説明

アーム装置

【課題】容易かつ迅速に対象物を任意の空間位置で固定することのできるアーム装置を提供する。
【解決手段】着脱自在に取り付けられた対象物Oを任意の空間位置で固定するためのアーム装置1であって、基台2に設けられた第1の関節機構3と、基端部41が前記第1の関節機構3によって継合され、当該第1の関節機構3によって軸回りの回動と角度の変位とこれらの動作のロックとが行われ、先端部42に前記対象物Oを着脱自在に取り付ける対象物着脱手段6を備えるアーム部4と、前記基端部41と前記先端部42との間に、前記アーム部4の軸回りの回動と角度の変位とこれらの動作のロックとを行う少なくとも1つの第2の関節機構5と、を有し、第1の関節機構3および第2の関節機構5はともに、伸縮する軸部材71の伸縮に応じて縮径および拡径するように固定されたボール部72を有するボールジョイント74であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーム装置に関し、より詳しくは、着脱自在に取り付けられた対象物を任意の空間位置で固定するアーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医師や補助者が超音波診断装置のエコープローブなどの対象物を同じ位置で長時間固定して保持するのは大変な重労働となる。そのため、そのような対象物を任意の空間位置で長時間固定して保持することのできる装置が開発されている。
【0003】
対象物を任意の空間位置で長時間固定して保持し得る装置として、例えば、特許文献1には、図4および図5に示すように、ロック機構130を備えた多関節アーム(第1アーム111、第2アーム112)を有する作業補助装置100が記載されている。この作業補助装置100は、多関節アームの先端にホルダ120が取り付けられ、該ホルダ120に対象物を脱着可能に装着した状態で、該対象物を所望の位置に位置決めした後に前記ロック機構130を作動させて前記多関節アームをロックすることにより、前記対象物を前記所望の位置に保持する。具体的には、前記した多関節アームと前記ホルダ120との間に設けられた自在継手(球面継手121)および該自在継手をロックするロック機構130と、前記多関節アームを駆動するための駆動手段(第1サーボモータ105、第2サーボモータ106)と、を有することを特徴としている。
【0004】
この作業補助装置100は、対象物の位置決めを次のようにして行う旨が記載されている。まず、駆動手段である第1サーボモータ105を駆動させて、シートバック101の高さ方向(図5のX方向)に延設される第1支柱103のガイドレール103aに沿って第2支柱104を任意の位置まで案内する。次いで、第2サーボモータ106を駆動させて第2支柱104の軸線方向(図4、図5のZ方向)に第1アーム111を任意の高さに案内する。そして、第1軸113、第2軸114、第3軸115、第4軸122および球面継手121を適宜動かし、前記したロック機構130でロックし、対象物(デンタルミラー125)を固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−289233号公報(請求項1、段落[0056]〜[0072]、図5、図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の作業補助装置100では、多関節アームの位置(水平方向の位置および高さ方向の位置)を変位させるために駆動手段を用いなければならず、位置決めを容易かつ迅速に行うことができないという問題があった。なお、特許文献1には、駆動手段によらず手動で行うこともできる旨記載されているが、多関節アームの位置(水平方向の位置および高さ方向の位置)を変位させるのは容易でないという問題がある。
【0007】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、駆動手段を用いず、容易かつ迅速に対象物を任意の空間位置で固定することのできるアーム装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)前記課題を解決した本発明は、着脱自在に取り付けられた対象物を任意の空間位置で固定するためのアーム装置であって、基台に設けられた第1の関節機構と、基端部が前記第1の関節機構によって継合され、当該第1の関節機構によって軸回りの回動と角度の変位とこれらの動作のロックとが行われ、先端部に前記対象物を着脱自在に取り付ける対象物着脱手段を備えるアーム部と、前記基端部と前記先端部との間に、前記アーム部の軸回りの回動と角度の変位とこれらの動作のロックとを行う少なくとも1つの第2の関節機構と、を有し、前記第1の関節機構および前記第2の関節機構はともに、アクチュエータによって伸縮する軸部材と、当該軸部材の伸縮に応じて縮径および拡径するように固定された、1つのボール状の構造体を2つ以上に分割してなるボール部と、当該ボール部の形状に対応する形状の滑り面を有する継手部と、で形成されるボールジョイントであることを特徴とするアーム装置である。
【0009】
このようにすれば、アクチュエータによって軸部材を伸縮させてボール部を縮径させることでアーム部の軸回りの回動と角度の変位とを行わせることができ、アクチュエータによって軸部材を伸縮させてボール部を拡径させることでアーム部の動作のロックを行うことができる。したがって、アーム部は、第1の関節機構および第2の関節機構によって軸回りの回動と角度の変位とを自由に行うことができ、また、第1の関節機構および第2の関節機構によってアーム部の動作のロックを行うことが可能であるので、アーム部の先端部に備えられた対象物着脱手段を任意の空間位置で固定することができる。つまり、当該対象物着脱手段に着脱自在に取り付けられた対象物を容易かつ迅速に任意の空間位置で固定することができる。
【0010】
(2)前記アーム部はカバー部材を有し、前記カバー部材内に前記アクチュエータを設けるのが好ましい。このようにすれば、機械的な構成物が人目に付き難く、すっきりした外観となる。そのため、例えば、診断や医療等で本発明に係るアーム装置を用いた場合に、患者に威圧感や不安感を与えずに済む。
【0011】
(3)前記アクチュエータは油圧シリンダであるのが好ましい。このようにすれば、小型でありながら大きな力で軸部材を伸縮させることが可能であり、アーム部の動作のロックを確実に行うことができる。
【0012】
(4)前記第1の関節機構および前記第2の関節機構における動作のロックの操作を行うフットスイッチを備えているのが好ましい。このようにすれば、脚でフットスイッチを操作して関節機構をロックすることができるため、アーム装置を操作する操作者は両手を自由に使うことができるようになり、他の作業を滞りなく行うことが可能となる。
【0013】
(5)前記対象物着脱手段は、前記対象物の取り付け角度を調整する角度調整手段を有しているのが好ましい。このようにすれば、対象物をより適切な角度で取り付けることができる。
【0014】
(6)前記対象物着脱手段は、一定方向のスライドを許容するスライド許容手段と、前記スライドに対する反発力を発生させる反発力発生手段と、を有するスライド機構を備えるのが好ましい。このようにすれば、スライド許容手段によって対象物着脱手段をスライドさせることができるので、対象物着脱手段に取り付けられた対象物が他の物体に当接した場合であっても、当該対象物を損壊し難くすることができる。また、反発力発生手段を有しているため、許容されるスライドに抗ずる反発力を得ることができる。したがって、対象物着脱手段に取り付けられた対象物を他の物体に押し当てて第1の関節機構および第2の関節機構の動作をロックすれば、ロックを解除するまで一定の圧力で対象物を他の物体に押し当て続けることができる。
【0015】
(7)本発明は、前記基台の水平方向における旋回とロックを行う旋回手段をさらに備えているのが好ましい。このようにすれば、基台の可動範囲が広がるので、より自在かつ適切に対象物を任意の空間位置でロックすることができる。
【0016】
(8)前記対象物が超音波診断装置のエコープローブであり、当該エコープローブを前記対象物着脱手段に取り付けることとしてもよい。このようにすれば、患者の同じ診断箇所にエコープローブを長時間当て続けることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るアーム装置によれば、駆動手段を用いず、容易かつ迅速に対象物を任意の空間位置で固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るアーム装置の一実施形態を示す一部切り欠き正面図である。
【図2】第1の関節機構および第2の関節機構を説明する図であって、(a)は、その縦断面図であり、(b)は、(a)のA−A方向矢視断面図であり、(c)は、(a)で図示するボール受け座部を外してB方向から見たB方向矢視図である。
【図3】本発明に係るアーム装置の他の実施形態を示す正面図である。
【図4】従来のアーム装置の一例を説明する正面図である。
【図5】図4に示すアーム装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面を参照して本発明に係るアーム装置を実施するための一形態について説明する。
【0020】
本発明に係るアーム装置1は、着脱自在に取り付けられた対象物Oを任意の空間位置で固定するためのものであって、図1に示すように、基台2に設けられた第1の関節機構3と、アーム部4と、第2の関節機構5と、を有しており、アーム部4の先端部に備えられた対象物着脱手段6に前記した対象物Oを取り付けている。
【0021】
ここで、対象物Oとしては、診断や医療で用いる場合は、例えば、超音波診断装置のエコープローブなどが該当し、また、工業製品の製造に用いる場合は、製造しようとする製品などが該当する。なお、かかる対象物Oは、対象物着脱手段6によって着脱自在に取り付けられるものであればよく、前記したものに限定されないことは言うまでもない。なお、工業製品の製造とは、例えば、工業製品の溶接や絵付けなどが該当する。
【0022】
基台2は、この第1の関節機構3によってアーム部4を継合するので、高い剛性を有するようにする必要がある。そのため、例えば、ステンレス鋼などの高剛性の素材を用いたI形鋼、H形鋼、T形鋼などで構成するのが好ましい。かかる基台2は、高さ位置を調節することができるように、ネジ部材などの高さ調節手段21を用いて、支持柱22に対して上下動可能に固定するのがよい。
【0023】
また、基台2は、水平方向における旋回とロックを行う旋回手段23を備えているのがより好ましい。基台2の旋回は、基台2の一部に設けられた軸孔に回転軸24を挿通してなる回転軸構造により具現することができる。また、基台2の旋回のロックは、例えば、油圧シリンダ25などのアクチュエータによって動作するディスクブレーキ26などにより行うことができる。
【0024】
アーム部4は、その基端部41が第1の関節機構3によって継合されている。また、アーム部4は、当該第1の関節機構3によってアーム部4の軸回りの回動と、角度の変位と、これらの動作のロックと、が行われ、先端部42に前記した対象物Oを着脱自在に取り付ける対象物着脱手段6を備えている。
【0025】
対象物着脱手段6は、例えば、対象物Oを把持する把持爪とすることや、対象物Oに係合を可能とする係合穴や係合爪が形成されている場合はこれに係合する係合爪や係合穴などとすることができる。なお、対象物着脱手段6は、対象物Oに応じて適宜の形状とすることができ、前記したものに限定されないことは言うまでもない。例えば、面ファスナーのようなものであってもよい。
【0026】
また、対象物着脱手段6は、対象物Oをより適切な角度で取り付けることができるように、対象物Oの取り付け角度を調整する角度調整手段61を有するのが好ましい。
【0027】
このような角度調整手段61は、例えば、アーム部4の先端にネジ穴(図示せず)を設けるとともに、対象物着脱手段6にも同じ径のネジ穴(図示せず)を設け、これらのネジ穴にツマミとなるネジ部材62を螺入することによって具現できる。このようにすれば、ネジ部材62によってきつく締めたり、緩めたりすることで対象物着脱手段6を任意の角度に調整し、固定することができる。
【0028】
また、角度調整手段61は、対象物着脱手段6との対向面に中心部から周縁部にかけて放射状に凹凸を設けた咬合部材(図示せず)をネジ部材62と対象物着脱手段6との間に介在させ、対象物着脱手段6にも、この咬合部材が当接する箇所に、咬合部材の凹凸に対応する凹凸を設けておくとよい。ネジ部材62によって締められると咬合部材の凹凸と対象物着脱手段6に設けられた凹凸とが咬合するため、より高い拘束力で対象物着脱手段6を固定することができる。
【0029】
対象物着脱手段6は、対象物着脱手段6が一定方向にスライドするのを許容するスライド許容手段と、スライドに対する反発力を発生させる反発力発生手段と、を有するスライド機構63を備えているのが好ましい。ここで、スライド許容手段は、公知のスライド部材を用いることができ、反発力発生手段は、スライド部材に取り付けられるバネ、ゴムなどの弾性部材を用いることができる。また、スライド機構63は、スライド量を調節するスライド量調整手段(例えば、ネジ部材などを用いたストッパーなど)を設けておくのもよい。
【0030】
このようなスライド機構63を備えることにより、スライド許容手段によって対象物着脱手段6をスライドさせることができるので、対象物着脱手段6に取り付けられた対象物Oが他の物体OOに当接した場合であっても、当該対象物Oの損壊を抑制することができる。また、反発力発生手段を有しているため、許容されるスライドに抗ずる反発力を得ることができる。
したがって、対象物着脱手段6に取り付けられた対象物Oを他の物体OOに押し当てて第1の関節機構3および第2の関節機構5の動作をロックすれば、ロックを解除するまで反発力発生手段により一定の圧力で対象物Oを他の物体OOに押し当て続けることができる。
【0031】
そして、第2の関節機構5は、アーム部4の軸回りの回動と、角度の変位と、これらの動作のロックと、を行うものであり、アーム部4の基端部41と先端部42との間に少なくとも1つ設けられている。
なお、第2の関節機構5は、アーム部4の軸回りの回動と、角度の変位と、これらの動作のロックと、を行うことができる限り、設ける数に制限はないが、後記するように動作のロックを行うためにアクチュエータ7(図2(a)参照)を多く必要とし、重量が増してしまう。重量が増すと、操作者がアーム装置1を操作して位置決めする際に慣性によって位置がずれてしまうおそれがある。そのため、第2の関節機構5は、第2の関節機構5の動作の自由度にもよるが3つ以下とするのが好ましい。図1では、第2の関節機構5を3つ設けたアーム装置1を図示している。
【0032】
ここで、図2を参照して第1の関節機構3および第2の関節機構5について説明する。
図2の(a)に示すように、第1の関節機構3(および第2の関節機構5)は、アクチュエータ7によって伸縮する軸部材71と、当該軸部材71の伸縮に応じて縮径および拡径するように接続された、1つのボール状の構造体を2つ以上に分割してなるボール部72と、当該ボール部72の形状に対応する形状の滑り面733、734を有する継手部73と、で形成されるボールジョイント74とする。
【0033】
アクチュエータ7は、アクチュエータ7の小型化、軽量化および十分な圧力を得る観点、そしてバックラッシュを防止する観点から油圧シリンダを用いるのが好ましい。アクチュエータ7として油圧シリンダを用いる場合、油圧ホース75(図1参照)を介して接続された油圧ポンプ(図示せず)により油圧を加えるようにするとよい。より高い油圧を得ることができるからである。
【0034】
前記したように、ボール部72は、軸部材71の伸縮に応じて縮径および拡径するように固定された、1つのボール状の構造体を2つ以上に分割してなる。具体的には、ボール部72は、図2の(a)および(b)に示すように、アーム部4のカバー部材43にネジ等により一方のフランジ部441が固定された管部材44と、当該管部材44の他方のフランジ部442にネジ等によりボール分割体721(1つのボール状の構造体を2つ以上に分割した構成体をいう。)が固定されて構成されている。
【0035】
ボール分割体721は、アーム部4の動作の固定を十分に行う拘束力を得る観点から4分割とするのが好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、2分割、3分割、5分割またはそれ以上に分割することもできる。なお、図2は、4分割したボール分割体721を備えた第1の関節機構3(および第2の関節機構5)を図示している。
アーム部4の動作の固定を十分に行う拘束力、つまり、第1の関節機構3、第2の関節機構5および旋回手段23(図1参照)における拘束力はそれぞれ、例えば、3.9〜14.7Nm(0.4〜1.5kgm)程度あればよい。
【0036】
管部材44の他方のフランジ部442に固定されたボール分割体721の内部には、管部材44の内径と略同じ径の連通部722と、この連通部722と繋がって形成され、前記した管部材44に固定されていない先端部分に向けて拡径するテーパ部723と、が形成されている。
【0037】
軸部材71は、管部材44内および連通部722を通って、ボール部72の先端部分近傍であって継手部73の滑り面733、734に当接しない位置まで延設されており、その端部には、前記したテーパ部723の形状に対応する形状で形成された錐体部材45が取り付けられている。
【0038】
なお、継手部73は、図2の(a)に示すように、ボール部72の形状に対応する形状の滑り面733、734を有するボール受け座部731とリング部732とを組み合わせて構成するとよい。
つまり、ボール受け座部731は、例えば、ボール部72の先端部分から最大径までの滑り面733を有するように形成され、リング部732は、例えば、前記した最大径から径の小さくなった任意の位置までの滑り面734を有するように形成され、継手部73はこれらを組み合わせて構成するとよい。このようにすれば、例えば、第1の関節機構3として基台2に継手部73を設け、アーム部4の基端部41をボール部72とするボールジョイント74とした場合、アーム部4が抜け落ちず、好適である。
【0039】
そして、第1の関節機構3をこのような構成とした場合、アクチュエータ7によって軸部材71を縮退させると軸部材71の端部に取り付けられた錐体部材45もアクチュエータ7に近接する方向に移動する。その結果、錐体部材45によってくさび効果が発揮され、ボール分割体721を押し広げてボール部72の径を拡径させる。拡径したボール部72は継手部73の滑り面733、734を押圧し、その押圧力によって強固に固定される。
【0040】
他方、アクチュエータ7によって軸部材71を伸長させると、軸部材71の端部に取り付けられた錐体部材45はアクチュエータ7から離間する方向に移動し、錐体部材45によるくさび効果がなくなる。その結果、拡径していたボール部72は縮径し、継手部73の滑り面733、734を押圧していた押圧力がなくなり、第1の関節機構3によって継合されていたアーム部4は、軸回りの回動と、角度の変位と、を自由に行うことができるようになる。なお、アーム部4の軸回りの回動は、例えば、右回転、左回転ともに180°回動可能とし、角度の変位は、例えば、アーム部4の軸方向(長手方向)に対して横方向および縦方向ともに±45°(つまり90°)の範囲で変位可能とするとよい。
【0041】
継手部73とボール部72の取り付け関係は、前記した例と逆にすることもできる。つまり、基台2にボール部72を設け、アーム部4に継手部73を設けるようにすることもできる。
なお、第2の関節機構5においても、かかる構成、動作およびその変形例を同様に採用することができる。
また、第1の関節機構3および第2の関節機構5は、アーム部4を構成する棒状部材46(図1参照)の動作の支点となり、棒状部材46の先端部は作用点となるため、支点から作用点までの距離、すなわち棒状部材46の長さをなるべく短くした方がアーム部4の動作およびロックの安定性が高くなるので好ましい。
【0042】
アーム部4を構成する部品は、軽量化のため、極力、アルミニウム合金などの軽金属で作製されたものを用いるのが好ましい。重量が増すと、操作者がアーム装置1を操作して位置決めする際に慣性によって位置がずれてしまうおそれがある。
【0043】
アクチュエータ7が備えられたアーム部4は、当該アクチュエータ7を覆うようにカバー部材43内に設けるのが好ましい。機械的な要素が人目に付き難く、すっきりした外観となるので、例えば、診断や医療等でアーム装置1を用いる場合に、患者C(図1参照)に威圧感や不安感を与えずに済む。
【0044】
なお、アクチュエータ7の操作、つまり、アーム部4の第1の関節機構3および第2の関節機構5における動作のロックの操作とその解除の操作は、操作者の脚で行うことができるよう、フットスイッチ(図示せず)を備えているのが好ましい。フットスイッチでの操作は、例えば、フットスイッチを踏んでいるときだけアクチュエータ7で発生させる圧力を小さくするようにし、フットスイッチを踏んでいないときはアクチュエータ7で発生させる圧力を高くするようにするとよい。このようにすれば、アーム装置1が前記した構成の第1の関節機構3および第2の関節機構5を有している場合、フットスイッチを踏んでいるときは第1の関節機構3および第2の関節機構5のロックが解除され、アーム部4の軸回りの回動および角度の変位が可能となり、フットスイッチを踏んでいないときは第1の関節機構3および第2の関節機構5をロックし、これらの動作を行わせないようにすることができる。
【0045】
なお、フットスイッチでの操作は、アクチュエータ7や油圧ユニットの設定を変更することにより任意に設定することが可能であり、例えば、前記したものとは逆の操作、つまり、フットスイッチを踏んでいるときだけ第1の関節機構3および第2の関節機構5をロックし、フットスイッチを踏んでいないときに第1の関節機構3および第2の関節機構5のロックを解除するように設定することもできる。フットスイッチによる操作は、基台2の旋回とそのロックを行う旋回手段23についても同様に適用することができる。
また、第1の関節機構3、第2の関節機構5および旋回手段23のロックとその解除は、フットスイッチの操作によって同じ動作を同時に行うようにするのが好ましいが、別々に行うようにしてもよい。かかる設定もアクチュエータ7や油圧ユニットの設定により変更することができる。
【0046】
以下に、超音波診断を行う際の補助装置としてアーム装置1を使用する場合を例にとり、アーム装置1の一使用例について説明する。
なお、アーム装置1の動作のロックとその解除の操作は、フットスイッチによるものとし、その設定は、操作者がフットスイッチを脚で踏んでいるときにロックを解除し、フットスイッチを踏んでいないときにロックをすることとする。
【0047】
超音波診断を行う患者C(図1参照)をベッドBに寝かせる。このとき、アーム装置1の操作者である医師は、フットスイッチを踏んでいないので、第1の関節機構3、第2の関節機構5および基台2の旋回手段23はロックされており、アーム部4は動かない。
【0048】
次いで、操作者は、アーム部4を動かして患者Cの診断箇所に、対象物着脱手段6に取り付けられた対象物Oであるエコープローブを当接させるため、フットスイッチを踏む。すると、アクチュエータ7である油圧シリンダが作動して、油圧シリンダに接続された軸部材71が伸長し、軸部材71の端部に取り付けられた錐体部材45が油圧シリンダから離間する方向に移動する。その結果、錐体部材45によるくさび効果がなくなり、拡径していたボール部72は縮径するため継手部73の滑り面733、734を押圧していた押圧力がなくなる。その結果、第2の関節機構5および基台2の旋回手段23のロックは解除され、アーム部4は、軸回りの回動と、角度の変位と、を自由に行うことができるようになる。
【0049】
次いで、操作者は、フットスイッチを踏んだままアーム部4の先端部42の対象物着脱手段6に備えられたエコープローブを任意の空間位置に移動させる。
そして、操作者は、患者Cの診断箇所にエコープローブを適切な角度および適度な圧力をもって当接するように位置決めする。このとき、対象物着脱手段6が備えているスライド機構63のスライド許容手段が機能して、対象物着脱手段6が若干スライドするとともに、反発力発生手段によってスライドに対する反発力が生じる。これにより、前記したように適度な圧力を付与する。なお、エコープローブの角度は、予め対象物着脱手段6の有する角度調整手段61によって任意の角度に調整されている。
【0050】
エコープローブの位置決めをしたら、操作者は、フットスイッチから脚を離す。すると、油圧シリンダが作動して軸部材71が縮退し、軸部材71の端部に取り付けられた錐体部材45が油圧シリンダに近接する方向に移動する。その結果、錐体部材45によってくさび効果が発揮され、ボール分割体721を押し広げてボール部72を拡径させ、これによりボール部72は継手部73の滑り面733、734を押圧し、その押圧力によって第1の関節機構3、第2の関節機構5および基台2の旋回手段23は強固に固定される。つまり、アーム部4の動作はロックされる。
【0051】
動作がロックされたアーム部4は、患者Cに対し、適切な角度および適度な圧力でエコープローブを固定し続ける。これにより、操作者(医師)がマニュアル操作で選択した位置での超音波画像をハンドフリーの状態でモニタリングすることができるようになる。また、超音波画像による臓器運動の長時間の観察が容易となるため、炭素線治療や放射線治療において、金属片などのマーカーを用いないで(マーカーレスで)腹部臓器の運動のモニタリングが可能となる。そのため、患者Cに与える負担を軽減することができる。さらに、エコープローブを取り付けたアーム装置1によれば、長時間、臓器運動をモニタリングすることができるので臓器運動と同期させてより高精度に炭素線や放射線を照射させることができるようになる。
【0052】
診断終了後、操作者は、診断箇所からエコープローブを離すため再びフットスイッチを踏む。すると、前記と同様に、油圧シリンダを作動させて軸部材71を伸長させ、軸部材71の端部に取り付けられた錐体部材45が油圧シリンダから離間する方向に移動する。その結果、くさび効果がなくなって継手部73の滑り面733、734を押圧していた押圧力がなくなるため、第1の関節機構3、第2の関節機構5および基台2の旋回手段23のロックは解除され、アーム部4を自由に動かすことができるようになる。アーム部4を自由に動かすことができるようになったら、エコープローブを患者Cから離間させて診断を終了する。
【0053】
以上、発明を実施するための形態により本発明に係るアーム装置の一実施形態について詳細に説明したが、本発明の内容は前記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変、変形等することができ、これらも本発明の技術的範囲内に含まれる。
【0054】
例えば、前記した実施形態では、ネジ部材などの高さ調節手段21を有する支持柱22に基台2を固定するのがよい旨説明したが、基台2は、図3に示すように、天井10や部屋の壁などに固定してもよい。なお、図3は、放射線治療室内に設置されたアーム装置1の一例を説明している。図3に示すように、アーム装置1は、前記した第1の関節機構3および第2の関節機構5とアーム部4とを設けているので、対象物Oを任意の空間位置で固定することができ、また、アーム部4を自由に動かしてロックすることができるので、荷電粒子線や電子線などの放射線を射出する射出端11と、患者Cとの間で邪魔にならないようにアーム部4および対象物Oを固定することができる。
なお、アーム装置1のアーム部4は1つである必要はなく、必要に応じて増やすこともできる。例えば、図3に示すように2つとしてもよい。
【0055】
また、前記ではアルミニウム合金などの軽金属を用いるとよい旨説明したが、ステンレス鋼などを用いることもできる。
さらに、アクチュエータ7として油圧シリンダを用いるのが好ましい旨説明したが、エアシリンダや電動モータなどを用いることもできる。
【符号の説明】
【0056】
1 アーム装置
2 基台
21 調節手段
22 支持柱
23 旋回手段
24 回転軸
25 油圧シリンダ
26 ディスクブレーキ
3 第1の関節機構
4 アーム部
41 基端部
42 先端部
43 カバー部材
44 管部材
441 フランジ部
442 フランジ部
45 錐体部材
46 棒状部材
5 第2の関節機構
6 対象物着脱手段
61 角度調整手段
62 ネジ部材
63 スライド機構
7 アクチュエータ
71 軸部材
72 ボール部
721 ボール分割体
722 連通部
723 テーパ部
73 継手部
731 ボール受け座部
732 リング部
733 滑り面
734 滑り面
74 ボールジョイント
75 油圧ホース
10 天井
11 射出端
B ベッド
C 患者
O 対象物
OO 他の物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着脱自在に取り付けられた対象物を任意の空間位置で固定するためのアーム装置であって、
基台に設けられた第1の関節機構と、
基端部が前記第1の関節機構によって継合され、当該第1の関節機構によって軸回りの回動と角度の変位とこれらの動作のロックとが行われ、先端部に前記対象物を着脱自在に取り付ける対象物着脱手段を備えるアーム部と、
前記基端部と前記先端部との間に、前記アーム部の軸回りの回動と角度の変位とこれらの動作のロックとを行う少なくとも1つの第2の関節機構と、を有し、
前記第1の関節機構および前記第2の関節機構はともに、
アクチュエータによって伸縮する軸部材と、
当該軸部材の伸縮に応じて縮径および拡径するように固定された、1つのボール状の構造体を2つ以上に分割してなるボール部と、
当該ボール部の形状に対応する形状の滑り面を有する継手部と、
で形成されるボールジョイントである
ことを特徴とするアーム装置。
【請求項2】
前記アーム部はカバー部材を有し、
前記カバー部材内に前記アクチュエータを設けた
ことを特徴とする請求項1に記載のアーム装置。
【請求項3】
前記アクチュエータが油圧シリンダである
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアーム装置。
【請求項4】
前記第1の関節機構および前記第2の関節機構における動作のロックの操作を行うフットスイッチを備えている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載のアーム装置。
【請求項5】
前記対象物着脱手段が、前記対象物の取り付け角度を調整する角度調整手段を有する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1に記載のアーム装置。
【請求項6】
前記対象物着脱手段が、一定方向のスライドを許容するスライド許容手段と、前記スライドに対する反発力を発生させる反発力発生手段と、を有するスライド機構を備えている
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1に記載のアーム装置。
【請求項7】
前記基台の水平方向における旋回とロックを行う旋回手段をさらに備えている
ことを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1に記載のアーム装置。
【請求項8】
前記対象物が超音波診断装置のエコープローブであり、当該エコープローブを前記対象物着脱手段に取り付けたことを特徴とする請求項1から請求項7のうちのいずれか1に記載のアーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−5646(P2012−5646A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144023(P2010−144023)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【出願人】(504026247)三樹工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】