説明

アンテナ装置

【課題】通信対象となるアンテナからの電波の到来方向検出のための回路をより簡単な構成にし、かつ通信対象となるアンテナからの電波の到来方向を2次元的に検出することが可能なアンテナ装置を提供する。
【解決手段】フェーズドアレーアンテナの主ビームを所定の方向に形成するために各素子アンテナに設定する位相量と、フェーズドアレーアンテナの受信信号から求めた各素子アンテナの電界の位相量との差分から求めたアンテナ素子座標の1次式で表されるような平面の位相分布の法線ベクトルと、上記主ビームを形成した所定の方向とから、通信対象となるアンテナからの電波の到来方向を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フェーズドアレーアンテナを備えたアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば航空機などの移動体に搭載されたフェーズドアレーアンテナと、船舶や車両に搭載されたアンテナや地上局アンテナなどとの間で通信を行う場合、効率よく通信を行うには、フェーズドアレーアンテナの指向目標となるアンテナを精度よく捕捉するとともに、アンテナビーム指向方向を制御する必要がる。従来、通信対象となるアンテナを捕捉しアンテナビーム方向制御を行う方法として、通信対象となるアンテナから送信されたビーコン電波の和パターン及び差パターンの励振分布をフェーズドアレーアンテナのビーム形成回路に設定してビーム形成するとともに、それらの出力を合成後、信号処理を行ってビーコン電波到来方向を基準としたビーム指向誤差信号を得る方法がある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、通信対象となるアンテナからの電波の到来方向を検出する別の従来方法として、フェーズドアレーアンテナの素子アンテナに対して素子電界ベクトル回転法を適用し、各素子アンテナの移相器の位相量を求め、素子アンテナ間の距離と、求めた位相量から算出した素子アンテナ間の位相差から下式(1)により通信対象となるアンテナからの電波の到来方向を求める方法がある(例えば特許文献2参照)。
【0004】
θ=sin−1(λφab/2πdab) (1)
【0005】
但し、λは通信対象となるアンテナからの電波の波長、φabは素子アンテナ間の位相差、dabは素子アンテナ間の距離を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−298333号公報
【特許文献2】特開平5−259727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような従来の通信対象となるアンテナを捕捉しアンテナビーム方向制御する方法においては、通信対象となるアンテナからの送信されたビーコン電波の和パターン及び差パターンの出力を得るための合成回路がそれぞれ必要となるため、通信用の回路とは別系統の回路が必要となる。また2次元的なビーム指向誤差信号を得るには、各角度成分に対応して和パターン及び差パターンの出力を得るための合成回路がそれぞれ必要となるため、回路構成が複雑になるという問題があった。また、ビーコン電波の到来方向と差パターンの中心方向との間に差異が大きい場合には、和パターン及び差パターンの出力を利用して検出されるビーム指向誤差信号は検出誤差が大きくなるという問題もあった。
【0008】
別の従来の通信対象となるアンテナからの電波の到来方向を検出する方法においては、上式(1)を用いて電波の到来方向を算出するために、位相量を測定する素子アンテナを含む面内(電波の伝搬方向に沿った面)における電波の到来方向のみしか求めることができないという問題があった。
【0009】
この発明は上記のような問題を解決するためになされたものであり、通信対象となるアンテナからの電波の到来方向検出のための回路をより簡単な構成にし、かつ通信対象となるアンテナからの電波の到来方向を2次元的に検出することが可能なアンテナ装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、複数の素子アンテナから成るアレーアンテナと、前記各素子アンテナ毎に設けられそれぞれの位相量を変える移相器、前記各移相器の設定位相を制御する移相器制御装置および前記各移相器への入出力信号の分配合成を行う電力分配合成回路を含むビーム形成回路とにより構成されるフェーズドアレーアンテナを備えたアンテナ装置であって、前記電力分配合成回路に接続され各素子アンテナの受信信号の検波を行う検波回路と、前記フェーズドアレーアンテナの複数の素子アンテナで形成した主ビームを放射する少なくとも1つの測定対象アンテナの位置情報に基づく方向を記憶する角度記憶装置と、前記角度記憶装置で記憶された方向に主ビームを形成するために各素子アンテナに設定する位相量を計算する初期位相演算装置と、前記検波回路の検波に基づき、前記少なくとも1つの測定対象アンテナからの電波によるフェーズドアレーアンテナの受信信号から各素子アンテナの受信電界の位相量の逆符号の位相量を求める素子電界位相演算装置と、前記各素子アンテナの前記初期位相演算装置の位相量と前記素子電界位相演算装置の位相量の差分をとる差分位相演算装置と、前記差分位相演算装置の差分位相量の分布からアンテナ素子座標の1次式で表されるような平面の位相分布を求める最適位相平面演算装置と、前記平面の位相分布の法線ベクトルを求める法線ベクトル演算装置と、前記法線ベクトルと前記角度記憶装置で記憶した方向を用いて実際の電波の到来方向を求める電波到来方向演算装置と、を備えたことを特徴とするアンテナ装置等にある。
【発明の効果】
【0011】
この発明では、通信対象となるアンテナからの電波の到来方向検出のための回路をより簡単な構成にし、かつ通信対象となるアンテナからの電波の到来方向を2次元的に検出することが可能なアンテナ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1によるアンテナ装置の構成を示した図である。
【図2】この発明の実施の形態1における測定の状況を説明するための図である。
【図3】この発明の実施の形態1における測定の座標系を示した図である。
【図4】この発明の実施の形態2によるアンテナ装置の構成を示した図である。
【図5】この発明の実施の形態2における測定の状況を説明するための図である。
【図6】この発明の実施の形態3によるアンテナ装置の構成を示した図である。
【図7】この発明の実施の形態3における測定の状況を説明するための図である。
【図8】この発明の実施の形態4によるアンテナ装置の構成を示した図である。
【図9】この発明の実施の形態4における測定の状況を説明するための図である。
【図10】この発明の実施の形態5によるアンテナ装置の構成を示した図である。
【図11】この発明の実施の形態6によるアンテナ装置の構成を示した図である。
【図12】この発明の実施の形態7における第1の測定の状況を説明するための図である。
【図13】この発明の実施の形態7における第2の測定の状況を説明するための図である。
【図14】この発明の実施の形態9によるアンテナ装置の構成を示した図である。
【図15】図14の切換器の構成の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明によるアンテナ装置では、フェーズドアレーアンテナの主ビームを所定の方向に形成するために各素子アンテナに設定する位相量と、フェーズドアレーアンテナの受信信号から求めた各素子アンテナの電界の位相量との差分から求めたアンテナ素子座標の1次式で表されるような平面の位相分布の法線ベクトルと、上記主ビームを形成した所定の方向とから、通信対象となるアンテナからの電波の到来方向を検出する。
【0014】
以下、この発明によるアンテナ装置を各実施の形態に従って図面を用いて説明する。なお、各実施の形態において同一もしくは相当部分は同一符号で示し、重複する説明は省略する。
【0015】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるアンテナ装置の構成を示した図である。図1のアンテナ装置100において、アンテナの開口面上に設置され例えばm×n個の平面のアレーアンテナを構成する複数の素子アンテナ1−m,n(m=1,2,3,・・・,M、n=1,2,3,・・・,N)には、それぞれに素子アンテナの移相量を変える移相器2−m,n(m=1,2,3,・・・,M、n=1,2,3,・・・,N)が接続されている。これらの移相器2−m,nは各移相器への入出力信号を合成分配を行う電力分配合成回路4に接続され、さらに電力分配合成回路4には検波回路6が接続されている。各移相器2−m,nはこれらの設定位相量を制御する移相器制御装置3に接続されている。各移相器2−m,n、電力分配合成回路4、および移相器制御装置3を合わせてビーム形成回路5と呼び、さらに各素子アンテナ1−m,nを加えてフェーズドアレーアンテナと呼ぶ。
【0016】
移相器制御装置3には初期位相演算装置8が接続され、初期位相演算装置8にはフェーズドアレーアンテナの主ビームを形成する所定の方向を記憶した角度記憶装置7が接続されている。初期位相演算装置8は角度記憶装置7に定められた方向にフェーズドアレーアンテナの主ビームを形成するために各素子アンテナ1−m,nに設定する位相量を計算する。検波回路6には、フェーズドアレーアンテナの受信信号から各素子アンテナの受信電界の位相量の逆符号の量を求める素子電界位相演算装置9が接続されている。素子電界位相演算装置9には初期位相演算装置8と素子電界位相演算装置9のそれぞれで求められた位相量の差分を計算する差分位相演算装置10が接続される。
【0017】
差分位相演算装置10には最適位相平面演算装置11が接続され、最適位相平面演算装置11は、差分位相演算装置10によって求められた差分位相量の分布から各素子アンテナ1−m,nの位置座標の1次式で表されるような平面の位相分布を求める装置である。最適位相平面演算装置11には、最適位相平面演算装置11において求めた位相平面の法線ベクトルを求める法線ベクトル演算装置12が接続される。電波到来方向演算装置13には角度記憶装置7と法線ベクトル演算装置12とが接続され、法線ベクトル演算装置12によって求めた法線ベクトルと角度記憶装置7に記憶された方向とを用いて電波の到来方向を求める装置である。
【0018】
次に、動作について図を用いて説明する。今、図2に示すように上記のアンテナ装置100を搭載した航空機14において、別の測定対象アンテナ15から放射される電波の到来方向を求める場合を考える。図3はフェーズドアレーアンテナの開口面を基準とした測定の座標系を示した図である。ここでは、図3に示すように、アレーアンテナとして例えば平面アレーアンテナを考える。今、航空機14と測定対象アンテナ15の大まかな位置情報より求めた航空機14に搭載されたアンテナ装置100のアレーアンテナからみた測定対象アンテナ15の方向を(ξ,η)[仰角、方位角]として、角度記憶装置7に記憶する。次に、角度記憶装置7に記憶された方向(ξ,η)にフェーズドアレーアンテナの主ビームを形成するために、各素子アンテナ1−m,nに設定する位相を初期位相演算装置8で計算する。つまり、初期位相演算装置8では下式(1)で表される位相量φmnを求める。
【0019】
φmn=−(kmnsinξ+kmncosξsinη)−φ0mn (1)
【0020】
ただし、kは測定対象アンテナ15から放射される電波の波数、(xmn,ymn)は各素子アンテナ1−m,nの設置位置のx座標とy座標をそれぞれ示す。また、φ0mnは各素子アンテナ1−m,nに接続されている移相器2−m,nと給電線路における位相誤差を補正するための位相量で、通常フェーズドアレーアンテナ運用の際には記憶されている量である。上式(1)に基づいて、移相器制御装置3により各移相器2−m,nの設定位相を変更し、フェーズドアレーアンテナの主ビームを(ξ,η)方向に形成する。
【0021】
次に、素子電界位相演算装置9では、例えば、フェーズドアレーアンテナの各移相器2−m,nの設定位相を360度回転させた時の受信電力の変化を検波回路6で検波し、その受信電力の最大値と最小値の比rと、受信電力の最大値を与える位相量Δから下式(2)、(3)を用いて当該移相器に接続された各素子アンテナ1−m,nの受信電界の位相の合成電界位相に対する相対位相値Xを求め、さらに求めた位相値Xの逆符号の位相量φmn’を求める。
【0022】
X=tan−1{sinΔ/(cosΔ+Γ)} (2)
Γ={(r−1)/(r+1)} (3)
【0023】
なお、この方法は素子電界ベクトル回転法と呼ばれるものであり、「アンテナ測定法」として公知である(例えば特開昭57−93267号公報参照)。
【0024】
今、航空機14から見た測定対象アンテナ15の実際の方向を(ξ+Δξ,η+Δη)とすると、上式(2)及び(3)を用いて求められる位相量は理論的には、
【0025】
mnsin(ξ+Δξ)+kmncos(ξ+Δξ)sin(η+Δη)+φ0mn (4)
【0026】
と表わすことができ、素子電界位相演算装置9で求められる位相量φmn’は下式(5)で表すことができる。
【0027】
φmn’=−{kmnsin(ξ+Δξ)+
mncos(ξ+Δξ)sin(η+Δη)}−φ0mn (5)
【0028】
上式(5)には各素子アンテナ1−m,nに接続されている移相器2−m,nと給電線路における位相誤差φ0mnを含んでいるので、その影響を取り除くため、差分位相演算装置10では初期位相演算装置8で求められた位相量φmnと素子電界位相演算装置9で求めた位相量φmn'との差分、つまり上式(1)と(5)の差分Δφmnとして下式(6)を計算することとなる。
【0029】
Δφmn=φmn’−φmn
=−kmnsin(ξ+Δξ)−kmncos(ξ+Δξ)sin(η+Δη)
+kmnsinξ+kmncosξsinη (6)
【0030】
最適位相平面演算装置11では、実際には測定誤差を含んだ差分位相量Δφmnに対して、最適な素子アンテナ座標(kmn,kmn)の1次式
【0031】
akmn+bkmn+c+Δφmn=0 (7)
【0032】
の形で表わされる平面の位相分布の係数aとbを求める。これは、下式(8)を最小とするようなa,b,cを求めることで可能である。
【0033】
【数1】

【0034】
上式(8)は、例えば最小二乗法により下式(9)のように求めることができる。
【0035】
【数2】

【0036】
今、上式(6)、(7)の係数を比較すると、下式(10)が得られる。
【0037】
a=sin(ξ+Δξ)−sinξ
b=cos(ξ+Δξ)sin(η+Δη)−cosξsinη (10)
c=0
【0038】
法線ベクトル演算装置12では、最適位相平面演算装置11で求めた位相平面の法線ベクトルを求める。上式(7)の形で表わされる平面の法線ベクトルは(a,b,1)となるので、上式(9)によりその成分は、各素子アンテナ1−m,nの位置座標と差分位相量Δφmnとから容易に求めることができる。電波到来方向演算装置13では、法線ベクトル演算装置12で求めた法線ベクトルの各成分(a,b,1)と角度記憶装置7で記憶されている(ξ)をもとに(Δξ,Δη)を求める。つまり、電波到来方向演算装置13では上式(10)を(Δξ,Δη)に関して解き、求めた(Δξ,Δη)と角度記憶装置7で記憶されている(ξ)から、実際の電波の到来方向(ξ+Δξ,η+Δη)を求めることとなる。
【0039】
このように、実施の形態1では、従来のように電波到来方向を検出するために、通信用の回路とは別系統の回路を必要とせず、簡単なアンテナ構成で電波の到来方向を求めることが可能となる。さらに、位相平面の法線ベクトルを利用するため、2次元的な電波の到来方向を容易に求めることが可能となる。
【0040】
実施の形態2.
図4はこの発明の実施の形態2によるアンテナ装置の構成を示した図である。図4のアンテナ装置100では、アンテナ装置本体101側では電力分配合成回路4には第1の送信機16が接続される。このアンテナ装置本体101のフェーズドアレーアンテナから放射された電波は、アンテナ装置本体101とは別に設けられる(図5参照)、第1の受信アンテナ17、第1の検波回路6、素子電界位相演算装置9、第2の送信機16a、送信アンテナ18で構成されるサブアンテナ装置19において受信、検波される。なお、第1の受信アンテナ17、第1の検波回路6、第2の送信機16a、送信アンテナ18が送受信手段を構成する。
【0041】
フェーズドアレーアンテナから放射された電波は、サブアンテナ装置19でまず第1の受信アンテナ17において受信され、第1の受信アンテナ17には第1の検波回路6が接続され、第1の検波回路6にはフェーズドアレーアンテナからの送信信号から各素子アンテナからの放射電界の位相量の逆符号の量を求める素子電界位相演算装置9が接続される。素子電界位相演算装置9には第2の送信機16aが接続され、第2の送信機16aには送信アンテナ18が接続され、素子電界位相演算装置9で求められた位相量を含んだ信号が第2の送信機16aおよび送信アンテナ18により送信される。
【0042】
送信アンテナ18より送信された信号は、アンテナ装置本体101側でフェーズドアレーアンテナとともに設けられた第2の受信アンテナ17aで受信され、第2の受信アンテナ17aには第2の検波回路6aが接続され、受信した信号を検波する。第2の検波回路6aには、各素子アンテナからの放射電界の位相量の逆符号の量を記憶する素子電界位相記憶装置20が接続されている。素子電界位相記憶装置20には差分位相演算装置10が接続される。測定アンテナ方向演算装置21には、角度記憶装置7と法線ベクトル演算装置12とが接続されており、法線ベクトル演算装置12によって求めた法線ベクトルと角度記憶装置7に記憶された方向とを用いてアンテナ装置本体101側のアレーアンテナからみた第1の受信アンテナ17の方向を求める装置である。
【0043】
次に動作について図を用いて説明する。実施の形態1では、フェーズドアレーアンテナが受信の場合に、電波の到来方向を求める方法について述べた。実施の形態2は、フェーズドアレーアンテナが送信の場合に対応しており、実施の形態1の場合と同様に、図5に示すようにフェーズドアレーアンテナを含むアンテナ装置本体101が搭載された航空機14と、それとは別に設けたサブアンテナ装置19との間で測定を行い、航空機14に搭載されたアンテナ装置本体101のアレーアンテナからみたサブアンテナ装置19の第1の受信アンテナ17の方向(以下、航空機14からみたサブアンテナ装置19の方向と呼ぶ)を求める場合を考える。
【0044】
今、実施の形態1の場合と同様に大まかな位置情報より求めた航空機14からみたサブアンテナ装置19の方向を(ξ,η)として、角度記憶装置7に記憶する。つぎに、角度記憶装置7に記憶された方向(ξ,η)にフェーズドアレーアンテナの主ビームを形成するために、上式(1)で表わされる各素子アンテナ1−m,nに設定する位相を初期位相演算装置8で計算する。初期位相演算装置8で求めた位相量に基づいて、移相器制御装置3により各移相器2−m,nの設定位相を変更し、フェーズドアレーアンテナの主ビームを(ξ,η)方向に形成する。
【0045】
フェーズドアレーアンテナから放射される電波は、サブアンテナ装置19に設けられた第1の受信アンテナ17で受信され、第1の検波回路6で検波される。次に、素子電界位相演算装置9では、実施の形態1と同様に、例えば、素子電界ベクトル回転法を用いて各素子アンテナ1−m,nから放射された電界の位相の合成電界に対する相対位相値Xを求め、さらに求めた位相値Xの逆符号の位相量φmn'を計算する。このとき、理論的には実施の形態1の場合と同様に、φmn'は上式(5)で表わされると考えられる。素子電界位相演算装置9で求められる位相量φmn'は、第2の送信機16aおよび送信アンテナ18により送信され、第1の送信アンテナ18により送信された信号は、アンテナ装置本体101側の第2の受信アンテナ17aで受信され、第2の検波回路6aで検波される。
【0046】
素子電界位相記憶装置20では検波した位相量φmn'を記憶し、差分位相演算装置10では、上記初期位相演算装置8で求められた位相量φmnと上記素子電界位相記憶装置20に記憶された位相量φmn'との差分Δφmnを計算する。Δφmnは実施の形態1の場合と同様に、上式(6)で表わされる。最適位相平面演算装置11および法線ベクトル演算装置12では、実施の形態1の場合と同様に、差分位相演算装置10で求めた差分位相量Δφmnから、素子アンテナ座標の1次式の形で表わされる位相平面を求め、さらにその法線ベクトルを求める。法線ベクトル演算装置12で求められる法線ベクトルは実施の形態1の場合と同様に、上式(9)で表わされるa,bを用いて(a,b,1)となるので、測定アンテナ方向演算装置21では、上式(10)を(Δξ,Δη)に関して解き、求めた(Δξ,Δη)と角度記憶装置7で記憶されている(ξ)から、実際のアレーアンテナから見た第1の受信アンテナ17の方向(ξ+Δξ,η+Δη)を求める。
【0047】
このように実施の形態2では、従来のように測定対象となる受信アンテナの方向を検出するために、通信用の回路とは別系統の回路を必要とせず、簡単なアンテナ構成で測定対象アンテナの方向を求めることが可能となる。さらに、位相平面の法線ベクトルを利用するため、2次元的な測定対象アンテナの方向を容易に求めることが可能となる。
【0048】
実施の形態3.
図6はこの発明の実施の形態3によるアンテナ装置の構成を示した図である。図6のアンテナ装置100では、図6のアンテナ装置において、電波到来方向演算装置13に、電波到来方向記憶装置22が接続される。電波到来方向記憶装置22は、電波到来方向演算装置13において求めた複数の電波の到来方向を記憶する装置である。電波到来方向記憶装置22には、ヌル形成位相演算装置23が接続され、ヌル形成位相演算装置23は移相器制御装置3に接続される。ヌル形成位相演算装置23は、フェーズドアレーアンテナの主ビームを所定の方向に形成し、かつ電波到来方向記憶装置22により記憶された複数の電波到来方向のうち少なくとも一方向にフェーズドアレーアンテナのヌルを形成するために、各素子アンテナに設定する位相量を求める装置である。
【0049】
次に動作について図を用いて説明する。今、図7に示すように上記のアンテナ装置100を搭載した航空機14において、別に設けられた複数の測定対象アンテナ15−n(n=1,2,3,・・・,Ns)から放射される複数の電波の到来方向を求める場合を考える。実施の形態3では、実施の形態1と同様に、各測定対象アンテナ15−n(n=1,2,3,・・・,Ns)からそれぞれ放射される電波の到来方向をそれぞれ電波到来方向演算装置13で求める。今、電波到来方向演算装置13で求めた各電波の到来方向を(ξ)(n=1,2,3,・・・,Ns)とすると。電波到来方向記憶装置22は、電波到来方向演算装置13で求めた各電波の到来方向(ξ)を順次記憶していく。
【0050】
今、航空機14と測定対象アンテナ15−1間で衛星間通信を行う場合を想定する。このとき、その他の測定対象アンテナ15−n(n=2,3,4,・・・,Ns)から放射される電波は、所望の測定対象アンテナ15−1から送信される信号の干渉成分となるため、航空機14と測定対象アンテナ15−1間の通信を効率よく行うためには、その干渉を抑圧する必要がある。これは、測定対象アンテナ15−1以外の測定対象アンテナ15−n(n=2,3,4,・・・,Ns)の方向にフェーズドアレーアンテナのヌルを形成することで実現可能である。
【0051】
そこで、電波到来方向記憶装置22に記憶された各測定対象アンテナ15−n(n=1,2,3,・・・,Ns)から放射される電波の到来方向を用いて、通信対象以外の測定対象アンテナ15−n(n=2,3,4,・・・,Ns)の方向(ξ)(n=2,3,4,・・・,Ns)にはフェーズドアレーアンテナのヌルを形成し、かつ所望の通信対象の測定対象アンテナ15−1の方向(ξ)にはフェーズドアレーアンテナの主ビームを形成するための素子アンテナに設定する位相量をヌル形成位相演算装置23で求める。なお、ヌル形成位相演算装置23では、例えば、主ビーム方向とヌルを向ける方向に対応した各素子アンテナに設定する位相量を記憶したデータベース(図示省略)を利用したり、平面波合成法を用いたり、最適化演算を行ったりして各素子アンテナに設定する位相量を計算する。
【0052】
このように実施の形態3では、通信対象および通信対象外のアンテナからの電波の到来方向を測定し、所定の通信対象のアンテナの方向にはフェーズドアレーアンテナの主ビームを形成し、かつ通信対象外のアンテナの方向にはフェーズドアレーアンテナのヌルを形成することで、通信対象外のアンテナからの干渉を抑圧し、通信対象のアンテナとの通信を効率よく行うことが可能となる。
【0053】
実施の形態4.
図8はこの発明の実施の形態4によるアンテナ装置の構成を示した図である。図8では、1つのアンテナ装置本体101に対して複数のサブアンテナ装置19−n(n=1,2,3,・・・,Ns)が設けられている。各サブアンテナ装置19−nはそれぞれ、第1の検波回路6、素子電界位相演算装置9、第2の送信機16aと共にそれぞれの第1の受信アンテナ17−1〜17−Ns、送信アンテナ18−1〜18−Nsを備える。測定アンテナ方向演算装置21には測定アンテナ方向記憶装置24が接続され、測定アンテナ方向記憶装置24は測定アンテナ方向演算装置21で求められた、アレーアンテナから見た各サブアンテナ装置19−n(n=1,2,3,・・・,Ns)における第1の受信アンテナ17の方向を記憶する。
【0054】
測定アンテナ方向記憶装置24には、ヌル形成位相演算装置23が接続される。ヌル形成位相演算装置23は、フェーズドアレーアンテナの主ビームを所定の方向に形成し、かつ測定アンテナ方向記憶装置24により記憶されたアレーアンテナから見た複数のサブアンテナ装置19−n(n=1,2,3,・・・,Ns)における第1の受信アンテナ17の方向のうち少なくとも一方向にフェーズドアレーアンテナのヌルを形成するために、各素子アンテナ1−m,nに設定する位相量を求める装置である。
【0055】
次に動作について図を用いて説明する。実施の形態4では、上記実施の形態3のフェーズドアレーアンテナが送信の場合に相当し、図9に示すように、フェーズドアレーアンテナを含むアンテナ装置本体101の搭載された航空機14と、別に設けられた複数のサブアンテナ装置19−n(n=2,3,・・・,Ns)との間で測定を行い、航空機14に搭載されたアレーアンテナからみた各サブアンテナ装置19−n(n=2,3,・・・,Ns)の各第1の受信アンテナ17の方向(以下、航空機14からみた各サブアンテナ装置19−nの方向と呼ぶ)を求める場合を考える。
【0056】
実施の形態2と同様に、航空機14からみた各サブアンテナ装置19−nの方向をそれぞれ測定アンテナ方向演算装置21で求める。測定アンテナ方向記憶装置24は、測定アンテナ方向演算装置21で求められた航空機14からみた各サブアンテナ装置19−nの方向をそれぞれ記憶する。ヌル形成位相演算装置23は、実施の形態3と同様の方法により、測定アンテナ方向記憶装置24に記憶された航空機14からみた各サブアンテナ装置19−nの方向を用いて、通信対象以外のサブアンテナ装置の方向にフェーズドアレーアンテナのヌルを形成し、かつ所望の通信対象のサブアンテナ装置の方向にフェーズドアレーアンテナの主ビームを形成するために各素子アンテナに設定する位相量をヌル形成位相演算装置23で求める。
【0057】
このように実施の形態4では、アレーアンテナから見た通信対象および通信対象外のアンテナの方向を測定し、所定の通信対象のアンテナの方向にはフェーズドアレーアンテナの主ビームを形成し、かつ通信対象外のアンテナの方向にはフェーズドアレーアンテナのヌルを形成することで、通信対象外のアンテナからの干渉を抑圧し、通信対象のアンテナとの通信を効率よく行うことが可能となる。
【0058】
実施の形態5.
図10はこの発明の実施の形態5によるアンテナ装置の構成を示した図である。図10のアンテナ装置100は、各素子アンテナ1−m,nが複数のビーム形成回路5−n(n=1,2,3,・・・,Nb)のそれぞれに接続され、各ビーム形成回路5−nで形成されるビームを合成、分配したビームの送受信を行うマルチビームアンテナ装置を想定したものである。各ビーム形成回路5−nには、検波回路6、初期位相演算装置8、ヌル形成位相演算装置23がそれぞれ接続されている。複数のビーム形成回路5−nの各素子アンテナ端子は各素子アンテナごとに分配合成する複数の第2の電力分配合成回路4a−m,n(m=1,2,3,・・・,M、n=1,2,3,・・・,N)に接続され、第2の電力分配合成回路4a−m,nはそれぞれ対応した各素子アンテナ1−m,nにそれぞれ接続される。すなわち、全ての素子アンテナ1−m,nにそれぞれの第2の電力分配合成回路4a−m,nが接続されて全てのビーム形成回路5−nに接続されている。
【0059】
次に動作について図を用いて説明する。今、図7と同様に上記のマルチビームアンテナ構造を有するフェーズドアレーアンテナを含むアンテナ装置100を搭載した航空機14において、別に設けられた複数の測定対象アンテナ15−n(n=1,2,3,・・・,Ns)から放射される複数の電波の到来方向を求める場合を考える。実施の形態5では、実施の形態3と同様に、各測定対象アンテナ15−n(n=1,2,3,・・・,Ns)からそれぞれ放射される電波の到来方向を、上記マルチビームアンテナのうち少なくとも一つのビームを用いて電波到来方向演算装置13において求め、それぞれ電波到来方向記憶装置22に記憶する。
【0060】
今、航空機14と各測定対象アンテナ15−n(n=1,2,3,・・・,Ns)間でマルチビームアンテナを用いて通信を行う場合を想定し、航空機14と測定対象アンテナ15−n間で通信を行うためのビームをビームn(n=1,2,3,・・・,Ns)と呼ぶ。実施の形態3で述べたように、例えば、ビームmにおいてはその他の測定対象アンテナ15−n(n=1,2,3,・・・,m-1,m+1,・・・,Ns)から放射される電波は、所望の測定対象アンテナ15−mから送信される信号の干渉成分となり、航空機14と通信対象となる測定対象アンテナ15−m間の通信を効率よくおこなうためには、その干渉を抑圧する必要がある。これは、ビームmに対して、通信対象外の測定対象アンテナ15−n(n=1,2,3,・・・,m-1,m+1,・・・,Ns)の方向にフェーズドアレーアンテナのヌルを形成することで実現可能である。
【0061】
そこで、電波到来方向記憶装置22に記憶された各測定対象アンテナ15−n(n=1,2,3,・・・,Ns)から放射される電波の到来方向を用いて、ビームmに対して通信対象以外の測定対象アンテナ15−n(n=1,2,3,・・・,m-1,m+1,・・・,Ns)の方向にはフェーズドアレーアンテナのヌルを形成し、かつ所望の通信対象の測定対象アンテナ15−mの方向にはフェーズドアレーアンテナの主ビームを形成するために素子アンテナに設定する位相量をヌル形成位相演算装置23で求める。
【0062】
このように実施の形態5では、マルチビームアンテナを用いて複数の通信対象のアンテナと通信を行う場合に、通信対象および通信対象外のアンテナからの電波の到来方向を測定し、各ビームの主ビームを当該通信対象のアンテナ方向に形成し、かつそれぞれのビームの通信対象外のアンテナの方向にはヌルを形成することで、マルチビームアンテナを用いて複数のアンテナと通信を行う場合に、通信対象外のアンテナからの干渉を抑圧し、通信対象のアンテナとの通信を効率よく行うことが可能となる。
【0063】
実施の形態6.
図11はこの発明の実施の形態6によるアンテナ装置の構成を示した図である。図11のアンテナ装置100は、実施の形態5の図10に示すマルチビームアンテナ装置を想定したアンテナ装置を実施の形態4の図8に示す送信の場合に対応させたものである。図8のアンテナ装置において、素子アンテナ1−m,nと、移相器2−m,n、移相器制御装置3、電力分配合成回路4を含むビーム形成回路5とからなるフェーズドアレーアンテナの部分が、図10の素子アンテナ1−m,nと、第2の電力分配合成回路4a−m,nと、ビーム形成回路5−nとからなるフェーズドアレーアンテナで構成され、各ビーム形成回路5−nには、第1の送信機16、初期位相演算装置8、ヌル形成位相演算装置23がそれぞれ接続されている。
【0064】
動作について説明すると、上記各実施の形態に示した手法と同様の手法により、マルチビームアンテナを用いて複数の通信対象のアンテナと通信を行う場合に、マルチビームアンテナからみた通信対象および通信対象外のアンテナの方向を測定し、各ビームの主ビームを該当する通信対象のアンテナ方向に形成し、かつそれぞれのビームの通信対象外のアンテナの方向にはヌルを形成することで、マルチビームアンテナを用いて複数のアンテナと通信を行う場合に、通信対象外のアンテナからの干渉を抑圧し、通信対象のアンテナとの通信を効率よく行うことが可能となる。
【0065】
すなわち、図8と同様に上記のマルチビームアンテナ構造を有するフェーズドアレーアンテナを含むアンテナ装置100を搭載した航空機14において、航空機14からみた別に設けられた複数のサブアンテナ装置19−n(n=1,2,3,・・・,Ns)の方向を求める場合を考える。実施の形態6では、実施の形態4と同様に、各サブアンテナ装置19−n(n=1,2,3,・・・,Ns)の方向をそれぞれ測定アンテナ方向演算装置21で求め、それぞれ測定アンテナ方向記憶装置24に記憶する。
【0066】
今、航空機14と各サブアンテナ装置19−n(n=1,2,3,・・・,Ns)間でマルチビームアンテナを用いて通信を行う場合を想定し、航空機14とサブアンテナ装置19−n間で通信を行うためのビームをビームn(n=1,2,3,・・・,Ns)と呼ぶ。実施の形態4で述べたように、例えば、ビームmにおいてはその他のサブアンテナ装置19−n(n=1,2,3,・・・,m-1,m+1,・・・,Ns)から放射される電波は、所望のサブアンテナ装置19−mから送信される信号の干渉成分となり、航空機14と通信対象となるサブアンテナ装置19−m間の通信を効率よくおこなうためには、その干渉を抑圧する必要がある。これは、ビームmに対して、通信対象外のサブアンテナ装置19−n(n=1,2,3,・・・,m-1,m+1,・・・,Ns)の方向にフェーズドアレーアンテナのヌルを形成することで実現可能である。
【0067】
そこで、測定アンテナ方向記憶装置24に記憶された各サブアンテナ装置19−nの方向を用いて、ビームmに対して通信対象以外のサブアンテナ装置19−n(n=1,2,3,・・・,m-1,m+1,・・・,Ns)の方向にはフェーズドアレーアンテナのヌルを形成し、かつ所望の通信対象のサブアンテナ装置19−nの方向にはフェーズドアレーアンテナの主ビームを形成するために素子アンテナに設定する位相量をヌル形成位相演算装置23で求めるようにする。
【0068】
実施の形態7.
図12はこの発明の実施の形態7によるアンテナ装置の第1の測定状況を示した図である。実施の形態7では、上記アンテナ装置100が航空機14に搭載され、測定対象アンテナ15が例えば地上局などの位置が既知の位置に設置された固定局の場合を想定している。このとき、角度記憶装置7に記憶させる角度を、航空機14の大まかな位置情報と位置が既知の測定対象アンテナ15の位置情報から求められるアレーアンテナから見た測定対象アンテナ15の方向とする。実施の形態1の場合と同様の手法により、測定対象アンテナからの電波の到来方向を求めた場合、測定対象アンテナ15の位置は既知でかつ固定であるため、求めた電波の到来方向と角度記憶装置7で記憶した角度の差、つまり(Δξ,Δη)は、航空機14の姿勢誤差、もしくはフェーズドアレーアンテナの開口面の傾斜による誤差に起因する方向誤差を表わすこととなる。すなわち、(Δξ,Δη)を求めることにより、フェーズドアレーアンテナの開口面(放射面)もしくはそれを搭載した航空機14の姿勢誤差を求めることが可能となる。
【0069】
さらに、図13に示すように、上記のように位置が既知の固定局に設置された複数の測定対象アンテナがある場合には、各測定対象アンテナについて求めた(Δξ,Δη)は、上記のように航空機14の姿勢誤差、もしくはフェーズドアレーアンテナの放射面(開口面)の傾斜による誤差に起因するため、理想的には同一の値となる。しかし、実際には測定誤差などにより異なった値となる。そこで、ここでは各測定対象アンテナ15−n(n=1,2,3,・・・,Ne)について求めた電波の到来方向と角度記憶装置7に記憶させた角度の差を(Δξn,Δηn)(n=1,2,3,・・・,Ne)として、下式(11)で表わされる平均値を用いることにより、より高精度にフェーズドアレーアンテナの開口面もしくはそれを搭載した航空機14の姿勢誤差を求めることが可能となる。
以上の処理は、例えば電波到来方向演算装置13で行われる。
【0070】
【数3】

【0071】
このように、実施の形態7では、測定対象アンテナを位置が既知の固定されたアンテナとすることで、フェーズドアレーアンテナの開口面の傾斜もしくはそれを搭載した航空機の姿勢誤差などを求めることが可能となる。
【0072】
ここでは、フェーズドアレーアンテナが受信の場合について説明を行ったが、フェーズドアレーアンテナが送信の場合においても同様の効果を得ることができる。つまり、サブアンテナ装置を位置が既知の位置に固定した場合に、実施の形態2と同様の手法により求めたサブアンテナ装置の第1の受信アンテナの方向と角度記憶装置7で記憶した角度の差は、サブアンテナ装置の位置が既知で固定されているため、航空機14の姿勢誤差もしくはフェーズドアレーアンテナの開口面の傾斜による誤差に起因する方向誤差を表わすこととなる。さらに、複数の測定アンテナ方向演算装置21で求めたサブアンテナ装置の第1の受信アンテナの方向と角度記憶装置7に記憶させた角度の差の平均値を用いることにより、より高精度にフェーズドアレーアンテナの開口面もしくはそれを搭載した航空機14の姿勢誤差を求めることが可能となる。
【0073】
実施の形態8.
上記各実施の形態においては、実施の形態1において述べたように、上式(10)を(Δξ,Δη)について解くことにより、電波の到来方向または受信アンテナの方向を求めた。今、角度記憶装置7で記憶されている(ξ)と、実際の電波の到来方向またはサブアンテナ装置の受信アンテナの方向(ξ+Δξ,η+Δη)との差異が十分小さい、つまりΔξ<<1、Δη<<1とすると、上式(10)は
【0074】
【数4】

【0075】
となる。上式(12)は(Δξ,Δη)の一次式であるので下式(13)のように、(Δξ,Δη)について容易に解くことが可能となる。
【0076】
【数5】

【0077】
さらに例えば、フェーズドアレーアンテナの視野角が、せいぜい±10度程度となる場合には、
【0078】
【数6】

【0079】
なる近似を用いると、(Δξ,Δη)は下式(15)のようになる。
【0080】
【数7】

【0081】
以上のように、電波到来方向演算装置13又は測定アンテナ方向演算装置21において、上式(10)の代わりに、上式(13)又は上式(15)のいずれかを解くことで、容易に実際の電波の到来方向または受信アンテナの方向を求めることが可能となる。
【0082】
実施の形態9.
図14はこの発明の実施の形態9によるアンテナ装置の構成を示した図である。図14のアンテナ装置100は、各素子アンテナ1−m,nにはそれぞれ切換器25−m,nに接続され、切換器25−m,nには切換器制御装置26が接続され、切換器制御装置26には素子電界位相演算装置9が接続されている。
【0083】
次に、動作について図を用いて説明する。上記各実施の形態では、素子電界位相演算装置9として素子電界ベクトル回転法により電界位相を求めた。実施の形態9では、アレーアンテナの各素子アンテナ1−m,nのうち一つを動作状態にし、その他の素子アンテナには整合負荷を接続させることで、動作状態の素子アンテナの受信電界の位相を一素子ずつ求める方法を用いる。
【0084】
図15は切換器25−m,nの構成を示しており、図15に示すように、切換器25−m,nは2つのスイッチ27−1及び27−2が設けられており、スイッチ27−1は素子アンテナ1−m,nとダミー抵抗R1を切り換えるスイッチで、スイッチ27−2は移相器2−m,nとダミー抵抗R2を切り換えるスイッチである。スイッチ27−1を素子アンテナ1−m,n側に、スイッチ27−2を移相器2−m,n側に接続することで素子アンテナ1−m,nが動作状態になり、一方、スイッチ27−1及び27−2両方をダミー抵抗R1,R2側に接続することで、素子アンテナ1−m,nを非動作状態にすることができる。
【0085】
切換器制御装置26では、素子電界位相演算装置9により指定された動作状態にする素子アンテナ1−m,nと非動作状態にする素子アンテナ1−m,nに応じて、各切換器25−m,nの各スイッチ27−1,27−2を切り換える。上記のような切換器25−m,n及び切換器制御装置26を用いて、アレーアンテナを構成する素子アンテナ1−m,nのうち一素子を動作状態にし、その他の素子アンテナ1−m,nを非動作状態にした状態で、素子電界位相演算装置9では、アンテナの受信信号から当該素子アンテナ1−m,nの位相を求める。この操作を全素子アンテナ1−m,nに対して行うことで、アレーアンテナの各素子アンテナ1−m,nの電界位相を求めることが可能となる。
【0086】
このように、実施の形態9では、素子電界位相演算装置9において各素子アンテナを一素子ずつ動作状態にしての当該素子アンテナの電界位相を求めた場合においても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態2ないし8に対しても、同様の切換器や切換器制御装置を設けることにより、同様の効果を得ることができる。
【0087】
実施の形態10.
上記各実施の形態では、最適位相平面演算装置11は最小二乗法を用いて差分位相演算装置10によって求めた位相量の分布からアンテナ素子座標の1次式で表されるような最適な平面の位相分布を求めたが、素子電界位相演算装置9で求められる位相量が有する360度の位相不確定性を考慮した方法として、最適位相平面演算装置11で下式(16)を最小とするようなa,b,cを例えば共役勾配法などにより求めた場合にも同様の効果を得ることができる。
【0088】
【数8】

【0089】
また、位相量の分布からアンテナ素子座標の1次式で表されるような最適な平面の位相分布の求め方として、最急降下法を用いてもよい。
【0090】
またこの発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、これらの実施の形態の可能な組み合わせを全て含むことは云うまでもない。
【符号の説明】
【0091】
1−m,n 素子アンテナ、2−m,n 移相器、3 移相器制御装置、4 電力分配合成回路、4a−m,n 第2の電力分配合成回路、5,5−1〜5-Nb ビーム形成回路、6 (第1の)検波回路、6a 第2の検波回路、7 角度記憶装置、8 初期位相演算装置、9 素子電界位相演算装置、10 差分位相演算装置、11 最適位相平面演算装置、12 法線ベクトル演算装置、13 電波到来方向演算装置、14 航空機、15,15−1〜15−Ns 測定対象アンテナ、16 第1の送信機、16a 第2の送信機、17−1〜17−Ns 受信アンテナ、17a 第2の受信アンテナ、18−1〜18−Ns 送信アンテナ、19,19,19−n サブアンテナ装置、20 素子電界位相記憶装置、21 測定アンテナ方向演算装置、22 電波到来方向記憶装置、23 ヌル形成位相演算装置、24 測定アンテナ方向記憶装置、25−m,n 切換器、26 切換器制御装置、27−1,27−2 スイッチ、100 アンテナ装置、101 アンテナ装置本体、R1,R2 ダミー抵抗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素子アンテナから成るアレーアンテナと、前記各素子アンテナ毎に設けられそれぞれの位相量を変える移相器、前記各移相器の設定位相を制御する移相器制御装置および前記各移相器への入出力信号の分配合成を行う電力分配合成回路を含むビーム形成回路とにより構成されるフェーズドアレーアンテナを備えたアンテナ装置であって、
前記電力分配合成回路に接続され各素子アンテナの受信信号の検波を行う検波回路と、
前記フェーズドアレーアンテナの複数の素子アンテナで形成した主ビームを放射する少なくとも1つの測定対象アンテナの位置情報に基づく方向を記憶する角度記憶装置と、
前記角度記憶装置で記憶された方向に主ビームを形成するために各素子アンテナに設定する位相量を計算する初期位相演算装置と、
前記検波回路の検波に基づき、前記少なくとも1つの測定対象アンテナからの電波によるフェーズドアレーアンテナの受信信号から各素子アンテナの受信電界の位相量の逆符号の位相量を求める素子電界位相演算装置と、
前記各素子アンテナの前記初期位相演算装置の位相量と前記素子電界位相演算装置の位相量の差分をとる差分位相演算装置と、
前記差分位相演算装置の差分位相量の分布からアンテナ素子座標の1次式で表されるような平面の位相分布を求める最適位相平面演算装置と、
前記平面の位相分布の法線ベクトルを求める法線ベクトル演算装置と、
前記法線ベクトルと前記角度記憶装置で記憶した方向を用いて実際の電波の到来方向を求める電波到来方向演算装置と、
を備えたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
複数の素子アンテナから成るアレーアンテナと、前記各素子アンテナ毎に設けられそれぞれの位相量を変える移相器、前記各移相器の設定位相を制御する移相器制御装置および前記各移相器への入出力信号の分配合成を行う電力分配合成回路を含むビーム形成回路とにより構成されるフェーズドアレーアンテナを含むアンテナ装置本体と前記アンテナ装置本体と別体に設けられた少なくとも1つのサブアンテナ装置からなるアンテナ装置であって、
前記アンテナ装置本体が、送信機、角度記憶装置、初期位相演算装置、受信アンテナ、検波回路、素子電界位相記憶装置、差分位相演算装置、最適位相平面演算装置、法線ベクトル演算装置、測定アンテナ方向演算装置を備え、
前記各サブアンテナ装置が、送受信手段、素子電界位相演算装置を備え、
前記アンテナ装置本体の
前記角度記憶装置がフェーズドアレーアンテナの複数の素子アンテナで形成した主ビームを放射する少なくとも1つの前記サブアンテナ装置の位置情報に基づく方向を記憶し、
前記初期位相演算装置が前記角度記憶装置で記憶された方向に主ビームを形成するために各素子アンテナに設定する位相量を計算し、
前記移相器制御装置が計算された位相量に従って前記各移相器の設定位相を制御し、
前記第1の送信機が前記電力分配合成回路に接続されて前記複数の素子アンテナで形成される主ビームを前記少なくとも1つの測定対象アンテナに放射し、
前記サブアンテナ装置の
前記送受信手段が第1の受信アンテナと送信アンテナを有し、前記主ビームを受信すると共に演算結果としての逆符号の位相量を示す信号を送信し、
前記素子電界位相演算装置が受信結果から前記フェーズドアレーアンテナの各素子アンテナからの放射電界の位相量の前記逆符号の位相量を演算して求め、
前記アンテナ装置本体の
前記受信アンテナが前記サブアンテナ装置より送信された前記逆符号の位相量を示す信号を受信し、
前記検波回路が前記受信アンテナでの受信信号を検波し、
前記素子電界位相記憶装置が検波結果に基づき前記各素子アンテナの逆符号の位相量を記憶し、
前記差分位相演算装置が前記各素子アンテナの前記初期位相演算装置の位相量と前記素子電界位相記憶装置の位相量の差分を求め、
前記最適位相平面演算装置が前記差分位相演算装置の差分位相量の分布からアンテナ素子座標の1次式で表されるような平面の位相分布を求め
前記法線ベクトル演算装置が前記平面の位相分布の法線ベクトルを求め、
前記測定アンテナ方向演算装置が前記法線ベクトルと前記角度記憶装置で記憶した方向を用いて、前記アレーアンテナからみた前記サブアンテナ装置の第1の受信アンテナの方向を求める、
ことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項3】
複数の前記測定対象アンテナの方向から複数の電波が到来する場合に、前記電波到来方向演算装置が前記複数の電波に対して各電波の到来方向をそれぞれ求め、
求めた複数の電波の到来方向を記憶する電波到来方向記憶装置と、
前記電波到来方向記憶装置に記憶された方向のうち所望の1つの方向に前記フェーズドアレーアンテナの主ビームを形成し、かつ前記所望の1つの方向以外のうち少なくとも1方向にフェーズドアレーアンテナのヌルを形成するために、各素子アンテナに設定する位相量を求めるヌル形成位相演算装置と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
複数のサブアンテナ装置を備え、前記測定アンテナ方向演算装置が複数の前記サブアンテナ装置に搭載された各第1の受信アンテナに対して、アレーアンテナからみた各第1の受信アンテナの方向をそれぞれ求め、
求めたアレーアンテナからみた複数の第1の受信アンテナの方向を記憶する測定アンテナ方向記憶装置と、
前記測定アンテナ方向記憶装置に記憶された方向のうち所望の1つの方向に前記フェーズドアレーアンテナの主ビームを形成し、かつ前記所望の1つの方向以外のうち少なくとも1方向にフェーズドアレーアンテナのヌルを形成するために、各素子アンテナに設定する位相量を求めるヌル形成位相演算装置と、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記フェーズドアレーアンテナが、マルチビームを形成するための複数のビーム形成回路、及び前記複数のビーム形成回路の各素子アンテナ端子を各素子アンテナごとに分配合成する複数の電力分配合成回路とを備えたマルチビームアンテナからなり、
複数の前記測定対象アンテナの方向から複数の電波が到来する場合に、前記電波到来方向演算装置が前記複数の電波に対して少なくとも一つの前記ビーム形成回路を用いて到来方向を求め、
求めた複数の電波の到来方向を記憶する電波到来方向記憶装置と、
前記電波到来方向記憶装置に記憶された電波の到来方向のうち所望の1つの方向に前記マルチビームアンテナの各ビームの主ビームを形成し、かつ前記所望の1つの方向以外の方向に各ビームのヌルを形成するために各素子アンテナに設定する位相量を求めるヌル形成位相演算装置と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記フェーズドアレーアンテナが、マルチビームを形成するための複数のビーム形成回路、及び前記複数のビーム形成回路の各素子アンテナ端子を各素子アンテナごとに分配合成する複数の電力分配合成回路とを備えたマルチビームアンテナからなり、
複数のサブアンテナ装置を有する場合に、前記測定アンテナ方向演算装置が前記複数のサブアンテナ装置に搭載された各第1の受信アンテナに対してアレーアンテナからみた各第1の受信アンテナの方向をそれぞれ求め、
求めたアレーアンテナからみた複数の第1の受信アンテナの方向を記憶する測定アンテナ方向記憶装置と、
前記測定アンテナ方向記憶装置に記憶されたアレーアンテナからみた複数の第1の受信アンテナの方向のうち所望の1つの方向に前記マルチビームアンテナの各ビームの主ビームを形成し、かつ前記所望の1つの方向以外の方向に各ビームのヌルを形成するために各素子アンテナに設定する位相量を求めるヌル形成位相演算装置と、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記ヌル形成位相演算装置が、フェーズドアレーアンテナの主ビームおよびヌルを所望の方向に形成するために、各素子アンテナに設定する位相量を求める際に、主ビーム方向とヌルを向ける方向に対応した各素子アンテナ設定する位相量を記憶したデータベースを利用する方法、平面波合成法を用いる方法、最適化演算を行う方法のいずれか1つを用いて各素子アンテナに設定する位相量を計算することを特徴とする請求項3から6までのいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記最適位相平面演算装置が、最小二乗法、最急降下法、共役勾配法のいずれか1つを用いて平面の位相分布を求めることを特徴とする請求項1から7までのいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記素子電界位相演算装置が、素子電界ベクトル回転法を用いてフェーズドアレーアンテナの各素子アンテナの電界位相を求めることを特徴とする請求項1から8までのいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記複数の素子アンテナと前記移相器の間にそれぞれに設けられ前記素子アンテナを前記移相器と整合負荷との間で切り換えて接続する切換器と、
前記複数の切換器を、1つの素子アンテナを移相器側に接続して動作状態にし、その他の素子アンテナを整合負荷側に接続して非動作状態に制御する切換器制御装置と、
をさらに備え、
前記素子電界位相演算装置が前記切換器制御装置を制御して前記複数の素子アンテナを1つずつ動作状態にして各素子アンテナの電界位相の逆符号の位相量を求めることを特徴とする請求項1から8までのいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項11】
前記測定対象アンテナまたはサブアンテナ装置が既知の位置に固定された固定局である場合に、前記電波到来方向演算装置または測定アンテナ方向演算装置が、前記法線ベクトル演算装置で求めた法線ベクトルを用いて求めた電波到来方向またはサブアンテナ装置の第1の受信アンテナの方向と前記角度記憶装置で記憶した方向の差、または複数の求めた電波到来方向またはサブアンテナ装置の第1の受信アンテナの方向と前記角度記憶装置で記憶した方向の差の平均値から、アンテナ装置の姿勢誤差またはフェーズドアレーアンテナの開口面の傾斜誤差を求めることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項12】
前記電波到来方向演算装置または前記測定アンテナ方向演算装置において電波の到来方向または第1の受信アンテナの方向を求める際に、前記法線ベクトル演算装置で求めた法線ベクトルと前記角度記憶装置で記憶した方向の差が充分小さくかつフェーズドアレーアンテナの視野角が充分小さいことを条件とする近似式により求めることを特徴とする請求項1から11までのいずれか1項に記載のアンテナ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2011−19067(P2011−19067A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162054(P2009−162054)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】