説明

アンテナ装置及び通信装置

【課題】装置の大型化を招いたり複雑な制御を行うことなく、アンテナ特性を容易に制御することができるアンテナ装置及び通信装置を提供する。
【解決手段】ループ導体100,200の導体要素100A〜100D,200A〜200Dに伸縮部120A〜120D,220A〜220Dを設け、ナット部133a〜133d,233a〜233dを用いて伸縮部120A〜120D,220A〜220Dを操作することで、導体要素100A〜100D,200A〜200Dの長さを自在に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のループ導体を電磁波を放射する方向に沿って複数配列したアンテナ装置及びこれを備えた通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通信装置に用いられるアンテナの特性を制御する方法が提唱されている。例えばアンテナの指向方向を制御する方式としては、複数のアンテナ素子を使用してその給電位相を制御する方式や、アンテナを可動式としてアンテナの向き自体を制御する方式が採用されている。また指向性の幅を制御する方式として、放射器と反射器との相対位置を調整する方式が採用されている。
【0003】
上記指向幅の制御方式を採用する従来技術としては、例えば特許文献1に記載のものがある。この従来技術のアンテナは、反射器及び放射器と、放射器を反射器の中心軸に沿って変位可能に支持する支持部材とを有しており、放射器と反射器との相対位置を調整することによりアンテナの指向幅を調整可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−236426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した指向方向を制御する方式のうち、前者の方式では、多数のアンテナ素子が必要となるため装置の大型化を招くと共に制御が複雑化してしまい、また後者の方式では、アンテナを台座ごと可動させる必要があるため設備が大掛かりとなるという問題があった。また上述した指向幅の制御方式では、簡易な構成で指向幅を調整することはできるが、指向方向を調整するためにはアンテナを可動式とするしかなく、大掛かりな設備が必要になるという問題があった。このように、従来技術のアンテナでは、装置の大型化や制御の複雑化を伴わずに指向方向及び指向幅の両方のアンテナ特性を制御することができなかった。
【0006】
本発明の目的は、装置の大型化を招いたり複雑な制御を行うことなく、アンテナ特性を容易に制御することができるアンテナ装置及び通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1発明のアンテナ装置は、導体要素を備えた複数のループ導体を、電磁波を放射する方向に沿ってアンテナ筐体内に複数配列したアンテナ装置であって、前記複数のループ導体のそれぞれは、前記電磁波放射方向の前方側へ向かって、順次ループ面積が小さくなるように構成されており、前記複数のループ導体のうち1つのループ導体は、少なくとも1つの給電部を備え、前記複数のループ導体のうち少なくとも1つのループ導体は、少なくとも1つの前記導体要素が、当該導体要素の軸方向寸法を増減可能な伸縮部を備え、前記アンテナ筐体の外部より前記伸縮部を操作可能な操作部を設けたことを特徴とする。
【0008】
本願第1発明のアンテナ装置においては、給電部を備えた1つのループ導体を含む複数のループ導体をアンテナ筐体内に配列することで、いわゆる八木アンテナと同等の機能を実現する。すなわち、一方側(電磁波放射方向後方側)に位置するループ導体が反射器、他方側(電磁波放射方向前方側)に位置するループ導体が放射器として機能し、反射器側から放射器側へ向かう方向に電磁波を放射することができる。
【0009】
このとき、電磁波放射方向前方側のループ導体ほどループ面積が小さくなっていることから、電磁波放射方向後方側のループ導体と電磁波放射方向前方側のループ導体との位置関係によって電磁波の放射態様を変化可能な構造となる。そして、本願第1発明においては、実際に電磁波の放射態様を制御するために、少なくとも1つのループ導体の導体要素に伸縮部を設け、操作部を用いて伸縮部を操作することで導体要素の長さを自在に変化させることができる。
【0010】
これにより、電磁波放射方向前方側のループ導体のループ面積と電磁波放射方向後方側のループ導体のループ面積との、相対的な大きさ比率を調整したり、電磁波放射方向前方側のループ導体のループ中心位置と、電磁波放射方向後方側のループ導体のループ中心位置との、相対的な位置関係を調整することが可能となる。
【0011】
すなわち、電磁波放射方向前方側のループ導体のループ面積を相対的に小さくし、電磁波放射方向後方側のループ導体のループ面積を相対的に大きくすることで、電磁波を放射するときの指向性の幅を狭くすることができる。逆に電磁波放射方向前方側のループ導体のループ面積を相対的に大きくし、電磁波放射方向後方側のループ導体のループ面積を相対的に小さくすることで、電磁波を放射するときの指向性の幅を広くすることができる。
【0012】
また、前記電磁波放射方向からの平面視における電磁波放射方向前方側のループ導体のループ中心位置を、電磁波放射方向後方側のループ導体のループ中心位置と一致させず、ずらすことができる。これにより、電磁波放射方向前方側のループ導体のループ中心位置をずらした方向に、放射される電磁波の指向方向を制御することができる。
【0013】
以上のようにして、本願第1発明によれば、操作部を用いてループ導体に設けた伸縮部を伸縮させるという簡易な手法により、放射する電磁波の指向性の幅や指向方向を制御する。これにより、位相制御による手法やアンテナ可動構造とする場合のように装置の大型化を招いたり複雑な制御が必要となることなく、アンテナ特性を容易に制御することができる。
【0014】
第2発明のアンテナ装置は、上記第1発明において、前記電磁波放射方向後方側の前記ループ導体の伸縮操作を、前記電磁波放射方向前方側の前記ループ導体の伸縮操作に応じて制限する伸縮操作制限手段を有することを特徴とする。
【0015】
本願第2発明においては、伸縮操作制限手段により、電磁波放射方向後方側のループ導体が電磁波放射方向前方側のループ導体よりも小さくならないようにその伸縮操作を制限することが可能となる。これにより、アンテナ装置における後方側のループ導体の大きさを常に前方側のループ導体よりも大きな状態とすることができるので、アンテナ装置の電磁波の出力を安定させることができる。また伸縮制限手段により、電磁波放射方向前方側のループ導体の伸縮動作と反対の伸縮動作を電磁波放射方向後方側のループ導体が連動して行うように、その伸縮操作を制限することが可能となる。これにより、例えば操作者が前方側のループ導体のループ面積を相対的に小さくしようとした場合、前方側のループ導体を小さくするように操作部を操作すれば後方側のループ導体が連動して大きくなるため、後方側のループ導体の操作部を操作することなく手早く所望のアンテナ特性に調整することができる。したがって、操作者の操作労力を低減することができる。
【0016】
第3発明のアンテナ装置は、上記第2発明において、前記伸縮操作制限手段は、前記電磁波放射方向前方側の前記ループ導体に設けられ、前記電磁波放射方向後方側の前記ループ導体のループの内側を挿通して前記電磁波放射方向後方側に延在する係止部材であることを特徴とする。
【0017】
本願第3発明においては、電磁波放射方向後方側のループ導体の大きさを調整する際に電磁波放射方向前方側のループ導体より小さくしようとすると、当該ループの内側に挿通された係止部材がループの内側に接触してループ導体の伸縮動作を係止する。これにより、後方側のループ導体が前方側のループ導体よりも小さくならないように、その伸縮操作を確実に制限することができる。
【0018】
第4発明のアンテナ装置は、上記第2発明において、前記伸縮操作制限手段は、前記電磁波放射方向前方側の前記ループ導体の伸縮動作と反対の伸縮動作を前記電磁波放射方向後方側の前記ループ導体が連動して行うように、前記電磁波放射方向前方側の前記操作部の操作を前記電磁波放射方向後方側の前記操作部に伝達する歯車機構であることを特徴とする。
【0019】
本願第4発明においては、回転操作式の操作部を用いた場合に、歯車機構により、電磁波放射方向前方側の操作部の回転方向を電磁波放射方向後方側の操作部に反対の回転方向として伝達することができる。これにより、前方側のループ導体の伸縮動作と反対の伸縮動作を後方側のループ導体に確実に連動して行わせることができる。
【0020】
第5発明のアンテナ装置は、上記第1乃至第4発明のいずれかにおいて、前記複数のループ導体は、前記電磁波放射方向からの平面視において、前記電磁波放射方向の前方側に位置する前記ループ導体が、前記電磁波放射方向の後方側に位置する前記ループ導体の径方向内側に位置するように、配列されていることを特徴とする。
【0021】
これにより、電磁波放射方向の前方側に位置するループ導体から放射され、電磁波放射方向の後方側に位置するループ導体で反射して出力される電磁波のメインローブの方向を、概ね、電磁波放射方向前方側、すなわちアンテナ正面側とすることができる。
【0022】
第6発明のアンテナ装置は、上記第1乃至第5発明のいずれかにおいて、前記複数のループ導体は、互いのループ面同士が略平行となるように配置されていることを特徴とする。
【0023】
これにより、電磁波放射方向の前方側に位置するループ導体から放射され、電磁波放射方向の後方側に位置するループ導体で反射して出力される電磁波のメインローブの方向を、概ね、各ループ導体のループ中心位置どうしの位置関係のみによって容易に制御することができる。
【0024】
第7発明のアンテナ装置は、上記第1乃至第6発明のいずれかにおいて、前記複数のループ導体のそれぞれは、互いに相似なループ形状を備えていることを特徴とする。
【0025】
これにより、電磁波放射方向の前方側に位置するループ導体から放射され、電磁波放射方向の後方側に位置するループ導体で反射して出力される電磁波の指向性範囲の形状を、メインローブの軸線を軸中心とする概ね軸対称の滑らかな形状とすることができる。
【0026】
第8発明のアンテナ装置は、上記第7発明において、前記複数のループ導体のそれぞれは、略四角形又は略円形の前記ループ形状を備えていることを特徴とする。
【0027】
これにより、伸縮部によるアンテナ特性の調整が容易になる。
【0028】
第9発明のアンテナ装置は、上記第1乃至第8発明のいずれかにおいて、前記給電部を複数設ける場合には、全ての前記給電部を同一のループ導体に設けることを特徴とする。
【0029】
これにより、複数の給電部を切り替えて使用する場合に、異なった給電部同士でアンテナ特性を一致させることができる。その結果、給電部を切り替えるごとに伸縮部の調整を行わなくても、同様のアンテナ特性を得ることができる。
【0030】
第10発明のアンテナ装置は、上記第1乃至第9発明のいずれかにおいて、前記複数のループ導体はいずれも前記伸縮部を備えていることを特徴とする。
【0031】
これにより、例えば電磁波放射方向後方側のループ導体のループ面積を調整して指向性の幅を調整しつつ、電磁波放射方向前方側のループ導体のループ中心位置をずらして指向方向を調整するといったように、複数のアンテナ特性について一度に調整することができる。また、複数のループ導体を変形可能とすることでアンテナ特性のきめ細かな調整が可能となる。さらに、単独のループ導体のみ変形させて調整を行うとインピーダンスの不整合を生じアンテナ特性を損ねるおそれがあるが、このような場合にも他方のループ導体を調整してインピーダンスの不整合を是正することが可能である。
【0032】
上記目的を達成するために、第11発明の通信装置は、アンテナ装置と通信装置本体とを有する通信装置であって、前記アンテナ装置は、アンテナ筐体と、前記アンテナ筐体内に電磁波を放射する方向に沿って複数配列され、前記電磁波放射方向の前方側へ向かって順次ループ面積が小さくなるように構成された、導体要素を備えた複数のループ導体と、前記複数のループ導体のうちの1つのループ導体に設けられた少なくとも1つの給電部と、前記複数のループ導体のうちの少なくとも1つのループ導体の前記導体要素に設けられ、当該導体要素の軸方向寸法を増減可能な伸縮部と、前記アンテナ筐体の外部より前記伸縮部を操作可能な操作部とを備え、前記通信装置本体は、前記アンテナ装置における前記導体要素の軸方向寸法を前記操作部を用いて調整するための調整手段を備えることを特徴とする。
【0033】
本願第8発明の通信装置は、アンテナ装置と通信装置本体とを有する。アンテナ装置は、給電部を備えた1つのループ導体を含む複数のループ導体をアンテナ筐体内に配列することで、いわゆる八木アンテナと同等の機能を実現する。すなわち、一方側(電磁波放射方向後方側)に位置するループ導体が反射放射器、他方側(電磁波放射方向前方側)に位置するループ導体が放射導波器として機能し、反射放射器側から放射導波器側へ向かう方向に電磁波を放射することができる。
【0034】
このとき、電磁波放射方向前方側のループ導体ほどループ面積が小さくなっていることから、電磁波放射方向後方側のループ導体と電磁波放射方向前方側のループ導体との位置関係によって電磁波の放射態様を変化可能な構造となる。そして、本願第8発明においては、実際に電磁波の放射態様を制御するために、少なくとも1つのループ導体の導体要素に伸縮部を設け、通信装置本体が備える調整手段の調整によって操作部を用いて伸縮部を操作することで、導体要素の長さを自在に調整することができる。
【0035】
これにより、電磁波放射方向前方側のループ導体のループ面積と電磁波放射方向後方側のループ導体のループ面積との、相対的な大きさ比率を調整したり、電磁波放射方向前方側のループ導体のループ中心位置と、電磁波放射方向後方側のループ導体のループ中心位置との、相対的な位置関係を調整することが可能となる。
【0036】
すなわち、電磁波放射方向前方側のループ導体のループ面積を相対的に小さくし、電磁波放射方向後方側のループ導体のループ面積を相対的に大きくすることで、電磁波を放射するときの指向性の幅を狭くすることができる。逆に電磁波放射方向前方側のループ導体のループ面積を相対的に大きくし、電磁波放射方向後方側のループ導体のループ面積を相対的に小さくすることで、電磁波を放射するときの指向性の幅を広くすることができる。
【0037】
また、前記電磁波放射方向からの平面視における電磁波放射方向前方側のループ導体のループ中心位置を、電磁波放射方向後方側のループ導体のループ中心位置と一致させず、ずらすことができる。これにより、電磁波放射方向前方側のループ導体のループ中心位置をずらした方向に、放射される電磁波の指向方向を制御することができる。
【0038】
以上のようにして、本願第11発明によれば、操作部を調整するための調整手段を用いてループ導体に設けた伸縮部を伸縮させるという簡易な手法により、放射する電磁波の指向性の幅や指向方向を制御する。これにより、位相制御による手法やアンテナ可動構造とする場合のように装置の大型化を招いたり複雑な制御が必要となることなく、アンテナ特性を容易に制御することができる。
【0039】
第12発明の通信装置は、上記第11発明において、前記調整手段は、前記アンテナ装置での電力反射状態を検出する検出手段と、前記検出手段による検出結果に係わる情報を報知する報知手段とを備えることを特徴とする。
【0040】
一般に、変形可能なループ導体を有するアンテナ装置において、ループ導体を変形させてアンテナ特性の調整を行うとインピーダンスの不整合を生じアンテナ特性を損ねるおそれがある。
【0041】
そこで本願第12発明の通信装置においては、検出手段でアンテナ装置での電力反射状態を検出し、当該検出結果に係わる情報を報知する。これにより、操作者は報知内容を参照しつつ、所定の電力反射状態となるように操作部を操作して導体要素の軸方向寸法を調整することで、インピーダンスの不整合を是正することが可能となる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、装置の大型化を招いたり複雑な制御を行うことなく、アンテナ特性を容易に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施形態のアンテナ装置の筐体を透視した全体構造を概念的に表す斜視図及び正面図である。
【図2】アンテナ装置を有する通信装置の機能構成を表すブロック図である。
【図3】アンテナ装置の詳細構造を筐体を透視して表す斜視図である。
【図4】ナット部の構造を表す一部断面図である。
【図5】指向性の幅を制御する際に行うループ導体の変形の一例を表す図である。
【図6】放射される電磁波の指向方向を制御する際に行うループ導体の変形の一例を表す図である。
【図7】共振周波数を制御する際に行うループ導体の変形の一例を表す図である。
【図8】ループ導体の2つの給電部による偏波面のなす角度を制御する際に行うループ導体の変形の一例を表す図である。
【図9】通信装置本体の制御回路によって行われる制御内容を表すフローチャートである。
【図10】伸縮部の構造の変形例を表す図である。
【図11】ループ導体の伸縮操作を制限する係止部材を設ける変形例のアンテナ装置の詳細構造を筐体を透視して表す斜視図である。
【図12】ループ導体の伸縮操作を制限する歯車機構を設ける変形例のアンテナ装置の詳細構造を筐体を透視して表す斜視図である。
【図13】歯車機構の歯車構成を表す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0045】
図1は、本実施形態のアンテナ装置1の筐体2を透視した全体構造を概念的に表す図であり、図1(a)は斜視図、図1(b)は前方側から見た正面図である。なお、本明細書の説明において前、後、左、右、上、下というときは、図1及び図3等の各図中に示す電磁波を放射する方向を基準とする各方向を指すものとする。
【0046】
図1(a)及び図1(b)において、アンテナ装置1は、筐体2(アンテナ筐体)と、この筐体2内に配列された2つのループ導体100,200とを有しており、いわゆる八木アンテナと同等の機能を実現する。すなわち、後方側に位置するループ導体200が反射器、前方側に位置するループ導体100が放射器として機能し、反射器側であるループ導体200から放射器側であるループ導体100へ向かう方向に電磁波を放射する。
【0047】
ループ導体100,200は、前方側へ向かって順次ループ面積が小さくなるように構成されており、且つ、図1(b)に示すように、前方側からの平面視において、前方側に位置するループ導体100が、後方側に位置するループ導体200の径方向内側に位置するように配置されている。またループ導体100,200は、互いのループ面同士が略平行となるように配置されている。また各ループ導体100,200は、4つの導体要素100A〜100D及び200A〜200Dがそれぞれ略四角形のループ形状に配列された構成となっており、ループ導体100,200は互いに相似なループ形状となっている。なお、上記のループ面とは、各ループ導体100,200の導体要素100A〜100D及び200A〜200Dの軸心線を結ぶ四角形のなす平面のことである。
【0048】
ループ導体100の上側の導体要素100Aには第1給電部110Aが設けられ、右側の導体要素100Bには第2給電部110Bが設けられている。またループ導体100の各導体要素100A〜100Dには、各導体要素の軸方向寸法を増減可能な伸縮部120A〜120Dがそれぞれ設けられている。ループ導体200についても同様に、各導体要素200A〜200Dには、各導体要素の軸方向寸法を増減可能な伸縮部220A〜220Dがそれぞれ設けられている。これらの伸縮部によって、ループ導体100,200はそれぞれ変形してループ長やループ面積等を変更可能な構成となっている。なお、ここでいうループ長とはループ導体100,200を構成する各導体要素100A〜100D及び200A〜200Dの軸心線の長さの和であり、ループ面積とは各導体要素100A〜100D及び200A〜200Dの軸心線を結ぶ四角形のなす平面の面積である。また、伸縮部の詳細構造については後述する。
【0049】
変形を行っていない状態では、ループ導体100のループ長はおよそ通信に係る1波長分の長さ寸法となっており、第1給電部110A及び第2給電部110Bはそれぞれ導体要素100A,100Bの長手方向略中央位置に位置する。したがって変形を行っていない状態では、第1給電部110Aと第2給電部110Bとは互いに1/4波長分ずれた位置に配置されることで、直交した2偏波を実現することができる。
【0050】
図2は、上述したアンテナ装置1を有する通信装置20の機能構成を表すブロック図である。なお、アンテナ装置1におけるループ導体200の図示は省略する。
【0051】
図2に示すように、通信装置20は、アンテナ装置1と、通信装置本体10とを有している。前述したように、アンテナ装置1の2つの給電部である第1給電部110A及び第2給電部110Bは、共に同一のループ導体100に設けられている。第1給電部110Aには第1給電線41が接続され、第2給電部110Bには第2給電線42が接続されている。これら第1給電線41及び第2給電線42は、内部導体及び外部導体が同軸に構成された同軸ケーブルであり、スイッチSWにより選択的に通信装置本体10と接続される。すなわち、スイッチSWが第1給電線41側に切り替わると、通信装置本体10の高周波回路11の送受分離器12とループ導体100の第1給電部110Aとが第1給電線41を経由して接続され、ループ導体100は第1偏波アンテナとして機能する。一方、スイッチSWが第2給電線42側に切り替わると、通信装置本体10の送受分離器12とループ導体100の第2給電部110Bとが第2給電線42を経由して接続され、ループ導体100は第2偏波アンテナとして機能する。スイッチSWは後述する制御回路13により切替制御される。
【0052】
ループ導体100を変形していない状態では、上述したように給電部110A,110Bが互いに1/4波長分ずれた位置となるため、ループ導体100は給電部110A,110Bにより互いに直交する偏波面を有する電磁波を放射するアンテナとして機能する。
【0053】
通信装置本体10は、上記送受分離器12を有する高周波回路11と、この高周波回路11に対し各種コマンドを出力し、アンテナ装置1を介した通信制御を行う制御回路13とを有している。また通信装置本体10は、方向性結合器14と、送信電力検出部15及び反射電力検出部16と、報知部17(報知手段)とを有している。なお、報知部17としては例えば液晶表示部等が用いられる。
【0054】
上記方向性結合器14、送信電力検出部15、反射電力検出部16、及び報知部17は、アンテナ装置1における導体要素の軸方向寸法を調整するためのものである。すなわち、方向性結合器14は、高周波回路11とスイッチSWとの間の伝送線路上に設けられており、高周波回路11からアンテナ装置1へ伝搬する送信電力の一部を取り出すとともに、アンテナ装置1から高周波回路11へ伝搬する反射電力の一部を取り出す。送信電力検出部15は、上記方向性結合器14により取り出された送信電力を検出し、その検出結果を制御回路13に出力する。同様に反射電力検出部16は、方向性結合器14により取り出された反射電力を検出し、その検出結果を制御回路13に出力する。
【0055】
制御回路13は、送信電力検出部15及び反射電力検出部16から入力された検出結果に基づき、アンテナ装置1のループ導体100,200のループ面積を変更した際に生じるインピーダンスの不整合を検出する。そして制御回路13は、その検出結果に係わる情報を操作者に対し報知部17で報知する。これにより、操作者は報知部17による報知内容を参照しつつ、所定の電力反射状態となるように後述するナット部133a〜133d等を操作してループ導体100,200の導体要素100A〜100D,200A〜200Dの軸方向寸法を調整することで、インピーダンスの不整合を是正することができるようになっている。具体的には、報知部17は、送信電力の一部のレベルに対する反射電力の一部のレベルの相対比が予め設定された値以下となるまではインピーダンスの不整合が生じている旨の報知を行い、相対比が設定値以下となったら当該報知を停止する。
【0056】
図3は、アンテナ装置1の詳細構造を筐体2を透視して表す斜視図である。なお、この図3では煩雑防止のためループ導体200の図示を省略している。
【0057】
図3に示すように、ループ導体100は、導体要素100A〜100Dが略四角形のループ形状に配列されて構成されている。このループ導体100の第1給電部110A及び第2給電部110Bでは、導体要素100A,100Bがそれぞれ分断されている。第1給電部110Aでは、第1給電線41の内部導体及び外部導体が導体要素100Aの導体端部111a,112aにそれぞれ接続される。同様に第2給電部110Bでは、第2給電線42の内部導体及び外部導体が導体要素100Bの導体端部111b,112bにそれぞれ接続される。なお、第1給電部110A及び第2給電部110Bに給電線41,42が接続されると、図3中破線で示すように、導体端部111a,112a間及び導体端部111b,112b間がそれぞれ一定間隔でかつ両導体同士で軸を同じくするように固定された状態となる。
【0058】
また、前述したようにループ導体100の各導体要素100A〜100Dには、各導体要素の軸方向寸法を増減可能な伸縮部120A〜120Dがそれぞれ設けられている。次にこの伸縮部の構造について説明する。なお、ここでは導体要素100Aの伸縮部120Aについて説明するが、他の導体要素100B〜100Dの伸縮部120B〜120Dについても同様の構造となっている。
【0059】
伸縮部120Aは、導体要素100Aの第1給電部110Aと異なる位置、図3に示す例では第1給電部110Aの左側に設けられている。この伸縮部120Aは、分断された導体要素100Aの一方側の端部121aに設けられた芯部122aが他方側の端部123aに設けた穴部124aに対し摺動可能に挿入された構造となっている。このような構造により、伸縮部120Aにおいて芯部122aが穴部124a内を摺動しつつ、導体要素100Aの軸方向寸法が増減可能な構成となっている。
【0060】
またループ導体100の各導体要素100A〜100Dは、非導電性の材料で構成された支持部材130A〜130Dにより筐体2に対しそれぞれ支持されている。次にこの支持部材の構造について説明する。なお、ここでは導体要素100Aを支持する支持部材130Aについて説明するが、他の導体要素100B〜100Dを支持する支持部材130B〜130Dについても同様の構造となっている。
【0061】
支持部材130Aは、導体要素100Aを把持する把持部131aと、この把持部131aを下端に固定したボルト部132aと、このボルト部132aの上側に形成されたネジと螺合するナット部133aとを有している。ナット部133aの外周面の下方側には溝dが形成されている。図4に示すように、ナット部133aは、溝dに筐体2の上面2Aに設けられた開口21aの縁が嵌合した状態で開口21aに挿通されている。これにより、ナット部133aは開口21a内において左右方向に移動可能となっており、その結果、支持部材130Aは左右方向に移動可能に導体要素100Aを支持している。またナット部133aの溝dより上側は筐体上面2Aの上方に露出しており、操作者は当該露出部Nを摘んでナット部133aをボルト部132a回りに回転させることができる。これにより、伸縮部120B,120Dを伸縮させて、ボルト部132a及び把持部131aを導体要素100Aと共に筐体上面2Aに対して進退させることができる。このように、操作者が導体要素100A〜100Dを支持する各支持部材130A〜130Dのナット部133a〜133d(操作部)について回転操作することにより、筐体2の外部より伸縮部120A〜120Dを操作することができ、ループ導体100のループ面積等を手動で調整することが可能となっている。
【0062】
例えばループ導体100の左右方向の大きさを増減させる場合には、導体要素100B,100Dを支持する支持部材130B,130Dのうち少なくとも一方について、そのナット部133b,133dをボルト部132b,132d回りに回転させ、導体要素100B,100Dを筐体右面2B及び左面2Dに対して進退させる。このとき、導体要素100A,100Cが伸縮部120A,120Cにより伸縮し、上記導体要素100B,100Dの筐体2B,2Dに対する進退を許容する。また導体要素100A,100Cを支持する支持部材130A,130Cは、上記導体要素100A,100Cの伸縮に応じて開口21a,21c内を左右方向に移動しつつ、当該導体要素100A,100Cを支持する。これにより、ループ導体100の左右方向の大きさを増減させることができる。
【0063】
また、ループ導体100の上下方向の大きさを増減させる場合には、導体要素100A,100Cを支持する支持部材130A,130Cのうち少なくとも一方について、そのナット部133a,133cをボルト部132a,132c回りに回転させ、導体要素100A,100Cを筐体上面2A及び下面2Cに対して進退させる。このとき、導体要素100B,100Dが伸縮部120B,120Dにより伸縮し、上記導体要素100A,100Cの筐体2A,2Cに対する進退を許容する。また導体要素100B,100Dを支持する支持部材130B,130Dは、上記導体要素100B,100Dの伸縮に応じて開口21b,21d内を上下方向に移動しつつ、当該導体要素100B,100Dを支持する。これにより、ループ導体100の上下方向の大きさを増減させることができる。
【0064】
なお、以上では説明を省略したが、ループ導体200の伸縮部及び支持部材もループ導体100と同様の構造となっており、上述と同様にナット部233a〜233d(図示省略)を操作することで、ループ導体200についてもそのループ面積等を調整することができる。また操作者は、前述した報知部17の報知内容を参照しつつ各ナット部の操作を行うことにより、ループ導体100,200を変形した際に生じるインピーダンスの不整合を是正することができる。
【0065】
次に、アンテナ特性を制御する際に行うループ導体の変形の態様について説明する。図5は、指向性の幅を制御する際に行うループ導体の変形の一例を表す図である。
【0066】
図5中矢印アで示すように、ループ導体100,200のループ中心位置を一致させた状態で、後方側のループ導体200の面積が大きくなるように変形することにより、電磁波を放射するときの指向性の幅を狭くすることができる。なおこのとき、ループ導体200を大きくするのではなく、前方側のループ導体100の面積を小さくしてもよい。この場合には共振周波数も変化するが、これについては後述する。このようにして、後方側のループ導体200のループ面積に対する前方側のループ導体100のループ面積を相対的に小さくすることで、電磁波を放射するときの指向性の幅を狭くすることができる。
【0067】
一方、図5中矢印イで示すように、ループ導体100,200のループ中心位置を一致させた状態で、後方側のループ導体200の面積が小さくなるように変形することにより、電磁波を放射するときの指向性の幅を広くすることができる。なおこのとき、ループ導体200を小さくするのではなく、前方側のループ導体100の面積を大きくしてもよい。この場合には共振周波数も変化するが、これについては後述する。このようにして、後方側のループ導体200のループ面積に対する前方側のループ導体100のループ面積を相対的に大きくすることで、電磁波を放射するときの指向性の幅を広くすることができる。
【0068】
図6は、放射される電磁波の指向方向を制御する際に行うループ導体の変形の一例を表す図である。
【0069】
図6に示す例では、矢印ウで示すように、ループ導体100のループ中心位置をループ導体200の中心位置から右下方向にずらしている。このようなループ導体100の変形は、導体要素100A,100Dについては筐体2の上面2A及び左面2Dより遠ざかるように移動させ、導体要素100B,100Cについては筐体2の右面2B及び左面2Cに近づけるように移動させることで実現できる。これにより、放射される電磁波の指向方向をループ導体100のループ中心位置をずらした方向である右下方向に制御することができる。なおこのとき、ループ導体100のループ中心位置をずらすのではなく、後方側のループ導体200のループ中心位置をずらすようにしてもよい。例えば後方側のループ導体200のループ中心位置を左上にずらすことにより、上記と同様に放射される電磁波の指向方向を右下方向に制御することができる。右下以外の方向についても同様である。
【0070】
このようにして、ループ導体100のループ中心位置とループ導体200のループ中心位置との相対的な位置関係を調整することにより、放射される電磁波の指向方向を所望の方向に制御することができる。
【0071】
図7は、共振周波数を制御する際に行うループ導体の変形の一例を表す図である。
【0072】
本実施形態のアンテナ装置1は、給電部110A,110Bを有するループ導体100のループ長と略等しい波長を有する周波数で共振する。したがって、図7中矢印エで示すように、ループ導体100,200のループ中心位置を一致させた状態で、ループ導体100のループ長が長くなるように変形することにより、共振周波数を低くすることができる。また図7中矢印オで示すように、ループ導体100のループ長が短くなるように変形することにより、共振周波数を高くすることができる。
【0073】
図8は、ループ導体100の給電部110A,110Bによる偏波面のなす角度を制御する際に行うループ導体の変形の一例を表す図であり、図8(a)は偏波角度を大きくする場合、図8(b)は偏波角度を小さくする場合を示している。
【0074】
図8(a)中矢印カに示すように、ループ導体100の導体要素100A,100Cの長さを伸縮部120A,120Cにより共に短くし、矢印キに示すように、導体要素100B,100Dの長さを伸縮部120B,120Dにより共に長くし、短くした分の長さと長くした分の長さを一致させることにより、ループ導体100のループ長を変更せずに第1給電部110Aと第2給電部110Bとの間隔を大きくすることができる。このようにして、給電部110A,110Bの間隔を1/4波長〜1/2波長の間で調整することにより、ループ導体100の給電部110A,110Bにより放射される電磁波の偏波のなす角度を90度〜およそ180度の間で調整することができる。
【0075】
一方、図8(b)中矢印クに示すように、ループ導体100の導体要素100B,100Dの長さを伸縮部120B,120Dにより共に短くし、矢印ケに示すように、導体要素100A,00Cの長さを伸縮部120A,120Cにより共に長くし、短くした分の長さと長くした分の長さを一致させることにより、ループ導体100のループ長を変更せずに第1給電部110Aと第2給電部110Bとの間隔を小さくすることができる。このようにして、給電部110A,110Bの間隔を0〜1/4波長の間で調整することにより、ループ導体100の給電部110A,110Bにより放射される電磁波の偏波のなす角度をおよそ0度〜90度の間で調整することができる。
【0076】
なお、前述したようにループ導体100の変形を行っていない状態では、給電部110A,110Bが互いに1/4波長分ずれた位置となるため、ループ導体100の給電部110A,110Bにより放射される電磁波の偏波のなす角度は90度となる。
【0077】
また、上記図8(a)及び図8(b)では、ループ導体100の変形に合わせ、ループ導体100が径方向内側に位置し且つ相似形となるように、ループ導体200についても適宜変形を行っている。
【0078】
図9は、通信装置本体10の制御回路13によって行われる制御内容を表すフローチャートである。
【0079】
ステップS10では、制御回路13は、通信を開始するか否かを判定する。この判定は、操作者により通信開始指示入力がなされたか否かによって行われる。通信開始指示入力がなされるまでステップS10を繰り返し、通信開始指示入力がなされると判定が満たされてステップS20に移る。
【0080】
ステップS20では、制御回路13は、操作者により所定の入力手段を用いてアンテナ形状を変更した旨の入力がなされたか否かを判定する。アンテナ形状を変更した旨の入力がなされた場合には、判定が満たされてステップS30に移る。一方、アンテナ形状を変更した旨の入力がなされなかった場合には、判定が満たされずに後述するステップS60に移る。
【0081】
なお、上記ステップS20を行わずに常にインピーダンスの不整合検出を行うようにしてもよい。この場合、制御回路13は、送信電力検出部15及び反射電力検出部16より送信電力と反射電力の値を常時取得し、当該取得結果に基づき不整合検出を行う。
【0082】
ステップS30では、制御回路13は、報知部17に制御信号を出力し、上記ステップS20で検出したインピーダンスの不整合に係わる情報を報知する。この報知内容としては、単にインピーダンスの不整合の有無のみを表す情報でもよいし、インピーダンスの不整合を解消するために必要なループ導体の変形量を操作者に対し具体的に指示する情報であってもよい。
【0083】
ステップS40では、制御回路13は、送信電力検出部15及び反射電力検出部16による検出結果に基づき、インピーダンスの不整合が解消したか否かを判定する。この判定は、前述したように送信電力の一部のレベルに対する反射電力の一部のレベルの相対比が予め設定された値以下となったか否かにより行われる。インピーダンスの不整合が解消していない場合には、判定が満たされずに上記ステップS30に戻る。一方、インピーダンスの不整合が解消した場合には、判定が満たされてステップS50に移る。
【0084】
ステップS50では、制御回路13は、上記ステップS30で開始したインピーダンスの不整合に係わる情報の報知を停止する。あるいは、インピーダンスの不整合が解消した旨を報知する。
【0085】
ステップS60では、制御回路13は、スイッチSWを第1給電線41側及び第2給電線42側のいずれかに切り替えるとともに、高周波回路11に制御信号を出力し、送受分離器12よりアンテナ装置1のループ導体100の第1給電部110A及び第2給電部110Bのいずれかに電力を出力する。これによりアンテナ装置1を介した通信が開始される。
【0086】
ステップS70では、制御回路13は、通信を終了するか否かを判定する。この判定は、操作者により通信終了指示入力がなされたか否かによって行われる。通信終了指示入力がなされていない場合には、判定が満たされずに先のステップS20に戻る。一方、通信終了指示入力がなされた場合には、判定が満たされて本フローを終了する。
【0087】
以上において、反射電力検出部16が特許請求の範囲に記載の検出手段を構成し、この反射電力検出部16と、方向性結合器14、送信電力検出部15、及び報知部17とが調整手段を構成する。
【0088】
以上説明した本実施形態のアンテナ装置1においては、前方側のループ導体100の方が後方側のループ導体200よりもループ面積が小さくなっていることから、後方側のループ導体200と前方側のループ導体100との位置関係によって電磁波の放射態様を変化可能な構造となる。そして、本実施形態においては、電磁波の放射態様を制御するために、ループ導体100,200の導体要素100A〜100D,200A〜200Dに伸縮部120A〜120D,220A〜220Dを設け、ナット部133a〜133d,233a〜233dを用いて伸縮部120A〜120D,220A〜220Dを操作することで導体要素100A〜100D,200A〜200Dの長さを自在に変化させることができる。
【0089】
これにより、前方側のループ導体100のループ面積と後方側のループ導体200のループ面積との、相対的な大きさ比率を調整したり、前方側のループ導体100のループ中心位置と、後方側のループ導体200のループ中心位置との、相対的な位置関係を調整することができる。
【0090】
すなわち、前方側のループ導体100のループ面積を相対的に大きくし、後方側のループ導体200のループ面積を相対的に小さくすることで、電磁波を放射するときの指向性の幅を広くすることができる。逆に前方側100のループ導体のループ面積を相対的に小さくし、後方側のループ導体200のループ面積を相対的に大きくすることで、電磁波を放射するときの指向性の幅を狭くすることができる。
【0091】
また、電磁波放射方向からの平面視における前方側のループ導体100のループ中心位置を、後方側のループ導体200のループ中心位置と一致させず、ずらすことができる。これにより、前方側のループ導体100のループ中心位置をずらした方向に、放射される電磁波の指向方向を制御することができる。
【0092】
以上のようにして、本実施形態によれば、ナット部133a〜133d,233a〜233dを用いてループ導体100,200に設けた伸縮部120A〜120D,220A〜220Dを伸縮させるという簡易な手法により、放射する電磁波の指向性の幅や指向方向を制御する。これにより、位相制御による手法やアンテナ可動構造とする場合のように装置の大型化を招いたり複雑な制御が必要となることなく、アンテナ特性を容易に制御することができる。
【0093】
また、本実施形態では特に、電磁波放射方向からの平面視において、前方側に位置するループ導体100が、後方側に位置するループ導体200の径方向内側に位置するように配列されている。これにより、前方側に位置するループ導体100から放射され、後方側に位置するループ導体200で反射して出力される電磁波のメインローブの方向を、概ね、電磁波放射方向前方側、すなわちアンテナ正面側とすることができる。
【0094】
また、本実施形態では特に、ループ導体100,200が互いのループ面同士が略平行となるように配置されている。これにより、前方側に位置するループ導体100から放射され、後方側に位置するループ導体200で反射して出力される電磁波のメインローブの方向を、概ね、各ループ導体100,200のループ中心位置どうしの位置関係のみによって容易に制御することができる。
【0095】
また、本実施形態では特に、ループ導体100,200のそれぞれは、互いに相似なループ形状を備えている。これにより、前方側に位置するループ導体100から放射され、後方側に位置するループ導体200で反射して出力される電磁波の指向性範囲の形状を、メインローブの軸線を軸中心とする概ね軸対称の滑らかな形状とすることができる。
【0096】
また、本実施形態では特に、ループ導体100,200のそれぞれは、略四角形のループ形状を備えている。これにより、横断面形状が略四角形となる、電磁波の指向性範囲を形成することができる。
【0097】
また、本実施形態では特に、2つの給電部である第1給電部110A及び第2給電部110Bを、共に同一のループ導体100に設ける。これにより、複数の給電部110A,110Bを切り替えて使用する場合に、異なった給電部同士でアンテナ特性を一致させることができる。その結果、給電部110A,110Bを切り替えるごとに伸縮部120A〜120D,220A〜220Dの調整を行わなくても、同様のアンテナ特性を得ることができる。
【0098】
また、本実施形態では特に、2つのループ導体100,200がいずれも伸縮部120A〜120D,220A〜220Dを備えた構成とする。これにより、例えば後方側のループ導体200のループ面積を調整して指向性の幅を調整しつつ、前方側のループ導体100のループ中心位置をずらして指向方向を調整するといったように、複数のアンテナ特性について一度に調整することができる。また、複数のループ導体を変形可能とすることでアンテナ特性のきめ細かな調整を行うことができる。さらに、単独のループ導体のみ変形させて調整を行うとインピーダンスの不整合を生じアンテナ特性を損ねるおそれがあるが、このような場合にも他方のループ導体を調整してインピーダンスの不整合を是正することができる。
【0099】
また、本実施形態では特に以下の効果を得る。すなわち、一般に変形可能なループ導体を有するアンテナ装置において、ループ導体を変形させてアンテナ特性の調整を行うとインピーダンスの不整合を生じアンテナ特性を損ねるおそれがある。そこで本実施形態の通信装置20においては、通信装置本体10が備える反射電力検出部16でアンテナ装置1での電力反射状態を検出し、当該検出結果に係わる情報を報知部17で報知する。これにより、操作者は当該報知内容を参照しつつ、所定の電力反射状態となるようにナット部133a〜133d,233a〜233dを操作して導体要素100A〜100D,200A〜200Dの軸方向寸法を調整することで、インピーダンスの不整合を是正することができる。
【0100】
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を順を追って説明する。
【0101】
(1)ループ導体200の伸縮操作を制限する係止部材を設ける場合
図11は、本変形例のアンテナ装置1の詳細構造を筐体2を透視して表す斜視図である。
【0102】
図11において、本変形例のループ導体100の導体要素100A〜100Dを把持する把持部131a〜131dには、ループ導体200のループの内側を挿通して後方側に向かって延在する係止部材140A〜140Dがそれぞれ設けられている。係止部材140A〜140D(伸縮操作制限手段)は棒状の部材であり、導体要素100A〜100Dと略垂直な方向に沿って、把持部131a〜131dから筐体2の後面2E近傍までそれぞれ延設されている。なお、係止部材140A〜140Dの後端部は後面2Eとは固定されておらず、ループ導体100の伸縮動作に影響しない構成となっている。
【0103】
本変形例においては、操作者がナット部233a〜233dを用いてループ導体200の大きさを調整する際に、ループ導体100より小さくしようとした場合、あるいはループ導体200の導体要素200A〜200Dのいずれかをループ導体100より正面視における径方向内側に移動させようとした場合、ループ導体200の内側に挿通された係止部材140A〜140Dがループの内側に接触してループ導体200の伸縮動作を係止する。これにより、ループ導体200がループ導体100よりも小さくならないように、あるいはループ導体200の全ての導体要素200A〜200Dがループ導体100より径方向内側に移動しないように、その伸縮操作を確実に制限することができる。その結果、アンテナ装置1における後方側のループ導体200の大きさを常に前方側のループ導体100よりも大きな状態とすることができ、且つ、電磁波放射方向からの平面視において、前方側に位置するループ導体100が、後方側に位置するループ導体200の径方向内側に位置するようにできるので、アンテナ装置1の電磁波の出力を安定させることができる。
【0104】
(2)ループ導体200の伸縮操作を制限する歯車機構を設ける場合
図12は、本変形例のアンテナ装置1の詳細構造を筐体2を透視して表す斜視図である。
【0105】
図12において、本変形例のアンテナ装置1は、前方側のループ導体100の各操作部133a〜133dの回転方向を後方側のループ導体200の各操作部233a〜233dに反対の回転方向としてそれぞれ伝達する歯車機構150A〜150Dを備えている。これら歯車機構150A〜150Dは、筐体2の上面2A、右面2B、下面2C、左面2Dの内側にそれぞれ設けられている。
【0106】
図13は、歯車機構150Aの歯車構成を表す上面図である。なお、他の歯車機構150B〜150Dについても同様の構成である。
【0107】
図13において、歯車機構150Aは、相互に噛合する4つの歯車である第1小歯車151a、第1大歯車152a、第2大歯車153a、及び第2小歯車154aから構成されている。第1小歯車151aはループ導体100の操作部133aと同軸に連結されており、操作部133aが回転操作されると同方向に回転する。第1大歯車152a及び第2大歯車153aは、第1小歯車151a及び第2小歯車154aより大径に構成された歯車であり、第1小歯車151aと第2小歯車154aとの間に介在して設けられている。第2小歯車154aはループ導体200の操作部233aと同軸に連結されており、操作部233aが回転操作されると同方向に回転する。
【0108】
上記構成により、操作者がループ導体100の操作部133aを例えば時計回り方向に回転操作すると、第1小歯車151aも同方向(図中矢印コ)に回転する。これにより、第1大歯車152aは反時計回り方向(図中矢印サ)に回転し、第2大歯車153aは時計回り方向(図中矢印シ)に回転し、第2小歯車154aは半時計回り方向(図中矢印ス)に回転する。このようにして、歯車機構150Aは、ループ導体100の操作部133aの回転方向をループ導体200の操作部233aに反対の回転方向として伝達する。その結果、前方側のループ導体100の伸縮動作と反対の伸縮動作を後方側のループ導体200が連動して行うようになっている。
【0109】
なお、ループ導体100の各操作部133a〜133d又はループ導体200の各操作部233a〜233dは、ボルト軸方向に沿って引っ張り操作または押し込み操作を行うことにより、上記小歯車と大歯車の噛合が解除されるようになっている。これにより、操作者は上記連動動作を行わせるか否かを選択することが可能となっている。
【0110】
以上説明した変形例によれば、例えば操作者が前方側のループ導体100のループ面積を相対的に小さくしようとした場合、ループ導体100を小さくするように各操作部133a〜133dを操作すれば後方側のループ導体200が連動して大きくなるため、後方側のループ導体200の各操作部233a〜233dを操作することなく、手早くループ導体100のループ面積を相対的に小さくすることができる。このように、アンテナ特性を調整する際の操作者の操作労力を低減することができる。
【0111】
(3)伸縮部の構造の変形例
伸縮部としては上記実施形態以外の構造を採用してもよい。例えば伸縮部120Aの例で説明すると、上記実施形態では図10(a)に示すように、伸縮部120Aにおける一方側の端部121aに設けられた芯部122aが他方側の端部123aに設けた穴部124aに対し摺動可能に挿入された構造としたが、例えば図10(b)に示すように、端部121aの上下方向中心部を軸方向に突出させ、この突出部122a′が他方側の端部123aに設けた凹部124a′に対し摺動可能に嵌合された構造である伸縮部120A′としてもよい。すなわち、伸縮部の左右両側の部材の左右方向の移動差を許容し、上下方向の移動差を規制する構造であればよい。
【0112】
(4)3つ以上のループ導体を設ける場合
上記実施形態では、アンテナ装置1が、放射器として機能するループ導体100及び反射器として機能するループ導体200の2つのループ導体を有する構成としたが、これに限られず、ループ導体100のさらに前方側に導波器として機能する少なくとも1つのループ導体を設け、アンテナ装置1が3つ以上のループ導体を有する構成としてもよい。この場合、導波器として機能するループ導体にも伸縮部を設けることで、さらにきめ細かなアンテナ特性の調整を行うことができる。
【0113】
(5)反射器を設けない場合
上記実施形態では、アンテナ装置1が、放射器として機能するループ導体100及び反射器として機能するループ導体200を有する構成としたが、これに限られず、例えば放射器として機能するループ導体を後方に配置し、導波器として機能するループ導体を前方に配置した、反射器を設けない構成としてもよい。この場合にも上記実施形態と同様の効果を得る。すなわち、放射器としての後方側のループ導体のループ面積に対する導波器としての前方側のループ導体のループ面積を相対的に小さくすると、電磁波を放射するときの指向性の幅を狭くすることができ、後方側のループ導体のループ面積に対する前方側のループ導体のループ面積を相対的に大きくすると、電磁波を放射するときの指向性の幅を広くすることができる。
【0114】
(6)その他
以上ではループ導体100,200のループ形状を略四角形に構成したが、円形にしてもよいし、三角形等の四角以外の多角形としてもよい。また以上では、ループ導体100に2つの給電部110A,110Bを設ける構成としたが、給電部の数は1つでもよい。また以上では、ループ導体100,200のいずれにも伸縮部を設ける構成としたが、必ずしも両方のループ導体に設ける必要はない。アンテナ特性を容易に制御できるという効果を得る上においては、どちらか一方のループ導体に伸縮部を設ければ足りる。
【0115】
なお、以上において、図9に示すフローチャートは本発明を上記フローに示す手順に限定するものではなく、発明の趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で手順の追加・削除又は順番の変更等をしてもよい。
【0116】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0117】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0118】
1 アンテナ装置
2 筐体(アンテナ筐体)
10 通信装置本体
14 方向性結合器(調整手段)
15 送信電力検出部(調整手段)
16 反射電力検出部(調整手段、検出手段)
17 報知部(調整手段、報知手段)
20 通信装置
100 ループ導体
100A〜100D 導体要素
110A 第1給電部
110B 第2給電部
120A〜120D 伸縮部
133a〜133d ナット部(操作部)
140A〜140D 係止部材(伸縮操作制限手段)
200 ループ導体
200A〜200D 導体要素
220A〜220D 伸縮部
233a〜233d ナット部(操作部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体要素を備えた複数のループ導体を、電磁波を放射する方向に沿ってアンテナ筐体内に複数配列したアンテナ装置であって、
前記複数のループ導体のそれぞれは、前記電磁波放射方向の前方側へ向かって、順次ループ面積が小さくなるように構成されており、
前記複数のループ導体のうち1つのループ導体は、少なくとも1つの給電部を備え、
前記複数のループ導体のうち少なくとも1つのループ導体は、少なくとも1つの前記導体要素が、当該導体要素の軸方向寸法を増減可能な伸縮部を備え、
前記アンテナ筐体の外部より前記伸縮部を操作可能な操作部を設けた
ことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記電磁波放射方向後方側の前記ループ導体の伸縮操作を、前記電磁波放射方向前方側の前記ループ導体の伸縮操作に応じて制限する伸縮操作制限手段を有する
ことを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記伸縮操作制限手段は、前記電磁波放射方向前方側の前記ループ導体に設けられ、前記電磁波放射方向後方側の前記ループ導体のループの内側を挿通して前記電磁波放射方向後方側に延在する係止部材であることを特徴とする請求項2記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記伸縮操作制限手段は、前記電磁波放射方向前方側の前記ループ導体の伸縮動作と反対の伸縮動作を前記電磁波放射方向後方側の前記ループ導体が連動して行うように、前記電磁波放射方向前方側の前記操作部の操作を前記電磁波放射方向後方側の前記操作部に伝達する歯車機構である
ことを特徴とする請求項2記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記複数のループ導体は、
前記電磁波放射方向からの平面視において、前記電磁波放射方向の前方側に位置する前記ループ導体が、前記電磁波放射方向の後方側に位置する前記ループ導体の径方向内側に位置するように、配列されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記複数のループ導体は、互いのループ面同士が略平行となるように配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記複数のループ導体のそれぞれは、互いに相似なループ形状を備えている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記複数のループ導体のそれぞれは、略四角形又は略円形の前記ループ形状を備えている
ことを特徴とする請求項7記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記給電部を複数設ける場合には、全ての前記給電部を同一のループ導体に設ける
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記複数のループ導体はいずれも前記伸縮部を備えている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載のアンテナ装置。
【請求項11】
アンテナ装置と通信装置本体とを有する通信装置であって、
前記アンテナ装置は、
アンテナ筐体と、
前記アンテナ筐体内に電磁波を放射する方向に沿って複数配列され、前記電磁波放射方向の前方側へ向かって順次ループ面積が小さくなるように構成された、導体要素を備えた複数のループ導体と、
前記複数のループ導体のうちの1つのループ導体に設けられた少なくとも1つの給電部と、
前記複数のループ導体のうちの少なくとも1つのループ導体の前記導体要素に設けられ、当該導体要素の軸方向寸法を増減可能な伸縮部と、
前記アンテナ筐体の外部より前記伸縮部を操作可能な操作部とを備え、
前記通信装置本体は、
前記アンテナ装置における前記導体要素の軸方向寸法を前記操作部を用いて調整するための調整手段を備える
ことを特徴とする通信装置。
【請求項12】
前記調整手段は、
前記アンテナ装置での電力反射状態を検出する検出手段と、
前記検出手段による検出結果に係わる情報を報知する報知手段とを備える
ことを特徴とする請求項11記載の通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−29931(P2011−29931A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173700(P2009−173700)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】