説明

イオンドーピング装置およびイオンドーピング方法

【課題】質量分離機能を有さない簡易な装置構成で同一質量の水素イオンのみをドーピングするイオンドーピング装置を提供することを目的の一とする。また、そのイオンドーピング方法を提供することを目的の一とする。
【解決手段】誘電体板を外壁の一部とするプラズマ室に水素を導入し、マイクロ波により当該誘電体板に表面波を発生させると、水素の負イオンの生成されやすい領域ができる。当該負イオンは分子量1のものしか生成されないため、質量分離をせずとも、電界をかけることにより同一質量のイオンのみを対象物に添加できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンドーピング装置及びそれを用いたイオンドーピング方法に係り、開示される発明の一形態は、水素の負イオンを添加するイオンドーピング装置およびイオンドーピング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の価電子制御用の不純物元素をイオン化し、電界で加速して添加する技術はイオン注入法として知られている。
【0003】
イオンドーピング装置(ドーピング装置とも呼ばれる)は、イオン源に連接するドーピング室を有する。ドーピング装置は、真空状態としたドーピング室に基板を設置し、イオン源で発生させたイオンを電界で加速し、基板の極表層に添加するものである。本明細書中において、基板とはドーピングされる対象物の1つである。イオン源はプラズマ室と、プラズマ室で生じたイオンを引き出す引き出し加速電極系(引き出し電極と加速電極)と、二次電子の流入を制御する減速電極系(抑制電極と接地電極)とから成っている。電極には一般に多孔電極が使用され、イオンはこの孔を通過してドーピング室へ到達する。このようなイオンの流れをイオン流と称する。
【0004】
イオン源のプラズマ発生方法には、直流放電方式、高周波放電方式、マイクロ波放電方式等がある。また、磁場を印加することによりプラズマをイオン源内部に閉じこめておくことも可能であり、プラズマ室の周囲に永久磁石を配置することによりカスプ磁場を形成する場合もある。
【0005】
ドーピング装置では、多くの場合、質量分離を行わない為、プラズマ室で生じたイオン種のうちの正イオンは全て引き出し電極による電界で加速され、半導体層などに添加されることになる。イオンは、たとえば水素、または水素などで希釈させたジボラン(B)やホスフィン(PH)などをプラズマ化して得る。これらのイオンは通常1kVから100kV程度の電圧を印加されることで加速される。例えば、水素を質量分離せず基板にドーピングする場合、H、H、Hなどのイオンが発生するため、深さ方向の比較的広い範囲に水素を含有する基板が得られる。
【0006】
ドーピング装置と類似のものに、イオン注入装置というものがある。これは、イオンの分子量、つまり質量の違いによりイオン流を分離するもので、特にイオンの添加される深さの分布を狭く抑えたいときに使われる。イオン流の分離は、イオンに磁場を印加してローレンツ力を与えることにより行う。これにより、分子量の揃ったイオンを対象物に添加することができるため、イオンの深さ方向の分布を狭く抑えることが可能となる。
【0007】
イオン注入装置を利用する技術のひとつに、SOI(Silicon On Insulator)基板の作製が挙げられる。SOI基板は、絶縁表面上に単結晶シリコン薄膜を有するもので、集積回路中のトランジスタ同士を電気的に完全に分離して形成することができ、またトランジスタを完全空乏型とすることができるため、高集積、高速駆動、低消費電力など付加価値の高い半導体集積回路を実現できる。
【0008】
SOI基板の作製には、例えば、SIMOX技術や貼り合わせ技術を利用する。貼り合わせ技術には、例えば、水素のイオン注入工程を用いる。具体的には、はじめにシリコンウエハに水素イオン注入を行うことによって、シリコンウエハ表面から所定の深さに水素脆化層を形成する。次に、ベース基板となる他のシリコンウエハの表面を酸化し、酸化シリコン膜を形成する。その後、イオン注入された面と、酸化シリコン膜を貼り合わせ、2枚のシリコンウエハを一体とする。そして、加熱処理を行うことにより、水素脆化層を境にシリコンウエハを分離させる。これにより、SOI基板が完成する。SOI基板では、単結晶シリコン薄膜を高度に平坦化する必要があるため、イオンの添加される深さの分布がより狭いイオン注入装置を用いることが好ましい。
【0009】
しかしながら、イオン注入装置は質量分離機能を有するため、スループットが低い上に大変高価である。安価なSOI基板の提供のためには、質量分離をせずとも水素を所定の深さに狭い分布で添加できる装置が必要である。そのような装置の例として、水素の負イオンを生成し、当該負イオンを電界により加速して対象物に添加するものが考案されている。水素の負イオンは、水素の正イオンとは異なり、分子量1のものしか生じないため、質量分離の必要が無い。水素の負イオンを多く生成するためには、例えば、水素プラズマ中に発生する高エネルギーの電子を捕獲する磁場を設けるとよい。高エネルギーの電子は水素の負イオンを壊す作用を有するため、このような磁場を設けることで、水素の負イオンの生成を促進させることができる。その他、セシウムやルビジウムやカリウムなどのアルカリ金属の蒸気をイオン源に導入し、負にバイアスした金属表面(ターゲットと称す)に当該蒸気を付着させることにより、当該ターゲットから電子が水素原子に移動して、水素の負イオンを生成する方法などがある(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−12285号公報
【特許文献2】特開2000−21597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術の示すとおり、イオンドーピング装置の内部に磁場やターゲットを設けることにより、水素の負イオンを効率よく生成することができるが、いずれの方法も、設備の複雑化や希少な元素の使用を要するため、安価なSOI基板の提供の目的から外れている。また、アルカリ金属を付着させるためのターゲットは、例えばプラズマ室の内壁を利用することや、プラズマ室の内部に金属の部材を配置することにより設けるが、水素の負イオンを広域に渡って一様に分布させることが困難で、特に直径300mmのシリコンウエハや、今後主流となる可能性のある直径450mmのシリコンウエハのような大型基板を高スループットで処理するには不向きであった。
【0012】
そこで、開示する発明の一態様は、質量分離機能を有さない簡易な装置構成で同一質量の水素イオンのみを添加できるイオンドーピング装置の提供を目的の一とする。また、直径300mm以上のウエハに同一質量の水素イオンのみを一度に添加できるイオンドーピング装置の提供を目的の一とする。また、当該ドーピングを行う方法を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
開示する発明の一態様は、マイクロ波を伝播させる導波路と、当該マイクロ波を表面波に変換する誘電体板と、誘電体板を外壁の一部とするプラズマ室と、プラズマ室に水素を供給する水素供給部と、プラズマ室で表面波により当該水素から生じる負イオンに対し、速度を与える電界形成部とを有し、当該誘電体板は導波路とプラズマ室の間を仕切るものであることを特徴とするイオンドーピング装置である。
【0014】
電界形成部は負イオンを引き出す引き出し電極と、当該負イオンを加速する加速電極とを有している。あるいは、当該加速電極の代わりに、ドーピングされる対象物に引き出し電極の電位よりも高い電位を与える電位付与部を有していてもよい。
【0015】
誘電体板の耐熱温度は1300K以上であると好ましい。これにより、プラズマの熱に十分耐える装置とすることができる。また、当該誘電体板により真空と大気を分けているため、大気圧に耐える強度を有している必要がある。そのような部材の例として、石英ガラスやアルミナがある。あるいは、マイクロ波を伝播させる導波路の内部において真空を保てる構造を採用すると、当該誘電体板は大気圧に耐える強度を有していなくてもよい。石英ガラスやアルミナは比較的容易に大面積化できるため、例えば、直径300mmまたは直径450mmの円を覆うことの出来る板とすることで、直径300mmまたは直径450mmのシリコンウエハを一度の処理できるため好ましい。つまり、誘電体板の大きさは、直径300mmまたは直径450mmの円を覆うもの、またはそれ以上であることが好ましい。また、当該誘電体板の形状は、円状、長方形状などとすることができる。
【0016】
誘電体板と引き出し電極との距離は20mm以上であると、プラズマ室において電子のエネルギー(電子温度)の平均値が1eV程度である領域を形成することができるため、水素の負イオンの生じやすい状態とすることができ好ましい。また、装置の小型化の観点から、当該距離は200mm以下に抑えることが好ましいが400mm程度までは許容できる。また、当該距離の少なくとも20mm乃至200mmの範囲においては、電子のエネルギーの平均値は1eV程度である。従って、この範囲全域にわたり、水素の負イオンの生じやすい状態とすることができる。なお、電子のエネルギーの平均値が1eV程度のとき、電子のエネルギーは、0eV乃至3eVに分布する。これは、水素の負イオンが生じやすいとされる電子のエネルギーの範囲である1eV乃至3eVを含む。また、電子のエネルギーが3eVよりも大きなものは、水素の負イオンを壊す作用を有するため、電子のエネルギーの平均値は1.5eVを超えないことが好ましい。また、電子のエネルギーの平均値が0.5eVよりも小さいと、電子のエネルギーが1eV乃至3eVのものの数が著しく少なくなるため好ましくない。従って、プラズマ室での電子のエネルギーの平均値は0.5eV以上1.5eV以下とすると好ましい。
【0017】
開示する発明の他の一態様は、導波路を介してマイクロ波を誘電体板に供給することにより誘電体板に表面波を発生させ、当該表面波に接する水素をプラズマとし、電界をかけることによりプラズマとなった水素の負イオンを加速させ、対象物に添加することを特徴とするイオンドーピング方法である。
【発明の効果】
【0018】
希少な金属の使用や、高エネルギーの電子の捕獲のための磁場を印加することなく、非常に簡易な装置構成で水素の負イオンを生成できる。水素の負イオンは、分子量1のもののみ生じるため、質量分離を行うことなく同一分子量の水素を電界により加速できる。従って、深さ方向に非常に分布の狭い水素の添加が可能であるから、例えば、SOI基板の作製工程において形成される水素脆化層の厚さを非常に薄くできる。これにより、非常に平坦度の高い単結晶シリコン膜を得ることが出来る。また、水素の負イオンは誘電体板からある一定の距離の範囲に一様に生じるため、当該誘電体板の面積によってプラズマの面積を自由に設定できる。その面積は、例えば1m角以上とすることができるため、直径300mmのウエハやそれ以上の大きさのウエハを一度に処理可能である。また、複数のウエハを同時に処理することも容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係るドーピング装置を説明する図面。
【図2】本発明の一実施形態に係るドーピング装置を説明する図面。
【図3】ラジアルラインスロットアンテナを説明する図面。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定されず、本明細書等において開示する発明の趣旨から逸脱することなく形態および詳細を様々に変更し得ることは当業者にとって自明である。また、異なる実施の形態に係る構成は、適宜組み合わせて実施することが可能である。なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号を用い、その繰り返しの説明は省略する。また、本明細書中においてドーピング装置とは、イオンを加速して対象物に元素を添加する装置全般を指す。
【0021】
(実施の形態1)
本実施の形態においては、本発明の一実施形態に係るドーピング装置を、図1を用いて説明する。
【0022】
本発明の一実施形態に係るドーピング装置は、マイクロ波を伝播させる導波路101、当該マイクロ波を表面波に変換する誘電体板102、誘電体板102を外壁の一部とするプラズマ室103、プラズマ室103に水素を供給する水素供給部109、プラズマ室103に生じる負イオンを引き出す引き出し電極104、当該負イオンを加速する加速電極105、加速された負イオンを添加する対象物を格納するドーピング室106、ドーピングされる対象物である基板107を搭載するためのステージ108からなる。誘電体板102は、導波路101とプラズマ室103の間を仕切るものである。引き出し電極104と加速電極105は、本発明の一実施の形態に係る電界形成部であり、加速電極105に印加される電位は、引き出し電極104のそれよりも高くする。あるいは、加速電極105の代わりに、ドーピングされる対象物に引き出し電極104の電位より高い電位を与える電位付与部を設けてもよい。引き出し電極104はプラズマ室103の外壁の一部を成す。
【0023】
引き出し電極104などの電極を設けずとも、正イオンを、ドーピングされる対象物に添加することは可能であるが、負イオンの添加にはプラズマの保持のために、引き出し電極104が必須の構成となる。以下にその理由を述べる。これはプラズマの接する面からその近傍に、シースと呼ばれる空間電荷層が形成されるためで、当該空間電荷層の電界方向において、プラズマ電位は当該面よりも高い電位を有している。そのため、そのような面には負電荷は近づくことができない。従って、当該面の一部をドーピングされる対象物とした場合、正イオンは当該対象物に添加できるが負イオンはできないということになる。
【0024】
導波路101は、マイクロ波を伝播させるためのものである。ここには例えば、2.45GHz、1kWのマイクロ波を伝播させる。本発明に適したマイクロ波の条件はこれに限らない。本発明の一実施形態におけるマイクロ波の周波数の適用範囲は、0.1GHz以上10GHz以下である。具体的なその他の例として、8.30GHz、1.6kWのマイクロ波を用いてもよい。これにより、誘電体板102に表面波が発生する。このとき、水素供給部109により、プラズマ室103を例えば2Pa以上200Pa以下程度の圧力の水素で満たすと、この表面波の電界で水素の電子が加速されプラズマ化する。誘電体板102の近傍から20mm乃至30mmあたりまでは電子のエネルギーが高く、水素の負イオンの発生しにくい環境にある。しかしながら、それよりも誘電体板102から離れた領域では、電子のエネルギー(電子温度)の平均値が1eV程度と、水素の負イオンを発生させるのに適したエネルギー範囲のため、誘電体板102と引き出し電極104の間の距離は、20mm以上または30mm以上とするのが好ましい。また、誘電体板102の表面波は、誘電体板全体に一様に広がるため、水素の負イオンも当該板の下では一様に分布する。これにより、誘電体板102の面積に等しい大きさの範囲に、一様に分布する水素の負イオンを得ることが出来る。誘電体板102には石英ガラスやアルミナなどが採用できるため、1m角以上のものが容易に得られる。従って、例えば、直径300mmのウエハを一度に処理可能である。誘電体板102の特性として必要なものは、誘電損失が小さいこと、1300K以上の耐熱性、真空窓に耐える強度、プラズマ耐性、などが挙げられ、これらを有するものを利用できる。
【0025】
発生した水素の負イオンを特定の方向に引き出すため、引き出し電極104を用いる。引き出し電極104で引き出された水素の負イオンは、加速電極105により所望の速度を与えられ、基板107に到達する。このとき、水素の負イオンは分子量1のものしか存在しないため、基板107に添加される水素の深さ分布は非常に狭い範囲に抑えられる。ここでは用いないが、二次電子の流入を制御する減速電極系(抑制電極と接地電極)をさらに設けてもよい。基板107は、図示しない搬送部によりドーピング室106に導入され、ステージ108に載置される。ステージ108は、必要に応じ走査部を設けてもよい。これにより、誘電体板102よりも大きな基板107に対しても、同様の処理を行うことが出来る。
【0026】
ここでは図示しないが、プラズマ室103を排気するため、排気装置を用いる必要がある。これには、ドライポンプ、メカニカルブースターポンプ、ターボ分子ポンプなどを用いればよく、これらを適宜組み合わせてもよい。
【0027】
本発明の一形態により、質量分離機能を有さない、直径300mm以上のウエハの範囲の面積を一度にドーピングできる、添加される水素の深さ方向の分布の非常に狭い、ドーピング装置を提供できる。また、本発明の一形態に係るドーピング装置は、放電領域に電極を有さないため、直流アーク放電を用いるドーピング装置と比較して、陰極のフィラメント交換などのメンテナンスが不要となり、この点においても優れている。
【0028】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0029】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、本発明の一実施形態に係るドーピング装置を、図2を用いて説明する。
【0030】
本発明の一実施形態に係るドーピング装置は、マイクロ波を伝播させるラジアルラインスロットアンテナ201、当該マイクロ波を表面波に変換する誘電体板102、誘電体板102を外壁の一部とするプラズマ室103、プラズマ室103に水素を供給する水素供給部109、プラズマ室103に生じる負イオンを引き出す引き出し電極104、当該負イオンを加速する加速電極105、加速された負イオンを添加する対象物を格納するドーピング室106、ドーピングされる対象物である基板107を搭載するためのステージ108からなる。誘電体板102は、導波路101とプラズマ室103の間を仕切るものである。引き出し電極104と加速電極105は、本発明の一実施の形態に係る電界形成部であり、加速電極105に印加される電位は、引き出し電極104のそれよりも高くする。あるいは、加速電極105の代わりに、ドーピングされる対象物に引き出し電極104の電位より高い電位を与える電位付与部を設けてもよい。引き出し電極104はプラズマ室103の外壁の一部を成す。
【0031】
引き出し電極104などの電極を設けずとも、正イオンを、ドーピングされる対象物に添加することは可能であるが、負イオンの添加にはプラズマの保持のために、引き出し電極104が必須の構成となる。以下にその理由を述べる。これはプラズマの接する面からその近傍に、シースと呼ばれる空間電荷層が形成されるためで、当該空間電荷層の電界方向において、プラズマ電位は当該面よりも高い電位を有している。そのため、そのような面には負電荷は近づくことができない。従って、当該面の一部をドーピングされる対象物とした場合、正イオンは当該対象物に添加できるが負イオンはできないということになる。
【0032】
ラジアルラインスロットアンテナ201は、マイクロ波を伝播させるためのものである。ここには例えば、2.45GHz、1kWのマイクロ波を図2の矢印の方向から入射させ、板部に伝播させる。当該板部は誘電体板を有する。本発明に適したマイクロ波の条件はこれに限らない。本発明の一実施形態におけるマイクロ波の周波数の適用範囲は、0.1GHz以上10GHz以下である。具体的なその他の例として、8.30GHz、1.6kWのマイクロ波を用いてもよい。これにより、誘電体板102に表面波が発生する。このとき、水素供給部109により、プラズマ室103を例えば2Pa以上200Pa以下程度の圧力の水素で満たすと、この表面波の電界で水素の電子が加速されプラズマ化する。誘電体板102の近傍から20mm乃至30mmあたりまでは電子のエネルギーが高く、水素の負イオンの発生しにくい環境にある。しかしながら、それよりも誘電体板102から離れた領域では、電子のエネルギー(電子温度)の平均値が1eV程度と、水素の負イオンを発生させるのに適したエネルギー範囲のため、プラズマ室内部の厚さは、20mm以上または30mm以上とするのが好ましい。また、誘電体板102の表面波は、誘電体板の、プラズマ室内壁を構成する部分全体に一様に広がるため、水素の負イオンも当該板の下では一様に分布する。これにより、誘電体板102の面積に等しい大きさの範囲に、一様に分布する水素の負イオンを得ることが出来る。誘電体板102には石英ガラスやアルミナなどが採用できるため、1m角以上のものが容易に得られる。従って、例えば、直径300mmのウエハを一度に処理可能である。誘電体板102の特性として必要なものは、誘電損失が小さいこと、1300K以上の耐熱性、真空窓に耐える強度、プラズマ耐性、などが挙げられ、これらを有するものを利用できる。
【0033】
発生した水素の負イオンを特定の方向に引き出すため、引き出し電極104を用いる。引き出し電極104で引き出された水素の負イオンは、加速電極105により所望の速度を与えられ、基板107に到達する。このとき、水素の負イオンは分子量1のものしか存在しないため、基板107に添加される水素の深さ分布は非常に狭い範囲に抑えられる。ここでは用いないが、二次電子の流入を制御する減速電極系(抑制電極と接地電極)をさらに設けてもよい。基板107は、図示しない搬送部によりドーピング室106に導入され、ステージ108に載置される。ステージ108は、必要に応じ走査部を設けてもよい。これにより、誘電体板102よりも大きな基板107に対しても、同様の処理を行うことが出来る。
【0034】
ここでは図示しないが、プラズマ室103を排気するため、排気装置を用いる必要がある。これには、ドライポンプ、メカニカルブースターポンプ、ターボ分子ポンプなどを用いればよく、これらを適宜組み合わせてもよい。
【0035】
つづいて、ラジアルラインスロットアンテナ201について、図3を用いて説明する。図3(A)にその側面図を、図3(B)にその平面図を示す。
【0036】
図3(A)において、ラジアルラインスロットアンテナ201は、導波管301、金属板302、誘電体板303、スロット(細い溝部)を複数有する金属板304からなる。中央部の導波管301より供給されたマイクロ波は、金属板302と金属板304で挟まれた誘電体板303により形成された導波路を伝わり、スロットから下方に向かって伝播される。マイクロ波の分布は、スロットの形状、配置などにより決まる。図3(B)に示すように、ラジアルラインスロットアンテナ201は、その構造上、円形に設計するのが好ましく、円形状のシリコンウエハなどの処理に適している。もちろん、本装置により、四角形やその他の対象物を処理しても構わない。
【0037】
本発明の一形態により、質量分離機能を有さない、直径300mm以上のウエハの範囲の面積を一度にドーピングできる、添加される水素の深さ方向の分布の非常に狭い、ドーピング装置を提供できる。また、本発明の一形態に係るドーピング装置は、放電領域に電極を有さないため、直流アーク放電を用いるドーピング装置と比較して、陰極のフィラメント交換などのメンテナンスが不要となり、この点においても優れている。
【0038】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【符号の説明】
【0039】
101 導波路
102 誘電体板
103 プラズマ室
104 電極
105 加速電極
106 ドーピング室
107 基板
108 ステージ
109 水素供給部
201 ラジアルラインスロットアンテナ
301 導波管
302 金属板
303 誘電体板
304 金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を伝播させる導波路と、
前記マイクロ波を表面波に変換する誘電体板と、
前記誘電体板を外壁の一部とするプラズマ室と、
前記プラズマ室に水素を供給する水素供給部と、
前記プラズマ室で前記表面波により前記水素から生じる負イオンに対し、速度を与える電界形成部とを有し、
前記誘電体板は、前記導波路と前記プラズマ室の間を仕切るものであることを特徴とするイオンドーピング装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記誘電体板の耐熱温度は、1300K以上であることを特徴とするイオンドーピング装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記誘電体板は、石英ガラスまたはアルミナであることを特徴とするイオンドーピング装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
前記誘電体板の大きさは、直径300mmまたは直径450mmの円を覆うもの、またはそれ以上であることを特徴とするイオンドーピング装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
前記電界形成部は、引き出し電極を有することを特徴とするイオンドーピング装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記誘電体板と前記引き出し電極との距離は20mm以上200mm以下であることを特徴とするイオンドーピング装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6において、
前記電界形成部は、加速電極を有することを特徴とするイオンドーピング装置。
【請求項8】
請求項5または請求項6において、
前記電界形成部は、ドーピングされる対象物に電位を与える電位付与部を有することを特徴とするイオンドーピング装置。
【請求項9】
導波路を介してマイクロ波を誘電体板に供給することにより前記誘電体板に表面波を発生させ、
前記表面波に接する水素をプラズマとし、電界をかけることにより前記プラズマとなった前記水素の負イオンを加速させ、
ドーピングされる対象物に添加することを特徴とするイオンドーピング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−74368(P2012−74368A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188565(P2011−188565)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】