インクジェットヘッドおよびインクジェット記録装置
【課題】記録媒体が傾いたとしても記録媒体上に形成された画像に白い筋状の印字むらが生じるのを防止でき、高画質な画像を得られるインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】インクジェットヘッドは、記録媒体の搬送方向と直交する方向に配列された複数のノズル列を有する。各ノズル列は、記録媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルを含む。ノズルは、記録媒体の搬送方向と直交する方向に一定のピッチで並んでいるとともに、ノズル列毎に記録媒体の搬送方向に互いに間隔を存して配置されている。各ノズル列の一端に位置された少なくとも一つのノズルは、当該ノズルに対し一定のピッチで並んだノズルの配列方向に最も近接された他のノズルよりも記録媒体の搬送方向に沿う上流側に設けられている。各ノズル列の他端に位置された少なくとも一つのノズルは、当該ノズルに対し一定のピッチで並んだノズルの配列方向に最も近接された他のノズルよりも記録媒体の搬送方向に沿う下流側に設けられている。
【解決手段】インクジェットヘッドは、記録媒体の搬送方向と直交する方向に配列された複数のノズル列を有する。各ノズル列は、記録媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルを含む。ノズルは、記録媒体の搬送方向と直交する方向に一定のピッチで並んでいるとともに、ノズル列毎に記録媒体の搬送方向に互いに間隔を存して配置されている。各ノズル列の一端に位置された少なくとも一つのノズルは、当該ノズルに対し一定のピッチで並んだノズルの配列方向に最も近接された他のノズルよりも記録媒体の搬送方向に沿う上流側に設けられている。各ノズル列の他端に位置された少なくとも一つのノズルは、当該ノズルに対し一定のピッチで並んだノズルの配列方向に最も近接された他のノズルよりも記録媒体の搬送方向に沿う下流側に設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、複数のノズルから記録媒体に向けてインクを吐出するインクジェットヘッドおよび当該インクジットヘッドを備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドは、記録紙のような記録媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルを有している。ノズルから吐出されたインクは、一定の方向に搬送される記録媒体の上に画像を形成する。
【0003】
記録媒体に形成される画像の解像度を高めるため、複数のノズルを一組とする複数のノズル列を、記録媒体の幅方向に配列したインクジェットヘッドが知られている。この種のインクジェットヘッドによると、全てのノズルは、記録媒体の幅方向に一定のピッチで並んでいる。それとともに、各ノズル列を構成するノズルは、記録媒体の搬送方向に対して一定の角度を有する斜めの方向に互いに間隔を存して規則的に配列されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−313623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数のノズルが規則的に配列された従来のインクジェットヘッドによると、一つのノズル列の終端に位置されたノズルと、当該ノズル列と隣り合う他のノズル列の始端に位置されたノズルとは、ノズル列の長さに匹敵する距離だけ記録媒体の搬送方向に離れている。
【0006】
この構成によると、インクジェットヘッドに向かう記録媒体が、ノズル列が延びる方向に傾くことなく適正の姿勢で搬送されていれば、ノズルから吐出されるインクにより所望の解像度の画像を得ることができる。
【0007】
しかしながら、ノズル列が延びる方向に記録媒体が傾いて搬送された場合、隣り合うノズル列の端部の間でノズルのピッチが広がったような状態となるのを避けられない。このため、記録媒体の上に到達したインクのドットの間隔が広くなり、記録媒体のうち隣り合うノズル列の間に対応する箇所に白い筋状の印字むらが発生することがある。
【0008】
画像の上に白色の筋が残ると、この筋が目に留まり易くなり、高画質の画像を得る上での妨げとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、記録媒体にインクを吐出するインクジェットヘッドは、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に配列された複数のノズル列を有している。各ノズル列は、前記記録媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルを含んでいる。
前記ノズルは、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に沿って一定のピッチで並んでいるとともに、前記ノズル列毎に前記記録媒体の搬送方向に互いに間隔を存して配置されている。
前記各ノズル列の一端に位置された少なくとも一つのノズルは、当該ノズルに対し前記一定のピッチで並んだ前記ノズルの配列方向に最も近接された他のノズルよりも前記記録媒体の搬送方向に沿う上流側に設けられている。前記各ノズル列の他端に位置された少なくとも一つのノズルは、当該ノズルに対し前記一定のピッチで並んだ前記ノズルの配列方向に最も近接された他のノズルよりも前記記録媒体の搬送方向に沿う下流側に設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係るインクジェット記録装置を概略的に示す側面図。
【図2】第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの平面図。
【図3】第1の実施形態において、複数のノズル列がノズルプレートのノズル面に配列された状態を示すインクジェットヘッドの平面図。
【図4】図3のF4−F4線に沿う断面図。
【図5】図4のF5−F5線に沿う断面図。
【図6】第1の実施形態において、ノズル列を構成する複数のノズル間のピッチを誇張して示すインクジェットヘッドの平面図。
【図7】第1の実施形態において、保護層を構成するベースに振動板を積層した状態を示す断面図。
【図8】第1の実施形態において、振動板の上に第1の電極の基となる薄膜を形成した状態を示す断面図。
【図9】第1の実施形態において、振動板の上に第1の電極を形成した状態を示す断面図。
【図10】第1の実施形態において、圧電体膜で振動板および第1の電極を覆った状態を示す断面図。
【図11】第1の実施形態において、第1の電極の上に圧電体層を形成した状態を示す断面図。
【図12】第1の実施形態において、圧電体層の上に第2の電極の基となる薄膜を形成した状態を示す断面図。
【図13】第1の実施形態において、圧電体層の上に第2の電極を形成した状態を示す断面図。
【図14】第1の実施形態において、第2の電極および振動板の上に電極保護膜を積層した状態を示す断面図。
【図15】第1の実施形態において、振動板の上に第1の基板を積層するとともに、第1の基板にインク圧力室を形成した状態を示す断面図。
【図16】第1の実施形態において、第1の基板が積層された振動板から電極保護膜を除去した状態を示す断面図。
【図17】第1の実施形態において、第2の電極および振動板の上に保護層を積層した状態を示す断面図。
【図18】第1の実施形態において、保護層の上に撥液膜を形成するとともに、保護層および撥液膜にノズルを形成した状態を示す断面図。
【図19】第1の実施形態において、撥液膜の上にノズル保護膜を形成した状態を示す断面図。
【図20】第1の実施形態において、第1の基板の上にインク流通室を有する第2の基板を接着した状態を示す断面図。
【図21】第1の実施形態において、ノズル保護膜を剥離してノズルを露出させた状態を示す断面図。
【図22】複数のノズルを直線状に配列した比較例のインクジェットヘッドを示す平面図。
【図23】第2の実施形態に係るインクジェットヘッドの平面図。
【図24】第3の実施形態に係るインクジェットヘッドの断面図。
【図25】第4の実施形態に係るインクジェットヘッドの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態について、図1ないし図22を参照して説明する。
【0012】
図1は、インクジェット記録装置100の一例を概略的に示している。インクジェット記録装置100は、インクジェット記録装置100の外郭を構成する箱形の筐体101を備えている。図1に示すように、給紙カセット102、排紙トレイ103、搬送路104および保持ドラム105が筐体101の内部に収容されている。
【0013】
給紙カセット102は、記録媒体の一例である用紙Sを収容する要素であって、筐体101の底部に配置されている。用紙Sとしては、例えば無地の用紙、アート紙あるいはOHPシート等を用いることができる。排紙トレイ103は、筐体101の上部に設けられて、筐体101の外に露出されている。
【0014】
搬送路104は、給紙カセット102に連続する上流部104aと、排紙トレイ103に連続する下流部104bとを備えている。給紙カセット102に収容された用紙Sは、ローラ106により一枚づつ搬送路104の上流部104aに送り出される。
【0015】
保持ドラム105は、給紙カセット102と排紙トレイ103との間に配置されている。給紙カセット102から搬送路104の上流部104aに送り出された用紙Sは、保持ドラム105の外周面105aを経由して搬送路104の下流部104bに導かれる。具体的には、保持ドラム105は、その外周面105aに用紙Sを保持した状態で周方向に一定の速度で回転するように構成されている。
【0016】
図1に示すように、保持ドラム105の周囲に、用紙押圧装置108、画像形成装置109、除電装置110およびクリーニング装置111が配置されている。用紙押圧装置108、画像形成装置109、除電装置110およびクリーニング装置111は、保持ドラム105の回転方向に沿う上流から下流に向けて順番に並んでいる。
【0017】
用紙押圧装置108は、搬送路104の上流部104aから保持ドラム105の外周面105aに供給された用紙Sを保持ドラム105の外周面105aに押し付ける。保持ドラム105の外周面105aに押し付けられた用紙Sは、静電力により保持ドラム105の外周面105aに吸着される。
【0018】
画像形成装置109は、保持ドラム105の外周面105aに吸着された用紙Sに画像を形成するための要素である。本実施形態の画像形成装置109は、例えばシアン画像を形成する第1のインクジェットヘッド1A、マゼンダ画像を形成する第2のインクジェットヘッド1B,イエロー画像を形成する第3のインクジェットヘッド1Cおよびブラック画像を形成する第4のインクジェットヘッド1Dを備えている。第1ないし第4のインクジェットヘッド1A,1B,1C,1Dは、保持ドラム105の回転方向に間隔を存して配列されている。保持ドラム105の回転方向は、保持ドラム105の外周面105aに沿って搬送される用紙Sの搬送方向と言い換えることができる。
【0019】
除電装置110は、所望の画像が形成された用紙Sの除電を行うとともに、除電後に用紙Sを保持ドラム105の外周面105aから剥離させる機能を有する。保持ドラム105の外周面105aから剥離された用紙Sは、搬送路104の下流部104bを通って排紙トレイ103に導かれる。
【0020】
クリーニング装置111は、用紙Sが剥離された保持ドラム105の外周面105aを清掃する機能を有する。クリーニング装置111は、除電装置110よりも保持ドラム105の回転方向に沿う下流側において、保持ドラム105の外周面105aに接する位置と、保持ドラム105の外周面105aから離脱する位置との間で移動可能となっている。
【0021】
さらに、本実施形態のインクジェット記録装置100は、用紙Sの表と裏を反転させる反転装置112を備えている。反転装置112は、除電装置110により保持ドラム105の外周面105aから剥離された用紙Sを反転させて搬送路104の上流部104aに戻す。これにより、用紙Sは、表と裏が反転された状態で再び保持ドラム105の外周面105aに供給される。よって、用紙Sの表と裏の両面に所望の画像を形成することができる。
【0022】
画像形成装置109を構成する第1ないし第4のインクジェットヘッド1A,1B,1C,1Dは、基本的に共通の構成を有している。そのため、本実施形態では、第1のインクジェットヘッド1Aの構成を代表して説明する。
【0023】
図2ないし図4に示すように、第1のインクジェットヘッド1Aは、用紙Sの搬送方向と直交する方向に延びる細長い形状を有している。図4に示すように、第1のインクジェットヘッド1Aは、ノズルプレート2とヘッド本体3とで構成されている。ノズルプレート2は、振動板4、保護層5および撥液膜6を有する三層構造である。
【0024】
振動板4は、例えば電気絶縁性を有するシリコン酸化膜で形成されている。振動板4の厚さは、概ね10μm以下である。第1の実施形態では、シリコン酸化膜は、熱酸化により基板温度を約1000℃として形成した。シリコン酸化膜の製法としては、CVD(化学的気相成長法)、RFマグネトロンスパッタリング法を用いることができる。
【0025】
保護層5は、振動板4に積層されている。保護層5は、例えばポリイミドのような樹脂材料で形成されている。保護層5の厚さは、6μmである。第1の実施形態では、保護層5は、例えばスピンコーティングにより形成されている。保護層5の材料としては、例えばポリ尿素のような樹脂材料、SiO2のような酸化膜を用いることも可能である。この場合、保護層5の膜厚は、概ね3〜20μmである。
【0026】
撥液膜6は、保護層5に積層されている。撥液膜6は、例えばフッ素樹脂のようなインクをはじく特性を有する材料で形成されている。第1の実施形態では、撥液膜6は、例えばスピンコーティングにより形成されている。撥液膜6の膜厚は、概ね0.1〜5μm、好ましくは1μmである。撥液膜6は、ノズルプレート2の表面となるノズル面7を構成する。ノズル面7は、用紙Sの被印字面と向かい合うように第1のインクジェットヘッド1Aの外に露出されている。
【0027】
図2に示すように、複数のノズル列10がノズルプレート2に形成されている。ノズル列10は、矢印Xで示す第1のインクジェットヘッド1Aの長手方向に間隔を存して一列に並んでいる。第1のインクジェットヘッド1Aの長手方向とは、矢印Yで示す用紙Sの搬送方向と直交する方向のことであり、用紙Sの幅方向と一致する。
【0028】
各ノズル列10は、複数のノズル11を有している。ノズル11は、ノズルプレート2を厚み方向に貫通する孔である。ノズル11の直径は、例えば20μmである。ノズル11は、ノズルプレート2のノズル面7およびノズル面7の反対側に位置された振動板4の表面4aに開口されている。
【0029】
ヘッド本体2は、第1の基板12および第2の基板13を有している。第1の基板12は、例えば単一のシリコン基板で形成されている。第1の基板12の厚さは、例えば675μmである。第1の基板12は、振動板4の表面4aに積層されて、振動板4と一体化されている。
【0030】
ノズル11と同数のインク圧力室14が第1の基板12に形成されている。インク圧力室14は、例えば直径が250μmの円筒状である。ノズル圧力室14の一方の開口端は振動板4によって塞がれている。
【0031】
言い換えると、振動板4は、インク圧力室14に露出されている。インク圧力室14は、ノズル11に対応するように設けられているとともに、各インク圧力室14の中央に各ノズル11が連通されている。
【0032】
第2の基板13は、ステンレスのような金属材料で構成されている。第2の基板13の厚さは、例えば4mmである。第2の基板13は、第1の基板12に積層されているとともに、例えばエポキシ系の接着剤を用いて第1の基板12に固定されている。
【0033】
複数のインク流通室15が第2の基板13の内部に形成されている。インク流通室15は、第2の基板13の厚み方向に沿う深さが例えば2mmの円筒状である。画像形成用のインクは、第1のインクジェットヘッド1Aの外部からインク供給口16を通じてインク流通室15に供給される。
【0034】
インク流通室15は、連通口17を通じてインク圧力室14に通じている。連通口17はノズル11よりも小径な孔である。連通口17は、ノズル11と同軸となるように第2の基板13に形成されている。インク供給口16からインク流通室15に分配されたインクは、連通口17を通じてインク圧力室14に供給される。
【0035】
第1の実施形態では、インク供給口16は、インク流通室15の中央に位置されている。さらに、連通口17にしてもインク流通室15の中央およびインク圧力室14の中央に位置されている。この結果、インクが複数のインク流通室15から複数のインク圧力室14に供給される際の流路抵抗が均等化されて、インク圧力室14に供給されるインク量のばらつきが抑制されている。
【0036】
第2の基板13は、ステンレスに限らず、例えばアルミニウム合金、チタンのようなその他の金属材料で形成してもよい。加えて、第2の基板13を形成する材料は金属に限らない。例えば、ノズルプレート2および第1の基板12との膨張係数の差異を考慮して、インク吐出圧力に影響を及ぼさない範囲内で他の材料を用いることができる。
【0037】
具体的には、セラミック材料としてのアルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウムなどの窒化物・酸化物を用いることができる。さらに、例えばABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材料を用いることができる。
【0038】
図3および図4に示すように、第1の実施形態のノズルプレート2は、インクを加圧する複数のアクチュエータ20を内蔵している。アクチュエータ20は、ノズル11毎に設けられている。
【0039】
アクチュエータ20は、ノズル11を同軸状に取り囲むように振動板4の上にリング状に形成されているとともに、保護層5で覆われている。各アクチュエータ20は、圧電体層21、第1の電極22および第2の電極23を備えている。
【0040】
圧電体層21は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)で構成されている。圧電体層21の材料としては、PTO(PbTiO3:チタン酸鉛)、PMNT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)、ZnO、AIN等を用いることも可能である。
【0041】
圧電体層21は、例えばRFマグネトロンスパッタリング法により基板温度350℃で形成されている。圧電体層21は、その膜厚が3μm、直径が250μmである。第1の実施形態では、圧電体層21を形成した後、圧電体層21に圧電性を付与するために、500℃で3時間に亘る熱処理を施している。これにより、圧電体層21は、良好な圧電性能を得ることができる。圧電体層21が形成されると、圧電体層21の厚さ方向に沿う分極が発生する。
【0042】
圧電体層21の他の製法としては、CVD(化学的気相成長法)、ゾルゲル法、AD法(エアロゾルデポジション法)、水熱合成法等を用いることができる。この場合、圧電体層21の厚さは、概ね0.1μmから10μmの範囲となる。
【0043】
第1の電極22および第2の電極23は、圧電体層21を駆動するための信号を伝送するための要素であって、例えばPt(白金)/Ti(チタン)の薄膜で形成されている。薄膜は、例えばスパッタリング法により形成され、その膜厚が0.5μmである。
【0044】
第1の電極22および第2の電極23を形成する他の材料としては、Ni(ニッケル)、CU(銅)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Au(金)を用いることができるとともに、前記各種の金属を積層することも可能である。
第1の電極22および第2の電極23を形成する方法としては、例えば蒸着、鍍金を用いることも可能である。この場合、第1の電極22および第2の電極23の望ましい膜厚は、0.01〜1μmである。
【0045】
図4に示すように、第1の電極22は、振動板4に形成されている。第1の電極22は、夫々電極部分24を備えている。電極部分24は、圧電体層21よりも小径のリング形である。電極部分24は、圧電体層21で同軸状に覆われているとともに、圧電体層21に電気的に接続されている。さらに、ノズル11は、電極部分24の中央部および圧電体層21の中央部を同軸状に貫通している。
【0046】
図3に示すように、アクチュエータ20の第1の電極22は、基幹配線25から分岐された複数の中継配線26を介して電気的に接続されている。したがって、第1の電極22は、全ての圧電体層21に共通して繋がっており、全ての圧電体層21に一定の電圧を印加する共通電極として作用する。第1の実施形態によると、基幹配線25および中継配線26は、振動板4に形成されて保護層5で覆われている。基幹配線25の配線幅は、概ね100μmである。
【0047】
図4に示すように、第2の電極23は、夫々電極部分28と配線部29とを備えている。電極部分28は、圧電体層21よりも小径のリング形である。電極部分28は、圧電体層21に同軸状に積層されて、圧電体層21に電気的に接続されている。したがって、圧電体層21は、第1の電極22の電極部分24と第2の電極23の電極部分28との間で挟み込まれている。さらに、ノズル11は、電極部分28の中央部を貫通している。
【0048】
第2の電極23の配線部29は、電極部分28の外周縁から振動板4に沿ってアクチュエータ20の外に互いに間隔を存して引き出されている。
【0049】
そのため、第2の電極23は、圧電体層21に個別に繋がっており、個々の圧電体層21を独立して動作させる個別電極として作用する。第1の実施形態によると、第2の電極23の配線部29は、所定の導体パターンを形成しているとともに、電極部分28と一緒に保護層5で覆われている。配線部29は、アクチュエータ20の周囲を通して配線するため、その配線幅が概ね15μmである。
【0050】
第1の電極22に電気的に接続された基幹配線25および第2の電極23の配線部29は、第1のインクジェットヘッド1Aの外部に導かれて、テープキャリアパッケージに電気的に接続されている。テープキャリアパッケージは、第1のインクジェットヘッド1Aを駆動するための駆動回路を実装している。
【0051】
駆動回路は、各アクチュエータ20の第1の電極22および第2の電極23に駆動電圧を供給する。圧電体層21の分極の方向と同じ向きの電界が第1および第2の電極22,23から圧電体層21に印加されると、アクチュエータ20が電界の向きと直交する方向に伸縮を繰り返そうとする。ここで、電界の向きと直交する方向とは、振動板4の表面4aに沿う方向のことを指している。
【0052】
アクチュエータ20は、振動板4の上に形成されているので、振動板4がアクチュエータ20の伸縮を妨げる働きをする。このため、アクチュエータ20と振動板4との接触部分に応力が発生し、発生した応力は振動板4を厚み方向に撓むように変形させる。
【0053】
この結果、アクチュエータ20が電界の向きと直交する方向に伸縮を繰り返すことで、インク圧力室14に露出された振動板4が厚み方向に振動し、インク圧力室14内のインクの圧力を高める。したがって、インク圧力室14内で加圧されたインクの一部がインク滴となってノズル11から用紙Sに向けて吐出される。
【0054】
図3は、ノズルプレート2のノズル面7に配列されたノズル列10を部分的に拡大して示している。第1の実施形態によると、ノズル列10は、用紙Sの搬送方向(Y方向)に延びているとともに、用紙Sの搬送方向と直交するノズルプレート2の長手方向(X方向)に沿って120列に亘って配置されている。
【0055】
各ノズル列10は、夫々第1ないし第10のノズル11a,11b,11c,11d,11e,11f,11g,11h,11i,11jを有している。各ノズル列10を構成する10個のノズル11a〜11jは、ノズル列10毎に用紙Sの搬送方向(Y方向)に互いに間隔を存して配置されている。
【0056】
したがって、第1の実施形態のノズルプレート2は、1200個のノズル11a〜11jを有している。1200個のノズル11a〜11jは、少なくとも用紙Sの幅方向に沿う長さに亘って二次元的にマトリクス状に配列されたノズル群30を構成している。
【0057】
図3に示すように、ノズル面7に開口された全てのノズル11a〜11jは、所望の解像度を得るために、ノズルプレート2の長手方向(X方向)に一定のピッチPで並べられている。ノズル11a〜11jのピッチPは、各ノズルに対応するインク圧力室14が、隣り合う他のノズルに対応するインク圧力室14と干渉することがない値に定められている。
【0058】
さらに、各ノズル列10を構成する第1ないし第10のノズル11a〜11jは、ノズル列10が延びる方向に沿う直線Zに対し非対称となるようにランダムに配置されている。
【0059】
具体的に述べると、図6は、第1ないし第10のノズル11a〜11jのピッチPを誇張した状態で示している。第1のノズル11aは、ノズル列10の一端に位置され、第10のノズル11jは、ノズル列10の他端に位置されている。
【0060】
第1の実施形態によると、各ノズル列10にあっては、ノズル列10の一端部に位置された第1および第2のノズル11a,11bが、第2のノズル11bに対しノズル配列方向(X方向)に所定のピッチPで最も近接された第3のノズル11cよりも用紙Sの搬送方向に沿う上流側にずれた位置に設けられている。
【0061】
加えて、各ノズル列10にあっては、ノズル列10の他端部に位置された第9および第10のノズル11i,11jが、第9のノズル11iに対しノズル配列方向(X方向)に所定のピッチPで最も近接された第8のノズル11hよりも用紙Sの搬送方向に沿う下流側にずれた位置に設けられている。
【0062】
この結果、図6に最もよく示されるように、第3ないし第8のノズル11c〜11hは、前記直線Zに沿うように略一列に並んでいる。第1および第2のノズル11a,11bおよび第9および第10のノズル11i,11jは、前記直線Zから外れている。 このことから、第1ないし第10のノズル11a〜11jは、前記直線Zに対し非対称となるように不規則に配列されている。
【0063】
第1の実施形態では、前記基幹配線25が120列に亘るノズル列10の第5のノズル11eと第6のノズル11fとの間を通してノズルプレート2の長手方向に配線されている。それとともに、前記基幹配線25は、隣り合うノズル列10の間では、一方のノズル列10の第10のノズル11jと他方のノズル列10の第1のノズル11aとの間を通っている。
【0064】
したがって、各ノズル列10においては、第5のノズル11eと第6のノズル11fとの間に基幹配線25を通すスペースを確保するため、用紙Sの搬送方向(Y方向)に沿う第5のノズル11eと第6のノズル11fとの間の配置間隔L1がノズル列10の中で最も大きくなっている。
【0065】
第1の実施形態によると、例えば第1ないし第10のノズル11a〜11jの直径を20μm、第1ないし第10のノズル11a〜11jのピッチPを42μm、インク圧力室14の直径を250μm、所定のピッチPで最も近接されたノズルに付随するインク圧力室14の間の間隔を100μmに設定している。第1ないし第10のノズル11a〜11jを有するノズル列10をX方向に120列に亘って配置した場合、ノズルプレート2は、X方向の長さが52.5mm、Y方向の長さが5.25mmの大きさとなる。この場合、用紙Sの搬送方向に沿う第5のノズル11eと第6のノズル11fとの間の配置間隔L1は、800μmとなる。
【0066】
第1の実施形態では、所定の解像度を得るために1インチあたり600個のノズルが配置されることを想定してノズルのピッチPを設定している。ノズルのピッチPは、解像度の値に応じて適宜変化する。このため、ノズルのピッチPは42μmに限定されないことは勿論である。
【0067】
次に、前記のような構成を有する第1のインクジェットヘッド1Aを製造する手順の一例について、図7ないし図21を参照して簡単に説明する。
【0068】
まず、図7に示すように、第1の基板12の基となるベース40に振動板4を積層した積層体41を形成する。この後、振動板4に例えばフォトリソグラフィーおよびドライエッチングを施すことで、開口部42を形成する。
【0069】
引き続いて、図8に示すように、振動板4の上に白金又はチタンの薄膜43を例えばスパッタリング法により形成する。
【0070】
さらに、図9に示すように、薄膜43に例えばフォトリソグラフィーおよびドライエッチングを施すことで、振動板4の上にリング状の第1の電極22を形成する。
【0071】
この後、図10に示すように、振動板4および第1の電極22の上にPZT製の圧電体膜44を例えばスパッタリング法により形成する。引き続いて、圧電体膜44に例えばフォトリソグラフィーおよびウエットエッチングを施すことで、振動板4の上に第1の電極22を覆う圧電体層21を形成する。(図11を参照)
この後、図12に示すように、振動板4および圧電体層21の上に白金又はチタンの薄膜45を例えばCVD法又はスパッタリング法により形成する。引き続いて、薄膜45に例えばフォトリソグラフィーおよびドライエッチングを施すことで、振動板4および圧電体層21の上にリング状の第2の電極23を形成する。この結果、振動板4の上にアクチュエータ20が形成される。(図13を参照)
この後、図14に示すように、振動板4の上に電極保護膜46を形成する。これにより、アクチュエータ20が電極保護膜46で被覆された中間成形物47が形成される。
【0072】
この後、図15に示すように中間成形物47を上下に反転させて、ベース40を上向きとする。この状態で、ベース40に例えばDeep Reactive Ion Etching(シリコン深堀エッチング)を施すことで、ベース40にインク圧力室14を形成する。
【0073】
引き続いて、図16に示すように、再び中間成形物47を上下に反転させるとともに、電極保護膜46を除去する。これにより、振動板4およびアクチュエータ20が露出される。
【0074】
この後、図17に示すように、振動板4の上に保護層5となるノズル保護膜48を例えばフォトリソグラフィーにより形成し、このノズル保護膜48でアクチュエータ20を被覆する。さらに、ノズル保護膜48の上に撥液膜6を例えば蒸着等の手段により積層する。この結果、アクチュエータ20を内蔵したノズルプレート2が形成される。
【0075】
この後、図18に示すように、ノズル保護膜48および撥液膜6に例えばドライエッチングおよびアッシングを施すことで、ノズル保護膜48および撥液膜6を貫通する貫通孔49を形成する。貫通孔49は、振動板4の開口部42に同軸状に連通することでノズル11を構成する。
【0076】
引き続いて、図19に示すように、撥液膜6の上にノズル保護膜49aを積層し、ノズル保護膜49aでノズル11の開口端およびノズル面7を保護する。
【0077】
この後、図20に示すように中間成形物47を再び上下に反転させ、インク圧力室14が形成されたベース40を上向きとする。この状態で、予めインク流通室15、インク供給口16および連通口17が形成された第2の基板13を第1の基板12の上に接着する。これにより、第1の基板12と第2の基板13とが一体化されたヘッド本体3が形成される。
【0078】
最後に、ノズル保護膜49aを撥液膜6から剥離させてノズル面7を露出させるとともに、中間成形物47を予め決められた大きさに裁断する。このことにより、一連の第1のインクジェットヘッド1Aの成形工程が完了する。
【0079】
第1の実施形態によると、ノズルプレート2の長手方向(X方向)に沿って配列されたノズル列10は、夫々ノズル列10の一端部に位置された第1および第2のノズル11a,11bが、第2のノズル11bに対しノズル配列方向に所定のピッチPで最も近接された第3のノズル11cよりも用紙Sの搬送方向に沿う上流側に設けられている。
【0080】
さらに、ノズル列10の他端部に位置された第9および第10のノズル11i,11jが、第9のノズル11iに対しノズル配列方向に所定のピッチPで最も近接された第8のノズル11hよりも用紙Sの搬送方向に沿う下流側に設けられている。
【0081】
この結果、図6に示すように、ノズル列10の第3ないし第8のノズル11c〜11hは、前記直線Zに沿うように略一列に並んでいるのに対し、第1および第2のノズル11a,11bおよび第9および第10のノズル11i,11jは、前記直線Zから外れている。
このように第1ないし第10のノズル11a〜11jを配置することで、X方向に一定のピッチPで隣り合うノズルのうち、用紙Sの搬送方向に沿う配置間隔L1が最大となる第5のノズル11eと第6のノズル11fとの間の距離を、最大でも800μmに抑えることが可能となる。
【0082】
一方、図22は、比較例としてのインクジェットヘッド1を示している。比較例のインクジェットヘッド1では、ノズル列10を構成する第1ないし第10のノズル11a〜11jが用紙Sの搬送方向に対して一定の角度αを有する斜めの方向に互いに間隔を存して直線状に規則的に配列されている。
【0083】
この比較例において、用紙Sの搬送方向と直交するX方向に沿う第1ないし第10のノズル11a〜11jのピッチP、ノズル11a〜11jの直径およびインク圧力室14の直径等は、第1の実施形態と同様である。
【0084】
図22から明らかなように、一つのノズル列10の他端に位置する第10のノズル11jと、隣り合う他のノズル列10の一端に位置する第1のノズル11aとは、ノズル列10の長さに匹敵する距離だけ用紙Sの搬送方向(Y方向)に離れている。
【0085】
この比較例では、一方のノズル列10の他端に位置する第10のノズル11jと、隣り合う他方のノズル列10の一端に位置する第1のノズル11aとの間のY方向に沿う配置間隔L2が3500μmとなっている。
【0086】
このような比較例によると、第1ないし第10のノズル11a〜11jを直線状に規則的に配列したことで、隣り合うノズル列10の間に、用紙Sの搬送方向に沿うノズルの配置間隔L2が局部的に広がった箇所が形成される。
【0087】
この結果、例えばノズル列10が延びる方向に用紙Sが傾いて搬送された場合、一方のノズル列10の他端に位置する第10のノズル11jと、隣り合う他方のノズル列10の一端に位置する第1のノズル11aとの間のピッチPが見かけ上拡張された状態となる。
【0088】
そのため、例えば隣り合う二つのノズル列10から用紙Sにインクを吐出した場合に、用紙Sに到達したインクのドットの間隔が局部的に広がるのを避けられない。よって、用紙Sに形成された画像上にインクの抜けに伴うが白い筋が発生することがある。
【0089】
これに対し、第1の実施形態に係る第1のインクジェットヘッド1Aによれば、ノズル列10を構成する第1ないし第10のノズル11a〜11jを前記のような配列とすることで、所定のピッチPで隣り合う第1ないし第10のノズル11a〜11jの用紙Sの搬送方向に沿う配置間隔を可能な限り小さく抑えることができる。
【0090】
第1の実施形態によると、基幹配線25が第5のノズル11eと第6のノズル11fとの間を通過するにも拘らず、ノズル列10の中で最も大きくなる第5のノズル11eと第6のノズル11fとの間の配置間隔L1が800μmとなる。よって、前記比較例と比較して用紙Sの搬送方向に沿うノズルの最大配置間隔を大幅に縮小することができる。
【0091】
この結果、たとえ用紙Sがノズル列10が延びる方向に傾いたとしても、用紙Sの上に到達したインクのドットの間隔が局部的に広がるのを防止できる。したがって、画像の上に白い筋状の印字むらが生じ難くなり、所望の解像度を有する高画質の画像を得ることができる。
【0092】
第1の実施形態では、10個のノズルによって構成されるノズル列を、用紙の搬送方向と直交するX方向に120列に亘って配置している。しかしながら、ノズル列の数および一つのノズル列が有するノズルの数(行数)は、第1の実施形態に特定されるものではなく、インクジェットヘッドに要求される画像の解像度に応じて適宜変更することができる。
【0093】
[第2の実施形態]
図23は、第2の実施形態を開示している。第2の実施形態は、用紙の搬送方向に沿うノズル列の形状が第1の実施形態と相違している。これ以外の第1のインクジェットヘッド1Aの基本的な構成は、第1の実施形態と同様である。そのため、第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0094】
図23は、複数のノズル列50がノズルプレート2のノズル面7に配列された状態を示している。第2の実施形態によると、ノズル列50は、用紙Sの搬送方向(Y方向)に延びているとともに、用紙Sの搬送方向と直交するノズルプレート2の長さ方向(X方向)に沿って複数列に亘って配置されている。
【0095】
各ノズル列50は、第1の列51と第2の列52とを備えている。第1の列51は、例えば10個のノズル53aを有している。第2のノズル列52は、例えば10個のノズル53bを有している。全てのノズル53a,53bは、所望の解像度を得るために、ノズルプレート2の長さ方向(X方向)に所定のピッチPで並んでいる。ノズル53a,53bのピッチPは、各ノズル53a,53bに付随するインク圧力室14が、所定のピッチPで隣り合うノズル53a,53bのインク圧力室14と干渉することがない値に定められている。
【0096】
第1の列51を構成する10個のノズル53aは、用紙Sの搬送方向に沿う直線Rに対して所定の角度θ1だけ傾斜する方向に互いに間隔を存して直線状に配列されている。第2の列52を構成する10個のノズル53bは、前記直線Rに対して第1の列51とは逆方向に所定の角度θ2だけ傾斜する方向に互いに間隔を存して直線状に配列されている。
【0097】
言い換えると、第1の列51のノズル53aおよび第2の列52のノズル53bは、夫々用紙Sの搬送方向(Y方向)に互いに間隔を存して配置されている。
【0098】
この結果、各ノズル列50の第1および第2の列51,52は、ノズル面7を平面的に見た場合に、用紙Sの搬送方向に沿う直線Rに対し非対称となるようにV字状に配置されている。
【0099】
よって、第2の実施形態に係る第1のインクジェットヘッド1Aにしても、複数のノズル列50のノズル53a,53bは、少なくとも用紙Sの幅方向に沿う長さに亘って二次元的にマトリクス状に配列されたノズル群55を構成している。
【0100】
さらに、第2の実施形態によると、例えばノズル53a,53bの直径を20μm、ノズル53a,53bのピッチPを42μm、インク圧力室14の直径を250μm、所定のピッチPで最も接近されたノズル53a,53bに付随するインク圧力室14の間隔を100μmに設定するとともに、20個のノズル53a,53bをV字状に配列したノズル列50をX方向に120列に亘って配置した場合、ノズルプレート2は、X方向の長さが52.5mm、Y方向の長さが7.2mmの大きさとなる。
【0101】
さらに、この場合、ノズル列50の第1の列51および第2の列52において、用紙Sの搬送方向に隣り合うノズル53a,53bの配置間隔L3は、600μmとなる。
【0102】
第2の実施形態によると、各ノズル列50は、用紙Sの搬送方向に沿う直線Rに対し非対称となるようにV字状に配置された第1および第2の列51,52を有している。そのため、第1の実施形態と比較した場合、ノズルプレート2は、用紙Sの搬送方向(Y方向)に沿う寸法が増加するものの、所定のピッチPで隣り合うノズル53a,53bに関しては、用紙Sの搬送方向に沿うノズル53の配置間隔L3を第1の実施形態よりも小さくすることができる。
【0103】
このため、たとえ用紙Sが直線Rに対し傾いたとしても、用紙Sの上に到達したインクのドットの間隔が局部的に広がるのを防止できる。よって、画像の上に白い筋状の印字むらが生じ難くなり、所望の解像度を有する高画質の画像を得ることができる。
【0104】
[第3の実施形態]
図24は、第3の実施形態に係るインクジェットヘッド60を開示している。第3の実施形態のインクジェットヘッド60は、主にインクを加圧する部分の構成が第1の実施形態と相違している。
【0105】
図24に示すように、インクジェットヘッド60は、ノズルプレート61および基板62を備えている。ノズルプレート61は、例えば単一のシリコン基板63と、シリコン基板63の表面を覆う撥液膜64とで構成されている。ノズルプレート61は、複数のノズル65(一つのみ図示)を備えている。ノズル65は、ノズルプレート61を厚み方向に貫通するとともに、例えば前記第1の実施形態あるいは第2の実施形態と同様のパターンでノズルプレート61に配列されている。
【0106】
基板62は、ノズルプレート61よりも厚い単一のシリコン基板で形成されている。基板62は、ノズルプレート61の上に積層されて、ノズルプレート61と一体化されている。
【0107】
ノズル65と同数のインク圧力室66が基板62に形成されている。インク圧力室66は、ノズル65よりも大径な円筒状であり、その一端がノズルプレート61によって塞がれている。ノズル65は、インク圧力室66の中央に同軸状に連通されている。さらに、インク圧力室66は、図示しないインク供給路に接続されている。そのため、画像を形成するためのインクは、インク供給路からインク圧力室66に供給されるようになっている。
【0108】
基板62の上に振動板68が積層されている。振動板68は、例えば電気絶縁性を有するシリコン酸化膜で形成されている。振動板68は、ノズルプレート61と向かい合うようにインク圧力室66の他端を塞いでいる。そのため、振動板68は、インク圧力室66に露出されている。
【0109】
図24に示すように、振動板68の上にインクを加圧するアクチュエータ70が配置されている。アクチュエータ70は、各インク圧力室66に対応するように設けられている。
【0110】
アクチュエータ70は、第1の電極71、圧電体層72および第2の電極73を備えている。第1の電極71は、振動板68の上面に形成されている。圧電体層72は、例えばPZT製であって、第1の電極71の上に積層されて、第1の電極71に電気的に接続されている。第2の電極73は、圧電体層72の上に積層されて、圧電体層72に電気的に接続されている。
【0111】
第1の電極71は、全てのアクチュエータ70の圧電体層72に共通して繋がっており、全ての圧電体層72に一定の電圧を印加する共通電極として作用する。第2の電極73は、全てのアクチュエータ70の圧電体層72に個別に繋がっており、個々の圧電体層72を独立して動作させる個別電極として作用する。
【0112】
第1および第2の電極71,72から圧電体層72の分極の方向と同じ向きの電界が圧電体層72に印加されると、前記第1の実施形態と同様に、アクチュエータ70の伸縮動作に応じて振動板68が厚み方向に振動する。振動板68は、インク圧力室66に露出しているので、インク圧力室66内のインクに圧力変化が生じる。
【0113】
この結果、インク圧力室66内で加圧されたインクの一部がインク滴となってノズル65から用紙Sに向けて吐出される。
【0114】
[第4の実施形態]
図25は、第4の実施形態に係るインクジェットヘッド80を開示している。第4の実施形態のインクジェットヘッド80は、インク圧力室内のインクを加圧するための構成が第3の実施形態と相違している。これ以外のインクジェットヘッド80の構成は、第3の実施形態と同様である。そのため、第4の実施形態において、第3の実施形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0115】
図25に示すように、基板62の上にトッププレート81が積層されている。トッププレート81は、ノズルプレート61と向かい合うようにインク圧力室66の他端を塞いでいる。さらに、トッププレート81は、インク供給口82を有している。インク供給口82は、図示しないインク供給路に接続されている。画像を形成するためのインクは、インク供給路からインク供給口82を経てインク圧力室66に供給される。
【0116】
図25に示すように、トッププレート81は、インク圧力室66に露出された内面81aを有している。ヒータのような発熱素子83がトッププレート81の内面81aに取り付けられている。発熱素子83は、インク圧力室66に充填されたインクに浸かっている。
【0117】
このような構成において、発熱素子83が発熱すると、インク圧力室66内のインクが加熱されて気泡が発生する。この気泡によりインク圧力室66内のインクに圧力変化が生じる。
【0118】
この結果、インク圧力室66内で加圧されたインクの一部がインク滴となってノズル65から用紙Sに向けて吐出される。
【0119】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0120】
以下に、インクジェットヘッドの他の形態に係る発明を付記する。
【0121】
[1]記録媒体にインクを吐出させることで、前記記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドであって、
前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に配列された複数のノズル列を有し、各ノズル列は、前記記録媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルを含み、
前記ノズルは、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に一定のピッチで並んでいるとともに、前記各ノズル列は、複数の前記ノズルが前記記録媒体の搬送方向に対して傾斜するように配列された第1の列と、複数の前記ノズルが前記記録媒体の搬送方向に対して前記第1の列とは逆方向に傾斜するように配列された第2の列と、を含むインクジェットヘッド。
【0122】
[2][1]の記載において、前記各ノズル列の前記第1の列および前記第2の列は、前記記録媒体の搬送方向に沿う直線に対し非対称に配置されたインクジェットヘッド。
【0123】
[3][1]の記載において、インクを加圧して前記ノズルから吐出させる複数のアクチュエータをさらに備えており、前記アクチュエータは、個々のノズルに対応するように設けられたインクジェットヘッド。
【0124】
[4][1]の記載において、前記ノズルは、少なくとも前記記録媒体の幅方向に対応する長さに亘って二次元的に配列されたノズル群を構成したインクジェットヘッド。
【0125】
[5]記録媒体にインクを吐出させるインクジェットヘッドであって、
前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に配列された複数のノズル列を有し、各ノズル列は、前記記録媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルを含み、
前記ノズルは、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に一定のピッチで並んでいるとともに、前記ノズル列毎に前記ノズル列が延びる方向に沿う直線に対し非対称となるように前記記録媒体の搬送方向に互いに間隔を存して配置されたインクジェットヘッド。
【0126】
[6][5]の記載において、インクを加圧して前記ノズルから吐出させる複数のアクチュエータをさらに備えており、前記アクチュエータは、個々のノズルに対応するように設けられたインクジェットヘッド。
【符号の説明】
【0127】
1A,60,80…インクジェットヘッド(第1のインクジェットヘッド)、10…ノズル列、11(11a,11b,11c,11d,11e,11f,11g,11h,11i,11j),65…ノズル、S…記録媒体(用紙)。
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、複数のノズルから記録媒体に向けてインクを吐出するインクジェットヘッドおよび当該インクジットヘッドを備えたインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドは、記録紙のような記録媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルを有している。ノズルから吐出されたインクは、一定の方向に搬送される記録媒体の上に画像を形成する。
【0003】
記録媒体に形成される画像の解像度を高めるため、複数のノズルを一組とする複数のノズル列を、記録媒体の幅方向に配列したインクジェットヘッドが知られている。この種のインクジェットヘッドによると、全てのノズルは、記録媒体の幅方向に一定のピッチで並んでいる。それとともに、各ノズル列を構成するノズルは、記録媒体の搬送方向に対して一定の角度を有する斜めの方向に互いに間隔を存して規則的に配列されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−313623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数のノズルが規則的に配列された従来のインクジェットヘッドによると、一つのノズル列の終端に位置されたノズルと、当該ノズル列と隣り合う他のノズル列の始端に位置されたノズルとは、ノズル列の長さに匹敵する距離だけ記録媒体の搬送方向に離れている。
【0006】
この構成によると、インクジェットヘッドに向かう記録媒体が、ノズル列が延びる方向に傾くことなく適正の姿勢で搬送されていれば、ノズルから吐出されるインクにより所望の解像度の画像を得ることができる。
【0007】
しかしながら、ノズル列が延びる方向に記録媒体が傾いて搬送された場合、隣り合うノズル列の端部の間でノズルのピッチが広がったような状態となるのを避けられない。このため、記録媒体の上に到達したインクのドットの間隔が広くなり、記録媒体のうち隣り合うノズル列の間に対応する箇所に白い筋状の印字むらが発生することがある。
【0008】
画像の上に白色の筋が残ると、この筋が目に留まり易くなり、高画質の画像を得る上での妨げとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、記録媒体にインクを吐出するインクジェットヘッドは、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に配列された複数のノズル列を有している。各ノズル列は、前記記録媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルを含んでいる。
前記ノズルは、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に沿って一定のピッチで並んでいるとともに、前記ノズル列毎に前記記録媒体の搬送方向に互いに間隔を存して配置されている。
前記各ノズル列の一端に位置された少なくとも一つのノズルは、当該ノズルに対し前記一定のピッチで並んだ前記ノズルの配列方向に最も近接された他のノズルよりも前記記録媒体の搬送方向に沿う上流側に設けられている。前記各ノズル列の他端に位置された少なくとも一つのノズルは、当該ノズルに対し前記一定のピッチで並んだ前記ノズルの配列方向に最も近接された他のノズルよりも前記記録媒体の搬送方向に沿う下流側に設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係るインクジェット記録装置を概略的に示す側面図。
【図2】第1の実施形態に係るインクジェットヘッドの平面図。
【図3】第1の実施形態において、複数のノズル列がノズルプレートのノズル面に配列された状態を示すインクジェットヘッドの平面図。
【図4】図3のF4−F4線に沿う断面図。
【図5】図4のF5−F5線に沿う断面図。
【図6】第1の実施形態において、ノズル列を構成する複数のノズル間のピッチを誇張して示すインクジェットヘッドの平面図。
【図7】第1の実施形態において、保護層を構成するベースに振動板を積層した状態を示す断面図。
【図8】第1の実施形態において、振動板の上に第1の電極の基となる薄膜を形成した状態を示す断面図。
【図9】第1の実施形態において、振動板の上に第1の電極を形成した状態を示す断面図。
【図10】第1の実施形態において、圧電体膜で振動板および第1の電極を覆った状態を示す断面図。
【図11】第1の実施形態において、第1の電極の上に圧電体層を形成した状態を示す断面図。
【図12】第1の実施形態において、圧電体層の上に第2の電極の基となる薄膜を形成した状態を示す断面図。
【図13】第1の実施形態において、圧電体層の上に第2の電極を形成した状態を示す断面図。
【図14】第1の実施形態において、第2の電極および振動板の上に電極保護膜を積層した状態を示す断面図。
【図15】第1の実施形態において、振動板の上に第1の基板を積層するとともに、第1の基板にインク圧力室を形成した状態を示す断面図。
【図16】第1の実施形態において、第1の基板が積層された振動板から電極保護膜を除去した状態を示す断面図。
【図17】第1の実施形態において、第2の電極および振動板の上に保護層を積層した状態を示す断面図。
【図18】第1の実施形態において、保護層の上に撥液膜を形成するとともに、保護層および撥液膜にノズルを形成した状態を示す断面図。
【図19】第1の実施形態において、撥液膜の上にノズル保護膜を形成した状態を示す断面図。
【図20】第1の実施形態において、第1の基板の上にインク流通室を有する第2の基板を接着した状態を示す断面図。
【図21】第1の実施形態において、ノズル保護膜を剥離してノズルを露出させた状態を示す断面図。
【図22】複数のノズルを直線状に配列した比較例のインクジェットヘッドを示す平面図。
【図23】第2の実施形態に係るインクジェットヘッドの平面図。
【図24】第3の実施形態に係るインクジェットヘッドの断面図。
【図25】第4の実施形態に係るインクジェットヘッドの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態について、図1ないし図22を参照して説明する。
【0012】
図1は、インクジェット記録装置100の一例を概略的に示している。インクジェット記録装置100は、インクジェット記録装置100の外郭を構成する箱形の筐体101を備えている。図1に示すように、給紙カセット102、排紙トレイ103、搬送路104および保持ドラム105が筐体101の内部に収容されている。
【0013】
給紙カセット102は、記録媒体の一例である用紙Sを収容する要素であって、筐体101の底部に配置されている。用紙Sとしては、例えば無地の用紙、アート紙あるいはOHPシート等を用いることができる。排紙トレイ103は、筐体101の上部に設けられて、筐体101の外に露出されている。
【0014】
搬送路104は、給紙カセット102に連続する上流部104aと、排紙トレイ103に連続する下流部104bとを備えている。給紙カセット102に収容された用紙Sは、ローラ106により一枚づつ搬送路104の上流部104aに送り出される。
【0015】
保持ドラム105は、給紙カセット102と排紙トレイ103との間に配置されている。給紙カセット102から搬送路104の上流部104aに送り出された用紙Sは、保持ドラム105の外周面105aを経由して搬送路104の下流部104bに導かれる。具体的には、保持ドラム105は、その外周面105aに用紙Sを保持した状態で周方向に一定の速度で回転するように構成されている。
【0016】
図1に示すように、保持ドラム105の周囲に、用紙押圧装置108、画像形成装置109、除電装置110およびクリーニング装置111が配置されている。用紙押圧装置108、画像形成装置109、除電装置110およびクリーニング装置111は、保持ドラム105の回転方向に沿う上流から下流に向けて順番に並んでいる。
【0017】
用紙押圧装置108は、搬送路104の上流部104aから保持ドラム105の外周面105aに供給された用紙Sを保持ドラム105の外周面105aに押し付ける。保持ドラム105の外周面105aに押し付けられた用紙Sは、静電力により保持ドラム105の外周面105aに吸着される。
【0018】
画像形成装置109は、保持ドラム105の外周面105aに吸着された用紙Sに画像を形成するための要素である。本実施形態の画像形成装置109は、例えばシアン画像を形成する第1のインクジェットヘッド1A、マゼンダ画像を形成する第2のインクジェットヘッド1B,イエロー画像を形成する第3のインクジェットヘッド1Cおよびブラック画像を形成する第4のインクジェットヘッド1Dを備えている。第1ないし第4のインクジェットヘッド1A,1B,1C,1Dは、保持ドラム105の回転方向に間隔を存して配列されている。保持ドラム105の回転方向は、保持ドラム105の外周面105aに沿って搬送される用紙Sの搬送方向と言い換えることができる。
【0019】
除電装置110は、所望の画像が形成された用紙Sの除電を行うとともに、除電後に用紙Sを保持ドラム105の外周面105aから剥離させる機能を有する。保持ドラム105の外周面105aから剥離された用紙Sは、搬送路104の下流部104bを通って排紙トレイ103に導かれる。
【0020】
クリーニング装置111は、用紙Sが剥離された保持ドラム105の外周面105aを清掃する機能を有する。クリーニング装置111は、除電装置110よりも保持ドラム105の回転方向に沿う下流側において、保持ドラム105の外周面105aに接する位置と、保持ドラム105の外周面105aから離脱する位置との間で移動可能となっている。
【0021】
さらに、本実施形態のインクジェット記録装置100は、用紙Sの表と裏を反転させる反転装置112を備えている。反転装置112は、除電装置110により保持ドラム105の外周面105aから剥離された用紙Sを反転させて搬送路104の上流部104aに戻す。これにより、用紙Sは、表と裏が反転された状態で再び保持ドラム105の外周面105aに供給される。よって、用紙Sの表と裏の両面に所望の画像を形成することができる。
【0022】
画像形成装置109を構成する第1ないし第4のインクジェットヘッド1A,1B,1C,1Dは、基本的に共通の構成を有している。そのため、本実施形態では、第1のインクジェットヘッド1Aの構成を代表して説明する。
【0023】
図2ないし図4に示すように、第1のインクジェットヘッド1Aは、用紙Sの搬送方向と直交する方向に延びる細長い形状を有している。図4に示すように、第1のインクジェットヘッド1Aは、ノズルプレート2とヘッド本体3とで構成されている。ノズルプレート2は、振動板4、保護層5および撥液膜6を有する三層構造である。
【0024】
振動板4は、例えば電気絶縁性を有するシリコン酸化膜で形成されている。振動板4の厚さは、概ね10μm以下である。第1の実施形態では、シリコン酸化膜は、熱酸化により基板温度を約1000℃として形成した。シリコン酸化膜の製法としては、CVD(化学的気相成長法)、RFマグネトロンスパッタリング法を用いることができる。
【0025】
保護層5は、振動板4に積層されている。保護層5は、例えばポリイミドのような樹脂材料で形成されている。保護層5の厚さは、6μmである。第1の実施形態では、保護層5は、例えばスピンコーティングにより形成されている。保護層5の材料としては、例えばポリ尿素のような樹脂材料、SiO2のような酸化膜を用いることも可能である。この場合、保護層5の膜厚は、概ね3〜20μmである。
【0026】
撥液膜6は、保護層5に積層されている。撥液膜6は、例えばフッ素樹脂のようなインクをはじく特性を有する材料で形成されている。第1の実施形態では、撥液膜6は、例えばスピンコーティングにより形成されている。撥液膜6の膜厚は、概ね0.1〜5μm、好ましくは1μmである。撥液膜6は、ノズルプレート2の表面となるノズル面7を構成する。ノズル面7は、用紙Sの被印字面と向かい合うように第1のインクジェットヘッド1Aの外に露出されている。
【0027】
図2に示すように、複数のノズル列10がノズルプレート2に形成されている。ノズル列10は、矢印Xで示す第1のインクジェットヘッド1Aの長手方向に間隔を存して一列に並んでいる。第1のインクジェットヘッド1Aの長手方向とは、矢印Yで示す用紙Sの搬送方向と直交する方向のことであり、用紙Sの幅方向と一致する。
【0028】
各ノズル列10は、複数のノズル11を有している。ノズル11は、ノズルプレート2を厚み方向に貫通する孔である。ノズル11の直径は、例えば20μmである。ノズル11は、ノズルプレート2のノズル面7およびノズル面7の反対側に位置された振動板4の表面4aに開口されている。
【0029】
ヘッド本体2は、第1の基板12および第2の基板13を有している。第1の基板12は、例えば単一のシリコン基板で形成されている。第1の基板12の厚さは、例えば675μmである。第1の基板12は、振動板4の表面4aに積層されて、振動板4と一体化されている。
【0030】
ノズル11と同数のインク圧力室14が第1の基板12に形成されている。インク圧力室14は、例えば直径が250μmの円筒状である。ノズル圧力室14の一方の開口端は振動板4によって塞がれている。
【0031】
言い換えると、振動板4は、インク圧力室14に露出されている。インク圧力室14は、ノズル11に対応するように設けられているとともに、各インク圧力室14の中央に各ノズル11が連通されている。
【0032】
第2の基板13は、ステンレスのような金属材料で構成されている。第2の基板13の厚さは、例えば4mmである。第2の基板13は、第1の基板12に積層されているとともに、例えばエポキシ系の接着剤を用いて第1の基板12に固定されている。
【0033】
複数のインク流通室15が第2の基板13の内部に形成されている。インク流通室15は、第2の基板13の厚み方向に沿う深さが例えば2mmの円筒状である。画像形成用のインクは、第1のインクジェットヘッド1Aの外部からインク供給口16を通じてインク流通室15に供給される。
【0034】
インク流通室15は、連通口17を通じてインク圧力室14に通じている。連通口17はノズル11よりも小径な孔である。連通口17は、ノズル11と同軸となるように第2の基板13に形成されている。インク供給口16からインク流通室15に分配されたインクは、連通口17を通じてインク圧力室14に供給される。
【0035】
第1の実施形態では、インク供給口16は、インク流通室15の中央に位置されている。さらに、連通口17にしてもインク流通室15の中央およびインク圧力室14の中央に位置されている。この結果、インクが複数のインク流通室15から複数のインク圧力室14に供給される際の流路抵抗が均等化されて、インク圧力室14に供給されるインク量のばらつきが抑制されている。
【0036】
第2の基板13は、ステンレスに限らず、例えばアルミニウム合金、チタンのようなその他の金属材料で形成してもよい。加えて、第2の基板13を形成する材料は金属に限らない。例えば、ノズルプレート2および第1の基板12との膨張係数の差異を考慮して、インク吐出圧力に影響を及ぼさない範囲内で他の材料を用いることができる。
【0037】
具体的には、セラミック材料としてのアルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウムなどの窒化物・酸化物を用いることができる。さらに、例えばABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材料を用いることができる。
【0038】
図3および図4に示すように、第1の実施形態のノズルプレート2は、インクを加圧する複数のアクチュエータ20を内蔵している。アクチュエータ20は、ノズル11毎に設けられている。
【0039】
アクチュエータ20は、ノズル11を同軸状に取り囲むように振動板4の上にリング状に形成されているとともに、保護層5で覆われている。各アクチュエータ20は、圧電体層21、第1の電極22および第2の電極23を備えている。
【0040】
圧電体層21は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)で構成されている。圧電体層21の材料としては、PTO(PbTiO3:チタン酸鉛)、PMNT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)、ZnO、AIN等を用いることも可能である。
【0041】
圧電体層21は、例えばRFマグネトロンスパッタリング法により基板温度350℃で形成されている。圧電体層21は、その膜厚が3μm、直径が250μmである。第1の実施形態では、圧電体層21を形成した後、圧電体層21に圧電性を付与するために、500℃で3時間に亘る熱処理を施している。これにより、圧電体層21は、良好な圧電性能を得ることができる。圧電体層21が形成されると、圧電体層21の厚さ方向に沿う分極が発生する。
【0042】
圧電体層21の他の製法としては、CVD(化学的気相成長法)、ゾルゲル法、AD法(エアロゾルデポジション法)、水熱合成法等を用いることができる。この場合、圧電体層21の厚さは、概ね0.1μmから10μmの範囲となる。
【0043】
第1の電極22および第2の電極23は、圧電体層21を駆動するための信号を伝送するための要素であって、例えばPt(白金)/Ti(チタン)の薄膜で形成されている。薄膜は、例えばスパッタリング法により形成され、その膜厚が0.5μmである。
【0044】
第1の電極22および第2の電極23を形成する他の材料としては、Ni(ニッケル)、CU(銅)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Au(金)を用いることができるとともに、前記各種の金属を積層することも可能である。
第1の電極22および第2の電極23を形成する方法としては、例えば蒸着、鍍金を用いることも可能である。この場合、第1の電極22および第2の電極23の望ましい膜厚は、0.01〜1μmである。
【0045】
図4に示すように、第1の電極22は、振動板4に形成されている。第1の電極22は、夫々電極部分24を備えている。電極部分24は、圧電体層21よりも小径のリング形である。電極部分24は、圧電体層21で同軸状に覆われているとともに、圧電体層21に電気的に接続されている。さらに、ノズル11は、電極部分24の中央部および圧電体層21の中央部を同軸状に貫通している。
【0046】
図3に示すように、アクチュエータ20の第1の電極22は、基幹配線25から分岐された複数の中継配線26を介して電気的に接続されている。したがって、第1の電極22は、全ての圧電体層21に共通して繋がっており、全ての圧電体層21に一定の電圧を印加する共通電極として作用する。第1の実施形態によると、基幹配線25および中継配線26は、振動板4に形成されて保護層5で覆われている。基幹配線25の配線幅は、概ね100μmである。
【0047】
図4に示すように、第2の電極23は、夫々電極部分28と配線部29とを備えている。電極部分28は、圧電体層21よりも小径のリング形である。電極部分28は、圧電体層21に同軸状に積層されて、圧電体層21に電気的に接続されている。したがって、圧電体層21は、第1の電極22の電極部分24と第2の電極23の電極部分28との間で挟み込まれている。さらに、ノズル11は、電極部分28の中央部を貫通している。
【0048】
第2の電極23の配線部29は、電極部分28の外周縁から振動板4に沿ってアクチュエータ20の外に互いに間隔を存して引き出されている。
【0049】
そのため、第2の電極23は、圧電体層21に個別に繋がっており、個々の圧電体層21を独立して動作させる個別電極として作用する。第1の実施形態によると、第2の電極23の配線部29は、所定の導体パターンを形成しているとともに、電極部分28と一緒に保護層5で覆われている。配線部29は、アクチュエータ20の周囲を通して配線するため、その配線幅が概ね15μmである。
【0050】
第1の電極22に電気的に接続された基幹配線25および第2の電極23の配線部29は、第1のインクジェットヘッド1Aの外部に導かれて、テープキャリアパッケージに電気的に接続されている。テープキャリアパッケージは、第1のインクジェットヘッド1Aを駆動するための駆動回路を実装している。
【0051】
駆動回路は、各アクチュエータ20の第1の電極22および第2の電極23に駆動電圧を供給する。圧電体層21の分極の方向と同じ向きの電界が第1および第2の電極22,23から圧電体層21に印加されると、アクチュエータ20が電界の向きと直交する方向に伸縮を繰り返そうとする。ここで、電界の向きと直交する方向とは、振動板4の表面4aに沿う方向のことを指している。
【0052】
アクチュエータ20は、振動板4の上に形成されているので、振動板4がアクチュエータ20の伸縮を妨げる働きをする。このため、アクチュエータ20と振動板4との接触部分に応力が発生し、発生した応力は振動板4を厚み方向に撓むように変形させる。
【0053】
この結果、アクチュエータ20が電界の向きと直交する方向に伸縮を繰り返すことで、インク圧力室14に露出された振動板4が厚み方向に振動し、インク圧力室14内のインクの圧力を高める。したがって、インク圧力室14内で加圧されたインクの一部がインク滴となってノズル11から用紙Sに向けて吐出される。
【0054】
図3は、ノズルプレート2のノズル面7に配列されたノズル列10を部分的に拡大して示している。第1の実施形態によると、ノズル列10は、用紙Sの搬送方向(Y方向)に延びているとともに、用紙Sの搬送方向と直交するノズルプレート2の長手方向(X方向)に沿って120列に亘って配置されている。
【0055】
各ノズル列10は、夫々第1ないし第10のノズル11a,11b,11c,11d,11e,11f,11g,11h,11i,11jを有している。各ノズル列10を構成する10個のノズル11a〜11jは、ノズル列10毎に用紙Sの搬送方向(Y方向)に互いに間隔を存して配置されている。
【0056】
したがって、第1の実施形態のノズルプレート2は、1200個のノズル11a〜11jを有している。1200個のノズル11a〜11jは、少なくとも用紙Sの幅方向に沿う長さに亘って二次元的にマトリクス状に配列されたノズル群30を構成している。
【0057】
図3に示すように、ノズル面7に開口された全てのノズル11a〜11jは、所望の解像度を得るために、ノズルプレート2の長手方向(X方向)に一定のピッチPで並べられている。ノズル11a〜11jのピッチPは、各ノズルに対応するインク圧力室14が、隣り合う他のノズルに対応するインク圧力室14と干渉することがない値に定められている。
【0058】
さらに、各ノズル列10を構成する第1ないし第10のノズル11a〜11jは、ノズル列10が延びる方向に沿う直線Zに対し非対称となるようにランダムに配置されている。
【0059】
具体的に述べると、図6は、第1ないし第10のノズル11a〜11jのピッチPを誇張した状態で示している。第1のノズル11aは、ノズル列10の一端に位置され、第10のノズル11jは、ノズル列10の他端に位置されている。
【0060】
第1の実施形態によると、各ノズル列10にあっては、ノズル列10の一端部に位置された第1および第2のノズル11a,11bが、第2のノズル11bに対しノズル配列方向(X方向)に所定のピッチPで最も近接された第3のノズル11cよりも用紙Sの搬送方向に沿う上流側にずれた位置に設けられている。
【0061】
加えて、各ノズル列10にあっては、ノズル列10の他端部に位置された第9および第10のノズル11i,11jが、第9のノズル11iに対しノズル配列方向(X方向)に所定のピッチPで最も近接された第8のノズル11hよりも用紙Sの搬送方向に沿う下流側にずれた位置に設けられている。
【0062】
この結果、図6に最もよく示されるように、第3ないし第8のノズル11c〜11hは、前記直線Zに沿うように略一列に並んでいる。第1および第2のノズル11a,11bおよび第9および第10のノズル11i,11jは、前記直線Zから外れている。 このことから、第1ないし第10のノズル11a〜11jは、前記直線Zに対し非対称となるように不規則に配列されている。
【0063】
第1の実施形態では、前記基幹配線25が120列に亘るノズル列10の第5のノズル11eと第6のノズル11fとの間を通してノズルプレート2の長手方向に配線されている。それとともに、前記基幹配線25は、隣り合うノズル列10の間では、一方のノズル列10の第10のノズル11jと他方のノズル列10の第1のノズル11aとの間を通っている。
【0064】
したがって、各ノズル列10においては、第5のノズル11eと第6のノズル11fとの間に基幹配線25を通すスペースを確保するため、用紙Sの搬送方向(Y方向)に沿う第5のノズル11eと第6のノズル11fとの間の配置間隔L1がノズル列10の中で最も大きくなっている。
【0065】
第1の実施形態によると、例えば第1ないし第10のノズル11a〜11jの直径を20μm、第1ないし第10のノズル11a〜11jのピッチPを42μm、インク圧力室14の直径を250μm、所定のピッチPで最も近接されたノズルに付随するインク圧力室14の間の間隔を100μmに設定している。第1ないし第10のノズル11a〜11jを有するノズル列10をX方向に120列に亘って配置した場合、ノズルプレート2は、X方向の長さが52.5mm、Y方向の長さが5.25mmの大きさとなる。この場合、用紙Sの搬送方向に沿う第5のノズル11eと第6のノズル11fとの間の配置間隔L1は、800μmとなる。
【0066】
第1の実施形態では、所定の解像度を得るために1インチあたり600個のノズルが配置されることを想定してノズルのピッチPを設定している。ノズルのピッチPは、解像度の値に応じて適宜変化する。このため、ノズルのピッチPは42μmに限定されないことは勿論である。
【0067】
次に、前記のような構成を有する第1のインクジェットヘッド1Aを製造する手順の一例について、図7ないし図21を参照して簡単に説明する。
【0068】
まず、図7に示すように、第1の基板12の基となるベース40に振動板4を積層した積層体41を形成する。この後、振動板4に例えばフォトリソグラフィーおよびドライエッチングを施すことで、開口部42を形成する。
【0069】
引き続いて、図8に示すように、振動板4の上に白金又はチタンの薄膜43を例えばスパッタリング法により形成する。
【0070】
さらに、図9に示すように、薄膜43に例えばフォトリソグラフィーおよびドライエッチングを施すことで、振動板4の上にリング状の第1の電極22を形成する。
【0071】
この後、図10に示すように、振動板4および第1の電極22の上にPZT製の圧電体膜44を例えばスパッタリング法により形成する。引き続いて、圧電体膜44に例えばフォトリソグラフィーおよびウエットエッチングを施すことで、振動板4の上に第1の電極22を覆う圧電体層21を形成する。(図11を参照)
この後、図12に示すように、振動板4および圧電体層21の上に白金又はチタンの薄膜45を例えばCVD法又はスパッタリング法により形成する。引き続いて、薄膜45に例えばフォトリソグラフィーおよびドライエッチングを施すことで、振動板4および圧電体層21の上にリング状の第2の電極23を形成する。この結果、振動板4の上にアクチュエータ20が形成される。(図13を参照)
この後、図14に示すように、振動板4の上に電極保護膜46を形成する。これにより、アクチュエータ20が電極保護膜46で被覆された中間成形物47が形成される。
【0072】
この後、図15に示すように中間成形物47を上下に反転させて、ベース40を上向きとする。この状態で、ベース40に例えばDeep Reactive Ion Etching(シリコン深堀エッチング)を施すことで、ベース40にインク圧力室14を形成する。
【0073】
引き続いて、図16に示すように、再び中間成形物47を上下に反転させるとともに、電極保護膜46を除去する。これにより、振動板4およびアクチュエータ20が露出される。
【0074】
この後、図17に示すように、振動板4の上に保護層5となるノズル保護膜48を例えばフォトリソグラフィーにより形成し、このノズル保護膜48でアクチュエータ20を被覆する。さらに、ノズル保護膜48の上に撥液膜6を例えば蒸着等の手段により積層する。この結果、アクチュエータ20を内蔵したノズルプレート2が形成される。
【0075】
この後、図18に示すように、ノズル保護膜48および撥液膜6に例えばドライエッチングおよびアッシングを施すことで、ノズル保護膜48および撥液膜6を貫通する貫通孔49を形成する。貫通孔49は、振動板4の開口部42に同軸状に連通することでノズル11を構成する。
【0076】
引き続いて、図19に示すように、撥液膜6の上にノズル保護膜49aを積層し、ノズル保護膜49aでノズル11の開口端およびノズル面7を保護する。
【0077】
この後、図20に示すように中間成形物47を再び上下に反転させ、インク圧力室14が形成されたベース40を上向きとする。この状態で、予めインク流通室15、インク供給口16および連通口17が形成された第2の基板13を第1の基板12の上に接着する。これにより、第1の基板12と第2の基板13とが一体化されたヘッド本体3が形成される。
【0078】
最後に、ノズル保護膜49aを撥液膜6から剥離させてノズル面7を露出させるとともに、中間成形物47を予め決められた大きさに裁断する。このことにより、一連の第1のインクジェットヘッド1Aの成形工程が完了する。
【0079】
第1の実施形態によると、ノズルプレート2の長手方向(X方向)に沿って配列されたノズル列10は、夫々ノズル列10の一端部に位置された第1および第2のノズル11a,11bが、第2のノズル11bに対しノズル配列方向に所定のピッチPで最も近接された第3のノズル11cよりも用紙Sの搬送方向に沿う上流側に設けられている。
【0080】
さらに、ノズル列10の他端部に位置された第9および第10のノズル11i,11jが、第9のノズル11iに対しノズル配列方向に所定のピッチPで最も近接された第8のノズル11hよりも用紙Sの搬送方向に沿う下流側に設けられている。
【0081】
この結果、図6に示すように、ノズル列10の第3ないし第8のノズル11c〜11hは、前記直線Zに沿うように略一列に並んでいるのに対し、第1および第2のノズル11a,11bおよび第9および第10のノズル11i,11jは、前記直線Zから外れている。
このように第1ないし第10のノズル11a〜11jを配置することで、X方向に一定のピッチPで隣り合うノズルのうち、用紙Sの搬送方向に沿う配置間隔L1が最大となる第5のノズル11eと第6のノズル11fとの間の距離を、最大でも800μmに抑えることが可能となる。
【0082】
一方、図22は、比較例としてのインクジェットヘッド1を示している。比較例のインクジェットヘッド1では、ノズル列10を構成する第1ないし第10のノズル11a〜11jが用紙Sの搬送方向に対して一定の角度αを有する斜めの方向に互いに間隔を存して直線状に規則的に配列されている。
【0083】
この比較例において、用紙Sの搬送方向と直交するX方向に沿う第1ないし第10のノズル11a〜11jのピッチP、ノズル11a〜11jの直径およびインク圧力室14の直径等は、第1の実施形態と同様である。
【0084】
図22から明らかなように、一つのノズル列10の他端に位置する第10のノズル11jと、隣り合う他のノズル列10の一端に位置する第1のノズル11aとは、ノズル列10の長さに匹敵する距離だけ用紙Sの搬送方向(Y方向)に離れている。
【0085】
この比較例では、一方のノズル列10の他端に位置する第10のノズル11jと、隣り合う他方のノズル列10の一端に位置する第1のノズル11aとの間のY方向に沿う配置間隔L2が3500μmとなっている。
【0086】
このような比較例によると、第1ないし第10のノズル11a〜11jを直線状に規則的に配列したことで、隣り合うノズル列10の間に、用紙Sの搬送方向に沿うノズルの配置間隔L2が局部的に広がった箇所が形成される。
【0087】
この結果、例えばノズル列10が延びる方向に用紙Sが傾いて搬送された場合、一方のノズル列10の他端に位置する第10のノズル11jと、隣り合う他方のノズル列10の一端に位置する第1のノズル11aとの間のピッチPが見かけ上拡張された状態となる。
【0088】
そのため、例えば隣り合う二つのノズル列10から用紙Sにインクを吐出した場合に、用紙Sに到達したインクのドットの間隔が局部的に広がるのを避けられない。よって、用紙Sに形成された画像上にインクの抜けに伴うが白い筋が発生することがある。
【0089】
これに対し、第1の実施形態に係る第1のインクジェットヘッド1Aによれば、ノズル列10を構成する第1ないし第10のノズル11a〜11jを前記のような配列とすることで、所定のピッチPで隣り合う第1ないし第10のノズル11a〜11jの用紙Sの搬送方向に沿う配置間隔を可能な限り小さく抑えることができる。
【0090】
第1の実施形態によると、基幹配線25が第5のノズル11eと第6のノズル11fとの間を通過するにも拘らず、ノズル列10の中で最も大きくなる第5のノズル11eと第6のノズル11fとの間の配置間隔L1が800μmとなる。よって、前記比較例と比較して用紙Sの搬送方向に沿うノズルの最大配置間隔を大幅に縮小することができる。
【0091】
この結果、たとえ用紙Sがノズル列10が延びる方向に傾いたとしても、用紙Sの上に到達したインクのドットの間隔が局部的に広がるのを防止できる。したがって、画像の上に白い筋状の印字むらが生じ難くなり、所望の解像度を有する高画質の画像を得ることができる。
【0092】
第1の実施形態では、10個のノズルによって構成されるノズル列を、用紙の搬送方向と直交するX方向に120列に亘って配置している。しかしながら、ノズル列の数および一つのノズル列が有するノズルの数(行数)は、第1の実施形態に特定されるものではなく、インクジェットヘッドに要求される画像の解像度に応じて適宜変更することができる。
【0093】
[第2の実施形態]
図23は、第2の実施形態を開示している。第2の実施形態は、用紙の搬送方向に沿うノズル列の形状が第1の実施形態と相違している。これ以外の第1のインクジェットヘッド1Aの基本的な構成は、第1の実施形態と同様である。そのため、第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0094】
図23は、複数のノズル列50がノズルプレート2のノズル面7に配列された状態を示している。第2の実施形態によると、ノズル列50は、用紙Sの搬送方向(Y方向)に延びているとともに、用紙Sの搬送方向と直交するノズルプレート2の長さ方向(X方向)に沿って複数列に亘って配置されている。
【0095】
各ノズル列50は、第1の列51と第2の列52とを備えている。第1の列51は、例えば10個のノズル53aを有している。第2のノズル列52は、例えば10個のノズル53bを有している。全てのノズル53a,53bは、所望の解像度を得るために、ノズルプレート2の長さ方向(X方向)に所定のピッチPで並んでいる。ノズル53a,53bのピッチPは、各ノズル53a,53bに付随するインク圧力室14が、所定のピッチPで隣り合うノズル53a,53bのインク圧力室14と干渉することがない値に定められている。
【0096】
第1の列51を構成する10個のノズル53aは、用紙Sの搬送方向に沿う直線Rに対して所定の角度θ1だけ傾斜する方向に互いに間隔を存して直線状に配列されている。第2の列52を構成する10個のノズル53bは、前記直線Rに対して第1の列51とは逆方向に所定の角度θ2だけ傾斜する方向に互いに間隔を存して直線状に配列されている。
【0097】
言い換えると、第1の列51のノズル53aおよび第2の列52のノズル53bは、夫々用紙Sの搬送方向(Y方向)に互いに間隔を存して配置されている。
【0098】
この結果、各ノズル列50の第1および第2の列51,52は、ノズル面7を平面的に見た場合に、用紙Sの搬送方向に沿う直線Rに対し非対称となるようにV字状に配置されている。
【0099】
よって、第2の実施形態に係る第1のインクジェットヘッド1Aにしても、複数のノズル列50のノズル53a,53bは、少なくとも用紙Sの幅方向に沿う長さに亘って二次元的にマトリクス状に配列されたノズル群55を構成している。
【0100】
さらに、第2の実施形態によると、例えばノズル53a,53bの直径を20μm、ノズル53a,53bのピッチPを42μm、インク圧力室14の直径を250μm、所定のピッチPで最も接近されたノズル53a,53bに付随するインク圧力室14の間隔を100μmに設定するとともに、20個のノズル53a,53bをV字状に配列したノズル列50をX方向に120列に亘って配置した場合、ノズルプレート2は、X方向の長さが52.5mm、Y方向の長さが7.2mmの大きさとなる。
【0101】
さらに、この場合、ノズル列50の第1の列51および第2の列52において、用紙Sの搬送方向に隣り合うノズル53a,53bの配置間隔L3は、600μmとなる。
【0102】
第2の実施形態によると、各ノズル列50は、用紙Sの搬送方向に沿う直線Rに対し非対称となるようにV字状に配置された第1および第2の列51,52を有している。そのため、第1の実施形態と比較した場合、ノズルプレート2は、用紙Sの搬送方向(Y方向)に沿う寸法が増加するものの、所定のピッチPで隣り合うノズル53a,53bに関しては、用紙Sの搬送方向に沿うノズル53の配置間隔L3を第1の実施形態よりも小さくすることができる。
【0103】
このため、たとえ用紙Sが直線Rに対し傾いたとしても、用紙Sの上に到達したインクのドットの間隔が局部的に広がるのを防止できる。よって、画像の上に白い筋状の印字むらが生じ難くなり、所望の解像度を有する高画質の画像を得ることができる。
【0104】
[第3の実施形態]
図24は、第3の実施形態に係るインクジェットヘッド60を開示している。第3の実施形態のインクジェットヘッド60は、主にインクを加圧する部分の構成が第1の実施形態と相違している。
【0105】
図24に示すように、インクジェットヘッド60は、ノズルプレート61および基板62を備えている。ノズルプレート61は、例えば単一のシリコン基板63と、シリコン基板63の表面を覆う撥液膜64とで構成されている。ノズルプレート61は、複数のノズル65(一つのみ図示)を備えている。ノズル65は、ノズルプレート61を厚み方向に貫通するとともに、例えば前記第1の実施形態あるいは第2の実施形態と同様のパターンでノズルプレート61に配列されている。
【0106】
基板62は、ノズルプレート61よりも厚い単一のシリコン基板で形成されている。基板62は、ノズルプレート61の上に積層されて、ノズルプレート61と一体化されている。
【0107】
ノズル65と同数のインク圧力室66が基板62に形成されている。インク圧力室66は、ノズル65よりも大径な円筒状であり、その一端がノズルプレート61によって塞がれている。ノズル65は、インク圧力室66の中央に同軸状に連通されている。さらに、インク圧力室66は、図示しないインク供給路に接続されている。そのため、画像を形成するためのインクは、インク供給路からインク圧力室66に供給されるようになっている。
【0108】
基板62の上に振動板68が積層されている。振動板68は、例えば電気絶縁性を有するシリコン酸化膜で形成されている。振動板68は、ノズルプレート61と向かい合うようにインク圧力室66の他端を塞いでいる。そのため、振動板68は、インク圧力室66に露出されている。
【0109】
図24に示すように、振動板68の上にインクを加圧するアクチュエータ70が配置されている。アクチュエータ70は、各インク圧力室66に対応するように設けられている。
【0110】
アクチュエータ70は、第1の電極71、圧電体層72および第2の電極73を備えている。第1の電極71は、振動板68の上面に形成されている。圧電体層72は、例えばPZT製であって、第1の電極71の上に積層されて、第1の電極71に電気的に接続されている。第2の電極73は、圧電体層72の上に積層されて、圧電体層72に電気的に接続されている。
【0111】
第1の電極71は、全てのアクチュエータ70の圧電体層72に共通して繋がっており、全ての圧電体層72に一定の電圧を印加する共通電極として作用する。第2の電極73は、全てのアクチュエータ70の圧電体層72に個別に繋がっており、個々の圧電体層72を独立して動作させる個別電極として作用する。
【0112】
第1および第2の電極71,72から圧電体層72の分極の方向と同じ向きの電界が圧電体層72に印加されると、前記第1の実施形態と同様に、アクチュエータ70の伸縮動作に応じて振動板68が厚み方向に振動する。振動板68は、インク圧力室66に露出しているので、インク圧力室66内のインクに圧力変化が生じる。
【0113】
この結果、インク圧力室66内で加圧されたインクの一部がインク滴となってノズル65から用紙Sに向けて吐出される。
【0114】
[第4の実施形態]
図25は、第4の実施形態に係るインクジェットヘッド80を開示している。第4の実施形態のインクジェットヘッド80は、インク圧力室内のインクを加圧するための構成が第3の実施形態と相違している。これ以外のインクジェットヘッド80の構成は、第3の実施形態と同様である。そのため、第4の実施形態において、第3の実施形態と同一の構成部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0115】
図25に示すように、基板62の上にトッププレート81が積層されている。トッププレート81は、ノズルプレート61と向かい合うようにインク圧力室66の他端を塞いでいる。さらに、トッププレート81は、インク供給口82を有している。インク供給口82は、図示しないインク供給路に接続されている。画像を形成するためのインクは、インク供給路からインク供給口82を経てインク圧力室66に供給される。
【0116】
図25に示すように、トッププレート81は、インク圧力室66に露出された内面81aを有している。ヒータのような発熱素子83がトッププレート81の内面81aに取り付けられている。発熱素子83は、インク圧力室66に充填されたインクに浸かっている。
【0117】
このような構成において、発熱素子83が発熱すると、インク圧力室66内のインクが加熱されて気泡が発生する。この気泡によりインク圧力室66内のインクに圧力変化が生じる。
【0118】
この結果、インク圧力室66内で加圧されたインクの一部がインク滴となってノズル65から用紙Sに向けて吐出される。
【0119】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0120】
以下に、インクジェットヘッドの他の形態に係る発明を付記する。
【0121】
[1]記録媒体にインクを吐出させることで、前記記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドであって、
前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に配列された複数のノズル列を有し、各ノズル列は、前記記録媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルを含み、
前記ノズルは、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に一定のピッチで並んでいるとともに、前記各ノズル列は、複数の前記ノズルが前記記録媒体の搬送方向に対して傾斜するように配列された第1の列と、複数の前記ノズルが前記記録媒体の搬送方向に対して前記第1の列とは逆方向に傾斜するように配列された第2の列と、を含むインクジェットヘッド。
【0122】
[2][1]の記載において、前記各ノズル列の前記第1の列および前記第2の列は、前記記録媒体の搬送方向に沿う直線に対し非対称に配置されたインクジェットヘッド。
【0123】
[3][1]の記載において、インクを加圧して前記ノズルから吐出させる複数のアクチュエータをさらに備えており、前記アクチュエータは、個々のノズルに対応するように設けられたインクジェットヘッド。
【0124】
[4][1]の記載において、前記ノズルは、少なくとも前記記録媒体の幅方向に対応する長さに亘って二次元的に配列されたノズル群を構成したインクジェットヘッド。
【0125】
[5]記録媒体にインクを吐出させるインクジェットヘッドであって、
前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に配列された複数のノズル列を有し、各ノズル列は、前記記録媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルを含み、
前記ノズルは、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に一定のピッチで並んでいるとともに、前記ノズル列毎に前記ノズル列が延びる方向に沿う直線に対し非対称となるように前記記録媒体の搬送方向に互いに間隔を存して配置されたインクジェットヘッド。
【0126】
[6][5]の記載において、インクを加圧して前記ノズルから吐出させる複数のアクチュエータをさらに備えており、前記アクチュエータは、個々のノズルに対応するように設けられたインクジェットヘッド。
【符号の説明】
【0127】
1A,60,80…インクジェットヘッド(第1のインクジェットヘッド)、10…ノズル列、11(11a,11b,11c,11d,11e,11f,11g,11h,11i,11j),65…ノズル、S…記録媒体(用紙)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体にインクを吐出させることで、前記記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドであって、
前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に配列された複数のノズル列を有し、各ノズル列は、前記記録媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルを含み、
前記ノズルは、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に沿って一定のピッチで並んでいるとともに、前記ノズル列毎に前記記録媒体の搬送方向に互いに間隔を存して配置され、
前記各ノズル列の一端に位置された少なくとも一つのノズルは、当該ノズルに対し前記一定のピッチで並んだ前記ノズルの配列方向に最も近接された他のノズルよりも前記記録媒体の搬送方向に沿う上流側に設けられ、
前記各ノズル列の他端に位置された少なくとも一つのノズルは、当該ノズルに対し前記一定のピッチで並んだ前記ノズルの配列方向に最も近接された他のノズルよりも前記記録媒体の搬送方向に沿う下流側に設けられたインクジェットヘッド。
【請求項2】
請求項1の記載において、インクを加圧して前記ノズルから吐出させる複数のアクチュエータをさらに備えており、前記アクチュエータは、個々のノズルに対応するように設けられたインクジェットヘッド。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記アクチュエータは、互いに間隔を存して並んでいるインクジェットヘッド。
【請求項4】
請求項1の記載において、前記各ノズル列を構成する前記複数のノズルは、前記ノズル列が延びる方向に沿う直線に対し非対称となるように配列されたインクジェットヘッド。
【請求項5】
請求項1の記載において、前記ノズルは、少なくとも前記記録媒体の幅方向に対応する長さに亘って二次元的に配列されたノズル群を構成したインクジェットヘッド。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載されたインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置。
【請求項1】
記録媒体にインクを吐出させることで、前記記録媒体に画像を形成するインクジェットヘッドであって、
前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に配列された複数のノズル列を有し、各ノズル列は、前記記録媒体に向けてインクを吐出する複数のノズルを含み、
前記ノズルは、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向に沿って一定のピッチで並んでいるとともに、前記ノズル列毎に前記記録媒体の搬送方向に互いに間隔を存して配置され、
前記各ノズル列の一端に位置された少なくとも一つのノズルは、当該ノズルに対し前記一定のピッチで並んだ前記ノズルの配列方向に最も近接された他のノズルよりも前記記録媒体の搬送方向に沿う上流側に設けられ、
前記各ノズル列の他端に位置された少なくとも一つのノズルは、当該ノズルに対し前記一定のピッチで並んだ前記ノズルの配列方向に最も近接された他のノズルよりも前記記録媒体の搬送方向に沿う下流側に設けられたインクジェットヘッド。
【請求項2】
請求項1の記載において、インクを加圧して前記ノズルから吐出させる複数のアクチュエータをさらに備えており、前記アクチュエータは、個々のノズルに対応するように設けられたインクジェットヘッド。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記アクチュエータは、互いに間隔を存して並んでいるインクジェットヘッド。
【請求項4】
請求項1の記載において、前記各ノズル列を構成する前記複数のノズルは、前記ノズル列が延びる方向に沿う直線に対し非対称となるように配列されたインクジェットヘッド。
【請求項5】
請求項1の記載において、前記ノズルは、少なくとも前記記録媒体の幅方向に対応する長さに亘って二次元的に配列されたノズル群を構成したインクジェットヘッド。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載されたインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
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【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2013−75510(P2013−75510A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−161718(P2012−161718)
【出願日】平成24年7月20日(2012.7.20)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月20日(2012.7.20)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
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