説明

アンテナ装置

【課題】簡単(低コスト)な構成で、少なくとも方位の検出対象の角度範囲である検出角度範囲内では位相折り返し(偽像)の影響を抑制して高精度の方位検出を行うことが可能なアンテナ装置を提供する。
【解決手段】送信アンテナ30は、予め設定された配列方向に沿って所定の送信側配置間隔Dtを隔てて配置された複数の送信側単位アンテナ31,32,33,34からなり、複数の受信アンテナ10,20は、それぞれ、上記配列方向に沿って所定の配列間隔Ddで配列されていると共に、各受信アンテナ10,20の各々は、上記配列方向に沿って所定の受信側配置間隔Drを隔てて配置された複数の受信側単位アンテナ11,12(21,22)からなる。そして、受信側配置間隔Drは送信側配置間隔Dtよりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットの方位を検出するレーダ装置に適用するアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送信アンテナから放射されてターゲットに反射して戻ってくる反射波を、複数の(複数チャンネルの)受信アンテナで受信し、各受信アンテナで受信されたチャンネル毎の受信信号の位相差からターゲットの方位を検出する、いわゆる位相モノパルス方式のレーダ装置が知られている。
【0003】
しかし、位相差を利用して方位を検出する場合、位相差ΔφとΔφ±360n°(nは自然数)とを識別できないことに基づく、いわゆる位相の折り返し(グレーティング)が発生する。そのため、その位相折り返しにより生じる偽像により、位相差が360°変化する範囲(例えば、−180°<Δφ≦180°となる方位角の範囲)より外に位置するターゲットがその範囲内に位置するものとして誤検出されてしまう。
【0004】
これに対し、位相折り返しによる誤検出を防ぐ方法が種々提案されている。例えば特許文献1には、複数の受信アンテナの間隔を不等間隔とすることでグレーティングを抑圧する技術が記載されている。また、特許文献2には、複数の受信アンテナにおいて、各々の受信アンテナを構成するアレーを隣接する受信アンテナと共用する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−32314号公報
【特許文献2】特開2009−76986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術では、受信アンテナを不等間隔で配置するが故に、特定条件下で意図しない不要波が発生するという問題がある。また、特許文献2に記載の技術では、受信アンテナを構成する複数のアレーの一部を隣接する他の受信アンテナと共用しているため、隣接する受信アンテナ相互間のアイソレーションが悪化する。しかも、アレーの一部を共用する構成であるため、アンテナの設計・製作が複雑化してしまう。
【0007】
尚、位相折り返しによる誤検出を防ぐためには、一般に、各チャンネルの受信アンテナの間隔を狭くすればよい。一方、検出可能な方位角の分解能という観点では、受信アンテナ全体の幅は広い方がよい。しかし、高い分解能を実現しつつ位相折り返しによる誤検出の抑制を実現するためには、受信アンテナの数(チャンネル数)を多くする必要があり、コスト的に大きな問題となる。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、簡単(低コスト)な構成で、少なくとも方位の検出対象の角度範囲である検出角度範囲内では位相折り返し(偽像)の影響を抑制して高精度の方位検出を行うことが可能なアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、送信アンテナからの送信電波の反射波を複数の受信アンテナの各々で受信して各受信信号間の位相差に基づいて電波を反射した物標(ターゲット)の方位を検出する方位検出装置に用いられ、送信アンテナ及び複数の受信アンテナを備えたアンテナ装置である。
【0010】
送信アンテナは、予め設定された配列方向に沿って所定の送信側配置間隔を隔てて配置された複数の送信側単位アンテナからなる。また、複数の受信アンテナは、それぞれ、上記配列方向に沿って所定の配列間隔で配列されていると共に、各受信アンテナの各々は、上記配列方向に沿って所定の受信側配置間隔を隔てて配置された複数の受信側単位アンテナからなる。そして、受信側配置間隔は送信側配置間隔よりも大きい。
【0011】
一般に、レーダ装置を構成するアンテナ装置の特性を評価する際は、送信アンテナの指向性(利得)と受信アンテナの指向性(利得)とを合成した送受信合成特性(送受信合成利得)を用いることが多い。そして、位相折り返しによる偽像の影響を抑制するための設計上のアプローチとしては、従来、検出角度範囲外の送受信合成利得をいかに下げるか(つまり偽像のレベルをいかに下げるか)ということに重点が置かれることが一般的であった。
【0012】
これに対し、本発明者らは、検出角度範囲内における任意の角度において、多少の偽像があっても、その角度における本来の送受信電波(以下「所望波」とも言う)の送受信合成利得がその偽像に対して相対的に大きければ偽像の影響を抑えられる、ということに着目した。つまり、偽像のレベルを抑えることに固執するのではなく、所望波と偽像との相対関係(比率)に着目し、これを大きくすればよい、ということに着目した。
【0013】
尚、以下の説明では、検出角度範囲内における任意の角度において位相折り返し(偽像)により生じる送受信合成利得については、説明の便宜上、その角度において上記所望波とは別の仮想の電波が送受されることによってその送受信合成利得が生じるものとして説明する。そして、その仮想の電波を、以下「不要波」と言う。
【0014】
本来望まれる電波(所望波)と望まれない電波(不要波)との比率は、一般に、DU比(Desired to Undesired Signal ratio )として知られており、このDU比が大きくなるようなアンテナ装置を実現できれば、位相折り返しの影響を抑えることができる。
【0015】
そして、DU比を大きくする方法として、本発明者らは、受信アンテナの指向性を絞る(ビーム幅を全体的に細く絞る)ことによって検出角度範囲外の送受信合成利得を下げ、逆に送信アンテナの指向性を広げる(ビーム幅を全体的に太く広げる)ことによって検出角度範囲内の送受信合成利得を上げることができ、これによりDU比を大きくできるということに着目した。
【0016】
そして、それを実現すべく、まず受信アンテナについては、各受信アンテナをいずれも、受信側配置間隔で配置された複数の受信側単位アンテナによって構成する。つまり、複数の受信側単位アンテナが受信側配置間隔で配置されることによって1つの受信アンテナが構成されており、さらに、その受信アンテナが所定の配列間隔で複数配列されている。そして、受信アンテナを構成する各受信側単位アンテナの間隔(受信側配置間隔)を、送信アンテナを構成する各送信側単位アンテナの間隔(送信側配置間隔)よりも大きくする。
【0017】
受信側配置間隔を大きくするほど、受信アンテナのビーム幅を細く絞ることができ、また、送信側配置間隔を小さくするほど、送信アンテナのビーム幅を広げることができ、これにより、送受信合成利得について、メインビームをより高利得化でき、逆にサイドローブをより低利得化できる。
【0018】
そのため、例えばメインビーム内の所定の角度範囲を検出角度範囲とすれば、その検出角度範囲内において高いDU比を得ることができる。
従って、請求項1に記載のアンテナ装置によれば、簡単(低コスト)な構成で、少なくとも方位の検出対象の角度範囲である検出角度範囲内では位相折り返し(偽像)の影響を抑制して高精度の方位検出を行うことができる。
【0019】
そして、上述した各配置間隔は、例えば請求項2に記載のように設定するとよい。即ち、送信アンテナの指向性と受信アンテナの指向性とを合成したものを送受信合成特性として、この送受信合成特性は、少なくとも予め設定された所定の検出角度範囲全体をメインローブに含み、少なくとも検出角度範囲全体において、この検出角度範囲内の任意の角度での送受信合成特性のメインローブの強度と、グレーティングによってその角度に折り返されることによりその角度において偽像として生じる送受信合成特性の強度との比(即ちDU比)が、所定の閾値以上となるように、送信側配置間隔及び受信側配置間隔がそれぞれ設定されている。
【0020】
このように構成されたアンテナ装置によれば、少なくとも検出角度範囲内においてDU比が所定の閾値以上であるため、少なくとも検出角度範囲内においては偽像の影響を確実に抑えることができ、レーダ装置に適用した場合に偽像に起因する誤検出を確実に抑えることが可能となる。
【0021】
次に、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のアンテナ装置であって、送信アンテナ及び各受信アンテナは、いずれも、誘電体基板の両面のうち同じ一方の面上にストリップ導体にて形成されており、更に、その同じ一方の面上に、送信側給電線及び受信側給電線がストリップ導体にて形成されている。そして、送信アンテナに対しては送信側給電線から、受信アンテナに対しては受信側給電線から、それぞれ給電が行われるよう構成されている。
【0022】
各アンテナと給電線路とが誘電体基板における同一面上に形成された構成では、給電線路からの不要放射の影響によって、各アンテナのサイドローブが大きくなり、これによりサイドローブ側の送受信合成利得が大きくなってしまう。
【0023】
このような場合、従来のような単にサイドローブのレベルをいかに下げるかというアプローチだけでは所望の検出角度範囲内でのDU比を大きくするのは困難だが、本発明では、相対的に受信側配置間隔を送信側配置間隔よりも大きくするという技術思想によって結果としてDU比を大きくすることができる。そのため、上記のようにアンテナと給電線路とが誘電体基板における同一面上に形成された構成であっても、位相折り返しの影響を抑制して高精度の方位検出を行うことができる。
【0024】
次に、請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のアンテナ装置であって、送信アンテナを構成する各送信側単位アンテナ、及び受信アンテナを構成する各受信側単位アンテナは、上記配列方向と直交する方向に配列された複数の放射素子からなる。
【0025】
このように、送信側及び受信側の各単位アンテナをそれぞれ、複数の放射素子を上記配列方向(以下「アンテナ配列方向」ともいう)と直交する方向(以下「素子配列方向」ともいう)に配列することにより構成することで、送受信指向性をより絞り込むことができる。即ち、アンテナ配列方向と素子配列方向を含む平面(つまり各放射素子が配置されている面であり、以下「素子配置面」ともいう)に垂直な平面であって且つ素子配列方向と平行な平面を配列方向垂直面として、この配列方向垂直面の指向性をより絞り込むことができるのであり、より具体的には、この配列方向垂直面の指向性における素子配置面の法線方向の指向性(利得)を最も強くし、逆にその法線方向との角度差が広がるほど(即ち素子配置面との成す角度が小さくなるほど)指向性を弱くすることができる。そのため、例えば上記法線方向を含む所定の角度範囲内からの電波のみ良好に受信できればよくて逆にその角度範囲外からの電波の受信は抑えたいような場合、本請求項4に記載の構成のアンテナであれば、上記角度範囲外からの不要な電波を抑えることができるため、特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態のアンテナ装置の概略構成を表す構成図である。
【図2】実施形態のアンテナ装置において実現される、位相折り返し(偽像)の影響を抑制する方法を説明するための説明図である。
【図3】実施形態のアンテナ装置において実現される、位相折り返し(偽像)の影響を抑制する具体的方法を説明するための説明図である。
【図4】実施形態のアンテナ装置の各種特性例を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に、本実施形態のアンテナ装置1の概略構成を示す。アンテナ装置1は、位相モノパルス方式の車載レーダ装置(方検出装置)に用いられるものであり、主として、送信アンテナ30と、複数(本実施形態では2つ)の受信アンテナ10,20とを備えてなるものである。各受信アンテナ10,20はそれぞれ、異なる受信チャネル(1チャネル及び2チャネル)を構成する。
【0028】
尚、位相モノパルス方式の車載レーダ装置の具体的構成や動作については従来知られているため、その詳細説明及び図示は省略するが、概要のみ簡単に説明する。
本実施形態のアンテナ装置1が用いられる車載レーダ装置は、ミリ波帯(例えば76GHz〜77GHz)の高周波信号を発生させる高周波信号発生部と、この高周波信号発生部にて生成された高周波信号を電力分配して、アンテナ装置1における送信アンテナ30へ供給する送信信号と後述する受信回路部へ供給するローカル信号とを生成する送信回路部とを備えている。このうち送信アンテナ30へ供給される送信信号が、送信アンテナ30から電波にて車両前方へ送信される。
【0029】
また、車載レーダ装置は、アンテナ装置1における各受信アンテナ10,20にて受信され受信信号(即ち送信アンテナ30から送信されて車両前方のターゲットにて反射された反射波)に上記ローカル信号を混合することによって各受信アンテナ10,20からの受信信号毎(チャネル毎)にビート信号を生成する受信回路部と、この受信回路部にて生成された各チャネルのビート信号の位相差等に基づいて、レーダ波(送信電波)を反射したターゲットに関する情報(方位、相対速度,距離等)を求める信号処理部とを備えている。
【0030】
尚、このような機能を有する送信回路部及び受信回路部は周知のものであり、いずれも1チップのMMIC(モノリシックマイクロ波集積回路)として構成されている。
アンテナ装置1は、図1に示すように、誘電体基板5の両面のうち一方の面に、2つの受信アンテナ10,20及び送信アンテナ30が形成されてなるものである。各受信アンテナ10,20及び送信アンテナ30は、いずれも、ストリップ導体にて形成されている。尚、誘電体基板5の他方の面には、導体からなる接地板が形成されている。
【0031】
送信アンテナ30は、4つの送信側単位アンテナ31,32,33,34が水平方向(本発明の配列方向に相当)に沿って所定の送信側配置間隔Dtを隔てて配置されて構成されている。
【0032】
各送信側単位アンテナ31,32,33,34のうち受信アンテナ20に最も近い位置にある送信側単位アンテナ31は、矩形状の放射素子31aが、水平方向と直交する垂直方向に沿って所定間隔で複数配列されて構成されている。つまり、この送信側単位アンテナ31は、複数の矩形状の放射素子31aが垂直方向にアレー状に配列されてなるマイクロストリップアレーアンテナとして構成されている。
【0033】
矩形状の放射素子31aは、いずれも、その長辺方向が垂直方向に対して所定の角度だけ傾斜した状態となるように配置されている。
他の3つの送信側単位アンテナ32,33,34についても、上述した送信側単位アンテナ31と全く同じ構成であり、上述した送信側単位アンテナ31から送信側配置間隔Dt隔てて隣接配置された送信側単位アンテナ32は、複数の矩形状の放射素子32aが垂直方向にアレー状に配列されてなるマイクロストリップアレーアンテナとして構成され、この送信側単位アンテナ32からさらに送信側配置間隔Dt隔てて隣接配置された送信側単位アンテナ33は、複数の矩形状の放射素子33aが垂直方向にアレー状に配列されてなるマイクロストリップアレーアンテナとして構成され、この送信側単位アンテナ33からさらに送信側配置間隔Dt隔てて隣接配置された送信側単位アンテナ34(つまり受信アンテナから最も離れている送信側単位アンテナ)は、複数の矩形状の放射素子34aが垂直方向にアレー状に配列されてなるマイクロストリップアレーアンテナとして構成されている。
【0034】
そのため、これら4つの送信側単位アンテナ31,32,33,34全体の幅(水平方向の幅。以下「送信アンテナ幅」と言う。)Dwは、各送信側単位アンテナの配置間隔である送信側配置間隔Dtの3倍となる。
【0035】
そして、この送信アンテナ30を構成する4つの送信側単位アンテナ31,32,33,34は、送信側給電線路35a、35bを介して送信側給電点35に接続されている。より詳しくは、この送信側給電点35は、この送信アンテナ30における、垂直方向の略中間位置に位置しており、この送信側給電点35から、上方(図1中上方向)へ送信側給電線路35aが延設されてこの送信側給電点35より上方に位置する各放射素子31a,32a,33a,34aに接続(即ち各送信側単位アンテナ31,32,33,34に接続)されていると共に、この送信側給電点35から、下方(図1中下方向)にも送信側給電線路35bが延設されてこの送信側給電点35より下方に位置する各放射素子11a,12aに接続されている。
【0036】
一方、各受信アンテナ10,20は、水平方向に沿って所定の配列間隔Ddで配列されている。
そして、各受信アンテナ10,20のうち送信アンテナ30から遠い位置にある一方の受信アンテナ10(受信チャネル:1チャネル)は、2つの受信側単位アンテナ11,12が水平方向に沿って所定の受信側配置間隔Drを隔てて配置されて構成されている。
【0037】
この1つの受信アンテナ10を構成する2つの受信側単位アンテナ11,12は、いずれも同じ構成であって、一方(送信アンテナ30から遠い位置にある方)の受信側単位アンテナ11は、矩形状の放射素子11aが垂直方向に沿って所定間隔で複数配列されて構成されている。つまり、この受信側単位アンテナ11は、複数の放射素子11aが垂直方向にアレー状に配列されてなるマイクロストリップアレーアンテナとして構成されている。矩形状の放射素子11aは、そして、いずれも、その長辺方向が垂直方向に対して所定の角度だけ傾斜した状態となるように配置されている。
【0038】
つまり、この受信側単位アンテナ11は、送信アンテナ30を構成する各送信側単位アンテナ31,32,33,34と同じ構成である。但し、このように受信側と送信側とで単位アンテナを同じ構成とするのは必須ではなく、異なる構成としてもよい。
【0039】
もう一方の受信側単位アンテナ12についても同様の構成であり、複数の矩形状の放射素子12aが垂直方向にアレー状に配列されてなるマイクロストリップアレーアンテナとして構成されている。
【0040】
そして、この受信アンテナ10を構成する2つの受信側単位アンテナ11,12は、受信側給電線路15a,15bを介して第1の受信側給電点15に接続されている。より詳しくは、この第1の受信側給電点15は、この受信アンテナ10における、垂直方向の略中間位置に位置しており、この受信側給電点15から、上方(図1中上方向)へ受信側給電線路15aが延設されてこの受信側給電点15より上方に位置する各放射素子11a,12aに接続されていると共に、この受信側給電点15から、下方(図1中下方向)にも受信側給電線路15bが延設されてこの受信側給電点15より下方に位置する各放射素子11a,12aに接続されている。
【0041】
他方の受信アンテナ20(受信チャネル:2チャネル)についても全く同様の構成であり、2つの受信側単位アンテナ21,22が水平方向に沿って受信側配置間隔Drを隔てて配置されて構成されている。各受信側単位アンテナ21,22の具体的構成およびこれらに接続された各給電線路25a,25bの構成は、上述した一方の受信アンテナ10を構成する各受信側単位アンテナ11,12と全く同じであるため、その詳細説明は省略する。
【0042】
また、上記各給電線路15a,15b,25a,25b,35a,35bも、誘電体基板5の一方の面、即ち各受信アンテナ10,20及び送信アンテナ30が形成されている面と同一の面において、各受信アンテナ10,20及び送信アンテナ30と同様、ストリップ導体にて形成されている。
【0043】
このように構成されたアンテナ装置1は、車載レーダ装置を構成する構成要素(モジュール)として車載レーダ装置に搭載されている。そして、その車載レーダ装置は、アンテナ装置1における垂直方向(各放射素子の配列方向)が車両の上下方向となるよう、且つ、アンテナ装置1における水平方向(各単位アンテナの配列方向)が車両の左右方向(即ち地面に平行であって車両前方方向と直交する方向)と一致するように、車両の前端側に取り付けられ、使用される。
【0044】
そして、本実施形態のアンテナ装置1における、最も特徴的構成は、送信アンテナ30を構成する各送信側単位アンテナ31,32,33,34の間隔である送信側配置間隔Dtと、受信アンテナ10(20)を構成する各受信側単位アンテナ11,12(21,22)の間隔である受信側配置間隔Drとの関係にある。
【0045】
具体的には、本実施形態では、上記三者が次式(1)に示すような大小関係となるように構成されている。
Dr>Dt ・・・(1)
上記式(1)の条件(大小関係)を満たすようにアンテナ装置1が構成されていることで、このアンテナ装置1を車載レーダ装置において用いた場合に、ターゲットの方位等を高精度に検出すべき所定の検出角度範囲内において、位相折り返し(グレーティング)による偽像の影響を抑圧して誤検出を防ぐことができる。
【0046】
尚、受信側配置間隔Drと送信アンテナ幅Dwとの関係については、本実施形態では、次式(2)を満たすように構成されている。
Dr<Dw ・・・(2)
ここで、上記式(1)を満たすよう構成することによって検出角度範囲内において偽像の影響(誤検出)を抑制できることについて、図2、図3を用いて説明する。
【0047】
図2は、本実施形態のアンテナ装置1と同じ構成(但し各間隔Dr、Dtは任意)のアンテナ装置における指向性の一例を示すものである。図2では、アンテナ装置の指向性として、送信アンテナの指向性(図中一点鎖線)と、受信アンテナ(例えば1チャネルの受信アンテナ)の指向性(図中破線)と、これら送信アンテナ及び受信アンテナの各指向性(利得)を合成した指向性である送受信合成指向性(図中実線)とを示している。
【0048】
そして、車両前方を水平方向における方位0°として、この方位0°を中心とする車両左右方向の所定の方位角の範囲が、ターゲットを高精度に検出すべき検出角度範囲として設定されている。
【0049】
検出角度範囲内において、位相折り返しによる偽像の影響を抑圧してターゲットの方位を精度良く検出できるようにするためには、理想的には偽像そのものが生じないようにできればよいが、現実的にはそれは不可能に近い。
【0050】
一方、検出角度範囲内の任意の角度において、多少の偽像は生じたとしても、その角度における本来の送受信電波(所望波)の送受信合成利得がその偽像に対して相対的に大きければ、偽像の影響を抑えられる。即ち、その角度において偽像を生じさせる仮想の送受信電波(偽像としてその角度に折り返される送受信電波)である不要波の絶対的レベルは多少あっても、その不要波に対して所望波のレベルが相対的に大きければ、結果的に偽像の影響を抑えることができる。
【0051】
つまり、所望波と不要波の比率であるDU比を大きくすることができれば偽像の影響を抑えることができるのであって、本実施形態のアンテナ装置1は、検出角度範囲内におけるDU比をいかに大きくすることができるかという観点で設計されている。
【0052】
検出角度範囲内におけるDU比を大きくするためには、図2に示すように、送受信合成利得について、検出角度範囲内においては送受信合成利得をできるだけ上げたく、逆に検出角度範囲外においては送受信合成利得をできるだけ下げたい。そうすれば、たとえ検出角度範囲外のある角度における送受信合成利得がグレーティングによって検出角度範囲内のある角度に偽像として折り返されたとしても、その偽像による送受信合成利得(不要波の送受信合成利得)をその角度における本来の送受信合成利得(所望波の送受信合成利得)よりも相対的に十分小さくすることができ、結果として偽像の影響を抑制できる。
【0053】
そして、送受信合成利得について、検出角度範囲内ではより大きく、検出角度範囲外ではより小さくなるようにするために、本実施形態では、送信アンテナ30及び受信アンテナ10(20)について個別にアプローチを試みている。尚、以下の説明では、特に断りのない限り、各受信アンテナ10,20については代表として一方の受信アンテナ10について説明するものとする。
【0054】
即ち、図2に示すように、送信アンテナ(Tx)の指向性は、0°方向を中心とするメインローブを有するものの、サイドローブが一定レベルとなっている。このようにサイドローブが一定となっているのは、主として送信側給電線路35a,35bからの不要放射に起因している。本実施形態では、各アンテナと給電線路とが共に誘電体基板5における同一面上に形成されているため、各アンテナの指向性は給電線路からの不要放射の影響を受ける。そのため、送信アンテナ30の指向性のサイドローブは一定レベルとなってしまい、これを下げることは困難である。
【0055】
そこで、検出角度範囲外の送受信合成利得を下げるためには、図3(a)に示すように、受信アンテナ10の指向性を全体として絞る(ビーム幅を細く絞る)ようにすればよい。受信アンテナ10の指向性を絞れば、検出角度範囲内の利得も若干は下がってしまうものの、検出角度範囲外の利得の方が相対的により大きく下がるため、結果としてDU比向上につながる。
【0056】
そして、受信アンテナ10の指向性を全体的に絞るためには、受信アンテナ10を構成する各受信側単位アンテナ11,12の間隔である受信側配置間隔Drを大きくすればよい。受信側配置間隔Drが大きいほど受信アンテナ10の指向性が絞られてくる。
【0057】
一方、検出角度範囲内の送受信合成利得を上げるためには、図3(b)に示すように、送信アンテナ30の指向性を全体としてブロード化する(ビーム幅を広げる)ようにすればよい。送信アンテナ30の指向性をブロード化すれば、検出角度範囲内の利得が上がるため、結果としてDU比向上につながる。
【0058】
尚、図3(b)に示すように、送信アンテナ30の指向性をブロード化すると、検出角度範囲外の利得も若干上がってしまうが、送信アンテナ30の指向性のブロード化による検出角度範囲外の利得上昇は、上述した、受信アンテナ10のビームを絞ることによる検出角度範囲外の利得低下(図3(a)参照)よりも小さいため、相対的には(結果として)、検出角度範囲外の利得の低下は実現される。
【0059】
そして、送信アンテナ30の指向性をブロード化するためには、送信アンテナ30を構成する各送信側単位アンテナ31,32,33,34の間隔である送信側配置間隔Dtを小さくすればよい。送信側配置間隔Dtが小さいほど送信アンテナ30の指向性がブロード化していく。但し、ブロード化しすぎると、その分、検出角度範囲外の利得まで大きくなってしまうため、どの程度ブロード化するか(つまり送信側配置間隔Dtをどの程度小さくするか)については、受信アンテナ10の利得を考慮して、結果として検出角度範囲内のDU比が所望のレベル以上となるようにできればよい。
【0060】
そこで本実施形態では、上記式(1)の条件を満たすように、即ち、受信側配置間隔Drを送信側配置間隔Dtよりも大きくすることで、検出角度範囲内の送受信合成利得を検出角度範囲外の送受信合成利得よりも相対的に大きくなるようにし、延いては検出角度範囲内のDU比が大きくなるようにしている。
【0061】
図4に、本実施形態のアンテナ装置1の各種特性の一例を示す。図4(a)は、送信アンテナ(Tx)30の指向性と、受信アンテナ(Rx)10の指向性と、送受信合成指向性とを示している。図4(a)に示すように、送受信合成指向性は、検出角度範囲全体をメインローブに含んでいる。
【0062】
また、図4(b)は、送受信合成利得をより細かく分析すると共に併せてDU比も示している。即ち、図4(b)は、図4(a)に示した送受信合成指向性である所望波の送受信合成指向性(図中細い実線)と、位相折り返しによって左方向から折り返されてくる偽像に対応した不要波A(図中一点鎖線)の送受信合成指向性と、位相折り返しによって右方向から折り返されてくる偽像に対応した不要波B(図中二点鎖線)の送受信合成指向性と、所望波に対する各不要波A,Bの総和の比率であるDU比(図中太い実線)とを示している。
【0063】
また、図4(b)には、DU比の判定基準となるDU比閾値(limit)が、破線で示されている。このDU比閾値は、DU比がこのDU比閾値以上ならば偽像の影響を抑制して誤検出を十分に防ぐことができるような値に設定されている。
【0064】
図4(a)に示すように、例えば検出角度範囲における一端側(右方向側)の角度A1においては、その角度A1における本来の送受信合成利得(即ち所望波の送受信合成利得)だけでなく、グレーティング(位相折り返し)による偽像の送受信合成利得も加わる。具体的には、その角度A1よりも左側における所定の角度B1の送受信合成利得が、グレーティングによって角度A1に折り返される。また、角度A1よりも右側における所定の角度の送受信合成利得も、グレーティングによって角度A1に折り返される。
【0065】
そのため、角度A1における送受信合成利得は、詳しくは、図4(b)に示すように、所望波の利得に、各不要波A,Bの利得が重畳されたものとなる。
但し本実施形態のアンテナ装置1は、上記式(1)、(2)の条件を満たすように構成されていることから、角度A1においても、DU比はDU比閾値以上となっている。つまり、本実施形態のアンテナ装置1は、検出角度範囲全体に渡って、DU比がDU比閾値以上となっている。
【0066】
従って、本実施形態のアンテナ装置1によれば、上記式(1)、(2)の各条件を満たすようにするという簡単(低コスト)な構成で、少なくとも検出角度範囲内では位相折り返し(偽像)の影響を抑制して高精度の方位検出を行うことができる。
【0067】
しかも、本実施形態では、各アンテナと給電線路とが誘電体基板5の同一面上に形成されているため、給電線路からの不要放射の影響によってサイドローブを十分に下げることが困難であるが、そのような構成であっても、結果としてDU比を大きくすることができ、これにより位相折り返しの影響を抑制して高精度の方位検出を行うことができる。
【0068】
また、各単位アンテナについて、複数の放射素子を垂直方向に配列した構成としているため、垂直面指向性(即ち、垂直方向に平行な面であって且つ各放射素子が形成された誘電体基板5の板面に垂直な面の指向性)についても、誘電体基板5の板面に対する法線方向の指向性(利得)を最も強くし、逆にその法線方向との角度差が広がるほど(即ち誘電体基板5の板面との成す角度が小さくなるほど)指向性を弱くすることができる。そのため、例えば上記法線方向を含む所定の角度範囲内からの電波のみ良好に受信できればよくて逆にその角度範囲外からの電波の受信は抑えたいような場合には、本構成のアンテナ装置1を用いるとより効果的である。
【0069】
[変形例]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の実施の形態は、上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0070】
例えば、上記実施形態では、上記式(1)、(2)を共に満たすようなアンテナ装置1を構成したが、このうち式(1)の条件のみ満たすような構成であってもよい。但し、より好ましくは、式(1)、(2)の双方を満たすように構成するのがよい。
【0071】
また、受信アンテナの数(チャネル数)は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。1つの受信アンテナを構成する複数の受信側単位アンテナについても、上記実施形態では2つとしたが、3つ以上としてもよい。
【0072】
送信アンテナについても、上記実施形態では4つの送信側単位アンテナにより構成したが、送信側単位アンテナの数も適宜決めることができる。但し上記式(1)、(2)を共に満たすためには、送信側単位アンテナの数は少なくとも3つ以上とする必要がある。
【0073】
また、上記実施形態では、誘電体基板5における同一面上に各アンテナと給電線路が形成されたアンテナ装置1を示したが、本発明は、各アンテナが形成されている面上に給電線路がない場合(即ち不要放射の影響がない或いは少ない場合)であっても適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1…アンテナ装置、5…誘電体基板、10,20…受信アンテナ、11,12,21,22…受信側単位アンテナ、11a,12a,21a,22a,31a,32a,33a,34a…放射素子、15,25…受信側給電点、15a,15b…受信側給電線路、30…送信アンテナ、31,32,33,34…送信側単位アンテナ、35…送信側給電点、35a、35b…送信側給電線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信アンテナからの送信電波の反射波を複数の受信アンテナの各々で受信して各受信信号間の位相差に基づいて前記電波を反射した物標の方位を検出する方位検出装置に用いられ、前記送信アンテナ及び前記複数の受信アンテナを備えたアンテナ装置であって、
前記送信アンテナは、予め設定された配列方向に沿って所定の送信側配置間隔を隔てて配置された複数の送信側単位アンテナからなり、
前記複数の受信アンテナは、それぞれ、前記配列方向に沿って所定の配列間隔で配列されていると共に、該各受信アンテナの各々は、前記配列方向に沿って所定の受信側配置間隔を隔てて配置された複数の受信側単位アンテナからなり、
前記受信側配置間隔は前記送信側配置間隔よりも大きい
ことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアンテナ装置であって、
前記送信アンテナの指向性と前記受信アンテナの指向性とを合成したものを送受信合成特性として、
前記送受信合成特性は、少なくとも予め設定された所定の検出角度範囲全体をメインローブに含み、
少なくとも前記検出角度範囲全体において、前記検出角度範囲内の任意の角度での前記送受信合成特性の前記メインローブの強度と、グレーティングによってその角度に折り返されることによりその角度において偽像として生じる前記送受信合成特性の強度との比が、所定の閾値以上となるように、前記送信側配置間隔及び前記受信側配置間隔がそれぞれ設定されている
ことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のアンテナ装置であって、
前記送信アンテナ及び前記各受信アンテナは、いずれも、誘電体基板の両面のうち同じ一方の面上にストリップ導体にて形成されており、
更に、その同じ一方の面上に、送信側給電線及び受信側給電線がストリップ導体にて形成され、前記送信アンテナに対しては前記送信側給電線から、前記受信アンテナに対しては前記受信側給電線から、それぞれ給電が行われるよう構成されている
ことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のアンテナ装置であって、
前記送信アンテナを構成する前記各送信側単位アンテナ、及び前記受信アンテナを構成する前記各受信側単位アンテナは、前記配列方向と直交する方向に配列された複数の放射素子からなる
ことを特徴とするアンテナ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−222507(P2012−222507A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84564(P2011−84564)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】