説明

イヤリング性に優れた冷延鋼板およびその製造方法

【課題】冷間圧延の圧下率が85%以下でも、確実にフェライト組織の平均結晶粒径が12.0μm以下で、-0.20≦Δr≦0.20が得られるイヤリング性に優れた冷延鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.0040%以下、Mn:0.14〜0.25%、Al:0.020〜0.070%、Nb:0.005%以上0.020%未満、下記の(3)あるいは(4)を満足するTi、および下記の(1)あるいは(2)を満足するBを含む冷延鋼板;(1)N-(14/48)Ti>0の場合、0.0003≦B-(11/14){N-(14/48)Ti}≦0.0010、(2)N-(14/48)Ti≦0の場合、0.0003≦B≦0.0010、(3)C/12-Nb/93≦0の場合、0.005≦Ti≦0.020、(4)C/12-Nb/93>0の場合、48×{(C/12+N/14)-Nb/93}≦Ti≦0.020。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に乾電池缶用として好適な、フェライト組織の平均結晶粒径が12.0μm以下で、-0.20≦Δr≦0.20であるイヤリング性に優れた冷延鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷延鋼板を乾電池缶に加工する方法としては、深絞り加工およびしごき加工を適宜組み合わせた方法が用いられる。例えば、絞りカップに加工後、しごき加工を施すDI加工、絞りカップに加工後、引張りと曲げ曲げ戻し加工し、さらに必要に応じしごき加工を施すストレッチドロー加工、何段階かの絞り加工を施した後、しごき加工を施す多段絞り加工などの方法を挙げられる。
【0003】
乾電池缶の加工においては、加工後の缶円周方向の缶高さが不揃いにならないようにする、すなわち耳の発生(イヤリングと呼ばれる)を抑制することが要求される。耳の高さは乾電池缶用鋼板のr値(ランクフォード値)の面内異方性Δrと良い相関があり、Δrが0に近づくと、耳の高さは低くなることが一般的に知られている。したがって、イヤリングを抑制するためには、乾電池缶用鋼板のΔrを0にすることが望ましいが、一般的には、-0.20≦Δr≦0.20であれば発生する耳は小さく、イヤリング性に優れているといえる。
【0004】
冷延鋼板のΔrを小さくするために、通常は冷間圧延時の圧下率を高める手段が採られる。しかし、高圧下率側ではΔrの圧下率依存性が大きくなり、Δrにバラツキが発生しやすくなったり、高圧下率による圧延負荷の増大を招くので、少なくとも90%以下、より好ましくは85%以下の圧下率で製造されることが望まれている。
【0005】
乾電池缶用鋼板には、深絞り加工の際にストレッチャー・ストレインと呼ばれるしわの発生に起因する缶形状の劣化を防止するために、耐ひずみ時効性に優れている、すなわちひずみ時効指数AIが4.9MPa以下であることが求められている。また、乾電池缶用鋼板には、加工時の肌荒れを抑制するために、結晶粒径が微細である、具体的にはフェライト組織の平均結晶粒径が12.0μm以下であることも求められる。
【0006】
こうした乾電池缶用鋼板としては、従来から深絞り加工に適したNbおよび/またはTiの添加されたIF鋼(Interstitial free steel)が検討されている。例えば、特許文献1には、質量%で、C:0.0005〜0.0150%、Si:0.10%以下、Mn:0.1〜0.6%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Al:0.015〜0.15%、N:0.02%以下、およびNb:0.020%以下、Ti:0.020%以下、B:0.0001〜0.0030%から選ばれた少なくとも1種の元素を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼スラブに、熱間圧延、冷間圧延および焼鈍を施して、ASTM結晶粒度番号10以上、かつ結晶粒軸比1.2以下の再結晶粒となし、次いで、圧下率0.5〜40%の2次冷間圧延を行うことを特徴とするイヤリング性および耐肌荒れ性に優れる2ピース缶用鋼板の製造方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、質量%で、C:0.0005〜0.0150%、Si:0.10%以下、Mn:0.1〜0.6%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Al:0.015〜0.15%、N:0.02%以下、およびNb:0.020%以下、Ti:0.020%以下から選ばれた少なくとも1種の元素を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、鋼板表面から板厚1/10までの表層域における結晶粒は、ASTM結晶粒度番号10以上、かつ結晶粒軸比1.5以下である微細な等軸結晶粒組織からなり、この表層を除く鋼板内層は、ASTM結晶粒度番号9以下、かつ結晶粒軸比1.5以下である粗大な等軸結晶粒組織からなることを特徴とする加工性、イヤリング性および耐肌荒れ性に優れる缶用鋼板が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献3には、質量%で、C:0.004%以下、Si:0.1%以下、Mn:0.5%以下、P:0.025%以下、S:0.025%以下、N:0.006%以下、Al:0.001〜0.100%、Ti:0.01〜0.10%でかつTi≧{(48/12)C+(48/14)N}、Nb:0.003〜0.03%およびB:0.0001〜0.0010%を含み、残部は不可避的不純物を除き実質的にFeの組成になる鋼板を、仕上温度850〜900℃で熱間圧延し、巻取温度300〜600℃で巻取り後、圧下率85〜95%で冷間圧延し、焼鈍温度650〜750℃で連続焼鈍し、次いで調質圧延を施して板厚0.15〜0.60mmの面内異方性の小さい薄鋼板を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10-81919号公報
【特許文献2】特開平9-310150号公報
【特許文献3】特開昭63-310924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、特許文献2および特許文献3に記載の鋼板では、冷間圧延の圧下率をより好ましいとされる85%以下にすると、必ずしも安定してフェライト組織の平均結晶粒径が12.0μm以下で、-0.20≦Δr≦0.20が得られない。
【0011】
本発明は、冷間圧延の圧下率を85%以下としても、確実にフェライト組織の平均結晶粒径が12.0μm以下で、-0.20≦Δr≦0.20が得られるイヤリング性に優れた冷延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが、Nbおよび/またはTiの添加されたIF鋼を用い、冷間圧延の圧下率を85%以下としても、確実に-0.20≦Δr≦0.20が得られる冷延鋼板について検討した結果、Bを添加し、冷間圧延前に固溶Bを適量存在させることが効果的であることを見出した。
【0013】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、質量%で、C:0.0040%以下、Si:0.02%以下、Mn:0.14〜0.25%、P:0.020%以下、S:0.015%以下、N:0.0040%以下、Al:0.020〜0.070%、Nb:0.020〜0.030%、Ti:0.005〜0.030%、および下記の式(1)あるいは式(2)を満足するBを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とするフェライト組織の平均結晶粒径が12.0μm以下で、-0.20≦Δr≦0.20であるイヤリング性に優れた冷延鋼板を提供する。
N-(14/48)Ti>0の場合、
0.0003≦B-(11/14){N-(14/48)Ti}≦0.0010 ・・・(1)
N-(14/48)Ti≦0の場合、
0.0003≦B≦0.0010 ・・・(2)
ただし、式(1)、(2)中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を表す。
【0014】
上記の冷延鋼板は、例えば、上記の成分組成を有する鋼片を、Ar3変態点以上の圧延終了温度で熱間圧延し、次いで圧下率70〜90%で冷間圧延を施し、次いで連続焼鈍ラインで750〜800℃の焼鈍温度で焼鈍を行うことを特徴とするフェライト組織の平均結晶粒径が12.0μm以下で、-0.20≦Δr≦0.20であるイヤリング性に優れた冷延鋼板の製造方法により製造できる。
【0015】
本発明は、また、質量%で、C:0.0040%以下、Si:0.02%以下、Mn:0.14〜0.25%、P:0.020%以下、S:0.015%以下、N:0.0040%以下、Al:0.020〜0.070%、Nb:0.005%以上0.020%未満、下記の式(3)あるいは式(4)を満足するTi、および下記の式(1)あるいは式(2)を満足するBを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とするフェライト組織の平均結晶粒径が12.0μm以下で、-0.20≦Δr≦0.20であるイヤリング性に優れた冷延鋼板を提供する。
N-(14/48)Ti>0の場合、
0.0003≦B-(11/14){N-(14/48)Ti}≦0.0010 ・・・(1)
N-(14/48)Ti≦0の場合、
0.0003≦B≦0.0010 ・・・(2)
C/12-Nb/93≦0の場合、
0.005≦Ti≦0.020 ・・・(3)
C/12-Nb/93>0の場合、
48×{(C/12+N/14)-Nb/93}≦Ti≦0.020 ・・・(4)
ただし、式(1)〜(4)中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を表す。
【0016】
上記の冷延鋼板は、例えば、上記の成分組成を有する鋼片を、Ar3変態点以上の圧延終了温度で熱間圧延し、次いで圧下率70〜90%で冷間圧延を施し、次いで連続焼鈍ラインで700〜800℃の焼鈍温度で焼鈍を行うことを特徴とするフェライト組織の平均結晶粒径が12.0μm以下で、-0.20≦Δr≦0.20であるイヤリング性に優れた冷延鋼板の製造方法により製造できる。
【0017】
本発明はまた、上記の冷延鋼板を成形してなる電池缶を有する電池、あるいは上記の冷延鋼板に深絞り加工を施して電池缶に成形する工程を有する電池の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、冷間圧延の圧下率が85%以下でも、確実にフェライト組織の平均結晶粒径が12.0μm以下で、-0.20≦Δr≦0.20が得られるイヤリング性に優れた冷延鋼板を製造できるようになった。本発明の冷延鋼板は、また、AIが4.9MPa以下で耐ひずみ時効性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】冷間圧延時の圧下率とΔrの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明であるイヤリング性に優れた冷延鋼板およびその製造方法の詳細を説明する。
【0021】
1)成分組成(以下の「%」は、「質量%」を表す。)
C:C量は、少なくするほど軟質で伸び性がよく、プレス加工性に有利である。かつ固溶Cは炭化物として析出させると、ひずみ時効硬化を起こさず、深絞り性を改善する。C量が0.0040%を超えるとNbおよびTiにより炭化物として全量を析出させることが困難になり、固溶Cによる硬質化や伸びの劣化が現れる。したがって、C量は0.0040%以下、好ましくは0.0030%以下とする。なお、工業的に低減できるCの下限値は0.0001%程度である。
【0022】
Si:Si量が0.02%を超えると硬質化やめっき性の劣化を招く。したがって、Si量は0.02%以下とする。なお、工業的に低減できるSiの下限値は0.001%程度である。
【0023】
Mn:MnはSによる熱間圧延中の赤熱脆性を防止するのに有効な元素であるため、Mn量は0.14%以上とする必要がある。より好ましくはMn量を0.15%以上とする。一方、Mn量が0.25%を超えると連続鋳造中にMnSが析出して熱間脆性を引き起こし鋼片割れ(鋳片割れともいう)を招いたり、固溶Mnが鋼中に増大し硬質化や伸び性の劣化を招く。また、Mn含有量が多いと、焼鈍時の再結晶温度が高温化し、特に圧下率85%以下という再結晶の駆動力が小さい場合に問題となりやすい。このため、Mn量の上限は0.25%とする。
【0024】
P:P量が0.020%を超えると加工性を低下させるため、P量の上限は0.020%とする。なお、工業的に低減できるPの下限値は0.001%程度である。
【0025】
S:S量が0.015%を超えると、熱間圧延中に赤熱脆性を引き起こしたり、連続鋳造中にMnSが析出して熱間脆性を引き起こし鋳片割れを招くため、S量の上限は0.015%とするが、少ないほど好ましい。なお、工業的に低減できるSの下限値は0.0001%程度である。
【0026】
N:N量が0.0040%を超えると固溶Nにより加工性の劣化を招くため、N量の上限は0.0040%とする。好ましくは0.0030%以下である。なお、工業的に低減できるNの下限値は0.0001%程度である。
【0027】
Al:Alは鋼の脱酸に必要な元素であるため、Al量を0.020%以上とする必要がある。一方、Al量が0.070%を超えると介在物が増加して表面欠陥が発生しやすくなるため、Al量の上限は0.070%とする。
【0028】
Nb:Nbは、本発明において重要な元素であり、Tiとともに鋼中の固溶Cを炭化物として析出させて固溶Cによる深絞り性の劣化を抑制し、かつ微量の添加でも熱延板の結晶粒径の微細化や焼鈍時の結晶粒成長の抑制にも効果的である。このような観点から、Nb量は0.005%以上とする。特に、結晶粒の微細化や焼鈍時の結晶粒成長抑制の効果の点からは、Nb量を0.020%以上とすることが好ましい。しかし、Nbを過度に添加すると再結晶温度が上昇するため、Nb量の上限は0.030%とする。
【0029】
Ti:Tiは、Nbと同様、鋼中の固溶Cを炭化物として析出させて固溶Cによる深絞り性の劣化を抑制する。また、Tiは高温でTiNとして析出するためBNの生成が抑制され、固溶Bを確保しやすくする。一方、Tiを過度に添加すると再結晶温度が上昇したり、熱間圧延時あるいは焼鈍時に結晶粒が粗大化してイヤリング性を劣化させたり、加工時の肌荒れを引き起こす。
【0030】
本発明の鋼板においては、このようなTiの効果は、Nbの含有量の影響も受け、Nb量によって、Tiの好ましい含有量に違いがあることを、本発明者らは見出した。すなわち、Nb量が0.020%以上0.030%以下の場合、Nbによる熱延板の結晶粒径の微細化や焼鈍時の結晶粒成長の抑制の効果が大きく、Tiを比較的多量に添加しても、上記Tiの悪影響は現れないため、Ti量の上限は0.030%とする。Tiが0.030%を超えて多量に含有されると、上記したように、再結晶温度が上昇したり、熱間圧延時あるいは焼鈍時に結晶粒が粗大化してイヤリング性を劣化させたり、加工時の肌荒れを引き起こす。また、この場合、上記Tiの効果を得るため、Ti量の下限値は0.005%とする必要がある。
【0031】
一方、Nb量が0.005%以上0.020%未満と比較的少ない場合、Nbによる熱延板の結晶粒径の微細化や焼鈍時の結晶粒成長の抑制の効果は、0.020%以上とさらに多量にNbを添加した上記の場合に比べて小さく、多量にNbを含有する場合に比べて少ないTi量でも、具体的にはTi含有量が0.020%を超えると、上記したような熱間圧延時あるいは焼鈍時に結晶粒が粗大化してイヤリング性を劣化させたり、加工時の肌荒れを引き起こすというTiの過剰添加による悪影響が現れやすい。このため、Nb量が0.005%以上0.020%未満の場合、Ti量の上限値は0.020%とする必要がある。さらに、このようにNb量が0.005%以上0.020%未満と比較的少ない場合、Nb量に応じて、上記効果を得るためのTi含有量の下限値が以下のように異なる。
C/12-Nb/93≦0の場合、すなわち、NbをC量の当量以上含有する場合、上記したTiの効果を得るためのTi量の下限値は、0.005%である。
C/12-Nb/93>0の場合、すなわち、Nb量がC量との当量に満たない場合、Nbにより固定(析出)されない固溶Cを、Tiにより確実に固定する必要がある。なお、上記したように、Tiは、高温で、まずTiNとして析出し、次いで固溶Cを炭化物(TiC)として析出させると考えられる。このため、Ti量(当量)は、C、N量から、Nbにより析出される量を差し引いた残りのC、N量(当量)以上とする必要がある。すなわち、C/12-Nb/93>0の場合のTi量の下限値は、48×{(C/12+N/14)-Nb/93}とする必要がある。なお、48×{(C/12+N/14)-Nb/93}が0.005%より小さい値となる場合、0.005%以上Tiを添加することが好ましい。
【0032】
なお、Nb:0.005%以上0.020%未満の場合は、Ti量を上記の式(3)あるいは式(4)を満足させると、焼鈍時の再結晶温度をより低下でき、700〜800℃の焼鈍温度でも本発明の目的を達成できる。特に、700〜750℃の焼鈍温度でも目的を達成できるので、エネルギーコストや生産性において有利である。
【0033】
B:冷間圧延前に固溶B量を0.0003%以上とすることにより、冷間圧延の圧下率が85%以下でも確実に-0.20≦Δr≦0.20が得られる。しかし、この固溶B量が0.0010%を超えると再結晶温度が上昇するため、固溶B量の上限は0.0010%以下とする。ここで、固溶B量は下記のようにして求めるものである。すなわち、固溶Bは鋼中の固溶Nと窒化物を析出するが、固溶NはBよりもTiと析出物を形成しやすい。したがって、固溶Nを析出固定できるだけのTiが鋼中に存在する、すなわちNとの当量以上にTiが鋼中に存在する場合(N≦(14/48)Tiの場合)は、固溶B量は鋼中のB量と等しい。一方、TiがNとの当量に満たない場合(N>(14/48)Tiの場合)は、鋼中でTiにより析出固定されないNがBと析出物を形成し、その分、鋼中のB量に比べ固溶B量は減少する。この場合、固溶B量はB-(11/14){N-(14/48)Ti}として算出される。したがって、鋼中の固溶B量を上記のように0.0003〜0.0010%とするためには、上記の式(1)あるいは式(2)を満足させる必要がある。
【0034】
残部は、Feおよび不可避的不純物である。製造過程でSn、Pb、Cu、Mo、V、Zr、Ca、Sb、Te、As、Mg、Na、Ni、Cr、希土類元素(REM)等の各種元素が不純物として合計0.5%以下程度混入する場合があるが、このような不純物も本発明の効果にとくに影響を及ぼすものではない。
【0035】
なお、本発明の鋼板は、ポリゴナルフェライト組織を主体とするものであり(断面面積率で80%以上)、また該フェライト組織の平均結晶粒径は12.0μm以下である。すなわち、上記したように乾電池缶用鋼板には、加工時の肌荒れを抑制するために、結晶粒径が微細であること、具体的には、フェライト組織の平均結晶粒径が12.0μm以下であることが求められており、本発明の鋼板はこれを満足するものである。
【0036】
また、既に述べたように、イヤリングを抑制するために鋼板のΔrは、-0.20≦Δr≦0.20とすることが求められており、本願発明はこれを満足するものである。
【0037】
なお、上記の他、本発明の鋼板はひずみ時効指数AIが4.9MPa以下であることが好ましい。AI≦4.9MPaとすることは、ストレッチャー・ストレインの防止に有効であり、本願発明は、これを可能とするものである。
【0038】
上記フェライト組織およびその粒径、ΔrおよびAIの値は、前記した成分範囲と後述の製造条件との組合せにより達成される。
【0039】
2)製造条件
上述したように、本発明の冷延鋼板は、例えば、上記の成分組成を有する鋼片を、Ar3変態点以上の圧延終了温度で熱間圧延し、次いで圧下率70〜90%で冷間圧延を施し、次いで連続焼鈍ラインで750〜800℃あるいは700〜800℃の焼鈍温度で焼鈍を行うことにより製造できる。
【0040】
熱間圧延の素材である鋼片は連続鋳造法で製造することが好ましく、連続鋳造後、直接あるいは若干加熱してから熱間圧延してもよいし、一旦冷却後再加熱して熱間圧延することもできる。再加熱する場合の加熱温度は1050〜1300℃の範囲とすることが好ましい。再加熱時の加熱温度が1050℃未満では、次の熱間圧延の圧延終了温度をAr3変態点以上とすることが困難になりやすく、1300℃を超えると、鋼片表面に生成する酸化物量が多くなり、表面欠陥が発生しやすくなるためである。
【0041】
熱間圧延の圧延終了温度は、圧延後の結晶粒径を均一にしたり、熱延後の面内異方性を小さくするため、Ar3変態点以上とする必要がある。ここで、Ar3変態点は従来公知の方法で求めればよく、例えばフォーマスタ試験装置により試験片を加熱後、冷却中の熱膨張率の変化を観察することにより求めることができる。
【0042】
熱間圧延後の鋼板は、70〜90%の圧下率で冷間圧延される。このとき、冷間圧延前に、鋼板表面に形成されたスケールを除去するために酸洗を行うことが好ましい。なお、酸洗は常法で行えばよい。冷間圧延の圧下率は、70%未満だと結晶粒径が粗大化し、加工時に肌荒れを引き起こすため、70%以上とする必要がある。本発明鋼では圧下率90%までは-0.20≦Δr≦0.20を確保することができるため、圧下率の上限は90%とする。なお、上述のように製造上の観点から、85%以下とすることが好ましい。
【0043】
冷間圧延後の鋼板は、連続焼鈍ラインで、Nb量が0.020〜0.030%の場合は750〜800℃の焼鈍温度で、また、Nb量が0.005%以上0.020%未満の場合700〜800℃の焼鈍温度で焼鈍される。焼鈍温度の下限を750℃あるいは700℃としたのは、これより低い温度では完全に再結晶させることができない場合があるためである。また、上限を800℃としたのは、これより高い温度では結晶粒径が粗大化し、加工時に肌荒れを引き起こしやすくなるためである。なお、焼鈍を連続焼鈍で行うのは、高生産性の製造が可能であるためである。
【0044】
焼鈍後は、鋼板形状や表面粗さを整えることを目的として調質圧延を行うことが好ましい。調質圧延の伸長率(伸び率)は、上記目的を達成するため通常行われる範囲である0.3〜2.0%の範囲とすることが望ましい。
【0045】
以上により、本発明の鋼板は製造されるが、必要に応じて、Niめっき、Snめっき、Crめっき、あるいはこれらの金属の合金めっきを施しても良い。あるいは、めっき後に拡散焼鈍を施して拡散合金めっきにしても良い。また、用途に応じ、樹脂被覆等、その他の表面被膜を付与することも自由である。本発明の鋼板は成形加工に供されることが一般的であるが、前記の各種表面処理や樹脂被覆等を施した後、成型加工を施しても良い。あるいは、成型加工した後、各種表面処理や樹脂被覆等を施しても良い。
【0046】
本発明の鋼板は、とくに電池の部品となる電池缶への適用に適し、鋼板歩留まり良く電池缶を製造することができる。本発明の鋼板を適用できる電池(化学電池)の種類にとくに制限はなく、例えば、乾電池や二次電池(リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池など)などに適用できる。とくに直径10〜30mm程度の円筒形に成形する(あるいはこれをさらに角筒形に成形する)ものに、本発明の鋼板はとくに好適に適用することができる。電池缶を製造するにあたっては、既に述べた、DI成形等の種々の加工方法が適用できる。電池の製造に当たっては、電池缶に正極材料、負極材料、セパレータ、端子など他の必要な素材・部材を装入・装着する。
【実施例1】
【0047】
表1に示す成分組成の鋼No.1〜18を溶製し、連続鋳造法で鋼片(鋳片)とした。これらの鋼片を1250℃に加熱後、これらの鋼のAr3変態点である880℃以上の900℃で熱間圧延を終了し、酸洗後、表2に示す圧下率で冷間圧延し、連続焼鈍ラインで表2に示す焼鈍温度で焼鈍を行い、0.5%の伸長率で調質圧延を施して鋼板No.1〜33の試料を作製した。そして、得られた試料について、次の方法でΔr、結晶粒径、AIの調査を行った。
【0048】
Δr:得られた鋼板の試料から圧延方向に対して0°、45°、90°方向にJIS13号B引張試験片を採取し、JIS Z 2254にしたがって0°、45°、90°方向のr値であるr0、r45、r90を測定し、Δr=(r0+r90-2r45)/2より求めた。
【0049】
結晶粒径:得られた鋼板の試料の組織を観察し、フェライト組織の平均結晶粒径をJIS G 0552(1998)に記載の切断法に準じて測定した。上述したように、乾電池缶に加工しても肌荒れが生じないために、平均結晶粒径は12.0μm以下である必要がある。
【0050】
AI:得られた鋼板の試料から圧延方向に対して0°方向にJIS13号B引張試験片を採取し、8.0%の引張歪を入れて可動転位を導入した後、100℃×1時間の恒温処理を施し、以下の式でAIを算出し、AIが4.9MPa以下であれば、耐ひずみ時効性に優れているといえる。
AI=(恒温処理後の降伏荷重−恒温処理前の降伏荷重)/(歪導入前の試験片平行部の断面積)
結果を表2に示す。また、冷間圧延時の圧下率とΔrの関係を図1に示す。なお、表2で、Δrと結晶粒径が測定されてない鋼板No.26、28、32は、当該焼鈍温度で再結晶しなかったためである。本発明である鋼板No.7〜16、18、19、22〜25、27、30、33では、Δrが±0.20以下でイヤリング性に優れており、結晶粒径が12.0μm以下で加工時に肌荒れが生じることもないことがわかる。なお、本発明の鋼板は、いずれもポリゴナルフェライトを主体とするものであった。また、本発明例のうち、Nb:0.005%以上0.020%未満の鋼板No.13〜16、22〜24、30、33では、700〜750℃未満の焼鈍温度でも優れた特性が得られることがわかる。なお、鋼板No.31ではAIが15.5MPaとなったが、本願の発明例では、いずれの発明例においても、AIは4.9MPa以下であり、耐ひずみ時効性に優れていた。
【0051】
また、例えΔrが±0.20以内であっても、結晶粒径が12.0μmを超えるNo.3、6、17、29では絞り比2.0の条件で深絞り加工したところ、肌荒れが観察された。これに対し、発明例ではいずれも同条件の深絞り加工で肌荒れは観察されなかった。
【0052】
また、前述のようにNo.31はAIが15.5MPaとなりストレッチャー・ストレインが加工(前記と同条件の深絞り)により発生したが、発明例ではAIは4.9MPa以下となり、ストレッチャー・ストレインも発生しなかった。
【0053】
図1には、鋼No.1〜4における冷間圧延時の圧下率とΔrとの関係の例を示したが、本発明の成分組成の冷延鋼板では、冷間圧延時の圧下率90%以下でΔrを±0.20以下にできることがわかる。
【0054】
また、比較例(鋼No.1、2)においては85%から70%へと圧下率を低減すると著しくΔrが増大しているが、本発明鋼(鋼No.3、4)においてはこの領域において、Δrの変動が抑制されていることがわかる。85%を超え90%へと圧下率が増加した場合の変動は本発明鋼においても若干大きくなるが、前述のようにΔrは±0.20の範囲内を維持している。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.0040%以下、Si:0.02%以下、Mn:0.14〜0.25%、P:0.020%以下、S:0.015%以下、N:0.0040%以下、Al:0.020〜0.070%、Nb:0.005%以上0.020%未満、下記の式(3)あるいは式(4)を満足するTi、および下記の式(1)あるいは式(2)を満足するBを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とするフェライト組織の平均結晶粒径が12.0μm以下で、-0.20≦Δr≦0.20であるイヤリング性に優れた冷延鋼板;
N-(14/48)Ti>0の場合、
0.0003≦B-(11/14){N-(14/48)Ti}≦0.0010 ・・・(1)
N-(14/48)Ti≦0の場合、
0.0003≦B≦0.0010 ・・・(2)
C/12-Nb/93≦0の場合、
0.005≦Ti≦0.020 ・・・(3)
C/12-Nb/93>0の場合、
48×{(C/12+N/14)-Nb/93}≦Ti≦0.020 ・・・(4)
ただし、式(1)〜(4)中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を表す。
【請求項2】
請求項1に記載の成分組成を有する鋼片を、Ar3変態点以上の圧延終了温度で熱間圧延し、次いで圧下率70〜90%で冷間圧延を施し、次いで連続焼鈍ラインで700〜800℃の焼鈍温度で焼鈍を行うことを特徴とするフェライト組織の平均結晶粒径が12.0μm以下で、-0.20≦Δr≦0.20であるイヤリング性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の鋼板を成形してなる電池缶を有する電池。
【請求項4】
請求項1に記載の鋼板に深絞り加工を施して電池缶に成形する工程を有する、電池の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−76169(P2013−76169A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−284210(P2012−284210)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2007−66231(P2007−66231)の分割
【原出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】