説明

インクジェットヘッド及び印字装置

【課題】印字開始までの所要時間を短縮することが可能なインクジェットヘッド及び印字装置を提供する。
【解決手段】絶縁基板11と、絶縁基板11の一方の面上において第1方向Xに沿って所定の間隔をおいて並び第1方向Xに交差する第2方向Yに沿って延出した圧電部材13と、圧電部材13に接着されるとともにインク圧力室14に連通するノズル穴21を有するノズルプレート20と、絶縁基板11、隣り合う圧電部材13、及び、ノズルプレート20で囲まれたインク圧力室14と、を備え、インク圧力室14は、第2方向Yに直交する面内において、ノズルプレート20側の第1幅W1が絶縁基板11側の第2幅W2よりも広い断面形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インクジェットヘッド及び印字装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、インクジェットヘッドのインク圧力室内に供給されたインクを加圧することにより、そのインクをノズル穴からインク滴として吐出させ、インクジェットヘッドから一定の距離にある記録媒体にインク滴を付着させて画像を形成している。
【0003】
カラー印刷タイプのインクジェット記録装置で用いられているインクとしては、一般にシアン(Cyan)、マゼンタ(Magenta)、イエロー(Yellow)、及び、ブラック(Black)である場合が多い。近年、インクジェットシステムが産業用途、特に電子部品実装基板の印刷に応用されるようになり、使用するインクに白インクが用いられる場合もある。
【0004】
白インクは、顔料として、例えば、酸化チタンを用いたものである。このような白インクは、通常のシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックなどの色インクに比べて、顔料の粒径が大きく、また、顔料の比重も大きい。また、この白インクにおいては、隠蔽率を高めようとするため、インク内に多くの顔料が混入されている。このため、インクが流れる経路内やインクジェットヘッドにおいて、インクがある程度の時間静置されると、顔料の沈降が起き、種々の不具合の原因となる。例えば、インクの濃度バランスが崩れ、濃度増加や顔料の凝集が発生し、インクジェットヘッドのノズルの目詰まりによる不吐出という問題を起こすおそれがある。
【0005】
そこで、インクジェットヘッドを介してインクを循環する構造とし、インクタンク内でインクを攪拌することで、インクの経路内及びインクジェットヘッドにおける顔料の沈降を抑制する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−246854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本実施形態の目的は、印字開始までの所要時間を短縮することが可能なインクジェットヘッド及びこのインクジェットを備えた印字装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態によれば、
絶縁基板と、前記絶縁基板の一方の面上において第1方向に沿って所定の間隔をおいて並び第1方向に交差する第2方向に沿って延出した圧電部材と、前記圧電部材に接着されるとともに前記インク圧力室に連通するノズル穴を有するノズルプレートと、前記絶縁基板、隣り合う前記圧電部材、及び、前記ノズルプレートで囲まれたインク圧力室と、を備え、前記インク圧力室は、第2方向に直交する面内において、前記ノズルプレート側の第1幅が前記絶縁基板側の第2幅よりも広い断面形状を有することを特徴とするインクジェットヘッドが提供される。
【0009】
本実施形態によれば、
絶縁基板と、前記絶縁基板の一方の面上において第1方向に沿って所定の間隔をおいて並び第1方向に交差する第2方向に沿って延出した圧電部材と、前記圧電部材に接着されるとともに前記インク圧力室に連通するノズル穴を有するノズルプレートと、前記絶縁基板、隣り合う前記圧電部材、及び、前記ノズルプレートで囲まれたインク圧力室と、を備え、前記インク圧力室に供給されたインクを前記ノズル穴から吐出させ、記録媒体上に画像を形成するインクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドの前記インク圧力室を介してインクを循環させるインク循環機構と、とを備え、前記インクジェットヘッドの前記インク圧力室は、第2方向に直交する面内において、前記ノズルプレート側の第1幅が前記絶縁基板側の第2幅よりも広い断面形状を有することを特徴とする印字装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本実施形態におけるインクジェットヘッドの構成を概略的に示す分解斜視図である。
【図2】図2は、本実施形態の印字装置であるインクジェット記録装置の構成例を概略的に示す図である。
【図3】図3は、本実施形態のインクジェットヘッドを構成する主要部及びノズルプレートを含む構造を概略的に示す断面図である。
【図4】図4は、第2方向に直交する面内でのインク圧力室の内面の輪郭を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、本実施形態におけるインクジェットヘッド2の構成を概略的に示す分解斜視図である。
【0013】
すなわち、インクジェットヘッド2は、主要部10、ノズルプレート20、マスクプレート30、及び、ホルダ40を備えている。このインクジェットヘッド2は、第1方向Xを長手方向とした概略直方体形状である。なお、以下の説明において、第1方向Xに概ね直交する方向を第2方向Yとし、X−Y平面に直交する方向を第3方向Zとし、第3方向Zに沿った「上」とは記録媒体側(あるいは、重力方向)に相当し、第3方向Zに沿った「下」とは記録媒体から遠ざかる側(あるいは、反重力方向)に相当する。後述するノズル穴からインク滴が吐出される方向は、第3方向Zに沿った上向きの方向である。
【0014】
主要部10は、絶縁基板11、枠体12、圧電部材13などを備えて構成されている。
【0015】
絶縁基板11は、例えば、アルミナなどのセラミックス製であり、第1方向Xに沿って延出した概略長方形の板状に形成されている。この絶縁基板11は、ノズルプレート20と対向する側に上面(一方の面)11Tを有するとともに、ホルダ40と対向する側に下面11Bを有している。このような絶縁基板11は、インク供給口11in及びインク排出口11outを有している。これらのインク供給口11in及びインク排出口11outは、上面11Tから下面11Bまで貫通している。
【0016】
枠体12は、例えば、金属製であり、矩形枠状に形成されている。この枠体12は、絶縁基板11の上面11Tに配置されている。圧電部材13は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)製であり、絶縁基板11の上面11Tにおいて枠体12で囲まれた内側に配置されている。複数の圧電部材13は、第1方向Xに沿って所定の間隔をおいて並んでいる。各圧電部材13は、第1方向Xに交差する第2方向Yに沿って延出している。第1方向Xに沿って並んだ隣り合う一対の圧電部材13の間には、第2方向Yに沿って延出したインク圧力室14がスリット状あるいは溝状に形成される。
【0017】
図示した例では、第1方向Xに沿って並んだ圧電部材13の列が2列形成されている。複数のインク供給口11inは、絶縁基板11の略中央部、つまり、2列の圧電部材13の間において第1方向Xに沿って並んでいる。複数のインク排出口11outは、絶縁基板11の周辺部、つまり、圧電部材13と枠体12との間において第1方向Xに沿って並んでいる。このような構成により、インク供給口11inのそれぞれからインク圧力室14に向けてインクが供給され、インク圧力室14を通過したインクがインク排出口11outのそれぞれから排出される。これらのインク供給口11in及びインク排出口11outは、後述するように、インク循環経路に接続されている。
【0018】
ノズルプレート20は、例えば、ポリイミドなどの樹脂製、あるいは、ニッケル合金やステンレスなどの耐熱性を有する金属製であり、第1方向Xに沿って延出した概略長方形の平板状に形成されている。このノズルプレート20は、第3方向Zに沿って主要部10の上方に配置されている。このノズルプレート20は、マスクプレート30と対向する側に上面20Tを有するとともに、主要部10と対向する側に下面20Bを有している。このノズルプレート20の下面20Bと、枠体12及び圧電部材13とは、図示しない接着剤により接着されている。
【0019】
このようなノズルプレート20は、ノズル穴21を有している。各ノズル穴21は、インク圧力室14に対向して形成されており、インク圧力室14に連通している。これらのノズル穴21は、X−Y平面内において円形であり、略同一径を有するように形成されている。
【0020】
複数のノズル穴21は、概略第1方向Xに沿って並んでおり、ノズル列211及び212を形成している。図示した例では、ノズルプレート20には、2列のノズル列211及び212が形成されているが、ノズル列は1列であっても良いし3列以上であっても良い。なお、互いに隣接するノズル穴21は、厳密には、第1方向Xに沿った同一直線上に形成されていない場合があるが、ここでは詳細な説明を省略する。
【0021】
マスクプレート30は、例えば、金属製であり、ノズルプレート20を囲む枠状に形成されている。このマスクプレート30は、第3方向Zに沿って主要部10の上方に配置されている。このマスクプレート30は、ノズルプレート20の外径と略同等の長方形状の開口部30Hを有している。このマスクプレート30と、枠体12とは、図示しない接着剤により接着されている。
【0022】
ホルダ40は、第3方向Zに沿って主要部10の下方に配置されている。このホルダ40は、主要部10と対向する側に上面40Tを有している。このホルダ40の上面40Tと、絶縁基板11の下面11Bとは、図示しない接着剤により接着されている。また、このホルダ40は、インク供給口11inに向けてインクを導入するためのインク導入路41、及び、インク排出口11outから排出されたインクを回収するインク回収路42を有している。インク導入路41には、ホルダ40にインクを導入するための導入用パイプ51が接続されている。インク回収路42には、ホルダ40からインクを回収するための回収用パイプ52が接続されている。
【0023】
図2は、本実施形態の印字装置であるインクジェット記録装置1の構成例を概略的に示す図である。
【0024】
すなわち、インクジェット記録装置1は、記録媒体に種々のインクを用いて印刷を行うものである。特に、ここでは、インクとして、酸化チタンを顔料として用いた白インクや、銅、銀、金などの金属を原料とした金属インクなどが適用可能である。記録媒体としては、用紙に限らず、電子部品実装基板などが適用可能である。
【0025】
このインクジェット記録装置1は、図1に示した構成のインクジェットヘッド2、インク循環機構3、インク供給機構4などを備えて構成されている。
【0026】
インク循環機構3は、インクジェットヘッド2のインク圧力室14を介してインクを循環させるものであり、第1サブタンク310、第2サブタンク320、循環ポンプ330、三方弁340などを備えている。これらの間は、すべて配管によって接続されている。このインク循環機構3は、インクジェットヘッド2を介して図中の矢印で示すインクの流れ方向にインクを循環するインク循環経路を形成している。インクジェットヘッド2は、インク循環経路の途中に接続されている。
【0027】
第1サブタンク310は、インクジェットヘッド2の上流側に位置している。この第1サブタンク310は、所定の圧力に制御されている。また、この第1サブタンク310は、配管を介してインクジェットヘッド2の導入用パイプ51に接続されている。これにより、絶縁基板11のインク供給口11inとインク循環機構3とが接続される。
【0028】
第2サブタンク320は、インクジェットヘッド2の下流側に位置している。この第2サブタンク320は、所定の圧力に制御されている。また、この第2サブタンク320は、配管を介してインクジェットヘッド2の回収用パイプ52に接続されている。これにより、絶縁基板11のインク排出口11outとインク循環機構3とが接続される。
【0029】
循環ポンプ330は、第2サブタンク320の下流側であって、第1サブタンク310の上流側に位置している。このような循環ポンプ330は、例えば、ダイヤフラム式ポンプによって構成されている。三方弁340は、循環ポンプ330の下流側であって、第1サブタンク310の上流側に位置している。この三方弁340は、インク供給機構4と接続されている。
【0030】
このような構成のインク循環機構3においては、循環ポンプ330が駆動されるのに伴って、インク循環経路に沿ってインクが循環する。第1サブタンク310から導入されたインクは、インクジェットヘッド2に供給される。供給されたインクは、導入用パイプ51を通り、ホルダ40のインク導入路41を介して絶縁基板11のインク供給口11inからインク圧力室14に供給される。
【0031】
インク圧力室14に供給された一部のインクは、ノズルプレート20のノズル穴21から記録媒体Mに向けて吐出される。インク圧力室14を通過したインクは、絶縁基板11のインク排出口11outから排出され、ホルダ40のインク回収路42を介して回収用パイプ52を通り、インクジェットヘッド2から排出される。排出されたインクは、第2サブタンク320に回収される。第2サブタンク320に回収されたインクは、インク循環経路を循環して再び第1サブタンク310に供給される。
【0032】
インク供給機構4は、インク循環機構3にインクを供給するものであり、メインタンク410、フィルタ420、メインポンプ430などを備えている。
【0033】
メインタンク410は、インクを貯蔵している。フィルタ420は、メインタンク410とメインポンプ430との間に位置している。このフィルタ420は、インクに含まれる異物やインク凝固物などを除去する。メインポンプ430は、フィルタ420と三方弁340との間に位置している。このメインポンプ430は、例えば、ダイヤフラム式ポンプによって構成されている。
【0034】
このような構成のインク供給機構4においては、インクジェットヘッド2からのインクの吐出に伴ってインク循環機構3におけるインク残量が所定値を下回ったのに基づいて、インク循環機構3に対してインクを補充する。すなわち、メインポンプ430が駆動され、メインタンク410からインクが吸い出される。吸い出されたインクは、フィルタ420を経て異物等が除去された後に三方弁340に供給され、インク循環機構3のインク循環経路内に導入される。
【0035】
なお、インク循環機構3に含まれる第1サブタンク310及び第2サブタンク320と、インク供給機構4に含まれるメインタンク410とのそれぞれには、詳述しないが、マグネットスターラーなどの各種攪拌装置が備えられている。このような攪拌装置が適宜それぞれ駆動されることにより、それぞれのタンク内においてインクが適度に攪拌され、タンク内における顔料などの沈降を抑制している。
【0036】
図3は、本実施形態のインクジェットヘッド2を構成する主要部10及びノズルプレート20を含む構造を概略的に示す断面図である。ここでは、第2方向Yに直交するX−Z平面内での断面を図示している。
【0037】
すなわち、圧電部材13は、絶縁基板11の上面11Tにおいて、所定の間隔を置いて配置されている。詳細な説明は省略するが、この圧電部材13は、例えば、分極方向が互いに逆向きの2つの圧電部材を第3方向Zに積層して形成されている。このような圧電部材13は、絶縁基板11に接する底面13Bと、ノズルプレート20に接する上面13Tと、底面13Bと上面13Tとを繋ぐ側面13Sと、を有している。また、この圧電部材13は、インク圧力室14を隔てて配置されている。
【0038】
インク圧力室14は、互いに隣接する2つの圧電部材13の間に位置している。より具体的には、インク圧力室14は、絶縁基板11、隣り合う圧電部材13、及び、ノズルプレート20によって囲まれている。
【0039】
電極16は、圧電部材13のそれぞれの側面13Sに配置されている。つまり、各圧電部材13は、2つの電極16によって挟まれている。また、この電極16は、隣接する圧電部材13の間に位置する絶縁基板11の上面11Tにも配置されている。このような電極16は、例えば、ニッケルメッキや銅メッキなどによって形成されている。
【0040】
ノズルプレート20は、圧電部材13に接着されている。より具体的には、圧電部材13の上面13Tとノズルプレート20の下面20Bとが接着剤により接着されている。このノズルプレート20に形成されたノズル穴21は、インク圧力室14に連通している。このノズル穴21の中心は、隣接する圧電部材13の間の略中間に位置している。
【0041】
このような構成においては、圧電部材13を挟むそれぞれの電極16に逆極性の電圧が印加されることにより、圧電部材13が変形し、インク圧力室14の容積を変化させる(つまり、容積を拡張させたり、容積を収縮させたりする)。インク圧力室14の容積変化に伴い、インク圧力室14に導入されたインクがノズル穴21から吐出される。
【0042】
本実施形態においては、インク圧力室14は、第2方向Yに直交する面内において、ノズルプレート20の側の第1幅W1が絶縁基板11の側の第2幅W2よりも広い断面形状を有している。図示した例では、インク圧力室14の断面形状は、台形状である。このようなインク圧力室14については、ノズルプレート20の側は重力方向に位置し、絶縁基板11の側は反重力方向に位置している。
【0043】
圧電部材13については、第2方向Yに直交する面内において、ノズルプレート20に接する上面13Tの第3幅W3は、絶縁基板11に接する底面13Bの第4幅W4よりも狭い台形状の断面形状を有している。
【0044】
上述した形状のインク圧力室14あるいは圧電部材13は、例えば、以下のような製造方法によって形成可能である。
【0045】
まず、絶縁基板11の上面11Tに、分極方向が互いに逆向きの2つの圧電部材を第3方向Zに積層する。続いて、圧電部材の積層体をブレードにより切削し、インク圧力室14となる溝を形成する。このような切削工程は、例えば、1枚もしくは複数枚のブレードが取り付けられたスライサーまたはダイサーを利用して行われる。ブレードは、例えば、ダイヤモンドブレードである。
【0046】
このブレードは、インク圧力室14と概略同等の台形状の断面を有している。このようなブレードを略垂直に投入することにより、上述した形状の圧電部材13及びインク圧力室14が形成される。なお、ブレードを投入する際に、若干傾けて切削することにより、上述した形状の圧電部材13及びインク圧力室14を形成しても良い。
【0047】
次に、インク圧力室14におけるインクの流れについて説明する。
【0048】
図4は、第2方向Yに直交する面内でのインク圧力室14の内面14Iの輪郭を概略的に示す図である。
【0049】
なお、ここでは、インク圧力室14の内面14Iとは、絶縁基板11の上面11Tを覆う電極16の表面、圧電部材13の側面13Sを覆う電極16の表面、及び、インク圧力室14に対向するノズルプレート20の下面20Bである。
【0050】
インクのような粘性のある液体が、閉じられた管内を流れる場合、管の中心(管軸)と管の内壁近傍とでは流速が異なり、管軸から管の内壁に向かうにつれて液体の流速が次第に減少する。すなわち、管の内壁から最も離れている管の中心が最も流速が速く、管の内壁に最も近接した管内の周辺部が最も流速が遅いと言える。
【0051】
図4の(a)で示したように、インク圧力室14の内面14Iの輪郭が長方形状である場合(比較例に相当)、インク圧力室14を流れるインクの最も流速が速い位置は、内面14Iから最も離れている位置つまりインク圧力室14の中心となる位置であり、図中のF1で示した位置である。このような最も流速が早い位置は、重心と称される場合もある。
【0052】
一方、図4の(b)で示したように、インク圧力室14の内面14Iの輪郭が台形状である場合(本実施形態に相当)を考える。但し、このときの台形の高さは、図4の(a)で示した比較例における長辺の長さと同一とする。図示した台形の場合、上底の長さが下底の長さよりも短いため、インク圧力室14を流れるインクの最も流速が速い位置は、図4の(a)で示した位置F1より若干下方つまり下底側になり、図中のF2で示した位置となる。
【0053】
寸法の一例を示すと、図4の(a)で示した長方形においては、一対の短辺の長さが80μmであり、一対の長辺の長さが300μmである。また、図4の(b)で示した台形においては、上底の長さが72μmであり、下底の長さが88μmであり、高さが300μmである。
【0054】
本実施形態においては、下底がノズルプレート20の下面20Bに相当し、重力方向に位置しており、また、上底が絶縁基板11の上面11Tを覆う電極16の表面に相当し、反重力方向に位置している。このような構成のインク圧力室14を流れるインクの流速は、絶縁基板11の側よりもノズルプレート20に近接する側の方が速い。つまり、図4の(b)で示した本実施形態の構成においては、図4の(a)で示した比較例の構成と比較して、よりノズルプレート20に近接する位置にインクの流速が速い領域を形成することが可能となる。
【0055】
なお、本実施形態においては、インク圧力室14の内面14Iの輪郭は、図4の(b)に示したような台形状に限らず、図4の(c)に示したように、上底と各辺との交差部が丸みを帯びているような形状であっても良く、このような形状であっても、インク圧力室14を流れるインクの最も流速が速い位置F3は、図4の(b)で示した例と同様に、図4の(a)で示した位置F1よりも下底側に位置する。
【0056】
以上のことより、本実施形態においては、白インクのような顔料濃度及び顔料比重が比較的高いインクを適用した際、印字を長期停止した後に印字を再開する場合には、インク循環経路及びインクジェットヘッド2内に顔料が沈降していたとしても、インク循環機構3によりインク循環経路に沿ってインクを循環することによって、沈降していた顔料を押し流し、沈降を解消することが可能となるとともに、顔料濃度を均一にすることが可能となる。
【0057】
また、インクジェットヘッド2において、インク圧力室14は、その長手方向つまりインクの流れる方向に直交する面内において、重力方向に位置する辺(下底)の長さが反重力方向に位置する辺(上底)の長さよりも長い断面形状を有している。このため、インク圧力室14を流れるインクの最も流速が速い位置は、重力方向に位置する辺側となる。つまり、インク圧力室14において、たとえノズルプレート20の下面20B側でインクが沈降していたとしても、インクが循環する際に、インクの流速が最も速い領域がノズルプレート20の近傍つまり沈降している顔料により近接する側に形成される。これにより、インク圧力室14に沈降している顔料を除去することが可能となる。
【0058】
また、沈降している顔料をインクの循環により除去する場合、比較例に比べてより短いインクの循環時間で、インク圧力室14に沈降している顔料を除去することが可能となる。したがって、印字を開始するまでの所要時間(すなわち、印字開始指示に基づき、第1サブタンク310及び第2サブタンク320での攪拌動作を行い、循環ポンプ330を駆動してインク循環経路内でインクを循環させ、インクジェットヘッド2による印字を開始するまでの時間)を短縮することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態において、インク循環機構3に含まれる第1サブタンク310及び第2サブタンク320と、インク供給機構4に含まれるメインタンク410とのそれぞれには、攪拌装置が備えられている。このため、各タンク内での攪拌によって顔料の沈降が解消されるとともに、再分散され、インクの濃度バランスを改善することが可能となる。
【0060】
また、本実施形態において、第2方向に直交する面内でのインク圧力室14の断面形状について、台形状の断面形状を有するインク圧力室14は、台形状の断面形状を有するブレードを用いて圧電部材を切削することにより、容易に形成することが可能である。
【0061】
なお、ここでは、顔料を含むインクを適用した例について説明したが、上記の通り、銅、銀、金などの金属を原料とした金属インクなども適用可能であり、比較的比重の大きい顔料もしくは原料として、金属あるいは金属化合物を含む各種インクを適用した場合についても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0062】
以上説明したように、本実施形態によれば、印字開始までの所要時間を短縮することが可能なインクジェットヘッド及びこのインクジェットを備えた印字装置を提供することができる。
【0063】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1…インクジェット記録装置
2…インクジェットヘッド
3…インク循環機構
4…インク供給機構
10…主要部
11…絶縁基板 11T…上面 11B…下面
11in…インク供給口 11out…インク排出口
13…圧電部材 13B…底面 13T…上面 13S…側面
14…インク圧力室 14I…内面
16…電極
20…ノズルプレート 20T…上面 20B…下面
21…ノズル穴
40…ホルダ 41…インク導入路 42…インク回収路
51…導入用パイプ 52…回収用パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板の一方の面上において第1方向に沿って所定の間隔をおいて並び第1方向に交差する第2方向に沿って延出した圧電部材と、
前記圧電部材に接着されるとともに前記インク圧力室に連通するノズル穴を有するノズルプレートと、
前記絶縁基板、隣り合う前記圧電部材、及び、前記ノズルプレートで囲まれたインク圧力室と、を備え、
前記インク圧力室は、第2方向に直交する面内において、前記ノズルプレート側の第1幅が前記絶縁基板側の第2幅よりも広い断面形状を有することを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記インク圧力室の断面形状は、台形状であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
前記絶縁基板は、前記インク圧力室に向けてインクが供給されるインク供給口と、前記インク圧力室を通過したインクが排出されるインク排出口と、を有し、
前記インク供給口及び前記インク排出口のそれぞれは、インク循環経路に接続されたことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
前記インクは、金属あるいは金属化合物を含むことを特徴とする請求項3に記載のインクジェットヘッド。
【請求項5】
前記圧電部材は、前記絶縁基板に接する底面と、前記ノズルプレートに接する上面とを有し、第2方向に直交する面内において、前記上面の第3幅が前記底面の第4幅よりも狭い台形状の断面形状を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
【請求項6】
絶縁基板と、前記絶縁基板の一方の面上において第1方向に沿って所定の間隔をおいて並び第1方向に交差する第2方向に沿って延出した圧電部材と、前記圧電部材に接着されるとともに前記インク圧力室に連通するノズル穴を有するノズルプレートと、前記絶縁基板、隣り合う前記圧電部材、及び、前記ノズルプレートで囲まれたインク圧力室と、を備え、前記インク圧力室に供給されたインクを前記ノズル穴から吐出させ、記録媒体上に画像を形成するインクジェットヘッドと、
前記インクジェットヘッドの前記インク圧力室を介してインクを循環させるインク循環機構と、とを備え、
前記インクジェットヘッドの前記インク圧力室は、第2方向に直交する面内において、前記ノズルプレート側の第1幅が前記絶縁基板側の第2幅よりも広い断面形状を有することを特徴とする印字装置。
【請求項7】
前記インク圧力室の断面形状は、台形状であることを特徴とする請求項6に記載の印字装置。
【請求項8】
前記絶縁基板は、前記インク圧力室に向けてインクが供給されるインク供給口と、前記インク圧力室を通過したインクが排出されるインク排出口と、を有し、
前記インク供給口及び前記インク排出口のそれぞれは、前記インク循環機構に接続されたことを特徴とする請求項6または7に記載の印字装置。
【請求項9】
前記インクは、金属あるいは金属化合物を含むことを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の印字装置。
【請求項10】
前記圧電部材は、前記絶縁基板に接する底面と、前記ノズルプレートに接する上面とを有し、第2方向に直交する面内において、前記上面の第3幅が前記底面の第4幅よりも狭い台形状の断面形状を有することを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の印字装置。
【請求項11】
さらに、前記インク循環機構にインクを供給するインク供給機構を備えたことを特徴とする請求項6乃至10のいずれか1項に記載の印字装置。
【請求項12】
前記インク供給機構に含まれるメインタンク、及び、前記インク循環機構に含まれるサブタンクのそれぞれに攪拌装置が備えられたことを特徴とする請求項11に記載の印字装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−91420(P2012−91420A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241281(P2010−241281)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】