説明

アンカー

【課題】後付け工法に使用されているガイド構造を応用し、先付け工法の作業能率を改善する。
【解決手段】先付け工法用のアンカーにおいて、アンカー本体11の先端部に、ボルト端を雌ねじ部11bに向けてガイドするための先広がりでかつ径方向に拡縮変形可能なガイド部17を設けるとともに、ワッシャとして、バネ受けとしての第1のワッシャ13と、軸方向にスライド自在な第2のワッシャ18とを設け、この第2のワッシャ18によりガイド部17を外周から圧縮し縮小姿勢に保持した状態でデッキプレート21のアンカー取付穴22に挿通させ、挿通後に同ワッシャ18と止め具12との間にデッキプレート21を挟み込む構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート打ち込み前に捨て型枠となるデッキプレートに装着される所謂先付け工法に使用されるインサート式のアンカーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート壁(天井壁、側壁、床壁その他)に各種設備を取付けるために使用されるインサート式のアンカーとして、特許文献1に示されたものが公知である。
【0003】
これを図7〜図10によって説明する。
【0004】
このアンカーは、ヘッド1aを備えかつ先端側に雌ねじ部1bが設けられたアンカー本体1と、このアンカー本体1の先端部外周に嵌着固定された止め具2と、この止め具2よりも基端側でアンカー本体外周に軸方向にスライド自在に遊嵌されたワッシャ3と、このワッシャ3を止め具2に押し付ける圧縮コイルスプリング4とによって構成される。
【0005】
止め具2は、弾性材料(通常はプラスチック)にて先すぼまりの円錐台形に形成され、周壁に複数のすり割り2aが設けられることによって径方向に拡縮変形可能に形成されている。
【0006】
なお、アンカー本体1の先端部外周に凹溝5、止め具2の内周にリング状凸部6が設けられ、これらが係合することによってアンカー本体1に対する止め具2の嵌着固定力が強化されている。
【0007】
図8〜図10にこのアンカーの施工手順を示す。ここではコンクリート天井壁にアンカーを設置する場合を例示している。
【0008】
コンクリート打ち込みに先立って、捨て型枠としてのデッキプレート7(波形のものを例示するが、平板状の場合もある)が天井部分に設置される。
【0009】
デッキプレート7には、止め具2の小径部分よりは少し大径で大径部分よりは小径のアンカー取付穴8が設けられ、まず、図8,9に示すようにアンカーがこのアンカー取付穴8に上から挿入される。
【0010】
このとき止め具2が径方向に縮小しながらアンカー取付穴8を通過し、通過後に復原することにより、圧縮コイルスプリング4のバネ力でこの止め具2とワッシャ3との間にデッキプレート7を挟み込んだ状態でアンカー全体が同プレート7に固定される。
【0011】
この後、図10に示すようにデッキプレート7上にコンクリート9が打ち込まれて天井壁が構築され、この状態でアンカー本体1の雌ねじ部1bに、天井材等の各種設備を取付けるためのボルト10が下方からねじ込まれる。
【0012】
一方、後付け工法に使用されるアンカー、すなわち、コンクリート打設後にコンクリート壁に穴をあけて楔で止め付けるアンカーにおいて、高位置にある小さなアンカーに対するボルトのねじ込み作業(位置合わせ)を助ける手段として、特許文献2に示されているようにアンカー本体の先端部に先広がりのガイド部を設け、ボルト端をこのガイド部によって雌ねじ部に導く技術が公知である。
【特許文献1】特許公表2003−527503
【特許文献2】特開2002−303312
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが、特許文献2に示されたガイド構造は、アンカー本体の先端に先広がりのガイド部を設けるものであるため、これを特許文献1に示された先付け工法に応用しようとしても、ガイド部をデッキプレート7のアンカー取付穴8に挿通させることができない。
【0014】
この場合、ガイド部を、止め具2と同様に弾性材料にて拡縮変形自在に構成し、手でガイド部を縮小させてアンカー取付穴8に無理やり差し込むことは可能であるが、作業能率が非常に悪くなる。
【0015】
このため、先付け工法用のアンカーにおいては、ガイド構造は必要とされながらも採用されていないのが実情であり、この点の改善が求められていた。
【0016】
そこで本発明は、後付け工法に使用されているガイド構造を応用し、先付け工法の作業能率を改善することができるアンカーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1の発明は、ボルトがねじ込まれる雌ねじ部が設けられたヘッド付きのアンカー本体の外周に、先すぼまりでかつ径方向に弾性的に拡縮変形し得るように構成された止め具と、アンカー本体の軸方向にスライドし得るワッシャと、このワッシャを上記止め具に押し付ける圧縮コイルスプリングとを設け、上記止め具を、捨て型枠となるデッキプレートのアンカー取付穴に挿通させ、上記圧縮コイルスプリングのバネ力により、この止め具とワッシャとの間にデッキプレートを挟み込んだ状態でアンカー本体を同プレートに取付けるアンカーにおいて、上記アンカー本体における上記止め具よりも先端側にガイド部を設け、このガイド部は、ボルト端を上記アンカー本体の雌ねじ部に向けてガイドし得る先広がりの拡張姿勢と、上記アンカー取付穴を通過し得る縮小姿勢とに径方向に弾性的に拡縮変形可能に構成し、かつ、上記ワッシャとして、上記圧縮コイルスプリングの一端側を支持するバネ受けとしての第1のワッシャと、この第1のワッシャよりもアンカー先端側においてアンカー本体の軸方向に移動自在な第2のワッシャとを設け、上記ガイド部を上記アンカー取付穴に挿通させるに当たってこの第2のワッシャによりガイド部を外周から圧縮して上記縮小姿勢に保持するとともに、挿通後に同ワッシャと止め具との間にデッキプレートを挟み込むように構成したものである。
【0018】
請求項2の発明は、請求項1の構成において、止め具及びガイド部を、弾性材料により円錐台形に形成するとともに、周壁にすり割りを設けることによって弾性的に拡縮変形可能に構成し、この止め具及びガイド部を相対向する状態でアンカー本体に嵌着固定したものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、先付け工法用のアンカーにおいて、アンカー本体の先端に、先広がりでかつ径方向に拡縮変形可能なガイド部を設けるとともに、ワッシャとして、バネ受けとしての第1のワッシャと、軸方向にスライド自在な第2のワッシャとを設け、この第2のワッシャによりガイド部を外周から圧縮し縮小姿勢に保持した状態でデッキプレートのアンカー取付穴に挿通させ、挿通後に同ワッシャと止め具との間にデッキプレートを挟み込む構成としたから、先付け工法においても、ガイド部をアンカー取付穴に簡単に差し込むことができる。
【0020】
すなわち、先付け工法にガイド構造を無理なく応用し、ボルトねじ込み作業を容易化して作業能率を格段に向上させることができる。
【0021】
また、請求項2の発明によると、止め具及びガイド部をともに弾性材料によってすり割りつきの円錐台形に形成し、これを相対向する状態でアンカー本体に嵌着固定する構成をとっているため、後付け工法用のアンカーの製造設備と工程をそのまま利用してアンカーを低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施形態を図1〜図6によって説明する。
【0023】
実施形態では、背景技術の説明に合わせて、適用対象としてコンクリート天井壁に設置されるアンカーを例示している。このアンカーの基本的な部分は、図7〜図10に示す従来の先付け工法用アンカーと同じである。
【0024】
すなわち、ヘッド11aを備えかつ先端側に雌ねじ部11bが設けられたアンカー本体11の先端部外周に止め具12が嵌着固定されるとともに、この止め具12よりも基端側でアンカー本体外周に第1のワッシャ13が軸方向にスライド自在に遊嵌され、この第1のワッシャ13とヘッド11aとの間に圧縮コイルスプリング14が巻装されている。
【0025】
止め具12は、従来アンカーの止め具2と同様に、弾性材料(通常はプラスチック)にて先すぼまりの円錐台形に形成され、周壁に複数のすり割り12aが設けられることによって径方向に拡縮変形可能に形成されている。
【0026】
また、アンカー本体11に対する止め具12の嵌着固定力を強化するために、アンカー本体11の先端部外周に凹溝15、止め具12の内周に凹溝15に係合するリング状凸部16が設けられている点も従来アンカーと同じである(図2参照)。
【0027】
このアンカーにおいては、新規な構成として、アンカー本体11における止め具12よりも先端側に、ガイド部17と第2のワッシャ18とが設けられている。
【0028】
ガイド部17は、止め具12と同様に、プラスチック等の弾性材料にて先すぼまりの円錐台形でかつ周壁に複数のすり割り17aを備えた形状に形成され、図1〜図3及び図5,6に示す先広がりの拡張姿勢と、図4に示す縮小姿勢とに径方向に弾性的に拡縮変形し得るように構成されている。
【0029】
このガイド部17は、止め具12と相対向する状態でアンカー本体先端部に嵌着固定されている。
【0030】
このガイド部17の固定力を強化する構造として、止め具12と同様に、アンカー本体11の外周に凹溝19、ガイド部17の内周にリング状凸部20(図2参照)がそれぞれ設けられている。
【0031】
なお、図3〜図6において、図の複雑化を避けるために凹溝15,19と凸部16,20の符号の表示を省略している。
【0032】
第2のワッシャ18は、このガイド部17の外周にアンカー本体軸方向に移動自在に嵌合され、手で同ワッシャ18を先端側に移動(下降)させるとガイド部17が外周側から圧縮されて縮小姿勢となり、かつ、この縮小姿勢に保持されるようになっている。
【0033】
この縮小姿勢でガイド部17の先端外径寸法が、デッキプレート21に設けられたアンカー取付穴22の径寸法以下となる。いいかえれば、このような状態となるようにガイド部17、第2のワッシャ18、アンカー取付穴22の寸法関係が設定されている。
【0034】
図3〜図6にこのアンカーの施工手順を示す。
【0035】
アンカーをデッキプレート21のアンカー取付穴22に挿通させるに当たって、図3に示すように第2のワッシャ18を下降移動させてガイド部17を縮小させ、かつ、この姿勢に保持する。
【0036】
この状態でガイド部17の先端外径寸法がアンカー取付穴22の径寸法以下となるため、図4に示すようにガイド部17の先端部をアンカー取付穴22に簡単に差し込むことができる。
【0037】
次いで、アンカー全体をさらに押し込んでガイド部17をアンカー取付穴22に挿通させると、ガイド部17が復原力によってデッキプレート21の下面側で拡張する。
【0038】
このとき、第2のワッシャ18は、アンカー取付穴22に対するガイド部17の通過に伴いデッキプレート21に押されて上昇移動し、さらに止め具12を縮小させながら上昇して止め具12の上方に位置する(図5参照)。
【0039】
この状態で、圧縮コイルスプリング14のバネ力が第1のワッシャ13を介して第2のワッシャ18に作用し、このバネ力により第2のワッシャ18と止め具12との間にデッキプレート21を弾性的に挟み込む状態となる。
【0040】
これによりアンカー全体がデッキプレート21に固定され、この状態で図6に示すように同プレート21上にコンクリート23が打ち込まれて天井壁が構築された後、アンカー本体11の雌ねじ部11bに、天井材等の各種設備を取付けるためのボルト24が下方からねじ込まれる。
【0041】
このとき、ボルト端がガイド部17により雌ねじ部11bに向かってガイドされるため、ボルト24が、多少の位置ずれや傾斜に関係なく雌ねじ部11bに簡単、迅速にねじ込まれる。
【0042】
このように、このアンカーによると、先付け工法にガイド構造を無理なく応用し、ボルトねじ込み作業を容易化して作業能率を格段に向上させることができる。
【0043】
また、この実施形態では、止め具12及びガイド部17をともに弾性材料によってすり割りつきの円錐台形に形成し、これを相対向する状態でアンカー本体11に嵌着固定する構成をとっているため、後付け工法用のアンカーの製造設備と工程をそのまま利用してアンカーを低コストで製造することができる。
【0044】
ところで、ガイド部17を備えたこのアンカーの場合、ガイド部17を持たない従来のアンカーと比較して、基本的には、図示のようにアンカー本体11の先端側をガイド部17の取付けに要する分だけ延長させればよい。いいかえれば、ガイド部17におけるアンカー本体11への嵌着固定部分の長さは、この嵌着固定に要する寸法だけでよい。
【0045】
但し、第1及び第2両ワッシャ13,18の間隔が広い方が第2のワッシャ18の下降操作がやり易い面もあるため、アンカー本体11の先端側及びガイド部17の嵌着固定部分を、嵌着固定に必要な寸法以上に長く設定して操作空間を確保するようにしてもよい。
【0046】
また、止め具12とガイド部17は、基本的に同じ弾性材料でよいため、これらを一体化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態にかかるアンカーの斜視図である。
【図2】同アンカーの断面図である。
【図3】同アンカーの施工手順の1を示す断面図である。
【図4】同施工手順の2を示す断面図である。
【図5】同施工手順の3を示す断面図である。
【図6】同施工手順の4を示す断面図である。
【図7】従来の先付け工法に使用されるアンカーの斜視図である。
【図8】同アンカーの施工手順の1を示す断面図である。
【図9】同施工手順の2を示す断面図である。
【図10】同施工手順の3を示す断面図である。
【符号の説明】
【0048】
11 アンカー本体
11a アンカー本体のヘッド
11b 同雌ねじ部
12 止め具
12a 止め具のすり割り
13 第1のワッシャ
14 圧縮コイルスプリング
17 ガイド部
17a ガイド部のすり割り
18 第2のワッシャ
21 デッキプレート
22 デッキプレートのアンカー取付穴
23 コンクリート
24 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトがねじ込まれる雌ねじ部が設けられたヘッド付きのアンカー本体の外周に、先すぼまりでかつ径方向に弾性的に拡縮変形し得るように構成された止め具と、アンカー本体の軸方向にスライドし得るワッシャと、このワッシャを上記止め具に押し付ける圧縮コイルスプリングとを設け、上記止め具を、捨て型枠となるデッキプレートのアンカー取付穴に挿通させ、上記圧縮コイルスプリングのバネ力により、この止め具とワッシャとの間にデッキプレートを挟み込んだ状態でアンカー本体を同プレートに取付けるアンカーにおいて、上記アンカー本体における上記止め具よりも先端側にガイド部を設け、このガイド部は、ボルト端を上記アンカー本体の雌ねじ部に向けてガイドし得る先広がりの拡張姿勢と、上記アンカー取付穴を通過し得る縮小姿勢とに径方向に弾性的に拡縮変形可能に構成し、かつ、上記ワッシャとして、上記圧縮コイルスプリングの一端側を支持するバネ受けとしての第1のワッシャと、この第1のワッシャよりもアンカー先端側においてアンカー本体の軸方向に移動自在な第2のワッシャとを設け、上記ガイド部を上記アンカー取付穴に挿通させるに当たってこの第2のワッシャによりガイド部を外周から圧縮して上記縮小姿勢に保持するとともに、挿通後に同ワッシャと止め具との間にデッキプレートを挟み込むように構成したことを特徴とするアンカー。
【請求項2】
止め具及びガイド部を、弾性材料により円錐台形に形成するとともに、周壁にすり割りを設けることによって弾性的に拡縮変形可能に構成し、この止め具及びガイド部を相対向する状態でアンカー本体に嵌着固定したことを特徴とする請求項1記載のアンカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−50772(P2008−50772A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225469(P2006−225469)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000230021)日本プロジェクト株式会社 (7)
【Fターム(参考)】