説明

アレイアンテナを用いた無線通信装置、及びアレイアンテナのキャリブレーションにおける位相補正方法

【課題】遅延キャリブレーションと位相振幅キャリブレーションの間に一時的に生じる位相ずれによるアレイアンテナの特性劣化を抑制する。
【解決手段】アレイアンテナを用いた無線通信装置は、複数のアンテナからなるアレイアンテナと、アレイアンテナに対して、各アンテナを含む伝送経路の遅延量及び位相振幅変化を一致させて各アンテナ間の特性を揃えるキャリブレーション手段と、キャリブレーション手段によって求められた、各アンテナの伝送経路の遅延補正量の変化による位相回転量を求めて位相補正量を計算し、遅延補正と同時に位相補正量を用いた位相振幅補正を行う処理部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレイアンテナを用いた無線通信装置、及びアレイアンテナのキャリブレーションにおける位相補正方法に係り、特に複数のアンテナを協調させて送受信を行うアレイアンテナのキャリブレーションにおける位相補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の需要増大に伴い、限られた無線資源の中で更なる大容量化、高速化が求められている。アレイ(マルチ)アンテナは、そのような要求に応えるために用いられるアンテナであり、ビームフォーミングやMIMO(Multi Input Multi Output)を実現し、大容量化、高速化を行うことが可能である。
【0003】
図5に、関連技術のアレイアンテナを用いた無線通信装置のビームフォーミングの例を示す。図5において、8はアレイアンテナを構成する各アンテナ、101は送受信処理部、102はビームフォーミング部、アンテナ(チャネル)校正部を示す。この例では、各アンテナ8からの送受信信号の特性(遅延/位相振幅)を調整することにより、干渉を用いて電波に指向性を持たせている。この技術により、別方向にいるユーザを分離して取り扱うことができ、干渉を抑えて高速大容量通信が可能となる。
【0004】
図5の例で示したように、アレイアンテナを用いてビームフォーミングやMIMOを行うためには、各アンテナ8間の特性が揃っている必要がある。しかし、実際には、製造における誤差、回路やケーブルの特性差によるバラツキがあり、さらには温度などの影響によっても変化していく。そのため、ビームフォーミングやMIMOを用いるためには、アンテナ8間のキャリブレーションが必須であり、各アンテナ8間、正確には、アンテナ8を含む伝送経路における遅延量や位相振幅変化を一致させて、アンテナ8で送受信される信号の特性を揃える必要がある。さらに、このようなキャリブレーションは、アレイアンテナを製造したときに一度だけ行えばよいというものではなく、ある程度の間隔を置いて(温度変化などに応じて)何度も行う必要がある。
【0005】
そのために、アレイアンテナを有する無線通信装置は、キャリブレーション機能や回路(位相振幅補正、遅延補正回路)を実装しなければならない。そのようにして特性を一致させたアレイアンテナに対して、ユーザ毎に到来方向を制御することにより、高速大容量な通信を実現する。図5の例では、図中の点線で囲まれたアンテナ校正部103で遅延/振幅位相補正を行い、各アンテナ8(送受信チャネル1〜k)の特性を一致させている。その上で、ビームフォーミング部102の到来方向制御により各チャネル1〜kのアンテナ8(アンテナ間隔:d1〜dk)の到来方向θにより生じている伝送路差(チャネル1:d1・sinθ、チャネルk:dk・sinθ)を打ち消すように信号を制御することにより、ビームフォーミングを行っている。
【0006】
図6に、関連技術のアレイアンテナを用いた無線通信装置の具体的なキャリブレーション機能(手段)の例を示す。図6において、1は送信信号処理部、2は受信信号処理部、3はキャリブレーション信号送受信回路、4−iはチャネルi(i=1、2、…、n:nは正の整数)の送受信回路(i−ch)、5はアンテナユニット、6はキャリブレーション信号分配/合成器、7−iはカップラ、8−iはチャネルiのアンテナ素子をそれぞれ示す。また、9は複素乗算器、10は遅延素子、11はD/A(Digital to Analog)コンバータ、12はA/D(Analog to Digital)コンバータ、13は送受信制御回路(SW:Switch)、19は対向アンテナをそれぞれ示す。さらに、111はデジタル部、112はアナログ部、113は無線伝送部をそれぞれ示す。
【0007】
図6の例では、アンテナユニット5のn個のチャネルi(i=1、2、…、n)の各アンテナ8−i(i−ch)間(チャネル間)のキャリブレーションは、送信と受信についてそれぞれ行う必要がある。
【0008】
送信キャリブレーションにおいては、各チャネルiの送受信回路4−i(i−ch)からの校正信号をアンテナユニット5のカップラ7−i(i−ch)で折り返し、アンテナユニット5の分配/合成器6を通して、キャリブレーション用送受信処理回路3で受信する。受信された信号の経路は、カップラ7−i(i−ch)と分配/合成器6間を除いた各チャネルiの送信経路のみが異なっているため、送信チャネル毎の受信信号を比較することによって、位相、振幅、遅延差を求めることができる。
【0009】
受信キャリブレーションでは、逆に、キャリブレーション用の信号処理回路3から校正信号を出力し、分配/合成器6を通して各アンテナ8−i(i−ch)に信号を入力し、各チャネルiの送受信回路4−iで受信する。この場合、受信された信号経路は、各チャネルiの受信経路のみが異なっているため、受信チャネル毎の受信信号を比較することにより、位相、振幅、遅延差を求めることができる。
【0010】
このようにして求めた位相、振幅、遅延差は、補正係数を用いて校正し、チャネルi間の特性を揃える。下記の式11、12に具体的な校正方法を示す。
【0011】
【数9】

【0012】
【数10】

ここでは、全チャネル特性を第1チャネル1に合せている。遅延補正における定数Cは、遅延方向がプラス方向しか制御できないため、正数化するために用いている。位相振幅補正は、I、Q平面(複素数)として計算している。
【0013】
キャリブレーション用の信号は、遅延差の測定と、位相振幅差の測定では異なるパターンが用いられる。遅延差測定においては、タイミングが一致したときのみ最大相関値となり、少しでもタイミングがずれると、ほとんどゼロとなるM系列が用いられる。
【0014】
図7及び図8は、図6に示す関連技術の無線通信装置によるアレイアンテナの送信及び受信遅延キャリブレーションを行うキャリブレーション処理部100の構成を示す。図7及び図8に示すキャリブレーション処理部100は、基準パターン発生器20、相関計算回路21、ピーク検出器22、遅延補正量計算回路23、遅延補正量レジスタ24、位相補正量レジスタ27、振幅補正量レジスタ28、複素変換器29、遅延補正用キャリブレーション送信信号発生器30、送信制御回路31、受信制御回路32を有し、送信遅延キャリブレーション(図7参照)および受信遅延キャリブレーション(図8参照)を行う。
【0015】
図7の送信遅延キャリブレーションでは、1つの受信チャネルのみを使用するため、各送信チャネルに対して個別に遅延測定を行う必要があり、同時測定はできない。これは、M系列信号の場合、複数の信号を合成して受信すると、信号を分離することができないためである。
【0016】
図8の受信キャリブレーションでは、1つの送信信号を分配しているので複数チャネルの同時受信が可能である。この受信信号に対してタイミングをずらしながら相関値を計算し、相関値がピークとなるタイミングを検出する。この方法は、移動通信(W−CDMAなど)における移動局の伝送路測定(パスサーチ)などに用いられている方法と基本的に同じである。
【0017】
一方、位相振幅差測定では、遅延補正によって遅延を一致させた複数アンテナにおいて同時測定を行う必要がある。受信キャリブレーションでは、同じ信号を複数のチャネルで同時に受信することが可能であるが、送信キャリブレーションでは、1つの受信器での同時受信を行う必要がある。そのために直交符号を用いる。直交符号はコード分離可能であるため、各送信チャネルからの信号に異なるコードを割り振ることにより信号を分離して、位相振幅を求めることができる。
【0018】
遅延補正により生じる遅延差は、信号の位相にも影響する。そのため、遅延補正量が変更されれば位相回転を生じることになり、チャネル間の位相ずれを生じる可能性がある。ゆえに、アレイアンテナの特性を劣化させないためには遅延補正時に何らかの位相補正を同時に行う必要がある。従来は、遅延についての補正自身を行っていないか、または、位相振幅補正時間を短くすることにより位相回転の影響を極力小さくしている。
【0019】
なお、上記アレイアンテナに関連する技術文献として、特許文献1には、フェーズドアレイアンテナのビーム方向を位相器で制御する場合の位相誤差を修正する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2002−076743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
アレイアンテナのキャリブレーションは、遅延補正と位相振幅補正に分けることができる。それぞれを独立に行う場合、まず遅延補正を行い、各チャネルの遅延量を一致させてから位相振幅補正を行う。ただし、遅延補正により各チャネルの遅延補正量が変更されると、遅延差による位相回転を生じる。そのため、引き続いて行われる位相振幅補正が完了するまでの時間(数秒に及ぶこともある)、チャネル間の位相がずれた状態となり、アレイアンテナとしての特性が著しく劣化する可能性がある。
【0021】
キャリブレーションは、通常通信を停止させることなく通常信号の合間(空きスロットやスロット間のギャップ)などを利用し、工程を細分化して処理していくため、キャリブレーション処理中に位相ずれによる特性劣化が起これば、最悪の場合通信断を生じる。対策として、キャリブレーション信号の送受信を行う期間だけ、変更された遅延補正量を用いる方法があるが、通常通信とキャリブレーション信号とで遅延補正量の切替えが必要となり、回路や制御が非常に複雑になる。また、遅延量の経時変化は比較的小さいので遅延補正を敢えて行わない方法もあるが、さらなる高速大容量化に対応するためアレイアンテナの特性向上や安定性が求められており、今後は遅延補正が必要となる。
【0022】
上記のように、携帯電話基地局などで用いられるアレイ(マルチ)アンテナは、複数のアンテナを用いてビームフォーミングやMIMO(Multi Input Multi Output)などの技術により高速大容量通信を可能とするアンテナである。しかし、それらの技術を利用するためには、使用する各アンテナのアナログ経路を含めた特性が一致している必要がある。アンテナ特性(位相、振幅、遅延特性。以後、チャネル特性と記す)は、各チャネルで異なり、温度などの影響により時間と共に変化する。そのため、出荷時だけでなく、運用においても定期的に校正(キャリブレーション)を行うことが望ましい。
【0023】
アレイアンテナのキャリブレーションは、遅延補正と位相振幅補正に分けることができる。まず、遅延補正を行い、各チャネルの遅延量を一致させてから位相振幅補正を行う。ただし、遅延補正によりチャネルの遅延補正量が変更されると、遅延差による位相回転を生じてしまう。そのため、引き続いて行われる位相振幅補正が完了するまでの時間(数秒に及ぶこともある)、チャネル間の位相がずれた状態となり、アレイアンテナとしての特性が著しく劣化する可能性がある。最悪の場合は、通信断を生じる可能性もある。
【0024】
すなわち、アレイアンテナのキャリブレーションを行うための送受信器を有し、キャリブレーション用の送信信号をアンテナ部で折り返して、自分自身で受信することにより校正を行う方法では、遅延補正と位相振幅補正を独立して行う場合に、初めに行われる遅延補正による位相ずれにより、次の位相振幅補正が完了するまでの間、一時的にアレイアンテナの特性劣化が生じ、通信断などを生じる可能性がある。
【0025】
これに関し、特許文献1に記載されている方法は、サブアレイ単位に設けられた遅延位相器に遅延誤差がある場合に、その誤差に対応する位相誤差をアンテナ素子に設けられた別の位相器を制御することで補償するもので、上記アレイアンテナのキャリブレーションにおける位相補正を意図するものではない。
【0026】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、遅延キャリブレーションと位相振幅キャリブレーションの間に一時的に生じる位相ずれによるアレイアンテナの特性劣化を抑制する、アレイアンテナを用いた無線通信装置及びそのキャリブレーションにおける位相補正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するため、本発明に係るアレイアンテナを用いた無線通信装置は、複数のアンテナからなるアレイアンテナと、前記アレイアンテナに対して、各アンテナを含む伝送経路の遅延量及び位相振幅変化を一致させて各アンテナ間の特性を揃えるキャリブレーション手段と、前記キャリブレーション手段によって求められた、前記各アンテナの伝送経路の遅延補正量の変化による位相回転量を求めて位相補正量を計算し、遅延補正と同時に前記位相補正量を用いた位相振幅補正を行う処理部とを有することを特徴とする。
【0028】
また、本発明に係るアレイアンテナのキャリブレーションにおける位相補正方法は、複数のアンテナからなるアレイアンテナに対して、各アンテナを含む伝送経路の遅延量及び位相振幅変化を一致させて各アンテナ間の特性を揃えるキャリブレーションを行い、前記キャリブレーションによって求められた、前記各アンテナの伝送経路の遅延補正量の変化による位相回転量を求めて位相補正量を計算し、遅延補正と同時に前記位相補正量を用いた位相振幅補正を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、遅延補正と同時に遅延補正に伴う位相回転を補正する位相回転補正を行うことによって、遅延キャリブレーションと位相振幅キャリブレーションの間に一時的に生じる位相ずれによるアレイアンテナの特性劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明に係るアレイアンテナを用いた無線通信装置、及びアレイアンテナのキャリブレーションにおける位相補正方法の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
本実施の形態は、アレイアンテナのキャリブレーションを行うための送受信器を有し、キャリブレーション用の送信信号をアンテナ部で折り返して、自分自身で受信することにより校正を行うアレイアンテナを用いた無線通信装置において、遅延キャリブレーションと位相振幅キャリブレーションの間に生じる信号劣化を補償するものである。すなわち、この無線通信装置では、アレイアンテナのキャリブレーションにおける遅延補正量の変更による位相回転量を、予め計算または測定することによりテーブル化または関数化する。そして、それらのテーブルや関数を用いて、遅延補正量の変化による位相回転量の差を求め、遅延補正量の更新と同時に位相回転補正量も更新する。これにより、アレイアンテナの一時的特性劣化を防ぐ。その後、改めて位相振幅補正を行ってキャリブレーション処理を完了する。これにより、アレイアンテナのキャリブレーションを通常の通信と並行して安定的に行うことができる。
【0032】
以下、実施例を用いて本実施の形態の詳細について説明する。
【実施例1】
【0033】
まず、本発明の実施例1について説明する。本実施例は、上記の位相回転量をテーブル化した場合に適用したものである。なお、前述した関連技術(図6〜図8)と同様の構成要素については、同一符号を付して説明する。
【0034】
本実施例に係るアレイアンテナを用いた無線通信装置は、図6に示すように、送信信号処理部1、受信信号処理部2、キャリブレーション信号送受信回路3、複数(n)個のチャネルi(i=1、2、…、n:nは正の整数)の送受信回路4−i、アンテナユニット5、チャネルiのアンテナ素子8−iを有する。なお、符号19は対向アンテナを示している。
【0035】
このうち、アンテナユニット5は、図6に示すように、キャリブレーション信号分配/合成器6と、チャネルiのカップラ7−iとを備え、キャリブレーション信号の合成、分配、折返し機能を有する。また、送受信回路4−iは、位相振幅補正を行うための複素乗算器9と、遅延補正を行うための遅延素子10と、送信デジタル信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバータ11と、受信アナログ信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ12と、送受信制御回路(SW)13とを有する。さらに、キャリブレーション信号送受信回路3は、D/Aコンバータ11、A/Dコンバータ12、送受信制御回路(SW)13を有する。送受信制御回路(SW)13は、図7及び図8に示すように、無線送受信信号の送受信切り替えを行う送受信信号切替器(SW:切替スイッチ)14と、周波数変換を行う周波数変換器15を有する。
【0036】
上記構成において、D/Aコンバータ11及びA/Dコンバータ12を基準にして、デジタル信号側がデジタル部111、アナログ信号側がアナログ部112にそれぞれ対応している。また、アンテナ素子8−iと対向アンテナ19との間は、無線伝送部113に対応している。
【0037】
次に、本実施例に係る無線通信装置によるアレイアンテナの送信及び受信遅延キャリブレーションを行うキャリブレーション処理部(本発明の処理部に対応する。)の構成を、図1、図2を用いて説明する。図1は、送信遅延キャリブレーションを行う場合、図2は、受信遅延キャリブレーションを行う場合をそれぞれ示している。
【0038】
図1及び図2に示すキャリブレーション処理部100は、基準パターン発生器20、相関計算回路21、ピーク検出器22、遅延補正量計算回路23、遅延補正量レジスタ24、位相回転補正量計算回路25、位相回転量テーブル26、位相補正量レジスタ27、振幅補正量レジスタ28、複素変換器29、遅延補正用キャリブレーション送信信号発生器30、送信制御回路31、受信制御回路32を有し、送信遅延キャリブレーション(図1参照)および受信遅延キャリブレーション(図2参照)を行う。
【0039】
このうち、遅延補正用キャリブレーション信号発生器30は、送信および受信補正用キャリブレーション信号を発生する。送信制御回路31は、送信キャリブレーション信号を送受信回路4−iや、キャリブレーション信号送受信回路3に割り振る。受信制御回路32は、キャリブレーション受信信号を選択する。
【0040】
相関計算回路21は、タイミングを変化させながら、キャリブレーション基準信号と受信キャリブレーション信号の相関値を計算し、遅延分布を求める。基準パターン発生器20は、相関計算回路21へキャリブレーション基準信号を出力する。ピーク検出器22は、相関計算回路21で求めた遅延分布からピーク検出により各チャネルの遅延量を求める。遅延補正量計算回路23は、各チャネルの遅延量から各チャネルの遅延補正量を求める。位相回転量テーブル26は、遅延補正量と位相回転量の関係を示す。位相回転補正量計算回路25は、各チャネルiの位相回転量から各チャネルiの位相回転補正量を換算する。遅延補正量レジスタ24は、遅延補正量を格納する。位相補正量レジスタ27は、位相補正量を格納する。振幅補正量レジスタ28は、振幅補正量を格納する。複素変換器29は、位相振幅量のレジスタ値を複素数(I,Q)に変換する。
【0041】
図1の送信遅延キャリブレーションでは、各チャネルiの送受信回路4−iを経由し、キャリブレーション信号送受信回路3で受信したキャリブレーション信号から、各チャネルiの送信遅延補正量を求めている。送信の位相回転補正量は、送信遅延補正量と位相回転量の関係を示す位相回転量テーブル26を用いて、各チャネルiの遅延補正量の変化から位相回転量差を求めて計算している。
【0042】
図2の受信遅延キャリブレーションでは、キャリブレーション信号送受信回路3から送信され、各チャネルiの送受信回路4−iを経由して受信されたキャリブレーション信号から、各チャネルiの受信遅延補正量を求めている。受信の位相回転補正量は、受信遅延補正量と位相回転量の関係を示す位相回転量テーブル26を用いて、各チャネルiの遅延補正量の変化から位相回転量差を求めて計算している。
【0043】
図3(a)及び(b)に遅延補正量と位相回転量の関係を示すテーブルの例を示す。このテーブルは、全アンテナ共通であり、遅延補正量(レジスタ設定値、0〜m−1)と位相回転量(0〜360度)の関係を示している。また、アップリンク用(UL)(図3(b)参照)とダウンリンク用(DL)(図3(a)参照)でそれぞれ別々に必要となる。位相回転量は、レジスタ値が0の場合を基準としている。遅延補正量の変更による位相回転量差は、現在の遅延補正量での位相回転量と、新しい遅延補正量での位相回転量の差から求める。同様にして各チャネルiの位相回転量差を求める。このテーブルは、変調方式や中間周波数設定方法、遅延位相振幅補正位置などに依存している。さらに、無線周波数が異なればテーブルも異なる可能性がある。無線周波数に依存する場合は、使用する無線周波数それぞれに対してテーブルを用意する。
【0044】
次に、本実施例の動作について説明する。
【0045】
まず、図1を参照して、送信遅延キャリブレーションの動作について説明する。
【0046】
図1において、遅延補正用キャリブレーション信号発生器30から送信された送信遅延キャリブレーション用の信号は、送信制御回路31において測定すべきチャネルiの送受信回路4−iに入力される。
【0047】
送受信回路4−i内では、現在のパラメータによる遅延位相振幅補正が行われた後、D/Aコンバータ11によってアナログ信号に変換される。変換されたアナログ信号は、周波数変換器15で無線送信周波数への変換が行われ、アンテナユニット5へ出力される。
【0048】
アンテナユニット5では、図6に示すように、カップラ7で折り返されて合成器6を経由してCAL端子から出力される。CAL端子から出力されたキャリブレーション信号は、キャリブレーション送受信回路3に入力される。
【0049】
キャリブレーション送受信回路3内では、周波数変換器15でベースバンド信号へ変換された後、A/Dコンバータ12によってデジタル信号に変換され、受信制御回路32に入力される。
【0050】
受信制御回路32から出力されたキャリブレーション信号は、相関計算回路21において、基準パターン発生器20からの信号との間で、タイミングをずらしながら相関計算され遅延分布が求められる。計算された各チャネルiの遅延分布は、ピーク検出回路22において各チャネルiのピーク位置(同期タイミング)が求められる。求められたピーク位置は、遅延量補正計算回路23に送られ、各チャネルiの送信の遅延補正量が求められる。
【0051】
位相回転補正量計算回路25では、位相回転テーブル26を参照して遅延補正量の変化量(現在値と変更値の差)から各チャネルiの送信の位相回転補正量が求められる。
【0052】
次に、図2を参照して、受信遅延キャリブレーションの動作について説明する。
【0053】
図2において、遅延補正用キャリブレーション信号発生器30から送信された受信遅延キャリブレーション用の信号は、送信制御回路31においてキャリブレーション送受信回路3に入力される。
【0054】
キャリブレーション送受信回路3内では、D/Aコンバータ11によってアナログ信号に変換される。変換されたアナログ信号は、周波数変換器15で無線送信周波数への変換が行われ、アンテナユニット5のCAL端子に入力される。
【0055】
アンテナユニット5では、図6に示すように、分配器6で分配され、カップラ7から各アンテナへ入力される(図6参照)。アンテナユニット5の各チャネル端子から出力されたキャリブレーション信号は、測定すべきチャネルiの送受信回路4−iに入力される。
【0056】
送受信回路4−i内では、周波数変換器15でベースバンド信号へ変換された後、A/Dコンバータ12によってデジタル信号に変換される。さらに、現在のパラメータによる遅延位相振幅補正が行われた後に受信制御回路32に入力される。
【0057】
受信制御回路32から出力されたキャリブレーション信号は、相関計算回路21において、基準パターン発生器20からの信号との間で、タイミングをずらしながら相関計算が行われ遅延分布が求められる。計算された各チャネルiの遅延分布は、ピーク検出回路22において各チャネルiのピーク位置(同期タイミング)が求められる。求められたピーク位置は、その後、遅延量補正計算回路23に送られ、各チャネルiの受信遅延補正量が求められる。
【0058】
位相回転補正量計算回路25では、位相回転テーブル26を参照して遅延補正量の変化量(現在値と変更値の差)から各チャネルiの受信の位相回転補正量が求められる。
【0059】
ここで、位相回転補正量の具体的計算方法について、図3(a)の送信用テーブルを参照して説明する。
【0060】
現在の遅延補正レジスタ値が1、変更後のレジスタ値が3となる場合、図3(a)より、それぞれの位相回転量は、21度と65度である。ゆえに、位相回転量差は、65−21=44度となり、位相回転補正量は符号を反転した−44度となる。この値を、現在の位相補正量レジスタ値に加えることにより位相回転補正を行う。補正量レジスタの更新は、遅延と位相を同時に行う。それにより、位相ずれの発生によるアレイアンテナの特性劣化を防ぐ。以上の補正を行ったうえで改めて位相振幅補正を行い、温度などによる位相振幅の時間変化を補正する。
【0061】
以上説明したように、本実施例によれば、次の効果が得られる。
【0062】
本実施例は、アレイアンテナのキャリブレーションを行うための送受信器(送信信号処理部1、受信信号処理部2、キャリブレーション信号送受信回路3、送受信回路4−i(i−ch)を含む。)を有し、キャリブレーション用の送信信号をアンテナ部(アンテナユニット5)で折り返して、自分自身で受信することにより校正を行う装置及び方法に関する。
【0063】
これに関し、前述した図7、図8のように、遅延補正と位相振幅補正を独立して行う場合は、初めに行われる遅延補正による位相ずれにより、次の位相振幅補正が完了するまでの間、一時的にアレイアンテナの特性劣化が生じ、通信断などを生じる可能性がある。すなわち、アレイアンテナのキャリブレーションにおいて、従来は、遅延補正により位相回転が生じ、位相振幅補正を行うまでのわずかな間、アレイアンテナの特性が劣化する可能性について具体的対応は行われていなかった。
【0064】
これに対し、本実施例は、遅延補正量の変化による位相回転量を求めて位相補正量を計算し、遅延補正と同時に位相振幅補正も行うことにより、位相振幅補正が行われるまでの特性劣化を防ぐものである。これにより、アレイアンテナにおけるキャリブレーションの安定性が向上する。
【0065】
具体的には、本実施例では、キャリブレーションにおける遅延補正量の変更による位相回転量を、測定や計算により予め求めておくことによりテーブル化する。このテーブルにより、遅延補正量の変化による位相回転量を求め、遅延補正量の更新と同時に位相回転補正量も更新することによって一時的なアレイアンテナの特性劣化を防ぐ。その後改めて位相振幅補正を行ってキャリブレーション処理を完了する。本実施例により、アレイアンテナのキャリブレーションを通常の通信と並行して安定的に行うことができる。
【0066】
したがって、本実施例に示したキャリブレーションにおいて、遅延補正と同時に遅延補正に伴う位相回転を同時に補正する位相回転補正を行うことによって、一時的に生じる位相ずれによるアレイアンテナの特性劣化を防ぐことができる。
【実施例2】
【0067】
次に、本発明の実施例2について説明する。本実施例は、上記実施例1のテーブルの代わりに関数を用いる場合に適用したものである。
【0068】
上記実施例1に係る無線通信装置において、データ転送速度、周波数変換方法、中間周波数の設定、変復調方式、遅延位相振幅補正位置などの装置としての送受信系が決定されれば、遅延補正に伴う位相回転量は、計算で求めることが可能となる。ゆえに、遅延補正量(レジスタ値)と無線周波数などをパラメータとする関数として理論的に導出できる。本実施例では、この関数やその近似関数を用いて位相回転量を計算し、補正する。
【0069】
本実施例の構成は、図1、図2における位相回転量テーブル26の代わりに関数を用いており、位相回転補正計算回路25内において、この関数によって位相回転量を計算によって求めている。すなわち、本実施例では、図1、図2における位相回転量テーブル26の代わりに、遅延補正量と無線周波数などをパラメータとする関数を用いる。位相補正量計算回路25では、この関数により、実施例1と同様に遅延補正量変更前後の位相回転量を求め、位相回転補正量を計算している。
【0070】
本実施例では、キャリブレーションにおける遅延補正量の変更による位相回転量を上記のように関数化する。この関数により、遅延補正量の変化による位相回転量を求め、遅延補正量の更新と同時に位相回転補正量も更新することによって一時的なアレイアンテナの特性劣化を防ぐ。その後改めて位相振幅補正を行ってキャリブレーション処理を完了する。本実施例により、アレイアンテナのキャリブレーションを通常の通信と並行して安定的に行うことができる。
【0071】
したがって、本実施例に示したキャリブレーションにおいても、実施例1と同様に、遅延補正と同時に遅延補正に伴う位相回転を同時に補正する位相回転補正を行うことによって、一時的に生じる位相ずれによるアレイアンテナの特性劣化を防ぐことができる。
【実施例3】
【0072】
次に、本発明の実施例3について説明する。本実施例は、上記実施例2の関数として、下記の式1に示した周波数変換により送信信号を生成する場合に適用したものである。
【0073】
【数11】

上記の式1は、ベースバンド信号に搬送波(周波数fc)を乗算することにより、無線送信信号を生成している。その後、フィルタによって例えば右辺第1項のみをアンテナから送信する。
【0074】
この周波数変換における遅延補正量と位相回転量の関係を下記の式2に示す。
【0075】
【数12】

また、遅延補正量の変更による遅延差Δtによって生じるベースバンド信号の位相回転θを下記の式3に示す。
【0076】
【数13】

上記の式2により、搬送波周波数fcに関係なく、ベースバンド信号(周波数fb)における遅延差による位相回転θが、そのまま無線送信信号における位相回転となる。
【0077】
次に、受信遅延キャリブレーションにおいては、下記の式4の周波数変換が行われる。
【0078】
【数14】

上記の式4の右辺第2項が、復調されたベースバンド信号である。ここで、遅延補正がベースバンド部で行われるとすると、遅延差と位相回転の関係は、上記の式3で示される。また、上記の式4は、φtをφt+θに置き換えることにより、下記の式5のように変形できる。
【0079】
【数15】

ゆえに、送信と同様に搬送波周波数fcに関係なく、ベースバンド信号(周波数fb)における遅延差による位相回転θがそのまま無線受信波における位相回転となる。
【0080】
以上のように、本実施例では、上記の実施例2の位相回転量を求める関数として、上記の式3を用いている。すなわち、各アンテナについて、遅延補正量の変化量(現在値と変更値の差Δt)から位相回転θを求めている。位相回転補正量は−θとなり、実施例1と同様に遅延補正と同時に位相補正を行う。
【0081】
本実施例によれば、実施例2と同様に、キャリブレーションにおける遅延補正量の変更による位相回転量を上記のように関数化する。この関数により、遅延補正量の変化による位相回転量を求め、遅延補正量の更新と同時に位相回転補正量も更新することによって一時的なアレイアンテナの特性劣化を防ぐ。その後改めて位相振幅補正を行ってキャリブレーション処理を完了する。本実施例により、アレイアンテナのキャリブレーションを通常の通信と並行して安定的に行うことができる。
【0082】
したがって、本実施例に示したキャリブレーションにおいても、実施例1、2と同様に、遅延補正と同時に遅延補正に伴う位相回転を同時に補正する位相回転補正を行うことによって、一時的に生じる位相ずれによるアレイアンテナの特性劣化を防ぐことができる。
【実施例4】
【0083】
次に、本発明の実施例4について説明する。本実施例では、上記の実施例3で用いた式1で示された周波数変換を2回行い、ベースバンド信号ではなく中間周波数処理において遅延補正を行っている。
【0084】
本実施例では、2回の周波数変換(上記の式1参照)を行い、中間周波数を経由して無線送受信を行う場合において、中間周波数処理で遅延補正を行う例を図4、および下記の式6、式7、式8に示す。
【0085】
図4に、本実施例に係るアレイアンテナを用いた無線通信装置で用いるiチャネルの送受信回路4−iの例を示す。図4において、121はベースバンド部、122は中間周波数部、123が無線周波数部をそれぞれ示す。図4に示すiチャネルの送受信回路4−i内において、送受信経路それぞれに2つの周波数変換器(複素乗算器9)を有し、その間の中間周波数部122での中間周波数処理において遅延補正と位相振幅補正を行っている。
【0086】
まず、送信遅延キャリブレーションについて説明する。
【0087】
送信遅延キャリブレーションにおいては、送受信回路4−iに送られたキャリブレーション信号(ベースバンド)は、送信経路上のベースバンド部121と中間周波数部122との間の周波数変換器(複素乗算器9)において、下記の式6に従い、中間周波数に変換される。下記の式6は、中間周波数fmへの変換を示している。
【0088】
【数16】

上記の中間周波数fmで、遅延および位相振幅補正が行われる。現在のパラメータによって遅延および位相振幅補正が行われたキャリブレーション信号は、D/Aコンバータ11においてアナログ信号に変換され、送信経路上の中間周波数部122と無線周波数部123との間の第2の周波数変換器(複素乗算器9)において無線送信信号に変換される。
【0089】
その後、アンテナユニットに送られて、実施例2と同様にして関数を用いて、送信の遅延補正量と位相回転補正量が求められる。ただし、遅延位相振幅補正は中間周波数で行われているため、遅延補正に伴う位相回転量を決定する関数は、下記の式7、式8に従って中間周波数の関数として与えられる。
【0090】
下記の式7は、中間周波数部122での中間周波数処理において遅延補正を行う場合の遅延補正量と位相回転量の関係を示す。
【0091】
【数17】

上記の位相回転θmは、下記の式8より、中間周波数の関数として示される。
【0092】
【数18】

ここで、中間周波数信号から無線信号に変換するためには、もう一度周波数変換を行う必要があるが、前述の式1、式2、式3で示されたように搬送波の周波数fcには依存しない。
【0093】
次に、送信遅延キャリブレーションについて説明する。
【0094】
受信遅延キャリブレーションにおいては、実施例2と同様にしてアンテナユニットの各アンテナ端子から出力されたキャリブレーション信号(無線周波数信号)が送受信回路4−iに送られる。送受信回路4−iに送られた受信信号は、まず受信経路上の無線周波数部123と中間周波数部122との間の周波数変換器(複素乗算器9)において中間周波数に変換された後、A/Dコンバータ12によってデジタル信号に変換される。
【0095】
遅延および位相振幅補正は、中間周波数部122で行われる。現在のパラメータによって遅延および位相振幅補正が行われたキャリブレーション信号は、受信経路上の中間周波数部122とベースバンド部121との間の第2の周波数変換器(複素乗算器9)によってベースバンド信号に変換され、実施例2と同様にして関数を用いて、受信の遅延補正量と位相回転補正量が求められる。ただし、遅延位相振幅補正は中間周波数で行われているため、遅延補正に伴う位相回転量を決定する関数は、上記の式8に従って中間周波数の関数として与えられる。
【0096】
以上のように、本実施例では、実施例3で用いた周波数変換の式1を用いて2回の周波数変換を行い、ベースバンド部121でのベースバンド信号ではなく、中間周波数部122での中間周波数処理において遅延補正を行っている。
【0097】
本実施例によれば、実施例2、3と同様に、キャリブレーションにおける遅延補正量の変更による位相回転量を上記のように関数化する。この関数により、遅延補正量の変化による位相回転量を求め、遅延補正量の更新と同時に位相回転補正量も更新することによって一時的なアレイアンテナの特性劣化を防ぐ。その後改めて位相振幅補正を行ってキャリブレーション処理を完了する。本実施例により、アレイアンテナのキャリブレーションを通常の通信と並行して安定的に行うことができる。
【0098】
したがって、本実施例に示したキャリブレーションにおいても、実施例1〜3と同様に、遅延補正と同時に遅延補正に伴う位相回転を同時に補正する位相回転補正を行うことによって、一時的に生じる位相ずれによるアレイアンテナの特性劣化を防ぐことができる。
【0099】
なお、本実施例では、上記の式8の関数を用いて実施例2と同様に位相回転遅延量を求めているが、この関数を予め計算し、実施例1に示したテーブル化しても構わない。
【0100】
(その他の実施例)
・遅延補正位置や位相振幅補正位置、周波数変換の回数などは任意に設定することができる。中間周波数も複数設定できる。例えば、遅延補正位置が、ベースバンド処理部ではなく、中間周波数や無線送受信周波数の処理部であった場合、位相回転量は中間周波数や無線送受信周波数を基にして求める(実施例4参照)。
【0101】
・実施例1においても、遅延補正位置や位相振幅補正位置、周波数変換の回数などは任意に設定することができる。中間周波数も複数設定できる。位相回転テーブル26は、それらを考慮して、計算や測定によって求める。
【0102】
・実施例4において、中間周波数が固定値ではなく、無線周波数に依存して決定されている場合は、位相回転量を求める関数も無線周波数に依存する。つまり、無線周波数も関数のパラメータとなる。実施例1に適応した場合(関数を予め計算してテーブル化した場合)は、使用する無線周波数それぞれに対して位相回転量テーブル26を用意する。
【0103】
・位相回転量テーブル26は、固定値だけではなく、使用周波数についての関数として示しても良い。つまり、遅延補正量レジスタ24の各値に対して、それぞれ別々の関数を定義しても良い(関数とテーブルの折衷案)。また、使用キャリア周波数ごとに関数を用意する方法もある。
【0104】
・図1、図2に示された遅延補正量計算方法は、これらの図に示した構成に限定されない。どのような構成を用いても構わない。
【0105】
・図1、図2では、キャリブレーション送受信回路3を独立構成としたが、この構成には限定されない。通常の送受信回路4−iを兼用した構成としても良い。例えば、信号経路切替により、送信キャリブレーションでは、特定チャネルの受信部をキャリブレーション送受信回路3として流用し、受信キャリブレーションでは、特定チャネルの送信部を流用する構成としても良い。
【0106】
以上説明したように各実施例の特徴についてまとめると、次の通りである。
【0107】
・アレイアンテナのキャリブレーションにおいて、遅延補正によって生じる位相回転を、テーブルまたは関数によって求め、補正する(実施例1、2、3、4参照)。
【0108】
・式1に示した周波数変換を用い、ベースバンド部で補正を行う場合は、式3によって位相回転量を求めることができる(実施例3参照)。
【0109】
・式1に示した周波数変換を2回行い、中間周波数処理部で補正を行う場合は、式8によって位相回転量を求めることができる(実施例4参照)。
【0110】
・式1に示した周波数変換を用いた場合、遅延補正に伴う位相回転量は、遅延補正を行う位置(ベースバンド部、中間周波数部、無線周波数部など)の周波数に大きく依存しており、その周波数の関数として位相回転量を求めることができる(実施例4参照)。
【0111】
・送受信回路4内の、遅延補正位置や位相振幅補正位置、周波数変換回数などは、図1、図2に示された構成に限定されない。順番を前後させたり、複数回の周波数変換を行って中間周波数を複数利用したり、共に複素乗算器を利用する位相振幅補正と周波数変換を1つに纏めて、1回の演算で行うなどとしても良い。
【0112】
以上、実施形態及び実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
以上説明したように、本発明は、アレイアンテナのキャリブレーション(校正)を行う装置及び方法に利用可能である。特に、本発明は、複数のアンテナを協調させて送受信を行うアレイアンテナを用いた無線通信装置、及びアレイアンテナのキャリブレーションにおける位相補正方法の用途に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施例1に係るアレイアンテナを用いた無線通信装置による送信遅延キャリブレーションを説明する概略ブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係るアレイアンテナを用いた無線通信装置による受信遅延キャリブレーションを説明する概略ブロック図である。
【図3】図1及び図2に示すアレイアンテナを用いた無線通信装置の遅延補正による位相回転量を示すテーブルの例を示す図である。
【図4】本発明の実施例4に係るアレイアンテナを用いた無線通信装置によるキャリブレーションを説明する概略ブロック図である。
【図5】関連技術におけるアレイアンテナを用いた無線通信装置によるビームフォーミングを説明する図である。
【図6】関連技術におけるアレイアンテナを用いた無線通信装置によるキャリブレーション機能を説明する概略ブロック図である。
【図7】関連技術におけるアレイアンテナを用いた無線通信装置による送信遅延キャリブレーションを説明する概略ブロック図である。
【図8】関連技術におけるアレイアンテナを用いた無線通信装置による受信遅延キャリブレーションを説明する概略ブロック図である。
【符号の説明】
【0115】
1 送信信号処理部
2 受信信号処理部
3 キャリブレーション信号送受信回路
4−i 送受信回路(i−ch)
5 アンテナユニット
6 キャリブレーション信号分配/合成器
7−i カップラ
8−i アンテナ素子
9 複素乗算器
10 遅延素子
11 D/Aコンバータ
12 A/Dコンバータ
13 送受信制御回路(SW)
14 送受信信号切替器
15 周波数変換器
19 対向アンテナ
20 基準パターン発生器
21 相関計算回路
22 ピーク検出器
23 遅延補正量計算回路
24 遅延補正量レジスタ
25 位相回転補正量計算回路
26 位相回転量テーブル
27 位相補正量レジスタ
28 振幅補正量レジスタ
29 複素変換器
30 遅延補正用キャリブレーション送信信号発生器
31 送信制御回路
32 受信制御回路
100 キャリブレーション処理部
101 送受信処理部
102 アンテナ校正部
103 ビームフォーミング部
111 デジタル部
112 アナログ部
113 無線伝送部
121 ベースバンド部
122 中間周波数部
123 無線周波数部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナからなるアレイアンテナと、
前記アレイアンテナに対して、各アンテナを含む伝送経路の遅延量及び位相振幅変化を一致させて各アンテナ間の特性を揃えるキャリブレーション手段と、
前記キャリブレーション手段によって求められた、前記各アンテナの伝送経路の遅延補正量の変化による位相回転量を求めて位相補正量を計算し、遅延補正と同時に前記位相補正量を用いた位相振幅補正を行う処理部とを有することを特徴とするアレイアンテナを用いた無線通信装置。
【請求項2】
前記処理部は、予め設定された遅延補正量とその遅延補正量の変更に伴う位相回転量との関係を表すテーブルを用いて、前記遅延補正によって生じる位相回転量を求めることを特徴とする請求項1記載のアレイアンテナを用いた無線通信装置。
【請求項3】
前記処理部は、予め設定された遅延補正量とその遅延補正量の変更に伴う位相回転量との関係を表す関数を用いて、前記遅延補正によって生じる位相回転量を求めることを特徴とする請求項1記載のアレイアンテナを用いた無線通信装置。
【請求項4】
前記関数は、遅延補正される信号の周波数の関数で表されることを特徴とする請求項3記載のアレイアンテナを用いた無線通信装置。
【請求項5】
前記遅延補正される信号は、ベースバンド信号、中間周波数信号、及び無線周波数信号のいずれかであることを特徴とする請求項4記載のアレイアンテナを用いた無線通信装置。
【請求項6】
前記処理部は、下記の式1に示す周波数変換を用いて生成されたキャリブレーション用の信号における前記遅延補正によって生じる位相回転量として、下記の式3に示すベースバンド信号の周波数fbの関数を用いて遅延補正量の変更による遅延差Δtによって生じるベースバンド信号の位相回転量θを求めることことを特徴とする請求項5記載のアレイアンテナを用いた無線通信装置。
【数1】

【数2】

【請求項7】
前記処理部は、下記の式6に示す周波数変換を用いて生成されたキャリブレーション用の信号における前記遅延補正によって生じる位相回転量として、下記の式8に示す中間周波数信号の周波数fmの関数を用いて遅延補正量の変更による遅延差Δtによって生じる中間周波数信号の位相回転量θmを求めることを特徴とする請求項5記載のアレイアンテナを用いた無線通信装置。
【数3】

【数4】

【請求項8】
複数のアンテナからなるアレイアンテナに対して、各アンテナを含む伝送経路の遅延量及び位相振幅変化を一致させて各アンテナ間の特性を揃えるキャリブレーションを行い、
前記キャリブレーションによって求められた、前記各アンテナの伝送経路の遅延補正量の変化による位相回転量を求めて位相補正量を計算し、遅延補正と同時に前記位相補正量を用いた位相振幅補正を行うことを特徴とするアレイアンテナのキャリブレーションにおける位相補正方法。
【請求項9】
予め設定された遅延補正量とその遅延補正量の変更に伴う位相回転量との関係を表すテーブルを用いて、前記遅延補正によって生じる位相回転量を求めることを特徴とする請求項8記載のアレイアンテナのキャリブレーションにおける位相補正方法。
【請求項10】
予め設定された遅延補正量とその遅延補正量の変更に伴う位相回転量との関係を表す関数を用いて、前記遅延補正によって生じる位相回転量を求めることを特徴とする請求項8記載のアレイアンテナのキャリブレーションにおける位相補正方法。
【請求項11】
前記関数は、遅延補正される信号の周波数の関数で表されることを特徴とする請求項10記載のアレイアンテナのキャリブレーションにおける位相補正方法。
【請求項12】
前記遅延補正される信号は、ベースバンド信号、中間周波数信号、及び無線周波数信号のいずれかであることを特徴とする請求項11記載のアレイアンテナのキャリブレーションにおける位相補正方法。
【請求項13】
下記の式1に示す周波数変換を用いて生成されたキャリブレーション用の信号における前記遅延補正によって生じる位相回転量として、下記の式3に示すベースバンド信号の周波数fbの関数を用いて遅延補正量の変更による遅延差Δtによって生じるベースバンド信号の位相回転量θを求めることを特徴とする請求項12記載のアレイアンテナのキャリブレーションにおける位相補正方法。
【数5】

【数6】

【請求項14】
下記の式6に示す周波数変換を用いて生成されたキャリブレーション用の信号における前記遅延補正によって生じる位相回転量として、下記の式8に示す中間周波数信号の周波数fmの関数を用いて遅延補正量の変更による遅延差Δtによって生じる中間周波数信号の位相回転量θmを求めることを特徴とする請求項12記載のアレイアンテナのキャリブレーションにおける位相補正方法。
【数7】

【数8】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−114652(P2010−114652A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285442(P2008−285442)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】