説明

アンダカット部を有する成形品の製造方法及び中間成形体

【課題】軸方向に沿った両端部に第1据え込み成形部と第2据え込み成形部とが形成される共に、前記第1据え込み成形部と第2据え込み成形部との間にアンダカット部を有する成形品を得ることにある。
【解決手段】パンチ90の第1成形部92によって環状側壁部20を半径外方向に塑性変形させる第1の据え込み成形が施されることにより、一端部側に第1据え込み成形部26aが形成され、続いて、前記パンチ90が中実部22に当接して前記中実部22が加圧されて割型68が下降しながら該中実部22が半径外方向に塑性変形する第2の据え込み成形が施され、前記塑性変形した肉が前記割型68の第2成形部82内に流れ込んで充填されることにより、軸方向の他端部側に第2据え込み成形部26bが形成されると共に、前記割型68のアンダカット成形部80によって前記第1据え込み成形部26aと前記第2据え込み成形部26bとの間にアンダカット部が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間成形体に対して鍛造成形を施すことによって、軸方向に沿った両端部に第1据え込み成形部と第2据え込み成形部とが形成され、前記第1据え込み成形部と第2据え込み成形部との間にアンダカット部が設けられた成形品を得ることが可能なアンダカット部を有する成形品の製造方法及び中間成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アンダカット部を有する部材を鍛造成形によって製造することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、周方向へ複数に分割され、軸方向の一方の端部に形成されている当接面並びにアンダカット部の形状に対応して径方向内側へ突出する環状突出部を有し、被成形部材を径方向外側から支持する下型と、前記当接面と当接可能な座面を有し、前記下型の径方向外側に前記当接面の側から軸方向に嵌め込まれ、前記下型を径方向外側から内側へと締め付けることが可能な上型とが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、割型ノックアウトピンとノックアウトピンとを有する可動板と、割型の可動方向に対して所定角度で各割型を案内するガイド手段とを備え、割型の開放と成形品の突き出しとを同時に一動作で行うことにより、離型に要する時間を短縮して作業効率の向上を図る金型装置が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、中心に貫通孔を有する円筒形状からなり、軸方向に沿った両端部に外方向に突出する環状フランジ部がそれぞれ形成され、一方又は他方の環状フランジ部の外周に歯部が成形された歯付成形品が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−346683号公報
【特許文献2】特開平9−239740号公報
【特許文献3】特開平6−114486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1〜3に開示された技術的思想では、例えば、一つの鍛造成形(据え込み成形)工程によって、単一の据え込み成形部を膨出形成することができるのみであり、一つの据え込み成形工程によって、軸方向に沿った両端部に第1据え込み成形部と第2据え込み成形部とを略同時に形成すると共に、前記第1据え込み成形部と第2据え込み成形部との間にアンダカット部を設けた成形品を得ることが困難である。
【0008】
また、同軸状に配置された第1の可動パンチと第2の可動パンチとを用い、前記第1の可動パンチと前記第2の可動パンチとの間に挟持された被成形体をそれぞれ近接する軸方向に加圧して、第1据え込み成形部及び第2据え込み成形部をそれぞれ軸方向に沿った両端部に膨出形成することが考えられる。
【0009】
しかしながら、この場合、前記第1の可動パンチと前記第2の可動パンチとをそれぞれ駆動させる2つの駆動機構が必要となり、しかも、前記第1の可動パンチと前記第2の可動パンチのそれぞれの加圧力を制御して第1据え込み部と第2据え込み成形部とに分配される肉流れ量を調整しなければならないという問題がある。
【0010】
本発明は、前記の問題等を鑑みてなされたものであり、分配される肉流れ量の調整が不要な簡便な単一の鍛造成形工程によって、軸方向に沿った両端部に第1据え込み成形部と第2据え込み成形部とが形成される共に、前記第1据え込み成形部と第2据え込み成形部との間にアンダカット部を有する成形品を得ることが可能なアンダカット部を有する成形品の製造方法及び中間成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は以下の工程を経て製造される。
【0012】
先ず、パンチによって加圧されることにより、被成形体の軸方向の一端部側に第1据え込み成形部を形成すると共に、前記被成形体の軸方向の他端部側に第2据え込み成形部を形成し、且つ、前記第1据え込み成形部と前記第2据え込み成形部との間にアンダカット部が形成されたアンダカット成形品を得るために、円柱状のビレットを加圧して後方押し出し成形を施すことにより、軸方向と平行に所定長だけ延在する円筒状の環状側壁部と前記環状側壁部に連続する円柱状の中実部とからなる中間成形体を形成する。
【0013】
次に、前記中間成形体を被成形体とし、付勢手段によって変位可能に付勢された複数の割型と固定金型とによって形成されたキャビティ内に前記被成形体を装填する。
【0014】
続いて、パンチを下降させ、前記被成形体を囲繞する割型が下降しながら前記パンチの第1成形部によって前記被成形体の環状側壁部を半径外方向に塑性変形する第1の据え込み成形が施されることにより、前記被成形体の軸方向の一端部側に第1据え込み成形部が形成される。
【0015】
続いて、パンチをさらに下降させ、前記パンチが被成形体の中実部に当接して前記中実部が加圧されて前記被成形体を囲繞する割型が下降しながら該中実部が半径外方向に塑性変形する第2の据え込み成形が施される。前記第2の据え込み成形によって、前記塑性変形した肉が前記割型の第2成形部内に流れ込んで充填されることにより、被成形体の軸方向の他端部側に第2据え込み成形部が形成されると共に、前記割型のアンダカット成形部によって前記第1据え込み成形部と前記第2据え込み成形部との間にアンダカット部が形成される。
【0016】
このように、本発明によれば、付勢手段によって付勢された割型を用いて浮動可能な状態に配置し、単一のパンチによって被成形体を軸方向に加圧して第1と第2の据え込み成形を遂行するという簡便な方法によって、軸方向に沿った両端部側に第1据え込み成形部と第2据え込み成形部とがそれぞれ略同時に形成されると共に、前記第1据え込み成形部と前記第2据え込み成形部との間にアンダカット部が形成された成形体が得られる。
【0017】
なお、第1据え込み成形部と第2据え込み成形部との間の肉流れの分配は、被成形体の環状側壁部と中実部との境界部位に当接する割型のアンダカット部によってなされる。
【発明の効果】
【0018】
単一のパンチによって被成形体を軸方向に加圧する簡便な方法によって、軸方向に沿った両端部に第1据え込み成形部と第2据え込み成形部とが形成される共に、前記第1据え込み成形部と第2据え込み成形部との間にアンダカット部を有する成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係るアンダカット部を有する成形品の製造方法及び中間成形体について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0020】
本発明の実施の形態に係るアンダカット部を有する成形品の製造方法が適用されたトランスミッションギア10の製造工程を図1A〜図1Eに示す。
【0021】
このトランスミッションギア10は、以下の複数の鍛造成形工程を経て製造される。なお、図1A〜図1Dに示される複数の工程は、温間又は熱間鍛造成形によって遂行されると好適である。
【0022】
先ず、図1Aに示される円柱体12からなるビレットの底面に位置決め用の凹部14が形成された予備成形体16(図1B参照)を成形する予備工程を経た後、図示しない第1鍛造成形装置を用いて前記予備成形体16に対して後方押し出し成形を行い、第1次成形体(被成形体)18が得られる(図1C参照)。
【0023】
この第1次成形体18の軸方向に沿った一端側には、後方押し出し成形により軸方向と平行に所定長だけ伸長された薄肉円筒状の環状側壁部20が形成され、軸方向の他端側には、前記環状側壁部20に連続し予備成形体16と同様な円柱状の中実部22が形成されている。
【0024】
続いて、この第1次成形体18を被成形体とし後述する本実施の形態に係るアンダカット部を有する成形品の製造方法を実施する第2鍛造成形装置を用いて前記第1次成形体18に対して据え込み成形を施すことにより、図1Dに示されるような第2次成形体(成形品)24が得られる。
【0025】
この第2次成形体24には、軸方向に沿った両端部側に半径外方向に向かって所定長だけ拡径された第1据え込み成形部26aと第2据え込み成形部26bとがそれぞれ形成され、前記第1据え込み成形部26aと第2据え込み成形部26bとの間には、半径内方向に所定長だけ環状に窪んだアンダカット部28が設けられる。この場合、一端側の第1据え込み成形部26aの側周壁30の外径が他端側の第2据え込み成形部26bの側周壁32の外径よりも大きく形成される。
【0026】
前記アンダカット部28は、第1据え込み成形部26aの側周壁30に連続する断面曲線状の角部R部34を経て、軸方向と略直交する水平方向に沿って延在する略平坦な第1環状壁面36と、前記第1環状壁面36に対して所定角度だけ傾斜し第2据え込み成形部26bに向かって徐々に縮径するテーパ部38と、前記テーパ部38に連続し軸方向と略平行に延在する第2環状壁面40と、前記第2環状壁面40に連続し軸方向と略直交する水平方向に沿って延在する略平坦な第3環状壁面42とによって構成される。
【0027】
なお、前記第3環状壁面42から角部R部44を経て第2据え込み成形部26bの側周壁32に連続するように設けられる。
【0028】
続いて、図示しない第3鍛造成形装置により前記第2次成形体24の中実部46を打ち抜くピアス成形が施された後、機械加工によって第1据え込み成形部26a及び第2据え込み成形部26bの側周壁30、32に対して第1ギア部48及び第2ギア部50がそれぞれ形成されて製品としてのトランスミッションギア10(図1E参照)が得られる。
【0029】
次に、本実施の形態に係るアンダカット部を有する成形品の製造方法を実施する第2鍛造成形装置60を図3〜図7に示す。
【0030】
この第2鍛造成形装置60は、図1Cに示される第1次成形体18を被成形体として、据え込み成形を行うものである。
【0031】
前記第2鍛造成形装置60は、ダイベース62と、図示しないアクチュエータの駆動作用下に前記ダイベース62の中心を貫通する貫通孔を通じて上下方向に沿って変位自在に設けられたノックアウトピン64と、前記ダイベース62上に保持され前記ノックアウトピン64の先端部に連結されて該ノックアウトピン64と共に昇降自在に設けられた下型66と、前記下型66の側方に近接配置され周方向に沿って略均等に4分割されて被成形体を囲繞すると共に、型開き時に成形体から離間可能に設けられた割型68(図4及び図5参照)とを含む。
【0032】
さらに前記第2鍛造成形装置60は、型開きしたときに4分割された各割型68を径方向外側上方へと案内するテーパ状の第1環状案内面70a及び第2環状案内面70bが内壁に形成されたガイド型部材72と、前記ガイド型部材72を支持する支持台74と、前記ガイド型部材72の下方側に設けられ、該ガイド型部材72を介して4分割された各割型68をフローティング可能に支持する付勢手段として機能するばね部材76と、ガイド型部材72の外周面を囲繞する円筒状に設けられ、前記ガイド型部材72の環状凸部72aに当接して該ガイド型部材72の上昇を阻止する環状段部78aが内壁に形成された側方型部材78とを有する。
【0033】
この場合、前記割型68は、ガイド型部材72の下方側に設けられたばね部材76等の付勢手段によって上下方向に沿って変位可能に設けられ、図2Aに示されるように、前記割型68に対して何ら荷重が付与されていない状態において、該割型68の上面が一点鎖線Hと一致する位置を初期位置となるように設定される。なお、前記付勢手段は、弾性力を発揮するコイルスプリング、板ばね等のばね部材に限定されるものではなく、例えば、ガススプリング等の緩衝機構又は圧力流体(油、エア)等を用いてもよい。
【0034】
また、前記割型68の下型66に近接する内壁には、半径内方向(略水平方向)に突出して第1次成形体18の環状側壁部20と中実部22との境界部位に当接する環状突起部からなるアンダカット成形部80と、前記アンダカット成形部80から連続する下方側に形成された環状凹部からなり、第1次成形体18の中実部22を半径外方向に向かって塑性変形させて第2据え込み成形部26bを形成するための第2成形部82とが設けられる。
【0035】
前記アンダカット成形部80は、図10に示されるように、断面円弧状からなる曲線部81aと、前記曲線部81aに連続し被成形体に当接する当接部81bと、前記当接部81bの下部側に形成され略水平方向に沿って延在する水平部81cとによって構成される。前記曲線部81aと前記当接部81bとの間には、後述するように第1据え込み成形部26aと第2据え込み成形部26bとに肉流れを分配する分配点Aが設けられる。なお、図11の変形例に示されるように、上面を平坦面81dにしてその面取り部位に前記分配点Aが設けられたアンダカット成形部80aを構成してもよい。
【0036】
図10に示されるように、前記アンダカット成形部80の下部側には前記第2成形部82が設けられ、前記第2成形部82は、前記水平部81cによる水平面と前記水平面に直交する鉛直面83aと前記鉛直面83aに対して所定角度傾斜する傾斜面83bとによって構成される。
【0037】
さらに、前記割型68の外径側の側壁には、図3に示されるように、前記ガイド型部材72の第1環状案内面70a及び第2環状案内面70bにそれぞれ対応するテーパ面からなり、前記第1環状案内面70a及び第2環状案内面70bにそれぞれ係合する第1環状傾斜面84a及び第2環状傾斜面84bが形成される。
【0038】
さらにまた、第2鍛造成形装置60は、図示しないラムの駆動作用下に鉛直上下方向に沿って昇降自在に設けられた昇降部材86と、前記昇降部材86に固定されたパンチホルダ88と、前記パンチホルダ88を介して昇降部材86と一体的に昇降自在に設けられたパンチ90とを備える。前記パンチ90の先端部には、第1次成形体18の環状側壁部20を塑性変形させて第1据え込み成形部26aを形成するための第1成形部92が設けられる。
【0039】
前記パンチ90には、鍛造成形するときに割型68の上面に当接して前記第1据え込み成形部26aの外径を規制する円筒状のスリーブ部材94が外嵌され、前記スリーブ部材94は、昇降部材86に固定された保持部材96によってパンチ90の軸線方向に沿って変位可能に設けられる。
【0040】
この場合、スリーブ部材94の上端部外径面に形成された環状凸部94aが保持部材96の下端部内径面に形成された環状凸部96aと当接することにより、パンチ90に対する前記スリーブ部材94の抜け止めがなされる。また、前記スリーブ部材94の内壁には環状凹部98が形成され、前記環状凹部98の底面99に対してパンチホルダ88の下端部88aが当接することにより(図6参照)、パンチ90の下降動作が規制されて下死点に到達する。
【0041】
本実施の形態に係るアンダカット部を有する成形品の製造方法を実施する第2鍛造成形装置60は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、第1次成形体18に対する据え込み成形工程について、図2A〜図2Fに基づいて以下詳細に説明する。
【0042】
先ず、図1Cに示される第1次成形体18を下型66及び4分割された割型68によって形成されたキャビティ内に装填する。そこで、図示しない昇降手段を付勢して昇降部材86と一体的にパンチ90を下降させ、図2Aに示されるように、パンチ90の先端面に形成された第1成形部92を第1次成形体18の環状側壁部20と係合させる(図3参照)。
【0043】
この場合、割型68のアンダカット成形部80が第1次成形体18の外表面である環状側壁部20と中実部22との境界部位に当接した状態にあり、該割型68は、下方側に向かって変位することがなく、ばね部材76等の付勢手段によって初期位置に付勢されている。
【0044】
続いて、図2B及び図2Cに示されるように、パンチ90がさらに下型66に向かって下降すると、パンチ90の第1成形部92によって第1次成形体18の環状側壁部20がアンダカット成形部80を起点として斜め方向に拡径する第1の据え込み成形が開始され、前記アンダカット成形部80が当接する部位を起点(分配点A)として第1据え込み成形部26aと第2据え込み成形部26bとの肉流れがそれぞれ配分される。
【0045】
この場合、第1次成形体18の環状側壁部20がパンチ90の第1成形部92の形状に対応して塑性変形する第1の据え込み成形が施されることにより、一端部側の第1据え込み成形部26aが形成される。なお、前記割型68は、図2B及び図2Cに示されるように、パンチ90の加圧力による第1据え込み成形部26aの変形量(変形程度)と、前記パンチ90の加圧力により僅かに第2成形部82に向かって拡径が開始された中実部22との成形力のバランスに対応して徐々に下降した状態となる。
【0046】
続いて、図2D及び図2Eに示されるように、パンチ90が下型66に向かってさらに下降し、パンチ90の先端部が第1次成形体18の中実部22に当接して押圧することにより、前記中実部22が加圧されて該中実部22が半径外方向に塑性変形する第2の据え込み成形が施される。
【0047】
すなわち、パンチ90の先端部が第1次成形体18の中実部22を下方側に向かって加圧することにより、下型66によって保持された第1次成形体18の中実部22を前記加圧方向とは反対の上方側に向かって押圧しようとする反力が発生し、この反力の作用下に隣接する割型68の環状凹部からなる第2成形部82側に向かって塑性変形した肉の膨出が促進される(図2D及び図2E参照)。
【0048】
なお、前記塑性変形した肉が割型68の第2成形部82内の隅々まで円滑に流入して充填されるためには、図12に示されるように、被成形体を構成する環状側壁部20と中実部22との境界に形成された面の鉛直方向に沿った高さH1がアンダカット成形部80の水平部81cの鉛直方向に沿った高さH2よりも大きく設定されているか、あるいは少なくとも同等の高さに設定されていることが成形条件となる(H1≧H2)。前記鉛直方向に沿った高さH1、H2は、それぞれ、任意に設定される下方側の共通基準面を基準とした鉛直方向の高さをいう。また、図12は、塑性変形を開始しようとする肉が割型68の第2成形部82内に向かって流動する直前の状態を示したものである。
【0049】
次に、図2Fに示されるように、パンチ90が下型66に向かってさらに下降して第1次成形体18の中実部22に対する第2の据え込み成形によって、塑性変形した肉が割型68の環状凹部である第2成形部82内に流れ込んで隅々まで充填されることにより、他端部側の第2据え込み成形部26bが形成される(図6参照)。
【0050】
この結果、図1Dに示されるように、軸方向に沿った両端部側に半径外方向に向かって所定長だけ拡径された第1据え込み成形部26aと第2据え込み成形部26bとがそれぞれ形成され、前記第1据え込み成形部26aと第2据え込み成形部26bとの間にアンダカット部28を有する第2次成形体24が得られる。
【0051】
この場合、割型68は、第1の据え込み成形力と第2の据え込み成形力とがバランスした所定位置に保持される。すなわち、ばね部材76等の付勢手段によって浮動状態に保持された割型68は、パンチ90の加圧力によって環状側壁部20を塑性変形させる第1据え込み成形部26aと中実部22を僅かに拡径させる第2据え込み成形部26bとのそれぞれ変形量に対応して徐々に下降した後、前記環状側壁部20を塑性変形させる第1の据え込み成形力と中実部22を塑性変形させる第2の据え込み成形力とがバランスすることにより、所定位置に保持される(図2F参照)。
【0052】
なお、この割型68のバランス位置とは、例えば、パンチ90の待機位置、パンチ90の加圧力等の鍛造成形条件によって予め設定され、成形完了直前にパンチホルダ88の下端部88aがスリーブ部材94の内壁に形成された環状凹部98の底面99に当接することによりパンチ90が下死点に到達して成形品の素材寸法が確保されることにより、最終的な割型68のバランス位置が設定される。
【0053】
続いて、図示しない押圧手段を介して4分割された各割型68を上方に向かって押圧することにより、割型68の外径側の側壁に形成された第1環状傾斜面84a及び第2環状傾斜面84bがガイド型部材72に形成された第1環状案内面70a及び第2環状案内面70bに沿って案内される。従って、各割型68が径方向外側の上方に向かって移動することにより、割型68のアンダカット成形部80及び第2成形部82が成形品から離間して型開きが完成する。
【0054】
換言すると、据え込み成形時においては、ガイド型部材72の内壁下側に形成された第1環状案内面70aと割型68の側壁上側に形成された第2環状傾斜面84bのみが係合した状態にあるが、割型68を径方向外側の上方に向かって移動させることにより、ガイド型部材72の第1環状案内面70a及び第2環状案内面70bと、割型68の第1環状傾斜面84a及び第2環状傾斜面84bとがそれぞれ係合した型開き状態となる(図7参照)。
【0055】
さらに、図示しないアクチュエータの駆動作用下にノックアウトピン64を下型66と一体的に上昇させることにより、割型68の中心部から上昇した成形体を図示しない把持手段によって把持することにより、次工程に移送される。
【0056】
このように本実施の形態では、ばね部材76等からなる付勢手段によって付勢された割型68を用いて変位可能な状態に配置し、単一のパンチ90によって被成形体(第1次成形体18)を軸方向に加圧して第1と第2の据え込み成形を遂行するという単一の据え込み成形工程によって、軸方向に沿った両端部側に第1据え込み成形部26aと第2据え込み成形部26bとがそれぞれ略同時に形成されると共に、前記第1据え込み成形部26aと前記第2据え込み成形部26bとの間にアンダカット部28が形成された成形体(第2次成形体24)が得られる。
【0057】
この場合、第1据え込み成形部26aと第2据え込み成形部26bとの間の肉流れの分配は、被成形体の環状側壁部20と中実部22との境界部位に当接する割型68のアンダカット成形部80の分配点A(図10及び図11参照)によってなされる。
【0058】
なお、本実施の形態では、割型68を型開きする際、ガイド型部材72の第1環状案内面70a及び第2環状案内面70bと、割型68の第1環状傾斜面84a及び第2環状傾斜面84bとをそれぞれ係合させることにより、割型68を径方向外側の上方に向かって移動させているが、他の方法によって割型を拡径させるように設けてもよい。
【0059】
例えば、図8及び図9に示されるように、図示しない連結手段を介してパンチ90と一体的に昇降するリング部材100を用い、据え込み成形時において分割された割型102を前記リング部材100で中心に向かって締め付けて緊締すると共に、型開きする際、パンチ90と一体的に前記リング部材100を上昇させた後、割型102をばね部材104によって引張することにより該割型102を半径外方向に移動させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1A〜図1Eは、本発明の実施の形態に係るアンダカット部を有する成形品の製造方法が適用されたトランスミッションギアの製造工程を示す縦断面図である。
【図2】図2A〜図2Fは、本発明の実施の形態に係るアンダカット部を有する成形品の製造方法が適用された被成形体に対する第1と第2の据え込み成形工程を示す縦断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るアンダカット部を有する成形品の製造方法を実施する第2鍛造成形装置の軸線方向に沿った縦断面構造図である。
【図4】前記鍛造成形装置を構成し、周方向に沿って4分割された割型が閉じた状態を示す平面図である。
【図5】前記割型が型開きした状態を示す平面図である。
【図6】パンチが加工して被成形体が塑性変形して第1据え込み成形部と第2据え込み成形部とを有する第2次成形体が形成された状態を示す縦断面図である。
【図7】前記割型が型開きして成形品が上昇した状態を示す縦断面図である。
【図8】変形例に係る割型を示す縦断面図である。
【図9】図8に示す割型が型開きした状態を示す縦断面図である。
【図10】図3に示される前記鍛造成形装置を構成する割型において、第1据え込み成形部と第2据え込み成形部との間の肉流れの分配点を示すアンダカット成形部の部分拡大縦断面図である。
【図11】図10のアンダカット成形部の変形例を示す部分拡大縦断面図である。
【図12】割型の第2成形部に対する肉の充填条件を示す部分拡大縦断面図である。
【符号の説明】
【0061】
10…トランスミッションギア 12…円柱体
16…予備成形体 18…第一次成形体
20…環状側壁部 22…中実部
24…第2次成形体 26a…第1据え込み成形部
26b…第2据え込み成形部 28…アンダカット部
60…第2鍛造成形装置 64…ノックアウトピン
66…下型 68、102…割型
70a、70b…環状案内面 72…ガイド型部材
74…支持台 76、104…ばね部材
78…側方型部材 80、80a…アンダカット成形部
82…第2成形部 84a、84b…環状傾斜面
90…パンチ 92…第1成形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向と平行に所定長だけ延在する円筒状の環状側壁部と前記環状側壁部に連続する中実部とからなる中間成形体を被成形体とし、付勢手段によって変位可能に付勢された複数の割型と固定金型とによって形成されたキャビティ内に前記被成形体を装填する工程と、
パンチを下降させ、前記被成形体を囲繞する割型が下降しながら前記パンチの第1成形部によって前記被成形体の環状側壁部を半径外方向に塑性変形する第1の据え込み成形が施されることにより、前記被成形体の軸方向の一端部側に第1据え込み成形部を形成する工程と、
パンチをさらに下降させ、前記パンチが被成形体の中実部に当接して前記中実部が加圧されて前記被成形体を囲繞する割型が下降しながら該中実部が半径外方向に塑性変形する第2の据え込み成形が施され、前記塑性変形した肉が前記割型の第2成形部内に流れ込んで充填されることにより、被成形体の軸方向の他端部側に第2据え込み成形部が形成されると共に、前記割型のアンダカット成形部によって前記第1据え込み成形部と前記第2据え込み成形部との間にアンダカット部が形成される工程と、
を有することを特徴とするアンダカット部を有する成形品の製造方法。
【請求項2】
パンチによって加圧されることにより、被成形体の軸方向の一端部側に第1据え込み成形部を形成すると共に、前記被成形体の軸方向の他端部側に第2据え込み成形部を形成し、且つ、前記第1据え込み成形部と前記第2据え込み成形部との間にアンダカット部が形成されたアンダカット成形品において、
前記被成形体は、軸方向と平行に所定長だけ延在する円筒状の環状側壁部と前記環状側壁部に連続する円柱状の中実部とからなることを特徴とする中間成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−105794(P2007−105794A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252862(P2006−252862)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】