼着した。次にこのマスキングテープに直径5.5mmの円形状の透孔43を9mmピッチで穿設した。このマスキングテープ42を、メッキマスクととして、その透孔43を通じて外部に露呈した、クラッド材40の集電体層33上に、限定的に、スズの無電気メッキを行って、厚さ0.15μmの円形状のスズ皮膜層34を形成した。その後、純水での洗浄処理を行った後、エアー乾燥を行い、マスキングテープ42を剥離排除し、さらに仕上げ洗浄を行い、乾燥した。このようにしてクラッド材40の銅よりなる集電体層状の選択された一に、スズ被覆層34を点在して形成した。
【0036】
このクラッド材40の、各スズ被覆層34が形成された部分を打ち抜きプレス加工することによって、図1で説明した周縁にU字状折り返し部13が形成され、その折り返し底部13aと、外周折り返し部13bを除いて内側にスズ被覆層34が形成された負極カップ3を形成した。
【0037】
一方、28重量%の水酸化ナトリウム水溶液のアルカリ電解液を注入し、次に正極合剤4をディスク状に成形したペレットを、前述した正極缶1内に挿入して、正極合剤4にアルカリ電解液を吸収させる。
【0038】
この正極合剤4によるペレット上に、不織布、セロファン、ポリエチレンをグラフト重合した膜の3層構造の円形状に打ち抜いたセパレータ5を装填し、このセパレータ5に、28重量%の水酸化ナトリウム水溶液のアルカリ電解液を滴下して含浸させた。
【0039】
このセパレータ5上に、表1の実施例1で示される組成の構成の粒状亜鉛合金と、増粘剤、水酸化ナトリウム水溶液からなるジェル状の負極合剤6を載置した。なお、このときの粒状亜鉛合金の粒度分布は、一粒の重量が1mg以上であるものの分布が10%以下の粒状分布となるように適当な網目構造を有するナイロン製篩等を用いて篩い分けしてコントロールした。
【0040】
その後、この負極合剤6を覆って負極カップ3を、正極缶1の開口端縁内に、ナイロン製リング状のガスケット20を介して挿入し、かしめて密封してアルカリ電池を作製した。この場合、ガスケット20の負極カップ3内の先端がこの負極カップ3の段部の内面に接するようにした。
【0041】
〔実施例2〜6〕
表1の実施例2〜6で示される粒状亜鉛合金を用いること以外は実施例1と同じアルカリ電池をそれぞれ作成した。
【0042】
〔比較例1〜4〕
表1の比較例1〜4で示される粒状亜鉛合金を用いること以外は実施例1と同じアルカリ電池を作成した。
【0043】
[評価方法]
実施例1〜6のアルカリ電池と比較例1〜4のアルカリ電池をそれぞれ20個作成し、温度45℃、相対湿度90%の環境下で180日保存し、漏液の発生率を調べた結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
この表1より、粒状亜鉛合金にビスマスと亜鉛、ビスマスとインジウムと亜鉛、ビスマス、インジウム、アルミニウムと亜鉛の組み合わせで配合し、それぞれの配合量を、ビスマスのみの添加では、0.01重量%〜0.1重量%の範囲、ビスマスとインジウムの場合は、ビスマスは0.01重量%〜0.1重量%、インジウム0.01重量%〜0.1重量%、ビスマス、インジウム、アルミミウムを含む場合はビスマスを0.01重量%〜0.1重量%、インジウムを0.01重量%〜0.1重量%、アルミニウムを0.0001重量%〜0.001重量%の範囲で添加することで、負極カップ上の銅よりも水素過電圧の高い金属と亜鉛に配合されたビスマス、インジウム、アルミニウムの相互作用による影響が最適化され、優れた耐漏液特性が得られたと考えられる。
【0046】
なお、負極カップ上の銅よりも水素過電圧の高い金属は、スズのみならず、インジウム、ビスマスの1種以上の金属または合金であっても良い。さらに、成膜方法は、無電気メッキ法、電解メッキ法、PVD法、CVD法など何れの方法であっても良い。
【0047】
[比較例5]
一粒の重量が1mgを超えるものの分布が10%を超える粒度分布を有する実施例1に示す配合比率の粒状亜鉛合金を用いたこと意外は、実施例1と同様にしてアルカリ電池を作製した。
【0048】
[評価方法]
実施例1のアルカリ電池と比較例5のアルカリ電池をそれぞれ20個作成したところ、負極合剤重量は、実施例10のアルカリ電池では目標重量60mgに対し±2mgのバラツキ範囲で測り取れたが、比較例5のアルカリ電池では目標重量に対し±4mgのバラツキが認められた。こうした結果から一粒の重量が1mg以上であるものの分布が10%を超える粒度分布を有する粒状亜鉛合金を用いると秤量精度が悪くなることが確認できた。結果は表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
さらにこれらの電池を温度45℃、相対湿度90%の環境下で100日保存し、漏液の発生率を調べたところ、実施例1が0%に対し、比較例5は30%であった。漏液した電池はいずれも負極合剤が目標重量に対し3mg以上多めのものであった。
【0051】
表2より、粒状亜鉛合金の粒度分布を規定することにより、耐漏液性が向上することが示された。
【0052】
〔実施例7〕
図1で示した構造のSR626SW電池を構成した。図2に示すように、上述したニッケル外表面層31と、ステンレス(SUS304)による金属層32と、銅による集電体層33との3層による厚さ0.2mmの3層クラッドの負極カップ3を用意した。この負極カップ3には、折り返し底部13aと、外周折り返し部13bを除いた銅集電体層にスパッタリング法によりスズ被覆層34が形成されている。一方、28重量%の水酸化ナトリウム水溶液のアルカリ電解液を注入し、次に正極合剤4をディスク状に成形したペレットを、前述した正極缶1内に挿入して、正極合剤4にアルカリ電解液を吸収させる。この正極合剤4によるペレット上に、不織布、セロファン、ポリエチレンをグラフト重合した膜の3層構造の円形状に打ち抜いたセパレータ5を装填し、このセパレータ5に、28重量%の水酸化ナトリウム水溶液のアルカリ電解液を滴下して含浸させた。
【0053】
次に、実施例6に示す配合比のビスマス、インジウム、アルミニウムを含む粒状亜鉛合金と、増粘剤、水酸化ナトリウム水溶液、さらに粒状亜鉛合金に対する酸化ビスマス(Bi23)50ppmを添加したジェル状の負極合剤6をセパレータ5上に載置した。このときビスマス、インジウム、アルミニウムを含む粒状亜鉛合金は、一粒の重量が1mg以上であるものの分布が10%以下の粒状分布を有するように、適当な網目を持つステンレス製ふるいにより篩い分けしてその粒状分布をコントロールした。
【0054】
そしてこの負極合剤6を覆って負極カップ3を、正極缶1の開口端縁内に、ナイロン製リング状のガスケット20を介して挿入し、かしめて密封してアルカリ電池を作製した。この場合、ガスケット20の負極カップ3内の先端がこの負極カップ3の段部の内面に接するようにした。
【0055】
〔実施例8〕
酸化ビスマス(Bi23)の粒状亜鉛合金に対する比率が100ppmであること以外は実施例7と同じアルカリ電池を作成した。
【0056】
〔実施例9〕
酸化ビスマス(Bi23)の粒状亜鉛合金に対する比率が1000ppmであること以外は実施例7と同じアルカリ電池を作成した。
【0057】
〔比較例6〕
酸化ビスマス(Bi23)の粒状亜鉛合金に対する比率が10ppmであること以外は実施例7と同じアルカリ電池を作成した。
【0058】
〔比較例7〕
酸化ビスマス(Bi23)の粒状亜鉛合金に対する比率が1500ppmであること以外は実施例7と同じアルカリ電池を作成した。
【0059】
[評価方法]
実施例7〜9のアルカリ電池と比較例6〜7のアルカリ電池をそれぞれ20個作成し、温度45℃、相対湿度90%の環境下で180日保存し、漏液の発生率を調べた結果を表2に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
この表3の結果より、酸化ビスマス(Bi23)をさらに粒状亜鉛合金に添加することで、亜鉛からの水素ガス発生を抑制でき、水素ガス発生に起因する電池の漏液発生を防止できることが立証された。
【0062】
〔実施例10〕
一粒の重量が1mg以下であるものの分布が10%以下である粒度分布を有するように調製した実施例6に示す配合比率の粒状亜鉛合金を用いて実施例7と同様にしてアルカリ電池を作製した。
【0063】
〔比較例8〕
一粒の重量が1mgを超であるものの分布が10%を超える粒度分布を有するように調製した実施例6に示す配合比率の粒状亜鉛合金を用いたこと以外は実施例7と同様にしてアルカリ電池を作製した。
【0064】
[評価方法]
実施例10のアルカリ電池と比較例8のアルカリ電池をそれぞれ20個作成したところ、負極合剤重量は、実施例10のアルカリ電池では目標重量60mgに対し±2mgのバラツキ範囲で測り取れたが、比較例8のアルカリ電池では目標重量に対し±4mgのバラツキが認められた。こうした結果から一粒の重量が1mg以上であるものの分布が10%を超える粒度分布を有する粒状亜鉛合金を用いると秤量精度が悪くなることが確認できた。
【0065】
さらにこれらの電池を温度45℃、相対湿度90%の環境下で100日保存し、漏液の発生率を調べたところ、実施例10が0%に対し、比較例8は40%であった。漏液した電池はいずれも負極合剤が目標重量に対し3mg以上多めのものだった。結果は表4に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
表4の結果は、酸化ビスマス(Bi23)がアルカリ電解液中に溶解して後、粒状亜鉛合金の表面に析出する際、偏りのあるビスマス析出による異常ガス発生に起因する電池の漏液を回避でき留ことに起因すると考えられる。したがって、粒度分布として一粒の重量が1mg以上であるものの粒度分布が10%以下の粒状亜鉛合金を用いることで、活物質の秤量制度が上がり、活物質の添加が多すぎることに起因する電池の漏液を回避できることが立証された。
【0068】
また、上記実施の形態および実施例では、この発明の扁平型構成の無水銀アルカリ電池について説明したが上述の実施の形態および実施例に限ることなく、この発明の要旨を逸脱することなくその他様々な構成をとりうる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】この発明アルカリ電池の実施の形態の例を示す概略断面図である。
【図2】この発明アルカリ電池の例の製造方法の一工程の例の平面図である。
【図3】従来のアルカリ電池の例の概略断面図である。
【図4】従来のアルカリ電池の例の概略断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 正極缶
3 負極カップ
4 正極合剤
5 セパレータ
6 負極合剤
13 U字状折り返し部
13a 折り返し底部
13b 外周折り返し部
20 ガスケット
31 外表面層
32 金属層
33 集電体層
34 スズ;被覆層
40 クラッド材
41 位置決め用孔
42 マスキングテープ
43 透孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化銀もしくは二酸化マンガンを正極活物質とする正極合剤と、粒状亜鉛合金を負極活物質とする負極合剤と、開口端縁が断面U字状に外周面に沿って折り返された折り返し部および折り返し底部を有する内面が銅よりなる負極カップを負極端子として用いたアルカリ電池において、前記負極カップの前記折り返し部および折り返し底部を含まない内面領域に銅よりも水素過電圧の高い金属もしくは合金を成膜し、
前記粒状亜鉛合金が、ビスマスと亜鉛、またはビスマスとインジウムと亜鉛、またはビスマスとインジウムとアルミニウムと亜鉛で構成され、かつ前記粒状亜鉛合金が一粒当りの重量が1mg以上であるものの分布が10%以下である粒度分布を有するアルカリ電池。
【請求項2】
前記粒状亜鉛合金中のビスマスの配合量が0.01重量%〜0.1重量%の範囲である請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項3】
前記粒状亜鉛合金中のビスマス、インジウムの配合量が、ビスマス0.01重量%〜0.1重量%、インジウム0.01重量%〜0.1重量%の範囲である請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項4】
前記粒状亜鉛合金中のビスマス、インジウム、アルミミウムの配合量がビスマス0.01重量%〜0.1重量%、インジウム0.01重量%〜0.1重量%、アルミニウム0.0001重量%〜0.001重量%の範囲である請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項5】
前記負極合剤中にさらに酸化ビスマス(Bi23)を前記粒状亜鉛合金に対し、50ppm以上1000ppm以下で添加した請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のアルカリ電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−228503(P2006−228503A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38965(P2005−38965)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】