説明

イメージングファイバおよびイメージングファイバアセンブリ

【課題】レンズの倍率拡大に伴う収差の影響を解消でき、実用性を損なうことなく分解能を向上させることが可能なイメージングファイバおよびイメージングファイバを備えたイメージングファイバアセンブリを提供する。
【解決手段】イメージングファイバアセンブリは複数のファイバが束ねられたファイバ束からなるイメージングファイバと、ファイバ束に結像させるレンズとを有する。ファイバ束はレンズからの光を受ける受光端面が曲面になっている。この受光端面は周辺部よりも中央部が凹んだ凹状曲面になっており、レンズの光路に応じて加工されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバが束ねられたファイバ束からなるイメージングファイバおよびイメージングファイバを備えたイメージングファイバアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光を用いて体内の深部を観察する技術が知られている。ところが、組織の散乱特性があるため、深さが1mmよりも深くなる部分に対しては、通常の幾何光学的結像理論を応用することができない。深さが1mmよりも深くなる部分を観察するにはまったく別の手段ないし手法が必要となる。
【0003】
そこで、従来、注射針のような細い形状の光学部材を組織内に刺入し、この光学部材によって体内深部を観察する装置があった。この種の装置に関して、例えば特許文献1には、先端部にロッドレンズが取り付けられたイメージングファイバを備えたファイバスコープが開示されている。
【特許文献1】特開2003−290135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の光学部材は細いイメージングファイバを使用しており、そのイメージングファイバを構成している極めて細いユニットファイバの太さが分解能を左右している。イメージングファイバの先端にはレンズが装着されているが、総合的な分解能は十分には高くない現状である(2.5ミクロン程度)。
【0005】
この分解能を向上させるには、先端に装着されているレンズの倍率を高めてイメージングファイバに送られる画像の倍率も上げる必要がある。
【0006】
しかし、レンズの倍率を2倍以上にしようとすると、レンズの直径が限られている関係でレンズの収差(球面収差)が大きくなってしまい、結像がぼやけて実用性が失われるおそれがある。
【0007】
このような収差が起こらないようにするには、収差を補正するためのレンズ(補正用レンズ)を組み合わせて用いるという手法がある。
【0008】
しかし、補正用レンズを置くと、イメージングファイバの光透過率が低下してしまうこととなる。一般に収差のないレンズやアセンブリの製作はレンズの大きさとは関係なく困難であるが、レンズ自体の大きさが極めて小さい場合、蛍光の起きない接着剤を使って極めて小さいレンズ同士を張り合わせること自体が極めて困難なことである。レンズの張り合わせを行わないとすると、2つのレンズの位置を正確に調整する必要があり、これも極めて小さいレンズに対しては困難なことである。
【0009】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたもので、レンズの倍率拡大に伴う収差の影響を解消でき、実用性を損なうことなく分解能を向上させることが可能なイメージングファイバおよびイメージングファイバを備えたイメージングファイバアセンブリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、複数のファイバが束ねられたファイバ束におけるレンズからの光を受ける受光端面が曲面になっているイメージングファイバを特徴とする。
【0011】
このイメージングファイバは、受光端面が曲面になっているからレンズを通る光線の光路の交点のずれを吸収することができる。
【0012】
また、上記イメージングファイバの場合、受光端面は、周辺部よりも中央部が凹んだ凹状曲面になっているようにすることができる。
【0013】
こうすると、レンズが凸レンズの場合における光路の交点のずれを吸収できるようになる。
【0014】
さらに、上記イメージングファイバの場合、受光端面は、ファイバ束に結像させるレンズの光路に応じて加工されていることが好ましい。
【0015】
こうすると、受光端面が光路の交点に応じた曲面になるから、交点のずれを正確に吸収できるようになる。
【0016】
そして、本発明は、複数のファイバが束ねられたファイバ束からなるイメージングファイバと、ファイバ束に結像させるレンズとを有するイメージングファイバアセンブリであって、ファイバ束におけるレンズからの光を受ける受光端面が曲面になっているイメージングファイバアセンブリを提供する。
【0017】
このイメージングファイバアセンブリは、受光端面が曲面になっているからレンズを通る光線の光路の交点のずれを吸収することができる。
【0018】
また、このイメージングファイバアセンブリの場合、受光端面は、周辺部よりも中央部が凹んだ凹状曲面になっているようにすることができる。
【0019】
こうすると、レンズが凸レンズの場合における光路の交点のずれを吸収できるようになる。
【0020】
さらに、上記イメージングファイバアセンブリの場合、受光端面は、レンズの光路に応じて加工されていることが好ましい。
【0021】
こうすると、受光端面が光路の交点に応じた曲面になるから、交点のずれを正確に吸収できるようになる。
【発明の効果】
【0022】
以上詳述したように本発明によれば、レンズの倍率拡大に伴う収差の影響を解消でき、実用性を損なうことなく分解能を向上させることが可能なイメージングファイバおよびイメージングファイバを備えたイメージングファイバアセンブリが得られる。これらは小型から大型までカップルするレンズの大小に関係なく有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態に係るイメージングファイバアセンブリ10の要部を示す斜視図である。図1に示すように、イメージングファイバアセンブリ10はイメージングファイバ1と、レンズ6と、シース(筒状部材)7とを有している。
【0025】
イメージングファイバ1は、図2に示すように、光ファイバ2aが複数束ねられたファイバ束2からなっている。ここで、図2はファイバ束2の対物側端面(後述する受光端面5)を示す正面図である。
【0026】
ファイバ束2は複数の光ファイバ2aを束ねて漏光防止用の被覆チューブ3に収めたものである。光ファイバ2aは石英系光ファイバ、プラスチック系光ファイバや多成分系ガラスファイバなどによって構成することができ、材料は特に限定されない。また、各光ファイバ2aは対物側の先端部分が接着剤4によって被覆チューブ3に接着固定されているが、先端部分以外の部分においては自由状態で被覆チューブ3に収められている。
【0027】
そして、ファイバ束2は図3から図5に示すように、対物側端面、すなわち複数の光ファイバ2aによって形成される正面視円形状の端面のうちのレンズ6からの光を受ける受光端面5が曲面になっている。ここで、図3はファイバ束2の受光端面5側部分を示す斜視図、図4は図2のIV-IV線断面図、図5は図2のV-V線断面図である。これらの図に示すように、受光端面5は詳しくは後述するが、周辺部よりも中央部が凹んだ凹状曲面となっている。
【0028】
レンズ6は所定の径および長さを有し、両側端面が研磨され鏡面仕上げが施された両凸レンズである。レンズ6はシース7の一端側に接着して固定されている。レンズ6は外側から光を取込み、ファイバ束2の受光端面5に結像させる。
【0029】
シース7はレンズ6とファイバ束2が収まる筒状部材であって、一端側にレンズ6が装着され、他端側にファイバ束2が装着され、レンズ6とファイバ束2を一体としている。
【0030】
ここで、図6はイメージングファイバアセンブリ10において、受光端面5に結像するようにレンズ6に光を入射させたときの光線追跡の結果を示す図で、(A)はレンズ6を通る光線の光路図、(B)はスポットダイヤグラムである。また、図7は後述する従来のイメージングファイバ11を有するイメージングファイバアセンブリにおいて、レンズ6に光を入射させたときの光線追跡の結果を示す図で、(A)はレンズ6を通る光線の光路図、(B)はスポットダイヤグラムである。
【0031】
図6(A)、図7(A)に示すように、イメージングファイバアセンブリ10では、レンズ6に収差(球面収差)がある関係で、レンズ6に光を入射させたときの光路Mは1点を通らずに分散する。また、図6(B)、図7(B)に示すように、レンズ6に入射した光のビームスポットSはある程度の広がり持っている。ビームスポットS(中段に示すS)は、図6(B)の場合よりも図7(B)の場合の方が大きくなっている。
【0032】
本実施の形態におけるイメージングファイバアセンブリ10では、レンズ6のこのような光線追跡の結果に基づいて、ファイバ束2における受光側の端面に表面加工を施して、球面状に湾曲させた受光端面5を形成している。この場合、各光ファイバ2aの端面の位置が隣接するもの同士で少しずつずれる形になって、全体として湾曲した受光端面5が形成されている。
【0033】
ところで、レンズ6を通る光線はレンズ6の光軸Lに近い位置を通るときは焦点に近い位置を通るが、光軸Lから周辺部に向かってずれた位置を通るときは焦点から手前側の位置を通りやすいという性質がある。
【0034】
したがって、例えば、図8(A)、(B)に示すように、レンズ6を通る光線の光路11a〜11fを考えたとき、光路11aおよび11b、光路11cおよび11d、光路11eおよび11fのそれぞれが交わる交点は、レンズ6が凸レンズであることから、それぞれF1、F2、F3のように分散して配置される。この場合、光路11cおよび11dがレンズ6の焦点F(交点F2)を通るとしても、光路11aおよび11bと、光路11eおよび11fは焦点Fよりも手前側の交点F1、F3を通るようになる。
【0035】
すると、受光端面5をこのようなレンズ6の光路に応じて加工した曲面にしておくと、図8(A)に示すように、光路11a〜11eの交点F1、F2、F3をいずれも受光端面5上に確保でき、湾曲した受光端面5によって上述した交点のずれを吸収できるようになる。そのため、受光端面5上にボケのない画像を結像させることができる。
【0036】
これに対し、例えば図8(B)に示すように、対物側端面が平坦面になっている従来のファイバ束12からなるイメージングファイバ11では、交点F1、F3が焦点Fよりも手前側の位置に形成されるため、結像の変形歪が生じたり、画像の周辺視野にボケが生じてしまう。
【0037】
このようなことから、イメージングファイバ1はファイバ束2における受光側の端面にレンズ6の光路に応じた研磨処理やエッチングなどの表面加工を施して、球面状に湾曲した受光端面5を形成している。
【0038】
この場合、レンズ6を通る光線は図8(A),(B)に示したようになることからみて、受光端面5を周辺部よりも中央部が凹んだ凹状曲面にするだけでも交点のずれを吸収できるから、レンズ6の球面収差の影響を抑制したぼけのない画像が得られるようになる。
【0039】
もちろん、上述のようなレンズ6の光線追跡の結果に基づく表面加工を正確に施した上で受光端面5を凹状曲面にすれば、交点のずれが正確に解消され、より好ましいイメージングファイバ1が得られる。
【0040】
しかしながら、このような表面加工を研磨等により行うことは技術的に困難な面もある。この場合、受光端面5を周辺部よりも中央部が凹んだ凹状曲面にしただけのイメージングファイバ1でも、受光側の端面が平坦なものに比べれば交点のずれを吸収できるから、十分な作用効果を得ることができる。
【0041】
以上のように、イメージングファイバ1およびイメージングファイバアセンブリ10では、レンズ6の結像を受け取る受光端面5をレンズ6の光路に応じて加工した光学的に有利な凹状曲面とすることによって、拡大倍率の高いレンズ6の発生する球面収差の影響を抑制できるようになっている。
【0042】
こうして、イメージングファイバ1およびイメージングファイバアセンブリ10では、レンズ6の発生する球面収差による結像のボケを受光端面5の全体にわたって解消できるようになっている。
【0043】
したがって、イメージングファイバ1およびイメージングファイバアセンブリ10では、レンズ6の拡大倍率を高くしたことに伴い球面収差が強くなり、周辺視野の焦点ずれが生じても、これを解消することが可能であり、よって、分解能を向上させて実用性を高めることができる。
【0044】
また、イメージングファイバ1およびイメージングファイバアセンブリ10では、分解能を向上させるのに収差を補正するための補正用レンズを組み合わせていないので、イメージングファイバの光透過率が低下することもなく、レンズの正確な位置調整なども要しないものとなっている。
【0045】
以上の説明は、本発明の実施の形態についての説明であって、この発明を限定するものではなく、様々な変形例を容易に実施することができる。又、各実施形態における構成要素、機能、特徴あるいは方法ステップを適宜組み合わせて構成される装置又は方法も本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態に係るイメージングファイバアセンブリの要部を示す斜視図である。
【図2】ファイバ束の対物側端面を示す正面図である。
【図3】ファイバ束の受光端面側部分を示す斜視図である。
【図4】図2のIV-IV線断面図である。
【図5】図2のV-V線断面図である。
【図6】イメージングファイバアセンブリにおいて、受光端面に結像するようにレンズから光を入射したときの光線追跡の結果を示す図で、(A)はレンズの光路図、(B)はスポットダイヤグラムである。
【図7】従来のイメージングファイバアセンブリにおいて、受光端面に結像するようにレンズから光を入射したときの光線追跡の結果を示す図で、(A)はレンズの光路図、(B)はスポットダイヤグラムである。
【図8】レンズ6を通る光線の光路を模式的に示した図で、(A)は本発明の実施の形態に係るイメージングファイバの場合、(B)は従来のイメージングファイバの場合である。
【符号の説明】
【0047】
1…イメージングファイバ、2…ファイバ束、2a…光ファイバ
5…受光端面、6…レンズ、10…イメージングファイバアセンブリ
11a,11b,11c,11d,11e,11f…光路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のファイバが束ねられたファイバ束におけるレンズからの光を受ける受光端面が曲面になっていることを特徴とするイメージングファイバ。
【請求項2】
前記受光端面は、周辺部よりも中央部が凹んだ凹状曲面になっていることを特徴とする請求項1記載のイメージングファイバ。
【請求項3】
前記受光端面は、前記ファイバ束に結像させるレンズの光路に応じて加工されていることを特徴とする請求項1または2記載のイメージングファイバ。
【請求項4】
複数のファイバが束ねられたファイバ束からなるイメージングファイバと、前記ファイバ束に結像させるレンズとを有するイメージングファイバアセンブリであって、
前記ファイバ束における前記レンズからの光を受ける受光端面が曲面になっていることを特徴とするイメージングファイバアセンブリ。
【請求項5】
前記受光端面は、周辺部よりも中央部が凹んだ凹状曲面になっていることを特徴とする請求項4記載のイメージングファイバアセンブリ。
【請求項6】
前記受光端面は、前記レンズの光路に応じて加工されていることを特徴とする請求項4または5記載のイメージングファイバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−233540(P2008−233540A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73069(P2007−73069)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【出願人】(502109050)ファイバーテック株式会社 (3)
【Fターム(参考)】