説明

イオン源

【課題】イオンビームのビーム電流の可変範囲を拡大する。
【解決手段】イオン源65は、マイクロ波パワー制御装置13,マイクロ波発信器15,放電容器19及び電極21a,21b,21cを有する。マイクロ波パワー制御装置13がケーブル14によりマイクロ波発信器15に接続される。放電容器19内にマイクロ波を入射することによってプラズマが発生され、プラズマ中のイオンはイオンビーム23となってイオン源65より出射される。マイクロ波パワー制御装置13はマイクロ波発信器15を制御し、マイクロ波16のパワーをパルスの途中で最低放電点弧可能パワーPC よりも低減させる。これによって、最低放電点弧可能パワーPC に対応する電流値よりも低いイオンビーム電流のパルスイオンビームが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源に係り、特に、高エネルギーのイオンビームを患者に照射して治療する粒子線治療装置、及び高エネルギーのイオンビームを照射してラジオアイソトープ
(以下、RIと称する)を製造するRI製造装置に適用するのに好適なイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス状のマイクロ波による放電によってイオンビームを生成する従来のイオン源は、図3に示すようなパルスは形状のマイクロ波パワーPを発生する。マイクロ波パワーPは単純なパルス状の波形である。イオン源は、このようなパワーPを有するマイクロ波を用いて、放電室内でプラズマを発生する。更に、イオン源は、そのプラズマから、電極の孔を通してイオンを静電的に引き出して、パルス状のイオンビームを生成する。以上のように、イオン源でパルス状のイオンビームを発生させることは、例えば、レビュー オブ サイエンティフィック インストゥルメンツ(Review of Scientific Instruments)
(2000年)Vol.71,612頁に記載されている。
【0003】
【非特許文献1】レビュー オブ サイエンティフィック インストゥルメンツ (Review of Scientific Instruments)(2000年)Vol.71,612頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来技術では、生成されるイオンビームの電流を低減する目的でマイクロ波パワーPを下げる場合、マイクロ波パワーPが最低放電点弧可能パワーPC 以下になると、パルス放電が点弧しなくなる。このため、イオンビーム電流の低減可能な最低値が、最低放電点弧可能パワーPC によって制限される。
【0005】
本発明の目的は、イオンビームのビーム電流の可変範囲を拡大できるイオン源を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、パルス波出力装置でマイクロ波及び高周波のいずれかのパルスを発生させ、そのパルス内でマイクロ波及び高周波のいずれかのパワーを段階的に少なくとも一回低下させるパワー制御装置を備えたことにある。
【0007】
パルス内でマイクロ波及び高周波のいずれかのパワーを段階的に少なくとも一回低下させるので、イオンビームのビーム電流を低い範囲まで低減することができる。すなわち、イオンビームのビーム電流の可変範囲を拡大することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、イオンビームのビーム電流の可変範囲を拡大できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の好適な一実施例であるイオン源の構成を、図1を用いて以下に説明する。その前に、図2を用いて、本実施例に用いるマイクロ波パワーの波形について説明する。このマイクロ波パワーのパルス波形は、図2(a)に、イオン源より出射されるイオンビームの電流波形は図2(b)に示される。マイクロ波パワーが図2(a)の「1」のようにマイクロ波パワーがパルス波形の初期に上昇して設定レベルPC を越えると、図2(b)の「7」のようにイオン源の放電室での放電が点弧する。これにより放電室内にイオンが発生し、放電室より出射されるイオンビームの電流が上昇を開始する。マイクロ波パワーがP1 まで上昇すると、ビーム電流はI1 の値に達する。パルスの途中で図2(a)の「3」のようにマイクロ波パワーを、P1 から、レベルPC よりも低いP2 に減少させると、マイクロ波パワーにより発生するイオンの量が低下する。このため、イオンビーム電流はI1 よりI2 まで低下する。図2(a)の「4」のようにマイクロ波パワーP2 を設定時間の間維持して、図2(b)の「10」のように必要なパルス幅のビーム電流I2 のイオンビームを発生させる。その後、図2(a)の「5」及び図2(b)の「11」のようにマイクロ波パワーの低減によりビーム電流を低減させ、図2(a)の「6」及び図1(b)の「12」のように設定時間経過した後にパルスの1周期を終了する。その後、再び、マイクロ波パワーを上昇させて、同じ波形の次周期のパルスを形成する。上記した波形でマイクロ波のパワーを制御することによって、最低放電点孤可能パワーPC に対応した電流値よりも低いイオンビーム電流のパルスイオンビームを発生できる。また、繰り返し同じパワーP1 のマイクロ波パワーで放電点弧することによって、パルス途中でマイクロ波パワー低減によりイオンビーム電流を低下させた場合でも、確実な放電点弧により安定にパルスイオンビームを繰り返し発生させることができる。
【0010】
このような波形のマイクロ波でパルスイオンビームを発生する本実施例のイオン源を、図1を用いて説明する。イオン源65は、マイクロ波パワー制御装置13,マイクロ波発信器15,放電容器19及び電極21a,21b,21cを有する。マイクロ波発信器
15は導波管17によって放電容器19に接続される。電極21a,21b,21cは、放電容器19の下流側に配置され、円筒部材22に設置される。コイル20が放電容器
19の外側で放電容器19を取り囲むように設置される。電源24が電極21aと電極
21cに接続され、電源25が電極21bと電極21cに接続される。マイクロ波パワー制御装置13がケーブル14によりマイクロ波発信器15に接続される。マイクロ波発信器15は、パルス状のマイクロ波16を出力するパルス波出力装置である。
【0011】
放電容器19及び円筒部材22内の空間は、真空ポンプ(図示せず)によって真空になっている。後述のイオンを発生させるため、微量のガスが放電容器19内に供給される。例えば、水素イオンビームを生成する場合には、微量の水素ガスが放電容器19内に供給される。マイクロ波発信器15で発生したパルス状のマイクロ波16は、導波管17、及び放電容器19に形成された導入窓18を介して放電容器19内に入射される。コイル
20に電圧を印加することによって、放電容器19内に磁場Bが形成されている。放電容器19内で、磁場Bの周囲を回転する電子が、入射されたマイクロ波の電界によって加速されてガスと衝突し、このガスを電離する。この衝突電離によって、放電が点弧して放電容器19内でプラズマが発生する。生成されたプラズマ中のイオンは、電源24,25にて電極21a,21b,21cのそれぞれの間に印加された電界によって、電極21a,21b,21cにそれぞれ形成された開口部より引き出される。引き出されたイオンは、イオンビーム23となってイオン源65より出射される。
【0012】
イオン源65は、マイクロ波16のマイクロ波パワーのパルス波形を図1(a)のように制御するために、マイクロ波パワー制御装置13が設けられている。マイクロ波パワー制御装置13は、図1(a)に示す波形を有するマイクロ波制御信号を、ケーブル14を介してマイクロ波発信器15に伝え、この制御信号によりマイクロ波発信器15を制御することによってマイクロ波16のパワーのパルス波形を図1(a)のように調整する。このため、前述したように、イオン源65は、図1(b)に示すパルス電流波形のイオンビームを発生させることができ、最低放電点弧可能パワーPC に対応する電流値よりも低いイオンビーム電流のパルスイオンビームが得られる。イオン源65より出射されるイオンビームを試料に照射するイオン注入装置及び分析装置では、イオンビーム電流を低減できることによって、試料へのイオン照射量の精密な調整が可能となり、イオンビームの注入量の精度及び分析精度が向上する。また、イオンビームの照射による試料への熱負荷パワーを低減でき、イオンビームによる試料の破損を防止できると共に、試料の冷却容量を低減できる。
【0013】
本実施例によれば、イオン源65で放電を発生するマイクロ波パワーのパルス波形を、パルス初期でパワーが高く途中で段階的にパワーが減少する波形に設定し、パルス初期の高パワーで確実に放電点弧した後のマイクロ波パワー低下によりイオンビームのビーム電流が低下するので、最低放電点弧可能パワーPC よりも低いマイクロ波パワーで安定にイオンビームを生成できる。このため、イオンビーム電流を従来の最低放電点弧可能パワーPC に対応する電流値よりも低くすることができ、ビーム電流の可変範囲を増大できる。また、パルス状のイオンビームを生成する各周期の初期において繰り返し同じパワーで放電を点弧するので、放電点火が安定し、放電点火ミスを防止できる。このため、確実にパルス状のイオンビームを生成できる。
【0014】
更に、本実施例では、前述したマイクロ波パワーの制御と共に、マイクロ波パワー制御装置13によりコイル20の電流を制御して磁場Bの強度を調整した場合、磁場Bにより放電の状態を変化させることができるため、放電点弧がより確実になる、及びイオンビーム電流の可変範囲を更に拡大できる等の利点がある。
【0015】
上記したイオン源65を適用した線形加速装置の実施例を、図4を用いて説明する。本実施例の線形加速装置66は、イオン源65,高周波四重極加速器(RFQ)67及びドリフトチューブライナック(DTL)68を備える。イオン源65より出射された低エネルギー(例えば50keV)のイオンビーム23は、RFQ67及びDTL68の2つの加速器によって加速されて高エネルギー(例えば10MeV)のイオンビーム26になる。RFQ67及びDTL68は線形加速器を構成する。
【0016】
イオンビームを加速するために、高周波電源27よりRFQ67に、高周波電源28よりDTL68にそれぞれ高周波加速電界が印加される。線形加速器制御装置29が、高周波電源27,28が高周波電界をパルス的に発生しRFQ67及びDTL68がイオンビームを加速するタイミングと、マイクロ波パワー制御装置13によってイオンビーム23の電流を変化させるタイミングとの相対関係を調整するため、高エネルギーのパルス状のイオンビーム26が線形加速装置66より出射される。線形加速器制御装置29による線形加速装置66の具体的な制御を、図5を用いて以下に説明する。
【0017】
図5は、線形加速器制御装置29よりマイクロ波パワー制御装置13及び高周波電源
27,28に送信するタイミング制御トリガー信号の電圧波形(図5(a)),それに対応して立ち上がるマイクロ波のパワーパルス波形(図5(b)),イオン源65から出射されるイオンビームの電流波形(図5(c)),高周波加速電界を印加するタイミングトリガー信号の電圧パルス波形(図5(d))、及びDTL68から出射されるイオンビームの電流波形(図5(e))を示している。
【0018】
図5(a)に示すトリガー信号が線形加速器制御装置29からマイクロ波パワー制御装置13に送信されると、マイクロ波パワー制御装置13の制御により、そのトリガー信号に同期して、図5(b)の「1」のようにマイクロ波パワーが立ち上がり、マイクロ波パワーが設定レベルPC を越えたときに放電容器19内で放電が点弧する。このため、図5(c)の「7」のようにイオン源65からイオンビームが出射され、そのイオンビームの電流も急激に上昇する。トリガー信号が出力されてから所定時間経過後に、マイクロ波パワーがパルスの途中で低減され(「2」→「4」)、イオン源65の出射ビームの電流が「10」のように低下する。このビーム電流低下のタイミングと同期して、すなわち、トリガー信号が出力されてから所定時間経過後に、線形加速器制御装置29は、高周波電源27,28に高周波電界印加トリガー信号(図5(d)に示す電圧パルス波形を有する)をそれぞれ出力し、高周波電源27,28からそれぞれ高周波信号を出力させる。具体的には、高周波電源27からRFQ67に、高周波電源28からDTL68にそれぞれ高周波電界が印加される。このため、イオン源65で生成されるビーム電流I2 のパルスイオンビームをRFQ67及びDTL68で選択的に加速することができる。この結果、
DTL68から出射される高エネルギーのイオンビームは、図5(e)に示す電流波形を有することになる。このパルスイオンビームを選択的に加速する際に、マイクロ波パワーP2 の強度を図5(b)の「4」において矢印のように増減させて図5(c)の「10」のようにイオンビーム電流I2 の強度を調整する。この調整によって、RFQ67に入射されて加速されるパルスイオンビーム電流を変化させることができ、図4(e)に示すようにイオンビーム26の電流I3 の強度を制御することができる。この制御によって電流
3 が可変する範囲は、図2で説明したように、最低放電点弧可能パワーPC に対応する電流値よりも低い電流の領域まで拡大される。
【0019】
本実施例によれば、マイクロ波パワーのパルスの途中でのイオンビーム電流の低下後に、RFQ67及びDTL68に対して加速用の高周波電界をパルス状に印加してイオンビームを加速するため、イオンビーム電流を最低放電点弧可能パワーPC に対応する電流値よりも低減することができる。このため、線形加速装置66から出射されるイオンビーム26のビーム電流の可変範囲を拡大させることができる。また、放電点火ミスを防止できるため、パルス状のイオンビームを確実に生成できる。これにより、線形加速装置66の運転の信頼性を向上させることができる。
【0020】
図5とは別の線形加速器制御装置29による線形加速装置66の制御を、図6を用いて説明する。線形加速器制御装置29からの図5(a)に示すトリガー信号を入力したマイクロ波パワー制御装置13は、図6(a)の「31」に示すようにイオン源65のマイクロ波パワーを、「32」のレベル(P1 )まで上昇させた後、「33〜36」の4段階で減少させる制御を行う。図6(b)に示すように、その制御に対応してイオン源65から出射されるイオンビームの電流が、「42〜46」の5段階に変化する。線形加速器制御装置29において5段階のうちのある段階が選択されると、線形加速器制御装置29は、選択された段階のタイミングと高周波電界を発生するタイミングとが同期するように高周波電源27,28に高周波電界印加トリガー信号をそれぞれ送信する。これにより、高周波電源27からRFQ67に、高周波電源28からDTL68にそれぞれ高周波電界が印加され、イオンビーム電流I1 〜I5 のうち選択された段階の電流値を有するイオンビームを選択的に加速することができる。線形加速器制御装置29が、例えば、図6(b)における「45」のタイミングと同期して高周波電界印加トリガー信号(図6(c)に示す電圧パルス波形を有する)を高周波電源27,28に出力すると、RFQ67及びDTL68において電流I4 のイオンビームが選択的に加速される。図6に示す線形加速装置
66の制御は、図5に示すその制御に比べて、毎周期全く同じパルス波形のマイクロ波パワーで繰り返し放電を発生する。このため、図6に示す制御は、放電をより安定に発生できると共にパルスごとのマイクロ波パワーの調整が不要である。なお、図6に示す制御におけるパルス波形ではマイクロ波パワーが階段状に低下しているが、パルス波形を三角形状にしてマイクロ波パワーを連続的に低下させることが可能である。
【0021】
図6に示す制御を実施する線形加速器制御装置29を備えた線形加速装置66は、イオン源65からRFQ67に入射されるイオンビーム23のビーム電流をパルス波形の途中で複数回低下させることが可能であり、ビーム電流が低下した各段階と、RFQ67及びDTL68に該当する電源からそれぞれ高周波電界を印加してイオンビームを加速するタイミングとを選択的に合せることが可能である。ビーム電流が低下した各段階とイオンビームの加速のタイミングとを選択的に合せることによって、各段階におけるイオン源65の出射イオンビームのビーム電流値に対応してRFQ67及びDTL68で加速されるイオンビームのビーム電流を変化させる場合には、ビーム電流を変化させるためにマイクロ波パワーのパルス波形を変化させる必要がなく、前述のタイミング調整のみでビーム電流を変化させることができる。このため、イオン源65の制御を簡略化できる。また、パルスの各周期において全く同じマイクロ波パワーのパルス波形で繰り返してイオン源65を動作させるので、イオン源65の動作が安定し、線形加速装置66の信頼性とイオンビーム電流制御の精度を高めることができる。
【0022】
以上に述べた線形加速装置66は、ポジトロン エミッション トモグラフィー(PET)等に使用するRIを製造するRI製造装置,粒子線治療装置,分析装置及び中性子発生装置等に適用すると、それらの装置で利用するイオンビームの電流の制御を従来よりも簡易にすることができると共に、電流の可変範囲を拡大できる。
【0023】
以下に、線形加速装置66を適用した粒子線治療装置の実施例を、図7を用いて説明する。本実施例の粒子線治療装置は、線形加速装置66,シンクロトロン69,ビーム輸送系53及び照射装置70を備える。シンクロトロン69は、周回軌道に偏向電磁石S1,加速空胴S2を有する。照射装置70は一対の走査電磁石55を有する。
【0024】
線形加速装置66から出射されたイオンビームは、入射装置51を介してシンクロトロン69に入射される。入射されたイオンビームは、加速空胴S2で加速されて偏向電磁石S1で偏向され、シンクロトロン69の周回軌道に沿って周回する。システム制御装置
50は、線形加速器制御装置29,入射装置51及び偏向電磁石S1を制御する。このため、患者59の治療に必要な量のイオンビームをシンクロトロン69内に蓄積できる。システム制御装置50は加速空胴S2に印加される高周波電界を制御する。加速空胴S2は高周波電界の印加によって周回軌道を周回するイオンビームを加速する。高エネルギー
(例えば、250MeV)に加速されたイオンビームは、出射装置52によってシンクロトロン69からビーム輸送系53に出射される。ビーム輸送系53内を通過した高エネルギーのイオンビーム57は、照射装置70より治療ベッド上の患者59の患部に治療のために照射される。照射装置70に設けられた走査電磁石55を用いて矢印58のようにイオンビーム57を走査すると共に、加速空胴S2により印加する高周波電界を制御してイオンビームの加速エネルギーを調整することによって、イオンビーム57の照射位置及び患者の体内において到達する深さを変え、患者59の患部を狙っての適切なイオンビームの照射を実施する。上記の高周波電界の制御はシステム制御装置50によって行われる。
【0025】
照射装置70から患者59に照射されるイオンビーム57のイオンビーム電流は電流モニター56で計測される。電流モニター56から出力された電流計測信号はシステム制御装置50に入力される。患者59に照射されるイオンビームの量は、適切に調節されることが要求される。このため、システム制御装置50は、電流計測信号に基づいて、患者
59に照射されるイオンビームの量を適切に調節するために線形加速器制御装置29に制御信号を出力する。線形加速制御装置29は、この制御信号に基づいて図5(a)に示すトリガー信号をマイクロ波パワー制御装置13に出力し、更に図5(d)に示す高周波電界印加トリガー信号を高周波電源27,28に出力する。このように、線形加速器制御装置29は、図5で説明した制御により線形加速装置66から出射されてシンクロトロン
69に入射されるイオンビーム26のビーム電流を調整する。したがって、線形加速装置66から出射されるイオンビーム26のビーム電流の可変範囲を拡大できる。更に、線形加速器制御装置29はシンクロトロン69の運転パターンに同期させてイオンビーム26のパルス幅及び発生周期を制御する。
【0026】
本実施例は、イオン源線形加速装置66から出射するイオンビームのビーム電流の可変範囲を拡大できるので、これに対応してシンクロトロン69で加速して出射するイオンビームのビーム電流の調整範囲が拡大される。このため、患者59に照射するイオンビーム57の量を患部の治療に必要な適切な値(患部の治療に十分で、患部以外の健全な細胞への影響が最小限となる値)に精度良く調整でき、高度な治療が可能になる。また、従来の粒子線治療装置ではシンクロトロン69に入射されるイオンビーム26のビーム電流の可変範囲が小さいため、十分なビーム照射電流の変化には、シンクロトロン69内にイオンビームを蓄積するイオンビームの入射周回数及び出射装置52の動作を、システム制御装置50によって変化させることが必要であった。しかしながら、本実施例は、線形加速装置66から入射されるイオンビームのビーム電流の可変範囲が拡大されているので、従来必要としたそれらの制御を省略することによって、シンクロトロン69の制御を簡易化することができる。
【0027】
なお、患者59にイオンビームを照射する前にあらかじめイオンビーム電流を電流モニター56によって計測し、その電流の計測値に基づいて電流調整制御シーケンスをプログラミングしておけば、計画的に適切な高度治療を実現できる。また、従来のイオンビームのビーム電流制御方法と、本実施例におけるそのビーム電流制御方法とを組み合わせて併用した場合には、ビーム電流の可変範囲を更に拡大でき、(1)患部59へのイオンビームの照射量をきめ細かく調整できる、(2)その照射量の制御精度を向上できる、(3)各装置の誤動作によるイオンビーム照射量の誤差の影響をリスク分散効果によって低減することができる等の利点を生じる。
【0028】
次に、線形加速装置66を適用したRI製造装置の実施例を、図8より説明する。RI製造装置71は、線形加速装置66、及びRI製造用のビーム照射室62を備える。RI製造装置71は、例えば、PETに用いる放射性薬剤の原料となる短半減期のRI(例えば、18F)を製造する。ビーム照射室62内には、RI製造用のターゲット61が設置される。ビーム照射室62はDTL68に接続される。イオン源65から出射されたイオンビーム23はRFQ67及びDTL68によって加速されてイオンビーム23よりもエネルギーの高いイオンビーム26となってDTL68より出射される。イオンビーム26はビーム照射室62内に導かれてターゲット61に照射される。イオンビーム26をターゲット61に照射することによって、ターゲット61を構成する材料が核反応を起こし、
RIが製造される。
【0029】
本実施例は、イオン源65を備えているのでイオンビームのビーム電流の可変範囲を拡大することができる。また、線形加速器制御装置29による制御によって、選択された電流値を有するイオンビームを選択的に加速することができる。このため、ターゲット61が熱負荷により破損しやすい場合、照射するイオンビーム26のビーム電流を低減でき、ターゲット61の破損を防止できる。また、大きな照射量を必要とするターゲット61に対しては、イオンビームのビーム電流を増大させることができ、RI製造のスループットを向上できる。また、イオンビームの照射量をきめ細かく調整でき、その照射量の制御精度も向上できる。
【0030】
以上に述べた各実施例は、マイクロ波パワーの供給による放電発生方式を適用しており、イオン源の放電容器にマイクロ波を導入して放電を発生させている。しかし、その放電発生方式の替りに、放電容器の周囲または内部に設置したアンテナ(またはコイル)に高周波パワーを供給して放電を発生させる方式を用いてもよい。この高周波パワーの供給による放電発生方式を用いた場合にも、前述した各実施例におけるマイクロ波パワーの制御と同様な制御を実施することによって、イオンビームのビーム電流の可変範囲を拡大できる。高周波パワーの制御は、マイクロ波パワー制御装置と同じ機能を有する高周波パワー制御装置によって行われる。特に、図4,図7及び図8の各実施例における線形加速装置に対して、マイクロ波パワーの供給による放電発生方式の替りに高周波パワーの供給による放電発生方式を適用した場合には、マイクロ波パワーの供給による放電発生方式を適用した場合と同様に、線形加速装置から出射されるイオンビーム26のビーム電流をきめ細かく調整できる。高周波パワーの供給による放電発生方式では、パルス波出力装置として高周波発信器が用いられ、高周波が高周波発信器から放電容器19に導入される。高周波パワーの供給による放電発生方式は、マイクロ波パワーの供給による放電発生方式とは高周波が放電容器19に導入される点で異なっているだけである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の好適な一実施例であるイオン源の構成図である。
【図2】図1のイオン源におけるマイクロ波パワー及びイオンビーム電流のパルス波形の一例を示す説明図である。
【図3】従来のイオン源におけるマイクロ波パワー及びイオンビーム電流の典型的なパルス波形を示す説明図である。
【図4】図1のイオン源を適用した線形加速装置の一実施例の構成図である。
【図5】図4の線形加速装置におけるマイクロ波パワー,イオンビーム電流及び高周波加速電界を発生するトリガー電圧の各パルス波形を示す説明図である。
【図6】図5とは別のマイクロ波パワー,イオンビーム電流及び高周波加速電界を発生するトリガー電圧の各パルス波形を示す説明図である。
【図7】図4の線形加速装置を適用した粒子線治療装置の一実施例の構成図である。
【図8】図4の線形加速装置を適用したRI製造装置の一実施例の構成図である。
【符号の説明】
【0032】
13…マイクロ波パワー制御装置、15…マイクロ波発信器、19…放電容器、21a,21b,21c…電極、24,25,27,28…電源、29…線形加速器制御装置、61…ターゲット、65…イオン源、66…線形加速装置、67…高周波四重極加速器、68…ドリフトチューブライナック、69…シンクロトロン、70…照射装置、71…
RI製造装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状のマイクロ波及び高周波のいずれかのパルス波を出力するパルス波出力装置と、前記パルス波出力装置から出力された前記マイクロ波及び前記高周波のいずれかによる放電によってプラズマを生成する放電室と、前記放電室内で生成された前記プラズマからイオンをビームとして引き出す電極と、前記パルス波出力装置で前記マイクロ波及び前記高周波のいずれかのパルスを繰り返し複数回発生させ、その各パルスの一周期内で前記マイクロ波及び前記高周波のいずれかのパワーを段階的に少なくとも一回低下させるパワー制御装置とを備えたことを特徴とするイオン源。
【請求項2】
前記パワー制御装置は、前記パルスの波形が、前記パルスの初期において前記パワーが設定値よりも高くなるように、前記パルスの途中で前記パワーが前記設定値よりも低下するように制御する請求項1記載のイオン源。
【請求項3】
前記パワー制御装置は、前記パルスの波形が、前記パルスの途中で段階的に複数回低下するように制御する請求項1または請求項2記載のイオン源。
【請求項4】
前記放電室を取り囲み、前記放電室内の磁場の強度を調整するコイルと、前記コイルを流れる電流を制御する電流制御装置とを備えた請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のイオン源。
【請求項5】
前記繰り返し複数回発生させるパルスはそのパルス波形が同一であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のイオン源。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れかに記載のイオン源と、
前記イオン源から出射された前記イオンビームを加速する線形加速器と、
前記イオンビームを加速する高周波電界を前記線形加速器に印加する高周波電界印加装置と、
前記パワー制御装置に前記パルス波を出力させる第1トリガー信号を出力し、前記高周波電界を前記線形加速器に印加させる指令信号である第2トリガー信号を、前記パルス内の前記パワーが低下された状態において前記高周波電界印加装置に出力する制御装置と
を備えたことを特徴とする線形加速装置。
【請求項7】
請求項6に記載の線形加速装置と、前記線形加速装置から出射された前記イオンビームを加速するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された前記イオンビームを患部に照射する照射装置とを備えたことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項8】
請求項6に記載の線形加速装置と、前記線形加速装置から出射された前記イオンビームをターゲットに照射するラジオアイソトープ製造部とを備えたことを特徴とするラジオアイソトープ製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−216568(P2006−216568A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118684(P2006−118684)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【分割の表示】特願2002−195350(P2002−195350)の分割
【原出願日】平成14年7月4日(2002.7.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】