説明

インクジェット印刷装置

【課題】印刷後にインクによる記録紙の変形(カール)を抑制するためにインクジェットヘッドよりも下流側の記録紙搬送路中に記録紙上のインクを乾燥させる乾燥炉を設置しても、乾燥炉内の消費電力を低減できる。
【解決手段】インクジェットヘッド31よりも下流側の記録紙搬送路CR中に印刷済みの記録紙PA上のインクIKを乾燥させる乾燥炉60を設置し、且つ、インクジェットヘッド31で発生した熱を送風ファン82,83により熱風に変換してこの熱風を乾燥炉60内に送風するヘッド熱送風部80を設置したことを特徴とするインクジェット印刷装置10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式を適用したインクジェットヘッドから印刷データに基いてインクを吐出させて記録紙上に画像(以下、インク画像と記す)を印刷した際に、印刷後にインクによる記録紙の変形(カール)を抑制するためにインクジェットヘッドよりも下流側の記録紙搬送路中に印刷済みの記録紙上のインクを乾燥させる乾燥炉を設置しても、この乾燥炉内で費やす消費電力を低減できるインクジェット印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、インクジェット方式を適用したインクジェットヘッドを有するインクジェット印刷装置は、画像情報や文字情報などによる印刷データに基いてインクジェットヘッドのノズルからインクを記録紙に向けて吐出させて画像や文字などによるインク画像を印刷することができ、しかも、多色のインクを使用して記録紙上に印刷データをカラーで印刷できるので、家庭用や業務用プリンタとして多用されている。
【0003】
この種のインクジェット印刷装置に用いられるインクには、インク中に油分を含む油性インク,インク中に多量の水分を含む水性インク,油性のインクを水中に乳化分散して作製したエマルジョンインク,溶剤系のインクなどがある。
【0004】
この際、水性インクやエマルジョンインクとか溶剤系のインクを使用した場合に、インク中に水分や溶剤の含有率が高くなると、インク画像を印刷した後に記録紙の変形(カール)が大きくなり、印刷済みの記録紙の搬送に際してジャムが発生したり、あるいは、排紙された記録紙の紙揃えが悪いなどの不具合が発生し易くなる。
【0005】
そこで、上記した問題点を解決するために、例えば複数色の水性インクを用い、各色に対応したインクジェットヘッドから印刷データに基いて水性インクを吐出させて記録紙上にインク画像をカラー印刷した際に、印刷済みの記録紙に対して乾燥時間を確保して記録紙の変形(カール)を抑制する共に、記録紙への両面を印刷可能とした循環搬送路を設けた画像形成装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、インクを吐出するプリントヘッドを記録紙の幅方向に往復動させて印刷を行なうように構成したインクジェットプリンタ内に乾燥ユニットを設置し、この乾燥ユニットを、画像印刷後の記録紙に対して記録紙搬送方向の下流側に向かって乾燥風を吹き付け、且つ、乾燥風を排出ローラの通気部及び筐体の排出口を介して筐体外に吹き出すように構成したインクジェットプリンタがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−35410号公報
【特許文献2】特開2009−34931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に開示された画像形成装置では、水性インクを用いてインク画像を印刷した記録紙が循環搬送路に沿って搬送される工程中に水性インクが自然乾燥されるので、印刷済みの記録紙の変形(カール)を抑制できるが、水性インクを自然乾燥させるに要する時間を確保するには、記録紙の搬送速度を遅くするとか、あるいは、循環搬送路の長さを十分に取るなどの対策を施す必要があり、高速印刷とか、画像形成装置の小型化などに対して不利が生じる。
【0009】
一方、特許文献2に開示されたインクジェットプリンタでは、乾燥ユニットを設置することにより、画像印刷後の記録紙に対して強制的に乾燥風を吹き付けることで、記録紙の乾燥時間を短縮でき、且つ、記録紙搬送路の長さも短縮できるものの、乾燥ユニットは外気を吸入する吸入ファンとこの吸入ファンで取り込んだ外気を加熱する加熱ヒータとにより乾燥風を生成しているために大きな消費電力を必要とするので問題がある。
【0010】
そこで、インクジェット方式を適用したインクジェットヘッドから印刷データに基いてインクを吐出させて記録紙上にインク画像を印刷した際に、印刷後にインクによる記録紙の変形(カール)を抑制するためにインクジェットヘッドよりも下流側の記録紙搬送路中に印刷済みの記録紙上のインクを乾燥させる乾燥炉を設置しても、この乾燥炉内で費やす消費電力を低減できるインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、第1の発明は、インクジェットヘッドからインクを吐出させて記録紙上に画像を印刷するインクジェット印刷装置において、
前記記録紙を搬送する記録紙搬送路中で前記インクジェットヘッドよりも下流側に設置された第1のダクトと、
前記インクジェットヘッドの周辺を一端側で覆い、前記一端側と連接して他端側に形成した送風路を前記第1のダクトに連通させた第2のダクトと、前記第2のダクト内に設置されて前記インクジェットヘッドで生じた熱を前記第1のダクト内に送風する熱送風部と、
を備えたことを特徴とするインクジェット印刷装置である。
【0012】
また、第2の発明は、インクジェットヘッドから印刷データに基いてインクを吐出させて記録紙上に画像を印刷した際に、印刷済みの記録紙上の前記インクによる変形(カール)を抑制するインクジェット印刷装置において、
前記記録紙を搬送する記録紙搬送路中で前記インクジェットヘッドよりも下流側に設置された第1のダクトと、前記印刷済みの記録紙上の前記インクを前記第1のダクト内で乾燥させる乾燥風を送風する乾燥風送風手段とを有する乾燥炉と、
前記インクジェットヘッドの周辺を一端側で覆い且つ前記一端側と反対の他端側を二股状に分岐して、分岐した一方の送風路を前記第1のダクトに連通させ且つ他方の送風路を筐体外に向けた第2のダクトと、前記一方の送風路と前記他方の送風路とを選択的に開閉する送風路切替え手段と、前記第2のダクト内に設置されて前記インクジェットヘッドで生じた熱を前記送風路切替え手段により開かれた前記一方の送風路から前記第1のダクト内に送風し、又、前記熱を前記送風路切替え手段により開かれた前記他方の送風路から筐体外に送風する熱送風部と、
を備えたことを特徴とするインクジェット印刷装置である。
【0013】
また、第3の発明は、上記した第2の発明のインクジェット印刷装置において、
前記送風路切替え手段は、印刷を開始する前の印刷準備時に前記第2のダクト内に形成した前記一方の搬送路を開き且つ前記他方の搬送路を閉じ、印刷時に前記一方の搬送路を閉じ且つ前記他方の搬送路を開くように制御されることを特徴とするインクジェット印刷装置である。
【0014】
また、第4の発明は、上記した第3の発明のインクジェット印刷装置において、
印刷準備時に前記インクジェットヘッドを前記インクが吐出しない程度にプリカーサ駆動したときに生じた第1の熱を前記第2のダクト内に形成した前記一方の搬送路から前記第1のダクト内に送風し、印刷時に前記インクジェットヘッドで生じた第2の熱を前記第2のダクト内に形成した前記他方の搬送路から前記筐体外に排出することを特徴とするインクジェット印刷装置である。
【0015】
また、第5の発明は、インクジェットヘッドから印刷データに基いてインクを吐出させて記録紙上に画像を印刷した際に、印刷済みの記録紙上の前記インクによる変形(カール)を抑制するインクジェット印刷装置において、
前記記録紙を搬送する記録紙搬送路中で前記インクジェットヘッドよりも下流側に設置された第1のダクトと、前記印刷済みの記録紙上の前記インクを前記第1のダクト内で乾燥させる乾燥風を送風する乾燥風送風手段とを有する乾燥炉と、
前記インクジェットヘッドの周辺を一端側で覆い且つ前記一端側と反対の他端側を前記第1のダクトに連通させた第2のダクトと、前記第2のダクト内に設置されて前記インクジェットヘッドで生じた熱を熱風に変換してこの熱風を前記他端側から前記第1のダクト内に送風する送風ファンとを有するヘッド熱送風部と、
を備えたことを特徴とするインクジェット印刷装置である。
【0016】
また、第6の発明は、上記した第5の発明のインクジェット印刷装置において、
印刷を開始する前の印刷準備時に前記インクジェットヘッドを前記インクが吐出しない程度にプリカーサ駆動したときに生じた第1の熱と、印刷時に前記インクジェットヘッドで生じた第2の熱とを前記送風ファンでそれぞれ変換して得た第1の熱風と第2の熱風を前記第2のダクトの他端側から前記第1のダクト内に送風することを特徴とするインクジェット印刷装置である。
【0017】
また、第7の発明は、上記した第4又は第6の発明のインクジェット印刷装置において、
印刷準備時に前記インクジェットヘッドをプリカーサ駆動するときのヘッド駆動周波数を、インク温調時にプリカーサ駆動するヘッド駆動周波数よりも高い周波数に設定することを特徴とするインクジェット印刷装置である。
【0018】
更に、第8の発明は、上記した第4又は第6もしくは第7の発明のインクジェット印刷装置において、
印刷準備時に前記インクの温度が使用可能範囲内であった場合に、印刷準備時に前記インクジェットヘッドをプリカーサ駆動するときのヘッド駆動周波数を、前記インクが共振しない程度の高い周波数に設定することを特徴とするインクジェット印刷装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るインクジェット印刷装置によると、インクジェットヘッドよりも下流側の記録紙搬送路中に印刷済みの記録紙上のインクを乾燥させる乾燥炉を設置し、且つ、インクジェットヘッドで発生した熱を乾燥炉内に送風する熱送風部を設置したことで、乾燥炉内で印刷済みの記録紙上のインクを迅速に乾燥して印刷済みの記録紙上のインクによる変形(カール)を抑制できると共に、乾燥炉内で費やす消費電力を低減できる。
【0020】
この際、インクジェットヘッドの周辺を一端側で覆い且つ一端側と反対の他端側を二股状に分岐して、分岐した一方の送風路を第1のダクトに連通させ且つ他方の送風路を筐体外に向けた第2のダクトと、一方の送風路と他方の送風路とを選択的に開閉する送風路切替え手段と、第2のダクト内に設置されてインクジェットヘッドで生じた熱を送風路切替え手段により開かれた一方の送風路から第1のダクト内に送風し、又、前記熱を送風路切替え手段により開かれた他方の送風路から筐体外に送風する熱送風部とを備えることにより、印刷を開始する前の印刷準備にインクジェットヘッドをプリカーサ駆動したときに生じる第1の熱を第2のダクト内に形成した一方の送風路から第1のダクト内に選択的に送風した場合に乾燥炉内で費やす消費電力を低減できると共に、印刷時にインクジェットヘッドで生じた第2の熱を第2のダクト内に形成した他方の送風路から筐体外に選択的に排出した場合にインクジェットヘッドの周辺を冷却してインクジェットヘッドに対してオーバーヒートを抑制できる。
【0021】
また、ヘッド熱送風部内に、インクジェットヘッドの周辺を一端側で覆い且つ一端側と反対の他端側を第1のダクトに連通させた第2のダクトと、第2のダクト内に設置されてインクジェットヘッドで生じた熱を熱風に変換してこの熱風を他端側から第1のダクト内に送風する送風ファンとを有することにより、印刷を開始する前の印刷準備にインクジェットヘッドをプリカーサ駆動したときに生じる第1の熱による第1の熱風と、印刷時にインクジェットヘッドに生じる第2の熱による第2の熱風とを乾燥炉内に送風できるので、印刷準備時及び印刷時に乾燥炉内で費やす消費電力をより一層低減できる。
【0022】
また、印刷準備時にインクジェットヘッドをプリカーサ駆動するときのヘッド駆動周波数を、インク温調時にプリカーサ駆動するヘッド駆動周波数よりも高い周波数に設定することにより、印刷準備時にインクジェットヘッド内でプリカーサ駆動により生じた熱が、インク温調時にインクジェットヘッド内でプリカーサ駆動により生じた熱よりも高温になるので、印刷準備時にインクジェットヘッドで生じた熱を併用する分だけ乾燥炉内の温度をすばやく上昇させることができ、印刷開始時間を短縮できる。
【0023】
更に、印刷準備時にインクの温度が使用可能範囲内であった場合に、印刷準備時にインクジェットヘッドをプリカーサ駆動するときのヘッド駆動周波数を、インクが共振しない程度の高い周波数に設定することにより、インク温度の上昇を招かずに、インクジェットヘッド内に設けたドライブICのみを発熱させ、このドライブICの熱を用いて乾燥炉内の温度をよりすばやく上昇させることができ、印刷時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る実施例のインクジェット印刷装置の全体構成を示したブロック図である。
【図2】本発明に係る実施例のインクジェット印刷装置の全体構成を示した縦断面図である。
【図3】(a),(b)は図2に示したライン型インクジェットヘッドを拡大して示した縦断面図,下面図である。
【図4】(a),(b),(c)は図3に示したライン型インクジェットヘッド内に設けた一のヘッドブロックを拡大して示した斜視図、初期状態図,動作状態図である。
【図5】本発明に係る実施例のインクジェット印刷装置の動作を説明するための図であり、(a)は印刷準備時を示し、(b)は印刷時を示した図である。
【図6】本発明に係る実施例のインクジェット印刷装置の動作を説明するためのタイミングチャート図である。
【図7】本発明に係る実施例のインクジェット印刷装置において、インク温調時及び印刷準備時に、水性インクを吐出しない程度にライン型インクジェットヘッドをプリカーサ駆動したときのヘッド本体の表面温度変化を示した図である。
【図8】本発明に係る実施例のインクジェット印刷装置を一部変形させた変形例のインクジェット印刷装置の全体構成を示した構成図である。
【図9】図8に示した変形例のインクジェット印刷装置の動作を説明するためのタイミングチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明に係るインクジェット印刷装置の一実施例について、図1〜図9を参照して詳細に説明する。
【0026】
本発明に係るインクジェット印刷装置では、インクジェット方式を適用したインクジェットヘッドから印刷データに基いてインクを吐出させて記録紙上にインク画像を印刷する際に、インクジェットヘッドよりも下流側の記録紙搬送路中に印刷済みの記録紙上のインクを乾燥させる乾燥炉を設置し、且つ、インクジェットヘッドで発生した熱を送風ファンにより熱風に変換してこの熱風を乾燥炉内に送風するヘッド熱送風部を設置したことで、乾燥炉内で印刷済みの記録紙上のインクを迅速に乾燥して印刷済みの記録紙上のインクによる変形(カール)を抑制できると共に、乾燥炉内で費やす消費電力を低減できるように構成されている。
【0027】
この際、本発明に係るインクジェット印刷装置に用いられるインクは、水分を含む水性インクや、油性のインクを水中に乳化分散して作製したエマルジョンインクとか、溶剤系のインクのうちのいずれかのインクを用いているが、以下に説明する実施例では、水性インクを使用した例について説明する。
【実施例】
【0028】
本発明に係る実施例のインクジェット印刷装置10の全体構成について、図1及び図2を併用して説明する。
【0029】
上記したインクジェット印刷装置10は、電源11と、パソコンPCや不図示のLANケーブルなどに着脱自在に接続されるインターフェース12と、パソコンPCや不図示のLANケーブルなどからインターフェース12を介して印刷データDが入力され且つ装置全体を制御する制御部13と、装置全体を操作する操作パネル部15と、記録紙PAを給紙する給紙部20と、給紙部20の下流側に複数色の水性インクIKと対応して各色ごとに固定設置され且つ印刷データDに応じて記録紙PAに向かって各色の水性インクIKを選択的に吐出させる複数のライン型インクジェットヘッド31を有するインクジェットヘッド部30と、インクジェットヘッド部30と対向してこの下方に回転可能に設置されたベルトプラテン機構部40と、給紙部20で給紙した記録紙PAをインクジェットヘッド部30を経て排紙方向に搬送すると共に両面印刷が必要な記録紙PAに対してスイッチバックしてインクジェットヘッド部30の方向へ再び搬送する記録紙循環搬送路50と、インクジェットヘッド部30よりも下流側の記録紙循環搬送路50中に設置されて印刷済みの記録紙PAの変形(以下、カールと記す)を抑制するために乾燥風を生成して送風する乾燥炉60と、印刷済みの記録紙PAを排紙すると共に両面印刷が必要な記録紙PAに対してスイッチバックさせる排紙部70と、複数のライン型インクジェットヘッド31で発生した熱を送風ファン82,83により熱風に変換してこの熱風を乾燥炉60内に送風して乾燥炉60内で費やす消費電力を低減させる熱送風部(以下、ヘッド熱送風部と記す)80と、を備えて構成されている。
【0030】
ここで、インクジェット印刷装置10内に設けた主要な構成部材について順を追って説明する。
【0031】
まず、上記した制御部13は、図1に示したように、この内部に演算部(CPU)13aと、インクジェット印刷装置10の制御用ソフトなどを記憶したROM13bと、インクジェット印刷装置10の動作時に変更可能な情報を一時的に格納するRAM13cとを有している。
【0032】
そして、制御部13により操作パネル部15,給紙部20,インクジェットヘッド部30,ベルトプラテン機構部40,記録紙循環搬送路50,乾燥炉60,排紙部70,ヘッド熱送風部80を制御している。
【0033】
この際、図2に示したように、制御部13は、インククジェット印刷装置10の外装を形成する筐体14内の適宜な場所に設置されている。
【0034】
次に、上記した操作パネル部15は、図2に示したように、筐体14の上面(又は前面)に設置されて、ユーザがインククジェット印刷装置10に対して所望の操作をできるようになっている。
【0035】
次に、上記した給紙部20は、図2に示したように、筐体14の左側面側に配設されたサイド給紙台21と、筐体14内の左下方部位に配設された複数の給紙トレイ22,23とを備えており、サイド給紙台21は記録紙PAのサイズを検出しながら適宜なサイズの記録紙PAを積層可能になっている一方、複数の給紙トレイ22,23は例えばA4サイズ,A3サイズなど特定のサイズの記録紙PAをそれぞれ積層可能になっている。
【0036】
そして、サイド給紙台21又は複数の給紙トレイ22,23上に積層された記録紙PAのうちで各最上層の記録紙PAが各給紙ローラ24によって1枚づつ給紙された後にローラ等の駆動機構による給紙系搬送路25に沿って搬送され、給紙された記録紙PAの先頭部分が記録紙循環搬送路50中に設けられたレジストローラ対51に導かれるようになっている。
【0037】
次に、上記したインクジェットヘッド部30は、給紙部20の下流側で且つ記録紙循環搬送路50の上流側に固定設置されており、筐体14内の略中央部位に位置している。
【0038】
このインクジェットヘッド部30では、複数色の水性インクIKと対応して複数のライン型インクジェットヘッド31が上流側から下流側に向かってC(シアン)用,K(ブラック)用,M(マゼンタ)用,Y(イエロー)用の順に配置されている。
【0039】
尚、この実施例では、4色(CKMY)の水性インクIKに対応して4つのライン型インクジェットヘッド31を設置した例で説明するが、例えば文字だけを印刷する場合には1色(K)用だけで良いので、ライン型インクジェットヘッド31は少なくとも一以上設置すれば良いものである。
【0040】
ここで、各色ごとに設けた複数のライン型インクジェットヘッド31は全て同じ構造に形成されているので、一のライン型インクジェットヘッド31を図3(a),(b)に拡大して示すと、一のライン型インクジェットヘッド31は、複数のノズル32nを主走査方向(Y軸方向)に有するヘッドブロック32が二次元的に複数配置されている。
【0041】
この際、ヘッドブロック32は、主走査方向(Y軸方向)に沿った一のライン上に沿って複数個配置され、且つ、副走査方向(X軸方向)に計2ラインに分けて配置されていると共に、隣り合うライン1,2では各ヘッドブロック32が一部重なりあうように互い違いに千鳥状に配置されている。
【0042】
また、一のライン型インクジェットヘッド31内の中央部位には、複数のヘッドブロック32に対して水性インクIKを供給するインク供給路33と、印刷時に生じた余剰の水性インクIKを回収するインク回収路34とが設けられ、且つ、インク供給路33及びインク回収路34の各側面に水性インクIKの温度を計測する温度計35が取り付けられている。
【0043】
そして、ライン型インクジェットヘッド31は、不図示の上部インクタンクと不図示の下部インクタンクとの間に配設されて各色ごとに水性インクIKが循環可能になっている。
【0044】
また、一のライン型インクジェットヘッド31内の左右には、ライン1,2上に配置された複数のヘッドブロック32を駆動するためのドライブIC36を搭載したヘッド駆動回路基板37が設けられており、且つ、ヘッド駆動回路基板37からの下方のワイヤ38は各ヘッドブロック32に接続されている共に、ヘッド駆動回路基板37からの上方のワイヤ38は外部に引き出されている。
【0045】
この際、インク供給路33及びインク回収路34と、左右のヘッド駆動回路基板37とは、一定距離だけ離れて設置されており、ヘッド駆動回路基板37の駆動熱が水性インクIKに直接伝わらないようになっている。
【0046】
また、一のライン型インクジェットヘッド31の左右外側面には、ライン1,2側のヘッド駆動回路基板37上に搭載した複数のドライブIC36から発生した熱を外部に放出する放熱板39が取り付けられている。
【0047】
更に、ヘッドブロック32に設けた複数のノズル32nから水性インクIKを選択的に吐出させる場合に、この実施例では構造が簡単であり且つ信頼性が良好なピエゾ方式によるシェアモード型を適用している。
【0048】
即ち、ヘッドブロック32にピエゾ方式によるシェアモード型を適用した場合に、図4(a)に拡大して示した如く、このヘッドブロック32では、セラミックなどからなる基板32kとカバープレート32cとの間に、2つのピエゾ素子32p1,32p2{図4(b),(c)}を用いた圧電側壁32pがノズル32nの数と対応して複数設けられており、且つ、2つのピエゾ素子32p1,32p2は図4(b),(c)に示したように互い異なる方向に分極されている。
【0049】
また、基板32k,カバープレート32c,圧電側壁32pの先端にはノズルプレート32npが取り付けられており、このノズルプレート32npに複数のノズル32nが例えば1インチ当たり300個の密度(300dpi)で主走査方向(Y軸方向)に沿って形成され、且つ、各ノズル32nと対応して水性インクIKを一時的に貯溜するための各インク溜室32irが両側を圧電側壁32pにより囲まれて形成されている。
【0050】
更に、各インク溜室32irの側面を形成する複数の圧電側壁32pには電極32d1,32d2,32d3,………{図4(b),(c)}が各インク溜室32ir内に向かって互に対向して一対づつ膜付けされている。
【0051】
上記のように構成されたシェアモード型のヘッドブロック32において、図4(b)に示した如く、複数の圧電側壁32pに膜付けした複数の電極32d1,32d2,32d3,………のいずれにも印字パルスが印加されないときに、各圧電側壁32pのピエゾ素子32p1,32p2は変形しない。
【0052】
一方、図4(c)に示した如く、対をなす一の電極32d1に印字パルスが印加され、且つ、他の電極32d2,32d3,……が接地されると、印字パルスが印加された一の電極32d1と対応した圧電側壁32pのピエゾ素子32p1,32p2に分極方向に直角な方向の電界が生じ、これによりピエゾ素子32p1,32p2の接合面にズリ変形が生じて、インク溜室32ir内のインクIKの圧力が変化することによってインクIKの一部がノズル32nから外部に向かって吐出する。
【0053】
また、印字パルスの極性を変えて電界の向きを変えることによって、ピエゾ素子32p1,32p2の変形する向きを変えることができる。
【0054】
この際、水性インクIKは、印刷時に不図示のインク循環路中に設けたインク温度制御手段部によりインク仕様に基づくインク使用可能範囲内の下限インク温度(例えば25°C)と上限インク温度(例えば45°C)との間に設定した最適な目標インク温度(例えば35°C)に制御されているが、インクジェット印刷装置10内に設けた電源11(図1)が投入された後に、しばらくユーザからの印刷命令がない場合、つまりインクジェット印刷装置10が待機状態である時に、インクジェット印刷装置10は下記する「プリカーサ駆動」と呼称される駆動方法によりインク温度調整(以下、インク温調と呼称する)動作を行い、このインク温度時にプリカーサ駆動方法により各ヘッドブロック32内で水性インクIKに対して予備加熱を行なうことによりインク温度が迅速にインク使用可能範囲内に到達できるようにしていると共に、ユーザからの印刷命令を受信して印刷を開始する前の印刷準備時にもプリカーサ駆動を実施することにより、後述するように印刷準備時にプリカーサ駆動により生じた熱をヘッド熱送風部80内で熱風に変換して乾燥炉60内に送風するように構成されているが、これらについては後で述べる。
【0055】
即ち、上記した「プリカーサ駆動」とは、図4に示した各ヘッドブロック32内に設けたピエゾ素子32p1,32p2による圧電側壁32pを水性インクIKが吐出しない程度に微小に振動させるものであり、これにより複数のインク溜室32ir内の水性インクIKを加熱させたり、あるいは、ヘッドブロック32のノズル32nの付近の乾燥した水性インクIKを除去できる駆動方法である。
【0056】
次に、上記したベルトプラテン機構部40は、図2に示した如く、インクジェットヘッド部30と対向して複数のライン型インクジェットヘッド31の下方に配設されている。
【0057】
このベルトプラテン機構部40では、給紙部20で給紙された記録紙PAを搭載しながら搬送するために複数のエアー吸引孔(図示せず)を略等間隔で貫通して形成した帯状のベルトプラテン41が不図示の駆動源により回転駆動される駆動プーリ42と従動プーリ43との間に掛け渡されていると共に、駆動プーリ42と従動プーリ43との間に記録紙PAをベルトプラテン41上にエアー吸引するエアー吸引部(サクションボックス)44が設けられている。
【0058】
そして、帯状のベルトプラテン41上に記録紙PAを搭載したときに、この記録紙PAをベルトプラテン41に形成した複数のエアー吸引孔からエアーを吸引して、記録紙PAをベルトプラテン41上に固定した状態でベルトプラテン41の回転より記録紙PAを副走査方向(矢印X方向)に搬送しながら複数のライン型インクジェットヘッド31により印刷データD(図1)をカラーで印刷できるようになっている。
【0059】
次に、記録紙循環搬送路50は、図2に示した如く、給紙部20で給紙された記録紙PAの先頭位置を揃えるレジストローラ対51を含む複数のローラなどの駆動機構や不図示の記録紙ガイド板などにより構成されており、且つ、インクジェットヘッド部30により記録紙PAの片面(表面)に印刷された印刷済みの記録紙PAをそのまま排紙する方向に搬送する通常搬送経路CRと、記録紙PAの片面に印刷された印刷済みの記録紙PAを通常搬送経路CRの途中から電磁弁などによる搬送路切替え手段52,53により搬送方向を切り換えてスイッチバックを行なって両面(表面及び裏面)を印刷するためのスイッチバック搬送経路SRとにより環状に形成されている。
【0060】
尚、記録紙PAに対して両面印刷する必要がない装置の場合には、通常搬送経路CRだけを設ければ良いものである。
【0061】
この際、記録紙循環搬送路50中の通常搬送経路CRは、インクジェットヘッド部30の下方を通過し、この後、印刷済みの記録紙PA上の水性インクIKが乾燥できる時間を確保するためにインクジェットヘッド部30の上方に廻り込むように屈曲させて、後述する排紙部70の排紙トレイ71に向かうように配設されている。
【0062】
一方、記録紙循環搬送路50中のスイッチバック搬送経路SRは、通常搬送経路CR中で排紙部70に向かう手前を搬送路切替え手段52で切り替えて記録紙PAの搬送方向を変更して排紙部70の排紙トレイ71の裏面に形成した記録紙ガイド枠71a内に向かい、この記録紙ガイド枠71a内で記録紙PAの先頭位置を反転させた後に搬送路切替え手段53で切り替えて記録紙PAの搬送方向を変更して再度レジストローラ対51に向かうように配設されている。
【0063】
次に、上記した乾燥炉60は、図2に示した如く、記録紙循環搬送路50内に設けた通常搬送経路CR中でインクジェットヘッド部30よりも下流側で且つインクジェットヘッド部30の上方に配設されており、この実施例の要部の一部を構成するものである。
【0064】
この乾燥炉60は、長尺なダクト(第1のダクト)61と、このダクト61の上流側に設けられてダクト61内に送風する送風ファン62及びこの送風ファン62で送風された空気を暖めて乾燥風に変換するヒータ63とを備えている。この際、送風ファン62とヒータ63とで乾燥風送風手段を構成しているが、両者(62,63)を一体化したドライヤー(図示せず)などを用いても良い。
【0065】
そして、上記した乾燥炉60では、インクジェットヘッド部30により印刷された印刷済みの記録紙PA上の水性インクを乾燥風送風手段62,63から送風された乾燥風により強制的に乾燥させることで、印刷済みの記録紙PA上のインクを迅速に乾燥して印刷済みの記録紙PA上の水性インクIKによるカールを抑制する機能を備えている。
【0066】
次に、上記した排紙部70は、記録紙循環搬送路50内に設けた通常搬送経路CRの下流側に配設されており、且つ、ここに備えた排紙トレイ71が筐体14の左側面側に位置している。
【0067】
この際、排紙トレイ71は、記録紙循環搬送路50内に設けた通常搬送経路CRによって搬送された印刷済みの記録紙PAを積層して収納する機能と、この排紙トレイ71の裏面に形成した記録紙ガイド枠71aで表面を印刷済みの記録紙PAに対して裏面を印刷可能に記録紙PAの先頭位置を変更する機能とを備えている。
【0068】
次に、上記したヘッド熱送風部80は、図2に示した如く、インクジェットヘッド部30の周辺から乾燥炉60の上流側に向けて配設されており、この実施例の要部の一部を構成するものである。
【0069】
このヘッド熱送風部80は、ダクト(第2のダクト)81と、このダクト内に設けられる複数の送風ファン82,83と、ダクト81内の下流側で送風路を切り替えるための送風路切替え手段となるフリッパー84とを備えている。
【0070】
この際、ダクト81は、インクジェットヘッド部30の周辺を覆うように上流の一端側に設けられたヘッド周辺送風路81aと、このヘッド周辺送風路81aに連設された中間送風路81bと、中間送風路81bの下流で一端側とは反対の他端側を二股状に分岐して、分岐した一方側に設けられて乾燥炉60のダクト61内に連通させる乾燥炉向け送風路81cと、分岐した他方側に設けられて筐体外に向けた筐体外向け送風路81dとを有している。
【0071】
また、複数のファン82,83のうちで、複数のファン82は複数のライン型インクジェットヘッド31間にそれぞれ設置されて、各ライン型インクジェットヘッド31で発生した熱を送風しており、一方、ファン83は中間送風路81b内に設置されて複数のファン82で送風された熱風をダクト81の下流側に送風している。
【0072】
尚、ダクト81内に設置される送風ファンの数量は少なくとも一以上であれば良いものである。
【0073】
更に、ダクト81の下流側に二股状に分岐された分岐点には、フリッパー(送風路切替え手段)84が設置されており、このフリッパー84は乾燥炉向け送風路81c側と筐体外向け送風路81d側とに送風路が選択的に切り替え可能に制御部13(図1)により制御されている。
【0074】
そして、このヘッド熱送風部80は、印刷を開始する前の印刷準備時にインクジェットヘッド部30で発生した熱(第1の熱)を熱風(第1の熱風)に変換してこの熱風(第1の熱風)を乾燥炉向け送風路81cから乾燥炉60内に送風する一方、印刷時にインクジェットヘッド部30で発生した熱(第2の熱)を熱風(第2の熱風)に変換してこの熱風(第2の熱風)を筐体外向け送風路81dから筐体外に排出する機能を備えている。
【0075】
ここで、上記のように構成した実施例のインクジェット印刷装置10の動作について、図5〜図7を用いて説明する。
【0076】
まず、インクジェット印刷装置10内に設けた電源11(図1)が投入されて、インクジェット印刷装置10が待機状態にある場合には、図6に示した如く、ライン型インクジェットヘッド31に設けた複数のヘッドブロック32内の水性インクIK{図4(b),(c)}が吐出しない程度にプリカーサ駆動して熱を発生させ、この熱で水性インクIKに対してインク温調を行なっている。
【0077】
このインク温調時には、ライン型インクジェットヘッド31に設けた複数のヘッドブロック32{図4(a)〜(c)}内の各圧電側壁32p{図4(b),(c)}に対してGND電位を基準とした負パルスを印加し、且つ、この負パルスによるヘッド駆動周波数f1を例えば5KHz〜7KHz範囲内に設定してプリカーサ駆動することで、各インク溜室32ir{図4(b),(c)}内の水性インクIKを予備加熱してインク温度をインク使用可能範囲内に到達できるようにしている。
【0078】
この際、インク温調時には、前述したように、インクジェット印刷装置10が待機状態にあるのでいつの時点で印刷命令が出されるか不明なために、乾燥炉60内に設けた送風ファン62及びヒータ63をオフすると共に、ヘッド熱送風部80内に設けた送風ファン82,83をオフすることで乾燥炉60内及びヘッド熱送風部80内の各消費電力の削減を図っているが、ヘッド熱送風部80内に設けたダクト81内の下流側では、後述する印刷準備時に対応できるように乾燥炉向け送風路81cを送風可能になるように開いたままにし、且つ、筐体外向け送風路81dをフリッパー84で送風不能になるように閉じている。
【0079】
尚、ヘッド熱送風部80内の消費電力が小さい場合には、送風ファン82,83をそれぞれオンさせて、インク温調時のプリカーサ駆動により生じたヘッド熱を乾燥炉向け送風路81cから乾燥炉60内に送り込むことも可能であり、更に、乾燥炉60内の消費電力も小さければ送風ファン62及びヒータ63をオンして後述する印刷準備時と同様に乾燥炉60内で予備送風及び予備加熱を行なっても良い。
【0080】
次に、インクジェット印刷装置10内でユーザからの印刷命令を受信した印刷準備時には、図5(a)に示した如く、インクジェット印刷装置10内に設けた記録紙循環搬送路50に記録紙PA(図2)が給紙されていないものの、記録紙循環搬送路50の通常搬送経路CR中でインクジェットヘッド部30よりも下流側に設置した乾燥炉60を予め暖めておく必要がある。
【0081】
そこで、この実施例では印刷準備時にも、図6に示したように、ライン型インクジェットヘッド31の各ヘッドブロック32内の水性インクIK{図4(b),(c)}が吐出しない程度にプリカーサ駆動して熱を発生させ、この熱で各インク溜室32ir{図4(b),(c)}内に溜められた水性インクIKを予備加熱し、更に、プリカーサ駆動で生じた熱を積極的に利用して乾燥炉60内に送っている。
【0082】
この際、印刷準備時に水性インクIK(図2)が吐出しない程度にライン型インクジェットヘッド31に設けた複数のヘッドブロック32{図4(a)〜(c)}内の各圧電側壁32p{図4(b),(c)}に対してGND電位を基準とした負パルス負パルスを印加し、且つ、この負パルスによるヘッド駆動周波数f2をインク温調時にプリカーサ駆動するヘッド駆動周波数f1よりも高い周波数に設定してプリカーサ駆動することで、インク温調時よりもヘッド本体の表面温度を高めている。
【0083】
この際、印刷準備時にプリカーサ駆動するときのヘッド駆動周波数f2は、インク温調時にプリカーサ駆動するヘッド駆動周波数f1に対して1.5倍〜1.9倍の範囲内に設定しているが、この実施例ではf2をf1の略1.7倍(f2≒1.7f1)に設定している。
【0084】
ここで、インク温調時及び印刷準備時にライン型インクジェットヘッド31をそれぞれプリカーサ駆動したときのヘッド本体の表面温度変化を図7に示す。
【0085】
この図7において、f1はインク温調時のヘッド駆動周波数である。また、f2は印刷準備時のヘッド駆動周波数であり且つインク温調時のヘッド駆動周波数f1の略1.7倍に設定されたヘッド駆動周波数である。更に、f2’はf1とf3との間のヘッド駆動周波数である(f1<f2’<f3)。
【0086】
図7から明らかなように、印刷準備時にインク温調時のヘッド駆動周波数f1よりも高いヘッド駆動周波数f2又はf2’でプリカーサ駆動すればヘッド本体の表面温度がインク温調時よりも上昇する。
【0087】
前述のことから、本発明のインクジェット印刷装置10では、印刷準備時にプリカーサ駆動するヘッド駆動周波数f2を、インク温調時にプリカーサ駆動するヘッド駆動周波数f1よりも高い周波数に設定にすることにより、インク温調時よりも高温の熱風(第1の熱風)を乾燥炉60内に送風することができるため、予備加熱による乾燥炉60内の温度上昇が大きくなる。
【0088】
尚また、参考までにヘッド駆動周波数の数値を述べると、インク温調時にプリカーサ駆動するヘッド駆動周波数f1は前述したように5KHz〜7KHzであるので、印刷準備時にプリカーサ駆動するヘッド駆動周波数f2はf1に対して1.5倍〜1.9倍の範囲内を取ると7.5KHz〜13.3KHz程度である。
【0089】
また、図5(a)及び図6に示した如く、印刷準備時には、ヘッド熱送風部80のダクト81内の下流側では、乾燥炉向け送風路81cを送風可能になるように開いたままにし、且つ、筐体外向け送風路81dをフリッパー84で送風不能になるように閉じているので、プリカーサ駆動によってライン型インクジェットヘッド31で生じた熱(第1の熱)をダクト81内に設けた複数の送風ファン82,83により熱風(第1の熱風)に変換してこの熱風(第1の熱風)を乾燥炉向け送風路81cを通って乾燥炉61のダクト61内の上流側に送風している。
【0090】
これにより、乾燥炉60内では、図6に示したように、送風ファン62を小さな電力で駆動して予備送風させ、且つ、ヒータ63を小さな電力で駆動して送風ファン62からの空気を予備加熱させている。この際、ヘッド熱送風部80のダクト81内に形成した乾燥炉向け送風路81cの断面積は、乾燥炉60のダクト61の断面積よりも十分小さいので、ダクト61内で送風ファン62とヒータ63とにより生成した乾燥風が乾燥炉向け送風路81c内に侵入しにくくなっている。
【0091】
従って、印刷準備時に乾燥炉60のダクト61内では、ヒータ63によって加熱された乾燥風と、ヘッド熱送風部80のダクト81から送風された熱風(第1の熱風)とが合流されて、両風がダクト61内の上流側から下流側に向かうために、印刷準備時に乾燥炉60内で費やされる消費電力を低減できる。
【0092】
この際、印刷準備時にライン型インクジェットヘッド31(図3)をプリカーサ駆動するときのヘッド駆動周波数f2又はf2’(図7)を、インク温調時にプリカーサ駆動するヘッド駆動周波数f1(図7)よりも高い周波数に設定することにより、印刷準備時にライン型インクジェットヘッド31内でプリカーサ駆動により生じた熱が、インク温調時にライン型インクジェットヘッド31内でプリカーサ駆動により生じた熱よりも高温になるので、印刷準備時にライン型インクジェットヘッド31で生じた熱を併用する分だけ乾燥炉60{図5(a)}内の温度をすばやく上昇させることができ、印刷開始時間を短縮できる。
【0093】
更に、印刷準備時に水性インクIK(図3)の温度が使用可能範囲内であった場合に、印刷準備時にライン型インクジェットヘッド31(図3)をプリカーサ駆動するときのヘッド駆動周波数を、水性インクIKが共振しない程度の高い周波数に設定することにより、インク温度の上昇を招かずに、ライン型インクジェットヘッド31内に設けたドライブIC36(図3)のみを発熱させ、このドライブIC36の熱を用いて乾燥炉60{図5(a)}内の温度をよりすばやく上昇させることができ、印刷時間を短縮できる。
【0094】
次に、図5(b)に示した如く、印刷時には、インクジェット印刷装置10内に設けた記録紙循環搬送路50に記録紙PA(図2)が給紙されてインクジェットヘッド部30内に設けた複数のライン型インクジェットヘッド31から水性インクIKを選択的に吐出させて記録紙PA上にインク画像が印刷されるが、印刷済みの記録紙PA上の水性インクIKによるカールを防止するために、印刷済みの記録紙PAを乾燥炉60内で迅速に乾燥させている。
【0095】
また、この印刷時には、図6に示したように、ライン型インクジェットヘッド31に設けた複数のヘッドブロック32内の各の各圧電側壁32p{図4(b),(c)}に対してGND電位を基準とした正負パルスを印加し、且つ、この正負パルスによるヘッド駆動周波数f3を例えば5KHz〜7KHz範囲内に設定して、水性インクIK{図4(b),(c)}をノズル32n{図4(a)}から吐出させている。
【0096】
また、この印刷時に乾燥炉60内では、送風ファン62を印刷準備時よりも大きな電力で駆動して本送風させ、且つ、ヒータ63を印刷準備時よりも大きな電力で駆動して送風ファン62からの空気を本加熱させている。
【0097】
この際、乾燥炉60内で費やされる消費電力は印刷準備時よりも大きくなるが、印刷準備時に乾燥炉60内とヘッド熱送風部80とにより予め加熱されているので、印刷準備時にヘッド熱送風部80からの熱風を乾燥炉60内に送風しない場合よりも乾燥炉60内で費やされる消費電力を低く抑えることができる。
【0098】
また、送風ファン62とヒータ63とにより生成された乾燥風がヘッド熱送風部80のダクト81内に設けた乾燥炉向け送風路81cを通って複数のライン型インクジェットヘッド31に到達しないようにフリッパー84で乾燥炉向け送風路81cを閉じる一方、筐体外向け送風路81dを開いている。
【0099】
上記に伴って、印刷時にライン型インクジェットヘッド31の各ヘッドブロック32(図3)内に設けたドライブIC36(図3)で生じた熱(第2の熱)をヘッド熱送風部80のダクト81内に設けた複数の送風ファン82,83により熱風(第2の熱風)に変換してこの熱風(第2の熱風)を筐体外向け送風路81dから筐体外に排出しているので、複数のライン型インクジェットヘッド31の周辺を冷却して各ライン型インクジェットヘッド31に対してオーバーヒートを抑制できる。
【0100】
更に、実施例のインクジェット印刷装置10を一部変形させた変形例のインクジェット印刷装置10’について、図8及び図9を用いて簡略に説明する。
【0101】
図8に示した変形例のインクジェット印刷装置10’は、先に図2を用いて説明した実施例のインクジェット印刷装置10に対して熱送風部(以下、ヘッド熱送風部と記す)80’に設けたダクト81’の形状のみが異なるだけであるので、実施例と同一構成部材に対して同一符号を図示して説明を省略し、実施例と異なる形状のダクト81’について説明する。
【0102】
図8に示した如く、ヘッド熱送風部80’に設けたダクト81’は、上流の一端側に形成したヘッド周辺送風路81aと、このヘッド周辺送風路81aに連設した中間送風路81bとが実施例と同じ形状であるが、一端側とは反対の下流の他端側は二股状に分岐されてなく、乾燥炉向け送風路81cのみが乾燥炉60のダクト61の上流側に連通されているので、送風路切替え手段となるフリッパーはダクト81’内に設けられていない。
【0103】
従って、印刷準備時及び印刷時にインクジェットヘッド部30内で発生する各熱(第1,第2の熱)は、ヘッド熱送風部80’のダクト81’内に設けた複数の送風ファン82,83により各熱風(第1,第2の熱風)に変換されて各熱風(第1,第2の熱風)が乾燥炉向け送風路81cを通って乾燥炉60のダクト61の上流側に送風されている。
【0104】
即ち、図9に示した如く、変形例におけるインクジットヘッド部30内のライン型インクジェットヘッド31の動作は、インク温調時,印刷準備時,印刷時共に先に図6を用いた実施例と全く同じであるので、ここでの説明を省略する。
【0105】
また、印刷準備時には実施例と同様に、複数のライン型インクジェットヘッド31をプリカーサ駆動したときに生じる熱(第1の熱)がヘッド熱送風部80’のダクト81’内に設けた複数の送風ファン82,83により熱風(第1の熱風)に変換されてこの熱風(第1の熱風)が乾燥炉向け送風路81cを通って乾燥炉60のダクト61の上流側に送風されると共に、乾燥炉60のダクト61内で小さな電力で送風ファン62及びヒータ63を駆動して乾燥風が生成され、両者が合流してダクト61の下流側に送風される。
【0106】
一方、印刷時には、実施例と異なって、複数のライン型インクジェットヘッド31を駆動したときにドライブIC36(図3)で生じた熱(第2の熱)がヘッド熱送風部80’のダクト81’内に設けた複数の送風ファン82,83により熱風(第2の熱風)に変換されてこの熱風(第2の熱風)が乾燥炉向け送風路81cを通って乾燥炉60のダクト61の上流側に送風されると共に、乾燥炉60のダクト61内で小さな電力で送風ファン62及びヒータ63を駆動して乾燥風が生成され、両風が合流してダクト61の下流側に送風されるので、印刷済みの記録紙PAを乾燥炉60内で迅速に乾燥させることができる。
【0107】
従って、この変形例のインクジェット印刷装置10’でも、印刷準備時にはライン型インクジェットヘッド31で生じた熱を併用する分だけ乾燥炉60内の温度をすばやく上昇させることができ、印刷開始時間を短縮できる。また、印刷時には乾燥炉60内で費やされる消費電力を低減できる。
【符号の説明】
【0108】
10…実施例のインクジェット印刷装置、
10’…変形例のインクジェット印刷装置、
11…電源、12…インターフェース、13…制御部、13a…演算部(CPU)、
13b…ROM、13c…RAM、14…筐体、
15…操作パネル部
20…給紙部、21…サイド給紙台、22,23…給紙トレイ、
24…給紙ローラ、25…給紙系搬送路、
30…インクジェットヘッド部、31…ライン型インクジェットヘッド、
32…ヘッドブロック、
32c…カバープレート、32d1,32d2,32d3…電極、
32ir…インク溜室、32k…基板、32n…ノズル、32np…ノズルプレート、
32p…圧電側壁、32p1,32p2…ピエゾ素子、
33…インク供給路、34…インク回収路、35…温度計、
36…ドライブIC、37…ヘッド駆動回路基板、38…ワイヤ、39…放熱板、
40…ベルトプラテン機構部、41…ベルトプラテン、42…駆動プーリ、
43…従動プーリ、46…エアー吸引部(サクションボックス)、
50…記録紙循環搬送路、CR…通常搬送経路、SR…スイッチバック搬送経路、
51…レジストローラ対、52,53…搬送路切替え手段、
60…乾燥炉、61…ダクト(第1のダクト)、62…送風ファン、63…ヒータ、
70…排紙部、71…排紙トレイ、71a…記録紙ガイド枠、
80,80’…熱送風部(ヘッド熱送風部)、81,81’…ダクト(第2のダクト)、
81a…ヘッド周辺送風路、81b…中間送風路、81c…乾燥炉向け送風路、
81d…筐体外向け送風路、
82,83…送風ファン、84…フリッパー(送風路切替え手段)、
D…印刷データ、IK…インク、PA…記録紙、
f1,f2,f2’,f3…ヘッド駆動周波数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットヘッドからインクを吐出させて記録紙上に画像を印刷するインクジェット印刷装置において、
前記記録紙を搬送する記録紙搬送路中で前記インクジェットヘッドよりも下流側に設置された第1のダクトと、
前記インクジェットヘッドの周辺を一端側で覆い、前記一端側と連接して他端側に形成した送風路を前記第1のダクトに連通させた第2のダクトと、前記第2のダクト内に設置されて前記インクジェットヘッドで生じた熱を前記第1のダクト内に送風する熱送風部と、
を備えたことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
インクジェットヘッドから印刷データに基いてインクを吐出させて記録紙上に画像を印刷した際に、印刷済みの記録紙上の前記インクによる変形(カール)を抑制するインクジェット印刷装置において、
前記記録紙を搬送する記録紙搬送路中で前記インクジェットヘッドよりも下流側に設置された第1のダクトと、前記印刷済みの記録紙上の前記インクを前記第1のダクト内で乾燥させる乾燥風を送風する乾燥風送風手段とを有する乾燥炉と、
前記インクジェットヘッドの周辺を一端側で覆い且つ前記一端側と反対の他端側を二股状に分岐して、分岐した一方の送風路を前記第1のダクトに連通させ且つ他方の送風路を筐体外に向けた第2のダクトと、前記一方の送風路と前記他方の送風路とを選択的に開閉する送風路切替え手段と、前記第2のダクト内に設置されて前記インクジェットヘッドで生じた熱を前記送風路切替え手段により開かれた前記一方の送風路から前記第1のダクト内に送風し、又、前記熱を前記送風路切替え手段により開かれた前記他方の送風路から筐体外に送風する熱送風部と、
を備えたことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記送風路切替え手段は、印刷を開始する前の印刷準備時に前記第2のダクト内に形成した前記一方の搬送路を開き且つ前記他方の搬送路を閉じ、印刷時に前記一方の搬送路を閉じ且つ前記他方の搬送路を開くように制御されることを特徴とする請求項2記載のインクジェット印刷装置。
【請求項4】
印刷準備時に前記インクジェットヘッドを前記インクが吐出しない程度にプリカーサ駆動したときに生じた第1の熱を前記第2のダクト内に形成した前記一方の搬送路から前記第1のダクト内に送風し、印刷時に前記インクジェットヘッドで生じた第2の熱を前記第2のダクト内に形成した前記他方の搬送路から前記筐体外に排出することを特徴とする請求項3記載のインクジェット印刷装置。
【請求項5】
インクジェットヘッドから印刷データに基いてインクを吐出させて記録紙上に画像を印刷した際に、印刷済みの記録紙上の前記インクによる変形(カール)を抑制するインクジェット印刷装置において、
前記記録紙を搬送する記録紙搬送路中で前記インクジェットヘッドよりも下流側に設置された第1のダクトと、前記印刷済みの記録紙上の前記インクを前記第1のダクト内で乾燥させる乾燥風を送風する乾燥風送風手段とを有する乾燥炉と、
前記インクジェットヘッドの周辺を一端側で覆い且つ前記一端側と反対の他端側を前記第1のダクトに連通させた第2のダクトと、前記第2のダクト内に設置されて前記インクジェットヘッドで生じた熱を熱風に変換してこの熱風を前記他端側から前記第1のダクト内に送風する送風ファンとを有するヘッド熱送風部と、
を備えたことを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項6】
印刷を開始する前の印刷準備時に前記インクジェットヘッドを前記インクが吐出しない程度にプリカーサ駆動したときに生じた第1の熱と、印刷時に前記インクジェットヘッドで生じた第2の熱とを前記送風ファンでそれぞれ変換して得た第1の熱風と第2の熱風を前記第2のダクトの他端側から前記第1のダクト内に送風することを特徴とする請求項5記載のインクジェット印刷装置。
【請求項7】
印刷準備時に前記インクジェットヘッドをプリカーサ駆動するときのヘッド駆動周波数を、インク温調時にプリカーサ駆動するヘッド駆動周波数よりも高い周波数に設定することを特徴とする請求項4又は請求項6記載のインクジェット印刷装置。
【請求項8】
印刷準備時に前記インクの温度が使用可能範囲内であった場合に、印刷準備時に前記インクジェットヘッドをプリカーサ駆動するときのヘッド駆動周波数を、前記インクが共振しない程度の高い周波数に設定することを特徴とする請求項4又は請求項6もしくは請求項7記載のインクジェット印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−68485(P2011−68485A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223070(P2009−223070)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】