説明

インクジェット記録ヘッドおよびその製造方法

【課題】供給口を効果的に洗浄可能なインクジェット記録ヘッドを提供する。
【解決手段】インクジェット記録ヘッド1は、供給口20が形成された基板11と、複数の吐出口11が形成されたオリフィス部31と、が対向配置されている。インクジェット記録ヘッド1では、供給口20から供給されたインクが基板11とオリフィス部31との間の流路34を通って吐出口33から吐出される。供給口33は、基板11の流路34側の面に垂直な壁面を有する。インクジェット記録ヘッド1は、供給口は、前記基板の前記流路側の面に垂直な壁面を有し、オリフィス部31の、供給口20に対向する位置から、流路34内に突出した柱状部を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、一般的なインクジェット記録ヘッドを部分的に示した概略構成図である。図1(a)は一部を縦断面で示した斜視図であり、図1(b)は図1(a)の二点鎖線で囲んだ領域Aを拡大して示した縦断面図である。
【0003】
図1に示すインクジェット記録ヘッドは、インクタンク(不図示)から供給口120に供給されたインクが、流路134を通って吐出口133から吐出されるように構成されている。
【0004】
供給口120は、基板111に形成されており、共通口121と連通口122との2つの部分から構成されている。共通口121は、基板111の流路134側とは反対側の表面から、流路134に向けて幅が狭まるように形成されている。
【0005】
連通口122は、共通口121と流路134とを連通させる通路である。連通口122は、基板111の表面に対して垂直に複数形成されている。図1に示した連通口122と同様に基板に垂直に形成された供給口を備えたインクジェット記録ヘッドが特許文献1に記載されている。
【0006】
図1に示した流路134は、基板111の表面に形成されたオリフィス部131と流路壁132に囲まれている。オリフィス部131には、複数の吐出口133が設けられたプレートで形成されている。基板111の表面の、各吐出口133に対向する位置には吐出圧力発生素子112が設けられている。
【0007】
吐出圧力発生素子112は、流路134内のインクに圧力を与えてインクを吐出口133から吐出させる。基板111の流路側の表面には、吐出圧力発生素子112をインクから保護するパッシベイション層113が設けられている。
【0008】
このようなインクジェット記録ヘッドでは、流路134内のインクを吐出口133から吐出する吐出動作に伴って、流路134内に供給口120からインクを補充する動作(以下、「リフィル」という。)が行われる。正確なリフィルを行うため、連通口122は、各吐出口133に近接して設けられている。
【0009】
上述したように、インクジェット記録ヘッド内には、供給口120、流路134および吐出口133などの空間がある。インクジェット記録ヘッド内のこれらの空間に異物がある場合、異物によりインクの流れが妨げられることがある。また、このような場合、インクと異物との反応により、インクが変性することもある。
【0010】
このようなことが原因で、インクジェット記録ヘッドは、吐出動作およびリフィルを正常に行えなくなる場合がある。
【0011】
そのため、インクジェット記録ヘッドの製造過程では、一般的に、インクジェット記録ヘッド内の空間の異物を除去するための洗浄が行われる。インクジェット記録ヘッド内の空間の洗浄方法には、液体や気体などの流体が用いられるものが知られている。
【0012】
洗浄液等の液体を用いた洗浄方法としては、液体の入った液体槽内で、インクジェット記録ヘッドを揺動させるとともにバブルを吹き掛けるものがある。また、シャワー状の液体をインクジェット記録ヘッドに直接吹き掛けるものもある。
【0013】
さらに、気体と液体との両方を同時にインクジェット記録ヘッドに吹き掛ける洗浄方法もある。このような洗浄方法は二流体洗浄と呼ばれる。
【0014】
以上に述べたいずれの洗浄方法でも、図1に示す供給口120や吐出口133からインクジェット記録ヘッド内の空間への流体の流入および該空間から供給口や吐出口の外への液体の流出を繰り返し行う点で共通している。
【0015】
このような流体の流れにより、インクジェット記録ヘッド内の空間の壁面に付着している異物に流体から力が加わり、インクジェット記録ヘッド内の空間内の異物がインクジェット記録ヘッドの外部へ除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第6555480号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
図1に示したインクジェット記録ヘッドを洗浄する際、吐出口133から流入した流体は図1(b)の破線矢印に示すように流路134内に入り込む。その後、流路134内の流体は、慣性の法則にしたがって、基板111およびオリフィス部131の表面に沿った方向に流動しようとする。
【0018】
一方、供給口120の連通口122は、基板111の表面に垂直に形成されている。流路134内における流体の進行方向は急には変わらないため、流体は流路134から供給口120内にスムーズに流入しない。たとえば、吐出口133から流路134内に入った流体は、該流路134に沿って最も近い連通部122を通り過ぎてしまう場合がある。
【0019】
そのため、供給口120、特に流路134側にある連通口122における流体の流れは、部分的に緩やかになる場合がある。そのため、連通口122の壁面に流体から加わる力が十分に得られず、連通口122を十分に洗浄することができない場合がある。
【0020】
また、ひとつの共通口121に対して多数の連通口122を形成する必要がある場合、異物が付着しうる連通口122の壁面の総面積が大きくなる。そのため、連通口122の異物を全て除去することは困難になる。
【0021】
さらに、連通口122が基板11の表面に垂直な方向に細長く形成される場合には、流体が連通口122に入り込みにくくなる。そのため、この場合にも連通口122の洗浄が困難になる。
【0022】
また、図1に示した連通口122のような基板111の表面に垂直な穴を形成することは一般的に難しく、図1や特許文献1に記載されているように、壁面が凹凸形状となることが多い。
【0023】
連通口122を形成する有力な方法として、エッチングと壁面の保護とを繰り返し行うボッシュプロセスがある。しかし、ボッシュプロセスを用いて形成された連通口の壁面も、スキャロップ形状と呼ばれる周期的な凹凸形状となる。
【0024】
このように基板111の表面に垂直に形成された連通口122の壁面を平滑に形成することは困難である。平滑でない連通口122の壁面には異物が付着しやすい。また、平滑でない連通口122の壁面に付着した異物は除去されにくい。
【0025】
そこで、本発明は、供給口を効果的に洗浄可能なインクジェット記録ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記目的を達成するため、インクジェット記録ヘッドは、供給口が形成された基板と、複数の吐出口が形成されたオリフィス部と、が対向して配置され、前記供給口から供給されたインクが前記基板と前記オリフィス部との間の流路を通って前記吐出口から吐出されるインクジェット記録ヘッドであって、前記供給口は、前記基板の前記流路側の面に垂直な壁面を有し、前記オリフィス部の、前記供給口に対向する位置から、前記流路内に突出した柱状部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、供給口を効果的に洗浄可能なインクジェット記録ヘッドおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一般的なインクジェット記録ヘッドの概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録ヘッドを示した概略構成図である。
【図3】図2に示したインクジェット記録ヘッドの変形例を示した概略構成図である。
【図4】図2に示したインクジェット記録ヘッドの製造過程を示した断面図である。
【図5】図2に示したインクジェット記録ヘッドの製造過程を示した断面図である。
【図6】図2に示したインクジェット記録ヘッドの製造過程を示した断面図である。
【図7】図2に示したインクジェット記録ヘッドの変形例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図2は、本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッド1を部分的に示した概略構成図である。図2(a)は一部を縦断面で示した部分斜視図である。図2(b)は図2(a)の二点鎖線で囲んだ領域Bを拡大して示した、X−X’線に沿った横断面図である。図2(c)は図2(a)の二点鎖線で囲んだ領域Bを拡大して示した縦断面図である。
【0030】
本実施形態に係るインクジェット記録ヘッド1は、インクタンク(不図示)から供給口20に供給されたインクが、流路34を通って吐出口33から吐出されるように構成されている。
【0031】
インクジェット記録ヘッド1は、厚さ方向に貫通する供給口20が形成された基板11を有する。供給口20は、共通口21と連通口22との2つの部分から構成されている。
【0032】
共通口21は、基板11の流路34側とは反対側の表面から、流路34に向けて幅が狭まるように形成されている。連通口22は、共通口21と流路34とを連通させる通路である。連通口22は、基板11の表面に対して垂直に複数形成されている。
【0033】
一般に、基板11の表面に正確に垂直な連通口22を形成することは困難である。そのため、垂直な状態には、正確には垂直な状態ではないが、実質的に垂直とみなせる状態を含むものとする。
【0034】
図2(b)には図2(a)に示した連通口22の壁面をX−X’線に沿った面に投影した位置が破線で示されている。ここで、破線で囲まれた領域を「連通口22の横断面」と呼ぶこととする。
【0035】
図2に示した流路34は、基板11の連通口22側に形成されたオリフィス部31と流路壁32に囲まれている。オリフィス部31と流路壁32は樹脂材料で形成されている。
【0036】
オリフィス部31は基板11の表面に平行なプレート状である。流路壁32はオリフィス部31と基板11との間を部分的に連結している。本実施形態では、オリフィス部31は流路壁32と一体に形成されているが、オリフィス部は一枚のプレート(オリフィスプレート)として流路壁とは別に形成されていてもよい。
【0037】
オリフィス部31には、厚さ方向に貫通した複数の吐出口33が設けられている。基板11の表面の、各吐出口33に対向する位置には吐出圧力発生素子12が設けられている。
【0038】
吐出圧力発生素子12は、流路34内のインクに圧力を与えてインクを吐出口33から吐出させる。本実施形態に係るインクジェット記録ヘッド1はサーマル式であり、吐出圧力発生素子12としてヒータを用いている。しかし、吐出圧力発生素子12は、流路34内のインクに圧力を与えられるものであればよい。
【0039】
基板11の表面には、吐出圧力発生素子12をインクから保護するパッシベイション層13が設けられている。パッシベイション層13と、オリフィス部31と、の間の隙間、すなわち流路34の高さは、3μmから30μmまでの間で適宜決定される。
【0040】
連通口22は基板11の表面に垂直な4つの壁面に囲まれた空間である。連通口22の横断面の各辺の長さは10umから200umまでの間で適宜決定される。本実施形態では、連通口22の横断面の形状は正方形である。しかし、連通口22の横断面の形状は適宜決定することができ、たとえば、長方形や円形であってもよい。
【0041】
吐出口33と連通口22とを図2(a)に示すX−X’線に沿った面に投影した際の、吐出口33と連通口22との最短距離Lは20μmから200μmまでの間で適宜決定される。距離Lの長さは、たとえば、リフィル特性に合わせて決定される。距離Lが短い方が迅速なリフィルが可能となる。
【0042】
本実施形態に係るインクジェット記録ヘッド1は柱状部41を有している。柱状部41は、オリフィス部31の連通口22に対向する位置から、オリフィス部31に垂直な方向に突出している。すなわち、柱状部41は連通口22に向かって延びている。
【0043】
柱状部41は、パッシベイション層13の表面に一致する面まで延びている。つまり、柱状部41の高さは、流路34の高さに合わせて3μmから30μmまでの間で適宜決定される。柱状部41は四角柱状であり、図2(b)に示すように横断面における四隅が面取りされている。
【0044】
また、図2(b)に点線で示すように、柱状体41の横断面の対角線の交点と連通口22の横断面の対角線の交点は等しい。ここで、基板11の表面に直交し、柱状体41および連通口22の対角線の交点を通る線を、柱状体41および連通口22の中心軸と呼ぶこととする。すなわち、柱状体41の中心軸と連通口22の中心軸とは共通している。
【0045】
柱状体41の横断面の面積は、連通口22の横断面の面積を基準として適宜決定可能である。柱状体41の横断面の面積は、たとえば、連通口22の横断面の面積の10%から70%までの間で適宜決定することができる。
【0046】
本実施形態に係るインクジェット記録ヘッド1では、製造工程中の洗浄工程の際に、吐出口33から流入し、流路34を基板11の表面に平行に流動する流体は、柱状部41によってその進路を妨げられる。したがって、流路34内の流体は、柱状部41によって強制的に進行方向が変えられる。
【0047】
図2(b)および図2(c)に破線矢印で示すように、柱状部41によって進行方向が変えられた流体は、様々な方向に流動する。特に、図2(c)に示すように、柱状体41に進行方向が変えられた流体は、連通口22内にスムーズに導かれる。
【0048】
このように、柱状体41が設けられていることにより、十分な量の流体が流路34から連通口22内に流入する。したがって、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッド1では、流体から連通口22の壁面に十分な力が加わるため、供給口20の特に連通口22内を効果的に洗浄することができる。
【0049】
なお、インクジェット記録ヘッドの供給口は、本実施形態のように流路34側の連通口22が基板11の表面に垂直に形成されていなくてもよい。さらに、供給口は、本実施形態のように、共通口21と連通口22によって構成されていなくてもよい。
【0050】
インクジェット記録ヘッドの供給口は、流路34に交差する壁面に囲まれている構成であれば、柱状体41の作用にて、流路34を流動する流体を供給口内にスムーズに流入させることができる。したがって、柱状体41による供給口の洗浄効果は、このような構成を有するいずれの供給口にも有効である。
【0051】
図3を参照して、本実施形態に係る柱状部41の変形例について説明する。図3の各図は図2(b)に対応した横断面図である。
【0052】
図3(a)に示す柱状部41aは、横断面の形状が正方形である。また連通口22の横断面の各辺は、柱状部41aの横断面の各辺と平行である。したがって、柱状部41aの横断面の四辺と、該各辺に対応する連通口22の四辺と、の距離lが全て等しい。当該構成により、連通口22のいずれの壁面にも流体が均一に当たるようになる。これにより、連通口22の洗浄効果が均一化する。
【0053】
図3(b)に示す柱状部41bは、横断面の四辺が連通口22の断面の四辺に対して傾いていている。また、図3(c)に示す柱状部41cは、横断面の形状が円形である。その他、柱状部の横断面の形状は適宜決定することができる。
【0054】
図3(d)に示す柱状部41dは、柱状部は4本に分けて形成されている。また、図3(e)に示す構成では、中央に柱状部41fが配置され、該柱状部41fの周りに柱状部41eが4本設けられている。柱状部41fと柱状部41eとでは、横断面の面積が異なり、本数も異なる。
【0055】
図3(d)および図3(e)に示すように、複数の柱状部を設ける際には、連通口22の隅部にそれぞれ柱状部を配置することが望ましい。連通口22の特に隅部には洗浄工程時に流体が行き届きにくいが、当該構成により連通口22の隅部の洗浄を効果的に行うことができる。
【0056】
以上、本実施形態の柱状部を例示したが、柱状部の配置や形状や数量などは適宜決定することができる。
【0057】
次に、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッド1の製造方法について図4、図5および図6を参照して説明する。
【0058】
まず、図4(a)に示すように、表面に複数の吐出圧力発生素子12が配列され、該吐出圧力発生素子12を保護するパッシベイション層13が形成された基板11を用意する。
【0059】
次に、図4(b)に示すように、ポジレジスト51をパターニングする。ポジレジスト51のパターニングでは、ポリメチルイソプロペニルケトンを主成分とする樹脂を基板11の表面への塗布、プロキシタイプの露光機によるUV(UltraViolet)光の露光、キシレンによる現像、の各処理を順次施す。
【0060】
ポジレジスト51は後に溶出されて図2に示す流路34になる部分にパターニングされる。したがって、ポジレジスト51に代えて、溶出可能な他の材料を、パターニングしてもよい。
【0061】
次に、図4(c)に示すように、ポジレジスト51を覆うように、エポキシ樹脂52をパターニングする。本実施形態では、エポキシ樹脂52として、カチオン重合型のものを用いた。
【0062】
次に、図4(d)に示すように、エポキシ樹脂52に露光、現像を行うことにより吐出口33を形成する。図4(c)に示したエポキシ樹脂52は、図4(d)に示すように一体としてオリフィス部31、流路壁32および柱状部41を構成する。
【0063】
図4に示す処理に続いて、図5に示す処理が行われる。図4では吐出口33が上向きになるように示したが、図5では説明の便宜上、吐出口33が下向きになるように示している。
【0064】
まず、図5(a)に示すように、基板11のオリフィス部31とは反対側の表面の、図2に示した供給口20を形成しない部分にマスク材54をパターニングする。そして、基板11の表面のオリフィス部31および流路壁32を覆うようにソルベントコート53をパターニングする。ソルベントコート53は、環化ゴムで形成され、オリフィス部31および流路壁32を保護する。
【0065】
次に、図5(b)に示すように、基板11の表面の、マスク材54に覆われていない部分に結晶異方性エッチングを施し、共通口21を形成する。そして、スプレー法により、共通口21にポジレジスト(不図示)を塗布する。
【0066】
次に、図5(c)に示すように、ボッシュプロセスにより、基板11を掘り進み、連通口22をパッシベイション層13まで形成する。そして、CDE(Chemical Dry Etching)法により、パッシベイション層13の連通口22に対応する部分を除去する。連通口22の形成には、ボッシュプロセスに代えて、高密度プラズマを使った方法を用いてもよい。
【0067】
次に、図5(d)に示すように、キシレンにより、ソルベントコート53を除去する。そして、基板11の吐出口33側からUV光を照射してポジレジスト51を感光させる。このとき、UV光は、オリフィス部31を透過し、ポジレジスト51全体が感光する。そして、乳酸メチルを用いて、感光したポジレジスト51を除去し、流路34を形成する。
【0068】
そして、純水槽中で揺動させるとともにバブルを付与して洗浄工程を行う。このとき、図5(d)に破線矢印で示すように、吐出口33から流路34に流入した純水は、柱状体41によって流動方向が変化させられ、連通口22内に流入する。そのため、連通口22には、十分な量の純水が流入し、連通口22の壁面には十分な力が加わる。これにより、連通口22の壁面に付着した異物はインクジェット記録ヘッドの外部へ除去される。
【0069】
図5に示す処理に続いて、図6に示す処理が行われる。図6では図4と同様に吐出口33が上向きになるように示している。
【0070】
図4および図5に示した製造過程では、基板11のロットごとに、図2に示した複数のインクジェット記録ヘッド1がつながっている状態である。そのため、各インクジェット記録ヘッド1ごとに、基板11を切り分ける図6に示す処理が必要となる。
【0071】
インクジェット記録ヘッド1は、ダイシング装置(不図示)によって切り分ける。そのための準備工程として、図6に示す基材60に、基板11を各ロットごとに基板11がつながった状態のインクジェット記録ヘッドを貼り付ける。基材60としては、たとえば、UVテープを用いることができる。このとき、基板11の吐出口33とは反対側の表面が、基材60に対する接着面となる。
【0072】
その後、図6(a)に示すように、基材60を固定し、各インクジェット記録ヘッド1ごとに、ダイシング装置に備えられたダイシングソー61によって切り分ける。その際、ダイシングソー61と基板11との摩擦により発生する熱を冷まし、基板11の切り屑を除去する目的で、ダイシングソー61の基板11との接触部に、ダイシング装置に備えられた水冷ノズル63により水を吹きかける。各インクジェット記録ヘッド1の間には、図6(a)に示すように、ダイシングソー61の厚さに応じたスペーシング62が形成される。
【0073】
次に、図6(b)に示すように、切り分けられたインクジェット記録ヘッド1を、洗浄装置64によって洗浄液を吹き掛けて洗浄する。その際、図6(c)に示すように、各インクジェット記録ヘッド1内の空間のみならず、スペーシング62にも洗浄液が流れる。これにより、ダイシングにより生じた基板11の切り屑が除去される。
【0074】
最後に、各インクジェット記録ヘッド1が基材60から剥がされ、インクジェット記録ヘッド1が完成する。
【0075】
なお、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッド1では、記録装置に取り付けられて使用された後、再使用を行う際、インクの再充填(リフィル)をする前の洗浄も同様に効果的に行うことができる。
(第2の実施形態)
図7は本発明の第2の実施形態を部分的に示した概略構成図である。図7の各図は、図2(c)に対応する縦断面図である。本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドは、以下に述べる構成以外は、第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッド1の構成と同様である。図7では、第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッド1と共通する構成は同一の符号で示している。
【0076】
本実施形態に係るインクジェット記録ヘッドには、吐出圧力発生素子12っと基板11との間に機能層14および絶縁層15が設けられている。機能層14は、吐出圧力発生素子12などを駆動するための電気回路を含んでいる。絶縁層15は、必要な電気的接続を確保しつつ、機能層14と吐出圧力発生素子12などの他の部品とを電気的に絶縁している。
【0077】
図7に示したインクジェット記録ヘッドは、いずれも、機能層14が連通口20の周りに設けられており、当該部分に対応するパッシベイション層13が流路34内に膨らみ出ている。
【0078】
図7(a)に示したインクジェット記録ヘッドでは、図2と同様の四角柱状の柱状部41gが吐出圧力発生素子12が設けられた絶縁層15の表面を含む面まで延びている。このインクジェット記録ヘッドでは、機能層15が設けられていても、第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッド1と同様に、効果的な洗浄を行うことができる。
【0079】
図7(b)に示したインクジェット記録ヘッドでは、オリフィス部31から離れるほど細くなるようなテーパ状の柱状部41hが、吐出圧力発生素子12が設けられた絶縁層15の表面を含む面まで延びている。すなわち、柱状部41hのテーパ状の面は、連通口22側を向いている。このインクジェット記録ヘッドでは、洗浄工程時に、テーパ状の柱状部41hに衝突した流体の進行方向が、連通口22側に、よりスムーズに変えられる。これにより、連通口22内の洗浄をより効果的に行うことができる。
【0080】
また、図7(c)に示したインクジェット記録ヘッドでは、図2と同様の四角柱状の柱状部41iが連通口22内まで延びている。このインクジェット記録ヘッドでは、柱状体41iが長く、洗浄工程時に、より多くの流体の進行方向が柱状体41iによって変えられる。これにより、連通口22内の洗浄をより効果的に行うことができる。
【符号の説明】
【0081】
11 基板
12 吐出圧力発生素子
13 パッシベイション層
20 供給口
21 共通口
22 連通口
31 オリフィス部
32 流路壁
33 吐出口
34 流路
41 柱状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給口が形成された基板と、複数の吐出口が形成されたオリフィス部と、が対向して配置され、前記供給口から供給されたインクが前記基板と前記オリフィス部との間の流路を通って前記吐出口から吐出されるインクジェット記録ヘッドであって、
前記供給口は、前記基板の前記流路側の面に垂直な壁面を有し、
前記オリフィス部の、前記供給口に対向する位置から、前記流路内に突出した柱状部を有することを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記柱状部は、前記オリフィス部から離れるほど細くなる、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記柱状部は、前記供給口内に入り込んでいる、請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記供給口は、前記流路側とは反対側に形成された共通口と、該共通口と前記流路とを連通させ、ひとつの前記共通口に対し、複数形成された連通口と、で構成されている、請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記柱状部は、前記オリフィス部の前記流路側の面に垂直に延びている、請求項4に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記連通口の中心軸と、前記柱状部の中心軸と、が一致している、請求項5に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
ひとつの前記連通口に対し、複数の前記柱状部が設けられ、
前記複数の柱状部が、前記オリフィス部の前記連通口の隅部に対向する位置から延びている、請求項4または5に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッドの吐出口から流路を通して供給口へ流体を流すことを含む洗浄工程を有するインクジェット記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−158150(P2012−158150A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20893(P2011−20893)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】