説明

イオン注入装置

【課題】 ビーム走査器とビーム平行化器との間に設けられていて、イオンビームをY方向において絞る働きをするユニポテンシャルレンズを構成する電極の組立誤差や製作誤差によって生じるイオンビームのXZ平面内での軌道のずれを当該ユニポテンシャルレンズにおいて電気的に修正することができるイオン注入装置を提供する。
【解決手段】 このイオン注入装置は、ビーム走査器とビーム平行化器との間に設けられたユニポテンシャルレンズ40と、その第2電極42、第3電極43に直流電圧V1 、V2 を印加する直流電源60とを備えている。そして、ユニポテンシャルレンズ40の第1ギャップ51、第3ギャップ53の曲率中心の位置を、ビーム走査器の走査中心の位置と一致させており、第2ギャップ52の曲率中心の位置を、走査中心の位置よりもイオンビーム進行方向の下流側にずらしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、走査されたイオンビームを、その走査面と実質的に直交する方向において絞る働きをするユニポテンシャルレンズ(これはアインツェルレンズとも呼ばれる。以下同様)を備えているイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなユニポテンシャルレンズを備えているイオン注入装置の一例が、例えば特許文献1に記載されている。それを図1を参照して説明する。
【0003】
なお、この明細書および図面においては、イオンビーム4の進行方向をZ方向とし、この進行方向Zと実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向としている。例えば、X方向およびZ方向は水平方向であり、Y方向は垂直方向である。
【0004】
このイオン注入装置は、イオン源2から発生させたイオンビーム4を、質量分離器6によって質量分離し、加減速器8によって加速または減速し、エネルギー分離器10によってエネルギー分離し、ビーム走査器12によってX方向において走査し、ビーム平行化器14によってXZ平面(X方向とZ方向とで形成される平面。以下同様)内で所定の基準軸16に対して実質的に平行になるように曲げて平行ビーム化し、このビーム平行化器14からのイオンビーム4を、X方向が長辺、Y方向が短辺である長方形の開口22を有するビーム整形用マスク20を通して整形した後、ホルダ26に保持されたターゲット(例えば半導体基板)24に照射して、ターゲット24にイオン注入を行うよう構成されている。
【0005】
ターゲット24は、ホルダ26と共に、ビーム平行化器14からのイオンビームの照射領域内で、ターゲット駆動装置28によって、XZ平面に交差する方向(例えばY方向)に機械的に走査(往復駆動)される。
【0006】
ビーム平行化器14の下流側に、より具体的にはこの例では、ビーム平行化器14とビーム整形用マスク20との間に、イオンビーム4を、そのエネルギーを変えずにY方向において絞る働きをするユニポテンシャルレンズ30が設けられている。ユニポテンシャルレンズ30は、入口電極31、中間電極32および出口電極33を有している。
【0007】
このユニポテンシャルレンズ30によってイオンビーム4をY方向において絞ることによって、イオンビーム4のエネルギーを変えずに、イオンビーム4の空間電荷効果等によるY方向の発散を抑制して、イオンビーム4がビーム整形用マスク20等によってカットされる割合を減らして、イオンビーム4のターゲット24への輸送効率を高めることができる。
【0008】
ところで、特許文献1では、ビーム平行化器14の下流側にユニポテンシャルレンズ30を設けているけれども、イオンビーム4をより上流側で絞る等のために、上記ユニポテンシャルレンズ30の代わりに、図1中に二点鎖線で示すように、ビーム走査器12とビーム平行化器14との間にユニポテンシャルレンズ30aを設けることも考えられる。
【0009】
その場合は、ユニポテンシャルレンズ30aは、特許文献2に記載されている加速管のような構成にするのが好ましい。
【0010】
即ち、特許文献2には、イオンビームを走査する静電偏向器と、走査されたイオンビームを平行ビーム化する扇形電磁石との間に、円弧状の電極の曲率中心が静電偏向器の偏向中心と一致している加速管を設けて、静電偏向器での走査角等に関わらずに、基板に入射するイオンの角度を一定に保つ技術が記載されている。
【0011】
従って、ユニポテンシャルレンズ30aを構成する電極31〜33を、図1中に二点鎖線で示す例のように、同心の円弧状にして、それらの曲率中心の位置を、ビーム走査器12の走査中心(ビーム走査器12におけるイオンビーム4の走査の中心。以下同様)12aの位置に一致させる。そのようにすると、ユニポテンシャルレンズ30aにおいては、理論的には、どの走査位置(走査角度)のイオンビーム4に対しても、それをXZ平面内で曲げる作用をする電界は生じないので、ユニポテンシャルレンズ30aによって、XZ平面内でのイオンビーム4の軌道を曲げることなく、イオンビーム4をY方向において絞ることができる。
【0012】
【特許文献1】特開2008−34360号公報(段落0034−0044、図1、図2、図10)
【特許文献2】特開平11−354064号公報(段落0016−0018、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のようなユニポテンシャルレンズ30aは、それを構成する電極31〜33の組立誤差や製作誤差が大きいと、XZ平面内でイオンビーム4を曲げる作用をする電界が生じて、XZ平面内でのイオンビーム4の軌道にずれが生じることが起こる。それが起こると、例えば、ビーム平行化器14にイオンビーム4が正しい軌道で入射しなくなるので、ビーム平行化器14によってイオンビーム4を平行ビーム化する働きが悪化して、ビーム平行化器14から導出されるイオンビーム4の平行度が悪化する。しかしこのようなイオンビーム4の軌道のずれを修正する技術は、特許文献2には記載されていない。
【0014】
そこでこの発明は、ビーム走査器とビーム平行化器との間に、イオンビームをY方向において絞る働きをするユニポテンシャルレンズを有しており、しかも当該ユニポテンシャルレンズを構成する電極の組立誤差や製作誤差等によって生じるイオンビームのXZ平面内での軌道のずれを当該ユニポテンシャルレンズにおいて電気的に修正することができるイオン注入装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明に係るイオン注入装置は、イオンビームの進行方向Zと実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、イオンビームをX方向において走査するビーム走査器と、このビーム走査器からのイオンビームをXZ平面内で所定の基準軸に対して実質的に平行になるように曲げて平行ビーム化するビーム平行化器とを備えているイオン注入装置において、前記ビーム走査器とビーム平行化器との間に設けられていて、そこを通過するイオンビームをY方向において絞る働きをするものであって、イオンビーム進行方向に、XZ平面内の形状がいずれも円弧状をしている第1ギャップ、第2ギャップおよび第3ギャップをそれぞれあけて並べられた第1電極、第2電極、第3電極および第4電極を有していて、第1電極および第4電極は電気的に接地されているユニポテンシャルレンズと、前記ユニポテンシャルレンズの第2電極および第3電極に第1直流電圧および第2直流電圧をそれぞれ印加する電圧可変の直流電源とを備えており、前記ユニポテンシャルレンズの第1ギャップおよび第3ギャップの曲率中心の位置を、前記ビーム走査器の走査中心の位置と実質的に一致させており、前記ユニポテンシャルレンズの第2ギャップの曲率中心の位置を、前記ビーム走査器の走査中心の位置よりもイオンビーム進行方向の下流側または上流側にずらしていることを特徴としている。
【0016】
このイオン注入装置においては、ユニポテンシャルレンズの第2電極および第3電極に直流電源から印加する第1直流電圧および第2直流電圧の少なくとも一方を調整することによって、ユニポテンシャルレンズの第2ギャップにおける電界を調整して、第2ギャップを通過したイオンビームのXZ平面内での軌道を変化させることができる。その結果、ユニポテンシャルレンズを構成する電極の組立誤差や製作誤差等によって生じるイオンビームのXZ平面内での軌道のずれを当該ユニポテンシャルレンズにおいて電気的に修正することができる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1、2に記載の発明によれば、ユニポテンシャルレンズによって、イオンビームのエネルギーを変化させることなく、イオンビームをY方向において絞ることができるので、イオンビームの輸送効率を高めることができる。
【0018】
しかも、ユニポテンシャルレンズの第2電極および第3電極に直流電源から印加する第1直流電圧および第2直流電圧の少なくとも一方を調整することによって、ユニポテンシャルレンズの第2ギャップにおける電界を調整して、第2ギャップを通過したイオンビームのXZ平面内での軌道を変化させることができるので、ユニポテンシャルレンズを構成する電極の組立誤差や製作誤差等によって生じるイオンビームのXZ平面内での軌道のずれを当該ユニポテンシャルレンズにおいて電気的に修正することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、ユニポテンシャルレンズの第2ギャップの曲率中心の位置を走査中心の位置より上流側にずらしている場合よりも、第2ギャップの曲率が大きくなって、第2ギャップにおける電界の方向と入射イオンビームとの間の角度を大きくしやすいので、第2ギャップを通過したイオンビームのXZ平面内での軌道を変化させやすくなり、ひいてはイオンビームのXZ平面内での軌道のずれを調整しやすくなる、という更なる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図2は、この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を示す概略平面図である。図3は、図2中のユニポテンシャルレンズ周りを拡大して電源と共に示す斜視図である。図2は概略図であり、ユニポテンシャルレンズ40の構成は図3に示すものがより正確である。図1に示した従来例と同一または相当する部分には同一符号を付し、以下においては当該従来例との相違点を主に説明する。
【0021】
このイオン注入装置においては、上記ユニポテンシャルレンズ30、30aの代わりに、上記ビーム走査器12とビーム平行化器14との間に、次のような構成のユニポテンシャルレンズ40を設けている。
【0022】
ユニポテンシャルレンズ40は、そこ(それ)を通過するイオンビーム4をY方向において絞る働きをするものであって、イオンビーム進行方向Zに、XZ平面内の形状がいずれも円弧状をしている第1ギャップ51、第2ギャップ52および第3ギャップ53をそれぞれあけて並べられた第1電極41、第2電極42、第3電極43および第4電極44を有している。
【0023】
第1電極41、第2電極42、第3電極43および第4電極44は、この実施形態では、それぞれ、図3に示すように、イオンビーム4が通過する空間46を挟んでY方向において相対向しておりかつ互いに同電位である一対の電極41a、41b、電極42a、42b、電極43a、43bおよび電極44a、44bから成る。電極41aと41b、電極42aと42b、電極43aと43b、電極44aと44bは、それぞれ、導体(図示省略)によって電気的に接続されている。但し、上記のようにせずに、各一対の電極を、それぞれ、イオンビーム4が通過する空間をあけた一体の電極で構成しても良い。
【0024】
第1電極41および第4電極44は電気的に接地されている。
【0025】
このイオン注入装置は、更に、第2電極42および第3電極43に第1直流電圧V1 および第2直流電圧V2 をそれぞれ印加する電圧可変の直流電源60を備えている。直流電源60は、この実施形態では、第2電極42に第1直流電圧V1 を印加する電圧可変の第1直流電源61と、第3電極43に第2直流電圧V2 を印加する電圧可変の第2直流電源62とを有している。但し、一つの電圧可変の直流電源で両直流電圧V1 、V2 を出力するようにしても良い。
【0026】
両直流電圧V1 、V2 は、正電圧であっても、ユニポテンシャルレンズ40にイオンビーム4をY方向において絞る働きをさせることはできるけれども、この実施形態のように、負電圧にする方が好ましい。負電圧にすると、電場のないドリフト空間(例えば第1電極41より上流側および第4電極44より下流側における電場のない空間)中の電子が第2電極42、第3電極43に引き込まれて消滅することを防止することができるので、当該電子の消滅によってイオンビーム4の空間電荷効果による発散が強くなることを防止することができる。
【0027】
各電極41〜44の、より具体的にはそれらを構成する各電極41a、41b、42a、42b、43a、43b、44a、44bの、上記イオンビーム4が通過する空間46側の面は、この実施形態では、XZ平面に実質的に平行である。
【0028】
各電極41〜44は、より具体的にはそれらを構成する各電極41a、41b、42a、42b、43a、43b、44a、44bは、この実施形態では、上記円弧状のギャップ51〜53をそれぞれ形成するように、XZ平面内で弧状に湾曲した形状をしている。
【0029】
図4も参照して、第1ギャップ51および第3ギャップ53の曲率中心51aおよび53aの位置を、上記ビーム走査器12の走査中心12aの位置と実質的に一致させている。第2ギャップ52の曲率中心52aの位置を、この実施形態では、上記ビーム走査器12の走査中心12aの位置よりもイオンビーム進行方向Zの下流側にずらしている。従って、第2ギャップ52の曲率は、第1ギャップ51および第3ギャップ53の曲率よりも大きい。換言すれば、第2ギャップ52の曲率半径は、第1ギャップ51および第3ギャップ53の曲率半径よりも小さい。第2ギャップ52の曲率中心52aの位置は、ビーム走査器12の走査中心12aの位置よりもイオンビーム進行方向Zの上流側にずらしても良いが、そのようにする例は後述する。
【0030】
後でシミュレーション結果を説明するけれども、ユニポテンシャルレンズ40は、イオンビーム進行方向Zにおける両端の電極、即ち第1電極41および第4電極44が互いに同電位(具体的には接地電位)に保たれ、第2電極42および第3電極43に直流電源60から直流電圧V1 、V2 が印加されるので、イオンビーム4のエネルギーを変化させることなく、イオンビーム4をY方向において絞ることができる。従って、イオンビーム4のエネルギーを変えずに、イオンビーム4の空間電荷効果等によるY方向の発散を抑制して、イオンビーム4が上記ビーム整形用マスク20によって、あるいはビーム平行化器14内等でカットされる割合を減らして、イオンビーム4のターゲット24への輸送効率を高めることができる。
【0031】
しかも、ユニポテンシャルレンズ40の第2電極42および第3電極43に直流電源60から印加する第1直流電圧V1 および第2直流電圧V2 の少なくとも一方を調整することによって、ユニポテンシャルレンズ40の第2ギャップ52における電界を調整して、第2ギャップを通過したイオンビーム4のXZ平面内での軌道を変化させることができる。これは、前述したように、第2ギャップ52の曲率中心52aの位置を、ビーム走査器12の走査中心12aの位置よりもイオンビーム進行方向Zの下流側にずらしているので、XZ平面内において、第2ギャップ52における電界の方向とイオンビーム4の進行方向との間に角度を付けることができるからである。
【0032】
従って、ユニポテンシャルレンズ40を構成する電極の組立誤差や製作誤差等によって生じるイオンビーム4のXZ平面内での軌道のずれを当該ユニポテンシャルレンズ40において電気的に修正することができる。その結果、例えば、ユニポテンシャルレンズ40を構成する電極に組立誤差や製作誤差があっても、ビーム平行化器14にイオンビーム4を正しい軌道で入射させることが可能になるので、ビーム平行化器14によってイオンビーム4を平行ビーム化する働きが悪化して、ビーム平行化器14から導出されるイオンビーム4の平行度が悪化することを防止することができる。
【0033】
ちなみに、第1ギャップ51の曲率中心51aおよび第3ギャップ53の曲率中心53aの位置は、前述したように、ビーム走査器12の走査中心12aの位置と実質的に一致させているので、原理的には、XZ平面内において、どの走査位置(走査角度)のイオンビーム4に対しても、両ギャップ51、53における電界の方向とイオンビーム4の進行方向との間に角度は付かない。従って、イオンビーム4をY方向において絞るために両ギャップ51、53に電界を発生させても、当該電界によって、イオンビーム4のXZ平面内での軌道が変化することはない。
【0034】
ユニポテンシャルレンズ40を通過するイオンビーム4の軌道のシミュレーションを行った結果の例を図4〜図17に示す。これらは、前述したビーム走査器12によってXZ平面内でX方向に走査されており(その走査中心は12a)、かつYZ平面内においてほぼ平行な(即ちY方向における発散角がほぼ0度の)イオンビーム4をユニポテンシャルレンズ40(より具体的にはその前記空間46)に入射させた場合の例である。イオンビーム4は、エネルギーが10keVのアルゴンイオンビームである。なお、これらの図の見方は、後の図面の簡単な説明の項をも参照するものとする。
【0035】
図4、図5は、ユニポテンシャルレンズ40に電圧を印加していない場合であり、いずれのギャップ51〜53にも電界は発生していないので、イオンビーム4の軌道はXZ平面内(図4参照)およびYZ平面内(図5参照)のいずれにおいても変化していない(即ち入射時の軌道方向を保って出射している)。
【0036】
図6、図7は、ユニポテンシャルレンズ40の第2電極42、第3電極43にいずれも−10kVの直流電圧V1 、V2 (即ちV1 =V2 )を印加した場合の例であり、第1ギャップ51、第3ギャップ53に電界が発生しており、その等電位線(等電位面とも言える。以下同様)71、73の幾つかを図示している。V1 =V2 だから第2ギャップ52には電界が発生しないので、当然のことながら、等電位線は図示していない。他の例における電界が発生しないギャップについても同様である。
【0037】
この図6、図7の場合は、XZ平面内では、前述したように、ギャップ51、53における電界の方向とイオンビーム4の進行方向との間に角度は付かないので(換言すれば等電位線71、73に対してイオンビーム4は実質的に直角に通るので)、XZ平面内でのイオンビーム4の軌道は変化していない(図6参照)。YZ平面内では、前述したイオンビーム4が通る空間46において等電位線71、73が凸レンズ状に膨らむので、イオンビーム4はY方向において絞られている(図7参照)。
【0038】
図8、図9は、ユニポテンシャルレンズ40の第2ギャップ42、第3ギャップ43にいずれも−5kVの直流電圧V1 、V2 (即ちV1 =V2 )を印加した場合の例であり、図6の場合と同様に、XZ平面内でのイオンビーム4の軌道は変化していない(図8参照)。YZ平面内では、図7の場合と同様に、イオンビーム4はY方向において絞られているけれども(図9参照)、図7の場合に比べて、直流電圧V1 、V2 の絶対値が小さいので、絞られる度合いは小さい。
【0039】
図10、11は、ユニポテンシャルレンズ40の第2電極42、第3電極43にそれぞれ−10kV、0kVの直流電圧V1 、V2 (即ちV1 <V2 )を印加した場合の例であり、第2ギャップ52に発生する電界(その等電位線72の幾つかを図示している)によって、XZ平面内でのイオンビーム4の軌道は集束する方向に曲げられている(図10参照)。これは、図18に誇張して示すように、XZ平面内でイオンビーム4に入射時の進行方向よりも内向きの電界Eが働いて、イオンビーム4が内向きに曲げられるからである。YZ平面内では、イオンビーム4が通る空間46において等電位線71、72が凸レンズ状に膨らむので、イオンビーム4はY方向において絞られている(図11参照)。
【0040】
図12、図13は、ユニポテンシャルレンズ40の第2電極42、第3電極43にそれぞれ−5kV、0kVの直流電圧V1 、V2 (即ちV1 <V2 )を印加した場合の例であり、図10の場合と同様に、XZ平面内でのイオンビーム4の軌道は集束する方向に曲げられているけれども(図12参照)、図10の場合に比べて、第2ギャップ52における電界が弱いので、曲げられる度合いは小さい。YZ平面内では、図11の場合と同様に、イオンビーム4はY方向において絞られているけれども(図13参照)、図11の場合に比べて、直流電圧V1 の絶対値が小さいので、絞られる度合いは小さい。
【0041】
図14、15は、ユニポテンシャルレンズ40の第2電極42、第3電極43にそれぞれ0kV、−10kVの直流電圧V1 、V2 (即ちV1 >V2 )を印加した場合の例であり、第2ギャップ52に発生する電界(その等電位線72の幾つかを図示している)によって、XZ平面内でのイオンビーム4の軌道は発散する方向に曲げられている(図14参照)。これは、図19に誇張して示すように、XZ平面内でイオンビーム4に入射時の進行方向よりも外向きの電界Eが働いて、イオンビーム4が外向きに曲げられるからである。YZ平面内では、イオンビーム4が通る空間46において等電位線72、73が凸レンズ状に膨らむので、イオンビーム4はY方向において絞られている(図15参照)。
【0042】
図16、図17は、ユニポテンシャルレンズ40の第2電極42、第3電極43にそれぞれ0kV、−5kVの直流電圧V1 、V2 (即ちV1 >V2 )を印加した場合の例であり、図14の場合と同様に、XZ平面内でのイオンビーム4の軌道は発散する方向に曲げられているけれども(図16参照)、図14の場合に比べて、第2ギャップ52における電界が弱いので、曲げられる度合いは小さい。YZ平面内では、図15の場合と同様に、イオンビーム4はY方向において絞られているけれども(図17参照)、図15の場合に比べて、直流電圧V2 の絶対値が小さいので、絞られる度合いは小さい。
【0043】
以上の例におけるXZ平面内でのイオンビーム4の軌道の状態をまとめて表1の上半分に示す。表1の下半分は後述する。
【0044】
【表1】

【0045】
以上のように、ユニポテンシャルレンズ40の第2電極42、第3電極43に直流電圧V1 、V2 を印加することによって、イオンビーム4をY方向において絞ることができ、かつ直流電圧V1 、V2 の大きさによってその絞る度合いを調整することができる。しかも、直流電圧V1 、V2 を調整することによって、XZ平面内でのイオンビーム4の軌道を変化させなかったり、集束する方向や発散する方向に変化させたりすることができ、かつ直流電圧V1 、V2 の大きさによって集束、発散の度合いを調整することができる。
【0046】
ユニポテンシャルレンズ40において、XZ平面内でのイオンビーム4の軌道を修正する方法のより具体例を説明する。
【0047】
図2に示したビーム平行化器14の下流側、例えばターゲット24の近傍において、ファラデーカップ等のイオンビーム検出器を用いて、XZ平面内でのイオンビーム4の平行度を検出して、平行度が所定範囲内にあれば、ユニポテンシャルレンズ40には単純なユニポテンシャルレンズとして機能するように、即ちXZ平面内でのイオンビーム4の軌道を変化させないように、V1 =V2 の直流電圧V1 、V2 を印加すれば良い。平行度が所定範囲内になければ、XZ平面内でのイオンビーム4の発散または集束を補正するように、V1 <V2 またはV1 >V2 の直流電圧V1 、V2 を印加すれば良い。
【0048】
上記各例は、ユニポテンシャルレンズ40の第2ギャップ52の曲率中心52aの位置を、ビーム走査器12の走査中心12aの位置よりも下流側にずらしている例であるが、それとは反対に、曲率中心52aの位置を、走査中心12aの位置よりもイオンビーム進行方向Zの上流側にずらしても良い。上流側にずらす場合は、第2ギャップ52の曲率は、第1ギャップ51および第3ギャップ53の曲率よりも小さくなる。換言すれば、第2ギャップ52の曲率半径は、第1ギャップ51および第3ギャップ53の曲率半径よりも大きくなる。即ち、上記各例の場合と逆の関係になる。これによって、XZ平面内でイオンビーム4を曲げる作用も、以下に説明するように、上記各例とは逆の関係になる。
【0049】
第2ギャップ52の曲率中心52aを上流側にずらした場合の例を説明する。この場合も、YZ平面内でイオンビーム4をY方向に絞る作用は、上記各例と同様であるので重複説明を省略する。
【0050】
ユニポテンシャルレンズ40の第2電極42、第3電極43にV1 =V2 の直流電圧V1 、V2 を印加した場合は、上記図6、図8の場合と同様に、XZ平面内でのイオンビーム4の軌道は変化しない。
【0051】
ユニポテンシャルレンズ40の第2電極42、第3電極43に、V1 <V2 の直流電圧V1 、V2 を印加した場合は、図20に誇張して示すように、XZ平面内でイオンビーム4に入射時の進行方向よりも外向きの電界Eが働いて、イオンビーム4は外向きに、即ち発散する方向に曲げられる。
【0052】
ユニポテンシャルレンズ40の第2電極42、第3電極43に、V1 >V2 の直流電圧V1 、V2 を印加した場合は、図21に誇張して示すように、XZ平面内でイオンビーム4に入射時の進行方向よりも内向きの電界Eが働いて、イオンビーム4は内向きに、即ち集束する方向に曲げられる。
【0053】
以上の関係を、上記表1の下半分にまとめて示している。
【0054】
このように、ユニポテンシャルレンズ40の第2ギャップ52の曲率中心52aの位置は、ビーム走査器12の走査中心12aの位置よりもイオンビーム進行方向Zの上流側にずらしても良いし下流側にずらしても良いけれども、下流側にずらす方が好ましい。その方が、上流側にずらす場合よりも、第2ギャップ52の曲率が大きくなって、第2ギャップ52における電界の方向と入射イオンビーム4との間の角度を大きくしやすいので、第2ギャップ52を通過したイオンビーム4のXZ平面内での軌道を変化させやすくなり、ひいてはイオンビーム4のXZ平面内での軌道のずれを調整しやすくなるからである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】従来のイオン注入装置の一例を示す概略平面図である。
【図2】この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を示す概略平面図である。
【図3】図2中のユニポテンシャルレンズ周りを拡大して電源と共に示す斜視図である。
【図4】図3に示すユニポテンシャルレンズに電圧を印加していない状態の一例を示すXZ平面図であり、図3中の矢印P方向に見て示している。
【図5】図3に示すユニポテンシャルレンズに電圧を印加していない状態の一例を示すYZ平面図であり、図3中の矢印Q方向に見て示している。
【図6】図3に示すユニポテンシャルレンズにV1 =V2 の電圧を印加した状態の一例を等電位線と共に示すXZ平面図であり、図3中の矢印P方向に見て示している。
【図7】図3に示すユニポテンシャルレンズにV1 =V2 の電圧を印加した状態の一例を等電位線と共に示すYZ平面図であり、図3中の矢印Q方向に見て示している。
【図8】図3に示すユニポテンシャルレンズにV1 =V2 の電圧を印加した状態の他の例を等電位線と共に示すXZ平面図であり、図3中の矢印P方向に見て示している。
【図9】図3に示すユニポテンシャルレンズにV1 =V2 の電圧を印加した状態の他の例を等電位線と共に示すYZ平面図であり、図3中の矢印Q方向に見て示している。
【図10】図3に示すユニポテンシャルレンズにV1 <V2 の電圧を印加した状態の一例を等電位線と共に示すXZ平面図であり、図3中の矢印P方向に見て示している。
【図11】図3に示すユニポテンシャルレンズにV1 <V2 の電圧を印加した状態の一例を等電位線と共に示すYZ平面図であり、図3中の矢印Q方向に見て示している。
【図12】図3に示すユニポテンシャルレンズにV1 <V2 の電圧を印加した状態の他の例を等電位線と共に示すXZ平面図であり、図3中の矢印P方向に見て示している。
【図13】図3に示すユニポテンシャルレンズにV1 <V2 の電圧を印加した状態の他の例を等電位線と共に示すYZ平面図であり、図3中の矢印Q方向に見て示している。
【図14】図3に示すユニポテンシャルレンズにV1 >V2 の電圧を印加した状態の一例を等電位線と共に示すXZ平面図であり、図3中の矢印P方向に見て示している。
【図15】図3に示すユニポテンシャルレンズにV1 >V2 の電圧を印加した状態の一例を等電位線と共に示すYZ平面図であり、図3中の矢印Q方向に見て示している。
【図16】図3に示すユニポテンシャルレンズにV1 >V2 の電圧を印加した状態の他の例を等電位線と共に示すXZ平面図であり、図3中の矢印P方向に見て示している。
【図17】図3に示すユニポテンシャルレンズにV1 >V2 の電圧を印加した状態の他の例を等電位線と共に示すYZ平面図であり、図3中の矢印Q方向に見て示している。
【図18】図10または図12に示す第2ギャップ付近の等電位線およびイオンビームの状態の例を誇張して示す図である。
【図19】図14または図16に示す第2ギャップ付近の等電位線およびイオンビームの状態の例を誇張して示す図である。
【図20】第2ギャップの曲率中心の位置を、ビーム走査器の走査中心の位置よりも上流側へずらしており、かつV1 <V2 の場合の第2ギャップ付近のXZ平面内における等電位線およびイオンビームの状態の一例を誇張して示す図である。
【図21】第2ギャップの曲率中心の位置を、ビーム走査器の走査中心の位置よりも上流側へずらしており、かつV1 >V2 の場合の第2ギャップ付近のXZ平面内における等電位線およびイオンビームの状態の一例を誇張して示す図である。
【符号の説明】
【0056】
4 イオンビーム
12 ビーム走査器
12a 走査中心
14 ビーム平行化器
40 ユニポテンシャルレンズ
41 第1電極
42 第2電極
43 第3電極
44 第4電極
51 第1ギャップ
51a 曲率中心
52 第2ギャップ
52a 曲率中心
53 第3ギャップ
53a 曲率中心
60 直流電源
1 第1直流電圧
2 第2直流電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームの進行方向Zと実質的に直交する平面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向とすると、イオンビームをX方向において走査するビーム走査器と、このビーム走査器からのイオンビームをXZ平面内で所定の基準軸に対して実質的に平行になるように曲げて平行ビーム化するビーム平行化器とを備えているイオン注入装置において、
前記ビーム走査器とビーム平行化器との間に設けられていて、そこを通過するイオンビームをY方向において絞る働きをするものであって、イオンビーム進行方向に、XZ平面内の形状がいずれも円弧状をしている第1ギャップ、第2ギャップおよび第3ギャップをそれぞれあけて並べられた第1電極、第2電極、第3電極および第4電極を有していて、第1電極および第4電極は電気的に接地されているユニポテンシャルレンズと、
前記ユニポテンシャルレンズの第2電極および第3電極に第1直流電圧および第2直流電圧をそれぞれ印加する電圧可変の直流電源とを備えており、
前記ユニポテンシャルレンズの第1ギャップおよび第3ギャップの曲率中心の位置を、前記ビーム走査器の走査中心の位置と実質的に一致させており、
前記ユニポテンシャルレンズの第2ギャップの曲率中心の位置を、前記ビーム走査器の走査中心の位置よりもイオンビーム進行方向の下流側または上流側にずらしていることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記ユニポテンシャルレンズの第1電極、第2電極、第3電極および第4電極は、それぞれ、イオンビームが通過する空間を挟んでY方向において相対向しておりかつ互いに同電位である一対の電極から成る請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記ユニポテンシャルレンズの第2ギャップの曲率中心の位置を、前記ビーム走査器の走査中心の位置よりもイオンビーム進行方向の下流側にずらしている請求項1または2記載のイオン注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−252697(P2009−252697A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102694(P2008−102694)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】