説明

インクジェット記録装置およびインクジェット記録装置の制御方法

【課題】インク供給路内に進入した気泡の吸引排出動作の実施回数を必要最小限に抑えて、気泡の吸引排出動作に伴うインクの排出量を少なく抑えることができるインクジェット記録装置およびインクジェット記録装置の制御方法を提供すること。
【解決手段】前回の気泡の吸引排出動作からの経過時間Tに基づいて、インク供給路内に進入する気泡の量Aを予測し、さらに、メインタンクの装着時にインク供給路内に進入する気泡の量Bを予測する。それらの量AおよびBの合計量(A+B)が規定値以上のときに、気泡を吸引排出するための吸引排出動作(チョーク吸引動作)を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクタンクからインク供給路を通して供給されたインクを用いて画像を記録するインクジェット記録装置、および、そのインクジェット記録装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出可能な記録ヘッドを用いて、記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置としては、記録ヘッドから離れた位置のインクタンクから、チューブ等のインク供給管を介して、記録ヘッドにインクを供給するものもある。このようなインク供給管を介したインクジェット記録装置は、インクタンクの設置の自由度が増す、あるいはインクタンクの大容量化が容易となる等の利点がある。一方、インク供給管に用いられる弾性材料の多くは気体を透過させる性質をもっているため、長期に亘る使用期間中に、インク供給管内に気泡が進入するおそれがある。その気泡がインクの流れに伴って記録ヘッドの内部へ流入した場合には、記録ヘッドにおけるインクの吐出不良などの弊害をもたらすおそれがある。そのため、このようにインク供給管内に進入した気泡は排除する必要がある。
【0003】
インク供給管内の気泡を排出する方法として、特許文献1は、記録ヘッドのノズルから、記録ヘッド内のインクを外部に強制的に吸引排出(吸引排出動作)する構成を用いる方法が記載されている。すなわち、前回の吸引排出動作からの経過時間を計測し、その計測時間が一定値を越えたときに次の吸引排出動作を実施することによって、記録ヘッド内の気泡をインクと共に外部に吸引排出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−207315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、インク供給路の材料を透過した気泡のみを考慮し、タイマーを用いて時間管理することによって、一定時間経過する毎に、インク供給路の材料を透過して進入した気泡を吸引排出する。そのため、インクタンクの装着の際に押し込まれる気泡等、時間管理のみによっては進入量が一律に管理できない気泡に関しては、その気泡の進入量が把握できず、吸引排出動作の実施タイミングを最適に設定することができない。
【0006】
本発明の目的は、インク供給路内に進入した気泡の吸引排出動作の実施回数を必要最小限に抑えて、気泡の吸引排出動作に伴うインクの排出量を少なく抑えることができるインクジェット記録装置およびインクジェット記録装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインクジェット記録装置は、インクタンクからインク供給路を通して供給されるインクを吐出口から吐出可能な記録ヘッドを用いて、画像を記録するインクジェット記録装置であって、前記吐出口に外部から負圧を作用させることにより、前記記録ヘッド内および前記インク供給路内の気泡を前記吐出口から外部に吸引排出するための吸引排出動作を行なう吸引排出手段と、前記インク供給路内に気泡が進入する複数の進入要因毎に、前記インク供給路内に進入する気泡の進入量を推定する推定手段と、前記複数の進入要因毎に推定された気泡の進入量の合計量が所定量以上となったときに、前記吸引排出手段を動作させる制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インク供給路内に気泡が進入する複数の進入要因毎に気泡の進入量を推定し、それらの進入量の合計量が所定量以上となったときに気泡の吸引排出動作を行なう。そのため、必要最小限の回数の吸引排出動作によって、インク供給路内の気泡を吸引排出することができる。この結果、記録ヘッドにおけるインクの吐出不良等、インク供給路内に進入した気泡がもたらす弊害を回避して、高品位の画像を記録することができると共に、気泡の吸引排出と共に排出されるインクの量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施形態の記録装置における要部の斜視図である。
【図2】図1の記録装置における制御系のブロック構成図である。
【図3】図1におけるメインタンクの断面図である。
【図4】(a)および(b)は、図1における開閉弁の異なる動作時の断面図である。
【図5】(a)および(b)は、図1におけるサブタンクの異なる動作時の断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態における吸引排出動作を説明するためのフローチャートである。
【図7】(a),(b),(c)は、図6の吸引排出動作時におけるサブタンクの断面図である。
【図8】(a)および(b)は、それぞれ、メインタンクの装着時に押し込まれる気泡を説明するための断面図である。
【図9】メインインクタンクの装着時に進入するインク量を推定するための気泡量テーブルの説明図である。
【図10】本発明の第1の実施形態における気泡量の算出処理を説明するためのフローチャートである。
【図11】(a)および(b)は、それぞれ、インクジョイント部からのインクの蒸発に伴って、インクタンクの装着時に押し込まれる気泡を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本発明のインクジェット記録装置における要部の概略構成図である。
【0012】
図1において、1,2,3,4はメインタンクであり、それぞれ、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクが貯蔵されている。これらのメインタンクに貯蔵されているインクは、後述するように、加圧ポンプ5により加圧されて圧送され、ジョイント部6を介して、各インク色に対応した供給チューブ7内に送られる。供給チューブ7の上流側に備わる開閉弁8によって、各インク色に対応する供給チューブ7を個別に連通、遮断することが可能である。供給チューブ7の下流側は、各インク色に対応するサブタンク9,10,11,12に接合されている。これらのサブタンクは、対応するインクを一時的に貯蔵し、記録動作時およびメンテナンス時に、それらのインクを記録ヘッド13に供給する。サブタンク9から12と、記録ヘッド13は、図示しない駆動モータの駆動力により矢印Xの主走査方向に往復移動されるキャリッジ14に装着されている。記録媒体Pは、不図示の搬送機構によって、主走査方向と交差(本例の場合は、直交)する矢印Yの副走査方向に搬送される。
【0013】
記録ヘッド13には、インクを吐出可能な複数のノズルが形成されており、それらのノズルは、各インク色に対応するノズル列が主走査方向と交差(本例の場合は、直交)する方向に延在するように形成されている。それぞれのノズルは、電気熱変換素子(ヒータ)やピエゾ素子などを用いて、インクを吐出することができる。電気熱変換体を用いた場合には、その発熱によってインクを発泡させ、その発泡エネルギーを利用して、ノズル先端の吐出口からインクを吐出することができる。
【0014】
記録ヘッド13がキャリッジ14と共に主走査方向に移動しつつノズルからインクを吐出する記録走査(スキャン)と、記録媒体Pを副走査方向に搬送する動作と、を交互に繰り返すことにより、記録媒体P上に順次画像を記録することができる。このように本例の記録装置は、いわゆるシリアルスキャン方式の記録装置として機能する。記録ヘッド13のメンテナンスが必要な場合には、キャリッジ14が吸引キャップ15の上方位置まで移動する。吸引キャップ15は、図示しない駆動源により昇降可能であり、メンテナンス時に上昇することにより、ノズルが形成された記録ヘッド13のノズル形成面に密着してキャッピングする。吸引キャップ15は吸引ポンプ16に接合されており、吸引回復動作時に、吸引キャップ15内を減圧することができる。吸引ポンプ16によって吸引キャップ15内を減圧することにより、記録ヘッド13のノズルから、記録ヘッド13内のインクを吸引キャップ15内に吸引排出することができる。すなわち、ノズル先端の吐出口に外部から負圧を作用させることにより、記録ヘッド内およびインク供給路内の気泡をインクと共に吸引排出することができる。吸引排出されたインクは、排出管17を通して、インクジェット記録装置内の不図示の廃インク吸収体に排出されて、貯蔵される。
【0015】
このような吸引排出動作により、メインタンクから記録ヘッド13までのインク供給路内、および記録ヘッド13内の増粘インクや気泡を排出することができる。さらに、開閉弁8を閉じた状態で吸引ポンプ16を作動させることにより、後述するように、メインタンクから記録ヘッド13までのインク供給路内、および記録ヘッド13内の減圧度を高めることができる。
【0016】
図2は、本例の記録装置の制御系のブロック構成図である。
【0017】
CPU100は、メインバスライン105を介して装置各部の制御およびデータ処理を実行する。すなわち、CPU100は、ROM101に格納されるプログラムにしたがって、データ処理、記録ヘッドの駆動、およびキャリッジの駆動を制御して、記録動作を実行する。CPU100は、インターフェース104を介して外部のホスト装置との通信処理が可能である。CPU100の制御下において、後述するように、気泡の進入要因毎に気泡の進入量を推定する処理と、それらの推定された気泡の進入量に基づいて吸引排出動作を制御する処理を実行することができる。また、これらの処理の少なくとも一部は、インターフェース104を介して接続される外部のホスト装置によって実行してもよい。RAM102は、CPU100によるデータ処理等のワークエリアとして用いられる。またRAM102は、一時的に、複数スキャン分の記録データ、記録ヘッドのインクの吐出状態を良好に維持するための回復動作(吸引排出動作を含む)に関するパラメータ、およびインクの供給動作に関するパラメータ等を保存することができる。画像入力部103は、ホスト装置からインターフェース104を介して入力された画像を一時的に保持する。不揮発性メモリ116は回復処理動作が行われた時刻や回数等を含む記録装置の動作履歴を記憶する。
【0018】
117は温度センサ、118は湿度センサであり、記録装置が設置されている環境の温度および湿度を検出し、その検出結果は、記録ヘッドからのインクの吐出動作、および記録ヘッドの回復動作の制御因子として処理される。供給系制御回路106は、RAM102に格納されている供給処理プログラムにしたがって供給系モータ107を駆動制御し、加圧ポンプ5を動作させる。この加圧ポンプ5の動作によって、前述したようにメインタンク内のインクが加圧される。回復系制御回路108は、RAM102に格納されている回復処理プログラムにしたがって回復系モータを駆動制御し、前述した吸引キャップ15の昇降、および吸引ポンプ16による回復処理動作を実行する。ヘッド駆動制御回路112は、画像を記録するために記録ヘッド13からインクを吐出(インクの吐出動作)させる。キャリッジ駆動制御回路114は、画像入力部103から入力された記録データにしたがって、キャリッジ14の主走査方向の移動を制御する。
【0019】
図3は、メインタンク1から4と、記録装置側のジョイント部6と、の関係を説明するための断面図である。図3においては、メインタンク1から4の内の1つのメインタンク1と、それに対応するジョイント部6と、の関係を代表的に示す。他のメインタンクと、それらに対応するジョイント部と、の関係も同様である。
【0020】
メインタンク1は、メインタンク外装21内にインクパック22を収納した構成とされており、インク連通管23を通して、インクパック22内のインクを記録装置内に供給することができる。インク連通管23は、メインタンク外装21に支持されており、インクジョイント部26とジョイントすることによって、記録装置のインク供給路を形成する供給チューブ7(図1参照)と連通する。インク連通管23がインクジョイント部26とジョイントしていないとき(非ジョイント時)に、インクパック内のブラックインクがメインタンク外に漏れないように、弾性材料で形成された封止部材28によって、インク連通管23内が封止されている。メインタンク外装21とインクパック22との間に形成された加圧空間24は連通口25に連通されており、その連通口25は、エアージョイント部27とジョイントすることにより記録装置内の加圧ポンプ5(図2参照)に連通する。加圧ポンプ5を動作させると、加圧空間24内にエアーが導入されてインクパック22が加圧される。この加圧力により、インクパック22内のインクがインク連通管23およびインクジョイント部26を通して押し出されて記録ヘッドへ供給される。加圧ポンプ5は、加圧が不要なときは大気と連通し、加圧空間24内を大気圧にすることが可能である。メインタンク外装21内に、他のメインタンク2から4を構成するインクパックも収容することにより、加圧空間24内にエアーを導入することにより、それらのインクパック内のシアン、マゼンタ、およびイエローのインクも同様に供給することができる。
【0021】
図4(a)および(b)は、各インク色に対応する4つの供給チューブ7を個別に連通、遮断可能な開閉弁8(図1参照)において、1つの供給チューブ7を連通、遮断可能な開閉弁部を代表的に説明するための断面図である。図4(a)は、その開閉弁部が閉じた状態を表し、図4(b)は、その開閉弁が開いた状態を表す。メインタンクより供給されたインクは、供給チューブ7を通って開閉弁部に流入する。開閉弁部は、供給チューブ7に接続される流路を形成する本体31と、弾性部材で形成されたダイアフラム弁32と、を含み、ダイアフラム弁32の縁部が本体31に固定されている。本体31には、供給チューブ7におけるインク供給方向の上流側部分に連通する上流側流路7Aと、供給チューブ7におけるインク供給方向の下流側部分に連通する下流側流路7Bと、が形成されている。それらの流路7A,7Bは、ダイアフラム弁32と対向する位置に開口している。ダイアフラム弁32は、ばね部材33によって図4(a)中の下方に付勢されている。上流側流路7A内のインクが加圧ポンプ5によって加圧されていないときは、図4(a)のように、ばね部材33の付勢力によってダイアフラム弁32が流路7A,7Bの開口部を塞いでいる。このとき、開閉弁部は閉状態にある。一方、上流側流路7A内のインクが加圧ポンプ5によって加圧されたときは、図4(b)のように、ばね部材33の付勢力に抗して、ダイアフラム弁32が流路7A,7Bの開口部を開くように変形する。これにより、開閉弁部は開状態となり、上流側流路7Aと下流側流路7Bとの間のインク流路を形成する。
【0022】
図5(a)および(b)は、4つのサブタンク9から12の内の1つのサブタンク9の構成を代表的に説明するための断面図である。他のサブタンクも同様に構成されている。供給チューブ7を通して供給されるインクは、流入口41からサブタンク9内に流入してから、フィルター44を通して記録ヘッド13に供給される。サブタンク9には、供給制限弁42を隔てて対向する2つの部屋が形成されている。一方の部屋は、流入口41側のインク室43であり、他方の部屋は、常時負圧に保持されているフィルター44側の負圧室45である。供給制限弁42は支持棒47の一端に接合され、支持棒47の他端は、可撓性部材で形成されたシート48に接合されている。シート48は、サブタンク9における流入口41およびフィルター44以外の開口部を塞ぐように、サブタンク9に溶着されている。インク室43内に備えられたばね部材46は、インク室43の体積を膨張させる方向、つまり図5(a)中の右方にシート48を付勢している。そのため、供給制限弁42は、通常、図5(a)のようにインク室43と負圧室45との間を遮断する閉状態となっている。
【0023】
記録動作時およびメンテナンス動作(吸引排出動作を含む)時などにおいて、フィルター44を通してインクが消費されて負圧室45内の負圧が高まった場合には、図5(b)のように、供給制限弁42が開いてインク室43と負圧室45とを連通する。この結果、インク室43と負圧室45との間の差圧により、インク室43内のインクが負圧室45内に流入する。インクが負圧室45へ流入して、インク室43と負圧室45との間の差圧が小さくなると、再び、図5(a)のようにばね部材46の付勢力によって供給制限弁42が閉状態となる。負圧室45内が正圧になる前に、ばね部材46の付勢力によって供給制限弁42が閉状態となるため、負圧室45内の圧力は常時負圧に保持される。
【0024】
メインタンクからサブタンクに到るインク供給路には、後述するように、供給チューブ7の壁を通して外部から進入する気泡と、インクタンクの装着の際に押し込まれる気泡と、が含まれる。こられの気泡がインク供給路に進入して記録ヘッドに到達すると、記録ヘッドがインクを正常に吐出できなくなって、所望の記録ができなくなるおそれがある。本例においては、このようにインク供給路内に進入した気泡を排除するために、吸引排出動作(「チョーク吸引動作」ともいう)を実行する。
【0025】
図6は、チョーク吸引動作を説明するためのフローチャートである。
【0026】
まず、ステップS1において加圧ポンプ5を停止させて、インク供給路内の加圧を解除する。これにより、開閉弁8は図4(a)のような閉状態となる。次のステップS2において、吸引ポンプ16による吸引動作を開始し、前述したように、記録ヘッド13内のインクをノズルから吸引キャップ15内に吸引排出する。開閉弁8が閉状態のまま、このような吸引動作を行うことにより、サブタンク内の負圧が高まる。その結果、図5(b)のように供給制限弁42が開いて、開閉弁8から記録ヘッド13内に至るインク供給路が負圧状態となる。ステップS3において、吸引ポンプ16を所定量駆動したか否かを判定する。その所定量は、インク供給路が所望の負圧になるまでに必要な吸引ポンプ16の駆動量であり、予め設定された駆動量であってもよく、あるいは、インク供給路内の不図示の負圧センサを用いて、それが所望の負圧を検出するまでの駆動量であってもよい。吸引ポンプ16の駆動は、それが所定量駆動されるまで継続される。
【0027】
吸引ポンプ16が所定量駆動された後、ステップS4において加圧ポンプ5の動作を開始する。加圧ポンプ5が動作することにより、開閉弁8は図4(b)のような開状態となり、メインタンクからインク供給路内にインクが流入する。そのインクが供給チューブ7を通してサブタンク内に流入し、サブタンク内の負圧が緩和されることにより、再び、供給制限弁42は図5(a)のような閉状態となる。このように供給制限弁42が閉状態となることにより、記録ヘッド13のノズルからのインクの排出動作が止って、チョーク吸引動作が終了する。
【0028】
図7(a),(b),(c)は、このようなチョーク吸引動作におけるサブタンク内の気泡の状態遷移についての説明図である。
【0029】
図7(a)は、チョーク吸引動作の開始前におけるサブタンク内の気泡の状態を表す。サブタンク内の上部に、メインタンクからサブタンクに到る間のインク供給路内に混入した気泡B1が滞在している。図7(b)は、チョーク吸引動作中のサブタンク内の状態を表す。チョーク吸引動作により、加圧ポンプ5によるインク供給路内の加圧が解除(ステップS1)されてから、吸引ポンプ16が動作を開始(ステップS2)すると、負圧室45内の負圧が高まり、図7(b)のように供給制限弁42が開く。供給制限弁42の開動に同期して、負圧室45内の負圧により、シート48がインク室43の体積を減少させる方向(図7(b)中の左方)に撓む。さらに吸引ポンプ16が動作(ステップS2,S3)することにより、インク室43内を含むインク供給路内の負圧が高まり、その負圧によって気泡B1が膨張する。このとき、サブタンク内は約0.5atm程度に減圧されるため、気泡B1は倍の体積に膨張する。インク室43内の体積減少と、気泡B1の体積の膨張により、サブタンク内は、図7(b)のように膨張した気泡でほぼ充填された状態となっている。サブタンク内に収容しきれない膨張した気泡は、フィルター44を通過し、記録ヘッド13のノズルから吸引排出される。
【0030】
図7(c)は、吸引ポンプ16が所定のポンプ駆動量に達してから、加圧ポンプ5を動作(ステップS4)させた後のサブタンク内の状態を表す。加圧ポンプ5の動作により、メインタンクからサブタンクのインク室43内にインクが供給され、このときに生じるインク流により、サブタンク内の気泡はフィルター44を通過し、記録ヘッド13のノズルから吸引排出される。このときに、残留する気泡B2も発生する。しかし、その気泡B2は、チョーク吸引動作前の気泡B1の体積よりも減少しており、記録ヘッドによるインクの吐出に弊害を生じさせる程の量ではなくなっている。インク室43内に供給されたインクにより、そのインク室43内の負圧が減少し、図7(c)のように、ばね部材46の付勢力によって供給制限弁42が再び閉状態となり、チョーク吸引動作が終了する。
【0031】
以上のようなチョーク吸引動作によって、サブタンク内に滞在する気泡、若しくは、サブタンク近傍のインク供給路内に滞在する気泡を記録ヘッドのノズルから吸引排出することができる。チョーク吸引動作は、気泡の排出と共にインクも排出されるため、その実行回数は必要最小限の回数に抑えることが好ましい。そのため本実施形態においては、インク供給路内の総気泡量を推定し、その気泡量が所定値を超えた場合にのみチョーク吸引動作を行う。インク供給路内の気泡量の推定方法としては、気泡の進入要因毎に進入気泡量を計算し、それらの合計値を総気泡量とすることができる。
【0032】
以下、インク供給路内の気泡量の推定方法について説明する。
【0033】
インク供給路内への気泡の進入要因の1つとして、供給チューブ7などのインク供給路の壁を通して外部から気泡が進入する要因(第1の進入要因)が挙げられる。このようにインク供給路の壁を通して外部から進入する気泡の量Aは、最後にチョーク吸引動作を行った時からの経過時間に基づいて推定することができる。すなわち、最後にチョーク吸引動作を行なった時刻から現在の時刻までの経過時間をタイマーによって計測し、その計測時間Tと、インク供給路の壁を通して外部から進入する単位時間当たりの気泡の進入量aと、に基づき、下式(1)によって気泡量Aを予測する。
A=T×a ・・・(1)
【0034】
インク供給路内への気泡の進入要因の他の1つとして、メインタンクの装着の際に気泡が押し込まれて進入する要因(第2の進入要因)が挙げられる。図8(a),(b)は、インクタンクの装着の際に押し込まれる気泡についての説明図である。図8(a)は、メインタンクのジョイント前におけるインク連通管23(インクタンク側の接続部)とインクジョイント部26(インク供給路側の接続部)との関係を表す。図8(b)は、メインタンクをジョイントした後のインク連通管23とインクジョイント部26との関係を表す。
【0035】
図8(a)において、インクジョイント部26のインク流路26A内はインクが充填された状態にあり、インク流路26Aの先端には、インク流路26Aの内部に向かって凹状となるようにインクのメニスカスMが形成されている。メインタンクの装着時に、インクジョイント部26が封止部材28と接触し、封止部材28とメニスカスMとの間に閉空間Sが形成される。図8(b)において、インクジョイント部26がインク連通管23内に挿入されることにより、閉空間S内の気体(閉空間内の空気)がインク流路26A内に進入し、気泡B3が形成される。その気泡B3の量は、後述するように、メインタンク内のインク残量に基づいて推定することができる。そのため、記録装置内のROM101(図2参照)には、図9のように、メインインクタンク内のインク残量と、メインタンク装着時に進入する気泡量と、を関係付けた気泡量テーブルが記憶されている。メインタンク内のインク残量が少なくなると、インクを保持しているインクパック22は、その内部のインクの自重によって撓み、その内部に負圧が生じる。さらに、メインタンク内のインクを使いきった後に、インク供給路内のインクを記録動作に使用すると、インク供給路内にはさらに大きな負圧が発生する。そのため、そのようなメインタンクが外されたときには、インク供給路内の大きな負圧によりメニスカスMがインク供給路の内方へ後退し、その分、閉空間Sが大きく形成される。したがって、その後にインインクタンクを装着したときに、閉空間Sの大きさに応じて、進入する気泡B3も大きくなる。図9においては、先に外されたメインインクタンク内のインク残量が0g未満のときに、その後に装着されるメインインクタンクの装着時に進入する気泡量が大きくなっている。このようなインク残量と気泡量との関係は、反比例の関係にある。
【0036】
メインタンク(以下、「後のメインインクタンク」ともいう)の装着時に進入する気泡量Bは、そのインクタンクの装着前にインク流路から外されたインクタンク(以下、「先のメインインクタンク」ともいう)のインク残量に基づいて、推定することができる。すなわち、メインインクタンクを装着する毎に、図9の気泡量テーブルから、先のメインインクタンクのインク残量に対応する気泡量b1,b2,b3・・・を求める。そして、それらの気泡量b1,b2,b3・・・を下式(3)のように加算することにより、気泡量Bを推定することができる。同じメインインクタンクを何度も装着し直した場合には、先のメインタンクと後のメインタンクが同じものとなる。
B=b1+b2+b3+・・・ ・・・(2)
【0037】
本実施形態においては、これらの気泡量AおよびBの合計値が規定値を越えたときに、前述したチョーク吸引動作を実行する。その規定値は、サブタンク内に保持可能な気泡量から、インクの初期充填時およびチョーク吸引動作後にインク供給路に残留する気泡量を差し引いた量である。
【0038】
図10は、気泡量の算出処理を説明するためのフローチャートである。
【0039】
まず、ステップS11において、最後にチョーク吸引動作を行なってからの経過時間Tを取得してから、ステップS12において、上式(1)により気泡量Aを算出する。次のステップS13において、上式(2)により気泡量Bを算出する。その後、気泡量A,Bの合計値と、前述した規定値と、を比較する。そして、前者の値が後者の値以上のときには、ステップS15においてチョーク吸引動作を実行し、前者の値が後者の値未満のときには、チョーク吸引動作を実行せずに終了する。つまり、気泡量A,Bの合計量が所定量以上となることを条件として、チョーク吸引動作を実行することになる。
【0040】
以上のように、インク供給路に対する気泡の進入要因毎に、進入する気泡量を推定し、それらの気泡量の合計が気泡の排出動作(チョーク吸引動作)を必要とする量に達したとき、その排出動作(チョーク吸引動作)を行なう。この結果、必要最小限の気泡の排出動作によって、気泡の進入に起因する記録動作の弊害を回避しつつ、気泡と共に排出されるインクの量を少なく抑えることができる。
【0041】
(第2の実施形態)
インク供給路内に進入する気泡としては、メインインクタンクの未装着時に、インク供給路のジョイント部からのインクの蒸発に伴って進入する気泡がある。図11(a)は、メインタンクが外されたインクジョイント部26の開口部から、インク流路26A内のインクが蒸発した状態を表し、図11(b)は、図11(a)の状態のインクジョイント部26にメインタンクを装着したときの状態を表す。
【0042】
図11(a)において、Maは、前述した図8(b)の場合のように、インク流路26A内のインクが蒸発する前に形成されるメニスカスであり、インク流路26Aの先端に位置している。メインタンクが外されたインクジョイント部26は、その開口部が大気に露出されているため、インク流路26A内のインクが蒸発し、それに伴って、インク流路26A内のインクの体積が減少し、メニスカスの位置が後退する。Mbは、インクの蒸発に伴って後退したメニスカスを示す。
【0043】
図11(b)のようにインクタンクを装着したときには、前述した図8(b)の場合と同様に、メニスカスと封止部材28との間に形成された閉空間の気体がインク流路26A内に進入して、気泡となる。Baは、インク流路26A内のインクが蒸発する前に、メインインクタンクの装着によりインク流路26A内に進入する気泡である。Bbは、図11(a)のようにメニスカスM2が後退した後に、メインインクタンクの装着によりインク流路26A内に進入する気泡である。後者の気泡Bbは、前者の気泡Baよりも大きくなる。メインインクタンクの未装着時間(メインタンクが未装着の期間)をTcとし、インク流路26Aの開口部からの単位時間当たりのインクの蒸発量をcとした場合、気泡Ba,Bbの量の差分Cは、下式(3)により求めることができる。
C=Tc×c ・・・(3)
【0044】
単位時間当たりのインクの蒸発量cは、記録装置が設置されている環境の温度および湿度に影響される。そのため、記録装置内の温度センサ117および湿度センサ118の検出結果に応じて、単位時間当たりのインク蒸発量cを決定する。
【0045】
本実施形態においては、前述した第1の実施形態における気泡量A,Bに気泡量Cを加え、それらの合計値が規定値以上となったときにチョーク吸引動作を実行する。その場合の規定値は、第1の実施形態の場合と同様に、サブタンクに保持可能な気泡量から、インクの初期充填時およびチョーク吸引動作後にインク供給路に残留する気泡量を差し引いた量である。
【0046】
(第3の実施形態)
インク供給路内への気泡の進入要因の他の1つとして、インク内の溶存ガスが析出して気泡が形成される要因(第3の進入要因)が挙げられる。メインタンクからインク供給路にインクが供給されてから温度が上昇して、インク中に溶存しているガスが飽和溶解量を超えたときに、そのガスが気泡としてインク供給路内に析出する。その気泡と析出する量(気泡量)Dは、インク供給路の体積と、前回の吸引排出動作時からの上昇温度(前回の吸引動作時の温度から、現在の温度までの上昇温度)と、によって推定できる。前者のインク供給路の体積は一定である。したがって、後者の上昇温度と、気泡量Dと、を関連付けた気泡析出量テーブルを記録装置内のROM101(図1参照)内に記憶しておいて、その気泡析出量テーブルから、後者の上昇温度に対応する気泡量Dを求めることができる。インクの上昇温度は、例えば、インク供給路内のインクの温度を検出する温度センサを用いて直接的に取得したり、あるいは記録装置の環境温度を検出する温度センサを用いて間接的に取得することができる。
【0047】
本実施形態においては、前述した第1および第2の実施形態において算出された気泡量に、温度変化に対応する気泡量Dを加え、それらの合計値がサブタンクに保持可能な気泡量として設定された規定値以上となったときに、チョーク吸引動作が実行する。
【0048】
(他の実施形態)
本発明は、上述したシリアルスキャン方式の記録装置に対してのみならず、記録媒体における幅方向全域の記録領域に渡って延在する長尺な記録ヘッドを用いるフルラインタイプの記録装置等、種々のタイプの記録装置に対して広く適用することができる。インク供給路の構成は任意であり、必ずしも弾性の供給チューブを含む構成に特定されずない。また、インク供給路中に必ずしもサブタンクを備える必要はない。
【0049】
また本発明は、前述した第1、第2、および第3の気泡の進入要因の内、少なくとも2つの進入要因による気泡の進入量を推定し、それらの合計量が所定量以上となったときに吸引排出動作を実行することができる。また、前述した第1、第2、および第3の気泡の進入要因を含む複数の進入要因毎に、それらの進入要因による気泡の進入量を推定し、それらの合計量が所定量以上となったときに吸引排出動作を実行してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1,2,3,4 メインタンク
8 開閉弁
9.10,11,12 サブタンク
15 加圧ポンプ
17 供給チューブ
13 記録ヘッド
16 吸引ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクタンクからインク供給路を通して供給されるインクを吐出口から吐出可能な記録ヘッドを用いて、画像を記録するインクジェット記録装置であって、
前記吐出口に外部から負圧を作用させることにより、前記記録ヘッド内および前記インク供給路内の気泡を前記吐出口から外部に吸引排出するための吸引排出動作を行なう吸引排出手段と、
前記インク供給路内に気泡が進入する複数の進入要因毎に、前記インク供給路内に進入する気泡の進入量を推定する推定手段と、
前記複数の進入要因毎に推定された気泡の進入量の合計量が所定量以上となったときに、前記吸引排出手段を動作させる制御手段と、
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記吸引排出手段は、前記インク供給路に備わる開閉弁を閉じた状態で前記吐出口に外部から負圧を作用させることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記推定手段は、前回の前記吸引排出動作からの経過時間に応じて前記インク供給路内に気泡が進入する第1の進入要因と、前記インク供給路に対する前記インクタンクの装着時に前記インク供給路内に気泡が進入する第2の進入要因と、インク内の溶存ガスの析出により前記インク供給路内に気泡が形成される第3の進入要因と、の内の少なくとも2つの進入要因による気泡の進入量を推定することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記推定手段は、前回の前記吸引排出動作からの経過時間を計測するためのタイマーの計測時間に基づいて、前記第1の進入要因による気泡の進入量を予測することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記推定手段は、前記第2の進入要因による気泡の進入量として、前記インクタンクの装着時に、前記インク供給路側の接続部と前記インクタンク側の接続部との間に形成される閉空間内の空気が前記インク供給路内に進入する量を予測することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記推定手段は、前記インクタンクの装着前に前記インク供給路から外されたインクタンク内のインク残量と、前記閉空間の大きさと、を関連付け、前記インク残量に基づいて、前記第2の進入要因による気泡の進入量を予測することを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記インク残量と、前記第2の進入要因による気泡の進入量と、は反比例の関係にあることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記推定手段は、前記インク供給路に対して前記インクタンクが装着されていないときに前記インク供給路側の前記接続部から蒸発するインクの蒸発量と、前記閉空間の大きさと、を関連付け、前記インクの蒸発量に基づいて、前記第2の進入要因による気泡の進入量を予測することを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記推定手段は、前記インク供給路に対して前記インクタンクが装着されていない時間を計測するタイマーの計測時間に基づいて、前記インクの蒸発量を予測することを特徴とする請求項8に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記推定手段は、前回の前記吸引排出動作時からの前記インク供給路内のインクの温度変化と、前記インク供給路内のインクの溶存ガスの析出量と、を関連付け、前記温度変化に基づいて、前記第3の進入要因による気泡の進入量を推定することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
インクタンクからインク供給路を通して供給されるインクを吐出口から吐出可能な記録ヘッドを用いて、画像を記録するインクジェット記録装置の制御方法であって、
前記吐出口に外部から負圧を作用させることにより、前記記録ヘッド内および前記インク供給路内の気泡を前記吐出口から外部に吸引排出するための吸引排出動作を行なう吸引排出工程と、
前記インク供給路内に気泡が進入する複数の進入要因毎に、前記インク供給路内に進入する気泡の進入量を推定する推定工程と、
前記複数の進入要因毎に推定された気泡の進入量の合計量が所定量以上となったときに、前記吸引排出工程によって前記吸引排出動作を行なう制御工程と、
を含むことを特徴とするインクジェット記録装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−45892(P2012−45892A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192349(P2010−192349)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】