説明

アルミニウム合金と樹脂の複合体とその製造方法

本発明は、アルミニウム合金形状物の表面に、ポリフェニレンスルフィドを成分として含む熱可塑性樹脂組成物を射出成形等の方法で一体に付着させるに際して、前処理としてアルミニウム合金形状物をアンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬することを特徴とするものである。そして、当該発明により、熱可塑性樹脂組成物とアルミニウム合金形状物とは容易に剥がれることなく、形状、構造上も機械的強度の上でも問題がない各種機器の筐体や部品、構造物等を作ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品等に用いられるアルミニウム合金と高強度樹脂の複合体とその製造方法に関する。更に詳しくは、各種機械加工で作られたアルミニウム合金形状物と熱可塑性樹脂を一体化した構造物に関し、モバイル用の各種電子機器、家電製品、医療機器、車両用構造部品、車両搭載用品、建築資材の部品、その他の構造用部品や外装用部品等に用いられるアルミニウム合金と樹脂の複合体とその製造方法に関する。
【背景技術】
金属と樹脂を一体化する技術は、自動車、家庭電化製品、産業機器等の部品製造等の広い分野から求められており、このために多くの接着剤が開発されている。この中には非常に優れた接着剤がある。常温、又は加熱により機能を発揮する接着剤は、金属と合成樹脂を一体化する接合に使われ、この接合方法は現在では一般的な技術である。
しかしながら、接着剤を使用しない、より合理的な接合方法がないか従来から研究されて来た。マグネシューム、アルミニウムやその合金である軽金属類、ステンレスなど鉄合金類に対して、接着剤の介在なしで高強度のエンジニアリング樹脂を一体化する方法、例えば、金属側に樹脂成分を射出等の方法で接着する方法、略して「射出接着法」は、本発明の発明者の知る限りにおいて現在のところ実用化されていない。
本発明者らは鋭意研究開発を進め、アンモニアやヒドラジンや水溶性アミン系化合物の水溶液に金属形状物を浸漬してからポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT」という。)を主成分とする熱可塑性樹脂組成物と通常の射出成形温度と射出成形圧力下で接触させると特異的に接着力が上がることを発見した(WO 03/064150 A1)。
また、従来から金属製品をインサート成形して金属と樹脂の複合製品を作ることは知られている(例えば、特開2001−225352号公報、特開昭54−13588号公報、特開昭54−13587号公報、特開昭58−217679号公報、特開昭50−158539号公報、特開平5−70969号公報等参照)。しかしながら、これらの従来の複合体の製造方法は、電気的な接点、アルミニウム箔等を製造する方法であり、強力な接着力(固着量)、剛性が要求される機械的な構造物に適用できるものではない。
本発明者等は、その他の樹脂でも同様なことが起こりうるかに着目し更に研究を進めた。提案した前記発明でアンモニア、ヒドラジン、又は水溶性アミン化合物の水溶液に浸漬処理したアルミニウム合金を電子顕微鏡で観察すると30〜300nm径の微細な凹部が生じており、又、X線電子分光法(X−ray photoelectron spectroscopy)で観察すると多量の窒素原子が観察される。
これらはアルミニウム合金表面が極微細にエッチングされ、更にその表面にアンモニア、ヒドラジン、又は水溶性アミン系化合物に起因する窒素化合物が存在していることを示す。本発明者らの推測では、アンモニア、ヒドラジン、又は水溶性アミン化合物がアルミニウム原子に化学吸着しているというものである。もし、熱可塑性樹脂組成物がこれらの化学吸着物質に接触したときに発熱反応が生じれば急速に冷却固化することなくアルミ表面に出来た微細凹部にまで浸入することがあり得ることであろう。
PBTはカルボン酸エステルの集合体であり、カルボン酸エステルはアミン系化合物と発熱反応を起こしてカルボン酸アミドとアルコールになることが分かっており、この推定が妥当であることを示している。そこで、同様にアンモニア、ヒドラジン、アミン系化合物と発熱反応を起こしうる他の高分子を考えた。一つはポリフェニレンスルフィド(Polyphenylen Sulfide)である。
この樹脂は米国のフィリップスペトロリウム社で開発されたエンジニアリングプラスチックであり、p−ジクロルベンゼンと硫化水素ナトリュームと苛性ソーダの脱食塩の重縮合反応から作られる。このポリフェニレンスルフィドの組成は、製法上、分子量の高いポリフェニレンスルフィドだけではなくフェニレン基が数個、十数個、数十個の低分子量のオリゴマーを3〜10%含むものである。
しかもこれらオリゴマーやポリマーには分子末端が塩素であるものが多く含まれる。本発明者らは、この塩素末端は塩基性であるアミン類と高温下で発熱しつつ反応して塩を作るのではないかと推定した。実験の結果、ポリフェニレンスルフィドも同様な処理をしたアルミニウム合金について射出接着をすることが分かった。前記推論の正しさについては追試験が必要であるが、本発明の水平展開での考え方には良い指針になるであろう。
本発明は上述のような技術背景のもとになされたものであり、下記目的を達成する。
本発明の目的は、アルミニウム合金の表面を処理して、熱可塑性樹脂組成物とアルミニウム合金形状物とは容易に剥がれることない、アルミニウム合金と樹脂の複合体とその製造方法を得ることにある。
本発明の他の目的は、形状、構造上も機械的強度の上でも問題がない各種機器の筐体や部品、構造物等を作ることができる、アルミニウム合金と樹脂の複合体とその製造方法を得ることにある。
本発明の更に他の目的は、電子機器等の筐体、部品、構造物等の軽量化や機器製造工程の簡素化に役立つ、アルミニウム合金と樹脂の複合体とその製造方法を得ることにある。
【発明の開示】
本発明は、前記目的を達成するため、概略すると次の手段を採る。
本発明のアルミニウム合金と樹脂の複合体は、アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する浸漬工程を経たアルミニウム合金形状物と、前記アルミニウム合金形状物の表面に一体に付着されたポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」という。)を成分として含む熱可塑性樹脂組成物とからなる。
本発明の他のアルミニウム合金と樹脂の複合体は、前処理のために塩基水溶液、及び/又は酸水溶液に浸漬した後、アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する浸漬工程を経たアルミニウム合金形状物と、前記アルミニウム合金形状物の表面に一体に付着されたポリフェニレンスルフィドを成分として含む熱可塑性樹脂組成物とからなることを特徴とする。
本発明のアルミニウム合金と樹脂の複合体の製造方法は、アルミニウム合金形状物をアンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する浸漬工程と、前記アルミニウム合金形状物を金型に挿入し、前記金型内でポリフェニレンスルフィドを含む前記熱可塑性樹脂組成物を一体化することを特徴とする。
本発明の他のアルミニウム合金と樹脂の複合体の製造方法は、アルミニウム合金形状物を塩基性水溶液、及び/又は酸水溶液に浸漬する前処理工程と、前記前処理工程後の前記アルミニウム合金形状物をアンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する浸漬工程と、前記アルミニウム合金形状物を金型に挿入し、前記金型内でポリフェニレンスルフィドを含む前記熱可塑性樹脂組成物を一体化することを特徴とする。
以下、前述した本発明のアルミニウム合金と樹脂の複合体の製造方法について、詳細に説明する。
〔アルミニウム合金形状物〕
アルミニウム合金形状物の素材として使用されるアルミニウム合金は、日本工業規格(JIS)で規格化されている1000〜7000番系の物、またダイキャスト用の各種のアルミニウム合金が使用できる。1000番系は高純度アルミ系の合金であるが、その他はアルミニウム以外にマグネシューム、珪素、銅、マンガン、その他が含まれた多種の目的に合わせた合金系である。この表面の前処理工程は、アルミニウム以外の金属が比較的多く含まれる合金種では、後述する前処理法が好ましい方法であるが、必ずしもこの前処理工程は必要なものではない。何れにせよ、高純度アルミニウム合金のみならず現在実際に各種機器の筐体等に使用されているアルミニウム合金のほとんどが使用可能である。
射出成形による樹脂の接着を行う場合、アルミニウム合金形状物は、アルミニウム合金の塊、板材、棒材などから塑性加工、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、研磨加工等を単独、又はこれらの加工を組み合わせて所望の形状に機械加工する。この機械加工により、射出成形加工のインサート用として必要な形状、構造のアルミニウム合金形状物が加工される。加工されたこのアルミニウム合金形状物は、接着される表面が酸化や水酸化された錆等の厚い被膜がないことが必要であり、長期間の自然放置で表面に錆の存在が明らかなものは研磨して取り除くことが必要である。
〔脱脂工程〕
この脱脂工程は、本発明では必ずしも必要な工程ではない。しかしながら、アルミニウム合金形状物の表面には、油脂類や微細な塵が付着している。特に、機械加工された表面には、機械加工時に用いられる油剤、切粉等が付いておりこれらを洗浄することが好ましい。
汚れの種類によるが、市販のアルミ脱脂洗剤で洗浄するか、又は水溶性有機溶剤に浸漬するなどの方法で汚れを除去した後、水洗するのが好ましい。水溶性の有機溶剤としては、例えば、アセトン、メタノール、エタノール等がある。もし強く油性物が付着している状況であれば、ケロシン、ベンジン、キシレンなどの有機溶剤で洗浄する工程をその前に入れることも好ましい。
水洗浄後の保存期間も可能な限り短くする。出来れば、脱脂工程と次に示す工程(前処理工程)は時間を置かずに連続的に処理されるのが好ましい。連続的に処理する場合は、脱脂工程の後に乾燥する必要はない。
〔前処理工程〕
後述する処理工程の前処理として、次に説明する前処理工程を行うと、アルミニウム合金形状物と熱可塑性樹脂組成物との接着がより効果的である。特に1000番系アルミニウム合金(純アルミニウム合金系)以外のアルミニウム合金では有効である。要するに、前工程で得たアルミニウム合金が次の必須工程での効果が十分出るように予め加工するのがこの工程の目的である。
アルミニウム合金表面に微細なエッチング面を形成するための前処理である。アルミニウム合金形状物をまず塩基性水溶液(pH>7)に浸漬し、その後にアルミニウム合金形状物を水洗する。塩基性水溶液に使う塩基としては、水酸化ナトリューム(NaOH)、水酸化カリューム(KOH)等の水酸化アルカリ金属類の水酸化物、又はこれらが含まれた安価な材料であるソーダ灰(NaCO、無水炭酸ナトリウム)、アンモニア等が使用できる。
また、水酸化アルカリ土類金属(Ca,Sr,Ba,Ra)類も使用できるが、実用上は安価で効能のよい前者の群から選べばよい。水酸化ナトリューム使用の場合は0.1〜数%濃度の水溶液、ソーダ灰使用の場合も0.1〜数%が好ましく、浸漬時間は常温かやや高い温度、例えば20〜50℃で数十秒〜数分浸漬し、アルミニウム合金の表面を溶かして更新する役目を行う。塩基性水溶液に浸漬することにより、アルミニウム合金の表面は水素を放ちつつアルミン酸イオンになって溶解しアルミニウム合金表面は削られて新しい面が出る。この浸漬処理後、水洗する。
アルカリエッチング以外の前処理としては、酸エッチングがあり、数〜数十%濃度の酸、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、弗酸等の水溶液に常温かやや高い温度、例えば20〜50℃、で数十秒〜数分浸漬し、同じくアルミニウム合金表面を溶かして更新する役目を行う。
又、上記のアルカリエッチングを行い水洗し、上記の酸エッチングを行い水洗するという複合化した方法、更には、酸エッチングを行い水洗し、アルカリエッチングを行い水洗し、酸エッチングを行い水洗する、等の更に複合化した方法を取ることなど応用ができる。
要するに、これらの前処理は、固体(アルミニウム合金)、液体(水溶液)に気体(発生する水素ガス)の3相が絡んだ不均一系の反応であるから、投入されるアルミニウム合金の組成や構造、特に微細な部分の組成や構造に支配される非常に複雑な反応とみられ、試行錯誤して出来るだけ安定的な結果がでる方法を探る必要がある。
〔処理工程〕
この処理工程は本発明にとっては必須の処理工程である。アルミニウム合金をアンモニア、ヒドラジン及び/又は水溶性アミン化合物の水溶液に浸漬する工程である。アルミニウム合金表面を微妙に侵して微細凹凸を生ぜしめるとともにこれら窒素含有化合物を吸着させるのがこの工程の目的である。上記の水溶性アミン系化合物としては、特にメチルアミン(CHNH)、ジメチルアミン((CHNH)、トリメチルアミン((CHN)、エチルアミン(CNH)、ジエチルアミン((CNH)、トリエチルアミン((CN)、エチレンジアミン(HNCHCHNH)、エタノールアミン(モノエタノールアミン(HOCHCHNH))、アリルアミン(CHCHCHNH)、ジエタノールアミン((HOCHCHNH)、アニリン(CN)、トリエタノールアミン((HOCHCHN)等が好ましい。
悪臭がなく扱いが容易な方法として、3〜10%のヒドラジン一水和物水溶液を40〜70℃とし、アルミニウム合金を数分浸漬し水洗する方法がある。同様な効果は、15〜25℃の濃度15〜25%アンモニア水に10〜30分浸漬し水洗することでも得られるが、臭気が酷い。他の水溶性アミンを使用する場合も温度と濃度、及び浸漬時間を試行錯誤で探る必要があるが、何れも臭気が酷いので臭気が少ないという点で評価するとヒドラジン水溶液が好ましい。
〔前処理後のアルミニウム合金形状物の保管〕
前工程で水洗されたアルミニウム合金は、室温〜80℃程度の比較的低温の空気で強制乾燥するのが好ましい。そしてこのアルミニウム合金形状物は乾燥空気下で保管する。この保管時間は短時間ほどよいが、常温で1週間以内であれば実用上は問題はない。
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本発明で使用される熱可塑性樹脂組成物について以下述べる。アルミニウム合金形状物の表面に一体に付着する熱可塑性樹脂組成物は、PPS単独のポリマー、又は、PBT、ポリカーボネート(以下、「PC」という。)、又はポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という。)とのポリマーコンパウンド等が使用できる。
また、フィラーの含有は、アルミニウム合金形状物と熱可塑性樹脂組成物との線膨張率を一致させるという観点から非常に重要である。フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、その他これらに類する高強度繊維が良い。又、炭酸カルシューム、炭酸マグネシューム、シリカ、タルク、ガラス、粘土、炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物等の公知の材料から選択される1種以上を用いると良い。
〔成形/射出成形〕
PPSを含む熱可塑性樹脂組成物をアルミニウム合金形状物の表面に一体化する最も効果的な方法は、生産性、成形の容易性等の観点から言えば射出成形方法である。即ち、射出成形金型を用意し、金型を開いてその一方にアルミニウム合金形状物をインサートし、射出成形金型を閉め、前記の熱可塑性樹脂組成物を射出し、射出成形金型を開き離型する方法である。形状の自由度、生産性など最も優れた成形法である。大量生産では、インサート用にロボットを用いればよい。
射出成形条件について述べる。金型温度、射出温度は、前記の熱可塑性樹脂組成物を使う通常の射出成形とほぼ同様の条件で十分な接着効果が発揮できる。
〔成形/射出成形以外の方法〕
金型にアルミニウム合金形状物と薄い熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂形状物の双方をインサートし、対向する他の金型で閉めて加熱しつつ押し付ける成形法、即ち加熱プレス成形でも一体化品を得ることができる。溶融樹脂圧を高く出来ないので固着する力は弱いが、形状によっては使える可能性はある。接着(固着)の原理は、いわゆる前記した射出接着と同じである。
その他に、パイプ状物、板状物などの一体化品が求められる場合に、押し出し成形という方法が使用されるが、この押し出し成形でも本発明は利用可能である。前述した熱可塑性樹脂組成物が加熱溶融状態の時に処理されたアルミニウム合金表面と接触することが重要であるだけで理論的には成形方法を選ばないはずである。ただ、押し出し成形では溶融樹脂と金属表面の間にかかる圧力が射出成形等と比較すると著しく低い。この点で最強の接着力を示すことは期待できないが実用性との関係で十分使用に耐える設計があるはずである。
〔作用〕
本発明によれば、アルミニウム合金形状物とPPSを含む熱可塑性樹脂組成物を、インサートを使った射出成形、その他による手法で強固に接着することができる。実用的には、この熱可塑性樹脂組成物として、高濃度のフィラーを含むPPSやPPSを主成分とするコンパウンドが好ましい。
この様なことが可能になった理由は、アルミニウム合金をアンモニア、ヒドラジン及び/又は水溶性アミン化合物の水溶液から選択される1種以上で処理したことにある。この処理によりアルミニウム合金の表面が親PPS表面に変わる。更に、各種のアルミニウム合金に対して前記の熱可塑性樹脂組成物を強固に付けられるようにするため、上記水溶液処理の前に塩基/酸水溶液への浸漬処理による化学エッチングを加えた方法が使えることについて開示するものである。
本発明を使用することで、モバイル電子機器や家電機器の軽量化や、車載機器や部品の軽量化、ロボットの腕や足の軽量化、その他多くの分野で部品、筐体の供給に役立つものとみている。特にPPSは元々難燃性であるので用途的にも特異的な場面を作り得ると見られる。
【図面の簡単な説明】
図1は、アルミニウム合金片と合成樹脂板とを射出接着された引っ張り試験片の形状を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態を実験例に代えて詳記する。
[実験例1]
市販の1mm厚のA5052アルミニウム合金板を購入した。100mm×25mmの長方形片10個に切断した。このアルミニウム合金片を両面テープでゴムシートに貼り付けサンドブラスト装置(図示せず)に入れた。研磨厚が約5μmレベルになるようにエヤーパルス時間を設定し、エヤーブラスト処理した。次に、サンドブラスト装置から取り出し、平均で5時間以内常温、常圧下に置いた後、超音波をかけたアセトン1リットル中に10分浸漬して取り出し、水道水で洗浄した。
次にイオン交換水で希釈して作った濃度1%の塩酸2リットルを大型ビーカーに取り40℃として、前記のアルミニウム合金片を互いに接触せぬようにガラス壁に立てかけつつ順次1分間づつ浸漬し、日本国群馬県新田町の水道水の流水で洗浄した。続いて、イオン交換水で希釈して作った濃度1%の苛性ソーダ水溶液2リットルに同様に1分ずつ浸漬し、水道水で洗浄した。続いて、イオン交換水で希釈して作った濃度1%の塩酸2リットルに同様に1分ずつ浸漬し、3個用意したイオン交換水2リットルを入れたビーカーに順次浸して洗浄した。
次に、ヒドラジン一水和物を5%溶かしたイオン交換水の溶液2リットルを用意し、前記のアルミニウム合金を50℃で順次2分ずつ浸漬し、3個用意したイオン交換水2リットルを入れたビーカーに順次浸して洗浄し、50℃の温風を10〜20分かけて強制乾燥した。これを乾燥空気で満たされている保管箱内に収納した。
2日後、保管箱からアルミニウム合金片を取り出し、油分等が付着せぬよう手袋で摘まんで120℃の射出成形金型にインサートした。射出成形金型を閉め、ガラス繊維30%含有のPPS樹脂「商品名:サスティールBGX−130(東ソー社製)」を330℃で射出し、図1で示す一体化した複合体を得た。2日後に引っ張り試験機で引っ張り破断試験をしたところ平均で2452N(250Kgf)であった。
[実験例2]
市販の1mm厚のA1100(日本工業規格品)のアルミニウム合金板を購入した。100mm×25mmの長方形片10個に切断した。これを実験例1と殆ど同じ方法で処理した。実験例1と異なるのは、ヒドラジン水溶液に変えて25%アンモニア水を使用し、処理時の温度を25℃、浸漬時間を30分としたことだけである。乾燥空気で満たされている保管箱内に収納した。
3日後、保管箱からアルミ片を取り出し、油分等が付着せぬよう手袋で摘まんで射出成形金型にインサートした。その後は実験例1と全く同様に成形を実施し、引っ張り試験機にかけた。せん断破断強度は平均で1863N(190Kgf)であった。
【産業上の利用可能性】
本発明の産業上の利用分野は、モバイル用の各種電子機器、家庭用電化製品、医療用機器、自動車の車体、車両搭載用品、建築資材の部品、その他の各種機械の構造用部品、各種内装・外装用部品等に用いることができる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する浸漬工程を経たアルミニウム合金形状物と、
前記アルミニウム合金形状物の表面に一体に付着されたポリフェニレンスルフィドを成分として含む熱可塑性樹脂組成物と
からなることを特徴とするアルミニウム合金と樹脂の複合体。
【請求項2】
前処理のために塩基水溶液、及び/又は酸水溶液に浸漬した後、アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する浸漬工程を経たアルミニウム合金形状物と、
前記アルミニウム合金形状物の表面に一体に付着されたポリフェニレンスルフィドを成分として含む熱可塑性樹脂組成物と
からなることを特徴とするアルミニウム合金と樹脂の複合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルミニウム合金と樹脂の複合体において、
前記熱可塑性樹脂組成物は、機械的性質の改善のための繊維フィラー及び/又は粉末型フィラーが加えられているものである
ことを特徴とするアルミニウム合金と樹脂の複合体。
【請求項4】
請求項3に記載のアルミニウム合金と樹脂の複合体において、
前記繊維フィラーは、ガラス繊維、炭素繊維、及びアラミド繊維から選択される1種以上であり、
前記粉末型フィラーは、炭酸カルシューム、炭酸マグネシューム、シリカ、タルク、ガラス、及び粘土から選択される1種以上である
ことを特徴とするアルミニウム合金と樹脂の複合体。
【請求項5】
アルミニウム合金形状物をアンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記アルミニウム合金形状物を金型に挿入し、
前記金型内でポリフェニレンスルフィドを含む前記熱可塑性樹脂組成物を一体化する
ことを特徴とするアルミニウム合金と樹脂の複合体の製造方法。
【請求項6】
アルミニウム合金形状物を塩基性水溶液、及び/又は酸水溶液に浸漬する前処理工程と、
前記前処理工程後の前記アルミニウム合金形状物をアンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記アルミニウム合金形状物を金型に挿入し、
前記金型内でポリフェニレンスルフィドを含む前記熱可塑性樹脂組成物を一体化する
ことを特徴とするアルミニウム合金と樹脂の複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のアルミニウム合金と樹脂の複合体の製造方法であって、
前記一体化は、前記金型内で前記熱可塑性樹脂組成物を射出成形、熱プレス、又は共押し出されるものである
ことを特徴とするアルミニウム合金と樹脂の複合体の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/041532
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【発行日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549643(P2004−549643)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014213
【国際出願日】平成15年11月7日(2003.11.7)
【出願人】(000206141)大成プラス株式会社 (87)
【Fターム(参考)】