説明

アレイアンテナシステム

【課題】特定の場所に設置しなくても、電波の到来する方位および仰角を推定することができるアレイアンテナシステムを提供する。
【解決手段】信号処理装置2は、アンテナ群1に属する互いに独立して移動可能な複数のアンテナ部1a〜1nで受信した電波に輻輳された複数の信号を独立成分分析の手法を用いて分離し、分離された複数の信号の各々についての各アンテナ部1a〜1nにおける位相差を算出し、衛星信号を用いた各アンテナ部1a〜1nの測位結果により各アンテナ部1a〜1nの位置関係を算出し、この算出した位相差および位置関係を用いて、電波の到来方位および仰角を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナを配置し、電波を受信するアレイアンテナシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のアンテナを配置し、電波を受信するアレイアンテナシステムでは、各アンテナで受信した電波の位相差あるいは相関から、電波の到来する方位および仰角を推定することができる(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】菊間信良、“アレーアンテナによる適用信号処理”、科学技術出版、1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、アレイアンテナシステムは、地上の固定地点に設置されており、海上や空など、固定して設置することができない場所でも用いることができるアレイアンテナシステムはなかった。そこで、特定の場所に固定して設置しなくても、電波の到来する方位および仰角を推定することができるアレイアンテナシステムの開発が望まれていた。
【0004】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、特定の場所に設置しなくても、電波の到来する方位および仰角を推定することができるアレイアンテナシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のアレイアンテナシステムは、互いに独立して移動可能な複数のアンテナ部を有するアンテナ群と、このアンテナ群で受信した電波の到来方位および仰角を算出する信号処理装置とを備えるアレイアンテナシステムであって、前記各アンテナ部は、複数の信号が輻輳した電波を受信して受信信号を出力する通信電波受信アンテナと、この通信電波受信アンテナからの受信信号をA/D変換してデジタル受信信号を生成するA/D変換部と、この通信電波受信アンテナに設置され、航法衛星からの衛星信号を受信する航法衛星信号受信アンテナと、この航法衛星信号受信アンテナで受信した前記衛星信号を用いて測位を行う航法衛星信号受信部と、この航法衛星信号受信部による測位の結果として得られる測位結果情報を暗号化するとともに、前記A/D変換部で生成した前記デジタル受信信号を暗号化する暗号化部と、この暗号化部で生成した暗号化された測位結果情報および暗号化されたデジタル受信信号を前記信号処理装置に送信する送信部と、自アンテナ部を駆動するための電力を供給する電源部とを備え、前記信号処理装置は、前記各アンテナ部からそれぞれ送信される暗号化された測位結果情報および暗号化されたデジタル受信信号を受信する受信部と、この受信部で受信した暗号化された測位結果情報および暗号化されたデジタル受信信号をそれぞれ復号する暗号復号部と、この暗号復号部により復号された前記各アンテナ部からの測位結果情報を用いて前記各アンテナ部の位置関係を算出する航法衛星信号処理部と、前記暗号復号部により復号された前記各アンテナ部からのデジタル受信信号に輻輳された複数の信号を分離するとともに、分離された前記複数の信号の各々についての前記各アンテナ部における位相差と、前記航法衛星信号処理部で算出した前記各アンテナ部の位置関係とを用いて、前記アンテナ群で受信した電波の到来方位および仰角を算出する通信信号処理部とを備えることを特徴とする。
【0006】
また、本発明のアレイアンテナシステムは、互いに独立して移動可能な複数のアンテナ部を有するアンテナ群と、このアンテナ群で受信した電波および音波の到来方位および仰角を算出する信号処理装置とを備えるアレイアンテナシステムであって、前記各アンテナ部は、複数の信号が輻輳した電波を受信して受信信号を出力する通信電波受信アンテナと、この通信電波受信アンテナに設置され、複数の音声信号が輻輳した音波を受信して音声受信信号を出力する音波受信部と、前記通信電波受信アンテナからの受信信号をA/D変換してデジタル受信信号を生成する第1のA/D変換部と、前記音波受信部からの音声受信信号をA/D変換してデジタル音声信号を生成する第2のA/D変換部と、前記通信電波受信アンテナに設置され、航法衛星からの衛星信号を受信する航法衛星信号受信アンテナと、この航法衛星信号受信アンテナで受信した前記衛星信号を用いて測位を行う航法衛星信号受信部と、この航法衛星信号受信部による測位の結果として得られる測位結果情報、前記第1のA/D変換部で生成した前記デジタル受信信号、および前記第2のA/D変換部で生成したデジタル音声信号をそれぞれ暗号化する暗号化部と、この暗号化部で生成した暗号化された測位結果情報、暗号化されたデジタル受信信号、および暗号化されたデジタル音声信号を前記信号処理装置に送信する送信部と、自アンテナ部を駆動するための電力を供給する電源部とを備え、前記信号処理装置は、前記各アンテナ部から送信される暗号化された測位結果情報、暗号化されたデジタル受信信号、および暗号化されたデジタル音声信号を受信する受信部と、この受信部で受信した暗号化された測位結果情報、暗号化されたデジタル受信信号、および暗号化されたデジタル音声信号をそれぞれ復号する暗号復号部と、この暗号復号部により復号された前記各アンテナ部からの測位結果情報を用いて前記各アンテナ部の位置関係を算出する航法衛星信号処理部と、前記暗号復号部により復号された前記各アンテナ部からのデジタル受信信号に輻輳された複数の信号を分離するとともに、分離された前記複数の信号の各々についての前記各アンテナ部における位相差と、前記航法衛星信号処理部で算出した前記各アンテナ部の位置関係とを用いて、前記アンテナ群で受信した電波の到来方位および仰角を算出する通信信号処理部と前記暗号復号部により復号された前記各アンテナ部からのデジタル音声信号に輻輳された複数の音声信号を分離するとともに、分離された前記複数の音声信号の各々についての前記各アンテナ部における位相差と、前記航法衛星信号処理部で算出した前記各アンテナ部の位置関係とを用いて、前記アンテナ群で受信した音波の到来方位および仰角を算出する音声信号処理部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアレイアンテナシステムは、アンテナ群に属する互いに独立して移動可能な複数のアンテナ部で受信した電波に輻輳された複数の信号を分離し、分離された複数の信号の各々についての各アンテナ部における位相差を算出し、衛星信号を用いた各アンテナ部の測位結果により各アンテナ部の位置関係を算出し、この算出した位相差および各アンテナ部の位置関係を用いて、電波の到来方位および仰角を算出するので、特定の場所に設置しなくても、受信した電波の到来する方位および仰角を推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
【0009】
図1は本発明の実施の形態に係るアレイアンテナシステムの構成を示すブロック図である。図1に示すように本実施の形態に係るアレイアンテナシステムは、アンテナ群1と、信号処理装置2と、データサーバ装置3とを備える。
【0010】
アンテナ群1は、複数のアンテナ部1a,1b,…,1nを備え、アンテナ部1a,1b,…,1nは、互いに独立して移動可能になっている。また、アンテナ部1a,1b,…,1nは、それぞれ有線または無線により信号処理部2と通信可能になっている。さらに、信号処理装置2、データサーバ装置3もそれぞれ移動可能になっている。
【0011】
図2は図1に示すアレイアンテナシステムのアンテナ部の構成を示すブロック図である。アンテナ部1a,1b,…,1nはそれぞれ同じ構成であるため、アンテナ部1aを例にその構成を説明する。図2に示すようにアンテナ部1aは、アンテナ受信系10と、電源系11とを備える。
【0012】
アンテナ受信系10は、通信電波受信アンテナ101と、アンプ102と、周波数変換部103と、A/D変換部104と、マイクロホン105と、アンプ106と、A/D変換部107と、航法衛星信号受信アンテナ108と、アンプ109と、航法衛星信号受信部110と、航法衛星信号受信アンテナ111と、アンプ112と、航法衛星信号受信部113と、暗号化部114と、送信部115とを備える。
【0013】
通信電波受信アンテナ101は、複数の信号が輻輳した電波を受信して受信信号を出力する。アンプ102は、通信電波受信アンテナ101からの信号を増幅し、周波数変換部103は、アンプ102で増幅された信号をベースバンドの信号に変換する。A/D変換部104は、周波数変換部103からの信号をA/D変換してデジタル受信信号を出力する。
【0014】
マイクロホン105は、通信電波受信アンテナ101に設置され、複数の音声信号が輻輳した音波を受信して音声受信信号を出力する。アンプ106は、マイクロホン105からの信号を増幅し、A/D変換部107は、アンプ106からの信号をA/D変換してデジタル音声信号を出力する。
【0015】
航法衛星信号受信アンテナ108は、通信電波受信アンテナ101の一端に設置され、GPS(Global Positioning System)衛星、Galileo衛星、Glonass衛星、準天頂衛星などの航法衛星から送信される衛星信号を受信する。アンプ109は、航法衛星信号受信アンテナ108からの衛星信号を増幅する。航法衛星信号受信部110は、航法衛星信号受信アンテナ108で受信した衛星信号を用いて単純測位を行い、得られた測位結果情報、擬似距離、位相距離、航法暦情報(エフェメリスデータ)などをデジタル情報として出力する。
【0016】
航法衛星信号受信アンテナ111は、通信電波受信アンテナ101の他端に設置され、航法衛星信号受信アンテナ108と同様に、航法衛星から送信される衛星信号を受信する。アンプ112、航法衛星信号受信部113は、それぞれアンプ109、航法衛星信号受信部110と同様の処理を行う。なお、航法衛星信号受信部110,113は、電離層による測位への影響を軽減するため、複数の周波数を受信できるものとする。
【0017】
暗号化部114は、A/D変換部104からのデジタル受信信号、A/D変換部107からのデジタル音声信号、および航法衛星信号受信部110,113からの測位結果情報等のデジタル情報をそれぞれ暗号化する。
【0018】
送信部115は、暗号化部114で暗号化された各種データを信号処理装置2に送信する。送信部115は、図示を省略するが、衛星通信送信機、マイクロ波送信機、無線LAN送信機、光LAN変換器、光変換器等の複数の通信手段を有し、これらのうちのいずれかを用いて信号処理部2に各種データを送信する。
【0019】
電源系11は、発電部121と、バッテリ122と、電源安定化部123とを備える。発電部121は、太陽電池パネル、風力発電機、燃料電池、波力発電機、海洋温度差発電機等の複数の発電手段の少なくともいずれか1つを有する。バッテリ122は、発電部121が発電した電力を蓄え、発電部121の発電量が十分でないときの予備としての役割を果たす。電源安定化部123は、発電部121またはバッテリ122からの電力を安定的にアンテナ受信系10に供給する。この電源系11を有することで、アンテナ部1aは、地上、海上、空で独立に動作することができる。
【0020】
図3は図1に示すアレイアンテナシステムの信号処理装置およびデータサーバ装置の構成を示すブロック図である。図3に示すように信号処理装置2は、受信部21と、暗号復号部22と、航法衛星信号受信アンテナ23と、アンプ24と、航法衛星信号受信部25と、航法衛星信号処理部26と、通信信号処理部27と、音声信号処理部28と、比較処理部29とを備える。
【0021】
受信部21は、送信部115から送信される暗号化された各種データを受信する。受信部21は、図示を省略するが、衛星通信受信機、マイクロ波受信機、無線LAN受信機、光LAN変換器、光変換器等の、送信部115に対応した複数の通信手段を有し、これらのうちのいずれかを用いて、各アンテナ部1a,1b,…,1nから送信される各種データを受信する。
【0022】
暗号復号部22は、各アンテナ部1a,1b,…,1nから送信される暗号化された各種データを復号(解読)し、各アンテナ部1a,1b,…,1nのA/D変換部104で生成されたデジタル受信信号、A/D変換部107で生成されたデジタル音声信号、および航法衛星信号受信部110,113で生成された測位結果情報等のデジタル情報を得る。
【0023】
航法衛星信号受信アンテナ23は、航法衛星からの衛星信号を受信する。アンプ24は、航法衛星信号受信アンテナ23からの衛星信号を増幅する。航法衛星信号受信部25は、衛星信号を用いて、信号処理装置2の位置の測位を行う。
【0024】
航法衛星信号処理部26は、各アンテナ部1a,1b,…,1nから送信された測位結果情報を用いて、各アンテナ部1a,1b,…,1nの概算位置関係を算出する。
【0025】
通信信号処理部27は、各アンテナ部1a,1b,…,1nからのデジタル受信信号に輻輳された複数の信号を独立成分分析(ICA:Independent Component Analysis)の手法を用いて分離する。また、通信信号処理部27は、分離された複数の信号の各々についての各アンテナ部1a,1b,…,1nにおける位相差と、航法衛星信号処理部26で算出した各アンテナ部1a,1b,…,1nの位置関係とを用いて、アンテナ群1の各アンテナ部1a,1b,…,1nで受信した電波の到来方位および仰角を算出する。
【0026】
音声信号処理部28は、各アンテナ部1a,1b,…,1nからのデジタル音声信号に輻輳された複数の音声信号を独立成分分析の手法を用いて分離する。また、音声信号処理部28は、分離された複数の音声信号の各々についての各アンテナ部1a,1b,…,1nにおける位相差と、航法衛星信号処理部26で算出した各アンテナ部1a,1b,…,1nの位置関係とを用いて、アンテナ群1の各アンテナ部1a,1b,…,1nで受信した音波の到来方位および仰角を算出する。
【0027】
比較処理部29は、通信信号処理部27で分離された複数の信号自体と、分離された複数の信号のスペクトル、変調形式、方位、仰角、周波数ジッタ、バースト信号の間隔等の特徴量とをネットワーク4を介してデータサーバ装置3に送信する。また、比較処理部29は、通信信号処理部27で分離された複数の信号の特徴量と、データサーバ装置3に保存されている信号の特徴量とを比較し、信号を同定する。さらに、1回の分離処理で出力される信号セット間で相関の高いものを、同じ信号とみなしセット間で関連付ける。
【0028】
また、比較処理部29は、音声信号処理部28で分離された複数の音声信号自体と、分離された複数の音声信号のスペクトル、変調形式、方位、仰角、周波数ジッタ、バースト信号の間隔等の特徴量とをネットワーク4を介してデータサーバ装置3に送信する。さらに、比較処理部29は、音声信号処理部28で分離された複数の音声信号の特徴量と、データサーバ装置3に保存されている音声信号の特徴量とを比較し、音声信号を同定する。さらに、1回の分離処理で出力される音声信号セット間で相関の高いものを、同じ音声信号とみなしセット間で関連付ける。
【0029】
データサーバ装置3は、記録処理部31と、記録部32とを備える。記録処理部31は、信号処理装置2の暗号復号部22で復号して得られる各種データを、ネットワーク4を介して受信し、記録部32に記録する処理を行う。また、記録処理部31は、通信信号処理部27で分離された複数の信号自体と、分離された複数の信号の特徴量とをネットワーク4を介して受信し、記録部32に記録する処理を行う。さらに、記録処理部31は、音声信号処理部28で分離された複数の音声信号自体と、分離された複数の音声信号の特徴量とをネットワーク4を介して受信し、記録部32に記録する処理を行う。
【0030】
次に、本実施の形態に係るアレイアンテナシステムの動作を説明する。
【0031】
各アンテナ部1a,1b,…,1nにおいて、通信電波受信アンテナ101は、複数の信号が輻輳した電波を受信して受信信号を出力する。アンプ102は、通信電波受信アンテナ101からの信号を増幅し、周波数変換部103は、アンプ102で増幅された信号をベースバンドの信号に変換する。そして、A/D変換部104は、周波数変換部103からの信号をA/D変換してデジタル受信信号を暗号化部114に出力する。
【0032】
マイクロホン105は、複数の音声信号が輻輳した音波を受信して音声受信信号を出力する。アンプ106は、マイクロホン105からの信号を増幅し、A/D変換部107は、アンプ106からの信号をA/D変換してデジタル音声信号を暗号化部114に出力する。
【0033】
航法衛星信号受信部110は、航法衛星信号受信アンテナ108で受信されアンプ106で増幅された衛星信号を用いて単純測位を行い、得られた測位結果情報、擬似距離、位相距離、航法暦情報(エフェメリスデータ)などをデジタル情報として暗号化部114に出力する。また、航法衛星信号受信部113は、航法衛星信号受信アンテナ111で受信されアンプ112で増幅された衛星信号を用いて単純測位を行い、得られた測位結果情報、擬似距離、位相距離、航法暦情報などをデジタル情報として暗号化部114に出力する。
【0034】
暗号化部114は、A/D変換部104からのデジタル受信信号、A/D変換部107からのデジタル音声信号、および航法衛星信号受信部110,113からの測位結果情報等のデジタル情報をそれぞれ暗号化し、暗号化した各種データを送信部115に出力する。そして、送信部115は、暗号化部114からの暗号化された各種データを、信号処理装置2に送信する。
【0035】
信号処理装置2の受信部21は、各アンテナ部1a,1b,…,1nから送信される暗号化された各種データを受信して、これを暗号復号部22に出力する。そして、暗号復号部22は、各アンテナ部1a,1b,…,1nからの暗号化された各種データを復号(解読)し、各アンテナ部1a,1b,…,1nからのデジタル受信信号、デジタル音声信号、および測位結果情報等のデジタル情報を得る。
【0036】
一般に、電波の到来方向(方位、仰角)を算出するには、複数のアンテナが必要である。そして、複数のアンテナへの到来時間差、位相差から、全体のアンテナの配置に対する到来方向を決定する。このため、本実施の形態において電波の到来方向を算出するために、アンテナ群1に属するアンテナ部1a,1b,…,1nの全体的な配置を知る必要がある。
【0037】
そこで、航法衛星信号処理部26において、各アンテナ部1a,1b,…,1nが備える航法衛星信号受信部110,113から出力された測位結果情報、擬似距離、位相距離、航法暦情報等の情報を用いて、各アンテナ部1a,1b,…,1nの通信電波受信アンテナ101の姿勢、アンテナ位相中心、各アンテナ部1a,1b,…,1nの位置関係を求める。
【0038】
また、航法衛星信号処理部26は、各アンテナ部1a,1b,…,1nから送信された擬似距離、位相距離および航法暦情報を用いて単純測位を実施する。そして、航法衛星信号処理部26は、各アンテナ部1a,1b,…,1nからの測位結果情報と、航法衛星信号処理部26で実施した単純測位の結果とを比較し、各アンテナ部1a,1b,…,1nの航法衛星信号受信部110,113の動作チェックの一つとする。このとき、複数の周波数を利用できる場合、擬似距離に含まれる電離層誤差を軽減し測位を実施する。
【0039】
ここで、航法衛星信号処理部26は、各アンテナ部1a,1b,…,1nが備える航法衛星信号受信部110,113で生成された測位結果情報を用いて、各アンテナ部1a,1b,…,1nの位置関係を算出するが、より詳細な位置関係を求める場合は、基準となるアンテナ部の航法衛星受信部と航法衛星信号受信アンテナを決め、各アンテナ部1a,1b,…,1nについて、基準とした航法衛星信号受信アンテナからの相対ベクトルをキネマティック測位手法により求める。
【0040】
キネマティック測位が正確に行われているかどうかを判断するため、同一アンテナ部に含まれる航法衛星信号受信アンテナ108と航法衛星信号受信アンテナ111との間をキネマティック測位により計算する。航法衛星信号受信アンテナ108と航法衛星信号受信アンテナ111との間の距離は、設置前に精密に測定しておき、この測定しておいた距離とキネマティック測位による距離とを比較し、航法衛星信号受信部110,113の逐次処理の信頼性を確認する。
【0041】
通信信号処理部27は、各アンテナ部1a,1b,…,1nからのデジタル受信信号を暗号復号部22から受け取ると、デジタル受信信号に輻輳された複数の信号を独立成分分析の手法を用いて分離する。また、独立成分分析により、分離された複数の信号の各々についての各アンテナ部1a,1b,…,1nにおける位相差情報が得られるので、通信信号処理部27は、この位相差情報と、航法衛星信号処理部26で算出された各アンテナ部1a,1b,…,1nの位置関係とを用いて、アンテナ群1の各アンテナ部1a,1b,…,1nで受信した電波の到来方位および仰角を算出する。
【0042】
音声信号処理部28は、各アンテナ部1a,1b,…,1nからのデジタル音声信号に輻輳された複数の音声信号を独立成分分析の手法を用いて分離する。また、独立成分分析により、分離された複数の音声信号の各々についての各アンテナ部1a,1b,…,1nにおける位相差情報が得られるので、音声信号処理部28は、この位相差情報と、航法衛星信号処理部26で算出された各アンテナ部1a,1b,…,1nの位置関係とを用いて、アンテナ群1の各アンテナ部1a,1b,…,1nで受信した音波の到来方位および仰角を算出する。
【0043】
ここで、独立成分分析について説明する。独立成分分析は、統計的な独立性と確率分布の非ガウス性を仮定し、複数の信号(雑音を含む)を分離する方式である。統計的に独立とは、例えば、アレイ入力信号X1(t)とX2(t)の2つの信号があった場合、どちらか一方の信号が他方の信号の生成に影響を与えていない、あるいは関係していないという状態である。
【0044】
複数の信号S(t),S(t),…,S(t)が独立で、信号自体は未知であるとし、これらの信号が、アンテナ素子の特性により決まるウエイトW(混合行列)により合成されy(t)が出力される状況を示した式を以下の(数式1)に示す。ここで、Kはアンテナ素子数を示す。
【数1】

【0045】
(t)〜S(t)が統計的に独立である場合、各信号の相関はゼロであるという条件から、これらの相関行列は、(数式2)に示すように、対角部分だけに成分がある行列になる。
【数2】

【0046】
上記(数式2)の対角要素λ(k=1〜K)は、各信号の信号強度に関連した値になっている。Sを求めるために出力y(t)へ作用させる行列をCとすると、
【数3】

となる。このときCがWの逆行列になっていれば、完全に未知信号を分離できたことになる。
【0047】
また、出力y(t)の相関行列は、
【数4】

となる。
【0048】
次に、Λを対角化する行列Vを求める。
【数5】

【0049】
行列Dの対角要素は、Λの固有値になっている。ここで、出力y(t)を次の(数式6)のように変換する。
【数6】

【0050】
この変換は、固有ベクトル方向への射影になっており、統計解析の主成分分析における主成分を求めたことになる。
【数7】

【0051】
変換後の相関行列が単位行列となり、分散が1であるガウス分布と同じ状態になっている。このため、この操作は白色化と言われる。さらに、相関行列が単位行列で、各対角要素の値が同じであるため、信号強度に関する情報が失われていることが分かる。このとき、Z(t)には、RR=RR=Iを満足するユニタリ変換の不定性が残っている。
【0052】
ここで、複数の信号S(t),S(t),…,S(t)より構成される信号y(t)がガウス分布に従っている場合、このユニタリ変換の不定性を決定することができず、信号の分離はできない。ここで、y(t)が非ガウス分布に従うものと仮定することにより、ユニタリ変換の不定性を解くことができる。
【0053】
このユニタリ変換の不定性を解く方法として、いくつかの手法が提案されている。(数式6)で変換されたZ(t)を使い、エントロピー最小化、4次キュムラント最大化などの手法を用いて、独立性を最大限に表せるウエイト(混合行列)Wを求める。
【0054】
エントロピーは、アレイ入力信号X1(t)とX2(t)とが統計的に独立であるとき最小となる。すなわち、X1(t)とX2(t)とを同時に発生させる確率q(X1,X2)が、X1(t)の発生確率q1(X1)と、X2(t)の発生確率q2(X2)との積で表されることである。
【数8】

【0055】
この(数式8)には、X1(t)とX2(t)の相関に関する項はない。そのため、相関行列あるいは共分散行列の相関項がゼロになる。
【0056】
確率q(X1,X2)のエントロピーH(X1,X2)は次の(数式9)で計算される。
【数9】

【0057】
X1(t)とX2(t)とが独立であれば、エントロピーは、X1(t)のエントロピーとX2(t)のエントロピーとの単純な和になるが、独立でない場合は、相関に相当する項が発生する。
【数10】

【0058】
そのため、X1(t)とX2(t)とが独立である場合、q(X1,X2)のエントロピーH(X1,X2)は最小になる。X1(t)とX2(t)とを独立とした場合、エントロピーを最小になるよう、先に不定であったユニタリ変換を決めれば、(数式6)の不定性がなくなり、信号を分離することができる。このとき、(数式6)では信号強度に関する情報は失われている。
【数11】

【0059】
もともとの信号S(t)として輻輳した信号の信号強度がすべて1である場合には、上記(数式11)の括弧内の分離行列が混合行列Wの逆行列になっていると考えられる。混合行列Wは、信号の到来方向とアンテナとの関係から作られる位相差により構成されている行列であるので、分離行列も同様の位相差情報から作られている。このため、この行列を利用することにより、信号の到来方向(方位角、仰角)が分かる。
【0060】
また、ガウス分布の特質として、4次キュムラントがゼロになる性質がある。X1(t)とX2(t)とを含む信号が非ガウス性である場合、この4次キュムラントがゼロにならない。逆に、この4次キュムラントを最大化するような、ユニタリ変換を求めれば、信号を分離するための分離行列を求めたことになる。以上が独立成分分析の説明である。
【0061】
比較処理部29は、通信信号処理部27で分離された複数の信号自体、算出された方位および仰角を、スペクトル、変調形式等のその他の特徴量とともにネットワーク4を介してデータサーバ装置3に送信する。また、比較処理部29は、通信信号処理部27で分離された複数の信号の特徴量と、データサーバ装置3に保存されている信号の特徴量とを比較し、信号を同定する。さらに、1回の分離処理で出力される信号セット間で相関の高いものを、同じ信号とみなしセット間で関連付ける。
【0062】
また、比較処理部29は、音声信号処理部28で分離された複数の音声信号自体、算出された方位および仰角を、スペクトル、変調形式等のその他の特徴量とともにネットワーク4を介してデータサーバ装置3に送信する。また、比較処理部29は、音声信号処理部28で分離された複数の音声信号の特徴量と、データサーバ装置3に保存されている音声信号の特徴量とを比較し、音声信号を同定する。さらに、1回の分離処理で出力される音声信号セット間で相関の高いものを、同じ音声信号とみなしセット間で関連付ける。
【0063】
そして、データサーバ装置3の記録処理部31は、通信信号処理部27で分離された複数の信号自体、および分離された複数の信号の特徴量等を、ネットワーク4を介して受信し、記録部32に記録する。また、記録処理部31は、音声信号処理部28で分離された複数の音声信号自体、および分離された複数の音声信号の特徴量等を、ネットワーク4を介して受信し、記録部32に記録する。
【0064】
なお、受信した電波または音波の到来方位、仰角を求める必要がない場合は、アンテナ群1に属する少なくとも1つのアンテナ部で受信された電波に基づき、信号処理装置2の通信信号処理部27で電波の輻輳分離を独立成分分析手法により行い、音波の場合には音声信号処理部28にて輻輳分離を独立成分分析手法により行う。比較処理部29は、通信信号処理部27または音声信号処理部28で分離された信号自体と、特徴量(スペクトル、変調形式等)とを、データサーバ装置3の記録部32保存されている信号特徴量と比較し、類似した信号を抽出するとともに、データサーバ装置3に送信する。そして、データサーバ装置3は、信号処理装置2から受信した信号やその特徴量を記録部32に保存する。
【0065】
このように本実施の形態によれば、アンテナ群1に属する互いに独立して移動可能な複数のアンテナ部1a,1b,…,1nで受信した電波に輻輳された複数の信号を独立成分分析の手法を用いて分離し、分離された複数の信号の各々についての各アンテナ部1a,1b,…,1nにおける位相差を算出し、航法衛星からの衛星信号を用いた各アンテナ部1a,1b,…,1nの測位結果により各アンテナ部1a,1b,…,1nの位置関係を算出し、この算出した位相差および位置関係を用いて、電波の到来方位および仰角を算出するので、特定の場所に設置しなくても、受信した電波の到来する方位および仰角を推定することができる。また、音波についても同様に、到来する方位および仰角を推定することができる。
【0066】
なお、上記実施形態は、あくまでも本発明の説明のためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。したがって、当業者であれば、これらの各要素または全要素を含んだ各種の実施形態を採用することが可能であるが、これらの実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施の形態に係るアレイアンテナシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すアレイアンテナシステムのアンテナ部の構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示すアレイアンテナシステムの信号処理装置およびデータサーバ装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0068】
1 アンテナ群
1a,1b,…,1n アンテナ部
2 信号処理装置
3 データサーバ装置
4 ネットワーク
10 アンテナ受信系
11 電源系
21 受信部
22 暗号復号部
23 航法衛星信号受信アンテナ
24 アンプ
25 航法衛星信号受信部
26 航法衛星信号処理部
27 通信信号処理部
28 音声信号処理部
29 比較処理部
31 記録処理部
32 記録部
101 通信電波受信アンテナ
102,106,109,112 アンプ
103 周波数変換部
104,107 A/D変換部
105 マイクロホン
108,111 航法衛星信号受信アンテナ
110,113 航法衛星信号受信部
114 暗号化部
115 送信部
121 発電部
122 バッテリ
123 電源安定化部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに独立して移動可能な複数のアンテナ部を有するアンテナ群と、このアンテナ群で受信した電波の到来方位および仰角を算出する信号処理装置とを備えるアレイアンテナシステムであって、
前記各アンテナ部は、
複数の信号が輻輳した電波を受信して受信信号を出力する通信電波受信アンテナと、
この通信電波受信アンテナからの受信信号をA/D変換してデジタル受信信号を生成するA/D変換部と、
この通信電波受信アンテナに設置され、航法衛星からの衛星信号を受信する航法衛星信号受信アンテナと、
この航法衛星信号受信アンテナで受信した前記衛星信号を用いて測位を行う航法衛星信号受信部と、
この航法衛星信号受信部による測位の結果として得られる測位結果情報を暗号化するとともに、前記A/D変換部で生成した前記デジタル受信信号を暗号化する暗号化部と、
この暗号化部で生成した暗号化された測位結果情報および暗号化されたデジタル受信信号を前記信号処理装置に送信する送信部と、
自アンテナ部を駆動するための電力を供給する電源部とを備え、
前記信号処理装置は、
前記各アンテナ部からそれぞれ送信される暗号化された測位結果情報および暗号化されたデジタル受信信号を受信する受信部と、
この受信部で受信した暗号化された測位結果情報および暗号化されたデジタル受信信号をそれぞれ復号する暗号復号部と、
この暗号復号部により復号された前記各アンテナ部からの測位結果情報を用いて前記各アンテナ部の位置関係を算出する航法衛星信号処理部と、
前記暗号復号部により復号された前記各アンテナ部からのデジタル受信信号に輻輳された複数の信号を分離するとともに、分離された前記複数の信号の各々についての前記各アンテナ部における位相差と、前記航法衛星信号処理部で算出した前記各アンテナ部の位置関係とを用いて、前記アンテナ群で受信した電波の到来方位および仰角を算出する通信信号処理部と
を備えることを特徴とするアレイアンテナシステム。
【請求項2】
前記通信信号処理部は、独立成分分析の手法を用いて、前記各アンテナ部からのデジタル受信信号に輻輳された複数の信号を分離するとともに、分離された前記複数の信号の各々についての前記各アンテナ部における位相差を算出することを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナシステム。
【請求項3】
互いに独立して移動可能な複数のアンテナ部を有するアンテナ群と、このアンテナ群で受信した電波および音波の到来方位および仰角を算出する信号処理装置とを備えるアレイアンテナシステムであって、
前記各アンテナ部は、
複数の信号が輻輳した電波を受信して受信信号を出力する通信電波受信アンテナと、
この通信電波受信アンテナに設置され、複数の音声信号が輻輳した音波を受信して音声受信信号を出力する音波受信部と、
前記通信電波受信アンテナからの受信信号をA/D変換してデジタル受信信号を生成する第1のA/D変換部と、
前記音波受信部からの音声受信信号をA/D変換してデジタル音声信号を生成する第2のA/D変換部と、
前記通信電波受信アンテナに設置され、航法衛星からの衛星信号を受信する航法衛星信号受信アンテナと、
この航法衛星信号受信アンテナで受信した前記衛星信号を用いて測位を行う航法衛星信号受信部と、
この航法衛星信号受信部による測位の結果として得られる測位結果情報、前記第1のA/D変換部で生成した前記デジタル受信信号、および前記第2のA/D変換部で生成したデジタル音声信号をそれぞれ暗号化する暗号化部と、
この暗号化部で生成した暗号化された測位結果情報、暗号化されたデジタル受信信号、および暗号化されたデジタル音声信号を前記信号処理装置に送信する送信部と、
自アンテナ部を駆動するための電力を供給する電源部とを備え、
前記信号処理装置は、
前記各アンテナ部から送信される暗号化された測位結果情報、暗号化されたデジタル受信信号、および暗号化されたデジタル音声信号を受信する受信部と、
この受信部で受信した暗号化された測位結果情報、暗号化されたデジタル受信信号、および暗号化されたデジタル音声信号をそれぞれ復号する暗号復号部と、
この暗号復号部により復号された前記各アンテナ部からの測位結果情報を用いて前記各アンテナ部の位置関係を算出する航法衛星信号処理部と、
前記暗号復号部により復号された前記各アンテナ部からのデジタル受信信号に輻輳された複数の信号を分離するとともに、分離された前記複数の信号の各々についての前記各アンテナ部における位相差と、前記航法衛星信号処理部で算出した前記各アンテナ部の位置関係とを用いて、前記アンテナ群で受信した電波の到来方位および仰角を算出する通信信号処理部と
前記暗号復号部により復号された前記各アンテナ部からのデジタル音声信号に輻輳された複数の音声信号を分離するとともに、分離された前記複数の音声信号の各々についての前記各アンテナ部における位相差と、前記航法衛星信号処理部で算出した前記各アンテナ部の位置関係とを用いて、前記アンテナ群で受信した音波の到来方位および仰角を算出する音声信号処理部と
を備えることを特徴とするアレイアンテナシステム。
【請求項4】
前記通信信号処理部は、独立成分分析の手法を用いて、前記各アンテナ部からのデジタル受信信号に輻輳された複数の信号を分離するとともに、分離された前記複数の信号の各々についての前記各アンテナ部における位相差を算出し、
前記音声信号処理部は、独立成分分析の手法を用いて、前記各アンテナ部からのデジタル音声信号に輻輳された複数の音声信号を分離するとともに、分離された前記複数の音声信号の各々についての前記各アンテナ部における位相差を算出することを特徴とする請求項3に記載のアレイアンテナシステム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−122247(P2008−122247A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306757(P2006−306757)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】