説明

アーク溶接装置

【課題】 ウィービング溶接を精度よく行うことができ、溶接トーチの構造が単純なアーク溶接装置を提供する。
【解決手段】 電極棒19は、トーチ角変位軸線L1に対して傾斜して配置される。トーチ揺動駆動手段24によって、電極棒19の先端部19dは、トーチ角変位軸線まわりに揺動角変位する。電極棒19の先端部19dを揺動させた状態で、ロボット30によって基部21を接合方向Xに移動させることで、ウィービング溶接を行うことができる。電極棒19を揺動させた場合でも、電極棒19とトーチ角変位軸線L1との交点P1は、揺動方向に移動せずに留まる。したがって開先幅が狭くても、溶接トーチ22および電極棒19が被接合物18に接触することを防いでウィービング溶接を精度よく行うことができる。また溶接トーチ22に対して電極棒19を揺動移動させる構成ではないので、構造を簡単化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接装置に関し、特に狭開先が形成される被削物を溶接するTIG溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
第1の従来技術のTIG溶接装置が特許文献1に開示される。この溶接装置は、ロボットハンドに装着される。溶接装置は、ロボットによって接合方向に沿って移動されるとともに、接合方向に直交する方向にジグザグに揺動された状態でアーク溶接を行うことで、2つの被接合部材をウィービング溶接することができる。
【0003】
第2の従来技術のTIG溶接装置が特許文献2の[従来の技術]に開示される。この溶接装置は、トーチ管の先端部分に、棒状の電極棒が取り付けられる。電極棒の軸線と母材表面との成す角度が後退角を成すように、電極棒は、トーチ管の軸線に対して傾斜して固定される。溶接装置は、ロボットによって接合方向に沿って移動されるとともに、トーチ管を軸線まわりに揺動角変位させた状態でアーク溶接を行うことで、2つの被接合部材をウィービング溶接することができる。
【0004】
第3の従来技術の溶接装置が特許文献2の[発明の実施の形態]に開示される。この溶接装置は、トーチ管を接合方向に対して略直角方向に共振振動可能に構成される。溶接装置は、ロボットによって接合方向に沿って移動されるとともに、トーチ管を共振振動させた状態でアーク溶接を行うことで、2つの被接合部材をウィービング溶接することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−326362号公報(19段落、図1参照)
【特許文献2】特開平11−239878号公報(4段落、図6;37段落、図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第1の従来技術では、ロボットの先端部を、ウィービング動作に対応させてジグザグに揺動させる必要があり、ロボットの制御が複雑となるという問題がある。さらに電極棒を揺動させる振幅幅が小さい場合、ロボットアームの慣性力の影響によって、ウィービング不良が生じるおそれがある。たとえば狭開先の突合せ継手接合の場合には、電極棒を精度よく位置決めして揺動することができない場合があり、電極棒が揺動不足となったり、電極棒が開先壁面に衝突したりするおそれがある。
【0007】
第2および第3の従来技術では、溶接トーチに対して電極棒を揺動させる特殊な溶接トーチを用いる必要がある。また溶接トーチと電極棒とが固定される汎用的な溶接装置に比べて、構造が複雑となってしまう。これによって溶接ヘッドが故障しやすく、溶接トーチの信頼性が低下してしまうおそれがある。
【0008】
したがって本発明の目的は、ウィービング溶接を精度よく行うことができ、溶接トーチの構造が単純なアーク溶接装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ロボットに固定されて、予め定めるトーチ角変位軸線が設定される基部と、
電極棒の先端部を突出させた状態で、電極棒を着脱可能に装着する溶接トーチと、
前記トーチ角変位軸線まわりに揺動角変位可能に前記基部に連結されて、溶接トーチに装着される電極棒の中心軸線が前記トーチ角変位軸線に対して傾斜するように、前記溶接トーチを支持するトーチ支持部と、
前記トーチ支持部を前記トーチ角変位軸線まわりに揺動角変位駆動するトーチ揺動駆動手段とを含み、
前記電極棒の中心軸線と前記トーチ角変位軸線との交点が、電極棒のうちで溶接トーチから突出する突出部分に配置されることを特徴とするアーク溶接装置である。
【0010】
本発明に従えば、ロボットによって基部が変位駆動されて、トーチ角変位軸線を被接合物の開先の深さ方向に沿って配置されるとともに、電極棒の先端部が、被接合物の開先に配置される。電極棒は、トーチ角変位軸線に対して傾斜して配置される。トーチ揺動駆動手段によって、トーチ支持部をトーチ角変位軸線まわりに揺動角変位させると、電極棒の先端部は、トーチ角変位軸線まわりに揺動角変位することとなる。電極棒の先端部を揺動させた状態で、ロボットによって基部を接合方向に移動させることで、電極棒の先端部をジグザグに移動させることができ、ウィービング溶接を行うことができる。
【0011】
電極棒の先端部を揺動させた場合でも、電極棒の中心軸線とトーチ角変位軸線との交点は、揺動方向に移動せずに留まる。また溶接トーチは、電極棒の先端部を揺動させた場合でも、トーチ角変位軸線方向に関して交点よりも電極棒の先端部側に移動することがない。したがって交点を開先の開口または開口よりも外方に配置することによって、開先幅が狭くても、溶接トーチおよび電極棒が被接合物に接触することを防いでウィービング溶接を行うことができる。また本発明では、溶接トーチに対して電極棒を揺動移動させる構成ではないので、構造を簡単化することができる。
【0012】
本発明は、溶接トーチは、先端部が先細に形成される直線棒状の電極棒を同軸に装着することを特徴とする。
【0013】
本発明に従えば、溶接トーチが直線棒状の電極棒を装着することで、ウィービング動作を行うために特別形状の電極棒を用いる必要がない。したがって汎用的な溶接トーチおよび電極棒を用いることができ、製造コストの増加を抑えることができる。
【0014】
本発明は、非溶極式のアーク溶接装置であって、
溶接トーチに装着される電極棒近傍の領域に溶加材を案内する溶加材ガイドと、
前記トーチ角変位軸線に平行に延びる溶加材角変位軸線まわりに揺動角変位可能に前記基部に連結されて、溶加材ガイドを支持する溶加材ガイド支持部と、
溶加材ガイドによって案内される溶加材が溶接トーチに装着される電極棒に向かうように、トーチ支持部の揺動角変位に連動させて、溶加材ガイド支持部を溶加材角変位軸線まわりに揺動角変位駆動するガイド揺動駆動手段とをさらに含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に従えば、ガイド揺動駆動手段によって、トーチ支持部の揺動角変位に連動させて、溶加材ガイド支持部を溶加材角変位軸線まわりに揺動角変位駆動する。これによって、電極棒の揺動に応じて溶加材を揺動させることができ、電極棒を揺動させた場合であっても、電極棒と溶加材との位置ずれを抑えることができる。
【0016】
本発明は、前記ガイド揺動駆動手段は、前記トーチ揺動駆動手段の動力を伝達して、前記溶加材ガイド支持部を溶加材角変位軸線まわりに揺動角変位駆動する動力伝達機構によって実現されることを特徴とする。
【0017】
本発明に従えば、ガイド揺動駆動手段は、トーチ揺動駆動手段の動力を溶加材ガイド支持部に伝達する動力伝達機構によって実現される。これによって溶加材ガイド支持部を角変位させるために、別途駆動源を必要とすることがなく、簡単な構造で溶加材ガイド支持部とトーチ支持部の動作を連動させることができる。
【0018】
本発明は、前記基部に連結されて、開先位置に対する基部の相対位置を検出し、検出結果をロボットに与える開先位置検出手段をさらに含むことを特徴とする。
【0019】
本発明に従えば、開先位置検出手段が、開先位置に対する基部の相対位置を検出し、検出結果をロボットに与えることで、ロボットは、開先位置に対する基部のずれを補正するように、基部を移動させることができる。これによってウィービング溶接を行う間に、開先の形成精度が低くても、電極棒が被接合物に干渉することを防ぐことができる。
【0020】
本発明は、前記基部に連結されて、開先位置の深さを検出する開先深さ検出手段をさらに含むことを特徴とする。
【0021】
本発明に従えば、開先深さ検出手段が、開先深さを検出することで、検出結果に応じた制御を行うことができる。たとえば開先深さに基づいて、溶加材の供給量変化、電圧変化、基部の高さ変化を行うことで、接合品質をさらに向上することができる。
【0022】
本発明は、前記アーク溶接装置と、前記アーク溶接装置を変位移動するためのロボットとを含むことを特徴とする溶接設備である。
【0023】
本発明に従えば、ロボットによってアーク溶接装置を変位移動することで、ウィービング動作を行うことができる。ロボットは、アーク溶接装置を接合方向に交差する方向に揺動移動させる必要がなく、ロボットの制御を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の本発明によれば、溶接トーチと電極棒とを互いに固定した状態で、ウィービング溶接を行うことができ、溶接トーチに対して電極棒を揺動させる特殊な溶接トーチを用いる必要がない。したがって溶接トーチの構造を単純化することができ、溶接トーチの信頼性を向上することができる。また電極棒の中心軸線とトーチ角変位軸線との交点を、開先の開口または開口よりも外方に配置することによって、開先幅が狭くても、溶接トーチおよび電極棒が被接合物に干渉することを防いでウィービング溶接を行うことができる。これによって溶接トーチ自体が大型に形成されても、開先幅が狭い開先形状の突合せ継手を接合することができる。開先幅を狭くすることで、熱による組織変化および熱ひずみの影響を抑えることができ、接合される被接合部材の品質を向上することができる。
【0025】
請求項2記載の本発明によれば、汎用的な溶接トーチおよび電極棒を用いて、ウィービング溶接を行うことができ、製造コストの増加を抑えることができる。
【0026】
請求項3記載の本発明によれば、溶加材ガイドを電極棒の揺動に応じて揺動させる。これによって電極棒と溶加材との位置ずれを抑えて、ウィービング溶接を行うことができる。これによって溶加材の偏りを防ぐことができ、ビード高さをフラットにすることができる。また開先壁面付近で溶加する溶加材が不足することを防ぐことができる。これによって接合品質を向上することができる。
【0027】
請求項4記載の本発明によれば、動力伝達機構を用いて、溶加材ガイドの揺動機構を実現することで、別途駆動手段を用いる必要がない。これによって溶加材ガイドと電極棒との連動に関して、同期制御などを行うことなく、確実に連動させることができる。これによって連動不良を防ぐことができ、溶接装置の故障を防ぐことができる。
【0028】
請求項5記載の本発明によれば、開先位置検出手段を利用することで、開先位置に対する基部のずれを補正することができ、電極棒が被接合物に干渉することを防ぐことができる。これによって開先幅が狭くても、電極棒と被接合物とが干渉することを防いで、ウィービング溶接を行うことができる。
【0029】
請求項6記載の本発明によれば、開先深さ検出手段が、開先深さを検出することで、検出結果に応じた制御を行うことができる。たとえば開先深さに基づいて、溶加材の供給量変化、電圧変化、基部の高さ変化を行うことで、接合品質をさらに向上することができる。
【0030】
請求項7記載の本発明によれば、ロボットによってアーク溶接装置を変位移動することで、ウィービング動作を行うことができる。ロボットは、アーク溶接装置を接合方向に交差する方向に揺動移動させる必要がなく、ロボットの制御を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、本発明の一実施形態であるアーク溶接装置20の溶接ヘッド100を示す正面図である。図2は、溶接ヘッド100の一部を拡大して示す正面図である。本発明の一実施形態であるアーク溶接装置20は、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接を行う装置であって、ウィービング溶接可能に構成される。アーク溶接装置20は、アルゴンまたはヘリウムなどの不活性ガスの雰囲気中で、タングステンから成る電極棒19と、被接合物18との間に、アークを発生させて、そのアーク発生領域に溶加材17を繰出す。溶加材17は、金属材料からなり、可撓性を有する線状体である。
【0032】
アーク発生領域に向けて溶加材17を順次繰出して、アーク発生領域で溶加材17と被接合物18とを溶融させることによって、溶融した溶加材17によって、被接合物18に形成される開先を埋める。これによって被接合物18を構成する2つの被接合部材を溶接することができる。
【0033】
被接合物18は、アーク溶接装置20によって、突合せ溶接が施される。本実施の形態では、溶接前の被接合物18には、V型開先またはX型開先が形成される。開先は、予め定める接合方向Xに延びる。アーク溶接装置20は、電極棒19を接合方向Xに移動させるとともに、電極棒19を接合方向Xに交差する揺動方向Yに揺動変位させてアーク溶接を行うことで、2つの被接合部材をウィービング溶接することができる。
【0034】
アーク溶接装置20は、溶接ヘッド100を有する。溶接ヘッド100は、多関節ロボット30に接続されるエンドエフェクタとして用いられ、多関節ロボット30によって、位置および姿勢が変更される。これによって任意の位置に、アーク溶接可能となる。溶接ヘッド100は、基部21と、溶接トーチ22と、トーチ支持部23と、トーチ揺動駆動手段24と、溶加材ガイド25と、溶加材ガイド支持部26と、ガイド揺動駆動手段27とを含んで構成される。基部21は、多関節ロボット30の端部に固定されて、予め定めるトーチ角変位軸線L1が設定される。
【0035】
基部21は、溶接時に開先に沿って延びる接合方向Xと、溶接トーチ22を揺動させる揺動方向Yとが設定される。接合方向Xおよび揺動方向Yは、トーチ角変位軸線L1に垂直な平面に沿って延びる。また接合方向Xおよび揺動方向Yは互いに直交する。また接合方向Xのうち、接合時に基部21が進む方向を接合方向前方X1と称し、接合方向前方X1と反対方向を接合方向後方X2と称する。
【0036】
溶接トーチ22は、電極棒19の先端部19dを突出させた状態で、電極棒19を着脱可能に装着する。溶接トーチ22は、電極棒19と被接合物18との間にアークを発生させる。具体的には溶接トーチ22は、電極棒19と電源とを電気的に接続して、電源から端子電圧を印加して電極棒19を通電し、被接合物18に対して電位差を生じさせる。また溶接トーチ22は、不活性ガス供給源から供給される不活性ガスを案内して、アーク発生領域に吹き付けることで、大気中の酸素や窒素などの影響を防いで、溶融部分の酸化および窒化を防ぐ。また溶接トーチ22は、冷却液源から供給される冷却液によって、電極棒19を冷却し、電極棒19の温度上昇を防ぐ。また本実施の形態では、溶接トーチ22は、後述するAVC装置51が設けられる。
【0037】
溶接トーチ22は、電極棒19を装着した状態で、電極棒19と一体に形成される。また溶接トーチ22は、電極棒19の大部分を収容する円筒状の筐体を有する。溶接トーチ22に装着される電極棒19は、その中心軸線が溶接トーチ22の中心軸線と同軸に配置される。以下、溶接トーチ22の中心軸線を電極軸線L2と称する。電極棒19のうち溶接トーチ22の開口から突出する突出部19cは、電極軸線L2に同軸な円柱状に形成される円柱部分19aと、円柱部分19aに連なって電極軸線L2に同軸な円錐状に形成されて溶接トーチ22から離反するにつれて先細に形成される円錐部分19bとを含んで構成される。本実施の形態では、電極棒19は、直径が3.2mmに設定され、溶接トーチ22から突出する突出部19cが、約27mmに設定される。
【0038】
トーチ支持部23は、基部21に設定されるトーチ角変位軸線L1まわりに揺動角変位可能に、基部21に連結される。またトーチ支持部23は、溶接トーチ22の軸線方向中間部分を着脱可能に支持する。したがってトーチ支持部23に支持される溶接トーチ22は、トーチ支持部23とともにトーチ角変位軸線L1まわりに角変位可能に設けられる。
【0039】
トーチ支持部23は、溶接トーチ22を支持する支持部分32を有する。この支持部分32は、トーチ角変位軸線L1から接合方向後方X2に離反して配置される。また支持部分32に支持される溶接トーチ22は、支持部分32に支持される被支持部分から、溶接トーチ22の開口に向かってその軸線方向に進むにつれて、接合方向前方X1に進んで、トーチ角変位軸線L1に近づくように傾斜する。このように溶接トーチ22がトーチ支持部23に支持されることで、電極軸線L2が、トーチ角変位軸線L1に対して傾斜する。本実施の形態では、トーチ角変位軸線L1と電極軸線L2との角度θ1は、20°に設定される。
【0040】
溶接トーチ22がトーチ支持部23に支持された状態で、トーチ角変位軸線L1と電極軸線L2とは、予め設定される交点P1で交差する。トーチ角変位軸線L1と電極軸線L2との交点P1は、電極棒19のうちで、溶接トーチ22から突出する突出部19cであって、先端部19dを除く領域の一点に配置される。電極棒19の先端部19dから交点P1までのトーチ角変位軸線L1に沿う方向の寸法H3は、接合すべき開先16の深さ寸法H4とほぼ同程度に設定される。これによって電極棒19の先端部19dは、開先16に臨む開先底面15に近傍に配置可能となる。本実施の形態では、電極棒19の先端部19dから、電極軸線L2に沿って約19mm移動した位置に、前記交点P1が設定される。アーク溶接にあたって、溶接トーチ22は、トーチ角変位軸線L1よりも接合方向後方X2に配置される。また電極棒19の先端部19dは、トーチ角変位軸線L1よりも接合方向前方X1に配置される。
【0041】
図3は、トーチ揺動駆動手段24を示す断面図である。トーチ揺動駆動手段24は、基部21に対して、トーチ支持部23をトーチ角変位軸線L1まわりに揺動角変位駆動する。トーチ揺動駆動手段24は、出力軸33aを回転駆動する揺動用モータ33と、動力伝達機構34とを含んで構成される。揺動用モータ33は、出力軸33aの角変位量を制御可能なサーボモータで実現される。揺動用モータ33は、出力軸33aを回転駆動可能に基部21に固定される。
【0042】
動力伝達機構34は、揺動用モータ33の出力軸の回転力をトーチ支持部23に伝達する機構である。動力伝達機構34は、歯車伝達によって動力を伝達し、各歯車が基部21の内部空間に配置される。本実施の形態では、動力伝達機構34は、動力入力歯車34aと、中間歯車34bと、動力出力歯車34cとを含んで構成される。動力入力歯車34aは、揺動用モータ33の出力軸と同軸に固定され、その軸線まわりに回転可能に揺動用モータ33に支持される。中間歯車34bは、動力入力歯車34aに噛合して、その軸線まわりに回転可能に基部21に支持される。動力出力歯車34cは、中間歯車34bに噛合して、その軸線まわりに回転可能に基部21に支持される。動力出力歯車34cは、連結軸34dが同軸に固定される。連結軸34dは、基部21に設けられて、トーチ支持部23に対して一体に連結されることで、トーチ支持部23を基部21に対して支持する。各歯車34a,34b,34cの回転軸線は、互いに平行に設定される。動力出力歯車34cの回転軸線は、トーチ角変位軸線L1と一致して配置される。
【0043】
揺動用モータ33が、出力軸33aをその角変位軸線まわりに揺動角変位駆動することによって、連結軸34dとともにトーチ支持部23がトーチ角変位軸線L1まわりに揺動角変位することができる。また動力伝達機構34が、揺動用モータ33の動力を減速する減速機を兼ねる。揺動用モータ33が、動力伝達機構34を介して、動力をトーチ支持部23に与えることで、アーク発生領域から可及的に離反させることができ、アーク発生領域で生じた火花などが揺動用モータ33に到達することを防ぐことができる。
【0044】
溶加材ガイド25は、溶接トーチ22に装着される電極棒19の先端部近傍の領域に溶加材17を案内する。溶加材ガイド25は、溶加材17が挿通する挿通孔が形成される。挿通孔を通過した溶加材17の先端部は、電極棒19の先端部近傍の領域に位置する。溶加材17は、リールに巻かれた状態から、送給装置によって繰出されて、溶加材ガイド25の挿通孔を通過することで、電極棒19の先端部近傍の領域に送給される。
【0045】
溶加材ガイド支持部26は、基部21に設定される溶加材角変位軸線L3まわりに揺動角変位可能に、基部21に連結される。ここで溶加材角変位軸線L3は、基部21に予め設定され、トーチ角変位軸線L1に平行に延びて、トーチ角変位軸線L1よりも接合方向前方X1に配置される軸線である。また溶加材ガイド支持部26は、溶加材ガイド25を支持する。これによって溶加材ガイド支持部26に支持される溶加材ガイド25は、溶加材ガイド支持部26とともに溶加材角変位軸線L3まわりに角変位可能に設けられる。溶加材ガイド支持部26に支持される溶加材ガイド25は、トーチ角変位軸線L1よりも接合方向前方X1に配置される。
【0046】
溶加材ガイド支持部26は、溶加材ガイド25を把持する把持部分35と、把持部分35に連結されて円柱状の軸部分36とを含んで構成される。軸部分36は、溶加材角変位軸線L3と同軸に延びて、溶加材角変位軸線L3まわりに揺動角変位可能に構成される。軸部分36は、軸線方向一端部36aが基部21に支持され、軸線方向他端部36bに把持部分35が連結される。
【0047】
ガイド揺動駆動手段27は、溶加材ガイド25によって案内される溶加材17が溶接トーチ22に装着される電極棒19の先端部19dに向かうように、トーチ支持部23の揺動角変位に連動させて、溶加材ガイド支持部26を溶加材角変位軸線L3まわりに揺動角変位駆動する。
【0048】
図4は、被接合物18を構成する2つの被接合部材18a,18bを示す斜視図である。本実施の形態では、突合せ接合される2つの被接合部材18a,18bは、略同一直径に形成される2つの短筒状薄肉管である。このような2つの短筒状薄肉管が、同軸に配置された状態で、一方の短筒状薄肉管の軸線方向端部と、他方の短筒状薄肉管の軸線方向端部とが突合わされた状態で、その突合せ部分に開先16が形成される。開先16は、管を周方向に一周する。開先16が形成される継手部分が、アーク溶接装置20によってアーク溶接される。このようにして短円筒状薄肉管が複数溶接された被接合物18は、たとえば直径が5〜10m、高さ10〜20m、板厚25mmの液化天然ガス(LNG)貯留用タンクとして用いられる。また開先16は、幅寸法に比べて深さ寸法が大きい狭開先形状に形成される。具体的には、深さ寸法が約18mmであって、幅寸法が約8mmに形成される。
【0049】
図5は、ウェービング動作を説明するために、接合方向前方X1から接合方向後方X2に被接合物18の開先16を見て示す断面図である。アーク溶接にあたって、多関節ロボット30によって基部21が変位駆動されて、トーチ角変位軸線L1が被接合物18の開先16の幅方向中央位置に配置されるとともに、接合方向Xが開先16の伸延方向に沿って配置される。また多関節ロボット30によって、被接合物18の開先16に電極棒19が挿入される。このとき電極棒19の先端部19dは、開先16に臨む開先底面15に近傍に配置され、開先底面15との間に間隔をあけて配置される。
【0050】
トーチ揺動駆動手段24によって、トーチ支持部23をトーチ角変位軸線L1まわりに揺動角変位させると、電極棒19の先端部19dは、トーチ角変位軸線L1まわりに揺動角変位する。具体的には、接合方向Xに垂直な切断面でみたときに、図5(1)に示すように、トーチ角変位軸線L1と電極軸線L2とが一致する標準状態とする。
【0051】
図5(2)に示すように標準状態に対して、トーチ支持部23をトーチ角変位軸線L1まわりに周方向一方に角変位させることで、電極棒19の先端部19dは、標準状態に比べて開先16内で揺動方向一方Y1に移動する。また図5(3)に示すように、トーチ支持部23をトーチ角変位軸線L1まわりに周方向他方に角変位させることで、電極棒19の先端部19dは、標準状態に比べて開先内で揺動方向他方Y2に移動する。
【0052】
トーチ支持部23をトーチ角変位軸線L1まわりに揺動角変位させることで、図5(2)に示す第1揺動状態と、図5(3)に示す第2揺動状態とが交互に繰返され、電極棒19の先端部19dは、揺動方向一方Y1と揺動方向他方Y2とに交互に移動する。電極棒19の先端部19dを揺動方向Yに揺動させた場合でも、トーチ角変位軸線L1と電極軸線L2との交点P1は、揺動方向Yに移動せずに留まる。したがって電極棒19のうち、交点P1近傍部分では、揺動方向Yに揺動する振れ幅が小さい。
【0053】
これによって交点P1を開先の開口または開口よりも外方に配置することによって、開先幅が狭くても、電極棒19を揺動させるにあたって、電極棒19が被接合物18の内壁14a,14bに接触することを防ぐことができる。特に交点P1を開先16の開口近傍に配置することによって、被接合物18との接触を防いで、開先16の深い位置に電極棒19の先端部19dを揺動方向Yに揺動させることができる。
【0054】
前記標準状態において、トーチ角変位軸線L1から電極棒19の先端部19dまでの、トーチ角変位軸線L1に垂直な方向の距離をH1とする。トーチ角変位軸線L1から被接合物18の内壁14a,14bまでの揺動方向距離をH2する。溶接トーチ22をトーチ角変位軸線L1まわりに角変位させる角度範囲を±θ2とすると、H1・sin(θ2)<H2の関係に設定される。これによって電極棒19が被接合物18の内壁14a,14bに接触することを防ぐことができる。本実施の形態では、溶接トーチ22を角変位軸線L1まわりに±20°角変位させることで、電極棒19の先端部19dが、被接合物18の内壁14a,14bに接触することなく、内壁14a,14bの近傍にわたって揺動方向Yに交互に移動させることができる。
【0055】
また溶接トーチ22によって、電極棒19の先端部19dと、開先底面15との間にアークを発生させることができ、被接合物18の一部をアークによって溶融させることができる。またアーク発生領域に溶加材17を順次送給して、アーク発生領域で溶加材17と被接合物18とを溶融させて、溶融した溶加材17によって、被接合物18に形成される開先を順次埋める。これによって被接合物18を構成する2つの被接合部材18a,18bを溶接することができる。本実施の形態では、トーチ支持部23によって溶接トーチ22を揺動角変位させた状態で、溶接トーチ22によってアークを発生させることで、アークを揺動方向Yに動かしながら溶接することができる。また溶加材17の先端部は、溶加材ガイド25によって案内されることで、電極棒19の先端部19dの揺動に追従して、揺動する電極棒19の先端部19dの近傍位置に配置される。これによって溶加材17の溶融不足を防ぐことができる。
【0056】
さらに電極棒19は、図5(2)に示すように、揺動方向一方Y1に揺動移動するときは、先端部19dが最も揺動方向一方Y1に位置して、先端部19dから基端部に向かうにつれて揺動方向他方Y2に進む。これによって電極棒19がトーチ角変位軸線L1に平行な状態で、その先端部19dが揺動方向一方Y1に位置する場合に比べて、電極棒19と被接合物18との干渉を防いで、揺動方向一方Y1に向けてアークを発生させることができ、被接合物18の開先16の揺動方向一方Y1の内壁14aの溶融不良を防ぐことができる。
【0057】
同様に図5(3)に示すように、揺動方向他方Y2に揺動移動するときには、先端部19dが最も揺動方向他方Y2に位置して、先端部19dから基端部に向かうにつれて揺動方向一方Y1に進む。これによって電極棒19がトーチ角変位軸線L1に平行な状態で、その先端部19dが揺動方向他方Y2に位置する場合に比べて、電極棒19と被接合物18との干渉を防いで、揺動方向他方Y2向けてアークを発生させることができ、被接合物18の開先16の揺動方向他方Y2の内壁14bの溶融不良を防ぐことができる。
【0058】
図6は、トーチ角変位軸線L1の移動軌跡37と、電極棒19の先端部19dの移動軌跡38とを示す平面図である。図6には、トーチ角変位軸線L1の移動軌跡37を一点鎖線で示し、電極棒19の先端部19dの移動軌跡38を破線で示す。トーチ揺動駆動手段24によって、開先16内で電極棒19の先端部19dを揺動方向Yに揺動させたるとともに、多関節ロボット30によって、基部21を開先16の伸延方向に沿って移動させる。このときトーチ角変位軸線L1は、開先16の幅方向中央位置を通過して、開先16の伸延方向に延びる移動軌跡37に沿って進む。
【0059】
これによって溶接ヘッド100は、電極棒19の先端部19dを、被接合物18に対して、開先16の伸延方向に沿って移動するとともに、その伸延方向に直交する方向にジグザグに揺動する移動軌跡38に沿って移動させることができる。これによって電極棒19の先端部19dを、いわゆるウィービングさせることができ、開先16の幅方向に広がる幅広のビードを形成することができる。
【0060】
図7は、溶融した溶加材を多層盛りして、被接合物18の開先16を埋めた状態を示す断面図である。アーク溶接によって、開先16に溶融した溶加材が固化した溶加材層13を厚み方向に順次積層して形成する。このように溶加材17を多層盛りすることによって、開先16の深さが深い場合であっても、開先16を溶加材17で埋めることができる。多関節ロボット30によって、既に形成された溶加材層13に対して、電極棒19の先端部19dを予め定める距離離間させた状態で、円筒状の被接合物18の外周を複数回、周回させてアーク溶接することで、溶加材層13を開先16に積層させた多層盛りを形成することができる。このように溶接ヘッド100を、被接合物18に対して周回させてアーク溶接することで、開先16の周方向にわたって一様な接合品質を得ることができる。
【0061】
以上のように本実施の形態では、トーチ揺動駆動手段24によって、電極棒19の先端部19dは、トーチ角変位軸線L1まわりに揺動角変位駆動される。電極棒19の先端部19dを揺動させた状態で、多関節ロボット30によって基部21を開先16の伸延方向に移動させることで、電極棒19の先端部19dをジグザグに移動させることができ、ウィービング溶接を行うことができる。
【0062】
また電極棒19の先端部19dを揺動させる場合、トーチ角変位軸線L1と電極軸線L2との交点P1は、揺動方向Yに移動せずに留まる。したがって電極棒19のうち、交点P1近傍部分では、揺動方向Yに揺動する振れ幅が小さい。これによって開先幅が狭くても、電極棒19が開先16の内壁14a,14bに接触することを防いでウィービング溶接を行うことができる。
【0063】
これによって溶接トーチ22自体が大型に形成されても、開先幅が狭い開先形状の突合せ継手を接合することができる。開先幅を狭くすることで、熱による組織変化および熱ひずみ、内部応力、割れおよび材質劣化などの熱の影響を抑えることができ、接合される被接合部材の品質を向上することができる。また開先幅が幅広の場合に比べて、被接合物18の溶接を短時間で行うことができる。
【0064】
特に、開先底面15を溶融させる場合、言い換えると最も深い部分に溶加材を溶着する場合には、トーチ角変位軸線L1と電極軸線L2との交点P1を、開先16の開口または開口よりも外方に配置することによって、開先幅が狭くても、溶接トーチ22および電極棒19が被接合物18に干渉することを防いでウィービング溶接を行うことができる。
【0065】
また本実施の形態では、ウィービング溶接にあたって、多関節ロボット30は、開先16の伸延方向に沿う直線的な移動軌跡37に沿って、基部21を移動させる。したがって多関節ロボット30によって、溶接ヘッドを揺動方向Yに揺動させながら接合方向Xに移動させる場合に比べて、多関節ロボット30による溶接ヘッド100の変位駆動を簡単化することができる。これによって多関節ロボット30のウェービング動作に関する位置教示動作を容易に行うことができる。また溶接トーチ22を角変位軸線L1まわりに角変位させる角変位量を変更するだけで、電極棒19の先端部19dの揺動方向Yに関する変位量を容易に変更させることができる。また開先16の伸延方向に関する溶接トーチ22の走行量に応じて、揺動方向Yの変位量Yを拡大または縮小させることも可能となる。また電極棒19が開先に侵入可能であるならば、開先幅が極めて小さい場合であっても、角変位量を小さくすることで、電極棒19が被接合物18の内壁14a,14bに衝突することなく、ウィービング溶接を行うことができる。
【0066】
また本実施の形態では、溶接トーチ22と電極棒19とを一体に固定させた状態で、ウィービング溶接を行うことができる。したがって従来技術のように、溶接トーチ22に対して電極棒19を揺動させる特殊な溶接トーチ22を用いる必要がなく、溶接トーチ22の構造を単純化することができ、溶接トーチ22の信頼性を向上することができる。また本実施の形態では、溶接トーチ22が直線棒状の電極棒19を装着することで、ウィービング動作を行うために特別形状の電極棒を用いる必要がない。したがって汎用的な溶接トーチ22および電極棒19を用いることができ、製造コストの増加を抑えることができる。また直線棒状の電極棒19を用いることで、電極棒19の先端部19dがアーク溶接によって消耗した場合に、他の電極棒19への変更を容易に行うことができる。さらに先端部19dが消耗した電極棒19について、その先端部19dを研磨することで、アーク溶接可能な電極棒19として再利用することができ、電極棒19の消費数を低減することができる。また汎用的な溶接トーチ22および電極棒19を用いることで、図5(1)に示す標準状態とすることで、通常のアーク溶接を行うこともできる。
【0067】
図8は、図2のS8−S8切断面線から見て、ガイド揺動駆動手段27の動作を模式的に示す断面図である。図8(1)〜図8(3)は、図5(1)〜図5(3)にそれぞれ対応する。また図8では、周方向一方R1が時計まわりに設定され、周方向他方R2が反時計まわりに設定される。本実施の形態では、ガイド揺動駆動手段27は、トーチ揺動駆動手段24の動力を伝達する動力伝達機構によって実現される。
【0068】
ガイド揺動駆動手段27は、案内体40と、案内輪41と、リンク体42とを含んで構成される。案内体40は、トーチ支持部23に設けられる。トーチ支持部23は、トーチ角変位軸線L1に垂直な第1方向Aと、前記第1方向Aおよびトーチ角変位軸線L1にともに垂直な第2方向Bとが設定される。第1方向Aと第2方向Bとは、トーチ角変位軸線L1に垂直な一平面に含まれる。第1方向Aおよび第2方向Bは、トーチ支持部23に設定されるので、トーチ支持部23のトーチ角変位軸線L1まわりの角変位とともに、トーチ角変位軸線L1まわりに角変位する。
【0069】
案内体40は、トーチ支持部23から突出して、第1方向Aに平行に延びる一対のレール部40a,40bを有する。各レール部40a,40bは、第2方向Bに間隔をあけて配置される。これによって案内体40は、第1方向Aに沿って延びる空間であるレール溝が形成される。また各レール部40a,40bの第2方向中央位置にトーチ角変位軸線L1が設定される。言い換えるとトーチ角変位軸線L1は、レール溝43を通過して延びる。案内体40は、トーチ支持部23とともにトーチ角変位軸線L1まわりに角変位する。
【0070】
案内輪41は、各レール部40a,40bの間に嵌り込むことによって、第2方向Bの変位が阻止されるとともに、第1方向Aに移動可能に形成される。また案内輪41は、トーチ角変位軸線L1よりも溶加材角変位軸線L3寄りに配置される。案内輪41は、トーチ角変位軸線L1と平行な回転軸線L4が設定される円筒状に形成され、いわゆるカムフォロアによって実現される。
【0071】
リンク体42は、トーチ角変位軸線L1に垂直な方向に延びる略長手形状に形成される。リンク体42は、長手方向一端部42aが溶加材ガイド支持部26の軸部分36に固定され、長手方向他端部42bで案内輪41を支持する。案内輪41は、その回転軸線L4まわりに回転可能にリンク体42に支持される。またリンク体42は、溶加材角変位軸線L3から案内輪41までの距離を一定に保つ。
【0072】
図8(1)に示す標準状態では、溶加材角変位軸線L3と案内輪41の回転軸線L4とを結ぶ直線と、案内輪41の回転軸線L4とトーチ角変位軸線L1とを結ぶ直線が同一平面上に配置される。このときリンク体42の長手方向と、トーチ支持部23の第1方向Aとが平行に延びる。また図5(1)に示すように、接合方向Xに垂直な切断面でみたときに、トーチ角変位軸線L1と電極軸線L2とが一致する標準状態とする。また標準状態では、電極棒19の先端部19dは、トーチ角変位軸線L1から案内輪41の回転軸線L4に向かって延びる。また溶加材ガイド25に案内される溶加材17の先端部は、溶加材角変位軸線L3から案内輪41の回転軸線L4に向かって延びる。
【0073】
図8(2)は、標準状態から、トーチ支持部23がトーチ角変位軸線L1まわりに周方向一方R1に角変位した状態を示す。この状態では、案内体40は、トーチ支持部23とともにトーチ角変位軸線L1まわりに周方向一方R1に角変位する。このときリンク体42によって溶加材角変位軸線L3と案内輪41の回転軸線L4との距離が一定に維持されるので、案内輪41は案内体40に第2方向Bに摺動案内されて、リンク体42を溶加材角変位軸線L3まわりに周方向他方R2に角変位させる。
【0074】
図8(3)は、標準状態から、トーチ支持部23がトーチ角変位軸線L1まわりに周方向他方R2に角変位した状態を示す。この状態では、案内体40は、トーチ支持部23とともにトーチ角変位軸線L1まわりに周方向他方R2に角変位する。このときリンク体42によって溶加材角変位軸線L3と案内輪41の回転軸線L4との距離が一定に維持されるので、案内輪41は案内体40に第2方向Bに摺動案内されて、リンク体42を溶加材角変位軸線L3まわりに周方向一方R1に角変位させる。
【0075】
これによって標準状態から、トーチ支持部23をトーチ角変位軸線L1まわりに周方向一方R1および周方向他方R2に交互に揺動角変位させることによって、リンク体42に固定される溶加材ガイド支持部26を、溶加材角変位軸線L3まわりに周方向他方R2および周方向一方R1に交互に揺動角変位させることができる。このようにトーチ支持部23の角変位に連動させて、溶加材ガイド支持部26を角変位させるとともに、トーチ支持部23の角変位方向R1,R2に対して、反対方向R2,R1に溶加材ガイド支持部26を角変位させることができる。したがって、揺動状態に拘わらず、電極棒19の先端部19dと、溶加材17の先端部17aとは、案内輪41の回転軸線L4に向いて配置される。
【0076】
図9は、図2のS9−S9切断面線から見て、電極棒19と溶加材17の動作を示す図である。図9(1)〜図9(3)は、図5(1)〜図5(3)、図8(1)〜図8(3)にそれぞれ対応する。また図9では、周方向一方R1が時計まわりに設定され、周方向他方R2が反時計まわりに設定される。
【0077】
上述したようにトーチ支持部23の角変位に連動して溶加材ガイド支持部26が角変位する。したがって、図9(1)に示す標準状態から、図9(2)に示すように、電極棒19の先端部19dが揺動方向一方Y1に変位すると、溶加材17の先端部17aもまた揺動方向一方Y1に変位する。また図9(1)に示す標準状態から、図9(3)に示すように、電極棒19の先端部19dが揺動方向他方Y2に変位すると、溶加材17の先端部17aもまた揺動方向他方Y2に変位する。本実施の形態では、標準状態における案内輪41の回転軸線L4と、電極棒19の先端部19dと、溶加材17の先端部17aとが、略一致することで、電極棒19の先端部19dと、溶加材17の先端部17aとの揺動方向Yの変位量を略一致させることができる。
【0078】
たとえばトーチ角変位軸線L1から電極棒19の先端部19dまでの、トーチ角変位軸線L1に垂直な方向の距離をH1とし、溶加材角変位軸線L3から溶加材17の先端部17aまでの、溶加材角変位軸線L3に垂直な方向の距離をH5とする。また標準状態からトーチ支持部23をトーチ角変位軸線L1まわりに周方向一方R1に角変位する角度をφ1とした場合に、溶加材ガイド支持部26が溶加材角変位軸線L3まわりに周方向他方R2に角変位する角度をφ2とする。この場合、H1・φ1≒H2・φ2に設定される。これによって、溶加材17の先端部17aとが、略一致することで、電極棒19の先端部19dと、溶加材17の先端部17aとの揺動方向Yの変位量を略一致させることができる。本実施の形態では、H1=5.9mm、H5=50mm、φ1=10°、φ2=1.2°に設定される。
【0079】
以上のようにガイド揺動駆動手段27によって、トーチ支持部23の揺動角変位に連動させて、溶加材ガイド支持部26を溶加材角変位軸線L3まわりに揺動角変位駆動する。これによって電極棒19の揺動に応じて溶加材17を揺動させることができ、電極棒19を揺動させた場合であっても、電極棒19の先端部19dと、溶加材17の先端部17aとの位置ずれを抑えて、ウィービング溶接を行うことができる。これによって溶加材17の偏りを防ぐことができ、ビード高さをフラットにすることができる。また開先壁面付近で溶融する溶加材17が不足することを防ぐことができ、接合品質を向上することができる。
【0080】
さらにガイド揺動駆動手段27は、トーチ揺動駆動手段24の動力を溶加材ガイド支持部26に伝達する動力伝達機構によって実現される。これによって溶加材ガイド支持部26を溶加材角変位軸線L3まわりに角変位させるために、別途駆動源を必要とすることがなく、簡単な構造で溶加材ガイド支持部26とトーチ支持部23の動作を連動させることができる。また溶加材17と電極棒19との連動に関して、同期制御などを行うことなく、確実に連動させることができる。これによって連動不良を防ぐことができ、アーク溶接装置20の故障を防ぐことができる。また溶接トーチ22と溶加材ガイド25とを接合方向に離反させることで、構成部品の集中化を防ぎ、溶接装置の構造を簡単化することができる。また本実施の形態では、トーチ角変位軸線L1まわりのトーチ支持部23の揺動角変位量を調整することで、開先幅に応じて、電極棒19の先端部19dの揺動量を容易に変化させることができる。また多関節ロボット30による移動に拘わらず、電極棒19の先端部19dの揺動量を変化させることができる。
【0081】
図10は、アーク溶接装置20を含む溶接システム61を示すブロック図である。溶接システム61は、アーク溶接装置20と、アーク溶接装置20を移動させるロボット30と、アーク溶接装置20および多関節ロボット30を制御する制御装置60とを含む。制御装置60は、アーク溶接装置20を統括的に制御する。また本実施の形態では、制御装置60は、多関節ロボット30に動作指令を与える。
【0082】
アーク溶接装置20は、溶接用電源装置50と、AVC装置51と、ガス送給装置52と、ワイヤ送給装置53と、冷却水送給装置59と、上述した揺動用モータ33と、エンコーダ54と、レーザセンサ55とを含んで構成される。溶接用電源装置50と、ガス送給装置52と、ワイヤ送給装置53とは、溶接ヘッド100とは別体に設けられる。またAVC装置51と、揺動用モータ33と、エンコーダ54とは、溶接ヘッド100に一体に形成される。
【0083】
溶接用電源装置50は、直流電源または交流電源であって、電極棒19と、被接合物18とに電位差を生じさせるための装置である。溶接用電源装置50は、一方の出力端子と、他方の出力端子との間に電位差を生じさせる。一方の出力端子と、溶接トーチ22に装着される電極棒19とが、溶接ケーブルによって電気的に接続される。また他方の出力端子と、被接合物18とが、接地ケーブルによって電気的に接続される。これによって被接合物18と、電極棒19とで電位差が生じて、被接合物18と電極棒19の先端部19dとの間に、アークを発生させることができる。またアーク発生時に生じる熱を利用して溶接を行うことができる。溶接用電源装置50は、制御装置60からアーク発生指令が与えられることで、2つの出力端子に電位差を生じさせる。
【0084】
AVC装置51は、自動電圧制御(Arc Voltage Controller、略称AVC)であって、アーク発生時におけるアーク電圧と、制御装置60に設定される基準電圧とを比較して、
溶接トーチ22に装着される電極棒19の先端部19dをトーチ角変位軸線L1に沿って上下動させて、アーク長が一定となるように調整する。本実施の形態では、AVC装置51は、ユニットとして溶接トーチ22に設けられる。開先16の伸延方向に沿ってアーク溶接するにあたって、AVC装置51によって電極棒19の先端部19dの位置を変位させることで、開先底面15の凹凸による溶接欠陥を抑え、ビード外観の均一化を図ることができる。AVC装置51は、制御装置60から駆動指令が与えられることで、アーク長が一定となるように電極棒19の先端部19dの位置を調整する。
【0085】
ガス送給装置52は、不活性ガスを圧縮貯留するボンベと、ボンベ内の不活性ガスを減圧して噴出させる圧力調整器と、圧力調整器から溶接トーチ22に不活性ガスを導く管路を形成するガスホースと、ガスホースに介在される開閉弁とを有する。開閉弁が管路を開くことで、ボンベから溶接トーチ22に向けて不活性ガスが流下する。また開閉弁が管路を閉じることで不活性ガスの流下が阻止される。溶接トーチ22は、ガス送給装置52から送給される不活性ガスを、溶接トーチ22の開口からアーク発生領域に噴射させる。ガス送給装置52は、制御装置60からガス送給指令が与えられることで、開閉弁によって管路を開いて、不活性ガスを溶接トーチ22の開口から噴射させる。
【0086】
ワイヤ送給装置53は、溶加材17が複数巻掛けられるワイヤリールと、ワイヤリールに巻掛けられる溶加材17を繰出す送給機とを含んで構成される。溶加材17は、送給機から溶加材ガイド25に導かれる。また送給機によって繰出された溶加材17は、溶加材ガイド25によって案内されて、溶加材17の先端部17aが、電極棒19の先端部19dに向かって案内される。ワイヤ送給装置53は、制御装置60からワイヤ送給指令が与えられることで、送給機によって、溶加材17をワイヤリールから繰出して溶加材ガイド25に送給する。
【0087】
冷却水送給装置59は、冷却水を供給するための冷却水源と、冷却水源から溶接トーチ22に冷却水を導くとともに、溶接トーチ22で暖められた冷却水を排出タンクに導く循環ホースと、循環ホースに介在される開閉弁とを有する。開閉弁が管路を開くことで、冷却水源から溶接トーチ22に向けて冷却水が流下する。また開閉弁が管路を閉じることで冷却水の流下が阻止される。溶接トーチ22は、冷却水が導かれることで、温度上昇が抑えられる。冷却水送給装置59は、制御装置60から冷却水送給指令が与えられることで、開閉弁によって管路を開いて、冷却水を溶接トーチ22に導く。
【0088】
制御装置60は、制御手順を示すプログラムおよび制御条件を示すでータベースなどが記憶される記憶回路と、記憶回路に記憶されるプログラムを実行する演算回路とを含んで構成される。制御装置60は、たとえばプログラマブルコントローラによって実現される。また記憶回路は、ROM(Read Only memory)およびRAM(Random Access Memory)
によって実現され、演算回路は、CPU(Central Processing Unit)によって実現される。
【0089】
揺動用モータ33は、制御装置60から与えられる角変位指令に従って、出力軸33aを角変位させて、トーチ支持部23をトーチ角変位軸線L1まわりに角変位する。またエンコーダ54は、揺動用モータ33の出力軸33aの角変位量を検出する検出手段であって、検出結果を示す信号を制御装置60に与える。またレーザセンサ55は、開先位置を検出する開先位置検出手段であって、レーザセンサ55に対する開先位置の揺動方向Yの位置を示す信号を制御装置60に与える。またレーザセンサ55は、開先の深さを検出する開先深さ検出手段を兼用し、開先底面15の深さ方向の位置を示す信号を制御装置60に与える。
【0090】
図11は、溶接ヘッド100を示す平面図である。また図12は、溶接ヘッド100を示す左側面図である。レーザセンサ55は、溶接ヘッド100に設けられる。レーザセンサ55は、アーム部材56を介して基部21に固定される。レーザセンサ55およびアーム部材56は、溶接トーチ22および溶加材ガイド25の揺動を阻害しない一に配置され、溶接トーチ22の揺動に拘わらず、基部21に対して一定の位置に固定される。レーザセンサ55は、溶接トーチ22および溶加材ガイド25よりも接合方向前方X1に位置する開先領域を撮像する。制御装置60は、レーザセンサ55から撮像された開先領域を示す情報を画像処理することで、基部21に対する開先の内壁14a,14b、開先16の幅方向中央位置、開先底面15の深さを求めることができる。制御装置60は、レーザセンサ55から与えられる信号に基づくことによって、開先16に倣ってトーチ角変位軸線L1を揺動方向に変位させることができる。
【0091】
図13は、溶接ヘッド100を示す右側面図である。多関節ロボット30は、6軸の垂直多関節ロボットによって実現され、エンドエフェクタ角変位軸線L5が設定される。多関節ロボット30は、エンドエフェクタ角変位軸線L5まわりに基部21を回転させることができる。本実施の形態では、多関節ロボット30の手首部は、連結部材57を介して、基部21と連結される。多関節ロボット30は、エンドエフェクタ角変位軸線L5と、前記トーチ角変位軸線L1とが一致するように、基部21を連結する。また基部21は、アーク発生領域を覆うシールド部材58が固定される。シールド部材58は、溶接トーチ22に対して、揺動方向Y両側および接合方向後方X2に配置されて、アーク発生領域を覆う。これによってアーク発生領域を不活性ガスで満たすことができるとともに、アークによる火花がシールド部材58の外方に飛散することを防ぐことができる。
【0092】
図14は、制御装置60のアーク溶接手順を示すフローチャートである。まずステップa0で、被接合物18に開先16が形成されるとともに、アーク溶接可能な接合準備が完了した状態で、作業者などからアーク溶接指令が与えられると、ステップa1に進み溶接動作を開始する。制御装置60は、記憶回路に記憶される溶接プログラムを実行することによって、以下の動作を実行する。
【0093】
ステップa1では、制御装置60は、多関節ロボット30に移動指令を与えて、予め作業者などから予め定められる初期位置に、溶接ヘッド100を移動させる。初期位置は、開先16内に電極棒19の先端部19dが配置されるとともに、開先16の伸延方向に、基部21の接合方向Xが沿う位置である。溶接ヘッド100が初期位置に移動すると、ステップa2に進む。
【0094】
ステップa2では、制御装置60は、ガス送給装置52にガス送給指令を与えるとともに、冷却水送給装置59に冷却水送給指令を与える。次に、溶接用電源装置50にアーク発生指令を与えるとともに、ワイヤ送給装置53にワイヤ送給指令を与えて、電極棒19と被接合物18との間にアークを発生させると同時に、溶加材17の送給を開始する。このようにして、アーク溶接を開始すると、ステップa3に進む。
【0095】
ステップa3では、制御装置60は、多関節ロボット30によって、基部21を開先16の伸延方向に沿って移動させる。このとき制御装置60は、レーザセンサ55から与えられる信号に従って、多関節ロボット30に揺動方向に移動指令を与えて、トーチ角変位軸線L1を、開先16の揺動方向中央位置に配置させた状態を維持させる。また制御装置60は、レーザセンサ55から与えられる信号に従って、開先16の内壁14a,14bに接触することを防ぐ揺動変位量を求める。制御装置60は、求めた揺動変位量で電極棒19の先端部19dを揺動変位させるように、エンコーダ54からの検出結果に基づいて、揺動用モータ33に揺動指令を与える。
【0096】
またウィービング溶接中に、制御装置60は、AVC装置51に駆動指令を与えて、アーク長が一定となるように電極棒19の先端部19dと開先底面15との距離を調整する。これによって開先底面15の凹凸による溶接欠陥を抑え、ビード外観の均一化を図ることができる。このようにしてウィービング溶接を開始すると、ステップa3に進む。
【0097】
ステップa3では、制御装置60は、溶接ヘッド100が被接合物18を周回して、開先底面15から予め定める粗仕上げ高さまで、溶加材17を多層盛りしたか否かを判断する。たとえば初期位置を予め定める回数旋回したことを判断したり、レーザセンサ55によって開先16の溶加材17の高さが粗仕上げ高さに達したことを判断したりすると、ステップa4に進む。制御装置60は、開先底面15から予め定める高さまで、溶加材17を多層盛りしたと判断するまで、ステップa3を繰返す。たとえば粗仕上げ高さは、開先16の深さ寸法とほぼ同一に設定される。
【0098】
ステップa4では、制御装置60は、仕上げ溶接制御を行う。具体的には、制御装置60は、開先16の伸延方向にわたって、溶加材17の多層盛り高さが最終仕上げ高さH10以上となるようにワイヤ送給装置53を制御する。図15は、仕上げ時のワイヤ送給装置53の制御を説明するためのグラフである。図15の横軸は、溶接ヘッド100の移動位置を示す。図15の縦軸は、溶接ヘッド100の位置毎での溶加材17の多層盛り高さを示す図である。ステップa4では、制御装置60は、ステップa3に継続してウィービング溶接を行って溶接ヘッド100を移動させるときに、溶加材17の多層盛りの高さが、最終仕上げ高さH10以上である期間W1については、ワイヤ送給装置53によるワイヤ送給を停止する。また溶加材17の多層盛りの高さが、最終仕上げ高さH10未満である期間W2については、ワイヤ送給装置53によるワイヤ送給を行う。制御装置60は、溶加材17の多層盛りの高さは、レーザセンサ55からの信号に基づいて演算することができる。このようにして制御装置60は、開先16の伸延方向にわたって、溶加材17の多層盛りの高さが、最終仕上げ高さH10以上となったことを判断すると、ステップa5に進む。
【0099】
ステップa5では、制御装置60は、溶接用電源装置50にアーク停止指令を与えて、アークの発生を終了させるとともに、AVC装置51および揺動用モータ33に駆動停止指令を与える。また制御装置60は、ガス送給装置52、ワイヤ送給装置53、冷却水送給装置59にそれぞれ、送給終了指令を与える。このようにして各装置に終了指令を与えると、ステップa6に進む。ステップa6では、制御装置60は、多関節ロボット30によって、溶接ヘッド100を予め定められる待機位置に移動させて、ステップa7に進み、溶接動作を終了する。
【0100】
以上のように本実施の形態では、多関節ロボット30によって、溶接ヘッド100を移動させることで、任意の位置および姿勢に溶接ヘッド100を移動させることができ、溶接可能な場面を増やすことができる。また本実施の形態では、多関節ロボット30は、開先16に沿って溶接ヘッド100の基部21を移動させるだけで、ウィービング溶接を行うことができ、多関節ロボットの手首を揺動方向に移動させる場合に比べて、ウィービングに生じる慣性力が小さく、高速揺動可能でかつ高精度にウィービング溶接を行うことができる。また狭開先であってもアーク溶接することができる。
【0101】
またレーザセンサ55を用いて、開先位置に対する基部21の揺動方向の相対位置を検出する。制御装置60が、レーザセンサ55の検出結果に基づいて、多関節ロボット30を制御する。これによって多関節ロボット30は、開先16に対する基部21のずれを補正するように、基部21を移動させることができる。これによってウィービング溶接を行う間に、開先16の形成精度が低くても、電極棒19が被接合物18に干渉することを防ぐことができる。
【0102】
またレーザセンサ55を用いて、開先深さを検出することで、検出結果に応じた制御を行うことができる。たとえば開先深さに基づいて、溶加材17の供給量変化、アーク電圧変化、基部21の高さ変化などの溶接条件を変更することで、接合品質をさらに向上することができる。本実施の形態では、ステップa4における仕上げ溶接工程で、溶加材17の多層盛り高さに応じて、溶加材17の送給の有無を変更することで、開先16の伸延方向にわたって、溶加材17の多層盛り高さのばらつきを抑えることができ、美感および接合強度を向上して、接合品質を向上させることができる。また本実施の形態では、レーザセンサ55を用いることで、開先位置検出手段と、開先深さ検出手段とを別途用意する場合に比べて、アーク溶接装置の構成を簡単化することができる。
【0103】
また本実施の形態では、溶接トーチ22の揺動にかかわらずに、レーザセンサ55が基部21に対して固定されることで、溶接トーチ22の揺動とともにぶれることがなく、精度よく、開先位置および開先部分の深さを求めることができる。また本実施の形態では、ロボットの手首に設定されるエンドエフェクタ角変位軸線L5と、トーチ角変位軸線L1とが同軸に設定されることで、ロボットの手首位置に設定される座標と、前記交点P1の座標とを容易に関連づけることができ、制御装置60は、ロボット30の移動位置を容易に演算することができる。
【0104】
また本実施の形態では、仕上げ工程として、ウィービングさせながら、溶加材17の多層盛りの高さに応じて、溶加材送給の有無を切換えたが、ウィービングさせずに、溶加材17の多層盛りの高さに応じて、溶加材送給の有無を切換えてもよい。また溶接ヘッド100による周回の途中で、仕上げ工程を行ってもよい。したがって仕上げ工程と、通常のウィービング溶接工程とを交互に繰返してもよい。これによってさらに溶加材17の多層盛り高さを均一化することができる。
【0105】
上述した本実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、発明の範囲内で構成を変更することができる。たとえば本実施の形態では、開先は、V字開先としたが、他の開先形状であってもよく、たとえばX字開先であっても同様の効果を得ることができる。また円筒状の被接合物18に対して溶接を行ったが、板状の被接合物18であっても、アーク溶接を行うことができる。また本実施の形態では、TIG溶接を例示したが、MIG(Metal Inert
Gas)溶接であってもよい。また電極棒、溶加材、不活性ガスの種類については、限定されない。さらに不活性ガスを用いない単純なアーク溶接であってもよい。また加熱させた溶加材17を電極棒19の先端部19dに送給してもよい。
【0106】
また本実施の形態で、例示したアーク接合装置の各寸法は、一例であって他の寸法を用いてもよい。また本実施の形態では、溶加材17の多層盛りの高さに応じて、溶加材17の送給の有無を変更したが、溶加材17の送給速度を変更してもよく、高さが低い場合には、高さが高い場合に比べて溶加材17の送給速度を高くしてもよい。また本実施の形態では、トーチ支持部23を揺動させるために、サーボモータを用いたが、他の駆動手段を用いてもよい。たとえばエアシリンダなどの往復駆動装置を用いてもよい。また本実施の形態では、トーチ揺動駆動手段24の動力を用いて、溶加材ガイド25を角変位駆動したが、トーチ揺動駆動手段24とは別の駆動手段を用いて、溶加材ガイド25を角変位させてもよい。また本実施の形態に示したガイド揺動駆動手段27は、カムフォロアと、レールとを用いた、他のリンク機構によって、トーチ揺動駆動手段24の動力を利用して、溶加材ガイド25を変位させてもよい。
【0107】
また本実施の形態では、アーク溶接装置20は、溶接ヘッド100以外も含んだが、溶接ヘッド100を溶接装置本体としてもよい。また多関節ロボット30によって、溶接ヘッド100を任意の位置および姿勢に移動させたが、これに限定されず、溶接ヘッド100を搬送可能であれば、他の搬送装置を用いても、同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の一実施形態であるアーク溶接装置20の溶接ヘッド100を示す正面図である。
【図2】溶接ヘッド100の一部を拡大して示す正面図である。
【図3】トーチ揺動駆動手段24を示す断面図である。
【図4】被接合物18を構成する2つの被接合部材18a,18bを示す斜視図である。
【図5】ウェービング動作を説明するために、接合方向前方X1から接合方向後方X2に被接合物18の開先16を見て示す断面図である。
【図6】トーチ角変位軸線L1の移動軌跡37と、電極棒19の先端部19dの移動軌跡38とを示す平面図である。
【図7】溶融した溶加材を多層盛りして、被接合物18の開先16を埋めた状態を示す断面図である。
【図8】図2のS8−S8切断面線から見て、ガイド揺動駆動手段27の動作を模式的に示す断面図である。
【図9】図2のS9−S9切断面線から見て、電極棒19と溶加材17の動作を示す図である。
【図10】アーク溶接装置20を含む溶接システム61を示すブロック図である。
【図11】溶接ヘッド100を示す平面図である。
【図12】溶接ヘッド100を示す左側面図である。
【図13】溶接ヘッド100を示す右側面図である。
【図14】制御装置60のアーク溶接手順を示すフローチャートである。
【図15】仕上げ時のワイヤ送給装置53の制御を説明するためのグラフである。
【符号の説明】
【0109】
19 電極棒
19c 突出部分
19d 電極棒の先端部
20 アーク溶接装置
21 基部
22 溶接トーチ
23 トーチ支持部
24 トーチ揺動駆動手段
25 溶加材ガイド
26 溶加材ガイド支持部
27 ガイド揺動駆動手段
30 多関節ロボット
L1 トーチ角変位軸線
L2 電極軸線
P1 交点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットに固定されて、予め定めるトーチ角変位軸線が設定される基部と、
電極棒の先端部を突出させた状態で、電極棒を着脱可能に装着する溶接トーチと、
前記トーチ角変位軸線まわりに揺動角変位可能に前記基部に連結されて、溶接トーチに装着される電極棒の中心軸線が前記トーチ角変位軸線に対して傾斜するように、前記溶接トーチを支持するトーチ支持部と、
前記トーチ支持部を前記トーチ角変位軸線まわりに揺動角変位駆動するトーチ揺動駆動手段とを含み、
前記電極棒の中心軸線と前記トーチ角変位軸線との交点が、電極棒のうちで溶接トーチから突出する突出部分に配置されることを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項2】
溶接トーチは、先端部が先細に形成される直線棒状の電極棒を同軸に装着することを特徴とする請求項1記載のアーク溶接装置。
【請求項3】
非溶極式のアーク溶接装置であって、
溶接トーチに装着される電極棒近傍の領域に溶加材を案内する溶加材ガイドと、
前記トーチ角変位軸線に平行に延びる溶加材角変位軸線まわりに揺動角変位可能に前記基部に連結されて、溶加材ガイドを支持する溶加材ガイド支持部と、
溶加材ガイドによって案内される溶加材が溶接トーチに装着される電極棒に向かうように、トーチ支持部の揺動角変位に連動させて、溶加材ガイド支持部を溶加材角変位軸線まわりに揺動角変位駆動するガイド揺動駆動手段とをさらに含むことを特徴とする請求項1または2記載のアーク溶接装置。
【請求項4】
前記ガイド揺動駆動手段は、前記トーチ揺動駆動手段の動力を伝達して、前記溶加材ガイド支持部を溶加材角変位軸線まわりに揺動角変位駆動する動力伝達機構によって実現されることを特徴とする請求項3記載のアーク溶接装置。
【請求項5】
前記基部に連結されて、開先位置に対する基部の相対位置を検出し、検出結果をロボットに与える開先位置検出手段をさらに含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のアーク溶接装置。
【請求項6】
前記基部に連結されて、開先位置の深さを検出する開先深さ検出手段をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のアーク溶接装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載のアーク溶接装置と、前記アーク溶接装置を変位移動するためのロボットとを含むことを特徴とする溶接設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−114279(P2008−114279A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302034(P2006−302034)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】